「領主と斧少女」





穏やかな日差し、

外は肌寒いものの室内ともなりゃ暖房が効いて心地よい

窓から冷気が入って来るも日差しがそれよりも気持ち良いから気にもならず・・

このままうたた寝するのも悪くはないなぁ・・

 

 

「・・・・・・・、領主様、お話はきちんと聞いていますか?」

 

「少し、眠そうな顔をしていましたね。

まさか領主様が会議で居眠りをするとは思いませんが・・」

 

 

「起きているだろ?ったく・・両サイドから監視するなっての」

 

全くに、仕事になると真面目なんですから・・。

そんな訳でおいらクロムウェル、

貿易都市ルザリアの領主をやっており今その会議に出席中だがまぁ退屈だ。

進行は大概、助役であるアンジェリカとフィートが進めるからなぁ。

いつもヤンヤヤンヤ文句言ってくる貴族地区の議員さんも今日はやけに大人しいし・・

・・・この二人に対して喧嘩売ったらやばいってようやくわかったようだ。

まぁ、その二人が俺の両隣に立ってくれてますのでこっちも余計な事は出来ないか

「怠け癖がついてはルザリアの恥さらしですからね、領主様はしっかりと働いてもらわないと」

フィート君ったら嫌な笑みを浮かべちゃってまぁ・・

「静粛に、俺はいつでも真面目です。

さて・・主立った名目はもう終わりだろ?そろそろ散開といこうじゃないか」

早いところ昼飯にしたい・・

今日は昼までに終わる予定だから
タイムが飯を用意してくれているらしいからなぁ・・

団長室で食った後にタイムも喰ってやろうってわけさ♪

「領主様、一つよろしいでしょうか?」

全員も終わりかと息をついた時に一人、手を上げよる

その主はこの議会の中でも異色の存在、

貧民の住み処であるテント群の代表として最近議会の仲間入りをした
ミレーユさんだ。

セイレーズ爺さんや俺が見込んだだけあって議会に入ってからの手腕は見事。

お馬鹿貴族の発言なぞ歯牙にも掛けず貧民をどう都市機能として役立てるかその考えを述べる

他の議員も彼女の優秀さを賞賛して今まで以上に貧民との連携が取れるとして大いに満足のようなんだが・・

「なんだ?ミレーユ議員」

「はい、一つ問題がありまして・・。

昨日よりテント群では領主様の紹介との事で一人の女性がやってきました。

その扱いとして領主様にご判断をしていただきたいところがありまして・・」

質素なドレスながらも気品は一流、そして言葉にある刺も何だか鋭い・・

でも俺の紹介・・紹介・・

「ああっ!アイヴィス=カミュの事か!」

「左様です」

「・・・領主、よもや私情で住まわせるおつもりですかな?」

・・ちっ、うるせぇな

「確かに紹介はしたよ、だが必要以上に私情は挟まない。

テント群で住まわせて後はそいつの勝手にすれば良いことだ。

身元についても割れている、傭兵公社第13部隊でその名を馳せた『剣聖帝』シグマの一人娘だよ」

傭兵公社の名前で一同の顔が引きつる

まぁ、余り言わないけど俺もそこに所属していたからな

「移住の処理については騎士団のお手伝いにより完了しています。

若い女が一人、テントで暮らすのは少々安全面でも問題がありますがそこは本人は了承しております

・・が、どうしても鍛冶場で働きたいと駄々をこねて少々困っているのですよ」

・・・・で、俺に何とかしろ・・ってか・・

「・・あ〜、はははは・・。

わかった・・、コルムナさん、ギルドでジャジャ馬を揉んでやるところがあるか調べてくれないか?」

「わかりました。がっ、どんな店でも働くには相当な試験を受ける事になりますぞ?」

反論を唱えずにとりあえずできるかできないかを言うところが

商業地区議員のドンとも言える古株コルムナ爺さんの良いところ

各種ギルドにも顔が利く分、テント群住民の雇用先を探すのに協力してもらっている

「そりゃ仕方ないさ。まぁ鍛冶知識はそれなりに心得があるらしいから・・そこらは俺も面倒を見るよ」

任せっぱなしじゃいけないからなぁ

「いいでしょう、期待しておきます」

「・・ふぅ、これでいいだろう?ミレーユ議員」

「ええっ、領主様の判断には感謝致します。

