デス&ユト隊01 「ミッション オブ ラビリンス」後編


一帯を支配しているのは闇・・・正しくは、荒れ果てたかのような広い規模の石室。
そこにいるだけで気が滅入ってきてしまう。
 「あいたたた・・・こんなポカミス、ホント嫌になっちゃうわね・・・」
尻餅をついてはいるが至って健在のセシルは、一帯を見回し自分が一人である事を確認。
自分の尻についた砂埃をはたきながら立上るものの事態を改めて認識し
 「・・・ホント、嫌になっちゃう」
悪意満ちる中一人ぼっちである事に天変地異の前触れと思わせる程に久しく凹むセシル。
一騎当千の力を図太い神経を有しているとはいえ、今まで仲間に保護されていたことを
たった一人ぼっちになっただけで自覚してしまった。そんな乙女(?)の表情も一瞬
 「っ!!?」
「テメエ、行き成り攻撃してくれるたぁ、随分じゃないか」
必殺の勢いで揮われたセシルの刃を受止める甲手。それは脅威である以上に
 「って、バカ殿!!? 何で此処にいるのよっ!!」
「・・・テメエ、堕ちる時に何掴んだか覚えてないのかよ」
 「ふむ・・・、何?」
「俺の足首だっ!!」
 「何? それで巻き込まれて一緒に落ちて来ちゃったわけ? ドジねぇ・・・」
「以上にドジで巻き込んだテメエだけには言われたくなねーな」
 「何よ、喧嘩うってんの? なら買ってやるわよ、バカ殿の泣面で(したーんしたーん」
「・・・それだけ元気があるなら問題ないな(くるり」
 「くぁっ、スルーっ!!? ホントに泣かすっ!!!」
「あ〜〜はいはい、こっちはテメエと遊んでる暇はないんだよ」
ヤッテヤルとシャドウボクシングってるセシルを無視し、ライが背中の荷物袋を下ろし
取出すのは筒状の物。その上蓋を開けてばら撒いた中の液体は霧散し、筒は地に据置く。
 「・・・何よソレ。」
「『マップメーカー』、こうやって暫し置けば迷宮のマップが出来る魔導具だ」
 「そんな便利なものがあるならキルケにダウジングさせないで最初から使えばいいのに」
「アホウ、コイツは使捨てなんだよ。数持てないだろうが」
 「・・・・・・」
「だから、こういった時の切札なんだよ。こいつも俺が持っているのは残り二本・・・」
 「・・・それで、如何するのよ」
「こいつで次階の階段の処へ行き、其処で待つ。俺達が落ちてきた穴から皆が来ない
ということは、既に封じられているということだからな。確実に合流出来る場所へ」
 「何で皆が降りてくるって分るのよ」
「俺に何かあったときは、次に指揮するのはクラークだからな。
クラークの思考を辿れば、確実に俺達を追ってこの階に下りてくる。
他に何か質問は?」
 「・・・チッ、ないわよ。」
ライがマップメーカーの筒を解き開けば、其処に記されているのは
罠や宝箱の位置,次階への階段の場所が記された詳細な地図。
「此処が現在地で此処が階段だから、・・・回り込んで行くしかないのか。
此処で皆の到着を待つ。先に待ってるかもしれないけど・・・。 行くぞ」
 「ちょっと待ってよ、何でバカ殿が指示するのよ」
「他に良案があるなら、俺はそれに大人しく従うけど?」
 「うぐ・・・」
押し黙ってしまったセシルを、案に承諾したと理解したライはウも言わず歩き始める。
それに慌ててついていくセシルとの間にそれ以上の言葉はなかった・・・
今までは9人で360°を警戒していた事になる。しかし今はたった二人。
たった二人になっただけで警戒の負担は段違いに上がり、増してモンスターも迫る。
それでも怪我らしい傷一つ負わず次階への階段がある部屋へ到達した。
 「それで、待つにしても何するのよ」
「先ず、安全を確保しないとな・・・」
と、ライが背中の袋を漁り出すのは鎖状のアイテム。
 「バカ殿のバックって青タヌキの腹袋みたいに何でも出てくるわね」
「さんきゅ。これは、害意あるものの接近を遮る魔導具の結界鎖だ。
これを部屋の出入り口においておけばモンスターは入ってこない・・・」
 「階段は?」
「今まで気付かなかったのか? モンスターは各々の階を移動できない。
何もない空間から発現することはあってもな。それがこの迷宮の『律』だ」
 「へぇ〜〜」
「ちょっとは気づけ(笑。 何もない空間から発現するという事はそれだけ混乱が
生じ易い。だから、各階にモンスターのレベルとかの『律』が必要になってくる」
 「ほぉ〜〜」
「所詮は呈のいい装置,ゲームって事だな。」
 「はぁ〜〜」
「・・・・・・、もういいから休んどけ」
シッシッとされたセシルはブーブー言いながらも自分の背負い袋を漁り、
飲み水だけではなく腹ヘッタと出すのは保存携帯食が入っている小袋。
その中身は・・・豆?
 「何よコレ・・・豆なんかじゃ御腹膨らまないわよぉ(ボリボリ」
「うわっ、待てセシル。それ、俺でも2粒で満腹になる代物だぞっ!!!」
 「・・・・・・」
「説明、聞いてなかったのかよ。」
 「だってロカが私の面倒みてくれるしぃ〜〜(ぶりぶり♪」
「キモっ!! ・・・・・・、ロカルノが哀れでならないよ」
 「うっぷ、気持ち悪・・・・・・真坂、これはツワリっ!!?」
「ア〜〜ハイハイ、くだんね〜〜ジョウダンは置いておいて
・・・吐くなよ、勿体無いから。」
満腹通り過ぎ身動き出来ないセシルを他所に、ライは荷物を下ろして武装を外し
挙句戦闘服の上を脱ぎシャツ一枚で、更にズボンのベルトまで緩める
 「っちょっとアンタ、何脱いでるのよおおおぉぉぉっ!!?
