戦翼飛翔ウィズダム


1.謀
闇が渦巻く空間、急にスポットライトに光を照らされたのは二人の女性だった。
褐色の肌をユッタリとした黒法衣で包んでいるが其の肢体のメリハリが利いた造型を
隠切れず、紅ラーメン髪の頭半分をターバンで包み中東的でも童顔からして
此処にいるよりも保母さんがピッタリなような・・・寧ろ幼児と一緒になりそうな彼女
アカデミー炎術講師のヒミカ=ウェスティンは不意の強烈な光に「ふにゃっ!!?」と
座っていた椅子から転げ落ちそうになるが、斜め背後に立ち使えていたもう一人の娘に
当然の支えられて事無きをえた。そのもう一人の娘は、一見色白肌藍髪でも何処と無く
炎術講師ヒミカと姉妹のように似てそれでも違い儚乳細腰安産尻のスレンダーな肢体を
スーツで包み、腰に下げているのはこの場 魔術都市アルマティに相応しくない
実用重視の長剣。モノノフな感。
その二人を囲んで断罪するかのように席しているのは、闇の中にあって顔が見えぬものの
気配からしてそれなりの力量,もしくは権力を備えた老年の魔術師達。
その中で司会が朗々とヒミカの経歴を読み上げていく。それだけでは収まらず
前々回の超極戦生物の件でヒミカに行われた事まで意味あるとは思えない程、事細かに。
それは唯、ヒミカを嬲るだけの所業。
普段苛められれば泣き暴走する当のヒミカも、今回ばっかりは暴走する事も出来ず
耳を塞ぐ事も許されない。追い詰められて表情を歪め眼に零れそうな涙を溜める。
と、不意にそのヒミカの前に庇いたったのは、今まで斜め後ろに控えていた彼女。
 「前置きは結構。単刀直入に用件だけ述べて頂きたい。
私達は散々待たされた挙句茶番に付き合う暇はないのだから」
「何だね、君は? 一助手風情がこの場に立てるだけでも光栄だというのに
無礼な振る舞いは許さんぞ」
 「私はウィズダム=マキナス。ヒミカ=ウェスティンの守護者。
私が無礼だと言うのなら、ヒミカを辱める貴様達は何だ? ・・・恥を知れ」
 「ウィズダムちゃん・・・」
彼女、ウィズダムが坦々と語る口調がその内の怒りを物語る。
しかし、それ以上に室内は其の名と其の姿に騒然となった。ウィズダム=マキナス。
氏に人造機人,名に知恵の意を冠するモノ。そう、彼女は其の姿で創られた人造の存在。
『光晶』の法王に無骨な騎士の姿で創られ、優雅な人の姿に完成させられし機導の女神。
長く麗しい藍髪ですら無駄に飾りの為ではなく、冷却,光よりエネルギーを供給する
機能を備えた一つの構造物。それでもホムンクルスや使魔とは別格に、人と変わらない。
一流のモノノフに匹敵する威に圧される一方で、たかが造りモノに圧されてなるものかと
「ふ、ふふん、ならば自動人形にでも分かる様に言ってやろう。
ヒミカ=ウェスティンが其の身を究極への媒介に選ばれたという事は、我々にとっても
研究に値する事であるともいえるのだよ。ヒミカ=ウェスティンも魔術師の端くれなら
其の身を研究材料に提供する事は当然といえるのではないのかね?」
 「・・・それで?」
「自動人形、人間と見える其の身もまた、我々にとっては貴重な研究対象なのだよ」
つまりは、ヒミカ=ウェスティンはその権利を剥奪してでも研究材料として有効であり
ウィズダム=マキナスも端から研究材料の一つでしかないと。
 「・・・だから?」
「なっ!!? ・・・ふっ、自動人形如きに論じる事自体無駄であったか・・・」
 「貴様は 貴様達は恥ずかしくないのか? 人が歩いた同じ道を追従する事が。
そもそも、研究魔術士でしかない貴様達如きが私達を縛れるとでも思っているのか?」
「ぬっ・・・」
 「回りくどい真似は止せ。私には歴戦の戦士達の御技だけではなく
戦略論,戦術思考も備えている。我が創造主ディオール師直々に手がけたものを」
ウィズダムが創造主『光晶』の法王ディオール=クラウス に向けるのは最上の尊敬の念。
対し、この場にいるアルマティの教授陣には歯牙にもかけず、軽蔑にすら値しない。
「くっ・・・備品にしかすぎん自動人形がほざくな」
 「我が身は血の一滴,髪一本までディオール師の所有する処にある。
そのディオール師が己が思うままに其の身を行動せよとおしゃった以上は
私は今このヒミカ=ウェスティンの守護者として、ヒミカの幸せの為にある」
 「ウィズダムちゃん・・・」
ヒミカが目を潤ませるのは最早怯えのためではなく、ウィズダムに対する感激のため。
反して司会を始めとした派閥の教授陣は、ヒミカではなく
自動人形でしかないはずのウィズダムに嚇しも利かず論破も適わず忌々しい事この上ない。
本来なら、散々ヒミカを脅した挙句に譲歩案をだして手駒として使う予定だったのだから。
 「これで茶番が終りなら、我々は帰らせてもらう」
「ま、まてっ、まだ終っていないっ!!!」
ヒミカを促がし帰ろうとするウィズダムを、制止する司会の魔術師。
このままでは面目丸つぶれ。だからまだ、返すわけにはいかない。
 「・・・それで?」
「最近『ナイトウィザーズ』と自衛軍を気取る連中が武装強化を行っているのは
魔術の発展を旨とする我々『アカデミー』が甘受できることではない。
そもそも、そんな武力は魔術士からなるアルマティには必要ないのだよ。
ヒミカ=ウェスティンがその一角をなしていることは既に調査の上で明白だ」
言い切った処で片手で制するウィズダムにいぶかしむ教授陣。
 「そもそも、ヒミカは『ナイトウィザーズ』のメンバーではない。
警備上の問題から『ナイトウィザーズ』の発起人であるディオール氏の御厚意に甘え
拠点の一室を間借りさせて頂いているに過ぎない。ヒミカは組織に発言権を有してない」
「なぬっ・・・」
 「そもそも、『アカデミー』が無能でなければ『レイアード』の侵略を許さず
『ナイトウィザーズ』も設立されることはなかったのではないのか?
ヒミカが災難にあった要因は貴様等にもある。恨みこそすれ、貴様等に従う義務はない」
「くっ・・・」
ウィズダムが述べるのは全くの正論であり、被害者家族の念もあって反論も許さない。
言って思い出したのか怒気漲らせるウィズダムと、引き摺られ頭下げるヒミカの二人が
退室するのを、其の教授陣は見送る事しか出来ないのだった。
「だから言わん事ではないというのに・・・無様だな」
「我々もまた、彼等に好感を持っている事を忘れないで頂きたい」
「幾ら魔術を研究しても活用できねば意味はあるまい
・・・彼等は『使う者』だよ。良かれ悪かれは後が決める事」
二人に続き、『ナイトウィザーズ』に友好的な教授・講師達も退室していく。
それも当然、教授達の中には秘密裏に技術を提供して実用データを得ている者もいる。
中には非公式に研究室丸々属している処もある。

残ったのは『ナイトウィザーズ』に否定的な司会以下教授陣だけ。それでも大半以上。
となれば、今度責められるのは矢面に実働していた司会の教授。
「若造のみならず自動人形をのさばらせるとあっては、アカデミーの沽券に関る」
「この失態、どう償うつもりかね?」
見るだけだった教授陣が司会の教授を攻め立てる。
それも重鎮で能力に関らずなまじっか権力を持っているだけに侮れない。
少なくとも『アカデミー』の内部のみ、外を見さえしなければ・・・
「・・・御心配無用。今回は初手にしか過ぎません。
我々『アカデミー』が連中を認めないというデモンストレーションなのですから」
「・・・アルマティを導くのは過去もこれからも『アカデミー』のみ。
その辺りを重々理解したまえ。でなければ、次の学長選挙は・・・無いぞ」
「・・・・・・・」
畏まり頭を下げる司会の教授に、その教授陣も退室していく。
教授陣が退室しきるまで頭を下げていた司会の教授は、一人苛立たしく壁を破壊する。
その胸中に宿るのは、自由への嫉みが、権力の渇望か・・・・・・

ディからヒミカへウィズダムが預けられた、基、ヒミカをウィズダムが
面倒見るようになってヒミカの爆発は殆どなくなり=学生の負担は殆どなくなった。
ウィズダムが人の身体を手に入れた事により、ヒミカの守護者もなんのその
秘書兼助手として活躍してくれるので、専門的な魔術の指導は出来ないものの
一騎当千なモノノフの感からのアドバイス一言やヒミカの翻訳は大変に有益で
ヒミカ研よりウィズダム研に名変えたほうがええんでないの? と言わしめる程。
ヒミカ研の学生にとって、ウィズダムの存在は正しく地獄に舞降りた女神であった。
茶番な教授会を終えて教授室に戻って来た二人は、其処にヒミカを残して
ウィズダムは研究室へ。ある意味、先生らしいその姿に、学生達が一礼する。
 「申し訳ないが、今日は帰らせてもらう」
「如何かしたんですか?」
御大であるヒミカの性分で研究室の規律は緩く、学生は自主を任されシッカリしている。
そうでなくとも一応規定時間は務めるヒミカが未だ早い時間帯に帰るのは珍しかった。
 「ヒミカが、教授会で吊上げられた。今日は仕事が出来そうにない」
「そうですか・・・では、後は任されました」
怒るような呆れるような複雑なウィズダムの表情に、その学生は事情を心得ている分
ウィズダムのその完成度に感心する一方で権力闘争に呆れざるえない。
頼むと言葉を残してウィズダムはヒミカの元に戻ると、早々に帰る用意を済ませて
二人は地上・・・ではなく向かった先は屋上。 其処に鎮座しているのは
突撃状態の鷲を思わせる浮遊型自動騎乗機 戦術装甲『ストームブレイカー』騎翼機形態。
これで通勤している以上は、これで帰るのもまた必然ともいえる。
タンデムシートにウィズダムの背中から意気消沈のヒミカがしがみ付き
歩いて4分刻(30分)程かかる道程を、今日ばかりは焦らず急がずユックリ帰った先は
嘗てディオール=クラウス 希望都市の代行者 が滞在したボロ旅館、
現在は改築に棟と格納庫を増やした『ナイトウィザーズ』の一大拠点。
格納庫の一角で騎翼機から降りると、ウィズダムは消沈なヒミカをお姫様抱きで
特に話すこともなく居住区の自分達に与えられた家族用部屋へ。
其処から御互いに個室でラフな服に着替えると居間に合流した。
ヒミカの格好は余変わらずターバンを取っただけで、ウィズダムの格好がヒミカの希望に
肩モロだしギリギリな胸元は揺れずとも揉み応有る媚乳にシッカリ貼付きガードしていて
ニーソの白さが眩しいミニスカウェイトレスな水色衣装なのは、些細な問題だ。
ソファの前のテーブルにディ直伝ウィズダム製作のスゥイーツ もといオヤツが並び
ウィズダムが美味しい茶の給仕をしてもヒミカの顔色が晴れる事はない。
 「私に、気にするな・・・とは言えません。
私が護れなかったせいでヒミカは災難に見舞われたのですから」
 「ウィズダム、ちゃん・・・」
 「でも、これからは何があっても貴女の笑顔は私が護ります。
それが、私が定めた私の存在意義ですから」
 「・・・うん」
ポフッと幼児のように抱きつくヒミカに、ウェイトレスなウィズダムは其れでも
男前な微笑みでナデナデと癒してやるのだった。
女性体の見かけと異なり、内心では性少年のように悶々としていたりするのだが・・・
ヒミカとウィズダム、それは丸でぶりっ子ダメ姉とヘタレ優弟のようである。

