番外2  「最強の夫婦」


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「これが噂のブルートパーズか・・、見たところ普通の代物だな・・」

誰もいない部屋で俺が呟く。
俺はセイレーズ、職は・・世間では「怪盗」と呼ばれているが実はまぁ・・盗賊だ。
本当なら世間の連中などに誉められたくもないのだが不思議と俺の仕事は
民衆には喜ばれるらしい・・
怪盗・・?馬鹿馬鹿しい・・・・
俺は自分の仕事をしているだけだ。後は・・、あいつのわがまま・・だな

ガチャ・・

ふぃに扉が開かれる。
誰かはすぐ分かる。この場所を知っている人間自体俺を含めて2人しかしないのだから・・
「セイレーズ〜、収穫は〜?」
碧の髪が美しい女性・・、俺の相棒であるミュン=クレイトス。
長い髪を綺麗に束ね白い白衣を着ている・・。
彼女は錬金術師・・、魔術や特殊な薬品をつくり「魔石」と呼ばれる特殊な鉱石を
作り出す術師だ。
「魔石」は様々な使い道がある。そのまま使用しても効果があるし
鍛治師に頼んでさえすれば魔剣も作れる。まぁこれは鍛治師の腕によるがな・・
売れば金にもなるって訳さ・・
「ほらよっ、お望みのブルートパーズだ」
ミュンに投げ渡す。途端に慌ててトパーズを受け止める・・
「うわっ、っと!!ちょっと!セイレーズ!!このトパーズがどれだけの価値があるのか・・
わからないわよね・・・・」
俺とミュンは俗にいう幼馴染ってやつだ・・
そのためお互いのことはよくわかっているわけだ・・。
おまけに付き合っている・・っというのか?
俺には世間的なことはあまりわからんが恋仲・・っというのらしい・・
「その通り、その石ころで何造ろうってんだ?」
今回はミュンの願いでわざわざ盗んだ・・、直接金にならない仕事は遠慮願いたいが
こいつは自分の思う通りになるまでしっっっつこく言ってくる・・
もとより俺に拒否権はないってわけだ・・・
因みにこのトパーズの件も約2日間ねだられた。おまけに俺が寝ている時に
トパーズ、トパーズ・・っと何回も耳元で囁いていたようだ。

・・・おかげで変な夢を見た・・・・

「ふっふ〜ん♪ひ・み・つ♪」
「あっそ・・」
「・・・・ちょっと!知りたくないの!!?」
「秘密なんだろ・・?」
言う気ないのに深く聞けるかよ・・・
「それでも聞くのがパートナーってもんじゃない!!」
「じゃあ何造るんだよ?」
「ひ・み・つ♪」
・・・・・はぁ
「用はそれだけか?」
「・・もう!無愛想なんだから・・!」
「知っているだろ?全く・・」
そういいつつ書類を見つめる。今度盗みに入る屋敷の図面だ・・
プロってやつはそうそう簡単に盗みに入らない。
誰も傷つけず極力物を破壊せずに目的のみをいただく・・
それが「一流」というやつだ。
これは俺の主義、別に人を殺すのにもためらいはないしと
やろうと思えば破壊の限りを尽くせる・・・・
「何それ?今度の仕事場?」
「ああっ、奥の金庫に金貨がごっそりあるようだ」
「あなたが金貨目当てなんて珍しいわね・・・・」
俺は普段は金貨は盗まない、品が無いからだ。
だから普段は宝石や絵画を中心にしている。
・・・今回は特別なのさ・・
「まぁ・・な。結構でかい仕事だ。終わるまで構ってやれないぜ?」
「ええ〜!せっかくもうすぐってとこなのに〜〜〜」
・・俺達は婚約している・・、っというかミュンが一方的に言い寄ったのだが・・
まぁ、こいつもまっとうな仕事とは言えないし俺の素性を知っている・・
一緒にいても害にはならないだろうからな
「少しは寝かせろ・・、お前は俺を寝かす気ないだろう・・」
「いやだ!・・・・・・・もう!」

ボン!!

