SWord and bow  


うっそうと茂る森林の中・・・、草木の生い茂る獣道を一人の男が歩いている・・

「どうやら・・道に迷っちゃったみたい・・だね・・」
木の枝をかき分けて男が言う
男は緑色の長髪で旅人が愛用するリジットレザーのジャケットを
身に纏っており背中に短弓、腰には仕込み杖を携帯している。
見た目としては少年と青年の間といったとこか。そして何故か肩には羊のぬいぐるみが・・
「だから私はあっちのほうが正しいと言ったのです」
男の肩に乗っかかっている羊のぬいぐるみが毒づく・・
「だって・・、看板だとこっちだって書いてあったし…」
「看板と私の案内とどちらが正しいと思っているのですか?
あの看板だって大方いたずらで方向変えられたかもしれませんし」
「うっ・・、すみません」
羊の説教に思わず謝る男・・
「まぁ、過ぎてしまったことは仕方ありません。どうします?引き返しますか?」
「・・ちゃんと街道に戻れるか不安なんだけど・・」
「方向音痴のあなたのことですから・・ね」
羊の鋭いご指摘、おもわずグハッと男が唸る
「ともかくこのまま進もうよ!看板だってあったんだし・・」
「・・どうなっても知りませんよ?」
「・・・大丈夫、そうさ!神は見ている!あはははは…・はぁ」
乾いた笑いをし不安一杯ながらも男はさらに森の中に入っていった・・・


「それじゃあ見回りに行ってきます」
男がさまよっていた地点から少し離れたとこにある小さな村・・、
そこにある小屋から出てきた娘が言った。
「ああっ、昼間だから魔物も出てこないと思うが気をつけろよ、マリー」
中から男の声がそう叫ぶ
「大丈夫よ!それじゃあ、いってきます」
マリーといわれた娘が元気に返事をし、森へ入って行った。
彼女は見回りに行くといったように
軽量のレザーアーマーを着ており腰には短剣が2本装備している。
黒いショートヘアをバンダナで半分隠し狩人のような格好だ。
彼女は村の自衛団の一員で日に数回、村の近辺を見まわっている。
まぁ自衛団といっても彼女を含めて二人しかいないのだが・・

「異常な〜し!ふぅ、どうやら今日は何もなさそうね♪」
一通り見回るとマリーは安堵の表情を浮かべそう呟く、
異常がないのがかなり嬉しいことらしい。
「さあっ、帰ろっかな?んっ!?」
ガサガサ・・
マリーが村へ帰ろうとした瞬間後ろの林が揺れた。
(!!、魔物!?)
短剣を両手に構え臨戦体制になるマリー・・、
しかし・・
「あれっ?・・人だ!!やった!やっと道が聞けるよ!!」
「・・奇跡が起こりましたね・・」
出てきたのは緑の髪色の大人しそうな男。なぜだか涙を流している
肩にはなぜか羊のぬいぐるみを乗せておりかなり不審人物
「あの〜、すみません。ここら辺に村とかあります?」
男が申し訳なさそうに訪ねる
「・・あなた、何者なの?」
っと短剣を構えたままマリー
「あっ僕はアル、この羊は相棒のレイブンだよ。僕達は旅をしているんだけど
なんか道に迷ったみたいで・・・」
「そうなの・・、私はマリー。この近くにあるニース村の自衛団員よ。
でもあなたよくこの森にいて大丈夫だったわね?ここって魔物がよく出没するのよ?」
「え・・・、そうなの(汗)」
「そういえばここまでさまよっている間に周囲に熱源を感知しましたね」
シレッとした口調で羊のレイブン
「・・そういう重大なことはちゃんと言ってね?レイブンさん」
「大丈夫です、ド忘れただけですので」
「・・・・、ともかく村探しているのなら一緒にこない?ここにいてもしょうがないでしょ?」
しばし圧倒されたが自衛団としての職務を思い出すマリー
「ありがとう、助かるよ〜」
人の暖かさに触れて感涙のアルであった
「なっ、何も泣かないでも・・、そんじゃあ行くわよ?」
怪しい人物(=アル)を連れてマリーは村に引き返すことにした


