「アミルさんの一日」


ユトレヒト隊の朝は早い
朝から訓練を行う者もあり祈祷をする者もいるからだ
まぁ一部はいつまでもグースカ寝ているモノもいるのだが・・
そんなわけで必然的に朝食の準備も早朝から行われておりそれを担当するのが専らキルケとアミルになっている

「うん・・・あ・・」

早朝
自室にはゆっくりと目を醒ますアミル、窓からはまだ日光は差しておらず薄明るい
ここの生活にはようやく慣れてきた彼女、それゆえに部屋に置かれている物には個性がなく
キルケから借りている恋愛物の小説ぐらいであったのだが最近では少し変化も現れてきており
枕元に小さいぬいぐるみが置かれるようになった
手のひらに乗るぐらいの大きさであるそれは銀髪に目元を隠す仮面、黒いマントをつけており手には可愛らしい槍が持たれている
それは彼女の想い人であり仕える主の物・・
なんともなしにキルケが気を使ってぬいぐるみの作り方を教えたのだ。
アミルも最初は照れくさかったのだが教え方がよかったのかアミルのスキルが高かったのか予想以上の出来に今ではお気に入りで
枕元を飾っている。
・・それゆえ、休むときにはこのぬいぐるみを軽く抱きしめたりもするのだがそれは誰も知らない彼女のお約束事・・

「・・ふぅ・・、ロカルノさん・・。昨夜は来てくれなかったのです・・ね・・」

軽くため息をつくアミル・・、彼と体の関係を持って以来彼女はいつも白いネグリジェ一枚で寝ている
自分をいつでも求めてくれていいとの事であり寝ていながらも彼を待ち望んでいる
現に何度かそれに彼も応え優しく彼女を抱いている
自分の体を求めてきてくれたことがアミルにとっては大変嬉しい事であり、それがいけないとおもいつつ毎夜彼が来る事を密かに願っているのだ
「・・・いけない、私・・」
朝の澄んだ空気がネグリジェ一枚の彼女を冷やす、だがそれでも体の火照りは取れずに悶々とした気分になる
清楚な性格に似合わない彼女の豊満な胸や括れた腰・・男を魅了するほどの美しい体は彼女の気持ち以上にロカルノを求めている
だが、すでに一日は始まっている・・
それがはしたない事だと自分を一喝して彼女は静かに着替えを済ませて行った

・・・・・・・・

部屋を出て厨房に向うとすでに庭からは甲高い金属がぶつかる音がしており
朝の訓練が始まっていることが瞬時にわかる
「おはようございます♪」
そんな中、朝のシチューを作るために材料であるキノコを切っているキルケの姿が・・
朝からメイド服をきっちりと着ており満面の笑顔、肌の艶も異様に良かったり・・
そこらは彼女の恋人であるクラークのおかげと言うべきか・・
「おはようございます、祈祷は終わられたのですか?」
「ええっ、さっき終わりましたよ♪ミィちゃんがいるから準備が捗ってすぐ終わるんですよ〜」
「・・では、一回着替えましたか?」
「いえ、メイド服のまま祈祷しました♪祈る気持ちが大事ですので服装は特にこだわらないんですよ」
「はぁ・・」
そういうものなのかと納得するアミル、寧ろ館の中でただ一人メイド服を着用している事について突っ込むところなのだが
それも何時の間にか納得していたり・・
「じゃ、今日もがんばりましょ〜♪」
「ええ・・そうですね♪」
キルケに明るさに思わずアミルも微笑み返しその日の一日がゆっくりと始まった

