番外2  「奴が来る!!」


貿易都市、ルザリア・・・
貧富の差があるが比較的おだやかな町だ・・
中央通りに面して様々な店が並んでいる。
行き交う人々が賑わっているがその中でひときわ背の高い
筋肉質の大男・・
「うふふ・・♪この町には良い男がいるか・し・ら・・」
声の質がやたらと高い・・・・やがて大男は人ごみに消えて行った・・

「すまない、塩が切れたようだ・・」
騎士団の団員が住む寮・・っと言っても長屋のような感じなのだが・・
その一室で白髪の獣人女性が男に言う
「わかった。僕が買って来よう。この時間ならまだ開いているだろう」
黒髪の男が部屋から出て店に向かう・・
すでに日は暮れていて街灯のみ・・気づかないように筋肉大男がそれを見ている・・・・
・・・・・・・
「まいど〜!」
塩の袋を持ち家路に着く黒髪の青年・・
「なんだか、主導権向こうにあるな・・・」
そんなことぼやいていると裏通りに入って行った・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・
イッ、イヤァァァァァァァァァァァ!!!!!!
数分後、男の悲鳴が空に響いた・・・・


・・・・・・・
「・・・・それで、スクイード君はどうなったんだって?」
短めの金髪を後ろに上げた青年が聞く・・
「何者かに襲われたらしい、彼も騎士なのに何も抵抗できなかったとは・・」
赤毛で片目を隠した女性が唸りながら呟く・・
騎士団の団長室。現在いるのはその二人だけで深刻そうに話している・・
「襲われたって・・・?」
「・・・・・あの、着ていた物が剥がされていて・・その・・」
顔を赤くしながら説明する女性・・
「・・・・・・・・、普通そういうのって女性が被害者じゃないのか?タイム・・」
「そうなんだが・・、スクイード君が被害にあったとなると犯人は・・」
タイムと言われた赤毛の女性は途中で言葉を濁らせた・・
「・・・痴女、もしくは同性愛?」
「・・・変態・・」
「考えられることを言っただけだろ!」
「ともかく、次の被害者が出ないように気をつけないとな。お前も気をつけろ?クロムウェル」
青年、クロムウェルに気を使う・・
「まぁ、大丈夫だが・・、スクイード君どうなったんだ?」
「・・なんだか男を見るとひどく怯えている。シトゥラが今も慰めているようだ」
「・・絶対同性愛の仕業だろう・・、まっ、一回起こったらしばらくは大丈夫じゃないか?」
そういいつつクロムウェルは部屋を出ていった・・
「・・・だといいんだがな」
一人残った部屋でタイムがそう呟きため息をついた


「じゃあエネ、またね♪」
テント群の中の一つから魔術師姿の青少年が出てくる・・
「うんっ、もう暗いから気をつけて、フィート♪」
エネと言われた少女が青少年フィートを見送る・・
「大丈夫!また『お話』しようね・・」
「・・・うん♪」
若干含み笑いを残しつつ家路に着くフィート・・
「いやぁ、順調順調・・♪」
邪悪な笑みを浮かべながらすでに人気のない通りを歩く・・
ふっと目の前に筋肉質の大男が立っていた・・
「・・・?僕に何か用でも?」
「・・可愛いわね・・、合格♪」
やけに高い声を出したかと思えば次の瞬間
フィートの後ろに男は現れた!
「えっ!はやっ!!!」
「抱きしめてあげる♪」
ブォォン!!!
凄まじい素振りで抱きしめようとする筋肉大男・・
「うわぁ!!」
辛うじて避けるフィート・・・。
「あん♪おしい・・」
「・・・狙われている?人も見てないし・・、殺るか・・!」
素早く印を切る!
「突き抜け!『狂風』!」
手をかざすと風の弾丸が発生し筋肉大男に向かって疾走する・・
「えいっ!」
避けようとせず胸を張り無防備スタイル・・
そこに風の弾丸が直撃する!

ボン!

