一章  「家族」


海岸線・・
周囲は絶壁の崖となっているが意外にも地盤はしっかりとしており周囲には木が生い茂っている・・。
そんな中、崖の先に一件の家が建てられている
大きくはないもののと質実剛健な造りで早々の嵐でもびくともしない・・っと言いたげだ
その家の前・・、庭にもなっているスペースで睨み合う二人の男
「・・ふっ、どうした・・?息が上がっているぞ?」
黄金色のレイピアを持ち、涼しい顔の中年男性・・っといっても
やや長めの黒髪は良く手入れされており、顔も年齢よりはだいぶ若く見れる。
「はぁ・・・はぁ・・、まだまだ!!」
対し荒い息で男を見つめる銀髪の青年・・。
鉄製の槍を下段に構え、チャンスをうかがう
緋色の瞳は美しく、目鼻の整った男前だが、それも土まみれで台無しだ
「・・攻撃とは気と呼吸が重要だ。それだけ乱れればロクな一撃は出せないぞ?」
「・・やれるだけのことは!!」
そう言うと青年は渾身の力で槍を突き出す!

キィン!!

しかし
男が軽く剣を振りかざしたとともに槍は宙に舞った・・。
そのまま男は剣の切っ先の青年の喉元に突きつける
「チェックメイト・・。言っただろう?気と呼吸だと・・、
いくら力が余っていてもそれでは無意味だ」
「はっぁ・・はぁ・・」
「ふっ、だが少しは成長したか・・。よし、休憩しよう。ロカルノ」
「はい・・」
くたくたになりつつも家の前に尻をつく青年ロカルノ
「まだまだ貴方には手が届きませんね・・、セイレーズさん・・」
「ふっ、そう簡単に追い越してもらっては困るのでな」
微笑みながらロカルノの隣に座るセイレーズと呼ばれた男
「ですが・・、いつか必ず追い越して見せます」
「まっ、がんばるといい。お前ならできるさ・・。そういえばお前がここにきてもう3年になるか・・」
「・・ええっ・・。もうそんなになりますか・・」
穏やかな日の光の中、出会ったころを懐かしむ二人
そこへ・・
「ちょっと二人とも〜、お茶が入ったわよ〜♪」
家から元気のいい声が・・。
「なんだか機嫌良さそうですね、ミュンさん・・」
「・・ああっ、変なもん入れていなければいいのだが」

家の中は質素ながらも整理されており小奇麗だ
そこへ長い碧髪を簡素にくぐった女性が・・、
落ちついているようで元気がよく年の割にはかなり若く見える
やはり精神というものは外見へも影響が出るということだろう
「はい、ロカルノ。濃いめの珈琲よ♪でっ、セイレーズはミュンさん特製の精力ドリンク〜♪」
テーブルに並べられるのは小さなカップ二つとセイレーズ用に用意された大ジョッキ並のグラス・・
中には・・
「・・・おい、なんだこのドス黄色い液体は・・」
「わかんないわ〜、とりあえず精力つきそうなもの全部♪」
「・・お前・・」
呆れて声も出ないといった感じのセイレーズ
「また、がんばるのですか・・?」
「そっ、毎度のことながら見ちゃ駄目よ!ロカルノ!」
「まぁ、見ませんが・・。医者に診てもらったほうが・・」
「こいつも俺も真っ当な人間ではないからな。そういう事もわかるまい。
それに・・、俺達にはロカルノがいるだろう?」
「う〜ん、確かにロカルノは愛しているわ。
でも1度でいいから自分の産んだ赤ちゃんを抱っこしてみたいのよ〜」
「・・・諦めずに頑張ってみるか・・、しかし、このドリンクは飲まんぞ」
「ブー!!」
「じゃあお前が毒味しろ・・」
「何よ、元が飲めるモノを合わせただけじゃない・(ゴク)・・おいし・・」
感想を途中まで言って急に固まるミュン
「・・・?なんかミュンさん顔色が悪いですよ・・」




「げはぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




「・・・・・・・・介抱、しなくていいんですか?」
「・・自業自得というやつだ・・」
結局放置する男二人
そんなこんながここの生活

家主 セイレーズ   世間では「怪盗セイレーズ」として有名な盗賊。
冷静な性格で大抵の事なら知っている。
剣、槍の扱いに長けており、武人としても一流

妻  ミュン   セイレーズの妻であり、これまた有名な錬金術師。
数々の鉱石を開発したり古代書物から古の兵器をよみがえらしたりと何かと物騒な人
怒った彼女が通った道には草一つ生えていないので「破壊天女」という通り名まで出ている

養子 ロカルノ   セイレーズの家にある日、やってきた青少年。
北国ダンケルクの第一王子であるがその地位を捨ててセイレーズの家で暮す。

大抵の事は全員で順番に担当、ロカルノも年の割には家事全般難なくこなす
しかし家は彼が住む事を前提に家が作られていないので
ロカルノは居間で寝ているのだがそれも彼は気にしていない

「そういえば、今朝、情報屋から一つ気になる情報が入ってな・・」
「・・、何です?破壊天女、また街を壊滅・・とかですか?」
「ちょっとロカルノ〜、私そんなに乱暴じゃないわよ?」
「その情報も入ってきている・・、一応は天災ということで・・な」
「あらっ・・、・・・・い、いいじゃない!獣人狩りしようとした馬鹿を退治しただけよ!」
「・・まっ、俺は何も言わん。気になるのは・・、
ダンケルク第一王子が行方不明になって捜索願いが出ているそうだ・・」
「!!・・俺が・・。」
「あらっ?家が探しているの?」
「・・っところがそうでもない。その依頼をだしてのがダンケルク王家ではないんだ」
その言葉に二人は表情を引き締めさせる
「・・つまり〜、どこぞのお馬鹿さんがロカルノを探して何かにしようっていうの?」
「・・そのようだな、ダンケルクにしてみればロカルノは
もはや無関係な人間になっているのかもしれないが周りはそうではない。
王族の人間というだけで色々利用もできるだろう・・」
「・・・」
「・・・ふっ、相当腹立たしいようだな、ロカルノ・・」
「・・ええっ、ですが・・、これも国を捨てた俺の運命、
乗り越えなければならない事なのかもしれません・・」
「いつもながら固いわね〜、そんなんだと女の子なんか寄り付かないわよ〜♪」
「ミュ・・ミュンさん・・、俺は・・」
「まぁまぁ、では・・、お前としてもこの情報、捨ててはおけない・・っということだな」
「・・はい」
「・・ふっ、ならば俺はこの情報をさらに調べよう。お前は・・、まだ自分の得物がなかったな。
・・ミョルキルばあさんの所で何かいい物を作ってもらうか・・」
「あの婆に〜?私のブリューナクのプロトタイプがあるわよ?」
「俺は・・、射撃は苦手なんですが・・」
「それに、銃を扱うなら、いつもやっている訓練の意味が薄れる。」
「・・もう!面白くないの!」
「ともあれ、俺の知り合いの婆さんに槍を作ってもらえ。
お前の腕なら剣よりも槍のほうが適性があるからな・・」
そう言うと軽く旅の費用を懐から出した
「わかりました。詳しい場所を教えてください」
ロカルノもその気になっているようだ
最も、セイレーズの言うことは自分にとっては大きくプラスになるということをよく理解している
さしずめ、新たな得物を作成するのも彼なりの試練のつもりなのだろう


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