村に着くとアルは自衛団詰所に通された
「なんだマリー!?その男は!?」
詰所の中にいた中年の戦士風の男が驚きながら訪ねる
「森で迷っていたから保護したの、まぁ・・怪しい人っぽいけどね」
「ふむ、そうか・・、じゃあ身柄の詳細を調べておいてくれ。俺はちょっと出かける」
中年の男はすばやく支度をして詰所を出ていった
「いってらっしゃい。
・・さて、悪いんだけど一応あなたの素性を詳しく聞いておく必要があるの。
あなたがどういう人間か知らないと村のみんなも安心しないでしょうし」
申し訳なさそうにマリー、まぁ村からしてみれば不審人物だから仕方がない
「いやっ、それは構わないよ。それじゃあ説明しようかな?
僕はアルフォード=マルタ。見た目じゃわからないとけど人間とエルフのハーフだよ。
と言って人間の血のほうが遙かに強かったみたいだからほぼ人間、かな?
職業は〜、昔は傭兵だったけど今は気ままな旅人だね。
本来ならこの村にくる予定はなかったんだけど・・迷っちゃってね」
頭をぽりぽり掻きながらアルが説明する、その姿からは元傭兵だとは思えない・・
「あなたが・・元傭兵!?そんな弱そうなのに!?」
「・・ははは、まぁそう言われてもしょうがないかな。でもほんとだよ?
傭兵公社の第13部隊に所属していたんだ」

傭兵公社とは傭兵同士の巨大なギルドのことで国の要望があれば金額に応じて
兵を派遣するという会社のようなものだ。
公社に入れるにはかなりの実力が必要となり、所属しているだけでも
大きなステータスとなる。
その構造は20もの小隊に別れており格チームを一単位として行動している。
因みに第1部隊といえども実力がNO1という訳でもない

「傭兵公社!?そんな有名所の人間だったの!?」
どうやらこんな辺境の村でもその名は届いているらしい・・、
さらに意外そうな顔をするマリー
「そだよ?まぁ失業しちゃったんだけど。僕の説明はこんなとこかな?
でっ、こっちがレイブン。よくわかんないけど堕天使?って奴らしいよ?」
「いいかげんな説明をしないでください。私はレイブン、本来は天の使いなのですが
故あってこんなぬいぐるみに憑依しております。以後よろしくおねがいします」
丁寧な口調で説明するレイブン、その見た目とのアンバランスさがなんだか滑稽だ・・
「はぁ・・、ほんと変わった人達ね・・」
「そうかな?まぁ傭兵だった時はもっと変人が多かったよ?
今度はそれじゃあ君と村の事を聞かせてよ?」
「わかったわ。私はマリー。マリー=クラディス。さっき言った通りこの村の自衛団員よ
さっき出ていったのはギムレット=ティンバーさん。ここの自衛団長。
そして身寄りのない私を引き取ってくれた父親代わり、かな?」
「・・ふぅん、わかったよ。でも君みたいな若い女の子がどうして自衛団なんかに
入っているのかな?」
アルの質問に気まずそうな顔をするマリー
「この村は・・、男が出稼ぎに出ているから男手が足りないんだ、それじゃなくても
過疎化が進んじゃって・・こういう最低限な施設さえ人手が足りない状態なの・・」
「・・そうなんだ。でもこの村の周りって魔物が多いって言っていたよね?
そんな状態で大丈夫なのかな?」
「・・正直、大丈夫じゃないわよ・・、自衛団といっても二人しかいないし
魔物の数も増える一方だし・・。」
「大変なんだね、・・そうだ!袖すり合うのもなんとやら。よかったら僕も手伝おうか?」
突然の申し出に驚くマリー
「えっ!?あなた・・が?」
「うんっ、これでも弓の腕には自信があるし、肉弾戦も傭兵時代に心得ているからね
それにそんな話聞いて「はいっ、さようなら」って言えないでしょう?」
「でっ、でも・・、もしかしたら死んじゃうかもしれないのよ?」
「大丈夫大丈夫、どうせ君に出会わなかったらあの森で
飢え死にしたかもしれないしね、レイブンもそれでいいか?」
「私は別に異議はありません。実際に働くのはあなたなんですから・・」
「まっ、そういうこと。じゃあ手伝わせてもらうよ、マリー♪」
「・・そういうなら、お願いし様かしら?」




