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「上魔の御茶会」


新鮮な葡萄が名産で名高い地方都市グリーンリヴァー

ここで作られる葡萄酒は他国まで知られるほどの一級品でありブランドとして定着されている

そのために見渡す限り葡萄畑が広がりその光景は圧巻の一言。

果てしなく続く葡萄畑、その中に点在する蒸留所、民家はその隣に建てられてる事が多くそれ以外は何もない地帯

穏やかな気候の中爽やかな風が通り抜けまだ若い葡萄を微かに揺らしている

 

唯一、街道に通じる大通りに面した一帯のみ酒場や雑貨屋、伝書屋等が立ち並ぶぐらいであり

今日も人々は世界にその名を知られる葡萄を作りあげるために汗を流すのであった

 

 

・・・そんな穏やかな田舎であるグリーンリヴァーの景色に一つ異様なモノがある

それは町を見下ろすように丘に立てられた廃墟の城・・

地元では「領主様のお城」と呼ばれそこに立ち寄る人間はいない

それは畏怖からではなく尊敬から・・人々はその廃城を聖なる場所として崇めているらしい

田舎の中にある城は本来ならば違和感があるものなのだが

すでに半壊しており城壁にも緑が生い茂りつつあるが故に
景色に良く合っている

 

 

・・そんな中、古城の開かれたままの門の前に一人の熟女が立っており

何の遠慮もないままに足を踏み入れるのであった・・

 

 

「・・全くに、あいつも改装の一つぐらいしたらいいのにねぇ・・」

 

純白のスーツ、その上に白いトレンチコートにマフラーを着込んだ麗しき女性

綺麗に揃えた金髪に日差しを避けるためにかけた黒いサングラスが実に似合っている

彼女の名はソシエ=ローズ、通称「(アイ)(アン)薔薇(ローズ)

おそらくは世界最強の熟女であり年齢を感じさせない美貌を持つ一人の女

寂れた城前にはその姿は不釣り合いなのだが本人は気にも止めていない様子

すると開かれた城のロビーから一人の少女がキビキビとした態度で現れた

 

「お待ちしておりました、ローズ様・・」

 

純白のチャイナドレスを纏った美しい少女、髪も真っ白で肩幅に揃えられている

いかにも勝ち気な女性だが親切丁寧にソシエを出迎えている

「おやおや、確か・・ミーちゃんだったかね?人の姿で会うのは初めてかい」

「はい・・主が中々認めてくれませんでしたので・・」

丁寧な口調のまま愚痴ってしまうミーちゃん、仕事の不満の溜まりようは来客中でも変わらないご様子

「変わり者の従者になると大変なものだね、同情するよ・・」

「も、勿体ないお言葉を・・どうぞ、こちらへ・・主もお待ちしております」

ソシエを目の前にミーちゃんは萎縮しきっておりいつも以上に丁寧だ動作にてソシエを迎え入れる

そんな様子を微笑ましく確認しながら、ソシエは古びた廃城へと足を踏み入れた

 

・・・・・・

 

そこは正しく人が住んでいるとは思えない荒れ果てた廃墟・・

かつて人が住んでいた空間が自然に還った姿

十分な広さを持つホールも柱が所々崩れおり、そこから穏やかな日差しが入り込んで床に草が生えてきている、

中には小さな花を咲かしている物もありそれが儚げな美しさを見せている

他にも壁が崩れたりしていたり天上から吊されたシャンデリアも斜めに傾いていたりとかなりの荒れ模様

のだが一応通路としての空間は確保できている

 

一見荒れ果てた廃墟のように見えるのだが空気はひんやりと澄んでおり

入り込む日差しがどこか神々しい雰囲気を放っている

清い空気と差し込む日差しの線・・そこはまるで礼拝堂を歩くような不思議な気持ちにさせた

 

 

「・・大地が祝福されていると廃墟でもこれだけ清い空間になるもんだねぇ・・

でもさ、土地の住民に信頼されているんだろ?ほんともうちょい住みやすい程度に改装ぐらいさせたらどうだい?」

 