・・・・・・

「クローディア〜、お塩取って〜」
「はい、どうぞ・・。余りかけ過ぎたらいけませんよ?」
「わかっているわよ〜、っというか・・クローディアとクラークが薄味過ぎなんじゃないかしら?ねぇ、ロカルノ?」
「住んでいる地域によっては異なるものさ。
私のような寒い国育ちではすぐ料理が冷める故に冷めても味がわかるように濃い味付けが好まれる」
「そうそう、俺達の国はただ単に戦乱続きで塩が不足していて味が全般的に薄く定着しただけなんだけどな」
「ふぅん・・、そんなものかしらねぇ。じゃあ私とキルケは普通かしら♪」
「そうですねぇ・・。まぁ両極端なのもあまり良くないらしいですから・・ロカルノさんも余り濃い味付にしすぎないでくださいね?」
「承知している。・・そういえばアミル達は普段はどのような食事をしていたのだ?」
「山で取れたものを調理しておりましたのでかなりの粗食でしたね。こちらの料理の豊富さに驚いているぐらいです」
「そうじゃのぉ・・甘味物と言えば蜂蜜ぐらいじゃったからの。まぁ多少は麓の町に買出しに行って食料を買ったりもしていたな」
「あそこら辺りは交易隊の交流も盛んな地域でしたからね、それなりに品物は集まってくるでしょう」
「ミィ?こうえき・・たい?」
「ああっ、食べ物や着る物を運んだりする人達のことだよ?」
「ミィ〜(ぽむ)」
いつもの如くホノボノとした会話のユトレヒト隊
テーブルに並べたのはパン、シチュー、サラダ。質素ながらにしてどれも一つ一つ手が込んでおり
一同貪るように食いながらたわいのない会話をしている
「それにしてもキルケの腕の上達もすごいが、アミルの焼いたパンもうまいな?」
何気なくクラークが言う
ここは小さい館ながらも個人趣味が名人芸の位までに昇華した大工がいるためにパン専用のオーブンまで用意されており
アミルは主にパン焼きを担当している
最初は慣れない手つきだったもののキルケやロカルノの手助けあって今では完璧に焼き上げているのだ
「いえ・・そんな・・」
「ふっ、確かに焼き具合も絶妙だ。料理の才能があるな」
「ロカルノさんの・・教え方がよかっただけですよ・・」

「「むっ・・」」

少し照れるアミルにセシルとメルフィが反応をする
「アミルが焼いたのよりも私が作ったほうが断然美味しいわよ!」
「・・お前作ったパンなんぞ『完全に炭化した何か』だ。大体以前失敗した物は脱臭用の炭として玄関に飾っているだろう?」
「う゛・・」
「ふん!アミル、一つの調理を覚えたぐらいでデレデレするでない!」
「す、すみません・・メルフィ様・・」
「・・嫁いびりに近い光景だな・・」
「何!?」
「まぁまぁ、竜人でも自由恋愛はありですよ♪」
一人明るく制するキルケ、無言の圧力にメルフィさん黙り込む
「っというかあんた達の恋愛のほうがよほど不自然じゃない?」
「そうか?俺は別に二人とも愛しているんだけどなぁ・・」
「兄上・・」「クラークさん・・♪」
「はいはい、ご馳走様。
さて・・そんじゃ後片付けはメイドさん二人にお任せして私は出かけてくるわね〜?」
元よりこの女に後片付けをさせるような真似はしない
食器洗い中にキレられても困るし何よりも厨房に近づかせる事が危険極まりないからだ
「は〜い、それじゃ今日は私とクラークさんで後片付けしますね?今日はギルドの日でしたし」
「すみません・・では、お願いしておきます」
「ふっ、では・・行こうか、アミル」
「そうですね、では・・一足先にごちそうさまでした」
席を立つロカルノ、それに合わせてアミルも彼の隣に寄り添いながら街へと出かけていく
これもまた、最近の彼らの中ではいつもの光景となっている
「・・そんじゃ、騒がしいのもいないし俺達はのんびりするか」
「そうですね♪あっ、二人とも、後で剣の稽古をお願いします♪」
「わかりました、キルケも上達したものですね・・」
「クローディアさんのおかげですよ〜♪」
こっちはこっちでいつも通り、そうともなれば残されるはメルフィと神父親子(誤)
「ううむ、ミィは今日は予定はあるのか?」
「ミィ?きょうはおでかけのひ!」
「隣町で葬儀の手伝いに参りますので・・ミィにも来てもらおうかと思っているのですよ」
「む・・ならば妾が行っても面白くないな・・しょうがない。あそこにでもいくか・・」
「あれ?メルフィさんどこかお得意さんでもできたのですか?」
「まぁ、面白いところを・・な。では少しでかけてくるぞ〜!」
ワガママ巫女竜娘、威風堂々と街に出る
普通ならば安全とは言い切れない街に子供一人外出させるのはあまりいいことではないのだが
彼女に至っては完全なる杞憂だったりもする

