一章 「暗闇への道」


深夜
何もない荒野を突き走る人影が二つ・・
辺りは月の光のみが差すだけであるがそれだけでも十分周囲は見渡せる
・・っと言っても辺りには朽ちた木などしかなく夜行性の猛獣がウロウロしているぐらいなのだが
「こっちであっているのか!?」
影の一つ・・凛々しき声を放つ男性、ただ前を見てひた走っている
「ええっ、この先の洞穴にいる・・はず!」
影の一つ・・、やや戸惑っている感はあるもののと確固として進む女性の声・・
二人はさらに走りやがてぽっかりと地面に開いた穴を見つけ中に入って行った
それを知るのは月の灯りのみ、二人が入った後は再び静寂が支配していった


・・・・・・


それより数時間
・・夜が明け、日も昇ったところに同じようにその洞穴を訪れる者があった
「ここか・・、団長の言った通り・・自然にできた洞穴じゃないな・・」
入り口に立つ黒いボサ髪の青年。八方陣の紋章が描かれたマントを羽織り
ジッとその暗闇を見つめる
「薄暗くてなんだか煙たそう、早く終わりにしたいね。」
隣で同じく大きな穴を覗きこむ女性・・綺麗でスラッと長い金髪が美しく聖母ともいえる
「それで焦ると足元救われるぞ・・リオ」
「わかっている、アレス君♪」
軽く頷く青年アレスと聖女リオ・・。やがて手持ちの松明に火をつけて中に入って行った

・・・

中の洞穴はまるで何かが通った後のように巨大な円形の空洞となっており土がえぐられていた
「・・巨大なサンドウォームが通ったのかな?」
「あり得ない話ではないな。それに団長やルーさんが何かを感じた地帯だ・・・、
相応の化け物が潜んでいてまず間違いない」
松明を持ちながら先を進むアレス・・、周囲をくまなく警戒しており何時でも戦闘できる状態だ
「化け物・・、もし、生き埋めになったらどうしよう・・?」
「土ごと吹き飛ばせばいいだけだ。」
事も無げに言ってのけるアレス、・・それは虚勢でもなんでもなく手段の一つに並ぶ行動だ
・・つまり彼、彼女にはそれだけの力量を持っている
「・・・アレス君・・頼もしい・・♪」
そんな彼氏にリオもメロメロのデレデレ・・しかしそんなラブコメを何時までもしているわけにもいかず・・

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

お約束というべきか地響きが鳴り響く・・
「・・これって、アレスが言ったせい?」
「言おうが言うまいが動く奴は動く・・気をつけろ!!」
どこから現れるかわからない状況の中、二人はマントの中にある己の得物に手をかける!


ゴウ!!

突如としてアレス達の前方数メートル先に突如地下から現れる奇怪・・、サンドウォーム
巨大なミミズを思わせる外見だが先端に巨大な口がありいくつもの牙だらけの唇が大きく開いている
「気・・気持ち悪い・・さっさと倒そ!」
「待て・・様子が変だ・・」
見ればサンドウォームは二人を食する様子もなく口を開いたまま硬直している
「・・な・・・何・・・?」

”キャシアアアアアア!!”

途端に広がるサンドウォームの絶叫・・それとともに巨大な身体は真っ二つに裂かれた・・
体液がやたらと噴出するなかで裂かれた先に人がいることに二人は気付く
「アレス君・・」
「ああっ、・・・・君達は誰だ?ここで何をしている?」
見たところ二人組、一人は赤い髪が特徴の青年・・、
使いこまれた革と板金を組み合わせた軽量鎧を着ており手には大剣として有名なクレイモアを持っている、
それでサンドウォームを葬ったようで体液がこびりついている。
もう一人は長めの金髪をポニーテールにしてまとめている気の強そうな女性。
着ているものは白いタンクトップにどう見ても普通のズボン・・、腰に上に羽織っていたと思われる上着が括られている
「人・・?こんな所に・・・」
男がアレス達二人を見て意外そうに驚く
「質問をしているのはこちらだ・・、応えてもらおう」
「・・!!、アレス君!!」
男同士で揉めようとしている時、突如リオが叫ぶ!

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!!!!