内部の様子に見取れながらも呆れるソシエ、

彼女もこの城に負けないぐらいの大豪邸に居を構えている

そのために一つの絵になっていると言えどもこの荒れ様は気になってしまうようだ

「この城は下賤な人間には不入の地です。近寄らせる事自体が許せません」

先を案内するミーちゃんが不機嫌そのものに言ってのける

 

(・・人間差別かぁ・・、あいつらしい難儀な使い魔だねぇ)

 

仕事も忘れ仏頂面になるミーちゃんに対しソシエは内心苦笑いを浮かべた

「・・何か?」

「いやいや・・でも、私ゃ人間だよ?入ってきてもいいのかい?」

「貴方様は特別です。ローズの名前はすでに神格化しております・・」

表情を変えずに言うミーちゃんなのだが、実は内心緊張しだしている

人間の話題で一瞬は我を忘れるもローズという単語に自分が案内している人物のすごさを思い出したのだ

「そんなものなのかねぇ・・・、使い魔界でも人気があったとか?」

「もちろんでございます。我ら使い魔にとっては貴方様ほどの御方にお仕えする事は名誉中の名誉です

・・人界にその生活を移された時は皆のショックも大きかったものです」

「でもあんたも大層なもんなんじゃないかい?

向こうの使いじゃない上にこっちの門番に仕えるなんざ使い魔でも超一流だろう?」

「・・・・・・・・、それが・・まともな御方でしたら・・どれほど名誉な事でしたか・・」

その肩が震えている・・・意地っぱりな少女が心の底から疲れを見せており

今の身分に対する不満をあらわにしている

「そりゃ贅沢だねぇ・・向こうじゃ女の使い魔なんざ混血繁殖の道具みたいに扱われるのがもっぱらだよ?

ここじゃそんな扱いは受けないだろうに」

使い魔とは主に仕えその糧を得る。

故に主には絶対服従、ミーちゃんみたいに家政婦みたいな扱いを受ける者もいれば

正しく性奴隷のような扱いを受ける者も多い

使い魔として誰にも仕えない者も多いがその場合は自身の力を解放できず細々と生きるしかない

その者達は主となる者と契約を結ばなければ満足に生きられない様にできているのだ

「それはそうです、律を重視する門番としてあの御方はこの上なき適任を持っていらっしゃいます

・・が・・その性格が・・」

「・・・別の意味で大変だって訳だねぇ・・まっ、同情するがそれも仕事だよ。がんばんな」

「・・はい・・こちらです・・」

表情を殺しソシエを手招きする先にあるはホールの突き当たりに広がる中庭・・

そこは廃墟の城内にあるとは思えないほど綺麗に手入れされており塀の中にこそあるが実に品が良い

草は短めに切り揃えられており質素ながらも綺麗な花壇が幾つか並べられている

中には鮮やかな赤い花が風に揺れており後ろでホールから倒れてきた柱が静かに寝ころんでいる

その中に光沢のある黒い大理石で出来たテラスが設置されており

一式揃えられた椅子に座るは優雅なる貴族の服装をした青年

 

「久しぶりだな・・ローズ」

 

