「招かれざるもの 前編」


“ブォン”

背後から迫った一撃を身を屈める様に回避し、振り向きざまに一発打ち放つ。

“ギャォオオオ!?”

狙いをつけてなかったがどうやら“ソレ”の顔面に当たったらしくそいつは
もんどりうちながら地面を転がってゆく。
その様子を最後まで見ることなく只ひたすら前へ前へと走ってゆくのは“ソレ”
と同じ様相をしたのが数匹迫って来ているからである。否、視界に入ったのが数匹
であり、まだその奥には数えるのが億劫になるほど“ソレ”は存在していた。

「エヌマ!! このまま進めばいいのか!?」
と逃げ回る青年は誰もいない空間へと話しかける。
そしてすぐさま『OKです! あと500メートルほど行けば開けた空間があるので
そこで待機しています!』 と返事が返ってくる。
どうやら気が動転してW妖精さんWに語りかけたわけではないようだ。

追撃するモノは逃げる青年よりも移動速度が速く目的地まで何度も攻撃を受けるが、
青年はその持ち前の身体能力で致命傷を避けながら回避し続ける。
「残り30・・20・・10・」 目的地まであと少し、逃げる空間に差し込んで
くる希望の光に駆け込もうとした矢先、上からとてつもなく鈍重な者が落ちてきた

『!!』

ソレは今まで追いかけてきた物がかわいく見えるほどの巨体な体躯、正にボス級と
いえる物だった。

『前にデカブツ、後ろからはわんさか・・・どうする!?』と青年は自問自答する
数度、回避しきれずに受けた傷は浅いが満身創痍、今更後戻りできるはずもなく、
手持ち武器のWブラスターガンWの残量もお約束のように一発撃てるかどうか。
答えは既に決まっていた。

「南無三!!」

一か八かの賭けに出た。フェイントを織り交ぜ、巨大になったゆえの隙間 股の間
を掻い潜ることにしたのだ!

ブォン!! 空気を薙ぐその一撃を回避 そしてすぐさま脇をすり抜けるよう動き
からそのまま切り返し、正面の、怪物の股の間を突破する!

目論みはものの見事に成功! 怪物は自分の避けられた手の方向へ向ってくる獲物の
動きに対処できずによろけ、態勢立て直したときには獲物は光の中へと消えていった。

怪物を掻い潜った青年は光の中へ、自分が乗ってきた宇宙船のカーゴハッチを
転がるように駆け上がっていった。
「エヌマ! ハッチを閉じろ! そして緊急浮上!」
『ラジャッ、緊急浮上開始します!』

一息で命令を出す。そしてメインルームへ休む間もなく駆ける。 背後からかすかに
聞こえた異音には気付かなかった。 

船体の浮上を感じながらブリッジへとたどり着く。が、
突如揺れたあと浮遊感は止まってしまう。
「!? なんだ! 一体?」

動きを阻害していたのは先ほどのボス級のモノが数体、船体に張り付いてるのが見える。
それだけではなく、お供なのか小型のモノもびっしりと。
そいつらが攻撃してるのか「ガンガン、ガンガン」音がかすかに響く。

『どうします!? 船体には未だ深刻なダメージはありませんがこのまま上昇
できず留まっていては・・・』
エヌマと呼ばれた船体を管理するマザーコンピューターが主である青年を仰ぐ。

「・・・仕方ない、亜空間ワープを強行しろ!」
『それはオススメできません! 万が一、通常空間に出た時に大気圏内だった場合の
リスクが大きすぎます!』
「だがそれは“万が一”だ。そうそう不運が重なってたまるか! ・・・それとも
エヌマはこの状態を打開する策があるのか?」
そう主に問われ瞬時数十パターンの打開策をシュミレートするがこれ以上は無く、
『・・・・ラジャ! 亜空間ワープ、強行します!』

フゥオンッ!   