真坂、私の美貌に遂にケダモノになって妊婦な私を襲うつもりなのねえええっ!!!」
「ア〜〜〜〜ハイハイハイ、さっきのギャクも含めてぜ〜〜んぜん面白くないから。
テメエなんぞを襲うくらいなら男に襲われ犯される方がましだっ〜〜つ〜〜のっ」
 「んなっ!!? (ガ〜〜ン」
「休める時にシッカリ休む、それが戦士のセオリー。
セシルも食い過ぎで腹苦しいならベルトゆるめとけ・・・」
 「っ゛ぁ!!?」
後は一切の無視にライは地に敷いたマントに上に身を横たえると
上の戦闘服を羽織り目を閉じ完全休息状態。それでも剣は手元に。
「・・・z・・・z・・・」
 「っほ〜〜〜んとムカつくヤツねっ!!」
「テメエがな・・・z・・・」
 「ぐぉっ・・・」
・・・・・・・・・
 「・・・・・・、ねぇちょっと、暇なんだけど」
「・・・ぅせぇよ。・・・半刻しか経ってないじゃないか。テメエも寝てろ」
 「半刻って・・・それおかしいじゃないっ! 向うにはキルケがいるのよっ!!」
キルケが入れば一階辺り最大でも四分刻(つまり1/4刻=30分)もあれば十分に攻略出来る。
「・・・こない以上は構えるしかねぇだろう。そもそも此処の時間の流れはおかしいしな」
 「それって如何いうことよ!!?」
「俺達の体感では一刻ぐらい。でも、この懐中時計では・・・まぁ、そもそも
膨大なエネルギーを秘める装置の中にいるからそれも仕方無いちゃぁ仕方無い。
ここへ降りた時も俺はセシルに足引張れたにも関らず同時に降りて来なかったしな。
・・・今はドンと構えるしかないってこった」
 「それなら仕方ないわね・・・でも、暇なのよおおおおおっ!!!」
「うるさっ!!! だから寝てろっちゅうのに・・・
しゃあねぇな、セシルの為になる話をしてやろう」
 「んあ? 何よ・・・」
「俺,クラーク,ロカルノの体力を100とした時、セシルの体力は75ぐらい。
にも関らず、セシルよりロカルノの方がスタミナが少ないと感じた事はあるだろう」
 「ん? ん〜〜〜、そうね。」
「それは一重に時間当たりの回復率の違いにある。セシル15%に対してロカルノは5%程度。
角言う俺も15%ぐらいあるわけだが、その打分けは自力回復は5〜10%だけで残りは外気功。
でもセシル15%の全てが自力。」
 「???」
「此処はいわば装置の中で満足な外気がないから俺は禄に回復しない。
いやはや、自力で15%の回復力を持つセシルが羨ましいよ・・・・・・」
 「???」
「・・・z・・・z・・・」
口先三寸で煙で巻かれていることも気付かず内容を理解しようしているセシルに
ライはコレで静かになったと眠りに着くのだった・・・・・・
がばっと
 「な、何よっ・・・」
再び眠り始め半刻ぐらいたった頃、不意に飛び起きるライにリアルにキョどるセシル。
それだけライの表情が真剣で鬼気迫っていたわけだが
「来る・・・」
 「へ?」
瞬後、ゴゴゴゴと地響き始める床 もとい空間。それは、地震。
 「あんた、何で分ったのよっ!!?」
「寝てたからな、微振動を感じただけだ。てか、ケダモノなんだから気づけよ」
 「んな経験ないから分らないわよっ! そんな事よりこんな場所で地震だなんて・・・
生き埋め〜〜っ!!?(あたふたあたふた」
「今はまだ大丈夫だろ。 元々地震がある地方じゃない。この迷宮自体のものだ」
 「んな事、分るわけないでしょう!!!」
「それが分るんだよ。砂の大地だから、遠くの多少の振動は周りが吸収してしまう。
これは振動の波長がごく短い。つまり震源地が凄く近いって事だ」
 「・・・何語?」
「だから・・・まぁ黙って後でロカルノにでも聞け
・・・でも次の階へ移動したほうがいいかもな」
 「えっ何でよ!!? 皆とまだ合流できてないじゃない!!」
「それは振動の振幅が・・・何かシェイクの度合いがきつくなってるだろ。
つまり、このままこの階にいれば俺達ちゃフロア諸々分解されてしまうって事だ」
 「じゃ、皆は・・・」
「まっ、大丈夫だろう。これだけ待ってこないって事は、別ルートで俺達を
通り越したか、これから来るか・・・何にしても先に進むしかないな。」
 「じゃあ、何時まで経っても皆と合流できないじゃない」
「出来るさ。10,20,30階は全部同じ構造で、基礎部だから此処みたいにならない。
つまり40階なら確実に合流出来る。門番もいるだろうからスキップさせられないしな。
俺が信用出来ないならここに一人残ってそのまま死ね。ロカルノには伝えといてやる」
 「っ!!? ちょっとまってよっ!!!」
最早準備を整えウも言わせず階段を降り始めたライに、流石のセシルも慌て後を追う。
さしもの女騎士も、二人っきりになって気付いたこの男の本性の異質さに畏怖し
逆らう事が出来なかった。それは、周囲の悪意へ爛々と目が輝かせ叛う龍の性(サガ)


ライをセシルを欠いた一行は、それでも戦力に問題無く苦もせず
大部屋の次のフロアでも更に次階へ続く階段へ辿り着いていた。
しかし、其処にはいるであろう二人の姿も痕跡も微塵もない。
キルケのダウジングでダイレクトに二人同時処か一人一人で探ってみたものの無反応。
 「・・・これってまさか、二人は此処にいない?(汗」
「その可能性は考えられる。」
