終章  「別離」


アームテージの一角
高官達の住まいとして隔離されるが如く豪勢な壁がそびえる・・
そして唯一の入り口と思われる巨大な鉄門

轟!!!!!!


その門へ対しブリューナクの魔光弾が打ち貫く!
流石は「破壊天女」が造りし最凶兵器。
大の大人数人集まっても開けるのは難しい門に軽々と穴を空ける・・
「ふっ、流石だな・・」
「まぁ、風穴空けるだけの物じゃないんだけどね〜。さっ、いきましょう!」
常用手段な為に全く驚きもしないが盗賊のわりには大胆な入り方をするので
ロカルノにとっては驚きのようだ・・
「何をしている?ロカルノ。驚いてばかりだと出番がなくなるぞ?」
「はっ、はい・・!」
たくましき二人の後を追い、
ロカルノは黒幕が潜まれていると思われる地へと足を踏み入れた

・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
門をかいくぐると壁に沿うように建てられる巨大な宮殿のような建物が3つほど・・。
中央には絢爛豪華というべきか、
素晴らしい彩色が施された噴水がどの建物も純白に塗装されており、
正しく「尊き者の居城」と呼ぶに相応しい物だ
「まっ、門の先は別世界だった・・ってことね」
「ふん、血税で建てられた下らん積み木だ。それよりも、準備万端と言った感じだな?」
建物の影から一斉に姿を現す弓兵、さらには剣を持った騎士
どれも同じ薔薇と十字架の紋章を胸につけている
「・・・、正規のダンケルク兵ではないです、セイレーズさん」
「・・だろうな。大方、テルミドールの私設騎士団というところか・・。わかっているな、ミュン?」
「モチおっけ〜♪さぁ、私達はここまで。派手に暴れて引きつけておくからケリをつけてきなさい!」
そういいながら早速ブリューナクの実弾を撃ちまくるミュン
乱暴に撃っているようで的確に弓兵を撃ちぬいている
「俺が・・・」
「そうだ、今日まで俺が教えた全てを活かせ、お前ならできる」
そういいながら漆黒のマントをはためかせ
熱線真空刃で弓兵が放つ矢ごと消滅させる
「わかりました、この場はお任せします!」
そう言い、銀髪の青年は襲いかかる騎士達をなぎ払い建物の中へ消えて行った・・・


宮殿内
所々に薔薇十字の騎士が警戒に当たっているが
そこは怪盗セイレーズに鍛えられただけあってロカルノは事もなく倒していく
『戦女』を巧みに扱い道を切り開くその姿は雄々しく、歴戦の戦士の風格を表している
「・・・、奴は・・どこだ・・?」
勘で広間を目指すロカルノ
広間からはブリューナクの銃声とネェルブライトの真空刃が空を裂く音、
そしてそれに倒れる兵士の悲鳴が響いた

「さぁさぁさぁ!!!腕に覚えがあるのならこのミュン様の前に出てきなさい!
蜂の巣にしてあげる!!!!」

銃声に負けないくらいの大声でさえぶミュン
陽動にはもってこいなのだが・・・
「・・・・・、元気な人だ」
思わず微笑んでしまうのは頼りがいがあるからか・・?
ともかく、彼女達に任せてテルミドールを探すロカルノ
錬金灯が淡く輝く回廊を照らしている
どこの扉もしっかりしてられているが・・・

キィ・・

一つの扉がまるでロカルノを招くように開いている・・
「・・・・・・・・」
直感的に何かを感じて無言のままその部屋に入る
・・・・
部屋の中は小綺麗な書籍となっておりかなりの規模だ。
突き当りまではかなりの距離があるがそれを見ることはできない
「自分から来るとは、思ったよりも愚かな王子ですな」
十数人の騎士に囲まれるように立つ法衣姿の中年男性
黒い布に縁が銀で装飾された豪華な法衣であり、体格はひょろりと蛇の様・・
オールバックにした黒髪と頬がこけているのが特徴で瞳には欲におぼれた
堕落者の光を放っている
「お前が宰相テルミドールだな・・」
「憶えておいでとは光栄、態々こんなむさくるしいところにきていただき恐縮です、ローディス王子」
「・・その名は捨てた」
「貴方が捨てても周りはそうもいきませんよ。
その身体にカルディーノ家の血が流れている以上、
ダンケルクにローディスという男の名がいた記録がある限り貴方はローディス王子なのです」
「周りがどう思おうと関係ない・・、俺に何の用だ?」
「私はあなたに王になってもらいたいのですよ。現王の暴走はよくご存知のはず・・」
「その暴走の手助けをしたお前が言えたことか?」
「私は世界の情勢を伝えたまで。決して王が暴走するのを望んでいるわけではありません」
「それはお前の勝手な言い草だ・・」
テルミドールを見つめ「戦女」を構える
「なんとでも言ってください。ともかく、少し痛い目にあってから洗脳させてもらいますよ」

パチン!

