「超機人ウィズダム」


我が君よ、貴女を眠りに縛るのは

嘗ての穏やかな日々の思ひ出?

許されぬ陵辱の悪夢?

だから、私は帰ってきました

貴女の穏やかな日々を護る為に

二度とそれが犯される過ちが繰り返されぬよう

悪夢は終り、朝が来ました

だから我が君よ、起きてください

夜は悪夢見ぬよう、永久に私が貴女の側にいます・・・



アルマティ解放戦に任意魔導士達が集った抵抗組織が勝利を収め、数日が流れた。
抵抗組織は、その夜に起きた事件に一時は警戒したものの現場にいた烈火の法王の
「もう大丈夫だろ」との事に、復興は隠れていた連中に任せ
時折街に現れ暴れるハグレのアルティメットウェポン(キメラウェポン)の迎撃を任とする
「ナイトウィザーズ」と呼ばれるアルマティ軍の前衛になるのだが、それはさて置き
アルティメットウェポン也が現れなければナイトウィザーズ+助人達は暇なわけで、
いまやその本拠地となった元宿の屋敷建物側にある広場に集う人だかり
その大きな輪の中心にいるのは、青年に少女。
青年は身に纏うのは道着と拳にナックルグローブ、片や少女は前合の和服な衣装(ドレス)と
手に持つのは姿に似合わず狂暴なまでの大太刀。二人共々魔術都市アルマティとは場違い。
「真逆、こんなところでルナと闘う事になるとはな」
 「がうっ!! でも、くろ、手加減しない!!」
「勿論、やるとなるなら当然っ!!!」
瞬間その場に影を残し撃出た二人は中間で、ルナが横薙ぎに揮う狂刃をくろ もとい
クロムウェルは頭を下げて掻潜り勢いで放たれる回蹴りも左手で添え流しながら
ルナの腹目掛けて戦闘不能を狙い繰出される拳。
しかし、それは大太刀の握りが受け止めるもルナの比べて小さな身体は圧され
それでもルナが振り抜く握りに両者の間が開くが、攻める両者に一瞬で埋まり・・・
連続して攻め合う事十数回
必殺で振下ろされたルナの狂刃を寸分狂わず受止めるクロムウェルの拳に、時が止まる。
「・・・やっぱり、中々強いじゃないか」
 「がぅ。くろも強い(ニヤリ」
「当然(ニヤリ。タイムとならイイ勝負が出来るだろうな」
 「???」
刃と拳を収める二人に、ギャラリーから若き法王の二人ディ,フィートが来る。
「流石に強いですね、クロムウェルさんは」
「ルナも可也強いんじゃないかい? 先輩の動きに付いていけるんだから」
「クロムウェルさんはレベル的にアレスさん達と同じ位ですから本気をだされたら
ルナなら嬲り倒せるでしょう。あれでも漢気ある人であるからこそ、ですよ」
「確かに、先輩はヘンタイでも漢気だけはありますからね・・・」
「手前等、好き勝手言ってくれるな・・・」
「「本当の事ですから」」
「・・・(orz」
「・・・ディ、生意気(ガプッ、がじがじがじがじがじ」
ルナがディの背後から襲いかかり脳天に喰らい付くが、今更に今更、皆見慣れた風景。
因みにディが差すアレスさん達とは、ディ,ルナの兄姉弟子(?)に当たる
ディの姉リオとその彼氏アレス(&元守護騎士達の編入組)であり、
そのレベルは英雄・勇者と呼ばれる部類に入っているだろう。
その点では、ディ達も十分に英雄・勇者と呼ばれるに相応しい存在なのだが・・・
それにはまだ若すぎるといった処か。さて置き
「・・・次は僕ですね」
と、ルナに齧られていて様になってないディが視線を送る先には魔導機人ウィズダム。
魔導機人ウィズダム、ディをリーダーとした任意のアルマティ魔導士のグループが
造り上げた無駄ない鋼の躯に歴戦の勇士の技と人の心を備える人造人間。
それ故に強さも最強クラスで、倒すためにはそれこそ英雄級でなければ話にならない。
 「・・・・・・」いいんでしょうか・・・
 「いいのではないんですか? ああおっしゃってる事ですし」
と、事態に言葉発さす思案する鋼の騎士の如きウィズダムに応えるのは隣の絶景の美女
・・・を模して造った義体の頭部に兜の如く取付き使う魔導生物アニマ。
人群から出るウィズダムに、ディを残してクロムウェル達が人群に引込む。
ディを噛み足りぬと唸るルナはクロムウェルの小脇に抱えられちゃってるが。
今のウィズダムは人では適わぬ無限の力を生み出す鋼の肉の本体であるに対し、
ディは汚れてもいいように訓練向きなシャツズボンのみ。一応本職は魔導師でその肉体
は若くも無駄なく鍛えられ多少なり戦士の様相を見せるが、やはり遥かに足りない。
 「・・・・・・」その・・・私と闘っても大丈夫なんですか?
「成長してるとはいえ、君を造ったのは僕だよ。
君の全てを僕は知っている。だから勝てない道理は、無い。
確かに君の方が攻撃力が遥かに高い事は認めるけど ね」
 「・・・・・・」わかりました。
「・・・身体強化系だけは使わせてもらうから」
先の二人に劣らぬ勢いで撃出したディに、ウィズダムは迎撃にクロムウェルの
打撃技でもって拳を放つが無駄なく頭を動かしたディの金髪数本を断つのみに
更にライの投技でディを絡取ろうとするものの既にウィズダムの腕をレールに滑来る
ディの頭でそれは許されない。ならばと空いた手でディを横から捕縛しようとするが
既に其処にディは存在せずウィズダムの腕が交差させられてしまう。 瞬後
トン
「はい、僕の勝ち」
 「・・・・・・」何故・・・
ウィズダムの背後へ回り込みその頭を軽くたたくディに、勝負は決した。
ウィズダムにしてみれば引分け以上のシュミレーションを見事に裏切られ、一瞬で。
「己を知り、敵をしれば百戦危うからず。言ったじゃないか、僕は全てを知ってるって。
確かに君には僕より遥かに強い人達の戦闘データを持っているよ。
でも、それを僕は知ってる。知っていれば適わずとも対処は生み出せる。
それに何より、君はその御技をまだ自分のものにしていない」
 「・・・・・・」御技を・・・自分のものにしていない?
「そう。 分り易くいうなら、君は包丁を持っているけど刃物としか使えない」
 「???」
「料理に使う包丁はね、切るだけじゃなく潰したりにも使えるんだ」
 「???」
「焦らなくてもいいよ。君はもう十分に強いから。 後はそれをゆっくり
熟成させるだけ・・・って、僕がそんなこと言える立場じゃないんだけどね(笑」
 「・・・・・・」そうなんですか?
「だって僕、見た目ままの年齢だよ? 世間では何と呼ばれていようと若輩者だし(笑」
 「・・・・・・」それは・・・
それでも法王の字は伊達ではなく、主な話は終ったなと観客から指導を仰ぐ者が現れ
皆中々に挑戦者の列は耐えないのだった・・・・・・

外の喧騒が聞こえていても、その部屋は穏やかな静寂に包まれ
ベットで穏やかに眠るのは褐色肌に紅髪の美女ヒミカ。まるで今すぐにも目覚めそうだ。
それを見守るのは、椅子に座り本を片手の橙髪碧眼の魔導師風美女アンジェリカと
壁に背を預け立ったまま眠っているかのように眼を閉じ腕を組む色白肌藍髪で
二人と比べ遥かに胸控えめでモノノフな美女。ヒミカと姉妹のように似るが・・・
不意に眼を開けるその彼女にアンジェリカは視線を本から外す事無く平然と話しかける。
 「それで、お遊びは如何だったの?」
 「アッサリと負けてしまいました。シュミレーションでは互角以上なのですが・・・」
 「それは意外ね。全てにおいて能力は貴女の方が上なのに」
 「ディさんからは・・・(赫々云々)・・・といわれました」
 「それなら瞬殺されて当然かもね。相手にスペックだけの能力を出させず戦うのは
 魔導士が魔導士たる所以の一つよ。 適わぬ相手なら適う状況へ陥れてね」
 「それもそうですが、それとは違うような・・・(汗」
 「そんな事より、コチラに顔出して向こうは大丈夫なの?」
 「はい、ディさん達ならいざ知らず他の方々ならば複数相手にしていても
 片手で十二分に事足りますので・・・これで、このチームは6回目の全滅です」
 「貴女も容赦ないわね。 ・・・もう少し手を抜いて遊んでお上げなさい。
 遊び方はディ君達を真似すればいいわ」
 「皆、戦闘スタイルが違うんですが・・・」
 「その辺りは機転を利かせて自分に合わせて応用しなさい。貴女の勉強よ」
 「善処します・・・」
彼女が再び眠るかのように眼を閉じる様をみれば、本体に専念することにしたのだろう。
 「頑張りなさい・・・。 ・・・、でも、クロムウェルは参考にならないかもね」
格闘士クロムウェル。可也のツワモノなのだが教師に不向きで、手加減しながら本気で
相手する真似が出来ない。彼らしいといえばそれまでなのだが・・・
彼女(?)ウィズダムもその因子を持っているわけなのだが、その点に関しては
それ以外ディの身内の因子も詰め込まれているので大丈夫だろう。
うわあああああっ!!!
 わんっ! わんっわんっわんっわんっ!!!
・・・多分。 ・・・魔導士達がルナに虐められているっぽいが。
 「・・・。 ・・・ヒミカ、早く目覚めなさいな。
 皆貴女の目覚めを心待ちにしてるわよ・・・」
もしかしたらヒミカ自身、夢の中で目覚めようと似合わず足掻いているかもしれない。
・・・彼女の性分からして、その可能性が低い事は否めないが。
だからアンジェリカはヒミカに呟かざる得なかった。その頬をムニ〜〜と引っ張りながら。