 「時流差とか別ルートとか、原因は数考えられるがナ」
と腕組む参謀なロカルノとルーの考えている事に着いていけるものがどれだけいるかは
別として
「セシルなら兎も角、ライなら通過点に痕跡を残してるだろうしな。
未だ着てないと考えて止まるか、既に進んだと考え進むか・・・」
 「ドウセ門番がいる40階なら確実に合流出来るから、私は進む方に1票ダ」
「心配ないとは思うが、戦力が整っている此方で門番の相手はするべきだな」
「んで、俺も合わせて即前進に三票と。」
端より退くという選択はなく、他の面々に異論などあろうはずもない。
投票権を投げているのではなく、大局でモノを見れる三人を信用しているのだ。
故にパーティは躊躇なく進んでいく。それでも痕跡を探しながら・・・
・・・降ること数階、それでも
 「・・・みつかりませんね。」
「全く、フロアは兎も角、階段ぐらいにも残っていそうなものなんだが・・・」
 「・・・ある。階段にはライの匂いが残っていた。 ・・・ついでにケダモノも」
「さよけ。この階まではきているわけか・・・」
 「・・・それは分らない。空気が乾燥しているから、流れてきた可能性も」
「どっちやねん・・・」
直後、皆はシエルの感覚が正しかった事を悟った。
爆発するように放たれた殺気に反応し、その爆心地に向いて隊形を取る。
其処は影の闇。闇の影から一歩一歩と踏み出し出てくるのは
「・・・おいおいおいおい」
「・・・貴様」
 「「っ!!?」」
 「「「「・・・(汗」」」」
堕ちし龍。纏うは黒の軍服調の戦闘服でありながらそのガントレット共々明らかに血に穢れ
その顔に浮かぶのは虚ろの笑みでも満面の狂気。そして何より、その手に掴んでいるのは
無数の金の糸に続く白い塊・・・
・・・生首
・・・女性の
・・・それはセシル。
瞬間、パーティーの中から立つ爆発。それは皆を吹き飛ばす事無く冷気を伴い動きを縛り
その場に鎧騎士の幻影を残し堕ちし龍 ライを殴りつける。 的確に顔面を狙い必殺で。
「っ!!?」
にも関らず、その拳をライは空いた甲手で受け止め一蹴にロカルノは皆の処に帰された。
「あの動き、真坂・・・まさか、本物なのか?」
「・・・これは、セシルだ」
クラークがライへ警戒する一方でロカルノはしゃがみこみ動かない。
その手には一瞬の攻防で奪返したセシルの生首をもって汚れを拭っているから。
キルケやクローディアに自分と同等以上の脅威の相手をさせるわけにもいかず
四姫は端より主が放つ殺気に萎縮して戦力外。それでも一応構えてはいるが。
となれば、クラークが撃って出るしかなく
「こんな形で戦う事になるとは残念だぜ、ライっ!!!」
様々な思いを胸に秘め、鬼殺の武士は居合いをつめて瞬殺の斬『霧拍子』を放つ。
一撃、撃つは防ぐ甲腕
二撃、斬るは空
三撃、追い首狙うも弾く拳
四撃、刃砕きを悟り、遅らせる刃に拳が当り立つ火花
五撃、柄頭撃つ拳に不発。
六撃、喰らう蹴撃に、刃は服を撫でるのみ。
七撃、ダメージを無視して放った斬撃はぶれて空振り。
八撃、一時距離を取るため牽制に放ったものにダメージは求めていない。
「くううぅぅ、流石特別(スペシャル)、強い。・・・強い、確かに強いが
・・・強いだけだ。 今のコイツは、強いだけのバケモノだ!!」
英雄が英雄たるには、強さだけではなりえない。其処には強い信念が存在する。
それは正、負関係なく。 善が堕ち邪となったとしても。
信念は肉体を陵駕し刃をなって岩をも穿つ。
故に英雄は英雄足りえる。万人が英雄と成り得る。
ならば、強い力を有している以上は其処に何らかの志を有していなければならない。
 「オイ、クラーク、ソイツはライじゃないゾ! ドッペルンガーだっ!!」
ドッペルンガー、本物ならぬ鏡像な存在であるため本物を殺し成代わろうとする魔物。
英雄のドッペルンガーとなればその御技を備え侮れない存在であり、まれに英雄を
殺し成代わった挙句、本物の英雄になったという逸話もあるくらいの代物である。
しかし、この迷宮にいるであろうソレはその場凌ぎ的な冒険者の脅威でしかない。
ルーの叫びにライのドッペルンガー(以下、贋ライ)へ豪速で投擲される珠、それを
拳で撃砕く贋ライに飛び掛るのはその珠に詰まっていた乳色ゲル状のモノ・・・脳漿。
「ならばアレはセシルではないということだな。私としたことが・・・」
ならば贋者の頭に興味などなく、復活の仮面の貴公子ロカルノは再び刃を手に立つ。
本物ならばいざ知らず、贋者達に二人が敗れるはずがない。寧ろ、贋者に贋者の生首を
もたせる残虐性はモノホンの・・・
 「魂まで贋せられるものかっ!! 今や、その刃は単なる棍棒にすぎン!!」
 「私たちに一切遠慮の必要はありません!!」
 「そんなニセモノ、やっちゃってちょうだい!!」
 「んっ!!」
例えその姿は真似できても、例えその声は真似できても、例えその力を真似できても
「やらせはしないっ!!!」
マガイモノとはいえ抜放たれようとする神剣を、クラークは柄尻同士をぶつけ封じ
その時には既に背後へ廻り込むロカルノへ贋ライが反応する前に
「無駄に戯言に付き合ってられないのでな、これで終わりだ」
トスっ
と呆気なく贋ライの胸中央に生える切先、瞬後
斬っ!!!