テルミドールが指を鳴らすと同時に周りを囲む騎士が剣を抜く
「ふん、やれるものならやってみろ・・」
「自分の腕に過信はしないほうがいいですな、王子。
貴方が軍の英才教育を受けていたとはいえ所詮は青二才、
さらには3年のブランクがある貴方には無理ですね・・」
「御託はいいからかかってこい」
「ふん!思いあがりおって・・、やれ!」
その声に一斉に襲いかかる騎士達
対し戦女を軽く下げて静かにそれを見つめるロカルノ
そして・・

斬!!!

まとめて騎士達を切り払う・・
軽そうな槍でのその行為は信じられないことであり
斬られた騎士も唖然としながら絶命する
「俺の名はロカルノ、偉大なる剣士セイレーズの息子だ」
血がしたたる戦女を振り払い静かに言いやる
「・・ええい、お前達、仕留めろ!!」
残った騎士に叱咤するテルミドール
ロカルノの驚くべき一撃に戦意を失っていたが主君の命令故、逆らう事はできない
「あああああああ!!!」
もはや平静心を失い、半狂乱で襲いかかる騎士達

「・・、かつての俺を見ているようだな・・」

ロカルノはそう呟き、事もなく切り払っていく・・
「・・ちっ、どうやら私の思っているローディスではないようだな」
「伊達に名を捨てたわけではい。さぁ、次はお前だ。今こそローディスの名から解放させてもらう!」
そう言い一気にテルミドールに斬りかかった




一方
「あらかた片付いたわね・・」
ブリューナクのオプションパーツを切り離しながらミュン
「いつも以上の暴れっぷリだな」
セイレーズもネェルブライトを振り血を飛ばす
「ロカルノのためだからね〜、あの子、大丈夫かしら?」
「心配はないだろう、あいつの腕ならば並の連中なら瞬殺も可能だ」
「貴方の太鼓判つきだもんねぇ」
周囲には絶命した薔薇十字の騎士達
凄惨な戦場のような状態で建物のベランダにも倒れている
「後はあいつだけだが・・、こちらから迎えにいくか?」
「ほうっておいても終わられてくるんじゃない?」

ドォン!!


不意に宮殿の2階部分が爆発し、そこから飛ばされる人影
「・・・そのようだな」
落下しながらも体勢を立て直し着地する人・・、ロカルノ
「く・・・」
「ロカルノぉ、何?苦戦しているの?」
これには流石のミュンも驚いたようだ
「すみません。大体は片付けたのですが・・」
「らしくないな・・、テルミドールは?」
「それは・・・」

ドォン!

ロカルノの声に遮る様に爆発がまた起こりテルミドールが出てくる
左の腕が切断されており目が血走っている
魔力により宙に浮いているようだ
「・・どうやら魔術師みたいねぇ、逆上して力のセーブができていないし」
「おのれ忌まわしきカルディーノ一族め!!
我を落とし入れるばかりでなく命まで奪おうと言うのか!!!」
「もとはお前から売って来た喧嘩だ。下らん逆恨みは止めろ!」
「うるさい!私に勝てると思うな!!!」
そう言い手から連続して爆炎弾を放つ!
「宙に浮くことができるほどの魔力・・・、ミュン!」
ロカルノを庇うように剣を構えるセイレーズ。
爆炎弾を受け止めるつもりだ
「出番ね!・・・・潰す!!」

轟!

ブリューナクの魔光弾が鋭く放たれる!!
「ぬっ、ぬぅぅぅぅ!!?」
魔光弾は爆炎弾をかき消しテルミドールに迫る!
そして

轟!!!

破壊の光がテルミドールの失った左半身を包み完全に消滅させていく・・
「おおおぉおお・・・」
「・・・、まだ自我を持っている・・か。随分執拗な性格ねぇ」
「おのれぇ!!!!かくなる上は!!!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・

急に大地が震えテルミドールの身体が赤く光りだす
「!!・・これは・・」
「究極破壊魔法・・、自爆込みで道連れにする気か!」
「そんな事を・・、正気か!!」
愚行に走る男にロカルノも絶叫
「貴様らを殺せればどうでもいい!!この街ごと破壊してくれる!!」
目が白目を向き、口から血を噴き出している・・
「ちっ・・、はったりではないな。あの魔力、自分の命をかけて行使するようだ・・。」
「だとしたら今から逃げても・・」
そこから先は口には出せない・・。
自分で諦めてはならないと、いつもセイレーズに言われているからだ