薄暗い部屋、上座に座る者は丸で某指令の如く机の上に立て組んだ手で口元を隠し
左右に副指令と秘書らしきものを控えさせる。 同机に着く者達達も腕を組んだり
グラスの中の氷を回したり思い思いの格好で待つことから同じ系統の者なのだろう。
ある意味部外者である約三名は隅で呆れ見ている。
「さて、忙しい中、諸君に集って頂き感謝します。 今回集って頂いたのは、
完璧だと思われたアレに致命的な欠陥があった事が判明したことに他ありません」
(仮)指令の言葉にざわめく面々。
「その致命的な欠陥というのは・・・主に戦闘を想定した為に
介護などの日常活動には極めて不向きだということなのですっ(クワッ!!!」
ガーン!!!
その台詞にショックを受ける面々も、(仮)指令の合図に収まる処を見れば演技なのか?
「今はとりあえず、このように義体の遠隔操作によって事なきを得ているわけですが」
(仮)指令に隣で一人立ったままであった(仮)秘書が申し無さげに頭を下げる。
それに拍手喝采の面々。まるで心優しく有能なそれの淑女ではないか!!!
「ならばもう、問題ないのではないのかね?」
「問題? 大いにあります。 これが義体ということは、本体が置きっぱと
いうことなんですよ? 幾ら何でも一つの意志に二つの身体をいうのは問題です」
(仮)指令の言わんとすることを理解したのだろう。面々が唸る。
「それでは如何する?人間と変わらぬ本体を造直し武装システム一連を組直すのか?」
「それはそれで非効率です。いざという時に武装がなく一騎当千に戦えねば
『彼女』が『彼女』たる意味がありません」
「それでは、どうすればいいと?」
「ずばり、位相変身システムですっ(クワっ!!!」
 位相変身システムぅ〜〜???
(仮)指令の指パッチンに、背後の壁にデカデカとプロジェクターで展開する魔導パネル。
其処に映される内容は、人が騎士へと入れ替わるように変化する位相変身の様と
そのために必要な魔導理論回路,人体構造etc 。
「はい。汎用体も戦闘体も同一のものとみなし、普段は表に出ている部分が汎用体でも、
いざという時は存在の全てが出てくる事で戦闘体になるというもの。分り易くいうなら、
氷山と海の関係と言えるでしょう。 氷山が海上に出ている部分が僅かという ね」
つまり、戦闘時のみ戦闘体へと変身する と。これなら四肢のみなど部分変身も出来る。
「なるほど、エネルギー的にも極めて効率いいシステムだ。」
「それだけの計画が立っているなら何も我々を徴集する必要はあるまい?」
「その通り、本題はこれからです。これだけのシステムをとる以上、汎用体も
それだけのクオリティが必要なのです。構造的に本物に人間に劣らないだけの。
もし、ここにある義体で代用しようものなら折角の戦闘体のスペック自体ガタ落ちです」
「・・・本物の人間に変わらないだけの機能,構造,スペックを持つ義体
否、一人の人間を造りだせ つまりはそういうことなのか?」
「・・・、はい。」
材料は・・・、構造は・・・、モデルは・・・と喧騒に包まれる場。
つまりは、最初から反対案などあろうはずもなく皆やる気であると。
「・・・やはり最大のネックは材料だな。 生物細胞と変わらぬものとなると・・・」
「その点に関しては私が開発中の新素材「マシンセル」を臨床試験がてら提供しましょう」
「マシンセル。それは如何いう代物ですか?」
「人の細胞を模して造った人造の細胞です。元となる人間の遺伝子を注入すれば
ありとあらゆる細胞に化けてくれるでしょう。しかも霊液『輝ける霊血』が元なので
当然、互換性があります」
「安全面は如何ですか?」
「制御できなければ欠陥品ですよ(笑。 大丈夫、本体は驚異的な回復力がありますが
エネルギー供給のない欠片になってしまえば直ぐ死滅してしまいます」
「なるほど、今回の問題解決には最適の材料ですね」
「と言う訳で、後でデータをよろしく御願いしますよ(ニヤリ」
「メンタルデータ含めて常時観察できるように手配しておきましょう(ニヤリ」
手順の確認等色々な事が話合われ、予定調和の如くアッサリと会議は進み閉じた・・・
そして、部屋に残るのは上座にいる三人に部外者の三人。それは言わずもかな
(仮)指令:ディ,副指令:リュート,(仮)秘書:義体ウィズダムに、部外者三人は
フィート,アンジェリカ,リー老師。この場に集っていた面々は最早お解かりの通りに
プロジェクト魔導機人に携わっていた者。それは兎も角、あやしげな密会の感想に
「反対意見もなく随分とアッサリ話が進んだね」
「反対意見なんてあるはずがありませんよ。皆、魔導機人の事を考えてましたし
自分よりイイ案があれば要らぬプライドを捨てて却下しますし」
 「つまり、出来レースというわけね」
「しっかし、中々楽しそうだなぁ、おい」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「つまりは、そういう事ですか」
「いいなぁ・・・」
 「・・・無様ね」
老師リー、他人のお遊びがウラヤマシイお年頃・・・・・・

頭に兜を被るアンジェリカ似の美女、それが義体で頭の兜が本体であることは
もはや面々には周知の事実である。しかし、それでもスリット入りロングを纏う
その容姿はアンジェリカとは別に羨望の眼差しを集めるわけで、
本体であるアルマジロなアニマが廊下をモニモ二と歩き進んでいた処で誰も見やしねえ。
それでもアニマは路を逝くっ!!! ・・・逝っちゃダメッ! 行くデス!!
と、十字路で不意に止まるその歩み。 何故なら、横から来た銀狼のルナもまた
アニマに気付いて歩みを止め、丸で性少年が美女を見る眼差しで注目しているから。
逡巡すること一瞬、それ故にあえて無視して歩みを進めるアニマ。そして
カツッカツッカツッカツッ
 (・・・・・・(汗)
 「・・・・・・(ハァハァハァ」
奇妙な音と共に荒い鼻息の何かが後をつけてくる。
それは恰も、さり気無く自己主張しながら美女を尾行するストーカーの如く。
歩みを止めるアニマにその怪音も
カツッ(ピタッ
と止り擬音が聞こえそうな程に一帯を支配する静寂。
アニマが恐る恐る後ろをみた其処にいたのは、銀色の獣。
 (・・・・・・・)
 「・・・・・・・」
後ろを振り向いたアニマに、銀狼のルナもまた何ジャラホイと後ろを見、
瞬間
シャカシャカシャカシャカシャカシャカっ!!!
アニマは短い多足を見えないほどフル回転に丸で台所の永遠の天敵みたく遁走。
その見た目故に好奇心以上に嫌悪を抱かれようと最早なりふり構っていられない。
しかし、そんなことで振り切れるはずもなく
カッカッカッカッハァハァハァハァカッカッカッカッハァハァハァハァ
再び迫る怪音に、アニマが走りながら後ろを見れば其処には
 (カツッカツッとかカッカッとか怪音って、爪が床を叩く音?)
 (・・・じゃなくって、キタァー―――――ッ!!!!???)
正真正銘、獲物を狙う獣で嬲っているかのように優々とかける銀狼。
 (・・・ヤバイです。本気と書いてマジやばいですうううううううっ!!!)
瞬間、今アニマがいた其処に振り下ろされるのは輝くばかりの爪。
それに銀狼の姿が僅かに後ろへずれるものの直ぐに追いつき、居た其処に落ちる爪
少し遅れるものの追い縋る銀狼、居た其処に落ちる爪。それが繰り返される事数回。
 (ひえええええっ!!! おたすけええぇぇ〜〜〜)
限界に耐え切れず丸まったアニマは勢いそのままにコロコロと転がっていき、
行き止まりでぶつかり停止。それにかかる影。
 「・・・・・・(じゅるり」海老みたいで美味しそうなの・・・
甲羅にポタリポタリと垂れる涎は、銀狼の牙の前では如何ほどの防御力が無い事を語る。
ぼ〜りぼ〜り食べられてはタマランとアニマが次に打った手は
ビリビリビリビリビリビリっ!!!
 「っ!!?」 電撃防御!!? 蟲の癖にやりますの・・・
しかしそれも、
呀!!!
 (うそぉんっ!!?)
破魔咆哮に霧散してしまい、もはやアニマの命は風前の灯火?
 「・・・・・・(ニヤリ」カタカタと震えながら命乞いする準備はOK?(ニヤリ
 (あわわわわわわ、私は魔導擬似生物だから美味しくないですよぉ)
 「・・・・・・」では、いっただっきま〜〜す(くわっ!!!
 (ひえっ!!?)
銀狼がカパッと開けた顎に毒々しいまでに赤く見える口腔で、アニマは視覚を切り・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
いつまでも最後の瞬間は来ず、代りにコンと小突く衝撃に転がるアニマ。
視界を回復さ見る其処には、さっきの獣な表情とは一転に人懐っこい白犬なルナ。
 (うえぇ? ・・・私を食べないんですか?)
 「・・・・・・・・」ルナ、友達になる人を食べるほど餓えてないですの
 (・・・餓えていたら食べるんですか?)
 「・・・・・・・・」・・・・・・・
 (何故、無言っ!!?)
 「・・・・・・・・」それは些細な問題。これで仲直り、ですの。
ペロペロ
 (あひゃっ!!? くすぐったい、と言うより流石に舐められるのはちょっと・・・)
 「・・・・・・・・」・・・、いい御味?
 (・・・・・・)
 「ワンッ!!!」私乗るヨロシ!!!
 (言葉遣いがさっきと違う〜〜)
そしてアニマは銀狼の背に乗せてもらい、共に風となるのだった。
どうやら蟲な魔導擬似生物と神獣と謳われる銀狼の間に友情は育まれたッポイ?
それでもアニマが蟲な時、時折熱い視線を感じる場合は銀狼の姿があるわけで。
 (一つ質問があるんですが、狩る者と狩られる者の間に友情は成立つんですか?)
 「ワゥ?」ルナ、屋敷の近くに兎さんにお友達もいるですの。
 (兎? なら兎は食べない? 狩らない?)
 「ワン」 兎さん、美味しいですの。でも、たまに狩りをする時は
遠吠えで事前に教えて、追いかけっこに負けた兎さんだけ持って帰るんですの。
 (・・・・・・それって、単にルナが友達と思ってるだけとか?)
 「・・・・・・」普段は普通に御話したり一緒に御昼寝したりするですの。
 (それでもヤッパリ、食べるんですよね? 美味しかったですか?)
 「・・・・・・」(・・・・・・)
沈黙は肯定。どんなに箱入り娘な獣であっても、しょせんは肉食獣であった・・・