走る閃光に時が止る。それを解いたのは刃に付いた汚れを払い収めるクラーク&ロカルノ。
微動だにしない偽ライを背に、二人はパーティに合流し先へ進む。
後に残るのは声無き咆哮・・・


正真正銘本物のライとセシルはアイテムと体力を温存し
多少手こずりながらも順調に40階へ到達していた。
 「で、結局何も見つからなかったわね」
「あ〜〜、見つからなかったな〜〜。テメエは色々がめてたけど・・・」
 「うっさいわねっ!! バカ殿がシッカリしてないからでしょうがっ!!」
「・・・ケダモノ一人なら今頃如何なっていただろうなぁ。
大方、穿てぬ天井に齧り付いて悪あがきの挙句野生化、時間切れであぽ〜ん?」
 「バカ殿・・・今日と言う今日は・・・(ふるふる」
「バカ殿って言うな、ケダモノ風情がっ!! ライ様と呼べ っと言いたい処だが
テメエに様つけされてもキモイだけだから呼び捨てにすることを許してやる」
セシルがジャキっと抜き放つ刃に、ライも肩紐の止具を外して背負袋をドサっと落とす
それを合図に
 「泣かすっ!!!」
「テメエがなっ!!!」
ライの心臓を穿つはずだった刃は体術で避けられマントを翻しつつ脇をいき
セシルの顔面を砕くはずであった甲拳はかしげる首に掠ることなく通過。
しかし、確かな手ごたえ。
 「人がガチンコ喧嘩しようって時に水差すのっていかがなものよ?」
「そいつに関しちゃ同意見だな。」
それでも、二人の攻撃の先には何もない空間・・・ではなく歪む空間に現れた
黒装束のシノビが致命傷に砂と散る。
 「っ、バカ殿、マジで殺す気だったなっ!!!」
「はぁ? 何か喋ってるが、ケダモノだから聞こえんなぁ〜〜」
 「っ(ぴき」
瞬間、ヒラリとライが避けたその場所を床から生えたツララが穿っていく。
それに巻き込まれ姿を現しながら消滅していくシノビ数体。
「セシル手前、最早不敬罪じゃ許されないぞっ!! この俺が成敗してくれるわっ!!」
抜かれた刃が放つ真空刃をウオッと叫びつつセシルが仰反りブリッジで避けた後ろで
両断され姿を現しながら消滅していくシノビ数体。
 「・・・んで、いつまでこんな茶番を続けさせるのよ?」
「ぶっちゃけ、あきたんだけどな?」
「クッ、小芝居ヲ・・・」
姿を現す派手な忍 忍マスター、それに続き部屋一杯に現れる無数の忍。
「「んや、本気(マジ)でした」」
「それは兎も角として、『門番』が喋れるとは驚きだな。」
「某ハ忍マスター『オメガ』。人ノ姿ヲ持ツ最後ノ門番也。
更二10降レバ神竜トマミエルダロウ。ソシテ、勝者ニハ『力』ト『名誉』ガ与エラレル」
「へぇ・・・でも、そんな重要な情報を教えちゃってもいいのかね?」
「問題ナイ。何故ナラ、汝等ハ此処カラ先ヘ進ム事ヲ某ガ許サヌカラダ!」
「ほぉ、大した自信だ。貴様等如きで俺達を食い止められるとでも?」
「貴公達コソ某ヲ謀レルト思ウナ。全テ、御見通シダ」
忍マスターの鳴らす指で霧散してしまうのは、今の今まで人知れず部屋全体を
組まなく網の目に網羅するはずだったセシルの氷撃の布石。
 「・・・はぁ、参ったわね。面倒だから一気に片付けようかと思ったのに」
「・・・、もしかして俺まで?」
 「・・・、〜〜♪」
「・・・・・・まっ、いいや。気を取り直して、ヤり合おうか。
俺は、真龍騎公ライ。貴様を断つ男の名だ。別に覚えなくていいぞっ!!!」
 「あっ、抜け駆けするなっ!!!」
ならばと二人は問答無用で手ごろな忍に斬り伏せ、潰す。その勢い、怒涛。
二匹の戦鬼降臨。
「・・・所詮ハ、『人』カ」

斬れば両断され、突けば倒れ、殴れば潰れる。
一つの動作で、一人と言わず二人三人が一気に吹っ飛び無へ帰していく。
「るああああああっ!! 数で勝負になるかあああああっ!!!!」
 「もぉー―――っとホネのあるヤツもってこおおおおいっ!!!!」
破壊龍が、金獅子が吼える。
全く、どっちか悪役だかわかったもんじゃない。
その滅殺虐殺模様に、忍の数が加速度的に減っていっても忍マスターは動じない。
ただ時折、印を組み分身の如く忍を量産するだけである。正に正しい人海戦術。
それに余念はなく、致命傷こそ与えられないものの、雑魚の数を一気に減らす大技を
放つ隙など与えず、二人を忍を生み出す忍マスターへの接近をも許さない。
ただ、ジワリジワリと二人のスタミナが減っていくだけである。正にジリ貧。
「貴公達ハ、『力』アル者。コノママ塵ト散ルニハ惜シイ。 ・・・退ケ」
「断れば?」
「貴公達ノ『力』ハ『迷宮』ノ糧トナル・・・」
「・・・、それだけはありえないな。なぜなら」
轟っ!!!
と、ライの言葉を遮るように吹っ飛ぶ忍達の一角から現れたのは追いついた戦士達。
 「「「「ライをやらせはしないっ!!!」」」」
「ケダモノでも、俺の相方なのでな・・・」
「やっと追いついたぜ、ホント・・・」
その予想外の乱入者達に呆然としている間に合流するライとセシル。これで最早、敵無。
「さて、皆揃った処で盛大に雑魚を駆逐するとしますか」
 「私のロカルノさえいれば千人力よぉっ(うがあぁっ!!!」
「待て待て、ここは彼女達に任せよう」
と、それでも二人を止めるのは今まで代りにリーダーを務めていたクラーク。
この一人一人が絢爛舞踏であるパーティーとはいえ、ライとセシルはついさっきまで
己の戦い方が出来ず縛られる様に激戦を強いられていた。そのまま戦い続けたとして、
負けることは無くとも周囲,当人ともに甚大な被害を及ぼしていた可能性は高く
二人とも今はほぼ無傷とはいえ溜まったストレスは生半可なものではない。
ささいなミスでも大傷を負いかねないのだ。場所が場所であり少しでも余力がある以上
それは避ける事である。ましてや、余力は決して『些細』ではない。
戦忍レイハ、多彩に武具と戦忍の技を備える彼女は名実共に忍の『武器庫』