「お前さんが自衛を手伝いたいっていうのか?」
日が暮れてから詰所に戻ってきた中年戦士ギムレットがジロジロという
「そうなの、なんでも傭兵公社出身なんですって。
人手が足りないし贅沢言えないじゃない。ギムレット」
…ひどい言われようだ、それでもアルは苦笑いしている。
そう言われるのに慣れているようだ
「傭兵公社…ふぅむ。それなら多少は使える・・か」
ギムレットがあごの不精髭をさすりながらしぶしぶ承諾した。
「あっ、よろしくおねがいします。アルです。」
「気弱そうだな、傭兵出身とは言え・・大丈夫なのか?」
「まぁ、いざとなれば壁にでも使ってくれたらいいですよ」
「むっ・・ならいいだろう。それよりもお前は成り行きでそうなったのだろう?
自衛なんてもんはいつまで続くかわからんのだぞ、この村に住む気か?」
ギムレットが不審そうに言う
「そんな気はないですけど、魔物が襲うってことはボスを倒せば
万事おっけ〜、ってことですよね?」
「・・ボスを叩く気か?それができれば世話はない」
「そうよ、アル。あなたがいても合計3人なのよ?
それにどれがボスなのかってわかんなんじゃないの」
二人の反論に合いキョトンとしているアル・・
「ボスの区別はレイブンがやってくれるよ、彼女(?)の戦闘補助は大したもんだよ?
ボス一匹だけを相手にするとなればこの人数でも十分・・」
「その羊のふざけたぬいぐるみを信用しろっていうのか?俺はごめんだ!」
「あらっ・・」
不愉快100%な顔で外に出ようとするギムレット
「こんな奴に頼らないといけないとはな・・、この村もおしまいだ・・」
そう吐き捨てて出ていった・・
「…う〜ん、やっぱ僕は邪魔・・かな?」
「そんなことないわ、ギムレットは・・、昔からこの村を守ってくれていて
多くの自衛団員が死ぬのを見ているから・・、よその人に助けられるのが
正直辛いんだと思うの・・」
「そうだったんだ…・。色々あるんだね。それよりもレイブン、
ふざけたぬいぐるみ呼ばわりされたけど大丈夫?」
「別に?そう言われる方がむしろ自然です」
あくまで冷静なレイブン・・
「・・ともかく、今夜はここで寝てくれる?明日、村長さんにあなたのことを言うわ」
「ありがとう、でも君とギムレットさんは自分の家で寝てるのかな?
よそ者だけがここに泊まるっていうのは具合悪くない?」
「安心して、私もここで寝ているわ。この場所を空けることはできないもの。
ギムレットはいつも夜通しで村の警備しているから大丈夫」
「そうか、よかった。それじゃあ世話になるよ」
「うん、明日になったらもう一回ギムレットに話をしてみましょう」
そのマリーの言葉は実在しないことになってしまう……


翌日
アルはマリーに村長の家を案内されて村長と話をした。
マリーの説得もあり村長は快くアルを迎えてくれた・・。
「それで・・、ギムレットさんは朝になると帰ってくるのかな?」
村の広場を歩きながらアルが言う・・
「そうなんだけど…、変ね?いつもなら夜が明けるくらいになったら
詰所に戻るはずなんだけど…」
日が明けてもギムレットは帰ってこなかったのである…
「なにか・・、不吉な予感がしますね」
レイブンが呟く
「不吉ってどういう・・」
「マリーさん!!大変だぁー!!」
マリーの言葉は村人の叫び声に中断させられた。そしてその内容は……・・

「ギムレット…・、どうして…・・」
マリーが見たのは村人に運ばれてきた、変わり果てたギムレットの姿だった。
偶然町に出稼ぎに行く途中の村人によりギムレットは発見された。しかし彼の遺体が発見されたのはいつも彼が見回るルートから大きく離れていたようだ・・
「おそらくは、一人で魔物のボスを倒そうとしたようですね・・」
レイブンが状況を見て推測を行う・・
「そんな・・、彼がそんなことをするなんて・・」
「僕が提案したのが原因・・かな」
「ともかく、このままじゃ可哀相だわ、私はギムレットを詰所に運ぶから
アルは村長さんを呼んできてくれる?あの人ならお祈りくらいしてくれるから…」
こんな事態でも気丈に振舞うマリー、しかし手が細かく震えている・・
「わかった、じゃあ呼んでくるよ・・」
アルと別れマリーは亡くなった相棒を詰所に連れていった。
やがて中から泣き声が聞こえた・・、とても大きな泣き声だった…・