眠るヒミカの介護を、アンジェリカ一人で見られるはずもなく当然に義体ウィズダムもまた
携わっているわけなのだが、義体ウィズダムが不眠不休で着けるとはいえ+アンジェリカ
では余りにもアンジェリカに負担がかかりすぎる。そのためその補助に入っていたのが
意外にもシフォルナ。愛称ルナ。 希望都市では「銀狼闘姫」の字を持ちながらその実体は
まるでオツムの足りないみたいに見える銀狼の獣娘で、それでもモノノフの面をもつ
あ・の「ルナ」である。
意外どころか嘘と指差して笑う処だが、実はこれ以上の適任は無かったりするのだ。
狼など肉食獣は狩りの成功率を上げるため獲物の状態を把握する能力が極めて高い。
それは獣人であり野生児である上に銀狼に化けるルナは言うまでもなくである。
それを狩りではなく診察に使えば、これほど治療介護に適した能力はない。
もっとも、ルナ自身が十分な学を持ってないので様子を見るだけにしか使えないのだが。
それでもルナが見ているだけでもアンジェリカの負担は半分、
普通に日常生活を過せ全く苦にならないくらいまで激減する。
と、言う訳でベットの上一人穏やかな吐息で寝るヒミカの居る部屋には
他に人影はなく・・・床の上には己の前脚を枕に寝る白犬な銀狼が一匹。それが
 「ワゥ?」
不意に何かに気付いたかのように起き立つとベットに前足をかけて
ヒミカの顔に鼻を近づけフハフハと匂いを嗅ぐこと暫し、何かに気付いたかのように
ピキーンと何か閃いた表情を浮かべると一転、ドアへ。それを起用に前足で開けると
ドアを閉める事無く廊下を駆け、途中すれ違いに驚く者を無視に向った先は
本来この宿の食堂だった大広間。今やそこは調度品が整えられ某屋敷の快適性があるので
ここに集う者達の憩いの場としていた。 其処で人目も憚らず話合うのは、
片目眼帯の警備員フォンとディ,アンジェリカ,リュート,義体ウィズダム。
まぁ聞かれて困るような内容ならば始めっから密室で行うので周囲に聞耳を立てさせながら
「やはり僕達としてはノーマルから高機動までこなせるものにしたいんですが」
 「贅沢ね。・・・それでも技術屋の性かしら」
「それをすると重くなるんだろ? これで十分だ。片目の日常生活は既に慣れた」
とフォンが指でコンコンと叩く眼帯の奥は既に空洞ではなく
眼腔に納まるようディとリュートが造った義眼の球状魔石が入っている。
しかし、高性能すぎる故にありとあらゆるものを捉えて膨大な情報を脳へ送り
精神をクロックアップさせるのだが、非常に消耗し負担となる。
これでは戦闘には有益だが日常では不便であるので結局眼帯で覆うはめになってしまった。
それでもフォンにしてみれば、己の力不足で役に立たなかった上に失った眼の御陰で
護れる力を手に入れる事が出来て大万歳である。人体実験はもう簡便というのも本音だが。
そのため、ディ,アンジェリカ,リュートの三人がかりで説得されているのである。
そしてフォンに泣き付かれ(?)この場に止まることとなってしまった義体ウィズダム・・・
因みにウィズダムの本体は作成中の人間体と合わせて調整中のため作動使用不可。
そのため、娘な義体ウィズダムの片耳には装飾品なアンテナが装着され
本体から操っているにも関らず、この義体が本体だと認識されてある。 それはさて置き
「・・・実はですね、それはまだ完成していないんですよ」
「破壊光線(レーザー)の魔導回路を組み込み忘れたんです」
 「それはタイヘンだわ。早急に手を打たないと」
タイヘンじゃないっ!!!
フォンとて経緯はどうであれ魔導士の端くれである。それなりに理論は知っている。
義体ウィズダムに救いを求めたところで、オロオロと助っ人すりゃなりはしない。
「・・・、いや、これで十分問題ない。完璧だ。」
「完璧じゃなりませんよ。やはり眼から破壊光線が出せなければ!!!」
「大丈夫、それだけのキャパは十二分にありますよ♪」
 「い・た・く・し・な・い・か・ら♪」
眼からレーザーなんぞ発した日にゃ放熱で脳が焼けてしまう。
しかも、そのことをこの連中に言った日にゃソレをネタにまた眼を弄りかねない雰囲気。
そんな感じでジリジリとフォンが追い詰められていると
 「ワンっ!! ワンワンっ!!!」
勢いを殺しきれずカリカリと音を立てながら通り過ぎた銀狼が跳び込んで来た。
しかし、それを知らぬアンジェリカ
 「あら、誰の使魔(ワンコチャン)かしら」
 「クゥン・・・」ルナ、ワンコじゃなく狼なの・・・
「これは犬の使魔じゃなく銀狼のルナですよ。僕の相方の」
 「え?」
ディの合の手に銀狼から視線を外したアンジェリカが視界外の閃光に銀狼へ向き直すと
其処にいたのは銀狼ではなく少女のルナ。
銀狼=ルナに、アンジェリカの目が珍しく点になってしまう。
「ルナはそーゆー特異な存在なんですよ」
 「・・・、色々検査してみたいわね(キラリーン」
 「くぅん・・・」こわいの・・・
ルナがディの物影に隠れるほど恐怖を覚えるもの。注射,自分を見て目を輝かせる者等。
希望都市の薬士アルシアが注射器からピッピッと液を飛ばした日にゃ
狼のプライドをかなぐり捨て、ディを犠牲に盾にしても逃げる。
「それは置いておいて、ルナは何を急いでいたんだ?」
 「わんっ!!! ヒミカ、起きる」
っ!!?
そして、建物内外問わず騒然となった。
その吉報にヒミカの部屋へ集うのは診察をするアンジェリカとディ。 
そしてウィズダム。
ウィズダムが義体であるのはいた仕方ないが、言葉しゃべれぬ本体でも意思疎通出来た仲。
そのため、その点はあまり心配ない。
兎も角、ベットから一歩はなれたディが魔導パネル展開にヒミカの精神・身体状態を
測定・表示させながら、アンジェリカが実際のヒミカとの様子を見比べる。
そしてウィズダムはヒミカの手を握り・・・手を握るのみ。 それで様子を見守る事暫し。
ピクッ
 「・・・(頷」
 「・・・(頷」
「・・・(頷」
反応した指先に、ヒミカの瞼がピクピクと反応した後ゆっくりと開かれ
それを覗き込むアンジェリカ。ヒミカの視線が事態把握に彷徨い・・・
 「おそよう。御機嫌いかが、ヒミカ?」
 「・・・御腹すいた〜〜、アンジェリカ〜〜(泣」
 「私が分るなら大丈夫そうね。御粥でも用意させるわ」
ヒミカが幼女みたく半泣きでそういうのも仕方がない。
元々身体的には全回復済みで昏睡状態の間は点滴で栄養補給させてあったのだ。
懸念は精神的ダメージ。最悪、完全な幼児化や廃人化も想定していたのだが・・・
元々幼児みたいな人なので帰って大丈夫だったのかもしれない。
兎も角ヒミカの片手を柔らかく両手で持つウィズダム、洗浄液 もとい涙タダ漏れ状態
 「よかった・・・本当によかった・・・」
 「・・・あの」
 「はい」
ヒミカが視界に捉えているのは、色白肌藍髪でも何処と無くヒミカと姉妹のように似
それでも違い、儚乳・細腰でスレンダーなモノノフ美女。
その身に纏うのは魔導士らしくなく、簡潔でレオタードに前開き膝上ミニ巻きスカ。
 「すみません、どちら様ですか?」
 「・・・・・・、ああ、今はこの姿ですが私はウィズダムです」
 「ウィズダムさん?」
ヒミカの全く存してないという無垢な首傾げに、その嬉し涙すら凍りつく。
「・・・ま、まぁ、目覚めた後で多少記憶が混乱しているでしょう」
 「あら、ディ君。 いつのまにアルマティへ?」
 「「・・・・・・」」
「え、ええ、コチラで事件があったので助人に呼ばれたんですよ。
ヒミカ先生は事件早々に巻き込まれて今の今まで昏睡状態だったんで仕方ありません。
それではこれから少し検査をします。昨日の夕食を思い出す程度なものなので気楽に」
目で指示するディに、ウィズダムは大人しく退室せざるえなく・・・・・・
関係者一同が控える大広間、其処へ説明に来たディとアンジェリカの表情は芳しくない。
「何だ? そんなにヒミカは悪かったのか?」
 「身体的には問題ないわね。長い間寝ていた分、筋力が落ちてリハビリが必要だけど」
「精神的にもほぼ問題はありません。例の事に関しては記憶が丸々欠落していますが
事も考えればその方が心穏やかにいられるでしょう」
「・・・・・・それだけじゃぁねえな?」
「僕が無冠でも『光晶の法王』と呼ばれる訳、ヒミカ先生は何と応えたと思います?」
「それは、魔導機人 ウィズダムを誕生させたからだろ?」
「はい。でも、ヒミカ先生の中では僕が一時魔力蓄体として燐光翼を使う故となってます」
 「つまり、ウィズダムはヒミカの中では存在しなかった事になってるのよ」
 「そ、それは・・・・・・」
思わず立ち上がってウィズダムの口はそれ以上の言葉を紡がず戦慄くのみ。
「悲劇の始まりは、肉親の情を持っていたウィズダムが死んだと思った事に端を発します。
ウィズダムが敗れた事によりアルマティは占領され、ヒミカ先生は囚われて・・・・・・
折角助かっても悪夢な記憶。むしろ最大のショックだったんでしょう ウィズダムの死が。
ならば、始めっからウィズダムはいなかった。 そして、自分も囚われることはなかった。
そう記憶を改竄しなければ、とてもとても持たなかったんでしょう」
 「ヒミカ・・・あの子、弱いから」
 「・・・・・・」
身体から力が抜けるように座り込んでしまったウィズダムは正に放心状態。
その衝撃、周囲は推して知るだけ。
「・・・なんだ、その・・・ウィズダムの記憶は戻せないのか?」
「結論を言えば、可能です。記憶そのものはなくなることはなく
アクセスが切れて引き出せない状態にあるだけですから」
「それなら」
「そんな事をした日には、ヒミカ先生は自爆しかねませんよ。
引出そうとしただけでも拒否に泣き出しましたから・・・」
 「っ!!?」
「逆を言えば、ウィズダムはそれだけヒミカ先生の縁処だったということです。
もっとも、生きていると知らせたところで今更如何しようも無いことも事実です。
ウィズダムの姿を見ることで記憶が蘇ってしまう可能性は大いにありますが、
幸いな事に本体は超機人化にむけて改修中ですし・・・」
椅子に座るウィズダムは既に真っ白まで燃え尽きてしまっていた。
もはや哀れすぎて誰も何も言えない。その中で口を開くのは隻眼を鋭く光らせるフォン。
「それで終わっていいのか?」
 「・・・・・・」
「何の因果か生まれた意志。死して蘇ることが出来ても所詮、その程度か・・・」
「フォンさん、言い過ぎですよ!!」
「折角助けることが出来たのに、何もせず次こそ彼女を不幸にしてしまうがいい。
キ・カ・イ・ニ・ン・ギ・ョ・ウ・め。 おまえにはソレがお似合いだッ!!!」
 「・・・・・・」
「ヒミカは俺がもらう。バケモノすら魅了される肌をタンノーさせてもらうぜ」
ガっ!!!
と、瞬間跳び撃出したウィズダムの拳を誰が避けられよう。
非力でもツワモノの複合技であったそれは容易にフォンの頬に減り込み吹っ飛ばした。
それでも、拳を撃ち出した格好で硬直しているウィズダムの表情には混乱が。
「・・・それが御前の気持ちだ。ならばヒミカがどんな状態でも関係ないだろう(ニヤリ」
頭に効いているのだろう。フォンは壁に背を預けたまま立ち上がる事はないが
切ってしまったか唇から血を流していても見上げるそれは漢の笑み。
 「っ!!? ・・・ありがとうございます」
「ウィズダム、ミルク粥の作方教えるからヒミカ先生に持っていってあげて」
 「はい」
ウィズダムを連れ出すディに、フォンにも人が集る。
「中々難儀なヤツだな」
「・・・どうも。 でも、そうしなければ最悪、仲間を失っていた」
 「その心意気、褒めてあげるわ」
「・・・どうも。」
いいパンチが良い所に入ったのだろう。 まだ動けずフォンは頭をも壁に預け
皆から手荒めの祝福を受ける。 もっとも受けたい者からは受けられずに・・・