とその場から掻き消える様に船体はワープへと突入した。

そして亜空間へとその身を躍らせた船体。 だが、

『!? 船体、その他安定しません!! 駄目だ、ワープアウトします!!』
突如スパークし、壊れてゆく計器。内部はアラームを告げる音と警告ランプが飛び交う。
もはや悲鳴にしかならない、しかし健気に報告をするエヌマ

通常空間に現れて先ず見えたのは、目の前一杯に広がる鬱蒼と生い茂る“何か”だった。
『!?』
「!?」
目の前に広がるものをいち早く認識したのは「人」だった。いや、「経験」だったのだろう。
青年は瞬時、操縦桿を握り目一杯上昇の方へ操る!。

ゴゴッ!!

船底が山にぶつかった衝撃が船内を襲うが、それだけで済んだ。
青年の瞬時の判断が無ければ山に正面から突っ込んでいただろう・・・。

「くっ、まさか本当に大気圏内に出るなんて・・・、エヌマ上昇出来るか!?」
『む、無理です、何故か至る所にダメージが出て・・高度も維持できません!!』
「周囲をサーチ! 辺りを壊さずに不時着出来る場所を探すんだ!」

その後、都合よく船体全身が身を隠せるような窪地に不時着することが出来たことが、
唯一の幸運だったのだろう。

「エヌマ、今の着陸で回りに与えた被害はあったか?」
『この船底が閉めてる面積以外周りに被害を与えた形跡は見られません』
「張り付いていた奴は周囲に居るか?」
『レーダーが完全ではないので絶対と言えませんが、見当たりません』
と矢継ぎ早のやり取りを交わし、
「ふ〜〜〜。 やっと一息つけるな、流石にもうヤバイ。少し休むから、エヌマ
も船体チェック後、重大な問題があったら叩き起こしてくれ」
『ラジャ』
「ここが夜で助かったな、もし昼とかだったら目立ったろうsy・・・」
と安心の為、気が抜けたのか青年は深い眠りに落ちるのだった。



その夜、その大陸で空からの落し物があったと噂が立った。

ハイデルベルク郊外の山奥で轟音と地揺れを観測したのだった・・・。


             *** 


「この人が依頼人のポーターさんだ」
と仮面を付けた男性が中年の男を紹介する。
仮面を付けていてもそれに何故か違和感を覚えさせない貫禄がある。
「それじゃ詳しく聞こうか」
と、ちょこなんと丸眼鏡をかけた優男風の男性が依頼主に促す。
「はい、実は・・・」
男性の話はこうだった。
今から七日ほど前の深夜に山奥で轟音とそして同時に地揺れを感じ、次の日に
その付近を探索すると今までは無かった場所に突然、洞窟が出来上がっていた。
村から有志を募り数名が洞窟へ赴いたが、三日たっても戻ってくることは無かった。
そして代表者が山から下りて来て付近の町で冒険者を募った所
「俺達に声が掛かったって所か」
「はい、『ユトレヒト隊』と言ったら私の村にもその御行名が伝わるほど有名ですし」
「あ〜ら、私たちも随分と有名になったものね〜」
と、金髪でグラマラスな体型をした誰が見ても美女としか言えない、普通ならばこんな
辺境には似つかわしくないはずの女性が、そのダラーとした雰囲気で見事に周囲に溶け込みながら
つぶやいた。
「私達それなりに修羅場くぐって来てますしね〜」
と、これまたこの場に似合わないはずの金髪のおさげの少女がメイド服を着込んでいる。
「でも、突然現れた洞窟の探索及び行方不明者捜索ならばレンジャーなどの方が確実でわ?」
と、隻眼の剣豪のいでたちの女性が尤もな意見を述べる。
「今から七日ほど前の深夜に『空から落し物が落ちた』という噂があるのだが、
お前達は知っているか?」 
仮面の男性、ロカルノの問いに眼鏡優男クラーク、金髪美女セシル、メイド少女キルケ、
隻眼侍女性クローディア、全員視線を逸らす。
「ふぅ、お前らも少しは情報を収集したらどうだ? まあ、いい。 依頼人の話した
通りの出来事が噂として結構飛び交っている。 そしてそれは地盤沈下の自然現象では
無く、W人工の、しかも空から何かを落として作ったりした物W では? という噂が立っている」
「それって『メテオストライク』か何かをそこに落としたってことですか?」
と魔術に詳しいキルケが疑問を投げる。
「そんなことできる幼女が一人、ピンポイントで思い当たるが・・・」
「いるわね、性悪なのが・・・」
とクラークがある都市の元魔女を示唆し、それに同意するセシル。
「あるいわ、何か召喚したのが空から落ちて洞窟を作ったのかもしれんな。」
と二人の意見を無視して憶測を述べるロカルノ
「ともあれ、自然現象の可能性が低いから我々に話が掛かったってことですね?」
と、取りまとめるようにクローディアが言う。
「そういうことだ」
とロカルノ。 まるでリーダーの様に振舞っているが、このパーティのリーダは
実は眼鏡優男のクラークだったりする。
「うしっ! 偶には普通の冒険者らしい仕事でもこなしますか!」
とパーティーリーダーであるクラークの一声の下、すぐさま全員準備へと掛かった。