・・いきなり炎系魔石を投げやがった・・・・、
小さいからそれほど大きく爆発はしないけど、それでも直で食らえば・・
ただではすまないだろうな。
元よりこんなものに当たる俺ではない。・・でなければとっくの昔に死んでいる・・
ミュンは何かあるとすぐ自作の魔石を投げる癖がある。
これまでに死者が出た事もあった・・・・
「はいはい、わかったから。これが終わるまでせいぜい良い魔石を造っていろ」
「・・・は〜い。もう、こんな美人の錬金術師を顎で使うなんて・・」
うぬぼれ・・、っというほどでもない。ミュンは胸は皆無だが他は言う事が無く
錬金術師としての腕も一級だ。
まぁだから顎で扱っちゃいけないことにはならないがな・・


・・・・・夜・・・・・
今宵は新月だ。最も俺の好きな時。
灯り一つないこの町では新月の夜の出歩く者はいない・・
まっ、街灯ぶらいは灯っているだろうが・・、満足な光量でもあるまい。
「ふぁ〜・・、相変わらずキザったらしい衣装ね」
欠伸しながらミュンが言う
「仕事着だ。この方が調子が出るしな」
黒い貴族服、黒いマント、そして黒の羽根つき帽・・これが俺のスタイル
この仕事はじめて間がない時、仕事着として近くの服屋で売っていたものだ。
多少コスプレな感じだが気に入っている。
何より、一度つかったのなら最後まで使い切るのが礼儀ってものだしな・・
「あんたも変わっているわね〜、私は寝るわよ?」
「いつも寝ているだろ?それよりもこの胸のエンブレムは何だ?」
この間までこんなものついてなかった・・・
「ああっ、それ?お守りみたいなものよ。あたしの愛がたっくさん詰まっているんだから♪」
・・・ロクでもない物だろうな・・
「爆発しないだろうな?」
「しないしない・・、ってなんでそんな心配するのよ!!?」
「・・・俺から言わすか?」
「・・・ブー・・・」
急にブーたれるミュン・・、ふぅ。
「じゃあ行ってくるぞ?・・・」
「んっ・・・、わかった・・」
ゆっくり口付けを交わす・・、こうするとこいつは大人しくなる・・


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お目当ての屋敷は簡単に侵入できた。
調べたとおりの警備体制だ・・
一応予告状は出しておいたが、全く相手にされていないようだな・・
俺は仕事前に盗む宣言をする・・、それが盗む方の礼儀だ・・
ともあれ、目当ての金貨を袋に詰めて屋敷より脱出する・・
この金貨の使い道は・・、ミュンとの結婚に使う・・
なんてことはない、あいつはこういうのを憧れているからな。
たまには俺からも何かしないとまたブーたれる・・・・

ビリッ!!!

扉を通りぬける際ふぃに足がしびれる・・・、
魔法のトラップ!?
事前の調べではこんなものなかったはず・・・。
ちっ!やはり仕事中に他のことを考えるもんじゃないな・・!!

「噂の怪盗さんも口ほどでもないな・・」

暗かった部屋が急に明るくなりガウン姿の男が俺をあざ笑う・・
「・・・うかつだったと・・言うしかないな。騎士団にでも連れ出すのか?」
「まさか・・。私は君のようなクズが嫌いなんだ。ここで死んでもらうよ・・」
指を鳴らすとともに鎧姿の男が数人集まる・・
「噂では君は剣の達人のようだね・・、しかし、そのトラップのせいで足はロクに
動かせまい・・・、ふふふ・・」
こいつの言うとおりで足はどうやら動かない・・・、
それにしても金を盗んだ者に対して個人の好みにより私刑・・か
気に入らないな。
チャ・・
「甘く見ないでもらおうか・・、これでちょうど良いハンデだ。貴様は俺を怒らせた・・」
愛用しているレイピアをかまえその場に座る・・
所詮こいつらは接近しなければ攻撃する術はない