闘士シエル、肉体と両手の剣爪が武器であるその在り方は正しく『狩人』の獣
剣士クローディア、己が道をその刀と御技でもって斬り開く精強な姿は『侍』
「・・・おしっ、サクッとやっちまえっ!!!」
ライの激励を背に撃って出た三人娘。
先ずレイハが放ったクナイの弾幕が数多の忍が放った無数の手裏剣を相殺以上に
表幕の忍までも射倒した其処へ斬り込むのは刃抜き放ったシエル&クローディア。
端より魔導を用いず得物でもって敵をねじ伏せる二人は、正にこういった対多数に最適。
其処へ巨大手裏剣を揮うレイハも加わり、陣羽織も相俟ってそれは三の戦女神。
一斬で数人の忍が倒れ、両斬でその倍の忍が逝き、ましてシエル&レイハの一蹴で忍数人が
巻き込まれ隙を生み彼女達の周囲へ明らかな空間を造り、其処を彼女達自身が歩み埋める。
忍の人海戦術に圧されたライ&セシルがシエル&レイハ&クローディアに劣るわけでない。
英雄に類するツワモノは一人増える毎に戦力を累乗に増す。
それを適応してもライ&セシルの方が上と言える。それでも苦戦していたのは
セシルの対多数攻撃が封じられていた以上に・・・・・・
その点、シエル&レイハ&クローディアの三人は端から居合いギリギリの距離をとり
忍達を背後へ漏らす事無く虐殺、殲滅、駆逐。
その数が1/3となった時、忍マスター オメガの腕一薙に残りの忍が消滅する。
 「「!!?」」
 「・・・如何いうつもりですか?」
「小娘ト言エド、集ッタ『モノノフ』二前座ハ無意味。
・・・小娘達ヨ、一度、奥義ヲ放ナテ。ソレデ我ヲ倒セバ、汝等ノ勝チ。
我ガ耐エ切レレバ、我ノ勝チ。・・・汝等ハ速ヤカニ迷宮ヨリ立チ去レ」
 「何勝手な事言ってやがるんだぁ(うがあああっ!!!」
一人吼えるセシルを他所に、他の面々は冷静そのもの。
それはロカルノの手によって沈黙していだたくとしてもらって、
「・・・いいぞ。三人掛りで砕けない壁なら、皆掛りで砕いても意味はない」
「遠慮はいらない。全力でもってブチ砕いてやれっ!!!」
リーダー格二人の激励で改めて気合を入れる三人娘。
「我ガ名ハ、オメガ。 元、忍ブ探求者ナリ。ソシテ今ハ迷宮ノ門番・・・」
それに、門番たる『オメガ』も一礼し抜放ち肩担ぎに構える得物は大凡忍らしくなく
片刃直刀の大剣。それは隠密性よりも探索冒険のため攻撃力と突撃性を優先した得物。
対し、
 「影忍戦姫レイハ=サーバイン、参ります」
陣羽織とジャケットを脱捨てクノ一鎧と巻きスカと身軽になったレイハが
肩の力を抜いて垂れ下がった腕の先に携えるのは両手に忍短刀。
 「・・・疾黒戦姫シエル、行く」
端より高速移動を想定された陣羽織を脱ぐ必要がないシエルが
腰をかがめて腋を占め爪先を前に向ける姿勢は、正に獲物を狙う肉食獣。
 「ユトレヒト隊、剣士クローディア=グレイス、参る」
刀を鞘に収め腰為で抜刀の構えのクローディアに一分の隙もない。
目に陽炎と闘気が上がり行く三人に、何処からともなく花弁が散り降る。
華びらが舞う花吹雪の中にたたずむ三人娘は幻想的なまでに美しい。
そして、三人の闘気が最高に達したその時
 「華の命は短く、乙女の命も短し・・・」
 「・・・ならば、一瞬でも咲き誇り」
 「豪華絢爛に散ってみせよう・・・今こそ」
 『烈華霞斬』
三人の姿はその場から霞消え
「此処ヲ通スワケニハイカンノダッ!!!」
周囲の気を巻き込んで怒涛となって振下ろされた大剣へ花吹雪と共にぶつかり鍔競合う。
花吹雪が炎を冒し白くハナビラへと変えていく。
炎が花吹雪を犯しハナビラを燃やし炎へと成す。
通さんと守護者たる最早人を捨てた男と、砕かんと挑戦者たる三人娘の間に生じる均衡。
 「「「う・・・おおおおおおおっ!!!」」」
それを撃破り大剣を跳ね上げ、三人娘の姿が二度霞み消えると同時に
花吹雪が『オメガ』の身体の中心へ渦を巻いて殺到し・・・
・・・・・・・・・
ライ,クラーク,ロカルノが囲んで膝着き見下ろす
その者の胸から下は既に存在せず、それでもその者は未だ息絶えていなかった。
しかし、確実に致死傷のそれでは蘇る事など絶対不可能であり、傷口から血が流れる代りに
其処から空へ光へと崩壊していく。それも加速度的に・・・
「・・・俺が貴様なら端から奥義とかち合うような真似はしない。やらせて何だけどな」
「・・・クックックッ、己ガ欲ノ為二里ヲ棄テ未知ヲ求メタ挙句二、知ラズシテ
更ナル過チヲ犯シテシマッタ敗者ノ最後ノ意地ヨ。今更泣言デシカナイガ・・・ナ」
覆面に覆われ闇に輝く双眸が自嘲に歪んだのは三人の気のせいではないはず。
「あんた、大したもんだよ・・・」
「我等が成すべき事を成す事で報いるとしよう。」
瞬後、漢笑みの『オメガ』は完全に霧散した。唯一、得物である大剣を残して。
使手が滅んだ今、それは恰も墓石の様であった。
そして同時にそれは勝者が手にすることが許される景品でもある。手にするのはライ。
己の得物とサイズは代わらぬものの、握りは通常のもの程度の長さは攻撃に特化してる。
『迷宮』で時を重ねただけあって神秘を備え、扱えないものではない。でも
「俺にはもうあるからな・・・墓標代わりに最下層に突き立ててやるさ」
名実共にドラゴンスレイヤー:武霊刃は、物の怪に対し絶大な威力を誇る以上
言わずもかな人に対しても脅威であり、斬ったモノを喰らって主の糧へと変える。
風を斬る刃は、一時の主に歓喜の戦叫を上げた。
 一気に40階まで走破したこともあり、以上の熾烈を極めるであろう残り10階を攻略する為
パーティは40階で半日の休息を取ることにした。と言っても、まともな食事を用意して摂り
改めてシッカリと寝るだけなのだが、迷宮という密閉された非日常空間では食事一つでも
命繋ぐ大きな要素となる。 携帯食ではなく、温かいスープとパン,デザートに珈琲と