彼らは普段は冒険者として生計を立てているのだが、W普通の冒険者らしいWやキルケの
W修羅場を潜って来たWという言葉は誇張ではなく、本当に W普通ではない冒険をW経験してきたのだ。
だからこそ外界との接触があまり無い山奥の隠村にすら彼らの名前は届くのだろう。

結局、現場に赴くのは話を聞いていた5人となり他の方々は(神父や盲目の少女、他)
留守番ということの、Wいつもどうりの面子W となった。

依頼主ポーターの案内の元、彼の村にたどり着いた一行。本日は一泊して、探索は
明日からにし、今日は情報収集ということになった。

が、村の様子はおかしかった。
陰村である為に静かなのは予想できるが、静か過ぎなのだ。
そう、まるで人々が誰一人居なくなったかのような静けさ。
さすがにポーターも訝しみ、知り合いの名前を呼びながら辺りを歩む。
そして一軒の家の裏に回ったポーターが声を上げた。

           ***

時は遡り、場所も変わって宇宙船のメインルーム。

青年が複雑な数式、図形、計算結果などが示されたデータを眺めている。
「しかし、未だに信じられないな。どのデータを見ても本星の物と起源が一致するなんて」
と、この星に不時着してから一度も外に出ずに、周りにある植物、鉱物、空気の成分分析を
しており、結果がW自分の本星と起源が一致するWと出た。つまり進化の過程が違っただけで
鏡に映したようにある一時期までこの星と自分の本星が同じ進化を辿っていたのだ。
ただ一つ違ったのが大気にW計測できないが、存在を確認できる未知のエネルギーがあるW
ということだった。
「さて、いつまでもデータと睨めっこして引きこもってるわけにもいかんよな・・・」
と青年『ジークヴァン・キ・ドウケ』は独り言をごちる。

彼はここまでの経緯を思い返してみた。

本星では“惑星探査官”という職についている彼。
本星の人工増加により新たに生み出された職だったが、今ではもう新しい植民星は必要ではなく
“冒険者”と呼ぶのが今では正しいであろう、という職である。
とある宙域を航行してると“惑星調査団”からの救難信号をキャッチしたのだ。
彼の船が一番近くを航行していたことから調査団を救助すべくその場所へと向ったのだ。
そう、彼が命からがら逃げ出す羽目になったあの星に。
その星は最近新たに発見された星であり原住生物の存在が確認されなかったのでテラフォーミング
を兼ねて調査団が派遣されていた。
だが、そこには全く未知の生物が存在していたのだ。地中深くに奴らの巣はあったのだろうか?。
ともかく調査団は奴らにより全滅・・・いや、巣の奥深くで W生かされていたW
彼らの体を苗所に利用していたのだった・・・。

更に特筆すべき特徴は個々の戦闘力の高さだろう。
ヴァンの就いてる職、惑星探査官は本星ではエリート中のエリートしかなれない職の一つである。
身体の最低条件は本星の2倍の重力のなかで通常戦闘が行える。5倍の重力のなかを2時間以上
歩くことができる等、戦闘技能が特に要求される職である。