・・・・・・・

「ロカルノさん、これなんてどうでしょう?」

「ふむ、悪くはないな。多少報酬が気に掛かるが・・保留しておくか・・」

ユトレヒト隊拠点である館から最寄りの街プラハにある酒場、憩いの場以外にも冒険者達に対する依頼書などが
壁に貼られておりマスターが仲介して仕事を紹介しているのだ
とはいえ、この街にはユトレヒト隊以外の冒険者はほとんどいないので彼らの独壇場に近いものがあるのだが・・
「幽霊騒ぎが起こる屋敷・・か。キルケとクローディアの二人なら十分だな」
カウンターに積まれた依頼書に目を通しながらロカルノが軽く推測する
力量からして全員まとまっての依頼よりもそれぞれが適した依頼を数多くこなしたほうが収入がいい
そうなると個人個人でわざわざここに来て選ぶよりも面々の長短を把握している人物が担当したほうがいい・・
っということでかねてから依頼探し担当のロカルノがその役となっている
だがそうなると選定するのに時間がかかるので、与えられた仕事を全員こなして新しい仕事を決める時には
アミルにも手伝ってもらっているのだ
最も、彼らにかかれば大抵の依頼など1〜3日で解決するようなモノなので移動日数込みで週一のペースでこうして手伝っていたりする
「キルケさんですか、幽霊退治は得意なのですか?」
彼の隣に座りロカルノと同等の依頼書の束に目を通しているアミル。
大切な仕事なのだが彼女にとっては他の面々の目を気にしない二人だけの時間
心が何気に舞い上がっている
「・・まぁ、コスプレばかりしているから本職がよくわからんようになっているが・・優秀な退魔士(エクソシスト)だ。
その手の事の対処に長けている・・。以前も幽霊船探索に出かけた時に活躍したよ」
「・・なるほど・・。ですが、色々しているのですね」
「変わった依頼には事欠かないからな。それでなくてもこれだけ依頼がある世だ・・。」
「それもそうですね・・。それではお二人にはこの幽霊屋敷の件にして・・次はクラークさんですね・・
・・教会のリフォームとか・・いつもながらありますね・・」
数ある依頼書の中で何故かクラーク御指名の依頼も多い、それは本職の冒険者としてではなく大工仕事として・・
特に教会や修道院からの人気が高い・・
まぁ本拠地にある神父の教会を改修しているだけにその出来は口コミで業界に広まっているのだろう
「並の大工に依頼するよりかは確かな仕事をするからな・・、冒険者としての依頼ではないが奴にはちょうどいいだろう」
「わかりました、ではこの中にある一つに決定ですね。」
「次はあいつのだな・・魔犬退治・・これでいいか」
「あの・・セシルさんのだけはすんなり決まりますね?」
「魔物退治系以外だと碌な事をせんからな・・。適当に暴れさせておく」
「はぁ・・あっ、ロカルノさん向きの依頼がありますよ?ほらっ」
二コリと笑いながら手元の依頼書を見せるアミル・・
「・・盗まれた呪いつきの仮面の奪還・・か。なるほど、面白そうだ」
「呪詛に関しては私とメルフィ様がいれば問題ないと思います」
「そうだな、アミル達だけで依頼をこなすのは少し辛い部分もあるだろう・・三人で依頼を受けるとするか・・」
「わかりました。ではっ、そのように手配しますね」
「頼む・・。このぐらいか・・・な」
一息つきカウンターに置かれた熱い珈琲を口にする
「ははは、ロカルノさんもアミルさんみたいな助手がいたら大助かりだね」
グラスを磨きながら様子を見ていたマスターが笑いながらロカルノに言う
日頃付き合いがあるだけにアミルの助けがどれだけ役立っているかわかるのだ
「ふっ、そうだな・・。以前までは珈琲の味を楽しむ余裕もなかったものだ」
「そんな・・私なんて・・」
ロカルノの一言にアミルの頬に朱が乗る。
「なんだかまるで夫婦みたいですねぇ♪」
照れるアミルを見てマスターの隣で同じく盆を拭いているウェイトレスの女性が茶化す
それにアミルは瞬時に耳まで真っ赤にしロカルノは軽く笑うだけだ
「まぁ、パートナーであることには違いないさ」
「そんなこと言ってると、セシルさんが怒り出すよ?」
「あいつはあいつで好き勝手やっているからな、言い返すに言い返せないだろう・・」
「ははは・・それではマスターさん。これで依頼をお受けしますのでよろしくお願いします」
「はいよ、アミルさん。追って館に連絡つけておくよ」
「頼む・・、さて、帰るか・・。少し買い物をするのだったな?」
「ええっ、キルケさんよりお願いされましたので・・行きましょうか」
依頼書を片付けてマスターに返しつつ席を立つアミル、その姿からして
昼間っから酒場でだべっている世のおじさん達はアミルがロカルノの嫁さんにしか見えず
それがたまらなく羨ましく思いロカルノに羨望の眼差しを投げかけるのであった