見事鍛冶職へと就けたのでしたらば・・テント群の住民の調理器具でも造ってもらいましょうか」

ニコリを笑みを浮かべるミレーユさん

・・いあ、鍛冶屋で働いているからって何でもできるもんでも・・

「ちょっと待て、それはテント群住民に包丁などの刃物を渡すという事か?」

やれやれ、これ見よがしに貴族議員は声を出してくるな・・ったく

「あらっ、それは誤解ですよ。

第一テント群では騎士団に届け出をした護身用以外での刃物等の携帯は原則禁止となっております。

それに調理器具の支給はテント群担当課から貸し出しをやっているのです、

そちらに協力を願おうというわけですよ」

「・・そ、そうか・・」

「ですが、調理器具と聞いてすかさず包丁と思いつくところはいささ軽率ですよ?

いざとなればフォークでもナイフでも・・人を殺す事はできましてよ」

そう言い爽やかに笑うミレーユさん、威圧としちゃ見事なもんだ。

アンジェリカさんとは違う意味で貴族地区を黙らせたよ

「まぁそれを言うならこの五本の指でも人を殺す事は出来る・・が、そんな事はこの場で話し合う事じゃない。

とりあえずは厄介な奴がテント群に来てその処理をこちらでもやるって事だ。

話がそんだけなら締めるぞ?皆暇じゃねぇんだ」

「ええっ、私の方からは以上です」

「うし、それじゃ解散。皆、おつかれ〜!」

元々長引かせるのは好きじゃないんでな、パパッとやってパパッと終わる

それが一番なのさ

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

その日の夜

一日の仕事を終わらせてのんびりと屋敷で自分の時間を満喫する

最近じゃタイムも夜勤ってのがなくなったのか、

夜には還ってくるようになったので二人の時間ってのが増えた

・・これもハゲリバンの陰謀なのかなんなのか・・

まぁ、深く考えてもわかるはずもないし時間ができたのだから良しとしましょう

 

「それで・・、テント群にクロの知り合いの女の子が来たの」

 

 

「う〜ん、知り合いっちゃ知り合いだけど会ったことないからさ。明日面会わせに行ってくるよ」

 

ゆっくりと体を湯船に沈め、肩を並べながらの談笑・・

俺とタイムの部屋の間にあるプライベート浴室にて二人して入浴中です♪

・・まぁ、ほんとうに趣味が良い・・。

湯船もなんか溶岩を使ってやったんだとかで体がぽかぽかになるし

宙に浮かぶ月が何ともロマンチックですねぇ

「ふふっ、クロもがんばるね・・」

「これも一重にタイムのためさ。ほれっ、もう一献」

「ありがとう・・ふぅ・・美味しい・・」

湯船に浸かりながらも酒を愉しむってのは良いもんだ・・。

用意したのはクラークさんから領主への祝いとして貰った米酒、

それを徳利ってデカンタとおちょこって専用のグラスに入れて

こうして風呂場で呑むのが乙って事で試しにやってみたが・・いいね、これ

「風呂入りながら酒とはなぁ・・、東国は風流な事するもんだぜ」

「こんなお酒だからいいんじゃないかしら?葡萄酒だったら合わないわ」

・・そうだな、米酒って温めても美味いんだよ・・不思議だよなぁ・・

熱い葡萄酒なんて飲めたもんじゃないし

「それに・・湯船に浸かるタイムを見ての一杯だからな・・酒が進むわい」

「な、何言っているのよ・・もう・・」

そう言い照れるタイムさん、いいねぇ・・うん♪

「妙なカラクリと驚いたが・・二人だけの風呂ってのいいものだな」

「・・そうね・・、ふぅ・・良い湯・・」

微笑む姿が何ともそそる、もはや慣れているのかすっぽんぽんのまま俺と肩を並べている

ほんと・・全裸姿が綺麗なもんだ、体のラインがいいんだろうなぁ

「・・な、何ジロジロ見てるのよ・・?」

「ははは・・気付いた?」

「そんな目で見ていたらね・・エッチな事をしようって目よ」

「そりゃな。ふふふ・・ここは何のために造られたと思っているんだ?」

そう、一階に浴場があるのにわざわざ二階に、それも俺とタイムの部屋の間にあるのか

その応えは一つ!

「え・・、それは・・ゆっくり入れるように気を使って・・」

残念!