長めの白髪、キリっと引き締まったその顔立ちは男性ながらにして中性的な美しさを持ち

ひょろりと高めの身長も加わって一種独特の雰囲気を放っている

黒一色で統一された衣装は貴族正装の物・・装飾品はないものの気品に溢れている

「あぁ、久しぶり・・っと言っても〜、私は会うのは初めてだけどね」

「・・記憶の伝承か・・だがその姿はあの頃のローズと瓜二つだよ、ソシエ嬢」

静かに笑い手を前に添えて一礼する青年、それにソシエもはにかんだ笑みを見せた

「・・嬢と呼ばれる歳でもないんだけど・・あんたからしてみればお子様かい?フェイト」

「人の時間概念で言えばそうなるかな。まぁその情報と血を引き継いだ二代目とは言えどもローズには違いない

ともあれゆっくりしてくれ」

笑いながら彼女を席へと招くフェイト

それに対しソシエはコートを脱ぎそれをミーちゃんに預けながら古風ながらも品の良い石製の椅子へと腰掛けた

「さてとまずは茶を淹れさせる。・・人化したとは言えその力量は流石と言ったところかな」

「世辞を言っても何も出ないよ。どのみちあんたには遠く及ばないさ」

「何を言う、かつて『荒麗しき淫闘の薔薇』で恐れられた女魔将ローズ、

全盛期にて本気を出せば俺とてただでは済まなかったであろう」

「さて、それはどうだろうね。この世界は魔にとって制約が多い。

もしあんたがあっちにいけばそれこそ全て支配できるかもしれなかっただろうしね」

「ふっ・・だがそれは我が一族の掟に逆らう事になる。そうなれば俺は祖に滅せられる事になるさ」

「ほんと変わり者ね、夜の一族ってのは・・。まぁそのおかげでここらは一応の平和を保てているわけか

・・私みたいな異例もあるだろうけど」

そう言いながらやってきたミーちゃんが運んできた紅茶を口にする

優雅に口に含んだ瞬間にその眉が微かに動き満足そうに喉に通した

立ち上がる香りもその空間に合っておりミーちゃんは無言のまま仕事を続けている

「それだが・・君以外にも招いた人物がいるのだ。今日はその紹介もかねているんだよ」

「へぇ・・私以外にね・・・。珍しい事もあるもんだよ、境界管理が私情で異物を招いてもいいのかい?」

「それを言うならば君もそうだ・・害をなしていない故に問題もあるまい・・

ともあれ、入ってきたまえ。サブノック君」

軽く声をかけるフェイト・・するとホールより姿を見せる三白眼の男が・・

やや伸びた黒髪、目つきの悪い三白眼に着ている物はそこいらの町民男性に毛が生えた特に特徴のない軽い服装

それはまるで非武装の用心棒・・、城の雰囲気に実に合っていない

それはお茶を飲みに来たというよりかは天敵と一戦交えにきたような出で立ちとも言える

だが本人はそんな事を気にするまでもなく緊張している面持ちで深く一礼をした

「失礼します・・、お初にお目に掛かります、ローズ様・・

小生はサブノック、フェイト様よりこちらに招いて頂いた者です」

「サブノック・・ねぇ。なるほど・・あんたが・・」

「おやっ、知っているのかい?」

「これでも自分が住む国の情報ぐらいは仕入れるさ。

ニースって小さな村で自警に携わっていると聞いていたけど・・なるほどねぇ

よもやそれほどまで力のある闘魔の類だったとは思わなかったよ」

緊張するサブノックに対してニヤリと笑ってみせるソシエ、

世捨て人のような生活をしておきながらも世の動向には鋭いアンテナを立てている

特に魔についての情報は敏感であり同じ国内に住んでいる悪魔の事など当然知っているわけで・・

「それは・・挨拶に出向かずに申し訳なく・・」

深く頭を下げるサブノック、全身に冷たい汗が出て体は強張っている

普段の彼からしてみればあり得ないほどの緊張・・

対しソシエは特に気にもとめていない様子で静かに笑った

「何、別に縄張り張っているわけじゃないんだよ。

挨拶の一つなかったくらいで目くじら立てるほど器量のない女でもないさ

・・だけど・・フェイトが招くだけの事はあるね・・実力からして私でも適わないか・・」

全身なめ回すようなソシエの視線にサブノックは大いにたじろいでしまう

無敵の聖魔も彼女に掛かれば猫に怯える鼠のような物・・

純粋な力だけではサブノックが勝っているのだがそれをくつがしかねない威圧感が彼を狂わしている

「・・いえ・・そんな・・」

「謙遜しなくてもいいよ、

力については付加があってこそ神格に近いモノを得ているようだけど・・元々の力量も高いようだね

・・ふぅん・・、向こうにいた時にゃ聞かない名前な割には良い筋じゃないかい・・・・

いやはや・・世界は広いねぇ」

「あのような荒れた世界では広まるべき名前も広まるまい。

ともあれ、立つのも何だ・・面子も揃ったところで始めるとしよう」

優雅なフェイトの振る舞いと共に静寂に包まれた中庭

その名を轟かせる者達はしばし茶の香りに興じるのであった

 

・・・・・・・・・・

 