ベットに座ったままヒミカはホニャラ〜〜と窓を眺めて時間を潰す。
と、ノックに入ってきたのは
 「あら、貴女は・・・うぃ・・・うぃ?」
 「ウィズ と御呼び下さい。
ヒミカが御腹がすいていらっしゃるとの事なのでミルク粥を造って参りました」
 「ありがとう♪ ・・・でも御免なさい。やっぱり私、貴女に覚えがないの(シクシク」
 「ああっ、大丈夫です! お気になさらず。
私は事件直前に来た護衛兼お手伝いみたいなものですから・・・」
っと言いながらもウィズダム もといウィズはヒミカの頭を優しく撫で慰める。
その手際の良さに何も疑問を持たず、あっという間にゴキゲンに。
手際よくミルク粥を載せたワゴンをテーブル代りに準備し、
蓋を開けた鍋から漂うのは美味しそうな香りに湯気。中身を小鉢に取分け
 「はい、どうぞ」
 「・・・、ふーふーしてくれないの?」
 「・・・・・・、・・・(ふ〜ふ〜。」
 「あ〜〜ん♪」
 「・・・、はい、どうぞ」
 「・・・(パクッ、むにむにむに。 おいち♪」
 「それは良かったです。作ったかいがありました」
 「あ〜〜ん♪」
 「・・・・・・」
その時きっとウィズダムの顔は引き攣った笑みであったに違いない。
それでも、己の中で目覚めそうな何かを抑えつつ甲斐甲斐しくヒミカに尽くすのだった。
ドアに出来た隙間から覗いている者どもをあえて意識外に押しのけ無視して・・・
ヒミカの食事を終らせて出て来たウィズダムを待っていたのは
クロムウェル,フィートにアンジェリカ,義体アニマの面々。
「くっくっくっ、あ〜〜ん♪ だってよ。あ〜〜ん♪」
「ラブラブですねぇ。とてもウィズダムの事を覚えてない風には見えませんでしたよ」
 「あの子は昔っからああだったのよ。甘えられる人には上手に甘えるから
拒否できないのよね・・・。 幾ら何でもアレは甘え過ぎだと思うけど。
・・・やっぱり記憶は封じていても寂しさに人肌恋しいのかしら?」
 「ああっ、私は捨てられてしまったのね・・・(おヨヨヨヨ」
「「「「「そこっ、洒落になってないっ!!!」」」」」
 「冗談はおいておいて、これなら私達三人が帰っても心配ないわね」
 「・・・えっ?」
アンジェリカの台詞の意味を理解するため、ウィズダムの身体が硬直した。
否、台詞の意味など聞いた瞬間に理解出来ている。寧ろ如何対処するべきか分らない。
「元々僕達は助人に来ただけで生活の基盤は向こうにありますから。
既に転移装置も修復できていることですしね」
「ついこの間、もう少し長くなるってタイムに手紙出した処なんだけどなぁ。
・・・折角の放置プレイが」
 「ヘンタイはおいておいて、私達は帰らせてもらうわ。
ディ君達はまだ当分残るらしいけど・・・何ならこのヘンタイも置いていくわよ?」
 「いえ、有害廃棄物はソチラで引取りクダサイ。御願いします」
「即答かよっ!!! しかも何気に毒舌・・・(orz」
「ここに僕達の部屋は残しておいていただけるそうですが、
遊ばせて置くのも何ですし、そちらで有意義に使ってください」
元々宿だけあってこの建物は可也の規模で部屋数があり、主要メンバーには
一室づつ割当ててあった。 無論、助人の面々に優先の永久欠番的に。
 「じゃ、後はヨロシクね」
「えっ? もうですか? ヒミカに挨拶は・・・」
 「泣いて駄々こねるから貴女から伝えておいて♪」
丸で近所の家に帰るかのように実感を残す間も無く三人はその場を アルマティを去るのだった・・・
そのことを聞いたヒミカが残念そうでも意外にけろっとしていたのは今回の接触が少なかったかだろう。

ウィズダムのみならず、義体アニマやルナの誰なりとが代わる代わる付きっきりだけあって
目覚めて数日にも関らずリハビリの効果もあってヒミカは日常生活に支障が無い程度に
動けるようになっていた。そうなるとヒミカも建物内のみならず遠出したがるわけで
ディに言われてヒミカを連れたウィズダムが向った先は建物に隣接して立てられた
掘っ立ての格納庫。一見それは粗野に無骨であるのだが、各種武具が収められてもいるので
魔導的には厳重管理され、外部の人気に魔導機兵が発動するが認めるウィズダムとヒミカに
ピッ
 「お疲れさま(ピッ」
 「お疲れさま〜〜(ほえほえ〜〜」
敬礼に二人を出入口まで案内し、何処かへと姿を消す。広い格納庫内に広がる光景は
魔導士のみならす作業用の魔導機兵(ディ製にあらず)が敷居壁で区切られた部屋を動回り
万が一に備えて各種魔導兵器の最適化が行われていた。
しかし、それだけの規模,広さがあると何処へ行けばいいか分からない。
そんな二人を見つけ高い天井から舞い降りてきたのは鋼の鷹フィアラル
「・・・・・・」よっ!! お久っ!!
 「ディ師に言われて来たんだけれど・・・」
「・・・・・・」聞いてる。案内するぜ!!
 「よろしく頼む」
ウィズダムの肩に乗ったフィアラルは翼で行き先を指示。それを見るヒミカ
 「ウィズちゃん、鷹ちゃんの言ってることが分るなんてスゴイわね」
 「ええ、まぁ・・・」
「・・・・・・」姐ちゃんだって直ぐに分るようになるぜ。
 「ありがとうね〜〜」
何だかんだ言いながらもフィアラルの言わんとしている事がヒミカにも分るのは
面識がある故なのだが、その事をヒミカの自覚がない。
その事を寂しく感じる造りモノの身体に宿る心。
それでもフィアラルの案内で着いた先は最奥のもっとも広いスペースで、其処にあるのは
鍛冶場設備だけではなく重いものを動かすクレーンなど・・・そして目立つのは
人が扱うには不向きな形状の諸刃破壊剣ストームセーバー,機構盾のストームスタンダー
そして、魔導機人装着状態で中が空のまま立つ人型ストームブレイカー。
それらを犬の少年が整備しているのだが、魔導兵器に恐怖を感じるヒミカはウィズダムの背後へ。
ウィズダムから頭へ鷲掴み止るフィアラルに彼が二人に気付き
「いらっしゃい」
浮かべるのは人懐っこい少年らしい笑み。敵意無く親身なのは良く分る。
 「ディ師に便利なものがあるからココへ来るように と」
「うん、出来てるよ。 えっと・・・」
犬の少年の視線がウィズダムから背後に隠れるヒミカに移る。
 「・・・えっと、はじめまして・・・」
「・・・はじめましてヒミカさん。 皆から御話は聞いています。
僕はディ君の親友で今回の事件で助人に来た鍛冶士のリュートです」
リュートが出す手にヒミカは握手してくれるが、それでもやはり寂しい。
それを察したウィズダムが促し
「えっと、先ず君に与えるのはコレ」
とリュートが渡すのは拳二個大の鋼キューブ。何かを組圧縮されてるのか表面に模様が。
コレそのままでも投げつければ十二分に鈍器になるだろうが、そんなわけがない。
「両手で挟み持って、『装着』っていってごらん」
 「??? ・・・『装着』」
瞬間、表面に線が走り幾分に分かれたそれは薄鋼板へと解け、ウィズダムの柔肌な四肢へ
絡みつくと脚の甲当てやナックルガードの腕甲のように耐魔の紋様ある装甲と化した。
「今君に武器がないから。耐魔法処理したから防具兼用の格闘戦用武具だね。
よっぽどの相手じゃない限り今の君でもコレを使えば十分事足りると思うよ」
簡単な説明の後、言われた通り『解除』の言霊にそれは再びキューブへと戻る。
それをみてはしゃぐヒミカをリュートはまぁまぁと自慢げに手で嗜め、
次のアイテムの説明へ。再びウィズダムに渡すものは情報記憶用魔石。
それを額に当てて中の情報を読み取ったウィズダムに浮かぶニヤリ笑み。
それに応えるリュートのニヤリ笑み。フィアラルまで何故かニヤリ笑み。
 「それ、何なの?」
 「それは見てのお楽しみ。 ヒ・ミ・ツ と言う事で」
 「あ〜〜ん、ウィズちゃんが苛めるぅ〜〜(シクシク」
「直ぐ分りますよ(笑」
駄々こねるヒミカにウィズダムも苦笑してしまうのも一瞬、転送する情報と共に唱える言霊は
 「『騎翼機形態(ライディングモード)』」
それに起動するストームブレイカーのジェネレーターに装甲のみならず剣と盾にも
力が満ちる事一瞬、パーツ毎に分解・再構成されるのは鷲頭の浮遊型自動騎乗機(バイク)。
形自体は殆ど待機状態の鷲形態だが、翼が縦前に向け尾に剣が長尾のように装着されている。
 「きゃぁ〜〜、すごいすごい♪」
「元々ジェネレーターを積んでますからね。何か役立つモノに組めないかと考えた結果
コレにしたわけですよ。 元々のスラスターも生かせますし。 遠出にいいでしょう?」
 「ありがとうございます」
 「・・・でも、私達が使ってもいいの?」
ヒミカの言わんとしているのは武具の所有者に断りなく使ってもいいかということだが
当然その所有者はウィズダムなので全く問題無いが、それを言うわけにもいかない。
「ああ、いいんですよ。 ディ君と面白半分で作ったものなので使っちゃって下さい」
二人は言葉に甘えリュートに頭を下げるとデートへと繰出すのだった。
その場にポツンと残されるのは頭にフィアラルを乗せたリュートのみに
「いやぁ、二人に喜んでもらえて改良したかいがあった・・・けど
・・・きっとこうやって嘘が上手な汚い大人になっていくんだね(ヨヨヨヨヨ」
「・・・・・・」まっ、あんまり気にするなや。嘘も方便だぜ。
「・・・、さて、次次〜〜♪」
と先の自己嫌悪な意気消沈は何処へやらサッサと作業に移る時点で既に手遅れ?

高速の移動手段を手に入れたことで、ウィズダムとヒミカは二人だけ出かけ
瞬く間に傍目で分る程、丸で真の姉妹のように 恋人のようになっていく・・・
 「ねぇ、ウィズちゃん。貴女は御洒落しないの?」
 「はい、自分は戦士ですから」
 「戦士でも女の子なんだから御洒落しましょ?」
 「着飾ると、いざというとき邪魔になるので・・・」
 「・・・(ウルウル」
 「・・・、では、この建物に居る間だけ」
 「やった〜〜♪」
 「・・・、外に出るときは警護の邪魔になるので絶対しませんよ」
 「ぶーぶー」
 「すねても泣いてもコレだけは絶対に譲れませんから」
・・・・・・・・・・・・
 「・・・・・・こうして見ると、ウィズちゃんの肌って変わってるわね」
 「っ!!? そ、それは個人差もあるのでこのようなモノじゃないでしょうか」
 「そうね、お化粧のノリが良いからいいかしら♪」
 「・・・・・・(汗」
 「お胸が全然付いてないけど、スタイルはいいわね〜〜♪」
モミモミモミモミモミモミモミモミ
 「・・・着せ替え人形代りにするのは結構ですが、胸を揉まないで下さい(泣」
 「だってぇ〜〜、この程度だなんて寂しいんですもの。もうチョット大きくしましょ」
 「・・・揉んでも大きくなんてなりません」
 「せめて私の3分の2くらい」
 「ヒミカ、貴女の胸は標準を軽く優々と上回り無駄に大きすぎます」
 「そうすると着物映えするようになるのに」
 「人の話は聞いてください(疲」
一方で・・・・・・・
 「くぅ〜〜ん」寂しいの・・・
「・・・、・・・何やってるんですか?」
 「皆、忙しい。ルナ、暇・・・ひみか、うぃず、構ってくれない」
「それは、皆復興作業とか武具整備とかしなければいけませんからね。
それに・・・お二人の邪魔をしては野暮ってものです。
大人しくしてないと駄犬扱いされますよ」
 「がぅ〜〜〜〜」
「なっ、何ですか、その牙はっ!!?」
 「がうっ!!?」
がっぷぅっ!!! がじがじがじがじがじがじがじがじがじ
「ぅんぎゃああああああああああっ!!!??」
それでも全てが順調に進む。 そう、彼等のみだけではなく「全て」が・・・・・・

