「ユト隊の増築」
通常増築という物は早々手が出せないイベントである。
費用はかかるし下手な業者に頼もうものならば丸まる損をするばかりか住む場所すらも破壊しかねない
しかし現在売り出し中の冒険者チーム「ユトレヒト隊」はそんな一般的な状況とは違う
何せメンバーの中に優秀な大工(?)と設計者(?)がいるのだ
土地も十二分に余っているがために後は資金があるのなれば自由自在に増築が出来る
そしてその資金はというと普段の仕事の報酬により冒険者が持つよりも数段裕福な状況、
まぁ身内に大金持ちはいるし国王から目をつけられている分溜めようものならすぐに溜まるのだ
そして・・
「では〜、第一回『改築するので意見でも言ってみよう会』を開催しま〜す」
珍しく食堂に集まりユトレヒト隊全員が召集、リーダーであるクラークが司会進行のようだ
ゲストとしては最寄り町の名鍛冶匠、リュートとシャンが彼の隣にちょこんと座っている
「改築するのは結構だけど〜、リュート達がなんでいるの?」
いつもながら白タンクトップにデニム短パンなセシル、この状況でリュート達を襲うわけにもいかず休戦状態に面倒臭そう
「まぁ〜、色々と材料の発注をお願いしようと思ったからな。基本的には防音加工の改築と1階裏庭の増築を行うつもりだ。
裏庭にはすでにキルケの裁縫部屋を作ったから他の面々にもリクエストがあれば聞こうと思ったんだよ」
事の発端は防音について・・誰かが四六時中やかましいわけではない。
ただ、1人の淑女が女としての喜びを感じるのをそっとしておいてやろうという心遣い。
それ故に当の本人は名指しされていないにも関わらずすでに首まで真っ赤になり硬直している
彼女もその事を申し訳なく思いギャグボールを想い人に巻いてもらったりしているのだがそれでも声は治まらなかったり・・
「私はもう裁縫部屋を用意してもらったので・・。あっ、でも生地を保管する倉庫みたいなのがあれば嬉しいです♪」
清楚な白ブラウスにロングスカートなキルケが笑顔で言う、愛する男が自分の趣味の部屋を作る。
これはこれで溜まらないだろう
「了解、そんじゃ倉庫は裁縫部屋に隣接する形にしようか・・。クローディアは?何か欲しいか?」
「え・・あ・・私です・・か・・。自室があるだけで満足なのですが・・」
元々控えめなクローディア、赤貧出身故に自分の部屋があるだけで大満足な様子
「そうか・・?う〜ん、まぁ自室以外にもスペースがあれば良いと思うんだけどな・・道場スペースでも造るか?」
「いえ・・外の方が動きやすいですので・・それでは・・小さな和室をお願いします・・」
「了解、それじゃ茶室にしておくよ。え〜っと・・アミルは・・他に・・何かいるかな?」
気まずそうにクラーク
アミルさんは未だにショート中で錆び付いた機械な如くぎこちなくカクカク動いている
「あ・・え・・あ・・そ・・の・・」
「ははは・・、まぁ・・思いついたなら言ってくれよ。メルフィは何か要望はあるか?」
「うむ?そうじゃのぉ〜、和室というのが気に入っておるのでな。クローディアの和室があるなら妾は別に何も望まん。
それよりも防音の方は大丈夫なんじゃな?アミルの奴がうるさくてかなわん」
「す・・みません・・」
蚊の無くような小さな声の謝罪、幸いメルフィには何をしているのかわからない様子なのだが・・
「まったくに・・里にいた時はあのような奇声は放っておらなんだのにのぉ・・」
それもそのはず・・里にいては巡りあえなかった存在に会えたのだから・・
「防音については僕が保障します、壁間にこの特殊吸音材を詰め込めば例え魔法による大音量でも塞げる事ができます。
王室御用達の製品ですので折り紙付きですし」
そう言いながらリュートはサンプルとして手に収まるほどの板に小麦が詰まった袋のような物が張り付いている
「その袋を・・壁と壁の間に詰め込むのですか・・?」
「はい、丈夫な袋の中に吸音性がある粉を満遍なく詰め込みそれを壁の間にはめ込みます。これにより音を全て吸い込むわけですね。
かさ張る分今の部屋が少しだけ狭くなりますが・・」
「ふむぅ・・、粉で音をなぁ・・人間というものは細かい事を工夫するものじゃ」
何気にメルフィはその防音システムに感心している、山の上の辺境地に住んでいたメルフィにとっては想像もできない事なのは間違いない
古代の知識に対しては博識である竜人も最近の話題はついていけないのだ