・・・・・・・・・・

しばらくして
買い物を終えた二人は街の表通りを歩いていた
キルケからの注文通り果物、野菜などがぎっしり詰まった紙袋をロカルノが抱えアミルが渡されたメモ帳の確認をしている
「え・っと、お野菜は終わりましたしお肉も大丈夫・・後は・・『風華亭のミックスベリータルト』ですね。
何なのですか?これは・・」
ここでの生活に慣れてきてはいるものの、まだまだ彼女にはわからない物も多い。
まぁそこらは・・
「風華亭というのはルザリアに本店を構える有名な菓子屋だ。最近プラハにも出店をしてキルケが目をつけている
タルトとは・・簡単に言うとビスケット状の生地で作った器の上にクリームや果物等を盛りつけた菓子のことだな
様々な種類があるのでその技を盗んでオリジナルの菓子を作ろうとしているんだよ」
っという風にロカルノが教えている。それも彼女にとっては彼の存在が一際大きく感じる要因なのかもしれない
「へぇ・・人間は色々な料理を考えるものですね・・。キルケさんもお料理のレパートリーが豊富なのに・・」
「ふっ、彼女の場合はクラークを喜ばせたいだけだろうさ。
せっかくだ、アミルも欲しい菓子を見ればいい・・、タルト以外にも様々な菓子を取り揃えているからな」
「そうですか・・ではっ、お言葉に甘えます・・。ロカルノさんは後買う物はありますか?」
「ふむ・・珈琲豆はまだストックがあったか。おっと、リュートに仮面のメンテナンスの依頼をしていたか・・」
「・・メンテナンス・・ですか?」
「ああっ、そうだ。ちょうどそこだ・・寄っていこう」
「わ、わかりました・・」
色んな事で尊敬できるロカルノ、ただ良く理解できないのがこの仮面愛好癖であり何故仮面のメンテナンスが必要なのか・・
アミルにはさっぱりわからなかった
何気に一度メルフィにも訊いてたりしていたのだが『あいつにしかわからん』っとピシャリと言われてしまい
その謎は解けそうもなかったりする・・

・・・・

プラハ一有名な店でもある鍛冶工房『HOLY ORDERS』
表通りにある小さな店だがその評判は今やハイデルベルク全土に広がっており大盛況している
・・っとはいえ全てオーダーメイド製故に普段から行列ができるわけでもなく意外にも静かなのだ
その中、ユトレヒト隊とHOLY ORDERSはつながりが深く武器防具の手入れなどはいつも最優先でやってもらっており
それはロカルノの仮面も同様・・、特に店主であるリュートにとってはロカルノは一番大切な顧客でもあるのだ・・
その理由は言わずもかな・・

カランカラン

「いらっしゃいませ〜♪あっ、ロカルノさん!こんにちわ!」

カウンターで笑顔で接客する長い黒髪の女性シャン、
リュートの女房役にて客の要望を記しスケジュールを組み立てるこの店になくてはならない存在である
今でこそ接客業が板についているがかつては暗殺者の出身であり
リュートが作り出した武器の試し斬りを担当しているのはあまり知られていない
そして