「違うな。ここは癒しの場にして二人が濃密に愛を語らう場所だ!」

「えっ!?こ・・ここで・・!」

「そうだよタイムさん♪お互い裸でこんなにムーディーじゃないか♪

おまけに俺とタイムの部屋は内側から鍵をかけているし

プライベートではベイト達はやってこない。

つまりは・・二人だけの空間なのさ♪」

「お・・お風呂場で・・」

「そんなに驚く事か?まぁ上せないように・・シてやるよ」

「ちょ・・ちょっと待って、クロ・・心の準備が・・あっ・・ん♪」

問答無用、湯気が立ち込む素敵空間で美味しく頂くであります!

 

・・・・・・・・・

 

 

翌日

たっぷりねっちょり愛してあげた後はぐっすり眠って健康な生活へ♪

規則正しい生活を送れるようになってきたタイムは

今日は非番という事で俺と一緒にテント群にやってくる事となった

元々忙しい身であり無趣味なところがあるからな、

丸一日休みがあったとしても休む以外やる事ないんだわ、これが・・

おまけに屋敷にいるとベイトに気を使うとか何だとか言っていたしなぁ

 

「こうして、テント群に二人で歩くのも久々ね」

 

「ははは・・まっ、そうだよな」

 

黒いジャケットにデニムズボン姿のタイムさん、私服でも凛々しさ全開なもんだ。

まぁ今回は俺も別に領主としての仕事でもないのでいつものラフな格好なんだけどな

こうしてみると黒い服装同士、ペアルックですか・・

「本当、綺麗になったものね」

「それがタイムとスクイードどもの成果だろう?皆感謝しているぜ?」

「私は許可を出したに過ぎないわよ、そこまで手は貸してないわ」

「その許可が大切なんだよ。普通ならこの一帯全部強制撤去だろう?」

余所では騎士団の仕事の中に貧民が生活するテントの撤去なんてのもあるからな

「ああいう考えが好きになれないだけよ。大した事じゃないわ」

 

 

『あら、それは過小評価ですよ、タイム団長』

 

・・ん?この透き通った声は・・

「よう、ミレーユ。どしたんだ?」

いつもの簡素な白いドレスがらも品が漂うミレーユさん。

・・ま、過去は捨てているけど、この人ハイデルベルクの上流貴族夫人だったからな・・

ここにいるのがいささか場違いにすら見えてくる

「いえ、今日辺りいらっしゃるかと思いお待ちしておりました」

「・・用意がいいですね、ミレーユさん」

「ふふふ・・タイム団長までご同伴とは思いませんでした。仲がよろしいですね」

そう言いニコリと笑うミレーユ、嫌味じゃなく本当にそう思っているようだな

・・これがアンジェリカさんならば鋭い刃物に刺されるような感覚に襲われるんですよ

言葉って怖いね、ほんと・・

「そ、そんな・・私はただ、時間があるから・・」

照れてる照れてる・・

「それで、問題のジャジャ馬娘はどこに住んでいるんだ?」

「はい、東ブロックの外れに新しくテントを構えました。そこに居住しております」

「ふぅん〜、本人は何か文句言っていたか?」

まぁ元々ここは訳ありの人間が住むところだからな、『訳なし』にゃ文句の一つぐらい・・

「いいえ、新しい生活に胸を膨らましておりましたよ?」


ないんかい


「・・流石はシグマさんの娘か・・。まぁその様子だと軽く挨拶をする程度でいっか」

問題なさそうだしさ・・

「そうですね、ではっこちらが詳しい住所となっております。お後はお二人に・・」

「んっ?ミレーユはこないのか?」

「ええっ、少々薬膳について聞きたいことがあるらしくて軽く講義を行おうと思いましてね」

へぇ、驚いたな。テント群代表は形だけじゃないって事か

「がんばっているんだなぁ・・、うんうん」

「ふふっ、それにお二人の邪魔をしては申し訳ないですからね・・では、失礼します。旦那様」

静かに笑いその場を後にするミレーユさん、

最後の最後で妙に艶っぽい目で見てくれちゃって・・

因みにミレーユはプライベートでは俺の事を『旦那様』と言う

髪を下ろした俺が亡くなった夫にそっくりだからだそうだ

そんな理由だと拒否もできないのでそのまま認める事になってしまった

・・が、場所をわきまえているようなのでそれが問題になる事はない

それだけミレーユも気遣っているんだろうな

「・・クロ・・?」

「別に惚気ちゃいないぜ?さ・・行こう」

ややジト目なタイムを諭しながら移動を開始する

妙に対抗心燃やされてダーリンなんて言われたら恥ずかしいからな

・・まっ、イチャついてはいれどもバカップルにはならないって事か

それはそれでいいのかな

 

