終話  「君と歩く未来」


悪魔の像があった広間からさらに奥へ通じる一本の通路に出る・・。
相変わらず細い通路だが、そこには倒れている数人の男
服装からしてアサシン・・、組織の人間と考えられる
「あの広間からここへは一本道・・、私はずっとあそこにいたけど、ほんと何時の間に・・?」
姿を見せない協力者に気味の悪ささえ感じるシャン・・
「あの仮面の人か・・、ほんと、神出鬼没ってやつだね。敵じゃなくてよかった」
「安心しないで。まだその男が味方って決まったわけじゃないでしょう?」
「心配性だな〜、シャンは」
「慎重っていうのよ、こういうのは。いくら手助けをしてくれていると言っても怪しいじゃない」
そんなやりとりをしつつも奥に進む二人・・。
所々組織の人間が倒れており、もはや敵はいない状態なので
意外とすんなり進める・・
やがて突き当たりに大きな扉が・・
「・・中から人の気配・・、準備はいい・・?リュート」
「いつでも・・、これで終わるんだね・・」
「うん・・、じゃあ・・」
「「せ〜の!!」」
勢い良く扉を蹴り開ける二人!!
扉は力強く開き中の光景が視界に飛び込む・・


「・・あらっ?意外に早かったのね・・」
思ったよりも質素な作りの書庫・・。かび臭い本棚の前で倒れる中年男性に
それを踏みつけている一人の金髪の女性
中年男性はうつぶせなのでよく見えないが女性は
腰まで届くくらい長い金髪で青色の戦闘用のスーツに軽い白銀の鎧を纏っている
そして手には大型のディフェンダーが・・。
剣身の中央に蒼色の輝石が埋め込まれておりさらにその周りをルーンが刻まれている・・。
魔剣と見るのが妥当だろう
「あなたが組織のボスね!!?」
「組織?ボス・・?ああっ、このおっさんのことね。ついさっきくたばったわよ?」
あっけらかんと応える女性・・
「・・、何時の間に・・」
「ま〜ったく!うざったい統率システムなんかして姑息なことをしたけど、所詮は小物ね。
ごめんなさいね、貴方達の獲物を横取りしちゃって・・」
「はぁ・・、いや・・」
今までシャンの後に隠れて見えなかったリュートが拍子抜けた感じで言う
「!!!!も・・・」
「??どうしたのですか・・?」
「萌えるじゃない!!そこの少年!!お姉さんとイイ事しましょ!!」
いきなり危ない発言を放つ女性
「・・なんかこの人・・、危なくない?」
「そ・・、そうね・・」
「いいから!大人しくすればいたくはしないわ〜♪・・・・それ!!」
ディフェンダーを地面に突き刺す!
っと同時にリュートの足元まで走る氷の網
「うわっ!氷が・・!」
咄嗟に飛びのきなんとか回避・・
リュートがいた場所は氷付けに・・・
「この人・・、本気だ!」
「・・話しても・・無理そうね・・。しょうがないけど、いくわよ!リュート!」
組織とは無関係そうな人間だが襲いかかるのは誰であれ敵、仕方なくカラミティテラーを
振りかざし特攻するシャン・・
「死なない程度に・・!!」
金髪の女性は飛びかかるシャンを、避けようともせず見る
「・・はぁ、その腕でよく今まで生き残れたわね」
ため息ひとつついて金髪女性が軽く剣を振る・・

キィン!!

「嘘・・」
シャンの目の前に氷の壁が突如現れ鎌の攻撃を見事受け止めた
「!・・良く見ると貴方もなかなか可愛いじゃない・・、
そこの少年と一緒にイイ事するのも悪くないわね・・」
「なっ、何馬鹿な事を・・・!リュート!!」
「わかっている!!」
女性がシャンにかまっている隙をつきリュートが自慢の二丁拳銃で狙撃!
「・・・「てっぽう」ってやつね・・、早いけど・・!!」
上半身がわずかに動いたかと思うと
女性の手には銃の弾丸が・・・
「ええ!!銃の弾を掴んだ!!?」
「今私、最高に萌えているの♪このくらいは出来てよ!!」
グニャッと金属の弾を握り潰す女性・・、もはや人間とは思えない・・
その隙にシャンが距離を空けリュートと合流・・
「どうする?通常弾で効かないなら魔光弾でもたぶん・・」
「こうなったら・・、リュート・・」
「わかった・・シャン・・」
うなずき合う二人、もはや以心伝心のようだ
「「逃げるしかない!!」」
一斉に入ってきた扉に駆け込む!
「・・・あらら、逃げる気・・?この私から一瞬でも逃げれると思うなんて・・ね」
呆れたように笑い後を駆け出す女性・・
人知を超えた何かからの逃亡が始まった・・




