第一話  「神様を信じますか?」


貿易都市ルザリア
俺が住む街・・そしてタイムが守る街
ここには色んな人が入り混じり様々な物が売買されている、そんなわけだが流行らないモノが一つある
・・それは宗教
これだけ行き交えば崇拝する神様なんざえらい数になってしまうしな
それにここはハイデルベルクだけでなくフィン草原都市群からの交易隊も来るわけだから余計に混乱してしまう
草原の民が崇拝するのは大地や風など・・それこそ自然を崇拝するからな
・・最も、ここいらの宗教みたく神様なんてあやふやな存在を崇拝するなんて事に比べたらごく自然なのかもな・・


「・・そういや、シトゥラの一族って何か崇拝しているのか?」
今日は暇なのでルザリア騎士団屋敷の中にある「テント群担当課」の部屋にて時間を潰す俺、ことクロムウェル
ここはルザリアの中でもかなり忙しい地区を担当しているのだが人員は四人
リーダーであるスクイード、優秀なキース、愚妹のカチュア、そして白狐(びゃっこ)族であるシトゥラだ
前者三人は正式な騎士だがシトゥラは成り行きで騎士団に参加している
本人は満足しているらしいのだが・・これってかなり凄い事だよな・・。
俺の陰謀だったんだけど
「んっ?・・私か?」
机に向かい軽快に羽ペンを走らせるシトゥラ、元々こっちの服装にはなれていなかったが今では紺色の制服が良く似合っている
まぁそれだけに膝まで届きそうなくらい長い白髪と狐耳、そして尻尾が違和感出ている・・
協力者なんだがこりゃもはや正式な面々だよな・・
「そっ、やっぱあんな氷山に暮らしていただけに自然を崇拝するとかか?」
「・・・そうだな、私達はあのような中での生活をしていた故に山の神を崇拝していた。
・・っと言っても氷山の中に深く眠っていた
木をご神木として像を造り祭っていた程度なのだがな・・それがどうした?」
「・・んっ?ああ・・別にどうってことはないんだけどなんとなくさ」
「なぁに?お兄さん、急に変な事聞いちゃって〜」
愚妹カチュア、金色のポニーテールで制服もシトゥラに比べてだいぶだらしない・・
そういやこいつ任務の途中で忍術を習ったんだっけな。
忍耐力が勝負な忍者の術なんてこいつには似合わないと思うんだけどなぁ
忍術というよりももはやこいつ独自の術になっているかも
「いんや、ルザリアって宗教はほとほと自由だからシトゥラみたいな奴ってどんなんだろうかな〜ってさ」
「そうですね・・だが、確か騎士団では決められていたか」
緋色の真面目人間キース、カチュアの恋仲という形に収まった悲運の男だ・・。
ある意味この部屋の人間の中で一番まともかな
「ああっ、ハイデルベルクの正式騎士団は中では志望すれば神殿騎士にも配属になるからな。
基本的には国教である『三神教』の信者でなければならないことになっている」
相も変わらず短い黒髪のツンツン頭のスクイード、熱血で暑苦しい奴だが・・こんな奴でも出世できる

皆、希望を捨てちゃいけないぞ

「ふぅん・・じゃあお前もタイムもその「三神教」ってヤツの信者か」
カチュアは馬鹿だしキースは傭兵上がりだから関係ないだろうな
「一応の建前だ。神に祈って平和が訪れるほど世の中甘くはないからな」
「珍しくスクイードとは同意見だな。大体ああいう信者ってのはどこまで本気なのかね?」
「・・さぁね。熱心に祈っている人とか見たことあるけど・・なんか寧ろ憑りつかれているみたいだしねぇ」
「そうだよなぁ、祈っている暇があるならば他にやることもあるだろうに・・」
生きるのに精一杯な人間もたくさんいるんだ。
そういう人からしてみたら人形に頭をヘコヘコ下げる人を見る目ってのはさぞかし寒いもんだな
もし神様が本当にいるんだったらどうしようもなく根性悪だな
「・・でっ、変態・・いい加減に机から降りろ」
「・・んっ?いけない?」
「空いている机とはいえ行儀が悪い!さっさと降りろ!」
一個だけ空いている机の上に胡坐かいていたのだが・・こいつはそれが気に入らないらしい
小さい事を・・
「でもお兄さん、ここに居座るのは珍しいじゃない?いつもならタイム団長のところで大半過ごしているのに」
「・・何かオサッサンリバンが来るんだってよ。本部からの直接な仕事だって」
「オサリバン総団長が・・、そうとう重要な任務なのか?」
「ちゃうちゃう、キースは知らないだろうがオッサンリバンは前ルザリア騎士団長を務めていたからここによく来るんだよ
それに家が貴族地区にあるからな・・。あのおっさん単身赴任ってやつだ」
まぁ元々あっちこっち飛び回っていたからな・・、それだから娘の世話をタイムに押し付けていた時期もあったようだ
今は〜、騒動がないところを見ると大人しくなったのかな?何でも相当痛い性格らしいからなぁ、あのハゲの娘

