暑中見舞い差し上げSS「さすらいの氷職人」



四季がある地域と言うのは当然の事ながら暑い時もあり寒い時もある

それが自然の恵みとも言うべきものなのだがそれを肌で体感する者にしては時として惠みという言葉を忘れ

疎ましく思うこともある

それは祝福された土地でも変わる事はなく・・そんな訳でその日希望都市はとても暑かった



・・・・・・・



「あ〜つ〜い〜」



「暑いですね」


都市外れの質実剛健な屋敷、その一室・・執務室にて一組の男女が毎度のやり取りをしている

しかしこの日は少し様子が違うようで・・

「レイやん、反応がタンパクだぜ?」

タオルを首に巻き処理中の書類を投げ出して屋敷の主であるライが言う

「暑いと言って暑さが紛れるものではありません」

その相手をするは希望都市の四姫が一人、彼の秘書嬢レイハさん

仕事のパートナーという事で彼とは一番接する機会が多い

それだけならば他の三人よりも一歩進んでいるともいえないこともないのだが彼の仕事を監視しないといけない分気苦労も多い

そんな彼女は高温な室内でもスーツ姿、黒髪を団子状にし眼鏡が怪しく光っている

本職はクノイチな彼女、忍はいかなる状況でも作戦を遂行しなければならず適応性が肝要、

それゆえに多少の暑さならば苦にもならないのだがこの日は異常なのか額にうっすら光る物が・・

「妙に暑い日ってあるもんだが・・今日はことさらだな・・」

「でしたら速く仕事を終わらせましょう・・」

「そうは言ってもなぁ・・ほら、汗で書類がくっつくだろう?やる気でねぇよなぁ・・」

執務室の窓とドアは全開、しかしまったくの無風で室内の熱気が逃げる事はない

「そのくらいいつもの事です・・」

「・・レイやん、暑くてイライラしてない?」

「してませんよ、ええしてませんとも。

もちろんクノイチなのにこの程度の暑さで汗をかいている事に苛立ってませんですし

これぐらいの暑さなんともありません」

眼鏡が発光しているかのように輝きペンを走らせながら言うレイハ

その様子は少し怖いのだが彼にはそれが可愛く見えたりする

「こりゃ・・ルーにでも頼んで風でも起こしてもらおうかな・・」

「その程度の事だったら怒るのではありませんか?それにもし風量の関係で書類が吹き飛んでは大事です」

「そうなりゃルナにでも取りにいかせるよ」

「ダメです、ルナだと涎だらけになるか破られるかのどちらかです」

「ならどうするんだよ?普通に考えたらこの暑さで事務なんてしないぞ?」

「水を入れた桶に足を入れているだけで十分です、速く終わらせましょう」

彼女の言うように彼の足元には木桶が置かれておりそこに水をいれて足を突っ込んでいる

それはレイハも同じだが・・



「ぬるいな・・」



「ええ・・」



効果はすでに切れているらしい

「くそ・・忌々しい暑さめ!俺たちが何かやったってのか!!!」

「暑さは自然の物です。ここ数日雨が続いた分余計に蒸し暑いのでしょう」

「冷静ですね、レイハさん」

「当然です、暑さに音を上げては秘書失格です」

「・・ふぅん・・、なら・・ナニだったら音を上げるのかなぁ・・(ニギニギ)」

途端にその瞳に欲望の炎が灯り出すライ、その口調、動作、そして何より表情でレイハは事態を察知する

クノイチの危険予測は伊達ではない

「いけません、ライ、仕事を・・」

「レイやん、仕事には休息も必要だ」

「で・・すが・・ドアも窓も開いてます・・」

「たまにはそれもいいんじゃないかぁ・・?下手すればリオ辺りに見られるかもな♪」

「それは困ります・・ラ・・ライ・・考え直して・・」

そうは言っても抵抗する素振りは見せないレイハさん、一応の言い訳はしつつもやはり彼女も女

愛する男の胸の中で暑さを忘れないのだ

「決定事項だ、神妙にしろ!」

「ライ・・♪・・あ・・」

乗り気なレイハさんだが窓の外に何かを見つけたらしくトーンダウンした

「どした・・?・・おっ・・」

その様子を察知して振り返り窓の外を見るライ、外の景色・・雲一つない空の中に一匹の竜の姿がはっきりと見えた



・・・・・・・・


その飛竜は彼らも良く知っている、伝説の種が飛来するともなれば大事ではあるがライは軽く窓から外に出て竜を出迎える

飛竜はゆっくりと下降し大きく翼をはばたかせ風を吹かせる、それによりスピードを殺して屋敷近くの平原に華麗に着地をした

飼い慣らされたワイバーンでもこうも見事な着地は出来ない

「・・ユトレヒト隊の・・アミルさんでしたか・・」

ライが出て行くのに自分はそのままいるわけにはいかず靴を履いてレイハは彼の後を追い竜の目の前までやってきた

「おかしいな、こっちに来るなら連絡入れるんだろうが・・」

考えられるのは緊急事態、暑さも忘れて気を引き締めた瞬間


「はろ〜♪げんき〜?」


間が抜けた声とともに背中から彼に着地するは短いジーパンに臍丸出しの白シャツを着た絶世の金髪美女・


「帰れ」


「ひどっ!」


彼らにとっては正しく招かれざる客・・、ライはドンピシャリと来客拒否しだす

「何の用だ?セシル・・アミルまで使って・・」

「暑中見舞い♪」

「帰れ」

「だからひどっ!」

まるでマンザイのような二人のやり取り、すると飛竜アミルの体から閃光が放たれたかと思うと

そこには豊満な肉体に黒いドレスを身に纏った紫髪の淑女が・・

「よう、アミル。セシルに付き合わされて災難だったな」

「あ・・いえ、ロカルノさんからの頼まれ事ですので・・」

「そうよ!私達はロカの遣いなの!連絡は取ってなかったけどねぇ」