「まぁそれはやってみてのお楽しみだな・・、因みに今の館でも防音としてオガクズを使用しているんだ。原理は同じかな・・」
「ならば・・多少の心配は残っちゃいますね・・」
「・・・・」
申し訳アリマセン・・っと体で表しているアミル、もう穴があったら入りたい心境だ
「それはそうと〜、ロカルノは何か造っておくか?オシオキ部屋その弐とか・・」
「一つあれば十分だ。私は・・仮面の保管庫としてギャラリーを造っておくか・・」
当然のように呟くロカルノだがその提案に一同の時が一瞬止まる
「あ・・ああ・・そうか・・。っというか今のコレクションはどこに保管してんだよ・・?」
以前からの彼の行いからして相当な数を保有している事は間違いない
だが彼の部屋は特段収納スペースが多いというわけでもなく寧ろ質素に纏められており何気にクラーク達の中では
どこに仮面を保管しているのか疑問を持っていたのだ
「普段使用している分は一週間分をアタッシュケースに入れて保管している。コレクションの方は盗まれるわけにはいかないから
ハイデルベルク中央銀行の貸し金庫に保管してある」
趣味に金と手間をかける男、ロカルノ。その価値観を理解する人間はここにはいない・・
「わ・・わかった。それが保管できるようにするか・・デザインはお前に一任するな・・」
「任せておけ。リュート、すまないが防音剤と共に鏡と金庫を数個発注をかけておいてくれ、鏡の採寸はまた追って伝える」
「か・・鏡・・ですか・・?何を・・」
もしや仮面保管庫にて鏡の前に1人にやけているのではないか・・、
そう考えただけで彼が遠い存在のように見えてくるリュート・・
「四面鏡張りにしてそこに仮面を飾る、反射にして無数の鏡が飾られているようにも見える・・これぞアートだ・・」
悦っているロカルノ・・
だがそれに共感する人物はいない、例え恋人でも・・
セシルに至っては
(そんな部屋で仮面について語られたら溜まったものじゃないわね・・)
っと危険を先読みしそこを絶対立ち入り禁止地区に指定するのであった
「それじゃ〜・・後はセシルか・・・。なにもないよな、はい、おしまい」
「まってぇい!私も住人なんだから要望ぐらいあるわよ!」
「・・じゃあ何なんだよ?ハーレム部屋とかそういうの却下な」
彼女ならば言い出しかねないだけに釘を刺すクラーク、だがこれ以上の失態は本妻の座転落を意味するだけに流石のセシルも
そんな提案を考えていたようではないらしく・・・
「失礼ね!ロカの目の前でそんな事したらオシオキ決定じゃないの!」
顔を真っ赤にして大激怒〜
「じゃあどうするんだよ?変に凝ったもんなんか造れないぞ?」
「凝ったものかもしれないけど・・地下シェルターとか必要じゃない?」
「ふむ・・セシルにしてはまともな提案だな・・」
「・・ですね・・熱・・あるのですか?」
まともな事を言うセシルにロカルノとキルケが心配しだす、日頃の行いは大事である・・
「し・・・っつれいね!平熱よ!平熱!これでも真冬の雪山でカキ氷をたらふく食っても風邪引かなかったんだから!」
「・・何してんねん・・。で・・地下シェルターなんてお前必要なのか?」
「う〜ん、まぁママが襲ってきた時に凌げるスペースは欲しいし、私達も結構有名でしょう?
VIP依頼者がうちにきてもしも身の危険があった時とか私達自体狙われた時とか・・あったほうがよくない?」
彼女も彼女なりに皆の生活を気遣っている・・らしい
最も、前者の方に重点を置いているのは明白なのだが・・
「まぁ理由は正当だけど〜、教会の敷地ないだからなぁ・・神父さんに許可が出たら地下室を造るか」
「やりぃ♪」
「ついでだ、氷室みたく低温の食料保存庫でも造っておくか・・。なんか共有スペースみたいな物とか必要なのはあるか?」
「ふむ・・、そうだな。こなした依頼などを書類にして保存をしておきたい。軽い書庫でも作った方がいいな」
「あいよ・・。まぁそんなところだ。シャン、見積もりはどんなもん?」
リュートの隣で算盤パチパチしているシャン、詳しい設計書がなければ正確な見積もりは出せないのだがとりあえずおおまかな
予測をしているようで紙に色々と書いている
「う〜んっと、規模としては十分予算に収まると思います。ただ・・地下室についてが不透明なところが多いですね」
「まぁ、シェルターってぐらいだものな・・。神父さんの許可やどの程度強化するかまだ未定な部分も多いしそれは省いておいていいぜ?