多方同時会議魔法『チャット』
特に特徴がない自称『劣等生』魔導士学生リョーマが開発したこの魔法は
一見地味でありながら前の事件では大黒柱となるほど非常に有能なものであった。
この世界において当の開発者かつ管理人のリョーマは神に等しい力を持ちながら
もっぱら存在感薄く、その能力向上に日々努め様々な協力者の御陰で完成度が
上がるに連れ、仮想現実空間『ルーム』の住人もまた鰻昇りに増えていた。
それは、アルマティ在住ならずとも個別コードを持ち魔法で中継の魔法石
『サーバー』を介していつでも何処でも入れる上位入室権者となるのは
希望都市『光晶』の法王ディに、ルザリア勢では風の魔女アンジェリカと
興味ないのか殆ど顔は出さない『暴風』の法王フィートである。
個別コードを有しても魔法が得意でないため専用の通信魔法石がいる準上位入室権者は
プラハの銃犬鍛冶士リュート、フィート同様殆ど顔を出さない爆走格闘士クロムウェル。

それは兎も角、『ルーム』では数人がのんびりと談笑していた。
一人は明らかに普通学生っぽいリョーマ、これはただ居るだけっぽい。
主に会話しているのはディに鋼色髪に鷹目のヤンチャっぽい少年、そして
少年同様に鋼色髪に鷹目で勝気そうでも礼儀正しく何処か無垢気な袴娘。
そこへ更に、空に生じる光柱の中に実像化 もとい『ルーム』へ入室してくるのは
ミニスカウェイトレスな水色衣装のウィズダム。
態々衣装の設定を考えなかったので、現実で着ていた服がイメージされたのだ。
「ブッ!!? な、なんていう格好をしてるんですかっ!!!」
 「これですか? 最近のヒミカのお気に入りで
室内着にさせられてしまっているんですが・・・変ですか?」
思わず繁々と自身の体を見てクルリと一転にスカートのフリルが舞い絶対領域が・・・
そんな姿の女の子に女性経験ほぼゼロなディ少年が何を言えようか。
鋼髪の少年は端っから興味無しだし。代りにリョーマが御似合いですと言っておく。
鋼髪の娘はへぇっと多少興味あり気だが、自分まで着たいとは思ってないよう。
話が続かないので、何とかしようとディが話題転換に
「そういえばフィアラル、リュートは如何したんですか?」
「犬はまだ仕事中だぜ」
と応えるのは、鋼髪の少年。そう彼の実態は鋼の鷹フィアラル。
プラハとアルマティを往復し単身赴任なフィアラルもまた上位入室権者だった。
何度言ってもそのもう一人の主を主と思わぬ態度に、ディは苦笑せざるえない。
他の面々も今更なのでヤレヤレと苦笑。その中で唯一顔を顰めるのは鋼髪の娘。
 「兄上、創造主様を犬呼ばわりとは如何かと思われます」
「ハスターはマジメすぎ。あんなの、犬で上等だぜっ!!」
「フィアラルはもう言っても聞かないからいいよ・・・
でも君はこんな処を真似しちゃ駄目だよ」
 「はい」
諭すディに、フィアラルを兄と呼びハスターと呼ばれた娘は困りつつ礼儀正しく応えた。
見た感はハスターの方が姉っぽいが、元々此処では姿は正しいものとはいえない。
 「しかし、ハスターがフィアラルの妹となるのなら、私にとっても妹になるのですか?」
 「如何なんでしょうか?」
フィアラルとウィズダムの創造主はディである。フィアラルはリュートと合作
ウィズダムはアルマティでチームで創ったとはいえ、それは変わらないのである。
ならば、ハスターがフィアラルを兄と呼ぶのなら、ウィズダムの妹になる事に・・・
 「随分と賑わってますね」
と入室してきたのは、妖艶に蟲肌な旗袍服を纏った豊満な女性的肢体の美人。
その気配はフィアラルよりで現実味はないが、同様に確固とした生気がある。
つまり此処での姿は本来の姿ではない。この男を魅了する姿は義体の
如いては彼女?が世話になったアンジェリカがモデルであり、本来の姿は
知恵を備えた御茶目なダンゴな兜虫 魔導生物アニマ。
「いょう。赫々云々って事で、イモウトってなんだ?」
 「フィアラル、端折り過ぎです。
妹:同じ親から生まれた、自分より年下の女の子。広義では、義妹や
自分より年下の女性をも指す。というのが辞書上での定義です。
誕生後、故有って見守ってきたウィズダムは私にとって妹分になります。
ゲテモノなイキモノの兄姉で申し訳ありませんが・・・」
 「いえ、とんでもない。今まで私の面倒を見てくれたアニマは立派な私の兄姉です。
姿なんて関係ありません」
 「ウィズダム・・・」
ヒシッと手を握合うウィズダムとアニマ。其処には確かにキョウダイの情があった。
真の姿は如何であれ。現在の姿は如何であれ・・・
「・・・えっと、フィアラルが長兄,ウィズダムが次姉って話じゃなかったけ?」
「親(創造主)が言うなよ」
 「人類、皆、キョウダイですか?」
「いや、僕とディ君以外此処にいるのは人類じゃないし」
ディとフィアラルのぼやきにハスターがぼけ、リョーマがここぞとばかりに突込む。
人外入乱れ和気藹々。それは実に魔術都市に相応しくもありえず、理想な光景だった。
キョウダイ議談に花を咲かせる事しばし、不意にピクッと反応したフィアラル
「悪ぃ。俺、仕事で及びかかった」
「次、アルマティへ行くときは僕の所によってもらえるかな?
思考核の魔石が精錬し終わったから」
「リョーカイ」
「兄上、ごきげんよう」
ディとハスターに見送られてフィアラルはその姿を散らしつつ退室していった。
それで気付いたが、現実世界では既に結構な時間である。ディもまた席を立つ。
挨拶していく面々の中で唯一ウィズダムは教授会でのヒミカの吊上げを耳打ち報告した。
「へぇ・・・軍備収縮させたかったのかな。アカデミー、勘付いたかもしれない。
フォンも同じ結論に着くかもしれないけど、知らせておいて。 また、次の時に・・・」
「はい、では・・・」
一礼にウィズダムの前でディも消えていくのだった。