「セシルさんが忘れていたようなので・・」

必死にセシルのフォローをするアミル、その心に宿る献身さが躊躇に出ているのだが・・

「ならアミルだけでええやん、セシル、ちょうど頃合の木箱あったから郵送したる。ほれっ、体折りたため」

「なんでじゃ!!?悪さしないからとっとと中に入れな!!」

「・・ちっ、しょうがねぇな・・。ともかく中に行くか。日差しがたまらん」

「そうこなくっちゃね♪さぁ、アミル・・いきましょいきましょ♪」

「は・・はぁ・・」

喧嘩するほど仲が良い、しかしその格言はこの二人に適合するのだろうか・・

アミルはそんな事を思いながらライ達の後に続いて屋敷へと入って行った



・・・・・



極星騎士団の面々の生活は自由な部分が多い

それ故にその日の屋敷は人口密度が低かった・・

いつも外出組は言わずもかな、シエルとルナは暑さを凌ぐために狩りのついでに川に水浴びに行き

屋敷に残っているのは仕事があるライとレイハ、屋敷周りの掃除をしていたアレス、リオ、ディぐらいとなり

セシルが来た事で一名、警戒色を特に強めていた


「しっかし暑いわね〜、窓全開なのに風が全然入ってこないし」


居間に通され我が家の如く寛ぐセシルにライは睨みもしたのだが元よりそれが通じる相手ではない

やがてはこんな奴まともに相手をしても疲れるだけだ・・っと割り切ってソファに腰を下ろした

「どんな快適な土地でも過ごし難い日ってのはあるもんだ、今日は極端だがな・・」

「ふぅ〜ん、でも『涼』ってのがないわね・・これじゃ蒸し風呂よ?」

「今日突然暑くなりましたからね。突発的な物だと特に暑さ対策はしていないのです」

来客である以上相手をしなければならないレイハさん

仕事が残っている事に少し焦りを感じるのだがやむを得なしと割り切りお茶を出す

「暑さが突如来ると体を壊しやすいといいます。体調には気をつけてください」

「ありがとよ、アミル。ほんと・・ロカルノにお似合いな女だよな〜・・なんであいつセシルなんか選んだんだ?」

「酔狂なのでしょう」

「・・レイハ、何気に毒舌よ・・」

暑さと焦りに今日のレイハさんはいつもに比べてストレートなのであった・・

「文句を言うな、ただでさえ暑い中に招きたくない奴が家にいるんだからな・・」

「ひっど〜・・未だに根に持っているね・・」

「当たり前だ、この超危険人物め」

「・・しょうがない、今日はその詫びに一つ『涼』って奴をプレゼントしますか」

そう言い持参した大きな旅用の布袋からセシルはカイトシールドを取り出した

装飾品と見間違うばかりの美しさ中央部分は鏡のように光っており相手を映している

「お前が持つにしては勿体無いぐらい良い物じゃないか」

「ふふふ〜♪これ貰うのに4回は死んだんだから・・、変わった奴だけど色々使えるの・・それ!」

盾をライとレイハの方へ向けてソファに置き軽く念じると盾の中心部に蒼い立体魔法陣が浮かび微風が流れた

「・・あ♪・・気持ち良い・・」

突然のそよ風にレイハはご満悦、冷静を装っても暑さには悩まされていたようだ

「風を出す盾か・・、変わっているな」

「基本は風の力を得て相手にぶん投げるみたいだけど、使いようによっちゃ飛び道具吹き飛ばしたり

今みたいに送風装置にもなるの・・便利でしょう♪」

「・・盾でなければならない意味はないのかもしれないがな」

「そ〜でしょそ〜でしょ〜♪いい盾なのよ〜♪」

「・・おい、話聞けよ・・?」

「そんじゃ次は・・これ・・じゃん!」

まるで押し売りの如く自分のペースで話を進めるセシル、ライもめんどくさくなってツッコむのを止めてしまった

そんなこんなで次に取り出したのは鉄製の所謂「カキ氷機」骨組みだけのシンプル構造なのだがドッシリとしており

いかにも重そう、それでも涼しげに見えるのはそれが使われる用途によるものからなのか・・

「カキ氷の機械か・・。なんでこんなの持ってるんだよ?」

「ふふふ・・・それを私に聞くか・・アミル!説明!」

「えっと、セシルさんは魔物討伐の仕事がないとこの時期、氷職人として地方営業に回るのです

ハイデルベルク内では『さすらいの氷職人』として結構有名なんですよ」

「あっ、氷はもちろん氷狼刹からね♪」

「・・お前、絶対騎士じゃねぇ」

「剣も盾も・・本来の使い方以外の方に使ってますしね」

呆れるライとレイハ、しかし本人は全く動じない・・

何気にこの営業・・息が長く本人としても気に入ってる仕事だったりする

「っていうかさ、なんでそんなもんこっちに持ってきているんだよ・・?」

「あ〜、これね。帰りに稼いで来いってロカから・・ね、ちょ〜っと欲しいお酒があってロカのお金使ったら怒ってねぇ・・」

「うわぁ、最悪だ・・」

「ナニよ!恋人なんだから財布も一心同体よ!」

「あの・・セシルさん、そう言ってロカルノさんに怒られたのでは・・」

全く懲りていないセシルにアミルさんは苦笑いをするしかなく・・

「っていうか・・もう捨てられるの確定じゃないか・・?誰がどう見てもロカルノにはアミルだろう」

「そ、そんな・・私なんて・・」

「否定しながらも頬を染める辺り・・お似合いだと私も思います」

「まってぇぇぇい!ロカの恋人はただ一人!このセシル=ローズ様ただ一人よ!」

「今のところな」

「・・・・泣いていい?」

「泣くぐらいなら帰れ、で・・どすんだ?氷作るのか?」

「こうなったらヤケよ!侘びも込めてセシルさん特製の氷を食らわして上げる!」

「・・まぁ、暑いからちょうどいいんだけどな・・」

「ふふふ・・そう言っていられるのも今のうちよ!