オーバーしたらセシルの自腹だ」
「う゛!・・マジ・・?」
「1人だけ費用が掛かりすぎる。それにあのソシエさんの事だ。並大抵の装甲では意味を成さない」
「・・わかったよ・・うぅ・・」
恋人に促され渋々承諾するセシル、確かにソシエのような人外じみた実力を持つ女性の襲撃にはいかなる装甲も意味は薄い
加えて地下にそんなものを造ろうものなら下手をすれば水攻めにあう可能性もある・・
対ソシエ用シェルターともなれば相当特殊な物にしなければならないのだ
ぶっちゃけ超合金な核シェルターでも防ぎきれたものではないのだが・・
「ん〜、まぁ大筋だとこんなところか。詳しい配置や図面はまた報告するからそっから頼むぜ、リュート」
要望をメモして構想を練る、その所業、正しく匠なり
「了解です。いいのを用意しておきますよ♪・・あっ、それで暇を見つけて少しアイデア装備を考案したのですが・・プレゼンしていいですか?」
「ふむ、リュートがか。日頃世話になっているんだ、遠慮する事は無い」
「ありがとうございます!」
ロカルノの許可によりリュートは手持ちの袋を広げ中から道具を取り出す
「これはメルフィさん用に考えたものなのです」
ゴトリと食堂テーブルに置くは鋼鉄の角に刃が螺旋状につけられた言うところの「ドリル」
「な・・なんじゃ?妾に・・?」
おっかなびっくりにそれを手に持つメルフィ、ドリルは内部が空洞になっており持ち方によってはやたらと変わっているカップのようにも見える。
「メルフィさんの角に採寸を合わせています。装着してみてください」
「う・・うむ・・」
上機嫌なリュートに言われるがままメルフィがそのドリルを装着する。まるで刀が鞘に収まるが如くスッと違和感なく装着完了。
一見するといつものメルフィの角が銀色に変わったかのように見える
「何だか・・角のケースみたいな感じですね」
「ですがそのままで生活をされると困ります・・。先端も尖っていますし・・」
周囲の目は賛否両論、日頃からその角が他人に傷を負わせないかと気掛かりなアミルにとっては刃が付いた金属角ケースなど
余り賛成はできない・・例え自分の嬌声で迷惑をかけていようとも・・
「角を保護するには悪くはないが・・少し重いぞ・・?」
「いえいえ、まぁケースとしても使用出来ない事はないのですが立派な武器ですよ。これで試してください」
そう言い取り出すは厚さ5センチはあろうかという鉄板・・・
リュートは席を立ち窓を開けてそれをかませる
「なんじゃ・・?」
「角の切っ先を鉄板に合わせてください」
「うむ・・こうか?」
流石に体の一部なだけに標準はすぐに定まる・・、ある種器用に見えてしまうものだ
「それで角部分魔力を込めてみてください!」
「こ・・こうか!」
標準がぶれないようにこらえながら念を込めると同時に・・
チュイィィ・・・ン!
ドリルが高速回転を始め、勢い良く角より飛び出す!!
高速で飛翔するドリルは寸分の狂いも無く鉄板の中央に当たる!
チュィィィィィン!!!
火花を撒き散らしながら鉄板を抉るドリル・・高速回転するそれは鉄板の深くまで抉ったところでピタリと止まった・・
「ううん・・予想以上ですねぇ・・。」
完全に勢いが止まったのを確認してから鉄板を取るリュート、分厚い鉄板にささったドリルは貫通した状態で止まっており
その威力の凄まじさを物語っている
「何をやったのです・・か?鉄板がこんなに簡単に・・」
「メルフィさんの魔力を利用して角より射出させるドリルを作成したんです。内部には風晶石の粉末を仕込んでいて
それが推力になっているんですよ!」
「む・・う・・、なんというか・・あんまり欲しくないの・・」
「ええっ!?何でですか!?鉄板でこれなんですから並の相手ならば肉体貫通に致命傷は確実ですよ!?」
「・・それを長時間つけるのは・・恥ずかしい・・」
我侭竜娘メルフィ、流石に恥というものを知る年頃になったようだ・・
「そうですかぁ・・なら、ファッション性を考慮して作り直してみます」
「え・・!?お・・おお・・」
本人としてはそんなのはいらないと断言したいところなのだが心底残念そうなリュートにそうとはいえず・・・
おそらくはこれから数度、彼はメルフィに試作品を持ってくる事だろう。
「それで・・もう一つはロカルノさんに対してです!」
「ほう・・私か。ドリル装備の仮面というのも悪くはないな・・」
それもありか・・っと1人納得しているロカルノに対しセシルとアミルの顔が強張る。
冗談だとは思うが相手は変態仮面(?)もしかすると本気なのかもしれない。
「あっ、いえ・・仮面よりも実用的なものです!セシル!廊下に出て行け!」
「なっ!?いきなり何を!?」
「それじゃなかったらわからないのよ!ほらっ!さっさと立って!」
叱咤するシャンにイラっときながらもロカルノに対する一件ゆえに暴れるわけにもいかず・・
「・・覚えておきなさいよ・・!」
チンピラのように睨みつけながらセシル退場・・
彼らの帰路には護衛が必要になる事だろう・・
「・・それで、何を用意したのだ?」
「それはですね〜・・」
”お・・わわわ!!!”