コンコン

おっ、誰か来た・・・。タイムか?
「失礼します・・」
残念、入ってきたのはルザリア騎士団の魔法顧問アンジェリカだ
いつもの黒い魔女姿・・知的な性格なのにやたらとミニなスカートとそこから生える白い足が生唾物だ・・
「・・アンジェリカ教官・・どうしたんですか?」
「スクイード室長さん、貴方はこの間の魔術試験で赤点だったので追試の問題をと思ってね」
「う・・うそだ!僕が・・」
「一夜漬けで魔導論を覚えたみたいだけど・・間違って覚えたら実用もクソもないわよ。はい・・明日までに仕上げて」
無情に渡す本・・、っていうか課題みたいだ・・
嘘だろ・・、人、殴り殺せるぜ
俺だったら絶対ギブアップだな
まぁアンジェリカは魔法都市であるアルマティでも優秀な魔術師だからそのレベルは高い
その分周りの騎士に学ばせる問題もかなりのものだが教え方がうまいのか脱落者はそういないのが凄いところ
「・・スクイード君残念〜♪他は誰かいるのか?」
「他の面々は大丈夫よ。・・一番はシトゥラさんね」
「おおおっ!シトゥラやるぢゃん!」
「・・ふっ、こうした勉強というのはツボにはまると止められなくなるものだ」
クールよのぉ・・
「向上心があるのは良い事よ。それよりもクロムウェル・・貴方はどうしてここにいるの?」
「・・なんだよ、俺がここにいちゃ悪いみたいに・・」
「いえっ、珍しくってね・・。でもタイム団長が貴方を探していたわよ?迎えに行ったら?」
「・・・おえっ?タイムが?・・オッサンリバンはもう帰ったのか・・」
総団長になっても忙しい生活を送っているらしいからな・・、だからハゲるんだろうけどさ
「総団長は先ほど帰られたわ。・・それとシトゥラさん、貴方もよ」
「ん・・?私もか・・?・・ひょっとしてあの事がばれたか・・」
「いやっ、あれはばれないだろう。寧ろこっちの事じゃ・・」
「・・お兄さん達、裏で何やってのよ?」
・・・・・・・、秘密だ・・。まぁシトゥラが関係しているから「性」の字は外せないだろう
「ともかく行こうか」
「うん、ではスクイード。少し頼むぞ」
スッと席を立つシトゥラ・・行動がきびきびしているなぁ・・。スクイードとは大違いだ

・・・・・・・

タイムの職場といえば団長室、俺を探していたそうだがアンジェリカに伝言をしたんだったら戻っているはずだろう
「お〜い、タイム〜・・いるのか?」
”・・開いている、入ってきてくれ”
扉越しに聞こえる凛々しい声・・なんだけど結構緊張している感じだな・・ハゲリバンの仕事が関係しているんだろう
「あいよ〜」
まぁ遠慮なく中に入る・・
広めの団長室ではスーツ姿に身を包んだタイムが静かに座っていた。スッと長い緋色の髪・・片目を隠すようなヘアスタイルだが
よく似合っている・・
「ご苦労・・・シトゥラも一緒だったか。ちょうどいい・・」
「何だよ、別にやましいことはしてないぜ?」
「うむ、少し覗きを働いたがな・・」
シトゥラさん!そういう告白はやめてください!!
「・・・、まぁその事は後でゆっくり聞こう・・。それよりも二人に頼みたい事がある」
「ハゲリバンからの仕事か?」
「・・流石に察しがいいな」
「まっ、パターンだしな・・・でっ、どんな依頼なんだよ?」
「・・・宗教事に関係しているんだ・・」
おおっ、さっき偶然出た話題かよ・・、まぁ俺達で祈祷なんかしないだろうしどんな内容か聞いてみるか