2.「新」
レイアード占領事件以降、アルマティ各所で野良キメラウェポンが出没するようになった。
元々キメラウェポンとは魔導生物兵器で、更に嘗て破棄され生きていた実験生物を吸収し
並の魔術士では手に負えない存在となり、アカデミーでも手を出しようがない。
そこで、レイアード占領事件の解決の源になったチームを御旗に集ったレジスタンスを
総括,再編成して、元あった自警組織の延長の軍隊ともいえる『ナイトウィザーズ』が
その対処に当っていた。持前の趣味的な使魔のみならず、高い知能の汎用機体に武装を
有するアルマティ製の魔導機兵は、魔導士が率いて兵力武力不足を解決したのみならず
純粋に労働力としても人知れず活躍していた・・・
魔導機兵は既に製造ノウハウが確立しているとはいえ、中枢部分に手間がかかるため
結局定数以上は増やす事が出来ない。つまりは、あとは武装を充実させるしかなくなる。
幾ら魔術都市アルマティとはいえ魔導機兵は一体丸々ならまだしも、武装程度では
大して経費はかからない。・・・他の稀少材料や魔道具,魔導書に比べてだが。
と、いう事はナイトウィザーズで膨大な資金が動けば、アカデミーも何かあると
警戒してしかるべきなのであった。 それが例え、雲を掴むような話であっても。
その全ての答えがここにあった。
格納庫の際奥、其処には物理的にも魔術的にも隠蔽された巨大な扉がある。
その運材用の大扉に付いている人用の扉を開けると、その向こうに口を開けるのは
丸で地獄まで続きそうな下坂。 慣らされ弧を描く通路は、闇の中でも躓く事無く
地底の開けた先にあるのは大空間。その半分を海面が占め、クレーンが連立する様は
正しく、艦船の建造,修理,検査などをするための施設、ドック。
それを証明するかのように海面から上には解体された鯨の骨組みのようなもの。
此処は発掘されたアルマティの魔術士達が夢(と書いて妄想と読む)の夢の跡が一つ。
海底の出撃口と続く大通路には幾つもの障壁を備えた地底の造船場。
何を思って造られたかは最早分かりようがない。 其処をナイトウィザーズが
(多分)夢を継いで受領し、活用していた。クレーン等の造船設備は後付けだが。
アクセクと魔術士 ならぬ技術員や魔導騎兵が作業に勤しむ中で口論を繰広げる男女。
 「そんな事言わないでさ、魔導騎兵もっと廻してくれないかい。ざっと、今の倍」
「だから、ローテーションを組んで余裕がない。最早一杯一杯だと言っているだろう」
 「なら、金」
「ウチは万年赤字だ。寧ろ俺が欲しい」
 「けちっ、いけずっ!!!」
「元々お前が持ち込んだ企画だろう。金策ぐらい自分でしろ。内職でもして」
 「言ったね(ニヤリ」
男は片目を眼帯で隠し軍服調の衣装に魔杖を兼ねた量産ものの長剣を下げる。
フォン=クロウ、『ナイトウィザーズ』の自称「団長代理」であり事実上「団長」である。
意外に面倒見の良さからディ達の親友で、現在は何かと苦労性を発揮させられている。
特に目の前のツナギの女に。
シオン=センラ、魔導機巧士で『ナイトウィザーズ』魔導機兵開発整備長の「姐御」
着飾り黙って座っていれば美女なのだが、実態は常に煙草をくわえ、乱暴かつ酒豪。
性質が悪い事この上ない。能力がありマッドな分、余計に・・・
この二人の口論は既に名物となっているので、誰も止めもせず巻き込まれないよう
遠巻きに見ているだけ。その中に一人、深蒼に闇紅縁取りのアオザイが映える麗人
ウィズダムに気付いたフォンはコレ幸いとばかりに口論を打切りシオンから離れた。
フォンのウィズダムに対する態度がシオンとあからさまに異なるのは仕方ないだろう。
「君にはそういった衣装は良く似合うな。派手な飾りなど必要ない」
 「そうですか? 所詮、私の身体は作りモノの造型なんですが・・・」
「例えそうだったとしても、君の纏う気配も合わせた全てが君の個性だ。
凛として純、これほど君を表すのに相応しい言葉はあるまい」
 「??? ヒミカのコーディネイトの御陰。ありがとうございます」
元々男性思考なウィズダムは着飾る趣味はない。ヒミカの着替え人形にされているだけ。
だから、喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら・・・
向こうではシオンが獲物を見つけたとばかりにキュピーンと目を煌かせ、ついでに
成り行きを見守っている。一男としては、ウィズダムのように素直な娘との会話は
以上に楽しいが、そうも言っていられないようだ。
「それはそうと、こんな所まで如何かしたのか?」
 「はい、彼女のハードが完成したので、お誘いに。シオンも如何ですか?」
 「私、ソッチはノータッチだったんだけどね、誘われたら行かないわけにはいくまい?」
「来・る・なっ!!」
ウィズダムは一応『ナイトウィザーズ』所属で、最強の兵力でありながら
指揮系統に入っていない遊撃騎兵。 シオンは名実共に最高技官。
トップ三人が連れ立って向った先は、格納庫の、永久欠番であるリュートの区画。
主がいない以上は何者も使う事が許されないにも関らず、其処は人で賑わっていた。
風の魔女アンジェリカに似たアニマ の義体に、その肩に乗った鋼の鷹フィアラル
魔導士学生リョーマ,そしてウィズダムにも関った魔導機巧士二人が作業台で弄るのは
鋼の鷹フィアラル・・・ではなく、二回りは大きい鋼の大鷲。
魔導機巧士だけあって興味深げに見ていたシオン
 「フィアラルより随分と大きいけど、スペックはどうなっているんだい?」
 「大凡、フィアラルをサイズアップしたものだと考えればいいです」
 「・・・サイズからして三倍辺りか。フィアラル形無しだな」
ナンダトーと羽根をバタつかせ抗議するフィアラル。それでもアニマ
義体の頭を弾かないように気をつけているのは、気質と違って流石。
 「そもそもコンセプトが違います。フィアラルは偵察と支援が目的で生まれて
ウィズダムの航空管制も行う事になりましたが、コレは端からウィズダムの支援
つまり、ウィズダムの中空機動性の向上に戦闘そのものの各種支援が目的です」
アニマの解説に、フィアラルは自分が褒められているわけではないにも関らず
オウ、ワカッテルジャンと、羽根でアニマの頭を叩いてしまった。 ヤバイヨ。
 「でも、このサイズでそれだけの出力を持たせてしまったので
フィアラルのような突撃による接近戦法などは不向きになりました」
ソウダンダヨナァ・・・と、今度はフィアラル消沈。反応は見ていて中々飽きない。
 「元々はセットで考案されているので、
その真価はウィズダムと直結した時に測るべきですが」
ダァっと、何故かアニマの台詞でシオンに挑戦状を叩き付けるフィアラル。
解説という名のショートコントをしてる間に準備が終ったのか、
引く技師二人に前に進み出るのは何故か、影が薄いリョーマと
フィアラルをウィズダムに預けたアニマ の義体。
 「んで、なんであの昼行灯が此処にいるんだい?」
シオンの疑問にガクッとコケるリョーマ。フォンもそう思ったのは当人だけの秘密だ。
鋼大鷲のボディを仕上げてた魔導機巧士達も庇わない。昼行灯の能力を知らないから。
頭を垂れて銅像のようにピクリとも動かない鋼大鷲を、
アニマとリョーマによって施された魔方陣が卵のように包む。
 「こうしてボディは完成したわけです。しかし、そのボディを動かすための魂は?
フィアラルをコピーするのも一つの手でしょう。でも、其はフィアラルでは無いっ!!!」
 「???」

虚ろなる空に生まれし無垢なる翼よ

汝、魔の風を持って機の勇騎士の翼と成る者也

鋼の大翼を得て、今こそ戦いの大空へと鬨の産声を挙げよ

汝、人に創られ勇を知る者 その名はハスター

殻が割れ風が生まれる。空が裂ける音が啼り響く。格納庫内を風が吹き荒れる。
今、幻精領域の卵を破片へと撒き散らし、身を得た喜びに嘴を上げ翼を羽ばたかせる。
これで、見ているだけではなく漸く自身の翼でもって戦場の空へ翔ける と。
 「ようこそ、百鬼幻魔溢れる慈悲無き戦場へ。
ハスター、私は君を歓迎する。我が翼としてではなく共に手を取る戦友として」
微笑みを浮かべて胸間に手を当てもう片手を差し出す麗人ウィズダムに、
鋼の大鷲ハスターは首を傾げる事暫し、意図を察して片翼を出して握手?する。
コレカラヨロシク と。
その誕生を皆心から祝福するのだった・・・・・・
・・・・・・・・・・
仮想現実空間で人と交流していただけでなく大鷲として飛行訓練を積んでいたとはいえ
ハスターは生まれたばかりであり、見たもの全てが新しい事には違いない。
おのぼりさん見たく辺りをキョロキョロと見回してしまうのは否めない。
その前にバタバタと飛び降りるのは、先行機で兄でもあるフィアラル。
イヨウッ(シタッ
 ・・・アニウエ? アニウエーっ!!!
ウオァッ!!?
ハスターはフィアラルより二回り大きい。言うなら、大人と子供くらいのサイズ差がある。
でも、中身はハスターの方が子供。そんなハスターがフィアラルに抱き付けばどうなるか。
襲われ・・・もとい、見事に圧し潰されてしまうのは兄のフィアラルだった。
何とか翼をくぐりぬけ、バタバタとウィズダムの頭の上へ緊急避難。
チョッ、オマッ、オレヲツブスキカー――っ!!!
 シ、シツレイシマシタ、アニウエ
「「「マァ、モチツケ、ふぃあらる」」」
セメラレルノ、オレー――っ!!?
 「男が責められるのは、世の常ですよ〜〜(クスクス」
ムシダケニイワレタクネー――っ!!!
魔術の徒であるというのにオチツキがないのはさて置き、時間帯も日が暮れたので
その日は御開きとなった。個人の者で無い限り本来なら自由に動くことは許されないが
フィアラルのノウハウによって完全を期して造られたハスターはすぐさま解放された。
と言っても、兄妹機フィアラルと相棒のウィズダムの保護の下でだが。
トテッっと作業台から床に降りたハスターは、ウィズダムの後に続き
テトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテトテト
・・・ハスターは大空の覇王たる大鷲である。それは空を翔けてナンボであり
決して地を駆ける者ではない。人の脚に比べれば縮尺は短く、どんなに頑張っても遅れる。
 「・・・・・・」
テトテトテトテトテトテト
 「・・・・・・」
ピタッ
テトテトテトテトテトテト
先にいるウィズダムの後を追掛けるハスターをすれ違う者達は微笑ましく見る。
魔導機兵や各種使魔が跋扈徘徊?している万魔殿である。鋼の大鷲一羽歩いていた位で
今更驚きはしない。 しかも、ウィズダムの頭の上に乗っている鋼鷹と同系機である。
やっと辿着いたハスターを足元に、止ったウィズダムの足は進まない。見上げるハスター。
 「・・・乗りますか?」
 ヨロシインデスカ?
差し出すウィズダムの腕にシツレイシマスと飛乗るハスター。サイズからしてその重さも
フィアラルの様にはいかない。それでも平然なのは、女性体ながら人以上の力を秘る身故。
頭に鋼鷹,腕に鋼大鷲を乗せた麗人を、擦違う人々は微笑ましく見送るのだった。

ウィズダムの帰る家 もとい部屋は、言わずもかなヒミカとの家族宅。
帰ってきた一人と二羽を、パタパタとスリッパを鳴らしエプロン簸る返して迎えたのは
 「おかえりなさ〜〜い♪」
ワカオクサマなヒミカ。 その事態をスルーしてウィズダムは平然にタダイマという。
オ、オマエ・・・
 エット・・・シュミハヒトソレゾレデスカラ・・・
 「・・・なれ、ですよ」
何故か背中が煤けているウィズダムの様子を気にせず
 「あらあら、フィアラルちゃんいらっしゃい。そちらの子は初対面ね〜〜」
イヨゥ、ヒミカ。 デモ、チャンツケハヤメロトイッテルダロ。
コレハ、イモウトノはすたー。コンゴハオレノカワリニヨロシクヤッテクレイ。
 ヨ、ヨロシクオネガイシマス。
 「よろしくね〜、ハスターちゃん♪」
握手するヒミカとハスター。
フィアラルに限らずハスターもしゃべれず、ヒミカはテレパシーを使えないのに
何故か会話が成立しているのは、ささいな問題・・・か?
フィアラル,ハスターともに食べる必要無く機構もない。言うなら光を食べるわけだが。
ウィズダムも食べる必然はないが、食べる事が出来ないわけではない。
戦闘だけではなく人と対等に、より良い関係を築けるコンセプトの今の身体は味覚がある。
だから以降交代で食事を作り、ヒミカと共に食事をしてきたし、これからもそうであろう。
二人は女性らしい優雅な食事を得て一夜を過すのだった。
 「ハスターちゃん、今夜は一緒に寝ましょ〜?」
エ? ソレハ・・・
 「ハスターは今日生まれたので、今夜は兄妹水入らずでいいじゃないですか?
ハスターは今後私達の同居することですし。」
 「そうなの? じゃあ、次の機会にね〜〜♪」
ハ、ハァ・・・
・・・ガムバレ
そして、毎晩の例に誤らず当然のように添寝しているヒミカにアレッ?と思いつつ
休眠状態に入ったのも、今更ながら毎度の事であった・・・・・・