含み笑いをするリュートの説明を遮るように廊下から悲鳴が・・
「セシルか・・?」
「かかりましたね!見てみましょう!」
歓喜しながら走り出すリュートに対しロカルノ達は怪訝な顔をしながらその後に続いた
廊下に出ればそこには異様な光景が・・
「・・何やってんだ?」
「あ・・足が動かないのよ!」
妙な紋章が描かれた鉄板を踏みながら慌てているセシル、必死にもがいているのだが板を踏んでいる右足だけはびくともしない
「・・ふむ、リュート、これは・・?」
「はい!これは対セシル用捕縛トラップ『ケダモノホイホイ』です!」
「ケダモノ・・ホイホイ・・(プッ)」
某台所の悪魔用トラップのようなその名前に思わず噴出すキルケ、何気に酷い事である・・
「み・・皆何笑っているのよ!?それに何よ!『ケダモノホイホイ』って!」
「これは僕が研究したケダモノ女を引き寄せるフェロモンを仕込んだ鉄板だ、ケダモノならば本能的に惹かれ知らず知らずの内にそれを踏むように出来てある!
そして踏んだ途端にトラップ発動にその足を完全に硬化、固定させる!これぞ究極のケダモノトラップだ!」
「だが・・硬化か・・。セシル、動けるか?」
「動けたらその犬ガキ殴っているわよ!」
もがきにもがくセシル・・その姿は実に滑稽でキルケとクラークは必死に笑いを噛み殺しメルフィは食堂内で顔を真っ赤にして転げまわっている
「まぁちょっとした仕掛けです。要は触れた物に磁力を纏わせて固定させているのです。第三者が手をさし伸ばせば解除する仕組みですが
自力で抜け出すのはいくらセシルでも無理でしょう・・」
「なるほどな・・。本人が気付かないうちに陥るトラップか・・実用的だ。頂こう」
「ありがとうございます!まだまだ改良の余地がありますのでデータを取って頂くとありがたいです!」
「任せろ、量産化すればこの国の腐女子も多少は減る事だろう・・」
その代表格(?)セシルを目の前にロカルノがさも当然のように呟く
「しどい・・皆しどいわ・・」
とことんついていないセシル、こうなっては抵抗も出来ず1人涙を飲むのであった
・・合掌・・
・・数日後・・
予算はたらふくあり設計も今回は熱が入っているロカルノであったがために着工は瞬く間に開始された
通常ならば数人で挑む工事も大方クラーク1人、それだけだと申し訳ないとクローディアがサポートをする
彼女もクラークほどではないがこうした大工作業もそつなくこなす。
何でも修行であり何をするにも得る物がある・・っと師が教えたモノであり的確に彼の手を助ける
地下室に至っても別に墓地スペースでもないとの事で神父より許可が下りた事もあり着工可能、
穴を掘るのはセシルが担当し数日掛かる作業を一時間程度で終わらしたとか・・
一騎当千が大工作業をするとこうなるのかと言う事をまざまざと見せつけ増築工事は僅か数日で見事に終わりを迎えた
玄関を開けて左手に食堂と厨房、その奥が談笑室。右手はトイレと軽い倉庫、そしてアミルとメルフィの部屋と大浴場な設計に加え
中央を伸びる廊下を拡張しキルケの裁縫部屋、生地倉庫、書庫、仮面ギャラリーと和室が設けられた。
和室は和風の談笑室にしようとの事で談笑室と隣接する形にしギャラリーと裁縫部屋をセットにしてちょうどまとまったような感じだ。
そして地下室には1LDKなかなりの広さを持つ一室・・これは記事倉庫の床を入り口としそこから分厚い金属蓋を経由して立ち入るスペースであり
シェルターなので窓などは無いのだが快適な空間になっている。
さらにはそのシェルター室の奥に軽い武器庫を設置、何かあった時のため・・っということなのだが具体的な要素は特になかったりする。
おまけはアミルのリクエストと言う事で庭に軽い菜園を造りひとまずは増築工事は無事終了した。
因みにこの菜園、セシルが無断に収穫して喰い散らかさないように『ケダモノホイホイ』を何個か設置、土に埋める形で常人には全くわからないのだが