調査団が調査していた惑星の重力は本星とほぼ同じ程度である。だのにヴァンは逃げ帰ることしか
出来なかったのだ。
それは奴らの装甲の異常な高さ。そしてその体液。体液は本星のW強酸Wと同じほど強力な物であった
いくら身体能力が高かろうと接近戦が出来なければ意味が無いという物。

「調査団からの救難信号のあと探査官まで消息不明となったら軍が動くだろうから奴らは殲滅出来る
だろうけど・・・」
ヴァンは難しい顔をして。
「俺の消息を辿ってこれるのかな・・・?」
彼の置かれてる状況は結構辛辣なものとなっている。
宇宙船は航行はおろか、飛ぶことすら出来ない状態になっている。
そして通信関係は外部へ通信するものは全て故障。
レーダも広域関係は全滅。
搭載している火器関係は内部侵入者用以外は全て仕様不可。
探査用、船外活動用の乗物もエネルギー不足状態。
まとも稼動しているのは生命維持・生活関係、
それと何故か物質転送装置(短距離)という一番デリケートなやつは使用可能だったりする。
とりあえず外界と連絡手段が何一つ無く、現状は発見して貰うしかないのだ。
ナノマシンは動いているので時間をかければどうにかなるが、それは何ヶ月かかるか・・・。

「とりあえず今出来るのはこの星の調査しかないよなぁ〜」
と結論を出した。

するとメインルームに一人の少女が入ってきた。
「ただいまもどりました」
「ご苦労さん、エヌマ」
「いえ、ご苦労だなんて・・。本日の、私の動ける範囲では新しいサンプルは手に入りませんでした」
と少女は照れたような、そして申し訳ないような表情をして主に報告をする。
「いや、実際エヌマはよくやってるよ」
「そんな、ヴァン・・」
と今度は嬉しそうな表情を浮かべる少女。 

“エヌマ” 本来はヴァンの宇宙船のマザーコンピュータである。が、船外活動やナノマシン
で追いつかない船体の補修・修繕、そして搭乗者のコミュニケーションを円滑にする目的で
搭載されているW遠隔端末Wを総じて“エヌマ”と呼称している。
通常はこの端末をメインとして航行しているのである。

ただ、別に全部がW少女型端末Wではなく、姿はマザーコンピュータがランダム決定か、
W搭乗者の趣味Wで決定されている。エヌマの姿を決定したのは・・・まぁ置いておこう。

「さて、今度は俺が船外活動としゃれ込むかね」
「そんな、謎のエネルギーが人体にどのような弊害を与えるか判明してない今、
船外へ出るのは危険です!」
「そうは言ってもお天道さんが見えるとこで一週間も引きこもってると流石に外が恋しくて
なぁ〜。それに、エヌマは何度も外に出てるが異常は無いし、エヌマだと索敵範囲が
決まっちゃってるからこれ以上の進展は望めないからな。」
「ですが・・・」
「何、大丈夫だって。この星は何から何まで基礎が本星と全く同質だからな」
実は、植物や空気だけでなく、時間まで本星と寸分の狂いも無いのが判明している。
「おまけに宇宙船のこの“都合のいい故障”はありえないだろ?」
宇宙船の故障・・・W人が惑星を探査するのには差し支えない程度Wは見事に生きているのだ
そしてエヌマはこの事実をWこの世界に呼び込まれたWという結論を出している。
「呼んでおいてまさか缶詰ってことはないだろ?」 といささか強引な結論ではあったが、

ヴァンの言うとおり外へ出ても健康に何の変化は見られなかった。

「さて、と云う訳で今度は俺が情報収集してくるわ。この付近に集落とかは
有りそうになかったか? てか、人の居ない惑星ではあるまいて・・・」
「すみません、広域レーダーが使えないので判りません・・・ 
ですが半径10K圏内に集落はおろか、知的生物の生活の痕跡は見られませんでした。」