「なぁレイブン、僕ってやっぱり・・迷惑なのかな〜?」
村長を連れて詰所に向かう途中アルが呟く
「ギムレットさんを死なせたのがあなたのせい・・とでも?」
「マリーにそう言われても仕方ないよ」
「たしかにあなたの取った行動でギムレットさんは死んでしまったかもしれませんが
それはあくまで間接的要因です。あんたのせいではありませんよ」
「・・ありがとう」
レイブンの言葉に少し安心するアル・・
「それよりもギムレットほどの強者がやられるとはのう・・」
青い顔色の村長が呟く、信じられないといった表情だ。
「人間だれでもいつかは死にます、そう割り切るしかないのです」
悟ったようにレイブン、まぁ元天使だから当然か
「・・そうじゃな。さっ、早く弔ってあげましょうレイブン殿」
二人+一匹は先を急いだ・・
詰所に着くとアルは異変に気づいた・・
「マリーが・・いない?」
詰所の中はギムレットの遺体が両手を組んで置かれていたが
マリーの姿はどこにもいない・・
「水でも汲みに行ったのかの・・?」
村長も解せない様子・・
「アル、そこの書類を見てください!」
突如レイブンが叫ぶ。
「これは・・、マリーが書いたのか?」

アル、村長さん、ギムレットの遺体は手厚く葬ってあげてください。
私はギムレットを殺した魔物をどうしても許すことができません・・
勝てるとは思わないけど・・、このまま黙っていることはどうしてもできないのです。
自衛団最後の一人になっちゃったのにわがまま言ってごめんなさい。  マリー

「・・ばかなことを!」
珍しくアルが強い口調になる・・
「村長、ギムレットのことはお願いします!」
「・・後を追うのかね・・?」
「このまま放っておけませんよ。それに、ここで僕が動かなければ何のために
厄介になったのです?」
「・・わかった、わしからは何も言わないよ。ただし、生きて帰ってくるんじゃぞ」
「わかりました。必ず戻ってきます、では!」
そう言うやいなやアルは詰所のドアを蹴破って駆け出した・・


森・・。
相棒であり父親代わりだったギムレットを失ったマリーはすでに冷静さを失っていた
出てくる魔物を片っ端から倒していきその数は20匹を越えてる・・
「はぁ、はぁ・・ボス格はどこなの!?」
走り回り、斬り続けたのでかなり息が上がっている・・
すでに体は返り血でまみれて、顔も凄まじい形相をしている
「はぁ、はぁ、ちくしょう・・!」
体力も底に着き始めたのか視界の開けた場所に腰を下ろすマリー・・
しかし・・、
突如狼の魔物、ヘルハウンドが彼女を襲う・・!
「あうっ!!…・この!!」
右腕を噛まれたが即座に反撃してヘルハウンドを突き飛ばす…
だが平気なようでまだ襲おうとしている。しかも周りからさらに数匹出てきた・・、
今の彼女ではとても太刀打ちできない・・
「どうやら・・ここまでみたいね・・、ギムレット・・ごめんなさい、敵が討てなくて・・」
ヘルハウンド達が一斉に飛び掛る!彼女も覚悟を決めたようだ・・、
・・だが・・!
ビュっ!ビュっ!
鋭く風を切る音がするとヘルハウンド達が次々と倒れた。
その額には矢が深く突き刺さっている…
「??、これ・・は・・?」
マリーも唖然とした様子だ・・
「ふぅ、間に合ったようだね。」
木の枝から男がスっと降りてきた・・、アルだ
「アル…、どうして?」
「君を放っておけなかったんだよ。それにたった一人で片を付けようだなんて無茶だよ?」
マリーに近づきながらアルが言う
「お話中失礼、4時と11時方向に熱源、狼タイプです」
「…呑気に話していられないみたいだね、マリー!僕の傍を離れないで!」
レイブンの言った方角から彼女に言ったとおりヘルハウンドが出てくる・・、
しかしアルはすでに弓を引いた状態であり、驚くべき早さで連射した・・
やがてあたりに魔物の死骸が群がっていく