しかし・・
「痒いわね〜♪うふふ・・」
「狂風をまともに受けて無傷!?」
異常な現象に困惑するフィート・・
「もう抵抗しないのかしら?ならいただきまーす♪」
激烈な加速で接近する!
「うわぁ!『舞風』!」
まともに相手すれば危険と感じ風の魔術で緊急離脱!
移動速度を上げる魔術で距離を開ける!!
「追っかけっこ?いいわよ♪」
さらに加速する筋肉大男・・
「うそっ!舞風中なのに追いついてしまう!」
魔法により風に乗っているのに距離が縮んでいく・・・
(このままでは襲われる・・・!仕方ない!!)

『風は去りぬ葉は散りぬ
  命とともに儚く消えよ!! アルティメットノヴァ!!』

加速中にさらに連続詠唱!
彼の中での最高の術を唱える・・
空気の溝を作り真空の球体を投げつける・・!
ゴォォォォォォ!!
付近の物はその球体に飲みこまれ消滅していく
「これが・・・・・・・愛の力ぁ!!!」
筋肉大男は逃げようともせず拳を大きく振りかざしおもっきり突き出す!

ボォン!!!

何もない空間で巨大な破裂音が響く。
フィートの放った真空球と筋肉大男の放った空拳が相殺したのだ・・
「そんな・・僕の術が!?」
思わず逃げていることを忘れ立ち止まってしまうフィート・・・
ガシッ!
魔術師のフードを誰かが握る・・
「つ〜かま〜えた♪」
筋肉大男がつかんでいた
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!『風翔』!!」
上昇風を呼び空中に飛び立つ術を詠唱!!
フードは剥ぎ取られたがかまってられずそのまま飛び去る
「・・おしいわね。でもあの子の着ていた物・・はぁはぁ♪」
思わず獲得した獲物を抱きしめる大男・・・・

「せんぱぁぁぁぁぁい!!!!」
必死な形相でクロムウェルにとびかかるフィート・・
「・・どうしたんだ?いつものフードは?」
「取られました・・」
「・・泣かせた女に?」
「違います!実は・・・!!」
カクカクシカジカ・・
「・・なんだって!そいつが多分スクイードを襲った奴だな・・」
「この僕が太刀打ちできないなんて・・」
思い出して震え出すフィート・・
「・・よかったな、スクイード君、男を見るだけですくみあがるようになったそうだ」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「しかし・・・、何なんだその大男・・・・」
怯えるフィートを尻目に犯人に対して思い悩むクロムウェル・・

「・・フィート君までもか・・。これで被害者は・・未遂を含め12人だな・・」
「いっ!?そんなに!?」
「ああっ、いずれも評判の「美男子」って奴だ。襲われた後その内の4人が・・
どっ・・・同姓愛に・・目覚めている」
「・・・・・こっ、こええ・・」
「・・・こうなれば本格的に依頼するしかないな」
「・・・その筋肉大男の退治か?」
クロムウェルがすんでいる朽ち果てた宿で二人が話している・・
優秀な魔術師に与えられる「法王」の称号をもつフィートでさえ危うく餌食になりかけたのだ
この町の騎士団ではもはや手の打ち様がない・・
「そうだ・・、これ以上の被害者がでないとは言いきれない・・」
「・・まぁ・・、フィートも襲われかけたしこのまま黙って引き下がれないしな・・
わかった!そん代わり手加減はできないぜ?」
「・・仕方あるまい」
「それから・・もし俺が犯られたら・・後は頼む・・」
「クロムウェル・・・、そんな事言うな・・」
心配そうにクロムウェルを見つめるタイム・・・
「なんたってフィートの魔法が通じなかったんだ。よくて相打ち・・かな?」
「・・・お前らしくない。いつもの自信はどうしたんだ?」
「・・ははっ、そうだな。すまない・・、お前を残しては逝けないしな・・」
「縁起でもないこというな・・バカ・・・」
そっと抱き合う二人、そして男は戦場に向かう・・・・・

月も見ない新月の夜・・
誰もいない中央通りをクロムウェルが独り歩く・・・
「・・・・・・・・出てこいよ?」
立ち止まり何もない空間に向かって叫ぶ・・
「私の気配に気づくなんてやるじゃない♪」
建物のてっぺんから飛び降りる大男・・
「何っ、このくらい当然だ。行くぜ!!」
一気に突っ込むクロムウェル!
連続して素早い突きを繰り出す!!