セシルにとっては地雷原のように見えたのは間違いないだろう・・
「いや〜、今回もやりがいがあったなぁ・・」
新しい和談笑室にて寛ぐクラーク、数日の激務に少々疲れが見えているのだが新しいスペースに満足している。
この部屋は隣の本家談笑室とは違いやや長いテーブルが置かれているのみ。クローディアとメルフィのスペースということで
余り飾り気を出さないようにしたのだ
「ご苦労様です・・。こんなに立派な物を・・」
彼の隣で微笑むクローディア、談笑室の畳は今回は自前で作ったのではなくカムイから取り寄せた物、
その方が馴染むだろうというクラークの心配りでそれが彼女には嬉しいのだ
「うう〜ん!やはりいいのぉ〜・・ごろごろできる!」
いちゃつく二人を尻目にメルフィは新しい畳に満足したのか早速ゴロゴロと・・
「メルフィ様!はしたないですよ!」
「・・なんだか・・、猫みたいに角で畳を突き刺して手入れしそうですね・・」
「なぬ!!?」
はしゃぐ竜娘に苦言・・、角の価値観の違いは時に溝を作る・・
「まっ、修理できるから別に手入れしても大丈夫だぜ?」
「誰がそんなことをすんじゃ!?まったく!」
「でも、ちょっとはしたかったんでしょう?」
「・・う・・」
「メルフィ様・・」
キルケからのツッコミに強く言い返せないメルフィ・・。我侭娘の考える事は結構わかりやすいものであった・・
「それよりも、生地倉庫は気に入ってくれたか?」
「ええっ♪これで作業がはかどります♪」
クラークの仕事に満面の笑みを浮かべるキルケ・・なのだが、本来彼女はエクソシスト・・
全く関係のないことを力を注いでいるのだがそれを疑問に思う者はそこにはすでにおらず・・
恋する乙女は常に進化する
「仮面ギャラリーの方も上々だったようだしな・・。貸し金庫から全てこちらに持ってくるって・・」
「業者に相談するとおっしゃってましたから・・相当な量なのでしょうね」
ここにはおらず出かけているロカルノに対して何だか遠い存在のように思えてくるクラークとアミル
まぁ趣味は個人の自由と言う事でそこは深くは考えない事にした
「あのギャラリーも仮面飾らなければダンスの練習場にも使えそうな感じですけどねぇ・・」
ロカルノが力を入れたギャラリー、宣言どおり四面を鏡張りにしており現在は他に何も置いていない
「ま・・、本人の好きにさせておけよ・・。アミルは菜園気に入ってくれたか?」
「あっ、はい。綺麗な物を作っていただいてありがとうございます」
庭先の菜園の出来も上々、アミルにとっての楽しみは少しは増えたようだ
「ははは、土も農家さんのを分けてもらったから良い物が育つと思うぜ♪・・後は・・防音壁だな・・」
「・・・」
その話題になった途端にアミルは萎縮する・・、一瞬で真っ赤になるその様はもはや名人芸?
「ま・・まぁまぁ・・気にしませんよ♪」
「妾は気にするわ・・」
「申し訳・・ありません・・」
いけないとわかっていても抑えられない情がある。アミルはしばらくその事で悩まされそうであった。
そしてもう1人、悩む女が・・
”あぁーーー!!!”
庭先から轟く悲鳴・・それは・・
「セシルか・・・今日で何回目だ?」
「3回・・でしたね。何でも有効範囲に入ると体が勝手に動いちゃうんですって・・」
恐るべしケダモノホイホイ、っというか全てはセシルの自業自得なのだが
続けて裏庭から聞こえる救出要請に何だか可哀相にも思えてくる
「・・裏庭には近づくなって・・ロカルノから忠告させておくか・・」
「その前に自覚させたほうがいいと思いますが・・」
自覚をするならばケダモノではなく・・結局は庭のトラップにひっかかったお馬鹿な女を救出するために一同重い腰を上げるのであった
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