絶命したかと思っていたサンドウォームが暴れ出したのだ!
「ちょっ・・これってやばくない!??」
不審人物二人も慌て出す・・が、少し遅かった・・・

ボコッ!!!

サンドウォームが跳ねたかと思うとそこ一帯にポカンと大きな穴ができる!
「っつ!!!リオ!!」
「ア・・・アレスくぅぅぅぅぅぅぅん!!!」
咄嗟に飛びのいたアレスに対してリオは少し出遅れ穴に吸いこまれるように落ちる!
「キース!落ちる気!?」
「好きでこんな状態にしていない!くぅ・・!!!」
一方に同じようにキースと呼ばれた赤髪の男が落下していった・・
・・巨大な大穴ができた後、そこは静寂が包み込み相方とはぐれたもの同士、静かに目が合った



・・・・
・・・・・
・・・・・・・


「う・・ううん・・。ここは?」
どれくらい時間が経ったか・・ようやく目が醒めるリオ・・見ればそこは岩に挟まれた空間であった
「気がついたか・・?」
どこからともなく男の声が・・・、それは愛しい相方とどこか似ている声だ
「・・ア・・・アレス君・・」
「・・!?」
思わず声のしたほうに手を伸ばす・・が徐々に記憶が戻ってきた・・、相方とは突如現れた空洞のせいで別れていたはず・・
「・・!!?えっ・・えっ!!?」
慌てて起き出すとそこには上半身裸のあの赤髪の男が・・・。松明を岩で挟みその周りに
着ていた服を乾かしている。
そしてその横には見覚えのある女性物の・・
「すまない、濡れると毒だ。差し支えのない程度に脱がさせてもらった」
淡々と言う男・・それ以上にリオは焦りに焦る・・着ているものが下着以外なく毛布に包まれた状態だったのだ
「ええっ!?や・・あの・・なんで!!どうして!?」
「・・憶えてないか。あの大穴に落ちて君と俺は地下水脈に落下したんだ・・。
土が柔らかかったからなんとか耐えれたが君はその衝撃で気絶したんだ。
それでなんとか休める場所を探してこの空間を見つけた・・・っと言うわけだ」
「・・そ・・そうなの・・地下水脈・・・?」
「すぐそこで水が流れている・・水脈というよりかは・・水路か・・。それよりも大丈夫か?」
「え・・ええ。別に異常はないけど・・あの・・服を乾かす以外・・何か・・しました?」
「寝ている女を襲う趣味はない・・、まぁ・・許可を得ずに脱がしたことは・・詫びる・・」
恥ずかしいのか目を合わそうとしない赤髪の男・・、その態度にリオは安心を覚え軽く微笑んだ
「ありがとう・・、私リオ・・貴方は・・?」
「キースだ。リオ・・さんか。君はこんな場所にどうして・・?」
「あ〜、そこに置いてある鎧でわかると思うけれども・・私・・騎士なの・・」
なんとなく照れくさいリオ・・脱がされた鎧も武器も丁寧に置かれているのだ
「・・もしやと思ったが・・やはりそうだったか。君のような女性が・・」
「意外・・?」
「・・そうだな、俺の身の回りの女性は君のようなタイプとは正反対だからな・・」