「…付近に敵の反応が消滅。とりあえずは安全です」
レイブンが安全宣言をするとアルはようやく安堵の表情を浮かべる・・
「やれやれ、結構沢山いたんだね・・、マリー、大丈夫?」
ケガを心配してマリーに声をかけるが、
彼女はケガのことよりアルの早業に驚いている・・
「あなたって・・、こんなに強かったの・・?」
「不死身の第13部隊出身の経歴は伊達じゃないんだよ。
とにかく手当てを・・、応急処置ぐらいはできるから」
そう言うとアルは応急処置をはじめた・・

止血をし包帯を巻くとひとまず応急処置は終了、
アルも走ってきたのでしばらく休憩することにした
「…・・馬鹿な女って、軽蔑したでしょう?」
アルの視線をはずしマリーが呟く。
「・・いいや、君の意思を尊重するよ。」
微笑みながらアルが言う。
「…あなたって・・」
「んっ?」
「ほんと変わっているわね・・」
「今さら気づいたことでもないでしょ・・」
その一言で思わずぷっと噴き出すマリー、どうやらかなり落ち着いたようだ・・
「さてっ、休憩もとれたことだし・・、レイブン」
「・・索敵範囲を広げボス格を探すのですね?」
彼女は言葉が少なくてもすぐ理解をしてくれる。さすがは元天使・・?
「頼むよ」
「どうするの?」
「最初に言ったとおりだよ、レイブンに索敵してもらってボス格を探し片をつける」
手をひらひらさせながら事も無げにアルが言う。
「でもっ、矢も残り少ないようだし・・」
アルの腰にある矢入れを見てマリーが言う。確かに後数本しかない。
「大丈夫、何も武器は弓だけじゃないよ。ほらっ」
後ろ腰に下げていた木の棒を取り出す
「?、そんな棒なんて・・、ええっ?」
彼女が驚いてのはただの木の棒と思えたが突然中から鋭く光る刃が出てきたからだ
「一見木の棒に見えるけど実は剣なんだ。名前はないんだけど「斬鉄剣」って
なんでも切れる剣の一種だから頼りになるよ。まぁ問題はあるんだけどね・・」
「問題・・って?」
「それは僕が、剣術が使えないってことだよ、この剣も傭兵時代に隊長がくれた物だしね」
思わずガクっとなるマリー。
「そんなので大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫、剣術らしいことはしていないだけで接近戦の心得はあるから。
それに君もいるんだからなんとかなるって!」
「あなたって人は…・」
楽観視するアルに呆れるマリー、それでも彼を頼りにしているようだ
「お話の途中ですが失礼します。ここから北に進んだ所に大型の熱源を確認しました」
「それがボス格かな?」
「確証はもてませんが可能性は十分あります。」
はっきりと断定しないところが彼女らしい・・
「ようし、そんじゃあさっさと済ませちゃいましょ。マリー、走れるかな?」
「ええっ・・、あなたの治療のおかげで…ね」
「お礼は全部終わってからにしようよ、じゃ!行くよ!!」
二人は一気に森の中を駆け出した……