ブランデーフルーツケーキだけでもソレはトンでもない御馳走であった。
食事が終われは寝るだけであり、パーティは遮蔽物を隔て3のクループに別れ眠りに着く。
その打ち分けは言わずもかな・・・

迷宮の中では日中も深夜もない。
皆が寝静まって暫し、思い出すかのように動き出した気配が一つ。ソレは僅かな灯りの中で
白い絹肌に丈が短い黒のキャミソールの下には豊乳の下乳が覗け、そのから覗くオナカには
ホリが深い縦割の臍が麗しい。それは筋肉質ではなくタワワで柔らかな妙齢娘のゆえ。
括れた腰に紐が引っ掛かる黒のパンティは鋭角に股間を隠しお尻に食込み美脚に映える。
顔の表情はウエーブの掛かった長い金髪に隠れさているが唇は朱を引いたように艶やか。
彼女は迷う事無く小鞄片手に一つの寝袋に行くと、その前を開け中の者を曝す。
其処に眠っていたのは一人の男。下着の上からでも分る肉体は逞しく、それでいて
マッシブルと違って洗練された実用美を誇っていた。
彼女はその男の股間へ迷う事無く手を伸ばすと其処に収まっている棒状のモノに
二擦三擦と刺激を与えた。それだけで男に深い眠りで意識がない故に過敏に反応し
その棒状のモノは硬度を増し起立にテントを張る。 早速、イッパイイッパイ。
彼女が躊躇なく男のパンツを引ん剥けば天を突きそそりつつ怒張は最早 容易万端。
それへ満足に頷く彼女は迷わず男の怒張上に跨ぎ立つとパンティの腰紐の片方を解き
金色繁る陰部を曝しそのまま膝曲げて屈み己で広げながら腰をおろしていけば
 「んくっ、・・・はぁ・・・コレで奥に届いてるのに、
まだ全部収まってないんだからヤになっちゃうわね、ホント・・・」
それでも、彼女が行き成りの挿入にも関らず多少苦痛の色を見せる程度で済むのは
その行為に慣れているゆえ。そのまま彼女が踏ん張る格好から膝立ちに腰をグリグリと
下ろしていけば、直に接する女の尻と男の腰。
それでも、手持ち無沙汰な手を乳房を持ち上げるように腕を組んだまま時折ビクっビクっ
と顔を振ってしまうのは彼女の瞼裏に己の胎奥の状態が見えてしまっているから。
ググイと子宮口に減込み子宮内へクパッと鈴口を覗かせ開いている状況は余りにも生々しく
女性にしてみれば嫌悪か淫惚に苛まれるのは否めない。
恰も自身の身体が膣になってしまい、モノが身体を犯して頭へ迫っているようで。
それでも彼女は理性でもって腰を小刻みなグラインドに男へ快感を与えれば、
未だ深い眠りにある男が堪えるはずもなく、当然の反応に即
ビュルルルルゥ
 「ひうっ!!? すご・・・オシッコみたいな勢いなのに・・・凄い濃厚で元気・・・
それに、出しながらまだ大きくなるなんて・・・いつもながら、おかしくなりそぉ・・・」
ハゲしい射精を胎内へダイレクトに受け、彼女は眼を閉じたままでも眼に射精されている
かのように顔を思わずビクッビクッ叛け背ける。
ソレを物陰から覗いちゃってる者がいちゃったりしたり
 「・・・(あのバカ殿は、何してくされっとるいんじゃーっ!!! 猥褻罪だぞっ!!!)」
「・・・(・・・などと言いながらシッカリ人の情事を覗いているのは
如何なものかと思うがなっ。・・・悪趣味だぞ)」
 「う(をっ!!?)」
私ハ認メマセンヨーっとハンカチの裾を噛み引張るセシルと、
いつの間にかその背後へ位置しセシルが反応する前に押さえ込むロカルノ。
 「・・・(って、ロカも覗いてるじゃない。共犯者〜♪)」
「・・・(よからぬ事を企み抜け出たオマエを追ってきただけだ。同じではない)」
 「・・・(・・・まぁ、それは置いておいて、アレ止めないとね)」
「・・・(まて。あれは単に愉楽の為の性交ではない。おそらく・・・房中術だな)」
 「・・・(房中術? 何それ?)」
「・・・(身体を交わる事で相手の体調を整える術だ)」
この彼女の場合は、自らの身体をオナホールとして胎奥に受けた男の精液から男の詳細な
状態を把握し、それに見合った対処を行う。無論、元気な精子を観なければならないので
避妊の処置が一切出来ず妊娠の危険が非常に高い。術師にしてみれはキケンで致命的な術。
まぁ手術で卵管を封じる其の対策があるが、彼女がそんなことしているはずがない事は
一切手術痕のない綺麗な腹部を見せていることから明白。
二人が潜んで見ている前で、金髪の彼女は完全に怒張に貫かれたまま脇の小鞄から
幾つかの小瓶を取り出し、量を測りながら自分の口へ含んでいく・・・
彼女はそれを口腔内で丹念に舌で調合すると、男の頭を両手で優しく固定して
接吻にソレを口移しに飲ませれば
 「ん・・・ん・・・んんっ!?? んふぅ・・・んぁ・・・」
暫後、突然ビクッと跳ねる女体にその口腔内からネチョネチャと粘液質な異音が響くのは
無意識に男が求め、女の口腔を歯茎を嘗め回し、舌を絡め取り吸いしゃぶり・・・
・・・名残惜しげに身体を起こす女の唇から妖艶なまでに唾液の糸が引く。
 「もぉ・・・これじゃぁ抜けないじゃなぁい・・・後二三回射精させないと
治まらないみたいねぇ・・・でも、体内から溺れちゃいそぉ・・・・・・」
最早、初一発まで首下まで精液が溜まってしまった感の女は、それでも先の口淫で
ギンギンに成ってしまった怒張を自分の中から早急に抜くため以後如何も関係なく
小刻みに腰をグラインドして男に射精を促す。
今度は己の乳房を鷲掴み、静かに愉悦に浸りながら・・・
「・・・(・・・ほら、行くぞ。)」
 「・・・(ああん、もうちょっとぉ〜〜。 最後までみたぁい〜〜)」
「・・・(甘えてもダメだ。いい加減にしろっ)」
 「・・・(じゃあ、帰ってからでいいからハグハグしてね)」
「・・・(・・・・・・、後からと言わず今からハグハグしてやる)」
 「・・・(うえええっ!!? い、い、今からっ!!?