このカキ氷機はリュートに(無理やり)作らせたHOLY ORDERS印の特注品よ!

金属枠は合成金属使用でハンマーで叩いても問題なしの強度!

そしてこの刃は眼鏡侍の刀の知識を活かした岩をも切り裂く斬岩刃を採用!

正しく最強のカキ氷機なの!」

「・・氷作る上で取り立てて利点がない特注さだよな」

「ええ・・」

素直な感想だが当人の耳には届かず、曰く馬耳東風・・

そうこうしている間にセシルは鞘に納められていた騎士剣「氷狼刹」と小さな旅行用の鞄を取り出す

そこにはガラス製の器と軽い装飾がなされたスプーンがゴムバンドで固定された状態で収められており営業用なのがわかる

「よっしゃ!そんじゃいくわよん♪」

そう言い機械の台座に剣の柄を軽く当てて目を閉じる・・

すると台座の中心から小さな氷が発生しそれは見る見る大きくなって四角い氷塊へと成長した

「・・お前が使うにしては正統的か・・」

「ふふふ・・このセシル様の納涼の世界に恐れおののくがいいわ!」


シャ〜コ〜シャ〜コ〜!


ハンドルを廻すとともに台座が回転し氷を削っていく、特注品は伊達ではないらしくサクサク氷を削りガラスの器に積み上げられる

「一丁上がり!バカ殿、シロップ何にする?」

「何にするって・・何があるんだよ?」

「う〜んとね、ベリー系とかオレンジ系・・後はスイかな?因みに全部キルケ製だから味は抜群よ♪」

そう言い鞄より取り出すはちょっと洒落た感じのポーション瓶に入った液体

色が鮮やかではないのは味に重点をいているがため・・

「・・スイ?」

「あぁ、アミルにはわからないかしら。砂糖水の事よ。クラークがこれが当然だろうって言って無理やりメニューに加えたの

・・赤貧だったから貧乏臭いのしか食べないみたいねぇ・・」

「なぁ、黒蜜ってねえか?」

「おや、バカ殿も赤貧?・・・じゃなくって、く、く、黒蜜?