「むっ・・おおっ、お前達か。どうした?」

店の隅に置かれている小さな椅子に腰かけ腕を組んでいるメルフィ、その姿にアミルは目を丸くして驚く
「注文の品を取りにきただけだが・・」
「それよりもメルフィ様こそ・・どうしたのですか?」
「妾もロカルノと同じじゃ。まぁ・・今微調整をしているみたいで待たされているのだがな」
「ふむ・・お前が武器を依頼するとはな・・。だが・・費用はあるのか?」
「ふふふ・・細かい事は気にするな!」
胸を張り豪快に笑うメルフィだがアミルの顔はどことなしに曇っている
「もしかして・・他の人に請求がいくようなことにはなっていませんよ・・ね?」
「えっと・・、セシル宛の請求になる予定ですけど?」
その問いかけに律儀に応えるはシャン・・
「・・メルフィ様・・?」
シャンの言葉にアミルの声に怒気が含まれ出す・・それはメルフィが一番恐れるモノ・・
見る見る彼女の顔から余裕が消えていく
「た・・立て替えてもらうだけじゃ!後で払う!」
「本当ですか?」
「本当じゃ!ま・・まったくお前は・・妾を疑う気なのか!?」
「・・なら・・いいのですが・・」
未だ疑い晴れぬアミル、メルフィの嘘を言う時の癖など彼女には丸わかりなのだ
「まぁまぁ♪私達としてもセシルが驚き苦しむ姿を見る事が何よりの喜びですし♪」
「は・・はぁ・・」
満面の笑みでそういうシャンにセシルの裏の顔を改めて思い知るアミルさんであった
「それはそうと何を頼んだ?その格好で戦いは不向きだろうが・・」
「ああっ、それはだな・・」「お待たせしました〜・・」
メルフィの声を遮るように奥からリュートが姿を見せる
栗色の髪に特徴的な犬耳、後はそれと不釣合いなまでに汚れた工房服が特徴的でパッと見だと人が良い少年
だがその腕は折り紙つきである
「あっ、ロカルノさん。どうしたんですか?」
「頼んでいた仮面を取りにきてな」
「ああ、そうでしたね♪出来上がってますので後で取りに行きます。それでメルフィさん。これでよろしいですか?」
「ふむ・・」
リュートより渡されるは銀色に光る金属製の扇、おもむろにそれを広げると中身も薄い金属で加工されており
空を駆ける鳳凰の絵が刻まれており見事な芸術品となっている
そして鳳凰の目の部分と扇の付け根には碧色の宝石がちりばめられている
「良い出来じゃ!妾が持つに相応しい!」
「・・その碧色の宝石・・『風晶石』か?」
「流石はロカルノさん!その通りです!
この『鳳凰扇』は在庫であったこれを使用して強力な風を作り出す扇が欲しいとメルフィさんが言ったので作ってみました。
鳳凰の刺繍は自慢の出来ですよ♪」
「・・あの衝撃波を放つ鈴はいいのか?」
「まぁあれだけでも十分なのじゃがな、以前ここに遊びに来てこの石が気になっていたから頼んだのじゃ。
扇がラッキーアイテムとかあの女が言っていたしの・・」
「あの・・女・・?」
「こっちの話だ。リュート、この出来には至極満足じゃ!流石はハイデルベルク一の鍛冶師よ!」
「ははは・・、ありがとうございます。力がある人が使えば竜巻ぐらいは作り出せるでしょう」
やたらめったら威張っている幼女にリュート達も何気に圧され敬語扱いになっている
まぁそれだけの気を放っているのではあるのだが・・
「・・だが・・・、風晶石は錬金技術を使用する魔石の中でも特に貴重なもの・・並大抵な値段ではなかろう」
「まぁ多少値は張りましたね・・え〜と・・こんな感じの値段です」
軽く壁に貼られていた請求書を取り出しロカルノに見せるアミル
だがそこに書かれた値段にロカルノは凍りつく
「・・・・、まぁ・・出来からしてこのぐらいの値はするかもしれないが・・あいつに払えるとは到底思わないな」
「契約書にはセシルのサインまであるんですよ、払わなければ騎士団に連行です・・(ニヤリ)」
セシルに対して恨みがあるリュート&シャン・・それゆえに寧ろ払ってくれないほうがいいらしい
「・・まぁ当人同士の問題だ。・・好きにしてくれ」
「で・・ですが、セシルさん・・それを承知してサインをしたのでしょうか・・?」
一人だけセシルを心配するアミル、恋のライバルだが流石に気の毒らしい
「ふ・・ふふ・・妾に掛かれば催眠術などたやすいことよ!」
「・・なるほどな、寝ている間に書かせた訳か・・」
「メ・・メルフィ様!それはセシルさんが怒りますよ!」
「何・・奴が書いたということで強引に押せばいい。この二人も協力してくれると言っておる」
自信満々にそう言うメルフィ、そしてリュートとシャンも嫌な笑みを浮かべて頷いている
・・日頃の行いと言うモノは大切である
「好きにしてくれ・・」
対しロカルノだけが冷静にセシルが暴れ出した時の対処をシュミレーションをしているのだった