「最低10キロ以上は山歩きかぁ・・」
げんなりしてつぶやく
「ですから準備は万全ですか?。それと此れも常備して下さい」
とバイザーらしき物とそれの付属品らしきものを手渡すエヌマ
「持っては行くけど、俺が呼び出さない限りメインは移すなよ」
「え!? 何故です!?」
「エヌマには船の修理に集中して貰いたい。俺の方にも機能を移すなんて余計なエネルギーの消費は
なるたけ避けたい。」
「しかし、いかなる危険があるか分からないのですから・・・」
「俺を信じろって、そうそう危険な目には遭わないさ。 その代り何かあったら直に呼び出すけどな!」
「解りました。ヴァン」
「ああ、船は任せたぞ! エヌマ」

そして青年は山を下って行ったのだった。

               ・

「ふぃ〜〜結構歩いたな・・。」
林立する木々を掻き分けながら呟く
軽く見積もりの倍は既に歩いている。お蔭で数度野宿もしている。
目の前に鬱蒼と茂る草木を掻き分ける
するとふいに視界は開けた。
足は地面ではなく空を切る。
そこは切立った崖であった。
「!? !?」
ヴァンは見事にバランスを崩し、崖を、引力の、働くままに。
真っ逆さまに落ちるかと思われたが、腰のベルトにクランクされてる「ワイヤー・ガン」
を素早く手に取り上空に向って撃つ!。
ワイヤーは木にうまく絡みつき事なきを得たのだった。
「っふぅ〜。 寿命が縮んだ・・・」
一息付き、眼下を見渡してみる。すると前方の方に集落らしき物が見える。
急ぎ、開いてる方の手でバイザーを操作し、
「エヌマ、聞こえるか?」
『はい。どうしました、ヴァン?』
「前方を視てくれ、集落らしき物が見えるだろ?」
メインが移る一瞬のタイムラグの後、
『・・・・・・・ええ、どうやら知的生命体の集落のようです。大きさから行って
我々と体のサイズは変わらないかもしれません』
望遠機能などを駆使し、なるたけ詳しい情報を伝えようとするエヌマ。
「人が住んでそうってのは予想済みだからな〜」
山に住んでる人が居てほっとしたっと思った矢先エヌマから思わぬ報告が
『家屋の数に比べて生体反応がやけに少ないです。それと・・・うん?なんだろ?これ』
「どうした?些細なことでも構わん、気になることは教えてくれ」
『はい。やけに小さいけど WおかしなW生体反応があります』
「おかしい?」
『人の生体反応では・・いえ、今にも亡くなろうとしてる人なのかな? ともかく規定外の反応です』
「ともかく気になるからあの集落を観察してみないとな。近くになったら又呼び出すから、
今は手に入ったデータを吟味しといてくれ」
『ラジャ!』
静かに地面に着地したヴァンは、辺りに人がいないか気を配りながら集落の方へと近づいて行くのだった。



             ***

話はクラーク一行へと戻そう。

静かな村に響いた声は依頼主ポーターが知り合いの名を叫んだ声だった。
その声の場所にたどり着いたクラーク達は一人の横たわった男性を抱え、揺り動かすポータの姿を見た。
「どうした!?」
クラークの問いに
「私の友人なんです! 返事をしないのですよ!」
とその男性から目を逸らさずに動揺し、男性を揺り動かしながら言う 
見える男性の顔は既に土気色であり死亡してから数日が経っているのが判る。
「ポーターさん・・・」
シスターであるキルケがその男性を弔う為近づこうとすると

突如、男性の腹が蠢きだした。

その変化に気付いたクラーク、
キルケを引き戻し
「!?、 ポーターさん! 何かヤバイ そこから離れて」
叫ぶが、ポーターはよく聞こえなかったようで
「え? 何ですか? ・・ぁ、うわぁry!?」
男性の腹を突き破って出てきたW何かWはポーター口から体内へと侵入していった。
ビクンビクンと病的に震えてからポーターは俯いた姿勢のまま微動だにしないのだった。
しばし、辺りに沈黙が訪れる。
その沈黙を壊したのはポーターだった。 不意に彼は立ち上がったのだ。
だがそのポーターを見て安心した者はいなかった。
ポーターのその口から先ほど侵入した物なのか、細長いミミズの化け物のような物が
牙を剥き威嚇するように眼前にもたげていたのだから。そしてポーターの瞳に意思は見られない。
「くっ、何なんだよ此れは!?」
キルケを庇う格好になった為、その不気味な物と対峙しクラークが叫ぶ。

GAAAAA!