なんでっ!!?てか何っ!!?」

「その氷、空中の水分を凝結させたもんだろうが。

氷の味ってものは、その水の中のミネラル分で左右されるものだ。

美味い名水の氷に、スイで氷自体の味を楽しむのならまだしも・・それじゃあなぁ・・

まぁ蜜に粉茶を混ぜた茶蜜ってのもアリか。これだけでもバリエーションで翠に紅・・・」

「うわああああっ、何か語ってる〜〜っ!!!」

「遊び人の龍ちゃんことオレを舐めるなよ。まっ、今回はスイでいいや」

「その斜前一歩行く処に憧れないし、ムカツク〜〜!!・・ほい」

そう言い白みかかった砂糖水を氷にぶっ掛けてライに手渡す

流石に毒物はないと思う軽く警戒しながらもライはそれを口に運んだ


「・・うん、うまいな・・。水と砂糖のバランスが実にいいしこの砂糖も良いのを使っている・・上品な甘さだな

キルケも氷にかけるための蜜の濃度を周到に考えたんだろう・・」


「どうよ!恐れ入った!?」

「っというか氷は氷狼刹と希望都市の清らかな空気の産物だし、機械はリュート製だし、シロップはキルケ製だろう?お前廻してるだけじゃん」

「し・・失礼な!味の決め手は私の愛よ!さぁ・・レイハも食べなさい!」

「は・・はい、ではお言葉に甘えまして・・」

「シロップは何がいい〜?バカ殿があんな事いうから私特製のシロップがあるわよ♪」

「・・セ・・セシルさんの・・ですか・・?」

冷静なレイハの顔が引きつる、彼女の料理センスのなさはすでに身をもって体験しているが故に冷静さを保てないようだ

「そう!名づけて「SCS(スペシャルセシルソース)」!結構自信作よ?今まで6000匹を超える魔物が美味さの余りに絶命したんだから♪」

その時レイハさんは犠牲となった6000もの魔物に哀悼の念を捧げた

「・・いえ・・遠慮します。じゃあブルーラズベリーで・・」

「ちぇ・・はい、どうぞ・・」

「いただきます・・あ・・美味しいですね。流石はキルケさん」

「セシルが作ったってのは癪だけど味はいいな・・やっぱ暑い時は氷か・・」



「・・そうですね、ひんやりした氷にブルーラズベリーの酸味、鼻を擽るほのかに甘い匂いが程よく効いています

それにライが言った通り氷にかける事による濃度調節が抜群ですね・・セシルさんの掛け方が若干マイナス要素になりそうですが・・

これは正しく・・『かき氷の宝石箱』・・ですね」


淡々と感想を述べるレイハさんに一同沈黙・・

「・・・・、暑さで・・疲れているんだな・・」

「・・ハッ!?」

しばし食い入っていたレイハさん、ライの指摘に我に返ったようで眼鏡の下に覗かせる瞳は照れている

「っていうかさ、あんたらって美食家かなんか?味の解説しながら食うなんてねぇ・・」

「何を言う、どんな味かを表現してこそ味がわかるもんだ!」

「そうかしら・・ロカに私の料理食べさしたら無言のまま鼻で笑われたけど・・」

「そりゃ手前の料理が殺人アイテムなだけさ」

「あ〜!ひど!!!今私の料理食べてうまいって言ったくせに!」

「だから氷廻しただけじゃろがい!カキ氷なんて料理の内に入るか!」

「ならば厨房を貸せ!本当の料理を叩き込んでくれる!」

「その手に乗るか!」

「・・ちっ・・」

毎度の如くいがみ合う二人、慣れてきたら本当にマンザイみたいにも見え

レイハもアミルも止めようとはしない

そこに・・



「団長、掃除が終わりました」


フラリとアレスとリオが居間にやってくる、

アレスは半そでシャツに軽いズボン姿、肩にはタオルをかけており隣のリオは動きやすいメイド服。

鍛え抜かれていると言えども流石にこの暑さ、加えて体を動かしている分二人ともシットリと汗に濡れていた

「よっ、アレスにリオちゃんおひさ〜♪」「ご無沙汰いたしております」

「お久しぶりです♪・・って、団長にレイハさん・・何食べているんですか?」

「何って氷だよ、リオ達も食うか?作っているのはセシルだが味付はキルケだ、死にはしない」

「・・は・・はぁ・・」

「・・アレス君・・氷をかじるの?」

「そうじゃない、あの機械で氷を削った物に蜜をかけて食べるんだ・・知らないのか?」

「あ〜・・食べるのは初めて・・かな?氷菓だったらアイスクリームの方が好きだし・・」

良いとこのお嬢さん、庶民の食べ物をコンプリートしているとは限らない

温室の薔薇は時として世間知らずな一面を見せる・・まぁ彼女の場合は温室ではないのだが・・

「まぁ、初めてでも美味さはわかるわ!用意するから座りなさい♪・・ディは?」

「セシルさんが屋敷に来たことをシエルさんへの報告するために出かけましたよ」

「・・・ちっ・・」

自業自得なセシル、だが気持ちを切り替えて氷を削り出した・・・



・・・・・



冷たい氷を食べて一息つくアレスとリオ、風の盾による微風に当たった途端に汗は消えうせて今では涼しい顔をしている

無風と微風ではそれだけの違いがあるのだ

「美味しい〜♪氷に蜜かけただけなのにこんなに美味しいんだ〜!」

「こういう物を食べるのも久しぶりですね」

悦顔なリオと堪能している様子のアレス、結果は上々・・破壊神が如く料理音痴なセシルもこの程度の事ならばできると言う事が証明された

「この時期氷の保存って難しいからねぇ・・一部の魔法使いが実験費稼ぐ名目で氷売ったりしているのが専らだけど・・

それが恥ずかしいって風潮があるみたいで最近じゃ余り見ないらしいわよ?