悪魔の広間を抜け必死に出口に向かう二人
「はぁはぁ・・、すっ、少しは距離が離れてきたかな・・」
息を切らしながらリュート
傷が開いているようで顔色が悪い
「・・後を見たらわかるわ・・」
「後・・、うわっ!!」
走りながら後方を見ると氷の波がまるで意思があるかの如く
自分達に向かって疾走している・・

「URYYYYYYYYYYYY!!!」

その中心には変な叫び声を上げるあの悪魔が・・
その眼光は鋭くリュートを見据えている
「あれに少しでも触れたら氷付くわ・・、急いで!!」
「うっ・・、うん!!」
ともあれ、全力で走る二人・・
その前に突如天上から降りてくる氷の隔壁
「げっ!隔壁!?シャン!!」
「わかってる!てぇい!!!」
急いでシャンが氷のシャッターを破壊する!
そうこうしているまにも後には氷の波が・・
ある程度近づいた時点で波から氷の手が現れ襲ってくる
「何なんだよ!これ!」
「私にだってわからないわよ!!ともかく・・・え・・」
後の氷の手に気を取られて気づかなかったが前方の通路が何枚もの氷の隔壁が
降りていく・・
「こんだけの壁を壊すなんて・・、リュート、お願い!」
「わかった!最後の一発!!」
渾身の力でブリューナクの最後の一発を発射・・!!

轟!!!

光は氷の隔壁を全て溶かし一気に出口の明かりを見せる・・
「見えた!もうすぐだよ!シャン!!」
「ええっ、外に出たらもう大丈夫!!」
地獄の逃走劇も終わりと感じ日の明かり満ちる外へ・・・
しかしリュートが出口にさしかかった瞬間!!

ボコ!!

地面から手が・・
「うっ、うわ!!」
見事にリュートの足を掴み力強く引っ張る
「リュート!!」
「おほほほ!!ご苦労様♪やっぱり出口が見えた瞬間、油断したわね・・」
地面から元気良く出てきたのは例の金髪女性・・
何故そこにいたのか、どうやって入ったのかは全くの謎・・
「リュートを離しなさい!!変態女!!」
相方を助けようと必死になるシャン
「や〜よ!これから楽しみだってのに・・、ねぇ。少年♪」
そう言いにやけながらリュートの頬を舐める
「わ・・私のリュートを離せ!!」
決死の覚悟で突っ込む!
「シャン!きちゃ駄目だ!!」
シャンの腕では抵抗できないのは目に見えている
「リュート!今助けるわ!」
「ほほほ♪元気ねぇ・・」
飛びこんでくるシャンを迎え撃とうとするが・・

ゴン!!!

不意に後から女性が殴られる
「・・・・何をやっているんだ、お前は・・」
見れば遺跡中でリュートを助けた仮面の青年が・・
「ロ、ロカルノさん・・、あ〜、この少年が〜、転んだから助け起こそうと・・」
突然しおらしくしどろもどろに説明する金髪女性
「お前は子供を助け起こすのに足掴んで宙吊りにするのか・・?」
「う゛・・」
「ともあれ、大人しく降ろせ。・・・大丈夫か?少年・・」
「は、はい・・、なんとか・・。」
「すまんな。こいつは獣人の少年少女を見ると襲いたくなる病気なんだ・・」
「病気ですむ問題じゃないわ!こっちは死ぬ思いだったんだから!!」
「まぁ、非礼は詫びよう。その代わり私も君の手助けをしたから
それで帳消しというのはどうかな?」
「手助け・・ってあの広間の銃・・貴方が?」
「ああっ、なるべく裏方に徹したかったのだがこうなっては仕方ない・・」
「なんで僕達を助けてくれたのですか?」
「まっ、説明しよう・・。セシル、お前はそこに座っていろ、後で罰だ」
「あう・・」
あれほどの脅威だった女性・・セシルをいとも簡単にてなづけ
ロカルノと呼ばれた仮面の男は事情を話し出した
・・・・・・・・
・・・・・
・・