「ふぅん・・っということは貴方も騎士なの・・?」
「・・・・!」
途端しまった・・っと言った顔になるキース・・・
「・・聞いちゃまずかった・・・かな?」
「・・・・、本来は極秘の任務だが・・、こんな非常事態だ。それに君なら言っても問題ない・・か」
「うふふ・・人望はあるんだ♪」
「・・ふっ、まぁ詳しいことは勘弁してほしいが俺は某国の一部の騎士団に所属している騎士だ
この洞穴にはとある人物が逃げこんだのを追ってやってきてな」
「・・人物・・?」
「詳しいことはわからん。だが俺の街で魔導具コレクターの貴族を殺して何かを奪ってここまできたようだ」
「ふぅん・・、臭いわね・・」
「君達はどうなんだ?君と一緒にいた男・・かなりのツワモノと見た。そして君も並の腕ではない・・」
ピタリと言い当てたキースにリオもちょっと驚き・・
「うん。私達の団長が不審な穴があるということでその探索を私と・・相方のアレス君に頼んだの。それでここにきた・・」
「そうか・・。しかしこの状態だ。ここは一つ協力しないか・・?」
「・・そうね、状況もわからないし・・闇雲に動き回っても下手したら野垂れ死にだし・・・」
「それに、俺の相方も少し変わっているが馬鹿ではない・・。そのアレス・・だったか?彼と手を組んだ行動を開始しているはずだ」
「・・その人、キース君の彼女・・?」
「・・成り行きでな。とりあえず服も乾いた・・そろそろ移動するか・・松明の数も限りがある。
こんな暗闇で明かりがなくなれば生存できる可能性はずっと低くなる・・」
「その点は大丈夫・・・えい!」
リオが軽く指を鳴らすと光の粒子が零れ、周囲を明るくさせた
「これは・・」
「光りコケ・・明かりの変わりにはなるよ♪」
「便利だな・・。」
素直に驚くキース、しかしその様子を見てリオも驚く
「えっ・・?知らないの?養成校で習う魔導学の軽い応用よ?」
「・・、悪いな。俺は現場の叩き上げだ、そういう教育は受けていない」
「えっ・・?でも・・騎士なんでしょ?」
「まぁな。前にいたところは『傭兵騎士団』、
国から騎士として認められていない傭兵や騎士崩れの人間が集まった自衛団だったんだ。」
「ふぅん・・じゃあ詳しくは傭兵騎士さん?」
「いやっ、俺達の行いが王を動かしたのか最近正式な騎士団として認められた。・・だから
普通の連中とは違うことになるな・・もっとも今は別のところに出張だが・・、んっ・・ふっ」
何時の間にか口数が多くなったことに気付きキースは思わず口元を上げた
「・・へぇ・・、すごいんだね、キース君って」
「俺がすごいんじゃない。・・すべては俺の尊敬できる人の成果さ。さぁ用意をしていこう
・・情報だとあまり時間をかけるとやばいことになる」
「あ・・うん、じゃあ出発〜!」
素早く装備を身につけ二人は流れてきた水路へと足を進ませた