穏やかな日差しが差す中庭、

四方は崩れかかった城壁により景色は遮られているものの空気は澄んでおり心地がよい

城内は廃墟に近いもののこの空間は草の生長も控えめであり手入れが行き届いている

テラス用の家具もどれも一級品が用意されており椅子一つ取ってもなにげなさそうで高級感が漂わせている

そしてティーセットも豪華であり乳白色のティーカップには細かな文様が描かれており

その中に注がれた紅の茶が清涼感漂う香りを昇らせ三人の鼻を擽らせた

茶請けはミーちゃんお手製のスコーン、

この地の特産である葡萄を煮詰めて作ったソースが小さな容器に入れ、

添うように置かれており口にしたソシエも合格点を与えた

 

「良い茶葉だねぇ・・私の屋敷にも置いていないモノだよ」

 

「左様で・・。小生如きが勿体なくございます」

 

しばしテーブルを囲みながら茶を味わう三人・・その隣には待機しているミーちゃんの姿が・・

「サマルカンド一の紅茶葉生産地オッサムの一級品を取り寄せております・・

檸檬やミルクを使用するならば別の茶葉を用意したしましたが今回はストレートという事でこちらを用意いたしました」

立ったまま丁寧に説明するミーちゃん、

チャイナ服がこの場の違和感全開なのだが客を招く態度としては優秀である

「何なら手みやげとして少々分けよう・・。しかし、ようやくミーちゃんも一人前に茶を淹れれるようになったな

今回ならば及第点は与えられる」

「ご、ご主人様!」

使い魔を褒めているのだが本人は恥をさらされているのと同じであり冷静を装っていた顔が脆く崩れ去った

冷静に仕えるには彼女にはまだまだまだ、青いようだ

「なんだい?お茶も満足に淹れられなかったのかい?」

「茶も満足に飲めん出身だったからな・・教育するのに時間がかかったものだ」

「う゛・・・」

「ふむ、フェイト様ほどのご身分ならば相応の出身である使い魔を求めるはずと思いましたが・・」

「それは違うよ、サブノック君。

名門の出だろうが田舎の農村出だろうが使える者は使える、使えん者は使えん・・それだけだ。

俺の身分に合わせて仕えさせる話もあったそうだが・・見る限り親の七光りのような女だったからな」

その過去を思い出し静かに笑うフェイト・・

彼にしてみれば身分など関係はない、仕えさせる基準も普通の者とは少し違うのだ

「なるほどねぇ・・使い魔社会でも名門と呼ばれるところは主と身分を比べるらしいからね。

自分より下だと分かった途端に横暴になるらしいね」

「その通り、使い魔の分際で身の程を知らぬ態度を取る者も多いそうだ。

俺に仕える予定だった女もそんな感じであったな。

・・ならば、見窄らしい格好で俺に仕えたいとすがりついてきた女の方が相応しいものさ」

「ご主人様!そのような事を・・この場でおっしゃらずとも!」

瞬時に顔を真っ赤にさせ大慌てで手を振るミーちゃん、

他人を前にして自分の事を触れられる事が予想以上に恥ずかしいらしく素の状態が剥きだしである

「何を言う、お前を褒めているのだぞ?下手な名門出よりかはよく働いている・・性格の方は少々難があるがな」

「う・・・・・」

「はっはっは!自覚はあるようだねぇ!