・・・・・・
・・・・・・

「・・っと、まぁこんなところだ」
・・めんどくせぇ・・、
仕事の内容とはまぁ簡単に言えば護衛
国教である三神教の中でも枢機卿といわれる最高司祭が地方へと巡礼に出るんだってよ
まぁそういうえらいさんには神殿騎士が護衛につくわけで普通ならば俺達が出向く必要はないんだが
今回は少し事情が違うらしい・・
何でもその司祭様は数人いる枢機卿の中でも最年少・・そしてカリスマ性が高いんだそうな
・・つまり、他の枢機卿がそれに対して良い思いをせずにこの旅の最中で亡き者にしてやろうと目論んでいるそうな・・
正直、神殿騎士では人の相手は厳しい
何せ神に忠誠を誓っているために同族殺しは避けているし巡礼の護衛ではほとんど魔物相手だそうだからな
そうした事情は陰謀を目論む枢機卿もわかっているためにこうして戦闘慣れしている俺達が抜擢されたってわけだ
「・・神殿騎士ってのも難儀なんだな」
「制約が付きまとうからな・・・、おそらく人を殺した事はないだろう」
「・・だが、私達もその神殿騎士として護衛をするのだろう」
・・そう、そこが一番面倒だ・・、ハイデルベルク騎士団の介入があったとは悟られたくないらしいので
俺とシトゥラは神殿騎士としてその枢機卿さんと同行する手筈になっている
黒幕の目星はついていない、ここでハイデルベルク騎士団の介入があれば一旦は暗殺の手はなくなるだろうが
ほとぼりが冷めた時にブスリ・・ってことになる
ハゲリバンにしても身分隠してでもしょっ引きたいらしい
「って事は〜、鎧を着て重たいのを腰に下げろってか」
「ああ、用意した・・着替えて見てくれ。シトゥラは女子更衣室で・・クロムウェルは・・ここでいいだろう?」
「・・ふっ、そういう事か。では少し時間を空けようか?」
・・シトゥラさん、鋭いねぇ・・
「べ・・別にそんなつもりじゃない!」
「まぁ、そういう事にしておくか。ではまた後でな・・」
テーブルに置かれた女性騎士用の鎧一式を持ってシトゥラは出て行く、
まぁ装備の仕方はスクイードのを見ているからわかるだろう
「・・・でっ、どうするんだ?ヤる?」
「馬鹿、神殿騎士はそれだけ規律を重んじる職なの・・クロは素行が悪いからイメージチェンジしないと・・
はい、装備して」
「へいへい・・ちょっと待っていろよ」
まぁ俺の服の上からでも問題ないか・・、おっ、ダミーアーマーか。
重たい装備が嫌いな俺の事を気遣ってくれているんだなぁ・・
うう・・その気配りに涙が・・
「クロ、涙流しながら着替えないの」
「・・悪りぃ・・」
っとは言え、鎧装備はエネの一件以来か・・重さは気にならないが
身動きはやっぱとり辛い・・
おまけに神殿騎士用で普通の騎士よりもパーツが多い
ここらが現場で動き回る騎士と違うところか・・
後は・・うおっ!?剣って腰に下げるとこれだけ重いのかよ!!?
「タイム、この剣重くないか?」
「神殿騎士は剣身の広い騎士剣を使用するの・・鎧は誤魔化せても流石に剣まではそうともいかないのよ・・我慢して」
「・・ううん、まぁなんとかなるか・・こんなもんでどう?」
黒い格闘服の上に纏うは銀色の板金鎧、それなりに飾り気があり頑丈そうなんだが・・な。
後は腰の騎士剣だ
「・・服装はいいけど・・髪は少し下ろしたほうがいいわね」
「お・・おい」
かきあげていた俺の髪を下ろしてさっさと整える・・、前髪が目にかかるのって嫌なんだがな・・
「・・・」
「・・ど・・どうした?」
適当に髪を梳いていたタイムだが急に硬直しちゃったよ
「・・・いい!クロ・・すごくかっこいいわ!」
目を輝かせるタイム、こいつがここまでテンションが高くなるなんて・・どうなっているんだ、今の俺・・
「俺サイドではわからん・・鏡見せてくれよ」
「はい!」
すぐ手鏡を渡すタイム、なんだそのハイテンションは・・・