 

────

 

現在のテント群は東西南北に大きく四ブロックに分かれている

その中で都市部に一番近いのは東ブロック、

ルザリア市街に一番近いためにテント群の中でも比較的裕福な人が住んでいる

まっ、それが格差に繋がるって程の事でもないんだけどな。

都市部に近いところからテントが段々増えていき西部へと広がっていったのがテント群の歴史

つまりは東ブロックに住んでいる奴は古株が多く

それだけ長く生活をしていると基盤が出来上がっており懐もそれなりに温かいって訳だ

対し西ブロックに住んでいるのはここに来て日が浅いって人が多い。

現に最近ここに住みだしたミレーユも西ブロックの住民だからな

・・そう考えるとアイヴィスはちょいとした待遇だなぁ・・

まぁ、そうとは言っても財布の中身は東も西も言うほど大差はないんだけどさ

 

「え〜っと、あったあった。ここか・・」

 

到着した先は区画の隅・・

ここからだと表門がすぐそこで東ブロック内でも人気がないところだな

・・まぁ街道の往来激しいしな

因みに新しくテントを建てたと言っても前使っていた奴のテントを再利用しただけなんだ。

テント群で働いている内に正規雇用として市街部に移住する奴って結構いるんだよ。

それで転居の際にテントを修復して騎士団に寄付していくってのが習わしになったんだ

それは皆きちんと守られており騎士団屋敷の倉庫には今も折りたたまれたテントが沢山収納されている

いいよねぇ・・こういうの

「表門のすぐ傍ね。場所的には少し騒がしい気もするけど・・」

「文句がないんならそれでいいんじゃないか?そんじゃ・・入るか。邪魔するぞ〜?」

軽〜く入り口を分けて中に入る

 

「・・へ・・?」

 

そこにいるは若い女・・露出の激しい服してるな・・って・・裸!?


「───あ〜・・・」


「・・・・・・」


上半身裸、下はデニムの短パンな女、

黒い髪はややボサボサで軽く紐で結っており活発的な印象なんだが・・

胸でかいな・・それがぷるぷる震えている

「結構なお手前で」

 

パァン!!!

 

・・やっぱりね。簡単に誤魔化せないか・・

 

 



────

 

 

しばらく経って、

荒れる女アイヴィスに加えてもっと荒れるタイムに私刑に遭う羽目になった

初手の張り手がかなり効いたんだけど、その後のたこ殴りでちょっと意識が飛びました♪

まぁ名誉の負傷の甲斐あってようやく落ち着いたのかとりあえずは話ができるようになった。

もちろんアイヴィスは上着を着たんだけどな・・、

まぁこの時期には不釣り合いなほどうっすい白シャツですわ。

「・・それで、貴方がクロムウェルさんね」

「──ああ、そだ。顔は別人だが流石はシグマさんの娘だ・・良い張り手をしているじゃねぇか」

「っ!貴方が覗くからいけないんでしょう!!」

「・・覗くってか事故だろう?

テントでの生活は普通の家とは違うんだから、入られて困るなら札ぐらい出しておけっての」

「・・この生活を始めたばかりじゃ無理でしょうね。

それにさっきのはクロムウェルが悪いんだから」

ふっ、女二人に男が一人、敵地(アウェー)ですね・・

「オーケー。その話は流しておこう、それで・・確認しておこう、アイヴィス=カミュだな?」

「ええっ、そうよ。お初にお目に掛かります、領主様。・・これでいい?」

「別にかしこまらなくていいよ、張り手もしているしさ」

それにしても・・ほんと、シグマの娘とは思えないな・・

俺はてっきりベイトぐらいの恰幅で口がへの字かと思ったんだけど・・

「ふふっ、面白い人ね。お父さんの言っていた通り・・」

「・・なぁ、一つ訊きたいんだけど・・養子か?」

「なんでよ!!?」

「・・いあ、全然似てないからさ」

「私はお母さん似なの!全く・・お父さんがオサゲしているような感じの女だと思ったの?」

「えっ、あっ、やだな〜♪そんな訳ないじゃん♪」

 