まぁ・・いいんじゃないかい?魔界一の変わり者に相応しいじゃないかい」

「それは俺も同意だな。

まぁ・・現状ならばどこに出しても恥ずかしくないとは言い難い。これからも精進する事だな」

「・・おっしゃらずともわかっております。どうせ私は貧しい農村の出ですので・・!!」

ムキになって怒り出すミーちゃん、

主と客人の前でキレる時点で使い魔失格なのだがフェイトもソシエも静かに笑っている

「ふっ・・それはそうと、君の使い魔の方は達者かね?」

「使い魔・・?あぁ、ウィンクだね。

そんな関係じゃなくなって久しい分違和感がわくねぇ・・まぁ・・相も変わらずの勤勉さだよ」

「ウィンク・・、確かローズに右腕として仕えた女将でしたな・・。フェイト様、もしや・・」

「察しがいいな。

ローズの補佐として仕えた『死翼の戦女』ことウィンクもローズとともにこちらに来ているのだよ。

使い魔が前線に立ち果敢に戦ったが故に伝説の使い魔とも言われていたか」

「普通は後方援護等がもっぱらだからね。

まぁこっちに来てからは半分人化した状態で今も一緒にいてくれているよ・・

私ほど魔力が無かったからね・・一応は有翼人として通っている」

「ほぉ・・だが使い魔がその身を変えるのもなかなかのものだ。

・・俺のとは違い堅苦しい感じであったがな」

「昔からだよ、まぁ話相手にするにゃミーちゃんの方が適任かもしれないねぇ」

「わ、私などがウィンク様などに比較するなど・・そんな・・」

ミーちゃん萎縮しきる、

それほどまでに使い魔達の間ではローズと共にその右腕として仕えてきた彼女は神格化されているのであろう

「ふむ・・そうともなるとウィンクはずっとローズとともに生きてきたのか?」

「そうだね、休暇として十年単位で世界を回らせもしたり

自由に生きて良いとも言ったこともあるんだけど仕える主は変わらないって言ってさ・・。

まぁ私・・ソシエ自身がローズとして覚醒するまでは正体を隠していたけどね」

「なるほど、外的要因で記憶を継承させないためか」

「ウィンクの存在はローズと直結するからね。

私もローズに目覚めるまではママの女執事としてしか知らなかったしね

それでいいのさ、あいつの本当の姿を知るのは私一人で十分・・娘にも記憶が継承されるまで距離を取ってあるよ」

「面妖な事だ。使い魔として最高の力を持ちその能力を持っていれども自由を捨て仕えるか」

「それが使い魔ってもんだよ。いつだったか・・私じゃなかったら共に移界しなかったと言っていたいね

元々人界にも興味はなかったらしいよ」

「ふ・・、いいものだ。見習うところだぞ?ミーちゃん」

「は・・はい・・」

「ふふふ・・さて、茶も楽しんだ事だ。そろそろ本題に入るとしようか・・」

「いいわよ。サブノック君はどうだい?もうちょいお菓子でも食べておくかい?」

先ほどから黙って茶を飲んでいたサブノックに対し軽くあしらう程度に言ってのけるソシエ

実力ならサブノックの方が上、しかし度量ならば明らかにソシエの方に軍配が上がるようで

聖魔萎縮・・

「い、いえ・・・お構いなく・・」

「そんなに堅くなる必要もない。今回の茶会は何もサブノック君をソシエに紹介するために開いたものではない。

各々わかっているとは思うが・・最近この地が少々騒がしいのでな・・」

先ほどまでの優雅な振る舞いから一転、その顔には真剣さが現れた

「そうだね。この一帯の境界はフェイトが守っているけど・・

余所から来るのか・・魔の存在が多く関わる事件は多い」

「加えて・・小生が持つアラストルの破片の再活性化も気になるところです」

各々思うことがあるようでそれを口にする・・

三人とも今の世について多少なりとも不審を感じているらしい

三者三様、だが力を持つ者には別の力との関わり合いが嫌でも発生してくるものである

「うむっ、二人ほどともなるとやはり感じていたか。

・・どうにも魔界が関与する事件というものが頻発している気がする。

それも俺が管理する境界を経由せず起こっているモノも多い」

「・・調査の結果、邪神に関わる召還実験も多いようです、その例はここ数年でかなり増えてきています」

フェイトの隣にて彼のサポートをするかのように報告するミーちゃん

今日のためにそれなりに情報を仕入れてきたらしい

「・・待った。境界を経由せずに召還する事自体並大抵の事じゃないはずだよ?