アカデミー塔の共用施設優先で個々の研究室の修理が進まぬ以上は開店休業状態も当然に
修理をしている学生達は兎も角、現場指揮をしない不真面目な講師は暇であった。
ヒミカは真面目な部類に入るのだが、何せアレであるため学生が有能になってしまい
むしろヒミカがいない方が各種修理作業が順調に事が捗る。
 「学生達に怒られて追い帰えされちゃったの(シクシクシク」
 「・・・当然でしょう。手伝うと言いながら今まで修理した分を丸々破壊しては・・・」
 「だってぇ〜〜。 ・・・って、何で知っているの!!?」
 「・・・さっき学生達から速攻で抗議されました。
せめて修理中はヒミカの手綱をシッカリ握って暴走しないようにしてくれ と」
 「私、馬じゃありませんよ〜〜。 そんなこと言ったら泣いちゃうから(シクシクシク」
 「・・・・・・、それで今日はドチラにピクニックへ行きますか?」
 「海に行きた〜〜い(わ〜〜い」
 「それではルナも誘いましょう。体が錆びそうなくらいに暇だそうですから」
 「海〜〜♪ 海〜〜♪ 海〜〜♪」
ヒミカ、もう聞いちゃいやしねえ。ルンルンで水着の用意なんぞ始めちゃってる。
ウィズダムが馬の方がまだましだろうと思ったのは此処だけの話。
そして、普段は暇をもて余しまくりのルナはというと、今日に限り
 「ぐるるるるるっ!!!」
「ぬおおおおおおおおっ!!!」
「ちょりょやああああっ!!!」
「ちぇすとおおおおおっ!!!」
「ぬりゃああああああっ!!!」
「うりゃああああああっ!!!」
魔導士達の戦闘訓練の相手で中々に忙しそうである。
 「がうっ!がうっ!がうっ!がうっ!がうっ!」
「「「「「うおおおおおおおっ!!!」」」」
てか、一方的に魔導士達がルナに追い回されているようにしか見えないのは
ウィズダムの解析力不足なのか?
結局、忙しい皆の邪魔しては悪いと二人っきりで出かける事となった。
タンデムシート+小荷物携え、ウィズダムの腰に背後から腕を回してヒミカが
しがみ付きながらも空の風景を楽しみ向った先は人気が全く無い外れの海岸。
其処は各種施設からもっとも離れているので海水も綺麗であった。
ウィズダムは端から戦闘向きに黒レオタード巻きミニスカ姿で着替える必要がなく
ヒミカが物陰で着替えている間に御者のように拠点設営を勤しむ。
と言っても、日陰を作るパラソルを突き立てチェアを並べ飲物を用意するだけだが
・・・本来、この手の準備をするのは女性二人に付き合わされる男一人の役割なのだが
その役をする男がいない以上、ウィズダムが行うが必然。てか、尽くしすぎ。
「ウィズちゃん、お待たせ〜〜」
「いいえ。 ・・・ぶはぁっ!!?」
褐色の肌を彩るのはキケンに鋭角の三角な光沢白ビキニ。
ヒミカの姿を見たウィズダムは顔が爆発した。正しくは、肺腑の空気全てふきだした。
御陰でウィズダムの内で何かが目覚めなくて済んだが。
 「・・・ウィズちゃん、これ、似合わない?」
 「いえっ、良く似合いますよ。」
 「じゃあ、何で私を見てくれないの?」
改めてヒミカの肢体を出来るだけ冷静に徹しながら眺める。
・・・タユンと弾む双乳に縦割のお臍、腰紐の下に分る腰骨、ムチムチな太股・・・・
 「よ、良く似合ってますよ」
ナデナデナデナデ
浮かべる笑みが引き攣っている以上、きっと変な笑みなのだろうがそれでも
「ありがとう♪」
満面の笑みで見事なまでに誤魔化されてくれた。・・・それはそれで凶器だが。
兎も角、ウィズダムは遊ぶ前に一息つこうとヒミカを促すが、ヒミカの動きが停止し
その視線の先には乙女なウィズダムの身体。上から下まで見ると下から上まで見返す
ヒミカの視圧に思わずウィズダムは身体を腕で庇い隠してしまう。
 「な、何ですか?」
 「ウィズちゃん、水着は?」
 「ありません。コレ自体水着みたいなモノなので必要ないですから」
その返信に、ヒミカは珍しく真面目な表情で背を向けると自身のカバンをゴゾゴゾゴゾ。
そして、振り返り一転満面の笑みでヒミカが出す手
 「・・・・・・、はい♪」
 「はい?」
思わず手を出し受け取ったウィズダムの手の中にあるのは・・・帯?
 「コレに着替えてね♪」
 「何ですか、コレは?」
 「私もコレならウィズちゃんに良く似合うと思うの」
 「・・・こんなモノ、何処から・・・」
 「アンジェリカからもらっちゃった♪
でも、ウィズちゃんにあげるのはサイズが合わないから縫い直したの」
それはヒミカ自身 では無くディが。 必要なくとも卑猥とも取れる話で採寸させられ。
コレで丸一日潰されてしまったディのダメージ、推して知るべし(合唱。
 「・・・だから?」
 「ウィズちゃんはそれを着て、一緒に遊びましょ」
 んな事出来るかぁっ!!!! げしげしげしげしげしげしげし・・・
 びええええん! ウィズちゃんがイジめるううう!!!
 「・・・・・・はい。」
結論:ウィズダムは超優秀です。
 「じゃ、向こう向いてるわね♪」
背を向け態々目まで押さえているヒミカの後ろ、ウィズダムは躊躇なくベルトを外して
巻きミニスカから曝すのはレオタードが張り付くムチムチなお尻。
ノースリーブハイネック状なレオタードの前を空けモロ肌から脱ぎ捨てると
水着の其の部分に脚を通し尻上で留金具を締め、その部分に腕を通し首前で留金具を締め
 「出来ました・・・と言うより、これは水着なんですか?(汗」
帯状にウィズダムの肢体を強調するソレは恰もボンテージ。
てか、布の素材,留金具からして一防具並・・・の割に背中丸出し尻Vバックで
前は下乳から臍・キワドイ下腹まで剥出しの超ハイレグで露出が多過ぎなのは否めないが。
 「きゃぁ、ウィズちゃんカッコイイ〜〜!!」
 「・・・、それはよかったです」
もはや存在意義自体が問われつつあるが、ヒミカが喜んでいるのでヨシとしておこうと
思考を半分やめつつあるウィズダムであった。
兎も角、焼く必要がない褐色肌なヒミカと端から焼けない純白肌なウィズダムと
二人並んで甲羅干しをしたり、水際で波と戯れたり、砂で築城してみたり、
ささやかでも愉しい時は瞬く間に流れていき・・・・
日が高くとも路にかかる時間を考えると帰る時間となってしまった。
だから浅瀬で生物を眺めているヒミカを置いてウィズダムが撤収準備をすること暫し、
ウィズダムが再びその場へ視線を戻した時にはヒミカの姿は影も形もなく
 「・・・、ヒミカ?」
ウィズダムの呟きは波間へと消えていくだけであった。
一方、当のヒミカはというと、
 「ウィズちゃん、イケズなんだから(ぷんぷん」
撤収準備を察知し、海岸線を辿って逃亡中。確かに今帰路に着けば無理せずとも
日が暮れる前に帰ることが出来る。しかし、それは用心に安全を期すためであって
多少ヒミカは振り落とされるキケンがあっても高スピードを出すなり、
そうせずとも日暮れ後暗くなってから着く覚悟をすればすむ。
つまり、ヒミカはウィズ(ダム)がヒミカの事を子供扱いすることに腹を立てているのだ。
その、自分勝手に一人で行動したり我儘言う時点で子供扱いされても仕方が無いのだが。
そんな自覚があろうはずもなく(あれば端からしない)、ヒミカが辿る砂浜の先にあるのは
かつて波が岩盤を穿って作ったのであろう如何にも怪しげな洞窟。
ヒミカは其処へ隠れるには丁度いいと進んで行った。 中から吹く風が生暖かい原因が
なんらかの熱源が在る故だと知るはずもなく・・・・・・
人気のない洞窟内は海の側でありながら絶妙に乾燥し、
地面も直ぐに砂から滑らかな岩肌へと変わっていった。
其処を魔法の灯りで照らすヒミカの足取りは水着姿でも探検をする子供みたくルンルンで、
岩で物陰が増えていく奥へと進んで行くこと暫し
「・・・・・・」
 「???」
不意に其処にある気配でヒミカの歩みが止る。 灯りで照らしてみても岩影が
灯りの揺らめきに合わせてユラユラと振れるのみで何かがいるのか、いないのか・・・
それでも一歩踏み出した足裏から伝わってきたのは堅牢な岩のそれではなく
ぐにっ
 「きゃっ!!?」
思わず跳退いた其処から鎌首擡げるのは、ウツボのようでありながら腹側に繊毛を備える
謎の生物。しかもそれが一匹だけではなく岩陰から、前から後ろから次々と顔を出すのは
数知れず哀れな獲物であるヒミカを完全包囲し、ターゲットロックオンと揃って顔を向け
キシャァー―――!!!
 「ひっ・・・(泣」
顎を開けて細鋸刃のような牙を剥出しに威嚇されれば嫌がおうにも害意が伝わる。だから
 「い・・・いや・・・こないでええぇぇっ!!!」
ヒミカの感情と共に周囲へ浮かび生じるのは無数の火炎球。それはヒミカの悲鳴と共に
狙い出鱈目に1080°全方位へ撃ち出され
轟っ!!!
と岩肌すら溶かす勢いで洞窟内を舐め尽した。

それでもヒミカが熱にやられることなく健在なのは、流石に炎術講義師なだけに
無意識に張る耐炎熱・保空結界の御陰なのだが、それでも身動きするまでには至らず
時間が経つにしたがってグスッグスッと泣き止めながらヒミカが見回す周囲は
恰も吸収されるように炎が収まっていく。それと共に姿を現すのは・・・
 「えっ・・・そんなっ!!?」
ウツボもどき。正しくは全てが洞窟の奥へと繋がっていくソレ等は、末端でしかない触手。
それが分った処でヒミカは成す術も無く、包囲は甚振るかのようにジワリジワリと縮まる。
そして、それが一斉に大口開けて身を縮込ませたヒミカに襲い掛かった

??????
駆け抜けた疾風がヒミカを浚い、ウツボな触手が喰らい着くのは空か同士討ちに別の触手。
 「大丈夫ですか、ヒミカ」
 「・・・ウィズちゃん(泣」
疾風こそ、四肢に甲を纏った騎士の如き乙女のウィズダム。胴は早急に駆けつけたせいで
未だ露出の激しいボンテージな帯の水着ではあるが、その凛々しさは損なわれていない。
今のヒミカにこれ以上心強い存在はないだろう。
 「兎も角、この洞窟から脱出します。今は黙ってしがみ付いていてください」
 「・・・(頷」
ヒミカを助けるため猛烈な勢いそのままに跳び込んで来たので、地にスパイク突き立て
線を引きながらも襲い来る触手を蹴り避けること暫し、次の瞬間二人の身体にかかるのは
ウィズダムの脚によって生み出された強烈なG。
ウィズダムが居た其の場所を次から次へと触手が襲い来きて空を噛む。
そのまま触手の追随を許さず洞窟の出口が点となって見え始めた其の時、
ウィズダムの脚は不意にガクンと止ってしまった?
 「???」
 「此処から先はヒミカ一人で逃げて、このことを皆に知らせてきて下さい」
 「ウィズちゃん!!?」
 「・・・片脚が損傷しました。私はここで喰い止めます」
 「だめっ!! 二人で逃げましょ? 私が肩を貸すから・・・」
 「それは・・・」
どんっ!!
と、瞬間突き飛ばされ空を舞うヒミカの視界に捉えたウィズ(ダム)は
追いついてきた触手を手刀で斬払い、甲脚で薙ぎ払う。
 「いけっ!!」
 「うっ・・・、・・・・・・・」
一度駆け出したヒミカは後ろを振り向かなかった。
背後から聞こえる粘着質な音に恐怖を覚えながら。
 「・・・偽の身体だが、技は本物。安々と私を通れると思うな」
改めて構直すウィズダムに、追いついた触手はイキのイイ獲物を得た喜びの戦叫を上げる。