『ナイトウィザーズ』本拠地グラウント、
其処には日中に関らずポツンと数人の姿があった。 その面子のが
凹凸が艶やかな肢体をピッチピッチなブルマと言われる体操着姿のヒミカだったり、
スレンダーな肢体をスッパツと言われる体操着姿でソレはソレでイイ ウィズダムとか、
色気のヘッタクリもないジャージ姿に竹刀携えたコーチな義体&白鉢巻のアニマとか、
陽に照らされてホノボノの充電中のフィアラルとハスターだったりとかは兎も角として
・・・サテ、イクゼッ!!!
 ハイッ、アニウエッ!!!
何かしらに巻き込まれてなるものかと、何かが始る前に飛行訓練という名目で翔る二羽。
そのまま上昇気流に乗って上空でク〜〜ルク〜〜ル回っているだけの姿があからさま。
それをポケ〜〜っと見るヒミカには緊張感なと一切なく
 「きをつけぃっ!!!」びしっ!!!
 「ひゃおうっ!!?」
アニマ義体が竹刀で地面を叩く音に見事なまでに飛び跳ねた。
だから、義体の頭のアニマ本体が脚にミニ竹刀を持って振回しているのも気付かない。
 「アニマちゃん、こわい・・・」
 「まぁまぁ、まだ始ったばかりですから」
ビクビクと隠れるヒミカをウィズダムは宥めすかし、それに関係なくアニマの話は続く。
 「え〜〜、この度、ヒミカに運動のための格好で此処に来てもらった理由を話そう」
何処から出したのか、アニマがダンと地面に置いたアタッシュケースが衝撃で開く。
其処に収まっていたのは、なにやら装飾甲や剣片らしきもの。
 「これは、ディ氏,リュート氏共同立案設計製作の魔導肩甲だ。
メインの肩当の縁に左右五振ずつ付く飾剣片『撃翔剣』が自動自立で
本体の肩当から離脱浮遊し防御・反撃を行う。無論、装着者の操作も
可能だ。これに防刃・防衝撃・防魔法の実用的な飾マントも付く」
魔導肩甲に見惚けているヒミカは説明をスルーし、アニマが軍隊口調なのを気に止めない。
 「この『守護剣装(ガーディアンソード)』、着けてみろ、ヒミカ」
 「え? 私? いいの〜?」
 「元々そのためのものだ」
 「わ〜〜い」
丸で新しい玩具を与えられた子供のように、ヒミカは嬉々として『守護剣装』を装着した。
それに従い、肩甲へフヨフヨフヨと引寄せられる『撃翔剣』計十降。
本来、それだけのモノを維持するには可也の魔力を要するはずだが、ヒミカは平然。
『火薬庫』の二つ名は伊達じゃない?
 「よし、では早速動かしてみろっ」
 「は〜〜い」
元気なヒミカの返事と異なり、動き出すのは2,3振りだけ
フヨフヨフヨ〜〜 フヨフヨフヨ〜〜 フヨフヨフヨ〜〜
 「・・・だから?」
 「う〜〜ん、う〜〜ん」
それま余りにも緩慢で、丸で蝶が止りそうな感・・・てか、止った。
 「・・・それで?」
 「う〜〜ん、う〜〜ん」
ヒミカが気張っているにも関らず、『撃翔剣』の動きは相変わらず。
正面衝突した『撃翔剣』はそのままポテッと落下し、地面に刺さったままピクリとも。
そして、何かが キ レ タ
 「仮にも魔術士の癖に、この程度のコントロールも出来ないとは何事かっ!!?」
 「あ、アニマちゃん?」
 「バカモノっ!!! 私の事は師匠と呼べっ!!!」
目に見える立上るアニマの気合に10振が10振、今までのノロマな動きとは変わり
丸で閃光が走るかのような機敏な動きで空を疾駆する。それは正しくファ○ネル!!!
チクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチク
 「ひにゃああああああっ、アニマちゃんがイジめるよおおおおおっ!!?」
キュピーン
 「まだまだぁっ!! 私にも時が見えるっ!! 見えるぞぉっ!!!!」
今での軍隊口調もあって何か変な処のスイッチが入ったのかアニマは
『撃翔剣』でヒミカの尻を突付き行手を塞ぎ追詰める。ヒミカ自身の魔力で。
其処に、修羅が、いた。
 「・・・・・・(お手上げ」
魔力が『守護剣装』に吸われているため暴走が出来ないヒミカとノリノリなアニマの
コントは、ヒミカの魔力以前に息が切れるまで暫し続くのだった・・・・・・
 「ああ、アンジェリカよ、私を導いてくれ・・・」
 「ふえええええんええ!!?」
どっと御払い? 

間を置いて現場は落ち着きを取り戻したものの、
ヒミカは完全に怯えガタガタブルブルとウィズダムの背後に隠れてしまっている。
 「え〜〜っと、・・・申し訳ありません。形からと調子に乗りすぎてしまいました」
 「アニマもこう言っていることですから、場を仕切り直しましょう」
 「ウィズダムちゃんがそういうなら・・・これから如何するの〜〜?」
全面的に謝罪するアニマと取り持つウィズダムにヒミカも怯えていられない。
オズオズとウィズダムの影から出てきた視線の先には、落着くまでの間に魔導機兵が立てた
幾重もの分厚い鉄板。相当に腕が立たない限り、魔法であれ剣術であれ粉砕困難な代物。
まさか・・・まさか・・・
 「こんなのとはいえ仮にも魔術師であるヒミカさんなら、初っ端からでもソコソコ
『撃翔剣』をコントロール出来るかと思っていました。それが、あんなのとは・・・
今回ばかりはヒミカさんが斜め三歩後にいたのを見切れなかった私の失態です」
さり気無く毒を吐きまくっているが、誰も気付かずアニマの説明は続く。
 「其処で、今回はヒミカさんを通じて私が『撃翔剣』を使ってみようと思います。
そうすれば今後はヒミカさんが明確な拒絶を示せば防御を、明白な敵意を示せば攻撃を、
自動的に行ってくれるでしょう、多分。・・・望ましいのは、完全操縦ですが」
分かっているか分かってないのかウン〜〜と可愛らしく首をかしげるヒミカ。
でも、アニマは騙されない。はちみつレ○ンより甘いウィズダムは騙されてるっぽいが。
だから、アニマはヒミカの背後に立ち、満面の笑みで両肩に手を載せてやった。
 「では早速・・・」
 「え? え?」
 「はい、前を向いてくださ〜い、お客さ〜ん」
 「は、はい〜〜」
ヒミカの視界の中、送り込まれたイメージ通りに『撃翔剣』四振が前に並んで整列する。
そして
 「斬るッ!!!」
 「っ!!?」
アニマのソレに『撃翔剣』は光刃を発し突進、揮って鉄板を人型へ切抜いた。
事を終えた剣は速やかに定位置に戻り、唖然なヒミカと対照的に沈黙を保つ。
更に
 「穿つッ!!!」
 「うぇっ!!?」
肩甲から放たれた『撃翔剣』二振は猛回転に閃光となって人型になった鉄板に突撃。
頭と胸を正確に撃ち抜き・・・抉り抜いて真っ二つ。
 「貫く志はあらゆるものを穿つ。それが、天星剣(グランシャリオン)」
 「・・・・・・(汗」
 「ウィズダム、次は私達に魔法弾を撃って下さい」
 「え〜〜ッ、アニマちゃん本気〜〜ッ!!?」
 「ナンダッテーッ!!?」
 「大丈夫。ウィズダムさん如きの魔法攻撃では、
ヒミカさんの魔力は突破出来ませんから・・・」
その台詞に、一帯の空気が凍りついた。ウィズダムの目が微笑むように細くなる。
 「・・・ほほぅ、言ってくれる」
 「アニマちゃん、ウィズダムちゃんを挑発しちゃダメ〜〜!!」
 「ヒミカ、安心して。ヒミカには当らない変化球の軌道で撃つから・・・」
 「きゃぁ〜〜〜!!!」
ウィズダムは人造人間である。この動きは機械の如く正確無比・・・であるが、
偶にウッカリとミスする処がチャーミング♪
 「『魔弾』・・・タイプ:滅投球(カノンボール)」
ウィズダムの手に生み出される光球。それは『魔弾』1セットの魔力を凝縮した破壊力。
ヒィイイイィと恐れおののくヒミカと、それを盾にしているかのようなアニマに関係なく
☆飛馬劇風ウィズダムは炎を背負って腕振り被り、ピッチャぁー投げましたっ!!!
魔球にならい螺旋の軌道でもってヒミカに迫る魔弾。しかし
 「星華盾(イグシードアイギス)。 固き信念を貫けるものはない」
 「な、ナニイイイイィッ!!?」
ヒミカとアニマの前、五方を向いて展開する『撃翔剣』。それを基に五片の光華が咲く。
魔弾を中心に受けて一瞬、光華は撓んだもののカキュィ〜〜ンと打ち返し、
魔弾は青空へ吸い込まれるようにバックグラウンドへ。
無事で万時無問題なのだが渾身の一球を打ち取られ意気消沈で地に崩れ落ちウィズダム
を視界の外に、何故か満面の笑みのアニマは顔が引き攣っているヒミカへと説明を続ける。
 「と、このように『撃翔剣』は防御することにも使えます。もっとも
防壁を張るには面をつくる三点があればいいわけですから五振もなると
可也の防御力に、10振全てで展開すると鉄壁と言っていいでしょう。
ヒミカでも非常に疲れるでしょうが・・・」
 「ええ〜〜!!?」
 「これでヒミカさんも護られるばっかりではなく
ウィズダムを支援出来るようになりましたね」
 「あっ、そうね〜〜・・・」
装飾気とは打って変り魔導兵器の面を存分に備えた『守護剣装』に、
否定の色をみせたヒミカもウィズダムを支援できると一言で珍しく思案顔に。
確かに、護ってもらうのは心地いい。しかし、人は知ればそれだけで満足できない。
対等になりたくなる。支え合い、共に並び歩きたいと願う。
確かにヒミカは炎術士として一流の攻撃力を誇るが、それは安定したものではない
意の通りに使えない力など無きに等しい。寧ろ、マイナス要因。
『守護剣装』はヒミカの暴走を防ぎ、安定した力へと変えてくれる希望。
 「ウィズダムちゃん、私ガンバルから〜〜」
 「ヒミカ・・・」
ヒシッと抱き合う麗人と美女。それは真に神秘的な光景であった。
二人が体操着でさえなければ・・・
 「その『守護剣装』の本来の目的はヒミカの暴走を防ぐためなんですけどね」
そして、今この場にいない二人と其れに泣きついた総意の真意さえ知らなければ・・・