・・・・・・・・・・・・

買う物を買って館に戻った時にはすでに昼を過ぎており軽い食事を作った後
ようやくゆっくりできる一時が訪れた
「はい、食後の珈琲です」
「ふっ・・すまんな」
談笑室にて寛ぐロカルノにアミルが静かに珈琲を入れてあげる、これももはやいつもの風景
「クラークさんは・・薄めでよろしかったですね?」
同じく談笑室で寛ぐクラークにも珈琲を差し出す、まぁロカルノだけをえこひいきするわけにもいかないのだ
「ありがとよ、俺はロカルノみたいな濃さじゃ飲めないよ」
「ふっ、土地柄とでも言ったところか」
「いあ・・そのうち胃を悪くするぞ?」
「生まれつきの習慣だ。それに対応する体はできているさ」
広い談笑室にはクラーク、ロカルノ、アミルの三人。キルケとクローディアは2階で洗濯物を干している最中であり
メルフィはあの後またフラリと街中に消えていった。
セシルだけは相変わらずどこにいるのか一同不明のまま・・
人目があれば悪さをしないので昼間はまだ安全、だから今のところ誰も警戒はしていないのだ
「それにしても・・アミル、相談があるんだが・・」
急に真剣な顔つきになるクラーク
「な・・なんですか?」
対し椅子に座りながらも緊張した面持ちになるアミル、
っというのもクラークが真剣な顔つきになる事は非常に珍しいことなのだ
「・・なんなら、ロカルノの隣の部屋に移動するか?」
「・・え・・?」
「あっ、いあ・・まぁ・・な。その方がいいのかな〜・・と」
「・・お前にしては女性を気遣っているようだな・・クラーク」
その意味を理解しアミルは硬直しロカルノは静かに笑う
「ははは・・、まぁな。隣で寝た方がセシルに怪しまれずに済むんじゃないか?」
「だが、それだと声が漏れる。防音加工にも限界があるだろうからな」
・・つまりはアミルの声は防音加工された壁以上・・
そう言っているようなモノなので本人はもう穴があったら入りたいぐらいの心境になりオロオロしだす
「ははは・・そうか。まぁそれなら仕方ないな」
「あう・・あう・・」
「ふっ、それよりもお前の方も少しは自粛したらどうだ?もう毎晩だろう?」
「う〜ん・・俺から求めているわけじゃないんだけどなぁ・・まぁ二人を満足させるには仕方ない事だろう」
「まっ・・ほどほどが大事だな。・・アミル、顔が赤いぞ?」
「・・・そ、そうですか・・?」
内心動揺しまくりなのだが極力表に出さないようにするアミル
だがそれは二人には丸わかりで思わず苦笑を誘ってしまう
その時