・・一方・・

「・・・・」
「お〜い!」
「・・・・」
「お〜いってば〜!!」
ゴツゴツした石の坂道を黙々と降りるアレス・・、対しそれにストーカーみたく付きまとう女性・・カチュア
サンドウォームの開けた穴を下れば相方と合流するには一番早いのだが
真っ暗でどれほどの深さかもわからない穴に飛びこむのは危険過ぎる・・よって
面倒だが下へ下へ進んでいくしかないとアレスは踏んでまっすぐと進んでいく
・・だが先ほどからやたらと耳障りな女性の声・・。かまっている暇はないがあまりにもしつこい
「・・なんだ?」
「あんたら、誰なの?」
振り向きもせずに応えるがそんなことおかまいなしのカチュア・・
「・・ここらの一帯を異変を静める者だ。お前は早く外に出ろ。」
「や〜よ、相方おっこちゃったんだしこのまま放っておくわけにもいかないわ」
「危険な洞穴に勝手に入った報いだ。そいつも救助してやるから地上で待っていろ」
「嫌よ、私だって仕事で来ているんだから・・」
カチュアのその一言にアレスはピタリと止まる
「仕事・・だと?」
「そっ、私と相方のキースはここに逃げこんだ不審人物を追って来たの。なんだかヤバイもの盗んだらしいからね〜」
「・・ほう、その話詳しく聞かせてくれないか?」
「いいけど〜、その前に一緒に行動しましょ〜よ?昨日から中を見まわったけど結構複雑だし
何があるかわからないからね」
「・・・お前と・・俺が・・か?」
「他に誰がいるのよ?」
「・・・ぬ・・・・・」
アレス、大いに悩む。目の前にいる女はどこの馬の骨かもわからん奴、
しかも立派な不審人物・・しかしリオが落っこちた以上は人手は必要、何でも独りで解決できるほどこの仕事は
甘くないことをアレスは重々理解しているのだ
「・・どう?」
「・・・・いいだろう。俺はアレスだ。お前は・・」
「カチューシャよ♪人呼んでルザリアのアイドル騎士カチュア♪」
わざわざがポーズを極めて自己紹介するカチュア・・
「・・ふぅ・、ルザリア・・・?・・確かハイデルベルク国の都市か?」
「えっ?良く知っているわね〜、そうよん、ここに逃げこんだ犯人はルザリアで事件起こしちゃってね。
物騒な物を盗んでここまできたみたい」
「・・・、だが他国に渡り勝手に散策するのは御法度じゃないか?それとも正式に手続きを・・」
「・・・あ゛っ!!・・アレスの旦那ぁ・今のはご内密に・・」
いけねぇ、やっちまったよ・・と顔で表すカチュアさん
「別に突き出すつもりはない。で・・正式な手続きもせずに追ってきたのは何故だ?」
「う〜んとね。その犯人は私達の街で貴族を殺して何かを持って逃げたのよ。国外逃亡ならば
他国の騎士団に情報だけ渡すみたいだけどどうも普通じゃないらしいの、
盗んだ物がその使用人に聞いたり安置していた場所の残留思念などを調べたら何かの『鍵』になるものらしくて
調べた魔術師もそれを追ったほうがいいって言ったから私とキースがその追撃に出たの」
「・・鍵・・?」
「そっ、見た通りの鍵だったらしいけど何か石かよくわからない素材でできていたんだって。
その魔術師の推測だけれども『何かの封印を解くために必要だったんじゃないですか?
うわっ、近づかないで!感染・・』っと後半関係ないわ」
カチュアの話にアレスは腕を組んで考え出す
「・・・つまり、この不自然な洞穴もその犯人の悪巧みが原因・・っというわけか。・・団長の読みが正しかったな」
「まぁ、そんなわけ。とにかくまずは落っこちた二人と合流するのが先決ね、闇の中に二人っきりになったら・・不潔極まりなくない?」
「・・・俺の相方はそんなに軽くない。・・とにかく行くぞ、ある程度道がわかるならお前が先に進め」
「は〜い、じゃあいっきましょう!!!」
松明をブンブン振りながらカチュアは進み出す
しかしアレスは先ほどから誰かに見られている気がして何故か落ちつかなかった

・・・・・・・・

暗闇を歩く事1時間ばかりか・・
カチュアとアレスはずっと坂道を下っていった。魔物の一匹や二匹飛びかかってきて当然なのだが不思議と何も起こらない。
・・ただ、二人とも何かに見られている気がし、周りへの警戒を解こうともしない
やがて坂道は突き当たりに・・。そこには特に何があるというわけではなくぽっかりと開いた空間だけだった
「・・今まで歩いた道がサンドウォームがえぐったものなのはわかったんだけど・・・ここで止まっているってのは解せないわね」
「ここにくるまではほとんど一本道だった・・。そう考えたらここに何かがあることは間違いないな」
「そうね〜、壁は岩、岩、岩だけど・・・、床は今までと違って・・」
まっ平らだ。砂こそ多少積もっているが平たい岩盤が広がっているようだ
「・・カチュア、目と口を押えろ」
「へっ?」
突如アレスが言い出したかと思うと得物を抜き鋭い素振りをする!

轟!!

凄まじい剣風が起こり地面の砂を宙へと舞わす・・
「げほっげほっ!!ちょっと!!唐突じゃない!!」
「一応忠告はした」
砂まみれなカチュアに対しアレスはシレっと言ってのける・・
「あ〜!愛想悪い!ナイス筋肉なのに中身が悪いわよ!」
「五月蝿い、それよりも床を見ろ」
「五月蝿くない!・・って・・・何・・これ・・」
文句を言いながら地面を見てカチュアが言葉を失う
床には溝が彫られておりそれは何かの眼を描いている。
そしてその両端には何かの文字が描かれパネルのようなものがある
「・・字は・・ちっ、古くて読めないな。見たところ何かの門か・・」
「門・・?」
「勘だ。しかしこのパネル・・」
慎重にそれに手を乗せるアレス・・
その時!

バシュ!!