まぁアイスクリームなんてブルジョワな物に人気がいっているのもあるんだけどねぇ・・その分私はボロ儲け♪」

「・・手前は恥ずかしいとは思わないのかよ・・」

「全然♪・・あっ、そういえばアレス君」

「・・はい?」

「ロカから預かり物があるの♪」

「・・・・」

ニヤリと笑うセシルに対しアレスの体が硬直した、その理由は体も心もよく理解している

そして彼女がゆっくりと旅袋に手をいれそれを取り出した・・

その姿が見える瞬間、生唾を飲み込むアレス・・


ゴゴゴゴゴ・・・


っと効果音が聞こそうなぐらい刹那に張り詰めた空気、そして現れるは当然・・仮面

「やはり・・」

「まぁロカが他人に物を渡すなんてのは大抵この類だからねぇ・・仮面武闘会で二人が使っていたのを回収して加工した物なんだって

なんだかすっごく気に入っていたわよ?」

取り出したソレは正しく二つの仮面を融合した物、黄金の目元を隠す仮面と漆黒にて視界を開放した棘棘しい仮面

丁度その二つがうまく合わさり合うように削られており目元を黄金の仮面で隠しそれを縁取るようにトゲトゲな漆黒面が組み合わされている

黄金面を削りはめ込んだようで違和感はなく刃のように尖った装飾部は口元まで伸びている

そしてもう一対鬼の2本角のように棘が伸びている

金と漆黒それが上手く融合したような形なのだがこんな物付けるのは色物レスラーぐらいしかまずいない

「あ・・それ・・、アレス君と私が付けていたのを合わせたんですか・・」

「騒ぎになっている内に落としてしまった物がよもやこんな形で返ってくるとは・・」

それにアレスの顔色がよろしくなくなる、度重なる仮面の恐るべき世界を垣間見て体と心が拒絶し出しているのだ

「あぁ、それでしたらロカルノさんが言ってました。『仮面と持ち手は一心同体、捨ててしまっても巡り巡って戻ってくるだろう』って」

思い出したようにアミルが言うのだが・・

「それじゃまるで怪談じゃねぇか・・」

全員少し引き気味・・

最もロカルノの奇妙な趣向を理解できる人間はこの中では良くてライぐらいなので無理はないのだが・・

「ともあれ、頼まれたから上げるわね♪はい!」

「え・・あ・・う・・」

いつも冷静なアレスだが手に持たされた仮面を呆然と見つめている

「何でも、黄金面のヒーロー思考と漆黒面のダークヒーロー思考を組み合わされた究極の成り切り仮面だと言っていました

ただ潜在能力を全開に引き出すので使い手が力尽きないようにリミッターが設置されているようです」

「・・ってか・・アミルが何でそんなに詳しいのよ・・?」

「え・・あっ、それは・・・私と寝床を共にした時にそんな事をおっしゃっていたので・・」

照れながら言うアミル・・それに対しセシルは嫉妬の炎がメラメラと・・

「ふぅん、ロカルノもちゃんとアミルの相手をしているんだなぁ・・」

「そんな、あの・・四日に一度程度いらっしゃるぐらいですので・・」

「現状四日に一度ならそれが段々間隔が短くなっていくのですね」

眼鏡を光らせるレイハさん・・静かに話を聞いていると思いきや何気にセシルに口撃している

「あぁ、なるほど・・徐々にアミルに乗り換えるって寸法か!流石はロカルノ・・相手に気付かれない内に捨てるとはな」


「まってぇぇぇぇい!!だから捨てられないって言っているでしょう!」


「「「「今のところは」」」」

「・・アミル〜・・」

とうとうライバルに救いを求めるセシル、日頃の人徳というものは大事である

「大丈夫ですよ、ロカルノさんはセシルさんをきちんと愛しています」

二コリと笑いライバルを励ますアミルさん、すでに女としての格が違うのは明白であり・・

「流石アミル!わかってる〜♪」

「アミルさんに求めている以上・・間違っていると思うのですが・・」

「それよりも、セシルさん・・これ・・返品できませんか?」

セシル達の恋模様よりも自分に送られてきた仮面を如何するかの方が大切なアレス

とりあえず手元に置いておくのは遠慮したい

「・・しても流れ流れて再びアレス君の手元に戻ってくるんじゃないの?」

「怖い事を言わないでください・・」

「まぁ、せっかくだ。ロカルノの好意に甘えてもらっておけよ」

「団長・・、絶対つけませんよ?」

ライの鶴の一声に恨めしいばかりに睨みつけるアレス・・

しかし持っておくだけでは効果はない、それにロカルノが嘘をつくとは思えずに

本当にこれを捨てても元に戻ってくるかのような気がしてきたのだ

「でも・・それをつけたアレス君を見てみたいかも♪」

「リオ・・怒るぞ?」

「あぁん、アレス君〜♪」

何気に良いカップルなアレスとリオ、その関係はもはや切っても切り離されず

夜も当然一心同体、それだけは物足りないのかリオはたまにこうしてアレスを挑発(?)している

「違う意味で熱いわねぇ・・。

ほんと障害のないカップルが羨ましいわ」

「手前の場合は浮かれているから立場が危なくなったのだろうが・・」

「うっせい!」

図星でキレるセシル・・これもおなじみの光景となりつつある

誰もフォローを入れないものなのだが・・

その時


「ただいま〜」


呑気な声で居間に入っている妖艶な女性・・アルシア

「やっほ〜アルシア♪」

「セシルじゃない!どうしたの?」

突然の来客に驚くアルシア、ウェーブかかった美しい金髪を持つ彼女とセシルは心の友、すなわち心友

仲が良いのだがそれは必ずしにも周りに無害なものにあらず・・

「暑中見舞いよ♪そういや久しぶりねぇ・・元気してた?」

「もちろんよぉ♪変に暑くて嫌な日だったけど貴女が来たんだったら良い日に早変わりねぇ♪」

「・・その意見を持つ奴はお前ぐらいだな・・」

あきれ果てたライ、この二人の仲の良さは危険なものがあるのは良く理解している

っというかそのせいでシエルをセシルの餌食になってしまったのだ

故にその動向には注意が必要・・

「せっかくだしお部屋でゆっくり話をしない?」

「いいわね♪じゃ・・そう言う事だからアミルは適当にくつろいでいて♪じゃね〜」

仲良く居間を去る金髪美女二人・・

「・・いつもながら二人っきりにさせるのは危ない気がするが・・」

「流石に監視するわけにもいきませんか・・」

「だよなぁ・・、アレス、リオ・・変な事にならないように一応気をつけてくれよ」

「この仮面を手にしている事からすでに変な事になっています・・」

手に持たされた仮面を疎ましく見つめるアレス、どう処理するか迷っているようだ

「部屋に飾っていたら寝ている時に独り手に動いて装着されそうですしね」

苦笑いを浮かべながら冗談でそう言うアミル・・だが・・

「・・アミルさん、洒落になりません・・」

本人は至って真面目に反応するのであった、もはやこれは仮面拒絶症候群?