言葉にならぬ雄叫びを上げポーターが目の前のクラークへと襲い掛かる。
見た目は変わってしまったが所詮は素人の動き。クラークは難なく回避するが、
ポーターが見た目では操られてるのかどうなのかが判らない為に手が出せず
「ロカルノ! 此れは一体何か解るか? ポーターさんは無事なのか!?」
進展に埒が開かなくなりクラークがロカルノに尋ねる。
「私にも解らん! “ローパー”の亜種なのか、ともかく見たことがないタイプだ!」
クラークの質問に答えが出せず、とりあえずの予想の範囲で答えるロカルノ。
そして相手も埒が開かないと思ったのか、突然動きを止めるポーター。
「んっ、何だ・・?」
その動作に油断無く見据えるクラーク達。 と、そこへ
「めんどくさいから凍らせるってのはどう?」
と自分の獲物「氷狼刹」をかざして言うセシル。
「やめんか!」「やめておけ」
クラーク&ロカルノが同時にツッコミを入れた。
と、その一瞬の隙を逃さないかのようにポーターに取り付いていた物は動いた。
その本体が、ポーターから飛び出したのだ。
ポーターの口から出ていたミミズの様に見えたのは尻尾だったのか。その後には海老や蟹を彷彿させる
姿をしたのが続いていたのだ。
飛び出したそれはクラークの顔面へと張り付くコースを飛んでいた。

「!?」

{あぶない!}

ビジュゥッ!


咄嗟に反応し、余裕で回避していたクラークの眼前で突然、ソレは燃えたのだった。


             ***

村の入り口が見え、エヌマを呼び出し、辺りを慎重に窺いながら村の入り口へと近づくヴァン
村に入った途端、人の叫び声みたいのを聞いたのだった。と、同時にエヌマから緊急通信が入る。
『ヴァン、大変です! そのWおかしなW生体反応が生きてる人に入り込みました!』
「何だって!?」
声のした方へ駆けながら問う。
『そして侵入された人の生体反応が急激に低下、既に生きてるとは言えない状態です。』
「ちっ! 一体何なんだ? これがこの星の常識か!? それとも異常なのか!?」
『・・・たぶん異常です。その騒動の原因はおそらく―』
とエヌマの報告をヴァンは強引に止めさせた。
その、取付かれた者とそれに対峙する男女5人組の姿を確認できたからだ。
物陰になっており、丁度ヴァンの位置は向こうの一行から見難い位置を確保できた。
と、取付かれてる者が5人組の一人の男性に襲い掛かっていた。
だが、その襲い掛かる者の緩慢な動きに対して回避し続ける男の動きは只者でないことがヴァンには解った。
(あの男、出来るな・・素の俺より強いかも)
などと緊張感のないことを考える。いや、そう余裕を持たせてしまうほどに男の動きは滑らかだった。
『ヴァン、視て下さい!W入り込んだ物Wが動こうとしています!』
言われ、慌ててバイザーをおろす。
取付かれた者は殆ど生体反応は残っていなかった。ただ、“生きているだけ”だった。
そしてそのWおかしな物Wは現在の宿主を捨て、目の前の男を新たな宿主へと・・・
「!!」
ヴァンは瞬時そのWおかしな物Wの行動を悟り、
「あぶない!」 
叫び、ブラスターガンをWソレWへと抜き撃った。

               ・

ビジュゥゥゥ!