パネルから淡い緑色の光が地面を走りその眼の半分だけを明るくする・・
「これは・・カチュア!そっちのパネルに手を添えろ!どうやら魔力に反応するようだ」
「え・・あ・・わかったわ!」
急いでカチュアも反対のパネルに手を添える

バシュ!!

再び地を走る緑色の光・・、アレスの時と同じように地を駆け眼に光を灯す・・
二人の間に眼の紋章が煌煌と光った・・が

シィィィィン・・

「外れ・・か?」
「いやっ、同時にやるんじゃない?タイミングを合わせてやりましょう!」
「タイミング・・か、じゃあ1,2,3で合わせろ」
「駄目よ!んな気合いのない合図なんて!!合図って言ったら『筋』『肉』『マッスル』って相場が決まっているでしょう!!!」
「・・・・、お前の基準だろう・・」
「ともかく!それじゃないと上手くいかないの!いくわよ!!」
「・・・、リオとなら何の問題もないのに・・」
思わずぼやいてしまうアレス・・だが・・事を進ませるにはやらなければならない
「いくわよ!『筋』!」
「に・・『肉』!!」

「『『マッスル!!』』」

バシュ!!

同時に淡い光が走る眼に光が灯る!
そして・・

ゴゴゴゴゴゴ・・!

中央から響き出す地響き・・やがて眼に線が走り少しずつ開いていった
「・・ふぅ♪成功ね♪・・どしたの?アレス?」
「・・・・はぁ・・疲れた・・」
「若い者が何言っているのよ!まだまだいくわよ!」
「リオ・・どこにいるんだ・・?」
まだまだやる気のカチュア・・アレスの災難はまだ続きそうだ
ともあれ、ゆっくり開いた床は途中で止まりその下層の姿を見せる
岩肌に接する石で出来た螺旋の階段・・そして暗闇の先からは水の流れる音が聞こえる
「・・水脈・・?それにこの階段・・」
「こんな手間のかかった扉といい・・、普通の人間が作ったもんじゃあないわね〜。
ともかく降りましょう?これで下まで降りたらキース達とも合流できるでしょう」
「・・そうだな、だがくれぐれも警戒を怠るなよ・・」
「もちろん♪」
「・・ふぅ・・よし、いくぞ」
やや温度差はあるものの二人は暗闇とへ飛び降りた


・・・・・・・一方・・・・

アレス達が門を開き下層へと向っている中それより遥か底の水路をキースとリオは進んでいた
水路は天井が高く底も石で整備されておりきちんと枝分かれしている・・
必要のないところは岩が剥き出しになっており明らかに人工物である
「・・、どうやら犯罪集団のアジト・・っというわけでもないか・・」
光コケで見通しが良くなった水路を進みながらキースが唸る
「そうね・・、これだけすごい設備なんて・・並の組織じゃ作れないし・・」
「そうなると・・これは旧世界の遺物・・か」
そう言いながらも水路は突き当たりに差し掛かる・・
水はその先に流れるものの巨大な門が道を塞いでおり通ることはできない
そしてその門には彼らにはわからないが上にて二人の相方で見かけたのと同じ眼の紋章が・・
「行き止まり・・じゃないね。何だろう・・この眼・・?」
「何かの紋章のようだな・・、これは・・」
見たこともない紋に首をかしげる二人、地下に落ちてから初めて見る『人が描いたモノ』なのだ
正体を当てたくもなる・・が

”これは『ホルスの眼』・・万物を見通す眼にして我等の印さ”

「「!!!」」
不意に後方から声が・・、透き通った女性の声だが情が一切込められていない
「来客者とはね・・、イフリートの奴も計画を急ぐ余りにそれに気付かなかったか」
そこにいるは水色のドレスを着、髪も目の色も水色の女性・・、肌は透き通るぐらい白く
髪もウェーブがかかって美しい・・のだがどこか空恐ろしさを感じる
そして一番の特徴は彼女は『ホルスの眼』と言われた紋章と同じモノが額に刻まれていること
血のような赤さが際立っている
「・・・、誰だ?」
「誰だとは・・、それはこちらの台詞だね。我等の街に足を踏み入れようとしているのだから」
明かに小馬鹿にした口調の女性、目を細めてにやけて見せる
「我等の・・街?」
「それ以上知る必要もない・・。深淵なる凍結の眠りへ・・」
女性の手が動いたかと思うと凄まじい冷気が疾駆する!
「!!まずい!!」
急いで飛び上がるキース・・、冷気は孔雀のような姿になり襲いかかるのだ
そしてその冷気により水路の水は瞬時に凍りつき・・・
「えっ!?・・きゃ!」
一瞬対応の遅れたリオは足を凍り付けに・・
「リオさん!!!」
身動きを封じられたリオへ氷の孔雀は飛びかかる・・、
尋常な威力ではないことは誰が見てもわかるほどそれは強大にして狂暴
「ちぃ!!」
咄嗟にキースは自分のクレイモアを投げる!!