私でもあんたに声をかけなきゃ移界できなかったんだから」

「その通り、本来ならば世界同士を隔てる壁というものは強固極まりないものだ。

昔ならば境界を通る以外での召還などよほどの大がかりな儀式をしなければできんだろう

・・それこそ、一国の住民全てを生け贄に捧げるくらいの事をしなければまず無理だ」

「それが今では方法こそ限定されるものの行使する輩は確実にいるわけですね・・

小生も東国にて異界の扉を開く所業をしてのけた女と戦った事もありました」

静かに言うサブノック、それが起こったのは東国の島国

狂気に晒された巫女が行った凶行・・

そこに彼がいなければ今の世界は保ててはいなかったであろう

「おそらくは・・この世界は魔界に近寄っているのであろう。それでなければ異世界からの召還等簡単にはできん」

「この世界が・・魔界に?」

「ああっ、世に人の悪意が溜まりつつあるのは二人とも感じているはずだ。

それによりアラストルも反応して再活性したのであろう・・そうともあれば悪循環だ。

世に悪意が増えアラストルが目覚めアラストルにより人が狂いまた悪意が増える・・。

結果世界は魔界に近寄り邪神の召還などが容易になってきているわけだ」

「兆しってのは見えてきるねぇ。国内のもめ事も増えつつある・・こりゃ何かでかい事が起こりそうだね」

「・・だな・・、おそらくは人の社会にて何者かが暗躍しているには違いない。

裏で策謀し世界に悪意を溜めて大きな事を企んでいる訳だ。

アラストルの再活性もその予兆と捉えて良い・・それ自身が目的かもしれんが・・

情報が不足している・・断定もできんか」

「なるほど・・、しかし・・人の手でそれほどまでに大きな事をできるのでしょうか?」

「それ単体では難しいかもしれないが・・不可能って訳でもないか。そこら辺はどうだい?門番吸血鬼?」

カップのお茶を飲み干しながら尋ねるソシエ、それに対しフェイトは目を閉じながら静かに笑った

「人が思い浮かべるには大それた事だ。魔界からの介入があるとしてもおかしくはない」

「・・なんと、境界管理の目を抜けてそのような事をする輩がいるとでもいうのですか!?」

「落ち着け、サブノック君。現状では俺の一族だけで全ての境界を管理していない・・

他の門番が操られて向こうとこちらでやりとりがあったとしても不思議ではない」

「愚かですね、門番を複数配置する事自体が欠陥です。

普通ならば人界の監視として御主人様の御家系のみが配置されて然るべきなのでしょうに」

「ミーちゃん、それをやると都合の悪い輩もいるもんでな。

俺が全てを管理すると言うことは人界は俺の一族の天下を意味する

その勢力が拡大する事を天上界も魔界も嫌っているのさ」

「やっている事は人間とどっこいどっこいだね・・恥ずかしいもんさ」

「存在が違うと言えども悟りなど簡単に開けるものでもない。

それどころか、人界を巻き込み戦争を起こした天使も悪魔も・・ある意味では人より劣っているのかもしれんな

愚かの代名詞とも呼べる人でも、別の世界まで血で濡らした事はない」

皮肉も交えて笑ってみせるフェイト、

 

天使と悪魔はかつてこの大地にて戦争を起こした。

その傷跡とも言えるのがアラストルの欠片や世界にはびこる魔物、

しかし争った双方は他界への移動を禁じたのみであり人界の後始末は誰も手を貸さなかった。

そこで人界復興とその馬鹿げた行為が二度と起こらないように

人の世界にて壁を監視するために自ら魔界より脱したのが夜の一族・・闇の皇とも呼ばれるフェイトの家系なのだ

故に最初から人の争う気などはなく寧ろ彼らを守護する存在として人の世を影から支えてきた。

その様子を見た天上界と魔界の有力者は人の復讐と夜の一族の勢力拡大を恐れ

それぞれ世界の監視の名目で管理人を数人送り込んできた

夜の一族も異論はなかったが故にこの世界には別の世界を監視する複数の者達が身分を隠して存在しているのだ

 