3.お仕事
アニマ、風の魔女アンジェリカに双子の姉妹と思われる程の美女だと思われがちだが
その実体は、アンジェリカを模した義体の頭に乗ったダンゴ虫な兜蟲の魔導生物である。
『ナイトウィザーズ』身内の中では周知の事実だが・・・それはさて置き
アニマの住まいは、欠番であるアンジェリカ上級単身室である。
アニマの一日は、部屋に座した椅子で目覚める・・・もとい、置いてあるのは義体のみ。
慰安用だったものを特製へ改良に、骨格を強化し、筋肉に魔導伝達物質を織込み、
格闘から礼儀作法まであらゆるモーションを盛込んだ副頭脳を備えているとはいえ、
操る者がいなければ単に反応するだけの高級人形でしかない。では、本体はというと
 (・・・z・・・z・・・z・・・)
義体の横に置かれた籠の中、ボールみたく丸まって寝ていたりした。
窓辺で小鳥の朝会議が涼やかに、行き成りグロい腹を見せて解けた兜蟲は多足を伸ばし
 (ん〜〜〜)
全てを断末のようにプルプルと震わせる様は、人によっては悪夢を見そう・・・
その目覚めの伸びを終らせたアニマは腹筋運動?の要領でクルンと背を上にして
台所の黒いアクマさながらにワシャワシャと美女な義体を這い登り頭上に到着。
その足でシッカリ義体の頭に体を固定すると、パチリと開くのは義体の瞼。
その瞳は造りものであるはずなのに知的な光を宿している。本体の兜蟲と同様に。
魔導生物とはいえ生きている以上はアニマとて食事は必要である。
食卓についたアニマ(義体)の前には一切れのパン。それをイタダキマスの礼で口へ。
義体ではなく本体の。義体の人の手だけではなく本体の小さい最前足でもって
モシャモシャと食べる姿はカワイイとキモイの両極端に意見が分かれるだろう。
量は少ないが口も小さいので相応の時間をかけて食べ終わるとゴチソウサマと後片付け。
新陳代謝がないので殆ど汚れる事はないものの、義体の姿相応に身嗜みを済ますと出勤。
アニマには高い知能がある。即ち、動物の様に唯生きるという事だけ満足など出来ない。
だから一魔術士として『ナイトウィザーズ』に務めている。自身の為にも、友の為にも。

身体を隠すのは無駄に豪華なだけのマントに、携える魔杖は権威の象徴。
周囲とは明らかに気等が違う男達数人が敷地内を歩いていたが、
警備の魔導機兵は其れに警戒の気配を見せるだけで、それ以上の興味は示さない。
何故なら、その先頭を歩いているのは一見奇妙な帽子を被った美女なアニマだから。
本日のアニマのお仕事、『アカデミー』からの視察の案内。
メンバーが暮す宿舎棟に始まり、食堂,大浴場,会議室等の集った共同棟。
そして、『ナイトウィザーズ』の本中枢であり機密の塊ともいえる格納庫。
それ以上もそれ以下なく・・・
「あ〜〜君、これで全てかね?」
 「『ナイトウィザーズ』の建物の全てです」
「・・・魔術士でもない君がどれ程、此処の事を理解しているのかね?」
少なくともアニマは嘘を言っていない。格納庫の更に先にあるドックを黙っているだけで。
だがしかし、造型はアンジェリカそっくりでも雰囲気は全く異なり丈の長い衣装で
淑女な感のアニマを、アンジェリカの姉妹親戚と考えても、それ以上は分からない。
 「精神防壁は魔術士の必須でしょう。思考盗察なんて真似は出来ませんよ」
「むっ・・・ぐぅ・・・」
アニマの思考を読もうとしていた魔術士が言葉につまり、他の魔術士に嘲笑される。
同じグループに属し敵地視察に来ていながら一枚岩ではないらしい。
 「それから、姿隠しで来られた方に直に戻って来るよう知らせられた方がいいですよ。
魔導機兵が監視で済ませている間に・・・斬捨てられても文句は言えませんから」
「っ!!?」
先まで嘲笑していた魔術士が今度は顔面蒼白に俯く。相方に連絡を取っているのだろう。
アニマの師は、嘗てアカデミーで当の法王フィートとその座を争ったアンジェリカである。
結果、自滅的にその座を逃したとはいえ実力は折紙付きに、その弟子であるアニマも
戦闘そのものならいざ知らず、謀術を含めた一連の魔術はそこいらに引けをとらない。
寧ろ実技実戦で鍛え上げた能力は、洒落に偽って法王目指したろかと(以下省略)である。
それを見抜いたかリーダー格の魔術士は表情を引締め鋭い目付きでアニマを見る。
「それでは、貴女がこの組織内でどれ程の権限があるか教えて頂きたいものだな」
 「さぁ?
でも戦闘時には魔導機兵だけではなく、他魔術士達の指揮権を持っています。
今は欠番の『光晶の法王』ディオール氏,『烈火の法王』リー老師、そして
アンジェリカさんのように・・・」
「ほほぅ、では魔導機兵の事もさぞかし詳しいのだろうな・・・」
 「製造方法に関しては公開されてある通りです。
ディオール氏特製もアルマティ『ナイトウィザーズ』製も」
「それだけでは、此処にあるようなモノにならんからこそ聞いているのだがね?」
 「その点は、一から頑張って教育してください」
見惚けそうな満面の笑みのアニマとアカデミー魔術士のキツネとタヌキの化かし合い。
アカデミーにその記録はないが其の姿もあってアンジェリカとの関係を匂わせ、
最早アカデミー魔術士は侮っていない。しかし、嘘をつかない事も見透かしているだろう。
確かに、アニマは魔導機兵に関しても嘘をついてはいない。
魔石練成技術はあらゆる練金技術のノウハウもあって、そう困難なものではなかった。
それから魔導機兵を造るディ特製にしても、一時的な物質化で人型くらいは容易である。
それは常在する身体をもつナイトウィザーズ製も同様。携帯性を除き省エネしただけ。
しかし、それにモノノフの動きをさせるとなると、全くの別問題だった。
種明かしをすると、ディは単に身内の動きを読取り魔導機兵に再現させたわけだが
それに関しても自体にそれを使いこなす知能を備えさせなければならない。
ナイトウィザーズ製はその劣化コピーで完全再現は無理とは言えども十二分
使える動きが出来る。こればっかりは知らなければ分からない事であった。
ついでに、魔導機人,超機人の作製に関しての論文もアカデミーへ提出されてあるが
未だに再現は成されていない。それは、内面の人格以前にボディそのものが。
一人の人間を作り上げるという事は一個の団体で出来るものではない。
ましてや、其処に趣味を極め至高に達する匠の腕が多数関ってくるとなると尚更。
彼はあくまで、そのプロジェクトの提唱者 氷山の頂点でしかないのだ。
そして、その氷山こそがウィズダムを生み出したチームであり、『ナイトウィザーズ』
協力を否定し個人主義どころか御互いに足を引張り合う『塔』が到達しえない境地。

地上で壮絶な舌戦が繰り広げられている頃、
地下のドックでもまた壮絶な戦いが繰り広げられていた。 身内同士で。
「・・・・・・」
「「「「「「・・・・・・・」」」」」
空間を支配しているのは、明らかに緊張感ある沈黙。魔導機兵ですら音を立てない。
その全ての源といえるのが、遮蔽物が無い限り空間を一手に見渡せる場に立つフォン。
普通の人がその姿を見ても十中八九は、眼帯をしているとはいえ暇潰しにいるとしか
感想を抱かないだろう。しかし、彼の本職を知る者は十中八九警戒している。
視察が来ている今この時に?
態々この場に?
何故?
「・・・(あ、姐さん、ヤバイっすよ!!)」
 「・・・(こっち見るんじゃない。ばれるだろっ)」
「・・・(てか、きっと既にばれてるッス)」
「・・・(でないと、フォンの旦那が此処にいる理由が)」
 「・・・(大丈夫っ!! 証拠は何処にも無いんだっ!!)」
その隙を見てナイトウィザーズABCトリオがシオンに話しかける。
ABCトリオ、アレックス(A),ベン(B),チャド(C)は
シオンを「姐御」と慕う三人組で、事ある毎にこき使われいびられている。
ベンが戦闘に,アレックスとチャドが整備に実力を有しているものの、
いかせん人ズラが悪くギャグキャラなのでABCトリオで纏められてしまっている。
ABCトリオの紹介はさて置き、シオンとABCトリオの密談は端からフォンに察知済み。
寧ろ、引掛ける為にフォンは態と平然にしているのであり、それが証拠であった。
「・・・こそこそして、如何かしたのか?」
「「「「!!?」」」」
四人が振り返れば、丸でモノノフの技「縮地」を使ったかの様に間際まで接近していた。
それに他の技術魔術士や魔導機兵が距離を取る。責任者に全てを任せる事にしたらしい。
責任者とは責任を取る為にいるのだっ!!!
・・・単に見捨てたともいふ。
 「ふぉんこそ、きょうは『あかでみー』のしさつがきているんじゃないのか?」
「何、全てアニマに任せてある。俺が行くより効果的だろう。
・・・それはそうとシオン、随分と堅いな。風邪でも引いたか?」
 「ははははは、そうなんだよ。ざこねしちまってね」
「ほほぅ。シオンも仮にも女性なんだから多少は慎めよ」
 「あ、ありがとう」
にこやかな笑みを浮かべ話すフォンはいつにもまして男前に優しく見える。
しかし事情を知る者は確かに感じた。その裏に隙あらば斬捨てんモノノフの剣気を。
それ故に、シオンもまた普段は応酬する台詞の毒に反応できない。
「・・・・・・それはそうと、最近実に面白いモノを見つけたんだが」
「「「・・・」」」キター―――っ!!!
 「へ、へぇ・・・それは何なんだい?」
「「「・・・」」」姐さん、ソレ、自爆ルートッスー―――っ!!?
「超変○・超機人とかいうフィギュアだ」
 「・・・・・・」
「「「・・・(合唱」」」
「要は着替え人形なのだが、そのモデルはウィズダムそのもの。
レオタードを基に、ウェイトレス,アオザイ,スーツ等の衣装は兎も角として
差替えによるが四肢のみの部分装甲化、更に装甲を纏わせ魔導機人どころか
騎翼機ストームブレイカーを分解装着に護装機将までも変身可能。
しかもブレイカーストームセーバーはクリアパーツを用いて仮想砲身も再現」
「「「「・・・」」」」
「ここまでくるともう、内部の者が造ったとしか思えん」
「「「「・・・」」」」
「赫言う、俺も持っている。三セット」
持ッテルノカヨッ!!! シカモ玄人二、遊ビ,展示,保存用ッテカっ!!?
瞬間皆がツッコんだ。そして、気付いた。それこそが引掛けであると。
「・・・。 ふぅ〜〜〜、やはりお前達の仕業か」
 「い、いやっ、コレは、金策にだね・・・」
「ウィズダムの存在は最早アルマティに知られている。あの程度ならば問題はない。
本物に劣らず、中々美人に造られている事だしな・・・」
 「うんうん、そうだろうそうだろう。
なんたって造型師が腕によりをかけたモノだからね。アレはイイものだ・・・」
「張本人がいうか・・・。てか、販売する前に当人に許可取ったのか?」
端っから止められるとは思っていないのだろう。
調子に乗るシオンを呆れつつ巧みに全てを吐かせていくフォンは名刑事。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「先生、どうぞ御納め下さい・・・」
 「きゃぁ、かっこいい〜〜!!!」
 「線の一本一本細部まで人の手による彩色を行っております。先生には更にコチラも」
 「あっ、私〜〜」
 「先生のためだけに造った『超○身・超機人ウィズダム』限定版『炎術士ヒミカ』
 このように二つ御一緒で・・・・・・・」
 「きゃぁ、きゃぁ〜〜♪ しおん、おぬしも悪よのぉ〜〜」
 「いえいえ、先生も中々御人が悪い・・・」
 「「くっくっくっ・・・」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「っと、いうわけで、先生の許可はシッカリ頂いているっ!!!」
「オマエ達、バカだろ? 大バカだな。 大アホウめ。
その、ヒミカ先生の保護者の許可を と り や が れ」
 「うぐっ・・・そんなこと、許可がとれないじゃないか。
・・・(でも更に島外用200体は出荷準備済だったりするんだけどね)」
「と言うわけだから、ローエンハイツ港に転送しろと伝達された200体は
伝記小説と共に既に押収した」
ナ、ナンダッテーッ!!!???
悪の野望は此処に費えたのだった。
「・・・出すな、とは言わん。 当人の許可も既に取ってやった。
だが、な、実名は出すな。フィギュアの眼や髪の色はせめて変えろ。
ボディラインも弄るべきだと思うが・・・其処は眼を瞑らざるえまい。
ウィズダムの存在は、アルマティの外には最重要機密なんだぞ」
神・降・臨!!?
 「い、い、いいのかいっ!!?」
「金策しろと言ったのは俺自身だからな」
拍手喝采っ!!!
妥協すべき点は妥協する。この辺りは彼の人心掌握術か?
 「フォン、あんた話わかるじゃないか。見直したよっ!!!」
「どうせ、今回俺がいない間に更に量産する見積もりだったんだろう?
その前に出荷はずだった分を修正しろ。既に此処へ運び込んである」
丸で某イベント前の修羅場のように慌しくなる場。
皆が皆、隠していた内職を展開して其れに勤しむ。怒号が飛交う。
その中で彼はさり気無く主導権をシオンから奪い握る。
フォン、恐ろしい人っ!!!