・・・・・

あれ?鏡に知らない男が写っている
・・って俺かい!!
なんか優等生な騎士風だな、おい
「鎧着て髪下ろすだけで変わるもんだなぁ・・って・・タイムさん?」
「クロ・・」
鎧越しに抱きついてくるタイムさん・・そこまでメロメロですか?
「だぁ!仕事中なんだろ?・・これで神殿騎士に見えるか?」
「うん、間違いないわ。・・後はシトゥラね・・」
「あいつ獣人だからな・・、狐耳な神殿騎士・・・マニア受けしそうだな」
「・・まぁアクセサリーと言っておいたら誤魔化せるってオサリバン総団長は言っていたから・・」
・・誤魔化せるのか?

コンコン

”・・取り込む中か?”
・・シトゥラさん、やっぱり俺達がヤっていると思っているのですか
「入ってきても大丈夫だっての!」
ガチャ・・
「ふ・・意外に早いんだな・・」
「だからヤッてない!・・って・・ほぉ・・」
入ってきたのはシトゥラとは思えないほどの麗騎士・・、神殿騎士用の制服である白いロングスカートと白法衣の上に銀の鎧
いつもと違う印象を受ける・・まぁ耳はそのまんまだが尻尾はスカートの中に見事収納されちゃっている
「・・似合っているなぁ・・」
「ぬっ・・?その声・・クロムウェルか?」
ありゃ?
「シトゥラにも今の俺が変に見えるか?」
「ん・・、何やらいつもに比べて品がある」
・・つまり俺はいつも品がない・・っと
「だ・・が、まるで別人だな・・」
「そうか?だが鎧を着ると髪が引っかかって・・・嫌だな」
まぁ膝に当たるほどの超ロングだからな・・
「なら・・括ってみるか。ちょっと・・こっちに来てくれ」
「ん・・・」
タイムに促されシトゥラはソファに腰掛ける・・そして長い髪を纏めて編んでいく
・・鞭みたいなオサゲの完成だ・・
「これでよし・・うん、神殿騎士にぴったりだ」
長いオサゲが特徴の麗騎士・・だな、銀と白の組み合わせが正しく清い雰囲気だ
まぁ流石に狐耳はそのままだが
「なるほど・・髪を束ねるとこうもすっきりするものか・・」
「っうかシトゥラって髪伸ばしすぎじゃねぇか?」
今迄誰も突っ込まなかったけど・・・
「私の一族では髪の長さは力の強さを表している・・それにこの髪も身体の一部だ。そう頻繁に切るのもいいことではないという
考え方が一般的でな」
「・・まっ、そういう考えをしている処って結構あるみたいだけどな。そんでタイム・・俺達は神殿騎士として
その司祭さんと同行すればいいんだろ?目的地はどこだよ?」
「・・枢機卿エイリーク様は明後日ルザリアを経由してフィン草原都市群を抜けダンケルクのとある町に訪れるそうだ」
長っ!
「っうか国をそんなに渡って大丈夫なのかよ!宗教事って面倒なんだろう?」
「フィン草原都市群は都市ごとに崇拝する神が違う・・その事は承知していて他教を侵害することはない
それにダンケルクとて同じ事だ。こちらは国教自体が定められていない・・、まぁそんな状態だから
『三神教』を崇拝する町があるわけだ」
「なるほど・・、ってもダンケルクはその『三神教』がそこまで普及していないから信者には司祭が巡礼に来てほしいわけか」
「そうだ、本来ならば小さな村に司祭様が参るなどありえない話だが・・エイリーク様は違う」
・・・なるほど、貴族連中ばっかに祈祷を捧げているのと全ての信者を同等に扱うのじゃ人気も差がでるわけか
まぁそれで暗殺するってのも・・つくづくだよな・・
「了解した。では・・その当日までは今迄通りにいればいいのだな?」
「ああっ、その服装になるのは当日で構わない。少々長旅になるだろうが・・よろしく頼む」
「へいへい。そんじゃそれまでのらりくらりしますか」
長旅になるんだったら・・ちょっとはフォローしておくか
全く、難儀な仕事ってのは何でこうも正規の騎士が担当しないもんなのかねぇ・・・

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