「・・・」

そんな中ライが居間の片隅、何もない空間をジッと見つめる

「ライ、どうしたのですか?居間の隅に何か・・」

「・・ん〜・・何か・・感じるんだよなぁ・・」

「何もありませんが・・」

「んん・・まぁ、いいや。とにかく・・あいつがアルシアと相手をしているうちに氷でも頂いておくか」

若干気にはなっているもののそれを深く追求せずに面々は

セシルが残した装備を勝手に利用しつつ暑さを凌ぐ談笑タイムへと突入していった・・


・・・・・・・・


「すごいわぁ・・これ・・」


「やっぱりそう?」


「そりゃねぇ・・これだったら三日三晩イキっぱなしじゃないかしらぁ・・」


アルシアの自室に何やら危ない話に華を咲かせる二人の姿が・・

取り出したのはセシルが持ってきたアタッシェケース、それはかつてベアトリーチェから貰った媚薬と性戯用の蟲を保存したもの

ベアトリーチェは自信作と言っているものの体に挿れる物、ある程度どういうものなのか理解しておかないといけないと思い

薬全般に知識を持つアルシアに取ってはそれがどういう物なのか理解できるらしくしばし呆気に取られていたとか・・

「じゃあ並の媚薬じゃないのねぇ・・使わなくてよかったぁ・・」

「特上物ね、ウブな処女でもこれを使ったら一晩で娼婦に変わっちゃうわぁ・・。媚薬でこれだけなんだから・・」

「蟲・・ね。この存在をロカに見つからないように必死だったわ・・」

二人の視線が集まるはアタッシェケース内に厳重に保管された試験官、青い液体に満たされたそこに沈殿するはゼリー状の卵

動き出す気配はないものの事情を知っている二人にはこの蟲の卵が不気味に見えて仕方がない

「見た目から危ないと思っていたけど・・こんな物くれるなんてねぇ・・」

「どこの誰だか知らないけど、相当なものねぇ・・。夜のお供ならまだしもこんなもので拷問されたら間違いなく狂っちゃうわ」

「ならば使用しないに越した事はないわね・・アルシア、いる?」

「媚薬ならまだいいけど・・、あっ、でもこんなの使ってライにおねだりしたらもう衰弱するぐらいイキ続けちゃうかも・・」

「バカ殿の絶倫具合は相変わらずみたいね・・」

危ない話で盛り上がるアルシアとセシル、この二人が会うと性の話になってしまうのは自然であったりするだが

それでも今日は道具があるのでいつも以上に盛り上がっている

「で・・、その変な隣人さんにクローディアが助けられたの」

「えぇ、処置がもう少し遅かったらお腹が切り裂かれて絶命したって・・ゾッとするわね」

媚薬と蟲の造り手ベアトリーチェ、それだけでなく以前クローディアが危険生物の仔を孕まされた時にそれを救った恩人として

ユトレヒト隊とはそれなりに親交がある

それはキルケとの文通でアルシアも知っており何気に興味を抱いていたのだ

「人体に影響のない毒で胎内の幼蟲を弱らせて子宮まで手を突っ込んで引きずり出す・・

口で言うには簡単だけど実際それを行うのって製薬技術から医学に長けていないと絶対できないわね・・」

「そうそう、おまけに緊急事態なのにどさくさにまぎれて母乳誘発剤まで混ぜたって言ってたわ。

またこれがすごくて最近まで胸に染み作っていたしねぇ・・」

「本当に変人ねぇ・・。死にそうになって化物の子供産んでいるのに母乳誘発させるって・・心の傷広げるもんじゃないの」

「それがどっこい、手術中にクローディアって精神壊れちゃったから産み落とした記憶がないんだって。

溢れる母乳もあの眼鏡侍が一生懸命搾っていたわよ」

「それはキルケからも聞いているわ・・3人乱交搾乳って・・あの眼鏡、やるわねぇ・・」

「ほんとほんと、で・・アルシアもバカ殿と濃密に交わっている?」

「上々♪・・まぁ流石に搾乳プレイとかはしていないけどねぇ・・ここいらはそんな物騒な物いないし」

「それでもオシオキで蟲使われたら孕んでいるんじゃないの?」

「それはそれ♪でも・・ライにこの蟲の存在を知られるわけにはいかないわねぇ・・」

「もちろんロカにもね・・。かと言って捨てたりして繁殖したらそれこそ大厄災起きてしまいそうだし・・困った物を貰ったもんねぇ・・」

苦笑するセシル・・そこに・・・


コンコン


『セシルさん、アルシアさん、いらっしゃいますか?』

ドア越しにアミルの声が・・

「あ、ええ・・どうぞ?」

「失礼します」

ゆっくりとアルシアの部屋に入るアミル、流石にベットに置かれたケースにある物が何なのかはわかっていないようだ

「どうしたのぉ?私達とおしゃべり?」

「え・・あ・・いえ、セシルさんにどのくらい滞在するか聞いておこうかと思いまして・・」

「ああっ、そういう事・・。まぁあんまり長居しても悪いからもう少しおしゃべりしたら帰るわよ?