「クラークさん!剣の稽古をお願いします!」

和んでいた談笑室にクローディアとキルケが入ってくる
両方とも武道着姿だがキルケはそれにレイピアとマンゴーシュというチグハグな格好
まぁクローディアを見習ってとの事で訓練着は彼女と同じ物にしようと自分で作ったのだ
「おっ、家事は一通り終わったか」
「ええっ、もう終わりました。夕食の準備までお願いしようかと思いまして・・」
「うし、わかった!・・そんじゃ一汗流してくるよ」
そう言い軽く立ち上がるクラーク、珈琲を飲み干して体をほぐしはじめる
「やり過ぎないようにな」
「あったりまえだろ?そんじゃな」
キルケとクローディアの肩を抱きながら談笑室を後にするクラーク
これから訓練をするようにも見えないその風景にアミルは呆気に取られる
「ふっ・・さて、今日はもうやる事もない・・少し寝るか」
「えっ!?お昼寝をするの・・ですか?」
「今日の仕事はアミルのおかげで早く終わった。たまには昼間からのんびりするのも悪くはないさ」
「で・・ですが・・濃い目の珈琲を飲まれたのに・・」
「珈琲の成分が効き始めるのは30分ほど立った後だ。飲んだ後に少し寝るのは逆に昼寝には好都合なのさ」
そう言い残った珈琲を飲み干すロカルノ、最後の一滴まで味わって飲む・・それが彼流の楽しみ
「そうですか・・あの・・でしたら・・私の膝を・・使いませんか?」
「・・アミル・・?・・わかった。お願いしようか」
「はい♪」
照れながらも明るく返事をするアミル、そしてソファに座り膝を空けて彼の頭を迎え入れた
「・・ふっ、思えば膝枕など初めてだな」
「そうなのですか?」
膝より伝わるロカルノの重みがなんともなしに嬉しく感じる
これも惚れた男だからなのか・・
「人並みの幼少期は送っていないのでな」
「そうですか・・では、私の膝でよければ・・ゆっくりと堪能してください」
「ふっ、そうさせてもらおうか・・」
少し笑いながらそう言うロカルノ、その一言がアミルの心を暖かくさせる・・
「ロカルノさん・・」
「・・・・」
「ふふっ・・寝ちゃいましたか・・」
返事がないのでロカルノの仮面を軽くずらす、素顔の彼の目は閉じられており静かに寝息を立てている
「・・ロカルノさん・・可愛い・・」
普段見せない彼の一面を見てアミルは嬉しく思い彼を抱きしめる
庭からキルケの気合声が聞こえる中、いつしかアミルも深い眠りについていった

・・・・・・・・・


ユトレヒト隊の食卓はセシルのおかげあって賑やかなのだが今日はそうもいかなかった
アミルの膝枕で心地よさそうに寝ているロカルノの姿をタイミング悪く返って来たセシルが目撃し大騒動となったのだ
おまけにその直後にHOLY ORDERSからの請求書が来てしまったのでそれはさらにヒートアップ
暴れるセシルを止めるためにロカルノが麻酔薬を染み込ませたハンカチでセシルの口を押さえて無理やり眠らせて事なきを得た
結局夕食には一人足らない状況でその日の夜も更けていった・・