ガキッ!!

狙いは氷の孔雀ではなくリオの足を奪う氷面・・
正確な狙いで表面にヒビを入れ、彼女を開放させる
「!!ありがと!!」
礼を言いながら素早い動きでリオが飛びのく!!

キィィィィィィィン!!!!

それと同時に彼女がつい今いたところに孔雀は飛びかかりその地点に白いモヤを出して消滅した
「・・ふぅん・・機転は効くようだね。今度の民は・・」
その様子を見て女性が静かに笑う。それ以上にリオとキースはその場所にあったクレイモアに注目してしまう
「瞬時に凍りついてやがる・・」
「こ・・こんなのまともに受けたら・・」
改めて警戒し女性を睨む二人・・だが当の彼女は何やら面白そうに笑みをこぼしている
「ふ・・ふふ、神聖神の加護を忘れ外道を進んだ後継者だが力は持っているようだね」
「・・?何のことだ?貴様は何者だ・・?」
「私はシヴァ。このバラルの民だ・・君達は興味深い・・。計画発動までの時間つぶしにはちょうどいいな・・」
「・・どういうこと?計画・・?」
「・・見せてあげる・・」
シヴァはそう言い手をかざす・・
それとともに壁に描かれた門の眼が光りだし

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

ゆっくりと二つに分けて奥の光景が目に入る
「嘘・・」
それを見てリオは絶句し思わず見とめる・・、彼女達がいる水路は高台になっており
見下ろす形で都市がそこにあった
天井は大きく円形にくりぬいたようでまさしくドーム状・・
都市は石で出来ており規則正しく格子状を描いている。そしてドーム都市の中央には
金色のピラミッドのような三角錐の建造物がそびえる
それには壁面にあの『ホルスの眼』が描かれており碧の光を放ちドームを覆っている
「リオさん、敵は前だ!見惚れては・・」
「安心しろ。今殺しては面白くない」
「・・なんだと・・?」
舐められている・・それだけで彼の頭に血が上ってくる・・。しかし肝心の得物がなく
素手で突っ込むには余りに無謀だ
「あの三角錐の建物が見えるだろう?あれこそが我等の『ゆりかご』にして神の加護を忘れた不浄な民を滅ぼす刃・・」
「ゆりかご・・?刃・・?」
「後数刻もしないうちにあの建物『グランドクレイドル』は地上へと浮上する・・
そうすれば君達の文明は死に絶え我等バラルの民は再び大地へと立つのだよ・・」
「・・な・・なんですって!あんな巨大な物がそんなことできるわけないじゃないの!」
「やれやれ・・、君達は身体能力は素晴らしいが頭は陳腐なようだね。
・・まぁ、そんな刃物に頼っている程度の文化レベルならば仕方ないか」
「いちいち酌に触るな・・シヴァとやら・・」
「まぁ焦るな。このまま浮上を待つのも退屈でね・・阻止したければあそこまで来る事だ。
こんな狭い水路で逃げまわるよりは楽しいゲームにはなりそうだからね」
ニヤリと笑うシヴァ・・それと同時に彼女の身体は透けていき消えて行った

・・・・・

「気配が・・消えた・・」
「キース君、これってどういうこと・・?」
「俺にもわからん・・ただ・・」
ゆっくりと凍り付いたクレイモアに触る

ガラガラガラ・・

クレイモアだった物は完全に凍りついておりバラバラに崩れ落ちてしまった
「とんでもない事をしでかそうとしているのは間違いなさそうだ」

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