営業もしないといけないしね」

肩を降ろすセシル、自業自得なのだがこの時期はお肌が焼けるのが気になるらしい

「そうですか・・では、皆さんに声をかけて準備をしますね」

「お願いね♪ああ・・帰りはどこか適当な都市付近で降ろして?後は巡業しながらぶらぶら帰るから」

「はい、がんばってください」

二コリと笑うアミル、清楚感溢れる態度はセシルと比べて月とスッポン

この二人が同じ男を愛してセシルに軍配が上がっている(現時点で)事が不思議でならない

それはその男の女の好みが変だという事で片付けられそうなのだがそれはそれでアミルが哀れに見えてくる

「アミルさん、お肌の艶がいいわねぇ・・あの仮面男にしっかり愛されているのぉ?」

「ふぇ!?」

アルシアが満面の笑みで接してくるのに対しアミルは途端に顔が赤くなる

実際の年齢からしてみればアミルの方が比べ物にならないくらいの時を過ごしてきているはずなのだが

アルシアのペースにいとも簡単に飲み込まれだした

「ふふふ♪貴女の事もキルケから聞いてるわぁ・・清楚に見えて乱れる時は館中に響く嬌声を上げるそうじゃない・・」

「そ、それは!感極まってといいますか・・抑えている・・つもりなの・・です・・が・・」

実際は抑えてきれておらず・・、防音加工を施した館の壁を貫通し今でも乱れる時は響いている

それに対しロカルノはメルフィが起き出しては問題と音響を遮断する結界について習得しようと考えているのだが

それはまた別の話・・

「アミルったら凄いのよ?この間も朝立ち知らなくて勘違いしちゃったのよねぇ・・」

「あ・・あれは!」

「・・どういう事?」

「ロカルノっていつも早起きなんだけど、アミルと寝た次の朝が雨で珍しく寝坊したらしいの。

そんで初めて朝を共にしたアミルは当然初めてな朝立ち現象に驚いて

寝ながらも自分を求めているって勘違いしてそのまま・・・ね♪」

竜娘一生の不覚、だが結局は彼が優しく包んでくれたのでよかったのだが

彼女にしてみれば朝から発情して寝ている彼を襲ったのと変わりはなくかなり恥ずかしい事として後悔をしている

・・まぁ、行為そのものは後悔の「こ」の字もないのだが・・

「ふふふ・・素敵じゃない。朝から求めて応えてくれるなんて・・」

「・・・」

顔を真っ赤にして硬直するアミル、他人にそう言う風に言われる事に対して極端に弱いらしい

「でも・・男の体を知らないのも問題ねぇ・・、性知識が少ないのかしら?」

「確か正常位でしか抱いていないみたいよ・・ねぇ、アミル?」

「・わ・・わかりません!」

何が正常位で他に何があるのか・・彼女にそれがわかるはずもなく頬を染めながら怒ったフリをしている

「ふぅん、その割にはリオにも負けないぐらいのプロポーションじゃなぁい・・うふふ・・食べちゃいたい♪」

ニコリと笑うアルシア、その瞬間彼女の腰辺りに黒い悪魔な尻尾のような物がちらついたようにアミルには見えた

「た・・食べる・・とは・・?」

「こっちの業界用語だから気にしないでぇ・・セシルは、身内には手を出さないんだったっけぇ?」

「う〜ん、最初はキルケ食べちゃうかと思ったけど・・アルシアに先に取られたしそれ以降は見事な変貌しちゃったから・・

クローディアなんて手を出したらロリ眼鏡にナマス斬りになるの確実だしミィちゃんは・・流石に道徳的にね」

「じゃあ彼女なら問題ない・・ってわけね」

「む・・そうねぇ・・、アミル〜?」

「な・・何を笑っているのですか!?私は美味しくありませんよ・・その・・ジリジリと寄ってくるのは止めてください」

尋常じゃない気配に怯えまくる竜娘・・

「大丈夫よ、私達は貴女がもっと気持ちよくロカルノを抱けるようにお手伝いするわけ♪」

「え・・それって・・」

「つまり〜、私達とエッチな事をするわけよぉ・・」

その言葉に目を見開くアミルさん、竜社会には同性愛なんてものは存在しない

それ故にその被害者になるという事に戦慄を覚えているようだ

「ななななななな・・何を!?同姓でそんな事をするなんて異常です!」

「何言っているのぉ、いつもキルケとクローディアがやっているじゃないの♪」

「あ・・あれは・・じゃれあっているというか何と言うか・・」

同じ館に暮らしている以上アミルの嬌声が他の面々に聞こえるようにキルケとクローディアの変わった関係も嫌でも目に付いてしまう

たまに一緒に風呂を入れば体を触ったりキルケがクローディアの胸を吸っていたりしている

その度にクローディアは抵抗する素振りを見せずになすがままで普段聞かない艶やかな声を漏らしているのだ

「じゃあ私達もアミルとじゃれあうって事で一つ♪」

「笑顔で言わないでください〜!」

竜娘、金髪の悪魔達の餌食となるのか!


その時・・


ゴツン!ゴツン!