ヒミカは洞窟を脱出し、まだ日が高い中を騎翼機ストームブレイカーまで易々と辿着いた。
当然、ウツボな触手の姿がなければウィズの姿も其処にない。丸で悪夢だったかのように。
ヒミカだけでも騎翼機を多少なり徐行運転に走るよりやや早い程度に運転できるので
救援を求めに帰ればいいのだが・・・
・・・また、何も出来ず大事な人を失っていいの?
・・・もう、二度と怖い思いをするのは嫌
内よりささやく二つの声に動作が止る。過去に同様の経験をしたかのようなその物言いに
ヒミカの自意識は気にしないし、気付きもしない。それでもヒミカはその行動を選んだ。


ヒミカを抱き抱え制限無し全力疾走を行ったために砕けた膝の片脚を用いることなくとも
ウィズダムは両手の手刀と全身のばねを使った後転蹴真空刃等を揮い善戦していた。
しかし相手は尽きる事が無い数多の触手。触手なだけに胴途中で切断した処でソレは
死滅せず、地でノタうち芋蟲のように這い回り・・・
 「っ!!?」
行動ごとに地面をする砕けた膝の片脚へ、ソレ ウツボ蟲は腹(?)の繊毛も巧みに絡み付き
柔肌の様相なウィズダムの脹脛に牙を突き立てる。
が、それは甘噛に近く仮に牙が毒を有していた処で義体には如何ほどでもない。
故にウィズダムはそれを脅威とはみなさず、周囲の触手を捌くのだが・・・
牙が通じずどもウツボ蟲は放置されたことをいいことに激しく動回っている女戦士の脚を
よじ登ると柔腰へ絡みつく。 しかも、ウィズダムが触手を捌いている以上ウツボ蟲を
量産し続けている事になり、膝が壊れた脚は地面を擦ってウツボ蟲が絡着くのを助長する。
だから、ウィズダムがそれを脅威になると判断した時は既に幾匹ものウツボ蟲が
ウィズダムの肢体へ淫靡に絡み付き帯な水着の中へも潜り込んでいた。
もっとも、それも引き剥がしがてらに端をもって振り回し、
蟲と触手同士でド突き合せれば採算は取れるわけなのだが・・・
と考えたウィズダムは己が同じミスを繰り返した事に気付かない。
ヒミカが豊満といえど太っていない乙女(?)とはいえ、それを抱え全力疾走を行った
ウィズダムの片膝はその重みで容易に壊れた。ウツボ蟲一匹辺りの重量が大した事ない
とはいえ、それが女体を妖艶に彩る十数匹程度となれば可也の重量となり、ましてや
オーバースペックで動き続ければ、当人の預かり知らぬ処で負担は加速度的に増す。
だから次の瞬間
ボキッ!!?
 「っ???」
残った膝から立つ破壊音で意志と関係なく迫る地面に、成す術などあろうはずもなく
ウィズダムは無様に地面へ転倒するものの、迫っているであろう触手を回避する為に
仰向けに転げ視界にはいった天井には

大口を開けて避けきれぬ弾幕勢いに迫る数多の触手

 「がっ!!?」
ソレがウィズダムの肌に朱線を引き、勢い余って地を穿つ。
ソレがウィズダムの胴へ内臓破裂の勢いで撃ち込まれ、乙女な肢体が跳ねる。
ソレがウィズダムの四肢の骨を柔肉を通して砕き、一切の抵抗を許さない。
弾幕が一反引いた後に残されるのは、出鱈目な方向を向く四肢で壊れた人形の様相な乙女。
それに満足したのか、ウツボ蟲は断たれた触手にくっ付き再生し、触手は生贄みたく
ウィズダムの肢体を大事に抱え上げ奥へと運び始めるのだった。
・・・所詮は偽りの身体、戦闘には絶えられない か。
・・・これなら直ぐ全壊される事はなさそうか。 まだ、幾分の時間稼ぎに
・・・に?
仰向けで持って運ばれるため天地が逆になった視界、其処で捉えたものに
ウィズダムの思考がそれを処理しきれずフリーズした。
ヒミカは当の前にこの事態を知らせるため帰ったはずである。
ならば、物陰から隠れて機会を伺っている赤毛褐色肌の水着女性はドナタ?
それも一瞬、次の瞬間には夢のように影も形も其処には無かった。
しかし、確実に存在する気配の意味する処は・・・・・・
・・・代りがある私など捨てておけばいいものをっ!!!
それが嬉しく、キケンへ引き込んでしまう己の未熟が歯痒い。 
ヒミカが、ウィズダムが偽りの存在であることを知らないという事を忘れて。
例えヒミカが知っていた処で見捨てて置かない事が想像に易いのも否めないが。
何であれ、今のウィズダムに成す術があろうはずもない。
・・・これでも、喰い惜しいエサとして時間稼ぎくらいは出来るか。
そして、触手に吊られたウィズダムは最奥へと運ばれていく。
尾行になっていない尾行でも距離をとってばれることなく後をつけるヒミカを連れて・・・

最奥、今までの通路より若干広めの空間に待ち受けていたのは正に人を丸呑み出来そうな
巨大なウツボもどきであり、触手はその腹から繊毛みたく無数に生えていた。
触手はウツボなそれの前でウィズダムの身体を立たせ、ジックリ鑑賞させる。
 「・・・ふっ、アルティメットウエポンが獣の真似をするとは」
「ホゥ、魔導士二シテハ勇敢ダト思バ・・・俺ヲ知ッテルノカ」
 「耐魔法性に統率の取れた動き・・・知っていれば検討できる。
・・・私は、貴様達の創造主を倒した者達の一員だ」
「・・・コノ場合ハ仇討チトイウベキナノダロウガ、生憎俺ハ
己ノ欲望ノママニ脱走シタンデネ、強制力ヲ消シテクレテ礼ヲイウ」
 「貴様、人の身を捨てて堕ちたな? それだけの意志を持って・・・理解出来ない」
「アア、陽ノ下ニ生キル者ニ俺ヲ理解ハ出来ン。・・・シカシ
オマエノ様ナ女ガ俺ノ側ニイタノナラバ、コノ身ニ窶ス事無ク、或イハ・・・」
 「・・・・・・」
「・・・或イハ、人ノ身ノママデモ囲イ犯シ完膚ナキマデニ侵シテイタダロウナァ」
 「っ!!?」
瞬後、触手はウィズの四肢を間接が抜ける勢いで大の字に淫辣な責苦を開始する
「クックックックッ、胸ハ良イ形デモ小振リダガ・・・イイ腰周リヲシテイルデハナイカ。
戦士ダケアッテ肉ノ付キモイイ・・・思ワズ壊シタクナッチャウジャナイカアアアア!!!」
ズギュヌっ!!? グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ
 「グッ!!? ・・・っ・・・ぅ・・・うぐぁっ!!!」
処理出来ない感覚情報やダメージ情報は文字通り『脳』を焼く過電流となり
女体を股間から身体を穿つ触手の挿入に撥ね、ウィズの眼裏 意識が電撃に散る。
「ヲット、歓喜ノ余リアッサリ壊シテシマウ処ダッタ。
折角ノ上物、タンノ〜〜セネバ・・・ナ(ニタリ」
 「ゲッ・・・・・・がはっ!!  ・・・ほざけ、下種未満め」
「・・・ソノ強ガリガ何処マデ持ツカ タ ノ シ ミ ダ。 イイ声デ啼イテミセロ」
 「ぐぎっ!!? グっ・・・グっ・・・グぅぅっ!!!」
股間一杯一杯に無数のウツボな触手を挿入され、本来は造形美誇る深い縦割臍な御腹は
もはや見る影もなく中で蠢くモノの動きで醜く歪む。
それでもウィズは歯を食い縛り悲鳴を上げず鬼気迫る表情で真直ぐ見据えていた。
今すぐにでも物陰から飛出し無意味に生贄となりそうなヒミカを射止めて・・・・・・

・・・・・・・・・・ム

・・・・・・・・・ダム

・・・・・・ウィズダム
 (っ!!?)
・・・反応して、ウィズダム。
 (・・・、何方ですか?)
・・・ディオールだよ。 君の義体の状況はコチラでもモニターしている。
 (私の事よりもヒミカを助けに来て下さいっ! 私が囮となってヒミカが無事なうちに!!)
・・・ごめん、それは出来ない。
 (何故ですか!!?)
・・・今、市街にキメラウェポンが複数体していて手が割けないんだ。
・・・だから、君がヒミカ先生を助けるんだ
 (・・・不可能です。構造損傷率が40%に達しています。・・・今は、維持だけで・・・)
・・・それは君の身体じゃないっ!!!
 (分っています。しかし、義体の制御を手放して本体で救出に向っても・・・
それ以前に本体が無事再起動出来るかどうか)
・・・今、義体に魂がある。その魂の元に真の身体を召喚するんだっ!!!
 (!!?)
・・・君が再起動に自信をもてないのは、本体ではなく義体に魂が宿っているから。
・・・なら、義体の存在を代償に真の身体を喚べば再起動の有無なんて関係ない。
・・・生きた魂が生いている身体を持つのは必然なんだから。
 (・・・・・・)
・・・君が、ヒミカ先生を助けるんだ。君しか、ヒミカ先生は助けられないんだから。
 (・・・でも私の正体が知れれば、ヒミカ先生の精神は・・・)
・・・ごめん。ソレばっかりは僕にも何も言えない・・・
闇が占める部屋、金髪の少年 光晶の法王ディの目の前には一本の透明な巨大シリンダー。
その中で液体に浸り内臓に通じる各局部へケーブルを繋がれているのは、一糸纏わぬ
守護女神の身体。それは丁度ウィズが犯され始めた頃から次第に烈しく
口や鼻から泡を吐出しシリンダーを打ち据えんばかりに断末で四肢を震わせていた。
そして、その女体をモニタリングしている魔導パネルに表示されている波形は振り切り
激しくキケンなまでに波打ってる。
「ウィズダム、義体のダメージがこれにもフィードバックされているという事は
コレは明らかに君の身体そのものなんだよ・・・」
それでも、ディが女体を凝視できないのは言わずもかなである。