もう、ロカったら ダ イ タ ン なんだから、うふっ♪)」
コッソリと寝床に戻った二人は寝袋を一つに繋げ、早々に
「・・・(・・・実はライからオモシロイ話を聞いたんだが)」
 「・・・(もう、こんな時にバカ殿の話なんてしないで(プンプン)」
「・・・(最後まで聞け。それは発情した獣娘を穏便に静かにさせる方法だ)」
 「・・・(むぐっ!!???)」
瞬間、狭い中でセシルの両腕を片手で完全にホールドし蟹挟みで身体を押さえ込んだ
ロカルノはセシルの頭を胸に窒息させる勢いで押付ける。最早金色ケダモノに逃げる術無!!
「・・・(こうすると男性ホルモンを存分に吸う事になるから満足するらしい)」
 「・・・・・・」
寧ろ酸欠で意識が朦朧とし始めたセシルは心の中で「オとしてるだけじゃんっ!!!」
とツッコんだけで堕ていくのだった・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 翌朝 もとい、定刻にパーティは優々と寝袋を片付け身だしなみを整え、装備を
チェックして要らないものをルーの収納空間へ放り込み、必要なものを追加する。
其の中で特にすることがない金髪美女コンビのアルシア&セシル。
 「ねぇアルシア、身体は大丈夫なの? 昨日?は凄かったみたいだけど(ひそひそ」
 「やっぱり見てたのねぇ・・・お気使い無用よぉ。慣れてるから♪(ひそひそ」
 「さようですか・・・。でも、こんな所じゃ後始末出来ないじゃない?(ひそひそ」
 「うふっ、其の点は子宮へ直出しされちゃってるから・・・今私、採取瓶をアソコに
挿入してあるの。だから、子宮から零れた精液が滴る振動でゾクゾクしちゃう(ひそひそ」
 「うわっなんてエロい・・・アルシア、おそろしい娘っ!!!
私なんて間接技極められて落とされたってーのに・・・(ひそひそ」
んで、当の男は如何かというと極めて血色良く元気に準備を整えていたり・・・

遂に最終局面、41階以降へ突入となった。
待ち受けるのは、生物の内臓を思わせる肉々しい壁に床,天井の通路に部屋な迷宮。
立ち阻む敵は、生屍竜の渋とさと赤竜の攻撃力を兼ね備えた黄金竜や
大した攻撃力がなくとも新たな通路を作る怪土竜,壁を通過し攻撃する悪霊
瞬足に炎吹く地獄犬,能力を低下させる飛邪眼
・・・等々、自然界では決してありえない脅威な異形の怪物達。
しかしそれも、マップメーカーを用い最短コースをとった一騎当千の前では
サーチ&デストロイでマトモな戦闘になる前に撃破。ゆえに、本来ならそれまでの道程
以上に困難であるはずな処を1〜10階分並みの時間で制覇し、最下階の50階。
上から降りてきた階段がある部屋を経て、次の部屋は今までの区切階とは異なり
巨大空間ジオフロントに幻想なまでに満ちる光、あつらえられた庭園。最奥に立つ神殿。
その前で阻むモノは今までの数倍のサイズを誇り生物の根源に刻まれた恐怖の姿そのままの
蒼瞳に白銀鱗の竜 神竜。それから放たれる気配も地上最強生物 神殺の幻想種の看板に
誤らず、居るだけで小動物のみならず気の弱い人なら殺すことなど易いだろう。
・・・自然界の上位竜は、逆に癒す和やかな気配で動物を集めると言われるが・・・
パーティの接近に反応し、頭を起こして見据える神竜は人間を丸呑み出来そうな口を開き
『ヨク 此処マデ 辿リ着イタ、冒険者 達ヨ・・・』
放たれる声は重奏なまでに身体の芯まで震わせ一切の気力を萎えさせるかのよう。
『汝ガ コノ迷宮ノ 覇者デアル事ヲ 認メ、コノ迷宮ノ 新タナ守護者ノ名誉ヲ与エン』
『サレド、与エラレルノハ唯1人。最後ノ1人ニナルマデ戦ウノダッ!!!』
「・・・それが出来なければ全員死んで迷宮の糧と成れってか?」
『!!?』
「俺達は知っているんだよ。既に原作を読んだ劇を見るように・・・な」
『・・・』
「上前を撥ねて神創造か何かを企んでいるかは我々の知ったことではない。
しかし、我々や我々の子供達が生きている間に動かれては迷惑なんでな」
『・・・ナラバ、未ダ知ラヌ神ニ怯エテ滅ビルガイイ』
「「「やってみろっ!!!」」」
『GAAAAAAAAAAA!!!』
それは問答無用の竜咆哮。唯でさえ一般人が失神しそうな威圧を戦叫でもって放たれた
以上、それは一騎当千相手ですら必殺即死で魂ところか物質までも霊子まで粉砕必須に
竜を起点としてパーティが避けきれない広範囲で放射線状に包込み其処を爆煙に帰す。
が、
「行き成り竜咆哮で攻撃してくれるたぁ、やってくれるじゃないか」
「でもな、ソイツは通らない 否、通さないぜ」
晴れていく爆煙から現れるのは、金色と紅色の光。その源は、
神殺の神剣『神狼牙』を盾に構えるライと鬼神剣『九骸皇』を斬り抜いたクラーク。
竜咆哮から二人に護られたパーティは当然無事は当然に、
二人を起点として後ろへ放射線状の一帯も無傷。
『ッ!!? ソレダケノ「力」ヲ持チナガラ・・・』
「知るかよ。俺達だって態々遠くまで来て人様に喧嘩売る真似なんぞしたかねぇさ」
「穏便に手取り早く済ませて帰ろうと思っても、コノ様じゃ仕方ないだろう?」
「降りかかる火の粉は祓うわねばな。」
ありとあらゆる災厄を封印した箱。それを開けたのはライ達・・・
ではなく、その箱の分身であった。
否、内で育んでいた創生の『力』がソレに張合う破壊の『力』達を呼び寄せた。
『ヌッ・・・オオオオオオオオオッ!!!』
最早ただの咆哮を発し突撃をかける神竜へ迎撃に出るのはシエル,レイハ,クローディア。
その三人へ、神竜の無数の魔法弾が直線に弧線,ランダムと避け難い軌道で迫る。