クラークへと襲い掛かろうとしたが余裕でかわされ、そして突然燃えて消し炭へと変貌していく化物。
クラークはその化物を消し炭にした者の方を見てみる。
その者は手に見慣れぬ物を持っており、そして頭には「奇抜なサングラス」みたいなのを着けてる。
服装は王都で見かける事が出来るようなシャツやズボンとラフな格好。間違いなくこの村の者でないのは解る。
いや、それどころか“冒険者の様な格好”でもないのだ。とても山歩きの格好ではない。
その男は暫し逡巡したような素振りのあと、手に持っていたのを腰のサイドポケットか何かに入れ、
敵意が無いことを示すかのように両手を中途半端な万歳の格好で近づいてくる。

相手が近づいて来るにつれ詳細が判るようになってくる。
その男が頭に着けているのは目元を色の入ったガラスで覆うような眼鏡のような物、仮面に分類されるのか?
とクラークが思った矢先
「むっ・・」
と仮面貴公子のロカルノが相手の着けてる物に興味を持った模様。
話は戻して、その男は意外に若いようで20代前半位か。表情は緊張してるのか硬い笑顔を貼り付けている。
そしてある程度の距離、お互いが視認できる距離まで来ると立ち止まった。

(やっべーな、咄嗟に手を出しちまった。現地住民と接触は禁止されてるのに・・・。しかも助けたつもり
だったけど、全然余計なお世話だったし。まぁこの俺の営業スマイルのお蔭で警戒はされてもいきなり
襲い掛かってくるなんて事態には起こらないからOKか)と散々エヌマに止められてる自慢の
“ふれんどりースマイル ※ヴァン命名” が相手の警戒を緩めてると本気で思いながら・・・  

(とりあえず、あちらさんは今のとこ事を構える気はないようだな・・。)
と、クラークは今回の事件の犯人では?との疑いを込め警戒を緩めてはいなかった。
もちろんその相手の怪しい笑顔が疑惑を深めてることは否めない。

{怪我はなかったかい?} とヴァンは問い
〔あんたが仕組んだことかい?〕とクラークは核心をいきなり問う

{え?} 
〔は?〕
お互い何を言ったか理解できなかった模様

「?」、「??」 
クラークとヴァンのやり取りを聞いていたロカルノ達も同様のようだ。

(あ〜〜やっぱり言葉通じなかったかーー。)
「エルマ、彼らのイントネーション、言葉尻、表情から該当しそうな言語を抽出、同時にそれらで
翻訳作業もしてくれ」
『ラジャ』
{君達はこの村の住人なのかい?} とヴァンは通じないの覚悟のうえでとりあえず話しかける。

〔ちょ、ちょっと待ってくれ、何を言ってるのか解らない〕
といきなり独り言を話したかと思えば急に語りかけてくるその男にとまどい、クラークやキルケに
助けを請うように「ロカルノ、何を言ってるか解るか?」「残念だが解りかねる」
「キルケ、古代語か何かじゃないのか?」「う〜ん私の知る範囲では知らない言語ですね・・」
と二人ともチンプンカンプンなようだ。
(どういうつもりだ? もし、俺達を騙すとしたらここまで手の込んだ芝居をする必要があるのか?
それとも本当に通じないのか? ・・衣装はともかくあの仮面モドキは見たことはない・・か。)
思案にくれるクラーク。
(うーん、適当に話しかけても進展あるきゃねーよなー)
とヴァンは一思案の後、
(!おっ) 何か閃いたようで
{まいねーむいず ヴァン}{俺はヴァンだ}{あたし〜ヴァンよーん♪}
と彼の知る自己紹介の言語を幾つか話しながら自分を指差しながら『ヴァン』という単語を強調してみた。