ウィズ・・・ウィズダムの頭脳・精神が陵辱に未だ耐える事が出来ても構造損傷率40%
つまり、生身の人間ならば致死レベルの身体では瞳も虚ろに反応もか細くなり始め
身体も踏ん張りが効かず、それ故にその一撃がカン通に
 「っ!!?」
瞳が見開かれ身体が反り返った乙女の身体、臍下の膨らみが一気に鳩尾まで達し・・・
膨らむ咽喉に次の瞬間、盛大に吐き出されるのは
 「ゲブォアッ!!?」
股間からその身体を穿っていた触手の内の数本。
「オヤオヤ、興奮ノ余リ肉体ヲ壊シテシマッタゼ。
折角ノ玩具ガ・・・残念ダガ、コレハモウ駄目ダナ」
水袋を捨てるかのようにドサッと重い音を立てて打ち捨てられたその肢体は
恰も断末かのように指先だけがピクピクと痙攣に最期の抵抗を示す。
 「っ・・・いやああああああっ!!! ウィズちゃんっ!!! ウィズちゃぁんっ!!!」
となれば、今までヒミカを縛っていたものはなく躊躇無くその姿を敵に曝してしまった。
その炎術は通用せず、今はか弱い女性でしかないというのに・・・
ヒミカが抱上げ支えるその上半身は力無く異様に重い。
 「だめ・・・だめ・・・死んじゃだめよぉ、ウィズちゃぁん」
 「ゲフっ・・・・・・私は、もう直、機能停止、します」
 「だめ・・・私、もう嫌・・・大事な人を失うの・・・」
ウィズの顔を汚す体液とそれ以外の液がヒミカの涙で流されるが、
それ以上にウィズの口から吐き出される血ならぬ体液で穢れていく。
 「私は、本当は、ウィズでは、ありません。貴女の、大事な人、では、ないのです」
 「??? ウィズちゃん何言ってるの? ウィズちゃんは私の大事な人・・・」
 「・・・今の、私の、存在は、偽り・・・本当の、私は・・・ケフッ」
「サテ、今生ノ話ハ終ッタカ? デハ早速、サッキ喰イ損ネタ女モ頂クトシヨウカ!!」
四肢の絡み付く触手で、ヒミカはウィズの躯より引離され空中で大の字に。
白ビキニ水着故に殆ど隠されてない褐色肌を、無数の舌先で細くイヤらしく舐め回す感触は
 「ヒッ!!? い・・・いやぁ・・・いやああああああっ!!?」
ヒミカに悲鳴を上げさせるだけではなく忌まわしい記憶の封印までも解き放ち
 「っ!!! あ・・・ああ・・・・・・あああああああああああっ!!!」
「ナ、何ダ?」
瞳も虚ろに泡を吹いて痙攣し始め
流石のキメラウェポンも未だ行為に及んでいないのに壊れ始めた女にうろたえる。
虚ろなヒミカの脳内では蘇った悪夢が精神を闇色の絶望へと染め上げていく。その中で
今は無き(?)守護騎士ウィズダムの姿と今まで連添い面倒を見てくれたウィズの姿。
その二人の破れた時の姿が重なり急速に最期の希望の光が消えようとしていたその時
それでもヒミカの唇は言霊を放つ
 「・・・『ウィズダム』ちゃん」
 「・・・、応」
応えるのは瀕死の身体でも震える膝で立ち上がる乙女 ウィズ。
その姿は哀れな上に悲壮だが、瞳に灯る光は嘗て無いほどに強く燃える。怪物を圧す程に。
「・・・ハッ!! 棺桶ニ足ヲツッコンダ身体デ何ガ出来ル!!
死姦デ人形戯ビニ、肉ノ一片ニマデ砕イテクレル!!!」
先ずは虫のピン刺しのように動きを封じてやらんと撃ち出される触手。
それがウィズに接触しようとした瞬間
轟っ!!!
と生じる爆発に、ヒミカを縛するものを含めた触手が根ごそぎ燃やし散らされる。
ヒミカに傷一つつける事無く解放し・・・しかし、威力にウィズは炎に包まれた。
「ヒャハッ!! 大層ナ事ヲ言ッテ自爆トハ・・・」
 「「違う」」
「っ!!?」

「・・・英雄は救いを求める声に、新たな力を持って死の淵から蘇る」
巨大シリンダーの中、その肢体は光を発し臨界に達しようとしていた。
パラメーターも完全フラット状態で振切り、それでも未だ何かが足りない故に
最後の一線が越えられない。その後押しの1手の為に光晶の法王ディが控えている。
ディが揮う法杖に、彼女の頭上と足下に展開する円形魔方陣は内と外で逆回転する。
「今度こそ君の新生(ふっかつ)だっ、魔導機人 否、超機人ウィズダムっ!!!」
振り下ろされる法杖に幾重もの、上の魔方陣が降り、下の魔方陣が昇る。
女体 ウィズダムの身体を素通りして。その毎に姿は次第に薄れ・・・
魔導パネルの波形が次第に穏かになり、最後には死を意味するフラットとなった時
その存在はその場から完全に消滅していた・・・

傷ついた肢体が閃光と共に完全に散る・・・が、ソレが巻き戻しに集い人がたとなる光。
そして、その光を散らし降臨するのは先程と姿は変わらずも、以上に活力漲る守護女神。
己の存在を確かめるかのような深呼吸に、肌の上を心の臓から波紋が魔導回路にそって
瞳の中、髪の毛の先端にまで走った。それが如実に語るのは彼女がただの人ではない事。
「・・・・・・ハッ、全然変ワッテハイナイ・・・コケオドシカッ!!!」
しかし、己が犠牲と成るより安易に力を求める者がそんな事が分ろうはずも無く
2度撃ち出された触手は易々とウィズダムの女体の中心を貫き通す・・・が、それは残像に
 「・・・何処を見ている。 『加速増幅(ブーストアクセレイト)』常駐」
ダンッ!!と地を踏締め陥没させた足が、爪先から面を通過するように甲脚へと変化する。
アルティメットウエポンが耳元(?)で響く声で見れば、
其処にはダーゲットロックオンに腕を振り被る彼女。
しかし、女の細腕では魔法で威力を増した処で如何ほどでもなく・・・が、
先から面を通過するようにガントレットな甲腕へと変化。それと共に撃ち出された拳は
 「プゲラッ!!?」
音速通過で幾つもの空気の壁を撃破りアルティメットウエポンを吹飛ばし、壁に叩付けた。
四肢に甲を纏ったかのような以外は全裸の守護女神は優々とヒミカの元へ
 「・・・・・・、ウィズ・・ダムちゃん?」
 「ああっ、裸のままというのも問題ありますね・・・『偽装(カモフレイト)』常駐」
その身体をハイレグタートルネックノースリーブ状の銀色なレオタードが甲との境の
露出した肌部分を艶色気に麗しく纏われる が、ヒミカが言ってるのはその事ではない。
 「きゃっ!!?」
 「ココは戦うには不利なので、外へ撤退します。
・・・『障壁(シールド)』常駐、タイプ:ディメンション」
唖然なヒミカを姫抱きで悲鳴を上げさせたウィズダムは透明膜の繭状のシールドを張ると
ウも言わず疾駆する。先を優に上回る安定したスピードで岩壁は一色に流れ・・・・・・
アルティメットウエポンの追随許さず出口通過に、二人の視界を染めるのは夕日の朱一色。
砂煙を立て地に線を引きながらブレーキをかけたウィズダムは、障壁を解いて
ヒミカを優しく立たる。
 「アレは直ぐに追付きます。今の私ではアレを倒すだけの攻撃力は備えていません」
轟っ!!?
 「逃ガサアアアアアアアアアンっ!!!」
と洞窟崩し姿を現したのは大人3抱えを優に上回る胴のウツボなアルティメットウエポン。
 「だから、直ぐに騎翼機を取って来て下さい。私がアレを食い止めている間に」
 「えっ!!? で、でも・・・でも・・・」
 「ヒミカ、あの程度に易々と敗れる私ではありません。だから、大丈夫です。
 『雷撃襲(ライトニングブレイカー)』常駐」
その甲な四肢に絡み付く雷鎖は彼の暴走格闘士以上に妾龍のそれを彷彿とさせる。
それを知らずとも、優雅に勇ましいその姿に今はこれ以上心強いものはない。
 「・・・うんっ! 直ぐ戻ってくるからっ!!」
ヒミカは今度もまた後ろを振り返る事無く駆ける。しかしその理由は先と全くの逆。
ヒミカを逃がすものかと娘のウィズダムを無視して触手が襲い掛かるが
ウィズダムの揮う四肢の斬撃に、それは斬り落とされ焼滅する。更に追討ちで
 「『雷撃襲』終了、『魔弾(フォースブリット)』タイプ:マシンガン」
アルティメットウエポンへ向けて掌を突き出しもう片手で支える腕に展開される
円筒上魔方陣。幾何学模様が帯状に見えるほど回転し始めるそれに
 「起動」
ガガガガガガガガガガガガ!!!
「アギャギャギャァァっ!!?」
爆音ともなって放たれた無数の魔法弾はアルティメットウエポンの皮膚で弾け
激痛に躍らせる・・・が、直ぐに再生し始め次弾が当たるまでに治るそれに
決定打には成らずイヤガラセ程度? それなりに効果的ではあるが・・・
「オ ノ レ ガアアアアアアアっ!!!」
逆切れに、最早通用せしない。ならばとウィズダムは掌から剣指に
 「『魔弾』タイプ:マグナム。射(シュート)ッ!!」
弾ッ!!
「プゲッ!!?」
より威力ある魔法弾でアッパーカットにアルティメットウエポンは仰け反る。更に
 「射ッ!! 射ッ!! 射ッ!! 射ッ!! 射ッ!! ・・・『再装填(リロード)』」
「プッ、プッ、プゲラっ!!?」
放たれた弾丸はアルティメットウエポンを躍らせ転げさせ後ろへ圧す。が
 「っ!!?」
次の瞬間、ガバァっと周囲の砂撒き散らせ立つソレ 地中から回り込んだ尻尾は
ウィズダムを一口で踊り喰い。
「・・・イツマデモッ・・・イイキニッ・・・ナルナッ!!」
  ・・・『魔弾』終了。『雷撃襲』常駐。
「プギャッ!!?」
・・・するも、余りにも刺激ありすぎたそれに思わす吐き出し、
甲の四肢に雷を纏ったウィズダムは優々と空を舞って着地。
 「・・・、悪食は腹を壊すぞ。
この場合の台詞は、美食を早々食べられると思うな が正解ですか・・・」
「ウグッ・・・ヌオオオオ・・・」
端より『意気地』がないアルティメットウエポンと決定打に欠けるウィズダムは
御互いに構え睨み合う硬直状態となった。 それを撃破るのは
 「きゃぁっ!!? きゃぁあああぁぁぁ!!?」
場違いに悲鳴を上げて間を通過ぎたヒミカ乗る騎翼機。
それを機にバックステップで敵から十分な距離を取ったウィズダムは
 「『加速増幅』,『雷撃襲』終了。 ストームブレイカー、コンタクト・・・」
 「・・・、???」
 「『魔導砲剣(ストームセーバー)』射出」
遠隔操作によって今にもヒミカを振り落しそうな騎翼機を安定させ、
更に騎翼機から撃出された刃はウィズダムの前に突き刺さり立つ。
が、それは今の凛々しい女騎士なウィズダムが扱うには余りにも無骨であり
事実、魔法強化を行い用いた処で振回され満足に使いこなせないのは必至。
「バ カ メ♪ ソレコソ正ニコケオドシ! ソノ程度ガワカラナイ俺デハナイゾ!!」
 「認めましょう。今の私では、この刃を揮うに値しない」
 「ウィズダムちゃんっ!!?」
「・・・(ニタリ」
 「しかしっ」
その刃の握りを掴んだウィズダムの姿に重なる異なるのはスレンダーに完全装甲騎士な
魔導機人ウィズダムのその姿。 女騎士な姿が完全に霞み消え、刃は抜き放たれる。
 「(何故なら、これは今の私が揮う刃だからっ!!!)」
「ヒッ!!?」
その輝きに圧倒的な戦力を理解したか、アルティメットウエポンは背を向けて遁走。
しかし、その邪悪な欲望の化身を逃す守護の騎士ではなく
 「(逃しはしないっ!!)」
「・・・、アベ???」
スラスター全開に撃出され霞消えるウィズダムは瞬後
アルティメットウエポンの前に剣をスパイクに地へ付き立て現れた。それに
アルティメットウエポンもブレーキをかけるが上半分スライスでズリッと空に浮く。
それもすぐさま驚異的な生命力で断面から繊手を伸ばし癒着し始める。
 「(ヒミカ、御願いしますっ!!)」
 「はいっ!! え〜〜っと、えいっ!!」
ウィズダムの指示でヒミカが頼りなくも機動させるのは魔導飛翔刃5基。
それはフワフワと浮くとアルティメットウエポンを包囲してピラミット型の頂点に止る。
そして、それを起点に生じる障壁はアルティメットウエポンを完全に封じ逃さない。
 「(もう、貴様に口上はいらない・・・)」
 「ウィズダムちゃん、やっちゃえ!!!」
魔導砲剣の仮想砲身最大展開で、その中に集うように見える燐光に集束する破壊光に
アルティメットウエポンは当然に必死で体当たりまでして障壁を破ろうとするが最早手遅れ
 「(滅せよっ!!!)」
魔導砲剣より放たれた光はピラミット型の結界の中に吸込まれ、アルティメットウエポンを
存在を許さず蹂躙し、自ら選んだ忌まわしい存在を完膚無きまでに焼滅させ
・・・そして、一帯は光に包まれた・・・