因みに、フォンが○変身・超機人ウィズダムを3セット本当に持っているかは
定かではなかったのだった・・・・・・
追記すると、世の中には遊ビ,展示,保存用に改造用,バックアップと
5セット入手している猛者もいたりする。
誰とは言わないけどねっ!!


4.戦い・・・前哨戦?
司令室は喧騒に包まれていた。空中に展開された幾つものパネルに写されるのは
アルマティの地図に、忙しなく整備員が動く格納庫の様子、一見平穏な拠点周辺の状況。
・・・そして、キメラウェポン達が跋扈し混乱を極めている現場の状況。
其処へ新たに写るのは、槍に盾と騎士の様相の魔導機巧鎧と其に似た形式の魔導機兵。
キメラウェポン達の注意がそれに向き、敵意を表す。
『バルディチーム以下五騎、敵に接触っ!!』
アルマティの地図で、味方を示す青点の群と敵を示す赤点の群が重なりあう。
『こちらアサルト、敵を殲滅するぜぇ』
各所で戦闘が始る。しかし、自由な赤点の群の方が多い。 寧ろ、増加している。
『こちらイーグルリーダー。出るぞ』
 「っ!!? 進路クリア、どうぞっ!!!」
最高指揮官たる者が現場に出るのは如何かと思うが、戦力が足りない以上は仕方が無い。
戦闘能力低くとも指揮能力が高い副官のその頷きに、管制官の魔術士がGOサインを出す。
射出台から大空へと飛出すのが、赤い鋭角な装甲に剣長銃と細長盾を携え
片目部が塞がれた魔導機巧鎧と人サイズでも猛禽類を思わせる飛行型魔導機兵。
背に3対の剣翼を備えた其の魔導機巧鎧 高機動(空戦)型シュナイザーを纏ったフォンと
揮下の魔導機兵は編隊を組んで高速で空を翔る。
点と捕らえた標的は即姿を明らかに、気付かれる前にフォン纏うシュナイザーは停止滞空。
シュナイザーが銃口を向けて撃出す光弾に無数の並んでシュナイザーの側を
速度落とさず抜けた猛禽類な魔導機兵は高速で飛行を続けたまま頭を下げる。
そして、胸に付いた鷹顎に変わり出てくるのは騎士兜の頭。変形を得て降臨するのは
背に大翼を持つ機巧の騎士達。シュナイザーの射撃が着弾した敵へと斬りかかって行く。
『イーグルリーダー、これより戦闘を開始する』
シュナイザーも剣長銃に銃身下部を覆い遥か長く伸びる光刃を燈し戦陣へ加わるのだった。

一方、司令室で新たなパネルに表示されるのは、風に蒼い髪をなびかせ
鋼色のレオタードも艶やかに騎乗機に跨り空を翔る戦乙女ウィズダム。
 「ウィズダムさん、現場へナビゲートします。ハスターもそちらに」
『了解。敵の状況は?』
 「郊外で新たに姿を現した蟻のキメラウェポンです。大型獣サイズの女王蟻は
一体ですが、人サイズや飛行可能な兵蟻を多数確認しました。現場の映像を送ります」
地図上では、ウィズダムを示す高速で移動する青点に異なる青点が並び一つになる。
実際にウィズダムと並び翔るのは、鋼の大鷲ハスター。
地図上で向う先に示されているのは、他の赤点の群より遥かに大きい赤球。
それが示す意味を、現状況を見てもウィズダムとハスターに一片も怯えの色はない。
何故なら二人?こそ連中の天敵であり、連中はその前に駆逐されるしかないのだ。
己が為しか力を揮わぬ魔術士など護る価値はない。
ただ、二人?の存在意義の一つに戦いがあり、仲間が戦っているからこそ戦う。
キメラウェポンが平穏な生を甘受せず邪の害獣となるのなら、駆除せねばなるまい。
前のみを見据えるウィズダムとハスターの視界の中にソレが捉えられる。
一体何処に隠れていたというのだろうか。群れとなって突き進む黒の塊。
明らかにソレが目指すのは、より勢力を拡大するための食料となる人。

 「変(EX・・・

ウィズダムが騎乗機を蹴り、風を全身に受けて空へと大の字に身を投出す。
主の制御を離れた騎翼機ストームブレイカーは、そのまま主が望むがままに
弾丸となって群に特攻し、黒の中に大地の色の一本路を作り上げた。
蟻のキメラウェポンを弾き轢いた程度では、端から戦術装甲として造られた
ストームブレイカーは傷付きなどしない。人間を即溶解する蟻酸も汚れを落とす程度。
しかし、ストームブレイカーが多少なり蟻のキメラウェポンの群れを削ったとはいえ
それは全体の微々たる量でしかなく、端から挨拶代わり。

我を刮目せよ。我等こそ汝等が誤りし命の冥獄へ導き也。

 ・・・CHANGE)神」

その四肢が先端から入れ替わる。繊細さを魅せた柔肌の手は、無骨に雄々しい甲手に。
乙女達羨望の絹肌の腕や脚は、冷徹なまでに頼もしく戦うためだけの刃鋼へ。
胴が胴たるは男を魅了する艶肉から、四肢をつなぎ力をみ出す機関を治める場に。
麗しくも凛々しい顔は、口元はフェイスガードに覆われ、目元はアイマスクが被さり
騎士兜の目部に灯る光は士の意思。後頭部の合目から鬣の如く零れるのは藍髪。
魔導機人ウィズダム、此処に 降 臨
だが、魔導機人ウィズダム自身には空を飛ぶ能力は持ち合わせていない。
ただ落下していくだけである。墜落したところで何の問題もないのだが。
それを止めるのは背に生えた鋼の大翼。 否、当然のように装着されたハスターの其の翼。
 『(動力路・伝達路、全接続)』パワートランスミッション、フルコンタクトっ!!
 『(獅霊機関、全機動)』ブレイブスピリチュアル、フルドライブっ!!
ウィズダムの鋼の躯の中で生まれたエネルギーが、一体化したハスターの中へ。
両翼 其の中央、人の手の甲に当る部分の装甲がずれて姿を覗かせるのは碧に輝く宝石
ではなく、輝きを見せながらエネルギーの変換炉であるソレは魔術石『ビヤーキー』。
エネルギーを注込まれ押さえきれぬ力に碧の風が零れ始める
 『(射撃タイミングはそちらへ・・・)』
 『(標準補正は任せる)』
スッとウィズダムが挙げる腕に、一体の音が消える。それは嵐の前の静けさ。
其の中で、ウィズダムの周りに無数の球の歪みが生じる。それは圧縮された風。
 『(暴れよ、狂風)』
 『(穿てよ、弾嵐)』
 『『((ディス・ブリンカー))』』
振り下ろす腕に合わせて風弾一斉掃射。
蟻のキメラウェポンを、撃抜く 弾飛ばす 挽潰す 圧削る。
虐殺 滅殺 殲滅
降り注ぐ弾幕の後に残されたのは、肉片,部分が欠けた躯,
形を健全に留めつつも一撃に奪われた躯。
甲を砕かれ肉を抉られても未だ留める命。傷きても未だ保ち続ける怪威。
そして、その力でもって完全に凌ぎ切った特別。
傷ついたモノも、戦力とならない同族を喰らい、欠けた部分を接ぎ充て蘇る。
数の暴力も脅威ではあるが、こうして残ったモノも脅威である。
そうして残った『敵勢』は、その天敵たるウィズダムを威嚇し、牙を向く。
 『(抗うがいい。それが、誤って生出され、誤った道を進む貴様達の唯一の権利)』
先の攻撃の安全圏まで自動的に離れていた騎翼機ストームブレイカーから撃出された
魔導砲剣ストームセーバーと撃構盾ストームスタンダーは吸込まれる様に其の甲手へ、
ウィズダムは舞うように勢いを殺し構える。抗う以上は負けてやる義理は一切ない。
兜から零れる藍の鬣髪から燐光を残し、鋼の騎士は慈悲なき空を駆ける。