「・・・セイレーズ、ロカルノをお願い。先に安全なところへ逃げて?」

「・・・ミュン・・」
少しうつむくセイレーズ。帽子で目元を隠した
「ミュンさん!?何を!?」
「ブリューナクをフルパワーで撃ってあの自爆魔法を相殺するわ。」
「仮にそうできても凄まじい衝撃が来ます!そんなこと・・」
「安心して!この白衣はねぇ、いかなる衝撃も吸収できる特製品なの、
それに、こうした場合は私が適任なのよ。・・・ロカルノは任せるわよ、セイレーズ」
「・・・ああ・・、また・・後でな」
「・・・・ええっ。さぁ、さっさと行きなさい!!」
ブリューナクのチャージを開始しロカルノに背を向けるミュン・・
「わかった・・、いくぞ!ロカルノ!」
「わっ。わかりました・・!!」
ロカルノは唖然としながらも走り出すセイレーズの後をついて行った


「・・強く・・生きなさい。私の子供・・。セイレーズ・・、私の方が先みたいね。・・・・ご免・・」
寂しげに笑うミュン・・
「逃げても無駄だぁ!!死ねぇ!!」
「うるさい!人の皮かぶった畜生!私の銃で跡形もなく消してあげるわ!!!!」
魔槍銃を構え、トリガーを引く!
その刹那・・




・・・・・
・・・
・・
アームテージより少し離れた森まで走るセイレーズとロカルノ
「・・ここまでくれば・・」
「はぁ、はぁ・・。大丈夫・・ですか・・」
「楽観視するな、衝撃に備えるぞ」
体勢を低くし衝撃に備える・・
瞬間

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

宮殿があった所から起こる大爆発・・。
爆風が彼らを襲いゴーストタウンの破片が飛び交う
・・・・・・・・
・・・・・
・・
しばらくすると爆風が収まったが
そこにはただ野原が広がるのみだ
宮殿部分には大きなクレーターが出来ている・・・
「・・・セイレーズさん。ミュンさんは・・大丈夫ですよね?衝撃用の白衣も着ているし・・」
爆発を凄まじさに不安になるロカルノ
「・・・・あの白衣にそこまでの性能はない・・」
無感情にそう呟く
「!!!じゃあ・・ミュンさんは・・」
「・・・・・・・・・」
眉一つ動かさず静かに宮殿の方を見つめるセイレーズ
「そんな・・、俺のために・・・・・。ミュンさん・・・・・、ちくしょう・・ちくしょおぉぉぉぉ!!!!!!」
天に叫ぶロカルノ・・、それに応える者は誰もいなかった


宰相テルミドールの一件がその後アームテージ崩壊とともに
あきらかとなりダンケルク内では波紋が広がった
ダンケルク王とテルミドールは影で繋がっており麻薬やその他非合法な行為の数々が
あきらかになり、民衆の王の辞退させる運動が激化していった
その先頭に立ったのが王の息子、
第2王子ヤスパールであり、彼の人望も助けて運動はさらに激化・・
結果として翌年、自室で王が自殺しておりダンケルクの貴族主義はここに倒れた。
その後は第2王子が国王に即位し、外国への穏健路線を第一の目標に抱えた
ダンケルク平和への運動・・・
、その影に一人の女錬金術師と二人の男の働きがあったことを知るものは
・・余りにも少ない・・・



「行くのか?」
「・・・・ええ・・。自分で世界を見てみたいので」
断崖の家・・二人となったその中で青年ロカルノが応える
「・・・そうか、俺から教えることはもう何もない。後は自分で学べ」
やや疲れた表情のセイレーズ・・。
「はい・・、がんばります」
「ふっ、それで・・、その仮面をつけるわけか」
「ええっ、過去とのケジメ・・ですかね・・」
激情を灯していた緋色の瞳を封印するかのように目元を覆う仮面がされている
「なるほど。では、この家も売り払うか・・。俺一人だと広すぎるしな・・」
「手伝いましょうか?」
「いいや、その必要はない。大事な物はこれだけあれば十分だからな」
取り出したのはブリューナク。所々破損しており、銃口は溶けてぐちゃぐちゃになっている
これがあの現場に残されていた唯一の代物
他には髪の毛一本残されていなかった・・・・・
「・・・・」
「ふっ、どうした?感情がまた噴き出してきたか?」
「いえ、俺・・、私は・・」
「・・まぁ、がんばれ。お前なら俺を超えることができる。・・・生きていればまた会うこともあるだろう・・」
「・・今まで、ありがとうございます」
「・・・・・よせ・・・照れる」
珍しく微笑むセイレーズ、そして、仮面の男は静かに去っていった・・
一人部屋に残されたセイレーズ

「・・・そうだろ・・?ミュン・・」

ブリューナクに静かに語りかける。
ボロボロのブリューナクはただ静かに光を反射するのみだった



<<back top