陽が地平線の向こうへ沈み紫に染まる空、其処を駆ける影が一つ。それは、
騎翼機に跨る女騎士なウィズダムとタンデムシートでその腰にシッカリしがみつくヒミカ。
 「ウィズダムちゃ〜〜ん♪」
 「何ですか?」
 「何でもな〜〜い♪」
満面の笑みでゴロニャンとウィズダムの背に頬をスリスリするヒミカの姿は
・・・ストロベリってる?
 「ウィズダムちゃ〜〜ん♪」
 「何でしょう?」
 「何でもなぁ〜い、呼んでみただけ〜〜♪」
 「そうですか・・・(汗」
それでも以心伝心に、ヒミカの言いたい事をウィズダムは知っている。
ウィズダムの事を思出したとは忌まわしい記憶が解き放たれているが
関して語りたくなくとも、もう乗り越えられることも知っている。
そんな二人の視界に入ってくるのは、拠点たる屋敷建物の灯り。次第に大きくなるそれに
建物を包む喧騒が、事後の無事に済んだものである事を悟るのは検討に易かった。
二人の帰還を知ったのだろう、二人の法王と兜を頭に乙女の姿の者を始めとした
ウィズダムとヒミカに関った者達が出迎える。ただ、事情を知っているだけに
皆 微妙な表情なのだが・・・その前に軟着陸する騎翼機から先ず降りたヒミカは皆を意もせず
 「皆、ただいま〜〜。 如何したの〜〜?」
ほえほえ〜〜な感で、皆は一様に安堵の表情が満ちる。 となれば、最早多くは語らず
「お帰りなさい、ヒミカ先生」
ただ微笑みで応じるディが皆を代表 代弁するのも今となっては自明の理。
 「あっ、そうそう、ウィズダムちゃんスッ・・・・・・・・・ゴイのぉ」
『HaHaHaHaHaHaHa、それは当然!! 何せ手がけたのは僕達ですからねっ!!!!』
幼子みたく純粋に驚きを身体表現するヒミカに、ディ&リュートを始めとした開発者達が
早速キャラが変わって鼻を伸ばし増長しまくっているが、めんどいのでもう克割っ!!


全てのトラブルが解決 もしくはその解決手段が整った今
光晶の法王ディオール(&銀狼闘姫シフォルナ)と魔銃の鍛冶士リュートは用済・・・
ではなく、戦慣れ等している三人は寧ろ指導者として期待されていた。 が、しかし
「何を如何いわれても僕達は帰りますよっ!!!」
「ディよう、そう言うなや。折角だからココで学長を目指してみるなんて如何だ?
よっ、歴代最年少学長(候補)、ヒュ〜〜ヒュ〜〜♪」
「そ ん な モ ノ に 興 味 は あ り ま せ ん っ!!
寧ろ、メチャクチャうざそうなので絶・・・・・・・ッ対に成りたくありません!!」
「ンな事いうなよ。俺達がサポートしてやるじゃぁないか。」
「・・・つまり、傀儡になれ と?」
「テメエは傀儡になるタマかよっ。 何なら学長は別のヤツにディは将軍なんて如何だ?」
「だ〜〜か〜〜ら〜〜、そんな面倒くさい事は嫌だと言っているでしょうっ!!!」
「そんな事言わずに・・・力持つ者はその力を有益に使う云々言っていたのは
テメエじゃねえか! 責任取って頭になれっ!!」
「僕の本職は希望都市の代理人等なんですよっ!!!」
「だ〜〜か〜〜ら〜〜、転職しろよぉ〜〜」
「うわっ、キショっ!! いい歳したジジイの癖に変な声しないで下さい。
んなのだから、皆からウザがられるんですよっ!!!」
「テメエ、其処までいうかぁ〜〜!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
ディは端からその意志がないわけで、今日も老師な老人 烈火の法王リーのラブコールから
建物の廊下を人目も憚らず駆足に遁走していた。 必要なら魔法攻撃までも厭わず・・・
・・・最近では氷結と火炎の魔法弾の応酬で犠牲者も出ているが、
それも大した被害が出ていないのは、場所が場所だけにと言った処だろう。
「チィィィッ! 見失ったかっ!!?」
「・・・・・・」
今日もまた逃げられ洗脳(?)出来ないリー老師が、足元の棚に隠れたディに気付かず
ブツブツ言いながら地団駄踏んで行く。
「・・・毎度大変だな、老人の相手は(笑」
「そう思うなら止めて下さいよ。こっちは笑い事じゃないんですから」
「生憎、俺もリー先生派でな・・・(ニヤリ」
「・・・・・・」
狭い場所から這い出し手を借りようとしていたディはフォンの物言いに手を引込める。
「だからと言って友を売るような真似はしないから、その点は安心してくれ。
まぁ、ディが学長に成ればオモシロイだろうと思うのは俺達だけではないはずだが・・・」
改めて手を借り立上がったディに、騒動を眺めていた皆々が視線を外すのは図星だろう。
それでもディをリーに売らないのは、ディの意志を尊重しているからか・・・
「・・・・・・所詮、僕は部外者ですから。そういった事は内々ですればいいんですよ」
「だから、やってるじゃないか。 内々で・・・」
ここまで関り内情を知るディは最早部外者では済まされない。
「・・・それでも、僕は外の人間なんですよ。もう、早いうちに帰るつもりなので」
「分っている。残念だが・・・」
「・・・まぁ、報復の件も含めて頭と方針が決まったら連絡下さい。
及ばずながら多少なり手助けしますので・・・」
「君達ほど心強い味方はないんだがな(苦笑」
「皆、それを言いますね・・・。もう勘弁してください、ほんと・・・」
と何かに気付いたディは気付いたソレに遁走。直後
「おう、フォン ディの小僧を見なかったかっ!!?」
「・・・今、向こうへ逃げていきましたよ」
息巻いてやって来たリー老師へ教えるのは全く明後日の方向。それを真に受け
「おうっありがとよっ!!!」
と猪突猛進に駆けて行った。その後、リー老師がディを捕縛出来たかは知る由もなく・・・
その暗喩もあってか、ディ達3人+αの突然の帰去に皆がショックを受ける事はなかった。
その後、その意志を決定する魔術都市アルマティの学長に誰がなり、
如何ような方針の元で魔術の道を歩んでいったかは別の話である。




補足

○ウィズダム=マキナス
 魔導機人ウィズダムを基に、新たに誕生した超機人(マシンナリー)といえる存在。
一見、色白肌藍髪でも何処と無く炎術講師ヒミカと姉妹のように似て、それでも違い
儚乳細腰安産尻のスレンダーなモノノフ美女である。其の実体は霊液『輝ける霊血』
から造った人造細胞「マシンセル」で出来た不老の肉体をもつ「人間」そのもの。
もはや細胞単位で人の模造であるため人と変わらぬ生体反応を有しているが
一から模造の存在であるため外感覚意識領域の認識がなく、魔法は殆ど使えない。
能力的には見た目と違い歴戦戦士並であるが、某仮面騎士みたく魔導機人へ位相変身
することで強力無比な戦士へと成る。尚、四肢のみなど部分変身も可能。
戦闘手段は、人状態ではクロムウェルの打撃系やライの投系が中心。
魔法は人状態の時のみ、予め登録されたものから『メモリー』の許容内で使用可能。
・『加速増幅(ブーストアクセレイト)』:要は、反応加速・筋力強化。
・『偽装(カモフレイト)』:魔導機人から人状態へ戻った時に一糸纏わぬ状態へ
 なってしまうため、その対策。そう見せているだけなので、実際は裸。
 銀のレオタード以外にも色々な衣装を纏えるが、違和感が生じるので専ら・・・
・『障壁(シールド)』:言わずもかな、シールド。タイプが、攻撃防御用で面の
 限定展開でも堅牢なシェード,高速移動用で空気抵抗等を防ぐ為に繭状に張る
 ディメンション,強力で広域に張ることが出来ても身動き出来ないフィールドの 三種がある。
・『雷撃襲(ライトニングブレイカー)』:四肢に雷を纏い攻撃力を増す。
 要はクロムウェルや妾龍のアレと基本的に同じ。
・『魔弾(フォースブリット)』:所謂、魔法弾。タイプが牽制用のマシンガン,
 威力あるマグナム,遠距離狙撃用のスナイプがあるが決定打になるだけの攻撃力は無い。

○英霊の魔眼 フォン
先のレイアード占領事件で隻眼となったアルマティの警備員フォンが失った眼の代りに
ディ&リュート製 球状魔石の義眼を得た。その力は凄まじく、遮蔽物を通して全てを
見通すのみならず送られる情報で脳をクロックアップさせて予知的な超人の行動までも
可能となったが、その負担も生半可でもないので普段は眼帯でその眼を隠している。
それでも、その眼の御陰か使っていない状態でもアルマティ出身ではありえないクラスの
歴戦の魔法戦士となった。英霊の魔眼を使えば誰でもこうなれるわけではなく
個人への調節以上に当人の「覚悟」が求められる代物。
因みに、眼からレーザーなんて真似は出来ない。

○ナイトウィザーズ(仮
アルマティ軍(?)といえる組織。先の事件においての抵抗組織を編成し直した。
先でディが世話になった元宿の屋敷建物を増設、拠点としている。
構成メンバーが魔導士なので戦闘力不足はいなめないが、その分様々な魔導具を
開発して個人戦闘能力向上に努めた。 初代団長は済崩し的にフォンが就任。

○魔導機兵(アルマティ製)
 ナイトウィザーズ(仮 の根本的な問題は、「数」としての戦闘力不足。
その解決手段の一つなのだが、ある意味ディの魔導機兵の劣化コピーで
性能自体は悪くないが如何もオツムが弱い感が否めない。
魔導士一人が魔導機兵4体を率い、MV1ユニットに「勝てる」戦力。
ちなみにディ製ならば汎型魔導機兵3体のみでMV1ユニット相手に圧勝。
因みに、ナイトウィザーズ拠点内では警備や作業補助のため可也の数が
常に稼動している。

○騎翼機ストームブレイカー
ウィズダムの武装である戦術装甲から組み上げた高機動浮遊型自動騎乗機(浮遊バイク)。
そのフォルムは突撃体形の鷹を思わせる。 ストームブレイカーからなっているが、
魔導砲剣「ストームセーバー」を尾にあたる部分に加速器として、
撃構盾「ストームスタンダー」を胴体下に騎翼機の一武装として装着し
ウィズダムの通常高速移動手段のみならず武装ラックとしても考慮されてある。
この状態でも両サイドに装着されている魔導飛翔刃「ゴーストクリスタル」は使用可能
(ウィズダムのみでは2,3基が限界、アニマならフルスペック×2でも使用可)。

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