ウィズダムやフォン,各小隊が激戦 もとい駆除が熾烈を極めていた頃、
『ナイトウィザーズ』の本拠地周辺でも変化が起っていた。
元々寂れ使われなくなった旅館を改修して造られた其処は、郊外に風景はいいものの
関係者以外は全く人が来ることはない。逆を言えばキメラウェポンが近づく要因は少ない。
にも関らず、敷地外を監視しているパネルには其の姿が無数に捉えられていた。
元々キメラウェポンとは対魔術士生物兵器であり、多かれ少なかれ抗魔性を備えている。
だからこそ、魔術兵装や魔導機兵でもって対抗せざるえない。
とはいえ魔導機兵のみでは其の能力を生かしきれず、如何しても現場指揮する者が必要。
今、敷地外のキメラウェポンへ攻撃を仕掛けている魔導機兵には指揮者がいなかった。
それも当然、指揮の優れた者達は既にキメラウェポン駆除で出払っていたからである。
「東方守備部隊、戦闘開始しました」
 「東方守備部隊は撃って出ず防衛戦に徹してください。意外の守備部隊は現場の警戒を」
「東方守備部隊、圧されてます」
 「各小隊、戦闘中につき救援求められません」
「他守備部隊から増援をお願いします。このままでは持ちません」
 「其処に他の守備部隊を遣せば、其処が手薄になるぐらい分かるでしょう?」
「しかし・・・」
守備部隊の魔導機兵の主装備は来訪者を必要以上に威嚇せず万能性を優先して 
素体には基本装甲、得物は機槍(魔導ランチャー内臓ランス)と刃縁騎士盾のみ。
本拠地に迫る其のキメラウェポンの勢は、全ての守備部隊を向ければ即駆逐できる。
しかし、端から穴が開くことが狙われている懸念がある以上は、それは出来ない。
だが、そうしなければ其処を破られ侵入を許し必要以上の被害を招きかねない。
端から内へ誘い込み集中砲火で即殲滅という手も無くもないが・・・
ジレンマに司令室が硬直する事一瞬、それを破ったのは意外で当然な処。
 『こちら格納庫、パンツァー隊出るよ〜〜』
 「行けますか?」
逡巡は一瞬。パネルに写ったのは、悪戯っ子な微笑で寧ろハンサムな彼女 シオン。
現在は開発整備長と最高技士の地位に見を置くとはいえ、先の大戦では自身が専用の
魔導機巧鎧を纏って戦場を駆けていた。勝手に魔導機兵を改造する問題児とはいえ、
今は困ったチャンな実態すら頼もしい。
 『当然、出来なけりゃ言いはしない。
こ〜んな事も あ ろ う か とぉ、準備は万☆端さっ』
 「お願いします」
GOサインに、闇に包まれた格納庫口の向うで怪奇に手前から奥へと灯って行く無数の光。
ドスンドスンと地響きに其の光を僅かに上下現れたのは、愚鈍なまでに重厚で威圧感ある
重装砲戦型の魔導機巧鎧「カグツチ」に、同様仕様な魔導機兵数騎。そのカメラアイ。
肩には重魔導砲「ザッハーク」を担ぎ、魔導連銃「ダハーカ」を携えたその姿は
凶悪なまでに殲滅目的。 災厄をばら蒔く邪竜名の兵器に誤らず、破壊の権化。
 『シオン=センラ、行くよっ!! パンツァー隊、続きなっ!!』
完全に格納庫から出た小隊は、シオンの号令に得物をジャキッと持直し
鈍足な機体をホバーで浮かせ、威圧に進軍する。
・・・恐れ、ひれ伏せ。 重火力こそ威力なり・・・


出撃した魔導機兵の半数が軽破,中破。即ち、装備換装,僅かの修理で戦線復帰出来る。
今回出現した多数のキメラウェポンを完全殲滅し、予備に作業用として控えていた分が
一部除き全く触れずに済んだ事を思えば圧勝である。
事後の一息をついた後、本拠地の会議室にはナイトウィザーズ幹部の面々の姿があった。
それは今回事件に何かしら関った者達。団長のフォンは戦魔術士として、以下数名。
管制部からはアニマと主任の魔術士。技術部からはシオン。そして遊撃隊のウィズダム。
内容は当然に今回の戦闘に関しての報告で、事実について順調に話終わりサクッ本題へ
「ぶっちゃけ、今回の件は威力偵察だな」
 「ですね。」
 「はい。」
単刀直入に切り出すフォンに、ウィズダム,アニマに続いて次々と同意していく面々。
仮にも戦闘を生業としている魔術士達である。戦略・戦術は必須。
 「・・・、威力偵察って何だい?」
「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」
威力偵察とは、敵陣地の配備及び弱点を暴露させる為に攻撃をさせて情報を得る行為。
シオン=センラ、黙って飾れば化けるが其の実、技術屋畑の改造『バカ』である。
 「でも、出てきたキメラウェポンは全て駆除したんだろ?」
「そもそもアレだけのキメラウェポンが一斉蜂起するなど、其処に何者かの
意思があるのは当然だろう。2度目は偶然だが、3度目以上は必然だからな。
しかも、キメラウェポンは使い潰しの戦力にコレとなくモッテコイだ」
 「ほうほう。・・・それで、誰が?」
「事が沈静化するや否や、アカデミーはもっと被害を少なくしろ出来なければ指示に従え
と、事なかれ主義のお役所仕事のクセにイチャモンを着けてきたきたくらいだからな。
・・・ひとつしかないだろう。寧ろ、キメラウェポンを制御出来るのは其処しかない」
 「「「・・・」」」
 「で、何処だ?」
「・・・オマエ、本当にバカだろう? バカに違いない。決定」
うんうん。
 「私をバカっていうなーっ!! おまえら、魔導騎兵整備できるのかーっ!!!」
「「「「「「「「「それはそれ、これはこれ」」」」」」」」」
 「ぐっ・・・」
類を見ない結団力でシオンを黙らせた面々は意見を交換し、一つの結論に至る。
否、既に皆の結論は出ていた。 威力偵察、その言葉が出ていた時点で。
「それでシオン、アレはいつ完成する?
いや、完成していなくてもいい。戦力になるのはいつだ?」
 「もう一通り組み上がっているからね、後は時間で解決せざるえない配伝系だから
・・・ふむ、徹貫作業でコレだけかね。寧ろ確実性を重視すればコレだけ掛けるべきだ」
ドチラにしても両手で示される日数は、キワドイまでの境界線(デットライン)。


5.幕間

ウィズダムです。
これから実験なのに何故か、要所以外レース地の白いボディスーツを着とるとです。
 「きゃ〜〜、ウィズダムちゃんカッコイイ〜〜」
 「このレースがエロ、ゲフンゲフン・・・上品にセクシーなのですよ」
ヒミカと名も知らない一女魔術士が意気投合して大事の前の小事にと。
しかも、白いレースの手袋に、白いストッキングまで着けているとです。
 「私、余分な御肉が胸とか御尻に着いちゃってるから、こんな衣装似合わないし・・・」
 「・・・(それは嫌味かっ!!?)。まぁ、何であれウィズダムは理想的な身体ですし。
ほんと、どんな衣装も生えますねぇ。 色々と用意きてきた甲斐があるというものです」
って、貴様が原因かっ!!? ヒミカを変なコスプレマニアにしたのはっ!!!
 「私、アンジェリカ以外にお友達が出来るなんて思わなかったわ〜〜」
 「私も、貴女にコレほど理解があるお方だと露ほど思いませんでした。
此処で知合えた奇跡を感謝する以上に、もっと以前に知合えなかった事が口惜しいっ!!」
ヒミカとその一女魔術士、ヒシッと抱擁しあっているとです。
ウィズダムです・・・ウィズダムです・・・ウィズダムです・・・

アカデミーという人事不審に陥る場所でヒミカの唯一の親友は風の魔女アンジェリカ
のみであったが、権威名誉よりも己の楽しみを重視するナイトウィザーズにおいて
親友となれる気質の者は多くいた。ただ同時に、気質だけに趣味が難ある者が多い。
その一女魔術士もまた然り。彼女の『衣装(ドレス)と能力(スキル)』について研究は
ナイトウィザーズの内では、かのシオンに機能美でもってブレイクスルーさせたとか。
以降、兵装も彼女のデザインで機能を向上させたのは有名な話である。例を上げるなら
フォンの魔導機巧鎧シュナイザーは装甲を赤く、角をつけた事で三倍の機能を得たとか。
・・・類は友を呼ぶ。