ならば・・

「ふんっ、ヤレ!」
家主の合図とともに斬りかかる下っ端・・、ためらいが無いところを見ると今回が
はじめてという訳でもないようだ・・。
ならっ、遠慮はしない。
「おおっ!!」
「でぇぇぇぇい!!」
大ぶりに振りかぶる下っ端ども・・がら空きだ。
シュッ・・・!!
「気合い声を上げる前に、相手の力量を確かめるべきだったな・・。
まっ、この教訓は来世で活かしてくれ」
下っ端は口から血を吐き出し胴が真っ二つに切断された・・。
鎧なんぞつけているから隙が出来る・・、所詮こいつらも本当の死闘を経験したことのない
ひよっこどもだ・・
「ちっ、ならこれでどうだ・・!」
再び兵を呼ぶ・・、今度は弓使い・・・
まずい・・、正面からならまだしも背後から撃たれては回避は困難だ・・
「ふふっ、青ざめたな・・。さぁ、私の前で美しい断末魔の叫びを聞かせてくれ!!」
ちっ、調子に乗りやがって・・・
「すまんな・・、ミュン。先に行っているぞ・・・?」
ガラにもないが・・・・、万が一の覚悟はしとかないとな・・
「あらっ?抜け駆けは許さないわよ?」
ふぃにミュンの声が・・・

ボン!!ボン!!!

いきなり目の前に爆炎が広がる・・、炎系魔石の効果・・
来ていたのか・・
「・・らしくなく手間取っているじゃないの〜?あたしが必要でしょ♪」
「・・どこで見ていた?」
「聞いていたの、そのエンブレム、声を転送する魔石を使用しているの・・
浮気防止のためと思っていたけど思ってより役に立ったわね・・」
・・・・・こいつの用意周到ぶりには脱帽だな・・
「貴様は・・、そのクズの仲間か・・」
家主は無事のようだ・・、他の弓使いは・・・・
言わないでおこう・・・
「仲間じゃなくてわよ。この人は私の忠実な僕なの、勝手に殺さないでくれる?」
・・・やれやれ・・
「ふんっ、ならば二人してあの世にいけば文句はあるまい」
またまた指を鳴らす・・、今度は大男が一人・・、モーニングスターなんぞ得物にしている・・
バーサーカーって奴か
「・・もう少し品のある警備兵雇ったら?」
「ふん、ヤレ!!今度こそ仕留めろ!!」
「ばぁぁぁぁぁ!!!」
奇怪な声を上げる・・、まともではないな・・
「ミュン!気をつけろ!」
「わかっている!それぃ!!」
お手製の魔石を投げつける・・
途端に連動して爆発が起こる!!
・・・・・・
「やったのか?」
煙が巻き起こりよく見えない・・・・・
ブゥン!!
ふぃに煙の中から鉄球が飛び出した!
狙いはミュン!くそっ!
「させるかよ!」
剣で反動をつけてミュンをかばう・・、こいつはあくまで錬金術師・・
接近戦の心得なんてかけらもない・・!
「おおっ!!」

キィン!!

なんとか払いのけたが・・、・・・・この手の痺れは尋常じゃない・・・・
2度も耐えれないな・・・
くそっ、足も不自由だし・・どうする・・
「セイレーズ、私の傍を離れないで?」
「・・何する気だ・・」
「とっておきってやつよ♪」
「わかった、まかせる・・」
「何を話しているのかね?別れの言葉か・・?」
勝ち誇った顔の家主・・、自分では何もしないくせに得意顔だ・・
「その通り・・、あなた達に対するお別れの言葉よ♪」
懐から結晶の中に何か赤い物体の入った物を投げつけた・・

その刹那・・!!


「くっ・・何も見えない!!」
真っ白な閃光が目をくらます!!!!
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・・やがて光がおさまる・・・
そこには・・・「何もなかった」
そう、屋敷の部屋も、バーサーカーも、家主も・・・
「どうやら成功のようね・・?」
「何が・・起こったんだ?」
「超爆発を起こす神の鉱石「フラムタスク」のかけらよ。空気に触れたら大爆発を起こすの。
完成の度合いを確かめるにはちょうどよかったわね〜・・・」
「・・また物騒な物を・・」
「いいじゃない、おかげで助かったんだし」
「そうだな・・、すまないが肩を貸してくれないか?足がまだしびれたままだ。」
「いいわよ♪そのかわり、その金貨の使い道、じっくり話しましょう・・」
やれやれ・・・