「「い・・ったぁぁぁぁい!!」」

突然打撃音がしたかと思うとアルシアとセシルは頭を抱え出した


『ったく、激しく予想通りで呆れるぜ・・』


突如として室内に響く男の声、だがその姿を確認する事ができない

「この声・・クラークなの!?」

キッと周辺を見回すと二人の目の前の空間からスゥと姿を見せる男、クラーク

呆れた顔付きで二人を見つめながらため息をついている

「やっぱり悪さしだしたなぁ・・ロカルノの言ったとおりだぜ」

「何故!?姿を消すなんて!」

「こいつさ、お前のステルス腕輪『プレデター』の改良版としてベアトリーチェから譲り受けた

お前達には内緒でアミルに乗って同行していたんだよ」

そう言い見せるは中指にはめられた銀色の指輪・・

飾り気は全くない物の魔法に関して少しでもかじった事のある物はそれが普通ではない事に気付く

「で・・でも!プレデターは持ち手の魔力を消費するのよ!?大半私に譲ったあんたがそんな長時間姿を消すなんて・・!」

「それはお前が持っている奴だろう?これは改良を加えてな・・セシルから魔力を頂戴するようになっているのさ・・

お前・・気づかなかったのか?」

「そ・・そういえば・・何だが出発してから少し疲れているような〜・・」

「まぁお前にゃそんな繊細な事に気づくわけがなかったわけだ。さてぇ、おとなしくお縄頂戴といこうかぁ?」

「ち・・こうなったらアルシア!増援がくる前にこの眼鏡仕留めるわよ!」

手持ちの武器はないが心友とならばこの男を仕留められる、そう腹をくくり構えるセシルだが・・

「・・だめみたいよぉ・・」

友からは無情な声が・・するとドアがゆっくり開いてライさん登場

「そう言うことだ、それともセシル・・丸腰で俺達相手にやるか?」

「お・・おのれ・・無念・・」

流石のセシルもこれでは勝ち目がないわけで・・口惜しげにうなだれる

パツキンケダモノの悪戯、今回も不発に終わるのであった・・


・・・・・・・



「まぁ、あいつを監視するためとはいえ何も言わずに来ていて悪かったな」


事が済んだ後屋敷前にてクラークがバツの悪そうな表情で詫びる

「まっ、初めてのおつかいをする子供を見守る親みたいなもんか。・・ってかロカルノじゃなかったのは意外だったけどな」

居間の隅に感じた違和感を調べようとしたライにクラークはセシルが上に上がったのを確認した後に姿を見せて

事情を説明、後は二人がよからぬ事をしないようにアミルの協力を得て素行を監視しようとしていたのだ

「あいつはあいつで忙しいんだよ・・まぁ、今回はまだマシだったのかな・・」

「ああっ、言い出したのはアルシアだったみたいからなぁ・・。たっぷりオシオキしておくよ」

「まぁ・・暑い中だがガンバレ・・。共犯のセシルにもペナルティくれてやったから安心しろ」

「少し、可哀想な気もするのですが・・」

クラークの隣でアミルが苦笑い、自分が被害に遭いそうだったのだがそれでも相手を気遣うあたり彼女の人柄がよく出ている

「何言っているんだよ、アルシアが言わなければ絶対あいつがアミルに手を出していたはずだ」

「・・あ〜、否定は・・できませんね」

「ともあれ、屋敷で不祥事が起きなくて幸いでした」

ライの隣でレイハさん、何気にセシルとアルシアが部屋に入ってからこっそりと動きその内容を盗み聞きしていた彼女・・

家族とはいえどもアルシアとセシルの密会は危険臭漂うが故に未然に防ぐための行動なのだ

クノイチ秘書嬢は辛いよ・・

ちなみにオイタをしたセシルは荷物をまとめてさっさと希望都市追放・・罰として氷りでの目標金額上乗せで

下手に暴行加えられるよりも辛い刑となった・・ちなみにクリアするまで帰宅禁止、

アルシアの方は自室謹慎で裁きの時を戦々恐々で待っている

「まぁゆっくりしていきたいところだけど〜、俺も仕事があるから今日のところは帰らさせてもらうぜ?」

「あぁ、またいつでも来いよ。・・セシルはいらねぇが・・」

「・・だろうな、おとなしくなったと見せかけてもやっぱり保護者同伴じゃないと暴走するか・・」

「保護者の苦労が偲ばれますね」

何気にレイハさんの一言にはトゲがある・・それはロカルノに対してではなく

ライに対しても・・家族が客人に手を出したとなればその責任は主にもあるのは間違いはなく・・

「ま、まぁ・・みんな大変なんだよ・・」

「・・だな、ロカルノもいっその事アミルを選べばいいものを・・」

「そんな、セシルさんの方が・・お似合いですよ」

そう言いながらも照れるアミルさん、本当は彼を独り占めしたいという気持ちがありありと読み取れる

それが余計に結ばれぬ運命の悲しさを感じさせた

「そんじゃ、俺達はお暇するよ。また今度ゆっくり遊びにくるな?」

ニヤリと笑い軽く握手、その間にアミルが竜の姿へと戻りクラークを背に乗せてあげる

「おおっ、今日は暑いが夏本場だとここらは余所よりかは涼しい、数日のんびり遊びにきてくれ」

『そのように伝えておきます・・では、失礼します』

「道中お気をつけて」

一礼して見送るレイハ、それとともに飛竜はゆっくり飛び上がり雲一つない空を泳ぎだした

「・・ほんと・・便利だよなぁ・・」

「いつもながらですが飼いませんよ?下手に移動範囲を伸ばされると仕事をさぼった時の散策が大変なのですから」

「そんなもんのために生物一匹の自由を奪うかよ・・さて、それじゃもう一人のオイタしたやつのオシオキだなぁ・・」

「どうなさるのですか?あの・・事務処理はまだ終わっていないので余り長く退席されると・・」

「大丈夫大丈夫、こいつを使って放置プレイだ」

そう言い取り出すはポーション用の小瓶・・

「そ・・それはアルシアさんが警戒していたあの媚薬・・ですか?」

「あぁ、セシル持参で、え〜と、ベアトリーチェだっけか?変人お手製の媚薬を使用して地下室に閉じこめる・・・」

「そ・・それは・・」

「フフフフフ・・・、イイモノが見られそうだ」

とんでもなく邪悪な笑みを浮かべ屋敷に戻るライ、鬼畜王と化したライの後ろ姿をレイハは冷や汗を流しながら見守ったという・・




・・・・・・

ちなみに

クラーク達が帰路につく少し前

屋敷の掃除を終わった後、あまりに暑いがためにその日はゆっくりしようとアレスとリオはアレスの部屋で二人っきりになる

しかし彼の表情に笑みはない・・

なぜなら・・

「・・さて、この仮面の処理についてだな」

手に持つはあの仮面、これを手にして以来彼の表情はずっと浮かない

「一番はロカルノさんに返す方がいいんだろうけど・・アミルさん達の言い方だと戻ってきそうだね」

「本気にするな・・ただの仮面だ。ただ・・ロカルノさんの事だ、残念がるだろうな」

いつもは冷静沈着、アレスでさえ一目を置く男ロカルノ・・しかし仮面に関わるとまるでいつもの冷静ぶりが

メッキなのかと思ってしまうほど妙なテンションになる

セシルに聞いたところ、あの冷静さとともに仮面愛好癖も同時に植え付けられたためにそうなったとか・・

「でも・・使わないんだったら使う人の手元にある方がいいんじゃないかしら?一筆書いたらロカルノさんも納得してくれるよ」

「そう・・だな、そうだよな。よし・・皆が帰る前に用意をする。リオは少し持っていてくれ」

「うん♪」

笑顔で仮面を受け取るリオ・・


ドクン!


その瞬間彼女の体を熱い物が流れた・・しかしそれも一瞬、彼女がそれを感じる事はなく物珍しそうに仮面を見つめている

対しアレスは手頃な便箋を取り軽く一筆を入れる。騒動が起きた後もうクラーク達は帰る用意をしていたのだ

「『拝啓、この度は結構な物をいただきお心遣い感謝します、しかし、俺にはこれを使用する機会がありません。

仮面を常日頃から使用しているロカルノさんにこそふさわしい物と思い返品させていただきます』・・こんなとこか」

「・・ねぇ・・アレス君?」

軽く執筆するアレスの後ろににじりよるリオ・・

「どうした・・?リオ・・?」

「この仮面・・つけてみようよ?きっと似合うから・・」

「・・リオ・・!?」

突然何を言い出すのかと振り返る、そこには仮面を大事そうに持つリオの姿・・

目から生気が失われておりアレスが振り向くと同時にその額に仮面を押し当てる!

「ぬっ・・!!」

一瞬何が起こったかわからないアレス、目の前に閃光が走り周囲は白一色になる・・!


・・・



I'm innocent rage.



I'm innocent hatred.



I'm innocent sword.



I'm DEMON・・


「・・だぁぁぁぁぁあ!!!!」

頭に浮かぶ文字・・それとともに体の血が滾る感覚に身震いしたアレスだが瞬間持ち直し

力ずくで仮面を脱ぎ取った!

「きゃあ!ア・・アレス君?」

その行為にリオも我に返り目を丸くして驚いている

「リオ、いきなり何をするんだ?」

「え・・?私・・何かしていた?仮面を見ていたらなんだか・・頭がボーっとしちゃって・・」

「俺にこの仮面をつけさせたじゃないか?」

「そ、そうなの!?ご・・ごめん、全然記憶が・・」

「くっ・・これではまるで呪いの仮面じゃないか・・!」

「でも、その仮面・・怨念みたいなのはないよ?見ていてとても気持ちよかった」

妙な感想を言い出すリオにアレスはさらに仏頂面になってしまう

「・・確かに、無理矢理つけさせられるのは御免だが装着した瞬間に体の血が沸騰するかのように力が漲る感覚はした

持ち手を陥れる類の物ではないと思うのだが・・」

「変に置いていると本当、誰かがアレス君につけさせるくるかもしれないね・・」

「それも御免だ、とにかく、クラークさんに返すぞ!」

善は急げと席を立った瞬間・・


「・・アレス君・・」


「・・・ああ・・」


窓の景色に移るは大空を駆ける飛竜・・クラークを乗せたアミルはアレスとリオに気づくはずもなく悠々と

大空に消えていく

「・・どうする?」

「・・・・どうしよう?」

結局、明確な回答は出なかったとさ・・



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