話題復帰。
兎も角、こうしてモノノフ美女なウィズダムはイブニングドレスの為の見せ用下着
っぽい衣装とある意味恥辱プレイで本日の実験へ参加する事になったわけなのである。
 「ウィズダムちゃん、ほんとカッコイイ〜〜」
 「小さすぎず掌に収まる形イイ胸ならではなのですよっ!!!」
余計なのを二人ばかり・・・以上にギャラリーを引き連れるハメになって。
格納庫の一角、その区画では
当の魔術士がしかめっ面で艶やかな戦乙女を上から下まで見回す。そして、鋭い眼光に
当の元凶達はビクッと硬直。流石にこの格好で実験をさせるのは不味いと気付いたか。
でも、後の祭り
「これは・・・ヒミカ先生と君が?」
 「「はっ、はいっ!!!」」
「・・・・・・、ぐっじょぶ」
漢泣にサムズアップするその魔術士に、ヒミカとその女魔術士も漢笑みでサムズアップ。
 「・・・こんなのバッカリ?」
 「まぁ・・・きっといいことありますよ。多分」
ポムッと肩を叩くアニマの手が目頭が熱くなるほど優しくウィズダムに感じられた。
話題が逸れそうなので、アニマが二人に睨みを効かせつつ
 「それで、今回はどのような実験を?
私が更に魔法を使えるようになるとの事ですが・・・」
一応ウィズダムは魔法が使える。 と言っても、既にある幾つかから選択するのみで
それ以上は登録できない。アニマが憑く事で更に使う事が出来るが、それは厳密には
アニマがウィズダムの力を使って魔法を行使しているのでウィズダムの魔法ではない。
最も、今の状況でも必要最低分以上の魔法数は確保できているので問題はないのだが。
「先ず、君にはこれを着けてもらう」
 「・・・魔石?」
「否っ、これは魔術石(マギウスストーン)っ!!
ハスターが備えているアレを君専用にしたものだのだよっ」
正六角形の淡い碧色の宝石。魔力蓄積であると同時に魔導発動体である魔石と異なり
それには汎用性がかけて魔力蓄積としての能力はないようだが、代りに変換炉として
高度な処理能力を持つ魔導回路が組み込まれているのだろう。
ウィズダムは促されるまま左手の甲にのせて魔術石に意識を向けると、
白い手袋の上からでも透けこむように装着される。
それと共に、ウィズダムの背中から生えるのは、白い翼・・・実体ではない虚像だが。
「おお・・・大 成 功 だぁ・・・」
 「・・・まだ魔術石を装着しただけですが?」
「細かい事は気にしなくていい。コンタクトさえ出来れば成功したも当然なのだよ。
その翼は、魔術石を装着していることがわかりやすいように識別するためのものだ」
 「そんなものなのですか?」
ウィズダムにはその辺りの専門的なことはわからない。しかし、戦乙女なウィズダムに
映像のみとはいえ翼を生やさせることこそが目的のように見えるのは気のせいか?
「うむっ、では早速魔術石を試してみてくれたまえ」
何であれ使ってみないことには話にならないので、ウィズダムは魔術石に意識を集中する。
白翼が生えた事で周囲から舐回すような ―アイドルを見るようなオタク―
の視線が非常に気になったが、己の容姿に無興味なので頑張って意識外におく。
 術式検索方式・・・>{教本分類術式}
 >{炎・水・風・地、基四属性}
 >・・・・・・
 >・・・・・・
 「・・・アルマティの教本、丸々詰め込んだわけですね。
属性付加で威力を上げるくらいしか使道がないようですが
身体能力の上限が抑えられるようでは私に向かないようです」
そもそも魔術とは力無き者が極めた知識の御技であり、戦闘を目的としたものではない。
その点、ウィズダムは端から戦いを目的として生まれモノノフの戦の御技をその身に、
付随的に魔術使いの戦士であっても、魔術士では決してない。
如何しても自分に関しての価値観は戦闘の有無にならざるえないのだ。
本来なら其の魔術石は内容の知識もあって国一つ買える垂涎の値打になるが。
 「アルマティの教本の内容でしたら戦闘以外で
汎用性が高いので持っておいて損はないと思いますよ」
アニマの忠告に、ふぅ〜んと手の甲の魔術石を眺めみるウィズダム。
その欲が薄く人を引付ける純粋な姿は、最早アイドル(偶像)よりもマドンナ(聖女)。
アニマはそれと同様の人に尽くし人を集める人ならぬ乙女の姿を嘗て見た。
ウィズダムには、彼女の様に人を魅せるだけではなく単騎で戦局を撃破する力がある。
ウィズダムには、彼女の様に志を貫く心はあっても、大局を見据え穿てる経験がない。
だが、ウィズダムの仲間には経験を補い余りある人の業が生み出した禁忌の英知がある。
その時の彼の戦聖女とは違い、御旗である戦聖女の後を着いて歩くのではなく
自分達は戦聖女と共に並び歩く事が出来る。 これほど心猛ることはない。

ウィズダム萌え〜な連中に、
アニマは自分は違うぞと言わんばかりに皆がはしゃぐのも仕方が無いと苦笑するのだった。
因みに、直後に『超○身・超機人ウィズダム』豪華白アンダースーツ素体Ver
つまり今回の白レースなレオタードな塗師職人技なものが流出するのだが、以下省略。
 「あ〜〜、私もウィズダムちゃんのそれ欲しい〜〜」
 「はいはい(疲」
 「造って〜〜」
 「無理です(即答」


其処は診察室。患者は実質ナイトウィザーズ団長で『英霊の魔眼』フォン。
本当に診察なので格好は軍服ながら、眼帯は着けず片瞼はしっかり閉じられている。
その担当医は、『光晶の法王』ディと『風の魔女』アンジェリカ。
片や若博士な白衣で、片やムッチリ女医な白衣なのは御愛嬌でさて置き
 「最近の調子は如何かしら?」
「限界は3分だな。それ以上はほぼ確実に意識が持たず、気を失っている」
「気絶するのは脳が焼き付かないよう安全装置が働いているからなので
気にしなくてもいいですよ。これなら、瞬間瞬間のみ使えば可也もつのでは?」
「ああ、御陰様で・・・な」
ディとフォンが質疑応答を行い、アンジェリカはその様子を観察する。
フォンは失った片目の代りに魔導具『英霊の魔眼』を得る事でクロックアップ
情報処理の高速処理による超加速を行えるが、当時に過大な負担を強いていた。
その為、こうしてディとアンジェリカが経過を見ているわけだが・・・
「・・・偏頭痛とかありませんか。例えば後頭部とか」
「よく分かったな!!?」
「そりゃ分かりますよ。眼で得た情報は後頭部で主に処理していますからね。
健常者と違い唯でさえ片目で事をこなし、普段から負担がかかっているはず。
もっと周囲の人を扱使って楽をした方がいいですよ。
逃げ出した僕が言えた義理ではありませんが・・・」
「いや、こうしてサポートしてくれているだけでも感謝して、し切れないくらいだ。
ディにも其方で成すべき事がある。これ以上は迷惑かけられんよ・・・」
「そうですか・・・。でも困った事があったら遠慮なく言ってください。
直ぐ駆けつけますから」
「気遣い、感謝する。でも、まだまだ俺達だけで出来る。
頑張ってみるさ。君達には負けてられないからな」
ツッぱる事が漢の、たった一つの純情〜〜♪
 「ホント、男ってバ〜〜カね。
・・・でも、そういうの、嫌いじゃないわよ」
「「・・・(照」」
それを弄り倒すのが、悪女の甲斐性〜〜♪
二人ともその手の趣味が無い以上いつまでも弄りたおされてはたまらないので
そさくさと次の診察に、フォンは胸元を緩めただけで診察台へ横たわる。
それでは眠って下さい と額をツンと触るディに、あっさりオちるフォン。
元々生物には魔法に対して「抵抗力」を備えている。普通は100で魔法を掛けたとしても
「抵抗力」により得られる効果は90か80となってしまう。
ツワモノの中には10処かコンマ単位、つまり粗完全にキャンセルしてしまう。
今回は逆に、フォンがディを信用し信頼しているので遺憾なく効果を発揮したのだ。
更に何処から出したかディの揮う法杖で、今までずっと閉じられていたフォンの片瞼が
光を伴って開く。其処から覗くのは宝石の感を見せる珠、これぞ『英霊の魔眼』。
その前面に発生する魔方陣に、空へ展開されるのは幾つものパネル。
其処に走る情報は、使用ログに構成する魔導回路の現状況から生体部系への接続
に留まらず、フォンの脳組織状態まで・・・
 「・・・ホント器用ね、ディ君。 無冠の法王も伊達じゃないわ」
「結構必要に迫られましたから・・・ね」
 「そうであったとしても。アルマティに貴方ほどの使手はそうはいないわよ?」
「そうですか? 御讃辞でもありがとうございます」
 「御讃辞でもないんだけど・・・」
単純な魔力のみなら、『暴風』の法王フィートやアンジェリカ,ヒミカ
ましてや魔術士ですらなく剣士である銀狼獣娘のルナの方が高いと言える。
しかし、それを一部のロスもなく効率良く、使用した分も再利用・・・
寧ろ、魔術の基本『無ければ有る所から持ってくる』を忠実に
自身の腕で開発した使用可能総魔力量は、ディが以下を引き離しトップへ踊り出る。
それは正に、己より格上の存在に如何にして追付き競合うか苦肉の果てに得た答え。
結果未だ追付けなかったとしても、その過程は決して無駄ではなかった。それこそ、
研究者としての在るべき正しい姿。 他人の成果を横取りし足を引張る事ではない。
ともかく、ディはアーティファクトを、アンジェリカは被験者を
問題が無い事を『英霊の魔眼』からの情報と自身の診察から確認していく。
「ふぅ〜〜、コチラはこれといって問題はありません。
使用条件が限定されてるためかイイ感じに最適化されてますね」
 「こっちは心身共に可也ストレスが溜まってるわね。取合えず問題ないレベルだけど」
意見をまとめ終わった二人に、パネルや魔方陣が崩壊消滅していった。
そしてゆっくりと閉じられる彼の其の瞼。では起きてください と優しく空を薙ぐ手に
フォンの意識が覚醒し、その片目を開けて身体を起こす。控えめでも顔色は芳しくない。「診断結果は、魔眼は全く問題なし。心身の方は許容範囲内といった処です」
 「でも、日頃からストレスが溜まらないよう睡眠はしっかり心がけなさい」
「・・・なるほど、全く。 認めたくないものだな、こんな事で自覚するとは」
よりにもよって診察で快眠を得て叩き起こされてソレを自覚してしまっている。
ならば苦笑せざるえない。
 「そういうことだから、私はもう行くわよ」
「彼氏でも待たせてるんですか?」
「・・・まさか、クロムェルとデートか?」
元々アンジェリカとディ,フォンは無駄話をする主義ではないが、
こうも簡潔に終らされると勘繰り、偶には仕返ししてやりたい。
三人の間で繰り広げられるのは一瞬の攻防
 「そうよ。でも相手はクロムウェルよりも遥かにイイ男よ」
「うわぁ、随分と惚気てくれますね」
「ほほぅ、アレに対してソウ言わしめるとは・・・
相手は、優しく尽くしてくれる知能派とみた」
「クロムウェルさんは、捕まえた獲物は何でも
即捌いて丸々丸焼きで食べる性質っぽいですしね」
 「そうでもないわよ。アレでもあの男はマメに手をかけて
内臓一切れ血の一滴も残さすディナーから保存食まで作って大事に食べる性質ね」
「「・・・・・・」」
なんかイヤ〜〜ンな感じで昼下がりのワカオクサマの井戸端会議みたく
頭つき合せる男二人に、己の失言に気付きコレ以上ボロを出させられては堪らないと
アンジェリカはその場から消えるのだった。
「ちょっとからかい過ぎました・・・か?」
「・・・かもしれないな。後が怖い・・・」
まぁ、やってしまったものは仕方が無いと二人は、既存の平面移動に+立体移動の
翼兵,天馬騎士,魔術士,竜騎士など立体移動の駒がある魔術スキル必須な
立体多角チェスを展開しその対局に久しく白熱し盛り上がるのだった・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・フォンが瞼を開けて入ってきた視界は夕日に照らされた自室のそれで
人気無い様は、親友と盛り上がっていたついさっきもあってもの哀しい事この上ない。
彼の親友は、この地に呆れて地に名を残す事すらしなかった。
しかし、この地に居る事を選んだ友たちを思い残した置き土産は返しきれぬ程大きく、
皆の中心の一角に代りに座ってしまった自分を今もこうして影ながら支えてくれている。
ならば
「・・・負けられんじゃないか。」
ツッぱる事が漢の、たった一つの純情。そして、友であり続ける事が報いる唯一の答え。
起りうるであろう災禍を前に、彼の決意は強かった。


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