「・・・あのセイレーズさんからの依頼だったの」
「ああっ、そういうことだ。あの人は君達を心配していたからな。
見つからないように手を貸してくれと言われたのだ」
「っということはロカルノさんはセイレーズさんの部下ですか?」
「・・・・・まっ、そんな所だな。私個人としてもブリューナクを扱う少年に興味がわいてな・・。
私が君達の手助けをしてセシルがボスを倒す予定だったが・・、
君達が意外に早くボスのところに辿りついてしまい
セシルと接触したのがいけなかったか・・」
「ぶー、それが困るなら最初っから私を誘わなければいいじゃない!!」
両手両足を拘束されたセシルさんが反論する
「私がいなければまたお前は悪さをするだろう、
危険なものほど目の前に置いておくに越したことはない」
「「・・なるほど」」
「納得するな!ガキども!!」
「とにかく、これで組織は壊滅だ。組織の詳細もここの資料で把握した。
知り合いに騎士団長がいるからそこへ渡し一気に殲滅に乗り出すだろう・・。
君はもう自由だ・・シャン」
「で・・・でも、貴方達どうやって私達以上に・・」
「ああっ、この遺跡前にも私が来た事あるのよ。この遺跡、岩山の向こう側に通じていてね。
私達はそっちから入ってきたってわけ。」
「貴方は・・一体・・?」
「私?私はセシル=ローズ、見ての通りの美人」
「!!!」
『セシル=ローズ』の言葉に顔が硬直するシャン
「・・知っているの?」
「知っているも何も!『DDD』指定の女騎士よ!」
「とりぷるでぃー?」
「組織の中で定められた超S級の危険人物。
例え任務中だろうとそれに接触するならば生還を
第一にすることが決められていたの・・」
「つまり、どえらくヤバイ人か・・、なるほど・・」
「ふっ、大した評価だな、セシル」
これにはロカルノも微笑・・
「こんなかよわき子羊に何て事してんのよ!小娘!!」
「・・リュート・・、よく私達生きて帰れたわね・・」
そんなセシルの発言を完全無視し、改めて奇跡の生還を称える二人・・
「ロカルノさんありがとうございます、手を貸して頂いて」
「なに、気にする事はない。・・でっ、君はどうするんだ?
このままさっき言っていた鉱石勉強の旅に出るのか?」
「いえっ、一旦は師匠の所に戻ろうかと・・。
あのゴルディオンから失敬した鉱石やセイレーズさんからもらった、
このブリューナク用の弾も気になりますし・・」
懐から銀で装飾された一発の弾丸を取り出す
「!!・・これは・・フラムタスクの弾丸?」
ロカルノが驚いて応える
「フッ、フラムタスクって!あの歴史書に出てくる『破壊魔石』ですか!?」
「・・ああっ、錬金術師ミュンがそれを復元させて超爆発を何度も起こしたからな・・。
なるほど、切り札としてコレを渡したか・・」
「貴方はどうしてフラムタスクの事を・・?」
詳しい勉強をしなければ到底わからない知識を事も無げに言うロカルノに驚くリュート
「・・・ふっ、私は彼女の『息子』・・だからな・・」
「「えっ・・?」」
「さっ、私はこれで失礼。セシル、行くぞ?」
唖然とする二人を置いておいてセシルを担ぎ立ち去る

・・・・・・

「あの人・・、不思議な人ね・・。」
「・・・あっ、ああ・・。それじゃあ僕達も行こうか」
「行くって君の師匠の所?」
「そうだよ。このまま旅を続けてもいいけど・・、1度工房に戻って色々考えたいから・・ね」
「・・そう・・、でも・・」
「もちろん、シャンも一緒だよ♪」
「・・リュート・・、いいの・・?」
「もちろん!師匠には僕から説明するしさ!!今更ここでお別れなんて・・、寂しいだろ?」
「・・ありがと・・」
「ああっ、じゃあこれはもう入らないよね・・」
そういい首につけた骸骨の首飾りを取る
「ああっ、これ・・。組織の一員を表すものだったから・・」
「じゃあ・・、こんなもの捨ててしまおう♪」
そう言いリュートは首飾りを遺跡に向かって投げた・・
「・・もう、おせっかいなんだから・・」
「わかっているだろ?さっ、工房に戻って・・、その鎌の詳しい研究を・・!」
「・・まだ諦めていなかったの・・?」
「冗談だよ、とりあえず・・、君とゆっくり暮したいな・・」
そう言いシャンの手を優しくにぎるリュート・・
「・・うん・・」
シャンもそれを握り返しゆっくりと林の中を歩き出した・・・






数ヶ月後
いつもの様に工房で剣を打つリュート
「ふむっ、腕を上げたな・・。」
隣で完成間近な剣を見てミョルキル師匠が唸る
「はははっ、やっぱり外へ出て勉強したのが正解ですかね?」
「・・ふん、勉強に出た割にはシャンを連れかえってきたようだがな・・、何の勉強しに行った?」
「し・・、師匠・・。それは成り行きで・・」
「言い訳がいい。お前も盛りがついてきたようだ・・」
小ばかにしたように笑うミョルキル
「師匠〜、リュート〜!お茶が入ったわよ!」
今からシャンの声が・・
「・・少し休憩するか」
「はい」

居間には町娘姿のシャンが・・、以前はボサボサだった黒髪も綺麗に伸ばし
幸せ一杯に微笑んでいる
「も〜、リュート!また顔が煤だらけよ!ちゃんと顔洗うまでおあずけ!」
「ごっ、ごめん・・、洗ってくるよ!!」
急いで顔を洗いに走るリュート・・
「・・シャン・・、・・・・幸せか?」
シャンの顔をマジマジと見ながらミョルキルが聞く
「?・・・はい、とても!」
ミョルキルの声に笑顔で応えるシャン
それは太陽の様に眩しいものだった・・


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