それから数日、
俺達は町から離れた朽ち果てた教会で挙式を上げた・・
観客0、俺とミュン、そして神父のみだ・・
あの盗んだ金貨は全てこの挙式・・っというか
ミュンのウェディングドレスのために使われた・・・
「おぃ、俺はエンゲージリングなんて用意してないぞ?」
ついさっき指輪が必要なことを知った・・
所詮結婚という儀式も宗教がらみ・・、俺には興味がない
「いいのよ、はいっ!これを使って!!」
懐から一つの指輪を取り出すミュン・・・
小さいが美しいダイヤ・・、しかし良く見ると中に赤い物体・・・・
「おい、この赤いのは・・・・」
「さっすがセイレーズ!専門の人間じゃないと中々見つからないように工夫したのに♪」
「じゃなくて!この赤いのは!?」
「フラムタスク」
やはりあの・・、超爆発するやつか・・・
「なんでこんなもの造ったんだ・・?」
「だって〜、『最強の夫婦』には最強の指輪がふさわしいでしょ?」
・・・・・・・
「・・なんだよ?その最強の夫婦って・・・」
「だってあなたは剣の達人でしょ?私は錬金の天才♪二人が力を合わせれば
敵無しっしょ♪」
・・こいつは・・、この間のブルートパーズもこいつを造るのに盗ませたのか・・?
「・・まぁいい。じゃあ、つけるぞ?この指でいいんだな・・?」
「・・うん、ありがと・・」
純白のドレスに美しいダイヤをつけるミュン・・・。
その姿はまるで天使のようだった・・、中身は悪魔だが・・
「これからず〜〜〜〜〜〜っと一緒だね♪」
「お前が俺のことを下僕扱いしなければな・・」
「そんなのつまんな〜い!!!」
・・・・・・・・・・やれやれ・・・・・・・・・・


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・・・・

「んっ・・・・、夢・・か?」
目が覚めたらそこはテント・・どうやら昔の夢を見ていたようだ・・
「ああっ、目が覚めましたか。どうですか?調子は?」
目の前に医者らしき男がいる・・
そうだ・・、こいつは・・確か先日世話になったクロマティって男の紹介で来てくれた
クライブって医者だ・・
「ああっ・・、わしは・・どのくらい寝ていた?」
「ほんの少しですよ、何やら女性の名前を呟いていましたが・・」
「・・・そうか、・・この年でも寝言を言うもんだな・・」
昔の夢か・・、ふふっ、死が近づくと昔を思い出すらしい・・
「まぁ、多少は良好になりましたがまだまだ薬の投与は必要ですね。
また後日様子を見にきますね」
そういうとクライブはさわやかな笑顔のままテントを出ていった・・・・
・・・ふっ、若さ・・・・か。今更欲しいとも思わないが・・良いものだ・・

「ごめんください、騎士団の者です」

ふぃに声が聞こえる
「どうぞ、あいとるよ?」
そう声をかけるとスーツ姿で赤毛の女性・・、確か騎士団団長補佐、タイムといったかな?
「調子はどうですか?」
「ふふっ、ぼちぼち・・かな?君こそ、仕事はいいのかい?」
「今日は非番ですよ。それにあなたの見舞いをしてやれとあの変態が・・」
「変態・・?ああっ、クロマティ殿か・・」
「クロム・・、いえっ、クロマティです」
一瞬黙り込んだがなぜか邪な笑みを浮かべそのまま続けるタイム・・
クロマティで合っているはずだが・・・
「それよりもタイムさん、あんたこの間自分の得物を無くしたそうだね・・」
「あっ、ええ・・、不覚にも捕まってしまいましたので・・」
「そうか、なら、これを使うといい」
ベットの下からレイピアを取り出す・・
「これは・・・、すごい・・」
「『ネェルブライト』・・・かみさんが作成した特注のレイピアだ。わしにはもう不用だしな」
黄金色の刀身を持つこの剣はあいつの最高傑作といってもいい・・
「なぜ・・、これを私に・・?」
「何っ、宝の持ち腐れだしな。それに・・かみさんの指輪をつけてくれているようだしな。
・・・クロマティ殿から渡されたか?」
大事そうに指輪をしているのが目に入る・・
「こっ、これは・・」
「よいよい・・、ともかく受け取ってくれ。君になら使いこなせるだろう・・」
「・・それでは、ありがたく・・・」
謹んでネェルブライトを手に取る・・・・・

お前の指輪に、俺の剣・・。意思は次の世代に伝わった・・・・・・
これが『最強の夫婦』がそこにいた証・・、無駄にしてくれるなよ・・?
俺はもうすぐ世を去るが・・、それまではお前達の行く末を見守ろう・・・・



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