「まぁ・・何者かがつまらん事を暗躍していることは間違いないね。

私は自分から動きはしないが有事の際には暴れさせてもらうよ・・そのための用意もしてある」

「小生も同意です。幸い体にはアラストルの破片があります、世の変化は身をもって知らされる事でしょう」

「・・ふっ、こちらが言うまでもなく結論を出したか。

では・・ここにいる三人、変異が起ころうものならば全力を持ってそれを排除する・・それでいいかな?」

「当然、ローズの名にかけて邪魔者は始末させてもらうよ」

「小生にできる事があるならば喜んで・・」

「二人とも、礼を言う。・・まぁ、この三人ならば天と魔、その両方を相手にしようが物の数でもあるまい」

「左様ですな。特にローズ様の御力は魔界の輩に取っては畏怖の対象でもあります

ウィンク様もいらっしゃるのであれば伝説の再来とも言えるでしょう」

「何言ってるんだいサブちゃん、それほどのもんでもないだろう?」

「謙遜する事はない。そもそも魔界では女の数は少ない・・、

本質的に女性が産まれる確率が低い故に繁殖には堕天使が淫魔、

もしくは他界より人間を攫って産ませるものだからな

その中で将となりその名を轟かせたのだ。奴らにとっては天使以上に恐怖を与える存在だ」

「気に入らない奴ぶっとばしただけなんだがねぇ・・まっ、それもいいか」

「君らしい・・、まぁ、人の手を借りる必要性にもなりかねん事態にはなりそうだな・・

その場合がくれば協力も必要だな・・

この一件、我らのみで治めるだけではなく人間自身も立ち向かわなければなるまい」

「それならば小生が世話になっている者達も手を貸していただけるでしょう。

アラストルの破片についても警戒をしております。

それに天上にて精鋭を勤めた元戦乙女もおります」

「・・ほぉ、珍しいものだ。天上の者は下界を嫌う傾向が強いのだがな」

「扱いとしては堕天使に当たるらしいですが天使としての資格は戻されたようです」

「・・つまりは人でありながら半分は天使って訳かい。私に近い存在だね」

「左様で・・、もっとも彼女はまだその力を解放してはいませんがそれでも素晴らしき技量の持ち主です」

「堕天使として魔に墜ちなかっただけでも見所はある・・君と合わされば邪神相手だろうが一歩も退かないであろう

・・でっ、ソシエの方では当てになる者はいるのかな?」

「そうだねぇ・・娘のところかね」

「噂のジャジャ馬娘か・・。まぁ君の娘ならば仕方はなかろうが・・」

「そりゃ私の責任じゃないね、

まぁ娘は私がいる以上『ローズ』としての力を覚醒する事はないだろうけど

それでも悪魔の呪を克服して自身のモノにしている。荒削りだがそれなりには使えるよ。

後は娘の保護者達だね・・ユトレヒト隊って冒険者チームを組んでいる。一人一人が良い腕をしているよ」

「なんと・・御息女がユトレヒト隊に所属していましたか・・」

「・・ユトレヒト隊・・か。

噂は耳にしている・・この国の騒動を治めたのもその隊長だったか・・な?」

「左様です、クラーク=ユトレヒト。サマルカンド地方の民主化に協力した傭兵公社の隊長でした」

静かにミーちゃんがサポート、人間嫌いと言えども必要な事は調べる、それが仕事・・

「最近じゃ竜まで仲間に入れているようだからね。有事の際にゃひょっとすれば人の切り札にもなるかもねぇ」

「竜をか・・なるほどな。従えさせるだけの器を持つ者もいるのだろう・・状況はわかった。

後はどこまで裏での動きを捉えられるか・・だが・・

まぁせっかくの茶会だ。今日は物騒な話はここいらにして茶を楽しむとしよう・・

なんなら葡萄酒もある」

「酒の飲むにはまだ日が高いが良い提案だね。ここの葡萄酒は私も取り寄せているくらいだし・・

だけど白と調理用かが足りなくないかい?

こちとら海が近いからねぇ・・料理にゃ赤よりも白の方が合うんだよ」

「俺は赤が好きでね・・。まぁ他ならぬローズの頼みだ、今度民に頼んで作らせ送ってやろう」

「楽しみにしておくよ・・ってか吸血鬼ってのは血の変わりに葡萄酒を好むってのは本当だったんだねぇ

・・まぁそれを差し引いてもここのは逸品だけどね」

「葡萄の名産地と名高いですからな。ですが同じ朱でも今はこちらを楽しみましょう」

「・・魔に属する者ながら勤勉な者達だ。

・・そうともなればミーちゃん、せっかくだからとっておきのを用意してくれ」

 

「畏まりました、ではプレミアムが付いているオッサムのロイヤルゴールデンペコを御用意いたします」

 

「あれ・・か、来客用にまだあったか。

ならばそれを淹れてくれ・・、では諸君、もうしばし優雅な茶を楽しもう」

 

優雅に振る舞いながらフェイトが言う

廃墟の中のテラスにて、この世を律を覆しかねない程の力を持つ猛者達は

静かに紅茶を楽しむのであった・・


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