・・思ってましたよ、普通に

 

「・・怪しいわね・・。

まぁルザリアみたいな大きなところに住むようにしてくれたのは嬉しいし、気にしないでおくわ」

「・・アイヴィスさん、親御さんの元を離れたがっていたって聞いているけど・・

こんな暮らしでよかったの?」

「ええっ、心配いりませんよ、タイム団長。

別にお父さんやお母さんが嫌いな訳じゃなくて、


私もそろそろ自分の脚で生きて行かなきゃって思ったんです。

でも、故郷じゃ狭いからどうしても親に頼ってしまいそうで・・

だから、思い切って遠くで生きたいと思ったんです」

出来た子だな・・、自立のために敢えてこんな生活を選ぶとは・・

「考えは立派だけど・・こんなテントで暮らさなくてもいいんじゃねぇの?」

「大丈夫!故郷に比べたらここは暑いぐらいだもの!」

・・いあ、そう言う事じゃなくて・・

「まぁ、さっきみたいなアクシデントもあるから・・そこらは慣れてくれよ・・」

「そうね。気をつけるわ・・まっ声を掛けるのも礼儀じゃないの?」

そりゃそうだけどな・・

でも、そんな礼儀云々を持ち出すような連中が住むところじゃなんだよ・・

「そこらは察してくれ。でっ、アイヴィスは鍛冶士志望だったな。

ギルドに顔が利く議員に声かけておいたから、

近い内に工房で働けるかどうかのテストみたいなのがあると思う」

「えっ、ほんと!!」

「・・お前が駄々をこねたんじゃねぇか・・」

「だって〜、街の掃除をしにここに来たんじゃないのよ?」

「そりゃ他の奴らも同じだよ。仕事を指定するなんてお前ぐらいだぜ?

・・まぁ機会を与えるぐらいが俺に出来る精一杯だ

後はお前の実力だけど・・できるか?」

「もっちろん!これでも故郷にいた時は工房のお手伝いをしていたの!

ふふん♪お礼にクロムウェルさんの武器を造ってあげてもいいわよ♪」

胸張っちゃってまぁ・・

「残念だけど間に合っているよ。つい最近新調したばかりなんだよ。

それもHOLY ORDERSの特注品だ」

「・・・何ですって?」

「ハイデルベルクで有名な鍛冶工房よ、あれだけの腕ならダンケルクまで聞き及んでいると思うけど・・」

「知ってるわよ!でもあの憎きリュートに頼むなんて!」

に、憎き?

「なんだ、トラブルでもあるのか?」

「全然、まぁ彼なんて所詮は私の鍛冶道の途中にある通過点に過ぎないわ!」

「・・一方的にライバル視しているだけか・・」

「な、何よ!悪い!?」

「いんや、俺がどうこう言うもんじゃないからさ。

ともかく、俺の方じゃ間に合っているが騎士団の方じゃメンテや新調する機会が多い

お前に実力があるならそういう仕事もできるだろうさ」

「ほんと!?あのルザリア騎士団御用達ね!やった!!」

「せっかちね、まぁがんばりなさい。良い結果を期待しているわ」

「はい、ありがとうございます!!」

深々と礼を言うアイヴィス

ジャジャ馬っぽいが一応最低限の礼儀はできているんだな

──そこにシグマさんの血のにじむような努力を感じるのは気のせいだろうか・・?

 

 

・・・・・・

 

余り長居をしてもしょうがないのでそれから俺達はアイヴィスのテントを出て

再びテント群の通りを散歩する事になった

まぁ特に用事はないんだが・・パトロールついでにな

ここは見回りの回数が多いに越した事はない処だし

 

「やれやれ、自信があるのはいいんだろうけど、ジャジャ馬っぷりは噂通りだな」

 

「元気が良いところはカチュアさんに似ているかもね」

 

まぁ・・他人な感じはしねぇよな。

全くに・・ポジティブなところはいいんだろうけど若干空回りしてそうな感じだな

リュートのような名鍛冶士を目標にするって事自体は大した事だけど

実際は手伝いしかやった事がないんだものなぁ・・

「俺の身の回りはあんなんばっかかっての・・、しかし・・工房で使えるのやら・・」

「その点を大丈夫と見越した上で親御さんも承諾したんじゃないかしら?