レイブンの言っていたポイントにボス格と思われる魔物は確かにいた・・。
その姿は大型のトカゲといった感じか、全身が岩のような光沢を放っており
皮膚がかなり強固なことが見て取れる・・。
さらにそのトカゲのまわりに同じく爬虫類の魔物が2体ほどいる・・
どうやらトカゲを護衛しているような感じだ・・。
そこへ…
ビュっビュっ!!
またしても風を切る音がして、護衛の雑魚は倒れた。しかしボスのトカゲは
効いてないようで全然平気だ
「どうやらビンゴって感じかな?」
「こいつが村を襲っていた魔物のボス?」
アルとマリーが林の中から飛び出て話す・・。
「倒れている魔物の様子からして間違いはなさそうですね」
「でも弓は全然効いてないみたいよ」
「強固な皮膚のようです。直接攻撃しないとダメージは与えられなさそうですね」
戦闘分析は始めるレイブン、こういうことは彼女の独壇場だ
「最初っからそのつもりさ。マリー、僕が先に仕掛ける。君は時間差で仕掛けて」
腰の斬鉄剣「無銘」を抜きマリーに指示を出す。
そしてマリーの返事も待たずにアルはトカゲに突っ込み刀を振る・・しかし!
ギィン!
鈍い音を立った。刀はトカゲの身体を斬ることもなく皮膚で止まっている
「あっ、あれ!?」
その刹那、トカゲが大きく口を開き噛みつこうとするのでバックステップで回避する
時間差で斬りつけたマリーもまったくダメージを与えられず尻尾で叩かれた・・
「あなたの剣ってなんでも切れるんじゃなかったの!?」
っとご立腹のマリー。
「・・隊長、うそついたのかな…?」
剣の刃をまじまじと見てアルがつぶやく
「おそらくは例えなのでしょうね。そしてあのトカゲは通常では考えられないくらい
強固な皮膚を持っているのでしょう」
冷静に戦闘分析をするレイブン…
「じゃあどうするの!?私の短剣も効かないんだし・・」
「そうだな・・、昔、隊長に一つ剣技を教えてもらったことがあるんだ・・」
剣を鞘におさめ静かにしゃべるアル…
「その技はモノを切断するんじゃなくて空を断つという高速の居合い『霧拍子』、
成功するかわからないけどそれを使うしかなさそうだ」
「アル…・」
「下がって、危ないよ!」
剣の柄に手をつけ呼吸を整えるアル・・、そして!
「行くよ!未完『霧拍子』!!」
一気に駆けだし剣は高速で抜かれる!
キィィィイン
鋭い音を立て、トカゲを動かなくなった。
そして刀を鞘にしまうと同時にトカゲの身体は横一文字に裂かれた・・
「…・反応消滅、作戦成功です」
と、レイブン
「……どうやら、成功したようだね…・」
顔中汗まみれのアルが息を弾ませて言った。そうとう体力を使う技のようだ
「…すごい・・」
「そりゃあそうだよ、なんてったって僕が尊敬した隊長の得意技だったんだから。
でも初めて成功したな…」
「………って!成功したのはじめてなの!!??」
「こんな凄い技、素人には早々できるもんじゃないよ
それよりも用は済んだし早く村に帰ろう。村長も心配しているはずだしね」


村に帰ると村長は心配になった村人が数人待っていた。
マリーは着くなり村長にこっぴどくしかられた。
しかしアルがなだめてその場をおさめるとすぐにギムレットの葬儀に取りかかった・・。
それと同時にさっきまで晴れていたのに急に雨が降り出す、
何かを洗いながすように…・

「どうしても行っちゃうの?」
あれから数日経ちアルは村を出発することにした。村長や村人が見送りに来ている
「うん、この村は居心地がいいけどいつまでも世話になるわけにもいかないしね」
相変わらず申し訳なさそうにアル・・
「君さえよければこのまま住んでくれてもいいのじゃよ?」
「村長、心使い感謝します。でも、僕はもっと世の中を回っていろんなことを
学びたいんです。だから・・」
「…うむっ、わかった。君がそこまで言うのなら止められないな。
また機会があればこの村に着たまえ、歓迎するよ」
そう言うとアルと堅く握手する村長
「マリー、一人で大変だろうけど自衛がんばってね。
まっ、しばらくは村も安全だろうから心配無用か」
「うん・・、がんばるわ。アルも元気でね!」
「ああっ、またいつか・・、会いにくるよ。それじゃ、みなさん!お元気で!」
元気に手を振り村を立ち去るアル・・、その姿にいつの間にか
マリーの頬には光るモノが走った・・
「またいつか・・ね、アル・・」

魔物がいなくなってもマリーは森の見回りを欠かさなかった。
アルが村を経ってから数日、今日も彼女は森に入る
「異常・・なし!ほんと・・、魔物がいなくなったわね・・」
数日のうちに日常が変わってしまい夢を見ているような気になるマリー
その時
ガサガサッ!
いつぞやのように物音がしっ、警戒するマリー。
「ぷは〜、すみません!ちょっと道聞きたいんですけど!?」
「・・アル!?どうしたの!!??」
「あれっ!マリー!?・・いや、村を出たのはいいんだけどここ数日道に迷っちゃって・・、
悪いけど街道まで連れていってくれないかな?あ、あははははは・・」
彼等が別れる時に交わした再会の約束は早くも守られたことになった…・


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