〔なんか益々変な事言ってるわよ?〕とセシルが指摘するが、
〔むっ〕〔あれ?〕 ロカルノとキルケがある一つの単語とその青年が自分を指差してることから
「どうやら彼の名前は『ヴァン』のようだな」「みたいですね」とロカルノとキルケが言う。
「な、なんで解ったの?」と不思議そうにセシルに見て解れとニュアンスを含んだ視線を送る仲間達
不満をぶーたれそうなセシルを差し置き、〔俺はクラーク、コイツがロカルノ・・・〕
とクラークが自己紹介を始めた。
「俺はヴァン」{惑星※△○×・・・・・}
とヴァンは彼らの言葉と自分の母国語で改めて自己紹介をした。既にエヌマにはリアルタイム翻訳をさせていた。
だがそんな事実は知らないクラーク達にとっては
「今、少しだけ私達の言葉になりましたね?」
「うむ、どうやら我々の話してる言葉を覚え、そして試しているというところか」
「それってすごく頭が良いってこと!?」
「そうなりますね・・」
とヴァンが頭が凄く良いのではないかと勘違いしてしまう。
だが、結果的にはその勘違いが功を奏し、クラーク達が基本的な言葉などを仲間内で、ヴァンに向って
話すことにより、半時も経たずにしてヴァンはクラーク達と一般的な会話をすることが出来るようになった。

ヴァンはクラーク達からこの村へ来た目的、空からの落下物の事を
クラークはヴァンは地質調査(本当の事は言えない為)でこの村へ来たとお互い素性と、目的を語った。
「ふむ、これでお互いの情報ではこの村を滅ぼした物の住みか、つまり“天からの落し物”の
場所は解らず仕舞いか・・・」
そのロカルノの言葉どうり、彼らの依頼主であるポーターが亡くなってしまった為に目的地が分からなくなって
しまっているのだ。それは同時に彼らは依頼を果たしても当初の報酬は手に入らない事を意味している。
だから別にここで放棄しても誰も文句は言わないのだが、彼らは『ここまで係わった手前』とそれだけの理由で
この事件の解決に乗り出しているのだ(若干一名は不満を表現していたが)

そしてヴァンはクラーク達が係わってくるのは心苦しかった。
それはエヌマの報告で、先ほどヴァンが打ち落としたのは(ポーターを殺害した生物)彼らの宇宙船に
取り付いた奴らと99%同じ種類(の幼体形態)だろうということを聞いていたからだ。
(原住民と接触はおろか俺達の所為で事件が起きたとなっちゃ、始末書で済まないよなぁ・・・)
ヴァンにとってはせめて原因を作った自分達で片付けたいのだった。それはせめてもの罪滅ぼしの意味も込めて
「クラークさん、くどいようだけどその依頼を続けるのかい?」
「元々受けてた依頼だしな。それよかヴァン、お前の方こそ危ないから辞めた方がいいんじゃないかい? 
いくら強い武器があるとはいえ・・・って」クラークははっと気付き
「ヴァン! その武器って、えーと・・たしか“銃”ってやつじゃないのか!?」
そのクラークの問いには驚いた。彼らの服装、装備を見てる限りでは“銃”という単語が出てくるとは到底
思えなかったからだ。
「!? えっ く、クラークさんは“銃”を知ってるので!?」
「ああ、知り合いの鍛冶屋が持ってるからな。たしか、古代兵器なんだろ?それって」
「こ、古代へいき〜!?」と素っ頓狂な声を上げたヴァンだが、(あ、そうか! この世界って一度文明が
滅びたか何かしたんだな?)と勘付き。
「え?、ええ。そうそう、そうなんですよ。」
「だけど、『リュート』の物とは形も長さも違うんだな〜。なぁ、ロカルノ?」
「そうだな、『ミュン』さんの物は元々あったのをあの人がカスタマイズして、今はリュートが受け継いだ
ものだしな・・・」とロカルノは懐かしんだが、
「それよりヴァン。君のその目元に掛けてる物は“古代の仮面”か何かかね?」
ものすごく興味深そうに聞いてくる仮面紳士にヴァンは少し引きながら、
「いや、これは情報を収集する為の物でして・・・残念ながら仮面ではありません」
「そう・・か」 甚く残念そうな仮面紳士。
「クラークさん達とは暫くご一緒することですし、隠し事してても仕方ないので、俺のパートナーを紹介します」
声だけですが と付け加えエヌマと通信をする。
そして一通り紹介が終わった後、『“念話とか魔道具”みたいなものですね。』
との意見にまたしても驚いたヴァン。
(こ、この世界意外になんでもアリか?)と

そうこうしている内に日は沈み、皆交代で休息をとる事となった。



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