無詠唱でも威力を誇るソレは彼女達に一撃必殺。しかし、彼女達は一切回避行動を取らず
 「私達の存在を単なるオマケと思うナっ、あほうメ!!!」
 「私達だって、がんばってるんですよぉっ!!!」
 「単体じゃなくパーティで攻めてくる意味を考えるのね、おバカさん♪」
ルーとキルケが放つ魔法弾が三人を追い越し相殺。
更にアルシアが援護魔法で障壁を造り爆風や空気抵抗を除く。
居合いを積めたシエル,レイハ,クローディアの三人は、揮われる神竜の豪腕を
掻い潜り、すれ違い様に斬撃を咬ます。
が、強靭な装甲である鱗の前ではソレを砕き肉を掠り傷程度に抉るだけ。
だが、その程度でも多少なり痛みがあるのか効果覿面で、神竜は素早い三人を追廻す。
前衛三人をさり気無くサポートするルー,キルケ,アルシアの後衛三人の存在を忘れて。
何より、この空間において人間中最も攻撃力ある四人が行動を起こしていない事を。
四人が神竜に気付かせる事無く内に練り上げた闘気は既に内に収まりきらず
金色の、紅色の、緋白、蒼白色の陽炎となってあふれ出す。
魔法攻撃の援護を受けながらシエル,レイハ,クローディアが回避し始めた時には既に
『ッ!!?』
「湧き上がれ、闘志っ!!」
「唸り斬れよ、戦刃っ!!」
「その躯を霊子まで焼滅しっ!!」
 「霊子の一粒まで凍てろっ!!」
各々が揮う刃より放たれた
龍顎破壊神の息吹が、雄狩の鬼神の剣気が、超高温の灼熱が、極低温の冷波が
融合することなく交じり合って渦となり、神竜を消滅させんと迫る。
対し、神竜は頭を揮り上げ溜めること一瞬に
『―――――――――――――――ッ!!!』
開かれた凶顎から放たれるのは閃光息吹(レーザーブレス)。
それぞれの攻撃が対消滅で相殺され成った烈光がジオフロント内を影一つ無く照らす。
その中で神竜の頭上へ降り立った影が一つ。それは盾代わりに白熱してしまった
棒状のモノを捨て、携えていたもう一本を逆手持ちに振り被り
神竜の脳蓋へ突き下ろした。
『!!?』
「コイツ1本が大本命でね、アレは陽動も含めてこのための布石だったんだよ。
どんなに強力であろうと最奥で引篭って胡坐をかき続けてきたのが貴様の敗因。
今まで利用し続けてきた力、存分に味わうがいいっ!!!」
破ッ!!!
『ダカラ、最後ノ、1人ニ、ナルマデ、戦エト・・・』
脳髄を破壊され、白目を向いて裏返る神竜の瞳
最期に認識したのは、薄れいく裂光の向うで透明な障壁に護られた人間達。
その姿には最初と違い唯一1人だけ欠けていた。その脳天に立つ1人が・・・

迷宮最下層ジオフトント、その最奥に鎮座する神殿。
その中に安置されてあったのは原色の虹が零れる珠の 純なエネルギーの塊であった。
「んで、どんな感じよ?」
 「まっ、大凡御主の予測通りだナ。還元率は最低でン%。コイツの内包エネルギーは
・・・分り易く言えば天文学的数字、神創造も夢じゃないゾ。正しく満ちた聖杯だナ」
と、神殿を含めた迷宮のシステムを唯一把握している幼魔女魔導師ルーは
後ろで見守る主ライを含めた皆々へ如何すると視線を送る。
「還元率は上げておくとしておいて、そのエネルギーで俺たちには何が出来るんだ?」
 「思いつく限り何でも。魂と肉体が滅びた死者ですら蘇らせる事も出来るだろうサ」
「それは魅力的だ・・・」
誰にでも、助けたくても助けられなかった人がいる。
幸せにしたくても出来ずに逝かせてしまった人がいる。
「それに関しては、俺は辞退させてもらう。もう次で降りてきているかもしれないしな」
真っ先に死者復活の権利を捨てるライ。それは間に出来た時間を知っているから。
失われた時は取り戻すことは出来ない。
クラークとクローディアも御互い顔を見合わせ同意見に頷く。
「俺達もいい。そういう事はしちゃいけない気がするからな」
 「まぁ、それが妥当だナ。仮に死者を蘇らせたとして、それは同じ肉体
同じ魂を有していても一からの再構築である以上記憶喪失状態になってしまう。
どの道、生者は成長しておるから当時のように付き合うことは出来んしナ。
結局、死者は生者の我侭でしかナイ・・・・・・
ンで、溜まったエネルギーは如何する? 放置すればソレこそ神降臨しかねんゾ」
 「だったら、わた(ぐえっ!!?」
欲望丸出しでよからぬことを言いかねないセシルをロカルノは黙らせ話を促す。
「そうだな、・・・大地へ活気を与えるのに使おうか」
 「フム、それなら半世紀は繁栄が約束されるだろう。直に効果は出んがナ」
提案するライに、ルーが見回す皆に異議のある者はいない(約一名除き)。
魔杖を揮うルーの一連の舞後に応え砕け散った珠の破片は空へと霧散していった。
神殿そのものが迷宮一連のシステムの中枢であることから特にめぼしいものがないので
パーティーは早々に神殿より撤退し、悪用されぬようライの指示でルーの手により
神殿は時空の狭間へと封印された。最早、この地に止まる必要性はない。
「さて、帰るとしますか!!」
残留エネルギーを利用し展開された高性能の転移魔方陣の中で
10人のこの地での存在率が下がり姿が光の粒子へと霞んでいく・・・
・・・そして誰も居なくなった。


・・・迷宮最下層に広がる広大なジオフロント・・・

・・・其処には地下とは思えない光満ちる林と草原の大地が広がる・・・

・・・その中心で地に刺さり立つ剣は蔓に覆われながらも神秘に光を湛え・・・

・・・未だ見ぬ主を待つ・・・

・・・自由を体現し、未知を求める主を・・・


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