カポーン・・

「良い湯ですねぇ・・」

手作りの館にしては豪華な浴場、頭にタオルをのせながらホクホク顔でキルケが呟く
「そうですね・・、クラークさんの仕事の良さには感心します」
その隣で湯を堪能するアミル、紫の髪が濡れる姿は妖艶さを漂わせている
「ここまで大きくするつもりはなかったみたいですが・・」
同じくキルケの隣で湯船に浸かるクローディア、入浴時故に眼帯は解いておりいつもと違った印象を受ける
「まぁ、こういうところは贅沢してもいいんじゃないですか♪
そういえばセシルさんはあのまま眠ったままみたいですけど、メルフィさんはお風呂入らなくていいんですかね?」
「メルフィ様は入浴は寝る直前ですのでまだ早いですね」
「寝る前ですか・・、拘っているのですね・・」
「クラークさんみたいに早く入る人とは正反対ですねぇ・・。あっ、それよりも♪アミルさん♪」
「はい?なんですか?」
「ロカルノさんにいっぱい愛されてますか?」
「!!!」
いきなりのキルケの問いかけに飛びあがりそうに驚くアミル
「知ってますよ〜、毎晩下着姿でロカルノさんを待っていること♪」
「キ・・キルケさん・・そ・れは・・」
「ふふふ・・、こんな素敵な体を持っているのに〜・・自分から攻めないのは勿体無いですよ♪」
そう言うとおもむろにアミルの胸を触るキルケ
ふくよかなそれにキルケの指はまるで沈んでいくかのようだ
「ひゃ・・キルケさん、ダメですよ」
「女性同士で技を鍛えるのは大切な事ですよ?ねぇ・・クローディアさん?」
「それは・・あの・・」
いきなり振られて大いに慌てるクローディア、三人の中では一番年下であるはずのキルケが場を支配しているかのようだ・・
「例えば、私とクローディアさんなんていっつも練習ばかりなんですよぉ?ねぇ?」
「そんな・・アミルさんがいるのにそのような事を・・ん!?ん〜・・!!」
顔を赤くして抗議するクローディアの口をキルケの口が塞ぐ、それにクローディアは目を丸くして驚くのだが
キルケの攻めに速攻でなすがままの状態になっている
「・・あ・・あの・・二人とも〜・・」
その様を見せられてどうしようもないアミルさん
それよりも女性同士がディープにキスをする様に体が別の意味で火照っていくのが感じて戸惑っている
「ん・・んっ・・はぁふ・・キルケ・・いけません・・」
「ふふふ・・クローディアさんの唾液・・美味しいです」
小悪魔みたく笑うキルケと惚けているクローディア・・
どちらも話しかけ辛い状況・・
「あ・・の・・」
「まぁ、性でお悩みでしたら相談してください♪私とクローディアさんが解決しますよ♪」
「キルケ・・胸を触ったら・・ダメです・・」
クローディアの控えめの胸を撫でながらキルケが何故か爽やかに言う
「・・あ・・りがとうございます。あの・・まだ続けられるようなので・・私はそろそろ上がりますね」
「そうですか?三人で楽しもうと思ったんですけど・・仕方ありませんねぇ・・。
じゃあメルフィさんにはもう少し後で入るように言ってください♪」
「っ!あっ!・・ダ・・メ・・乳首を抓ったら・・・・」
「ふふ・・軽く抓られるのがいいんでしょう?
後でクラークさんにたっぷり可愛がってもらうために・・二人で今から準備しましょう♪」
「ひゃっ!こ・・ここは・・そんなことを・・浴場でしたら・・っ!あっ・・はぁん・・!」
嫌よ嫌よと言いながら抵抗しないクローディア、ドンドンエスカレートする二人の世界にアミルは慌てて浴場を後にした

・・・・・・・・

浴場で未だ行われているであろうディープな世界に心臓がバクバクしたままのアミル、
着替えが終わった後もどこかしらふらつきながら自室へと戻ろうとしている
「・・あのお二人・・いつもああなんでしょうか・・?」
よもや女同士、しかも浴場でそのような事を始めるとは思っていなかっただけに
半ばカルチャーショックなアミルさん。
だがショックを受けただけではなく体が少し熱い・・
「クローディアさん・・キルケさんに体を触られて・・気持ちよさそうだった・・」
普段冷静な彼女の淫らな姿、軽くキルケに触られただけで惚けている様が信じられなく夢でも見ているような気すらする
そのまましばらくクローディアの惚けた表情が頭から離れなくそのまま自室へと入る
もはやメルフィにすこし後で入ってくれとの言伝など忘れ去られているらしい
だが・・

「・・どうした?顔が赤いぞ?」

「ロカルノさん!?」
自分の部屋にロカルノがいる事に飛び上がりそうになるアミル
「ん・・どうした?」
「い・・いえ、なんでもありません!あの・・何か・・」
「何、セシルは明日までまず起きん。だから今日の膝枕の礼を・・っと思ってな」
そう言って仮面を静かに枕元に置く、それも彼女が作った自分の人形の隣に・・
「お礼だなんて・・そんな・・」
「何っ、気にするな。私なりの気持ち・・さ」
「ロカルノさん・・では・・お願いします」
二コリと笑いロカルノの胸に飛び込むアミル、彼はそれを優しく受け止め・・
部屋の静かに消えていった


・・・・・・

一方
麻酔により眠りこけているセシルさん。
自室に放り込まれながらそのまま放置されて妙な姿勢で眠りこけている
・・が・・
「・・そ・・そんな金額・・払えるわけないじゃないのぉ・・詐欺よ・・こんなのぉ・・・う〜ん・・」
夕時に見た請求書がよほどショックだったらしく、眉間に皺を寄せて悪夢に怯える彼女であった・・


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