パシッ!パシパシパシパシ!!

しかし筋肉大男は両手を素早く動かし払いのけていく・・
「甘いわ♪」
ふぃに繰り出す掌底がクロムウェルの腹に入る!!
「ぐはぁ!!」
強烈な一撃に思わず片膝を地につけるクロムウェル・・
「それ♪」
高い声とは裏腹に高速の一撃がクロムウェルを襲う!
「このっ!!」
なんとかバックステップで回避、大男の拳はレンガでできた
中央通りの地面を破壊した・・
「げほっ、げほっ・・・・まさかここまでとはな・・」
「中々やるじゃない♪普通の男なら最初の一撃でおだぶつよ」
「すまない・・タイム・・。相打ちも難しいや・・・『ヴァイタルチャリオッツ』!!!」
急に闘気を放ち猛烈な加速で突っ込むクロムウェル・・
「気孔術・・、ハイリスクな身体強化法ね。でもっ!」

バキッ!!

クロムウェルの猛烈な攻撃をクロスカウンターで応戦・・
お互い拳が減り込むがクロムウェルのほうがダメージが大きいようでそのまま
吹っ飛ばされた・・・
「ふぅん・・・この私に打ちこむなんてやるじゃない♪」
遥か向こうで倒れる男に向かいねぎらいの言葉をかける筋肉大男
「・・いいわ、気に入った♪いただいちゃいましょう♪」
「・・・へへっ、これまで・・か。独りでもがんばれよ・・タイム・・・・」
別れの言葉を浮かべ、観念するクロムウェル・・
「勝手に逝くな!バカッ!」
突然物陰から駆け寄る女騎士タイム・・
「お前・・?」
「・・・私を・・独りにしないでくれ」
倒れているクロムウェルを抱きしめるタイム・・
すぐそこには筋肉大男が・・・
「・・・・・・私が相手になる!」
剣を抜きかまえるがその手をクロムウェルが押さえる
「バカッ!俺が勝てないのにお前が相手してどうなる!大人しく逃げろ!」
「・・お前を失うくらいなら共に果てたほうがまだマシだ」
「・・タイム・・」
・・・・
二人のやり取りに肩を震わせる大男・・
「・・・・何よ!ラブラブしちゃって!!!チクショーーーーー!!!!」
急に咆哮しつつ筋肉大男は走り去った・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・
「・・・・何なんだ・・。一体・・?」
唖然とするクロムウェル・・
「・・何にせよ退けたようだな・・・」
「・・やれやれ、死に損なったか・・」
「・・・バカ」
バシッ!!
「いって〜!!『チャリオッツ』の後遺症中なんだからもっと優しくしろ!暴力女!」
「うるさい!心配ばっかりさせて!」
闇夜の中二人の口論はいつまでも響いた・・・
その後、この町で筋肉質の強姦事件はなくなった・・・・・




一方・・
「大丈夫か・・?スクイード?」
部屋の隅で怯える家主を心配するシトゥラ
「神よぉぉぉぉ!!僕の記憶を消してくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
激烈な経験によりショック状態のスクイード君。
これで近くに慰めてくれる女性がいなかったらやがて彼も「そっちの世界」に入っていただろう
「・・ふむっ、いまだショックが強いか・・。スクイード」
「えっ、おわっ!!」
急に抱きしめられ頭を撫でられる・・
「よいよし、良い子だ・・」
恋人同士がするようなものではなくそれはまるで母親が子供をあやすよう・・
「シトゥラー!」
その行為に感激するスクイード君・・、騎士の面目丸つぶれ・・
こうして彼はまた『打たれ強く』なっていく・・

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