でなければ大切な娘をテント暮らしなんてさせないわよ」

それが普通の親子なら・・な

「百獣の王は息子を谷に落とし谷を上がった子のみを育てる・・っとは言うが〜、

シグマさんの場合はどうなのやら」

ってかあの人の家庭的な姿が想像つかないんだよなぁ・・

いつも無口だし戦場だと鬼神の如く斧で切断しまくりだったし・・

「でも良い経験には違いないわ。箱入り娘なんて、後で世間知らずが仇となるものよ?」

っと箱入り娘は言う

何事も経験だからな、どんな事をしようともそこから必ず何かが学べる

だからこそ広い世界を歩くだけでも人間的な成長に繋がるんだ。

家の中でお勉強をして礼節を学んだとしてもそれは見せかけ、

実際の社会ではその通りには行かないものさ

「人間としては正しいか・・まぁ、箱から追い出された俺にとっちゃそれが当然に思えるんだろうからな」

・・もしあの腐れツガイがいない環境で俺が育ったらどんなんなっていただろうなぁ

 

・・・・マー坊?

 

───────・・・・やめてくれ

 

それだけで滅入ってくるよ・・

ん・・おやっ、あそこにいるの・・シトゥラか。

私服の白ドレスって事は非番のようだな

「お〜い、シトゥラ」

軽く声をかけてみる、まっ、見間違える事はない

膝にかかるぐらいまで伸ばした白髪と魅惑のバディのコラボレーションはルザリア広しと言えども一人だものな

・・狐耳も見えるし

「ん・・?ああっ、クロムウェルにタイムか。仲が良いことだな」

こちらを見るなり静かに微笑むシトゥラさん、余裕が感じられますね

隣で頬を赤らめているのとは大違いだ

「もっちろんさ。で・・シトゥラは非番か、珍しいな〜、仕事以外でここに来るなんて」

大抵の人間は仕事以外で仕事場には来たがらないものだ

シトゥラの場合はここが仕事場になるんだし・・

まぁ、彼女もここに住んで結構経つけど・・基本的には休日とかは外に出ないらしい

元々娯楽とかは苦手っぽいだろうしな

「うむ、まぁ少し用事があってな」

「珍しいわね、貴女がここに用事だなんて」

「そうか?大した事ではない、ミレーユの弓の腕を見せてもらおうと思っているだけだ」

ふぅん、もうミレーユの弓士としての名は知れ渡っているようだなぁ

ってかテント群代表としてテント群担当課と色々打ち合わせをしているようだから・・素性がわかって当然か

「弓が珍しいの?」

「そうだな、弓自体はさほど珍しい物でもないのだがあそこまで大きい弓だとどれほどの物か気にはなる」

確かにな、あれは何も知らなければ飾り物にしか見えない

しかし威力や飛距離は段違い、正に狙撃だ

「そう言えば・・白狐族は近隣の山に移動して狩りをするのよね?弓とか使わなかったの?」

「他の獣人民族ではそのような手法も取っていたようだが私達は弓を造るほど環境には恵まれていない

おおよそ石を削ってそれを投擲する程度だ」

それでも獲物を仕留めるのは流石なんだけどな。

連携の強さと個人技の高さが白狐族の特徴だ、

リーダークラスになるとシトゥラのような猛者が顔を連ね

戦士として認められた若者達は確実に相手を仕留めるために規律を守り確実な連携を行う

過酷な環境を生き抜く術なんだろうがそれを除いても立派な戦闘集団だよな

・・そしてそんな男達に戦いを挑むのがスクイードって訳だ♪

彼らの居城、絶対零度の山アブソリュートに阻害王の墓が建つ日もそう遠くない話かもしれないな

「シトゥラほどの腕なら野生動物に気付かれずに仕留めることもできるだろう?」

「ふふっ、そうか。クロムウェルに言われると悪い気はしないな」

そう言いニッコリ笑いシトゥラさん、そして隣のタイムさんは若干警戒してます

「あはは・・そだ、ついでに俺達も見に行くか?

そういや俺もミレーユの腕は実際見てなかったからな」

精密度は知ってるけどな・・

「そうね、それだけの実力がある人がテント群に住んでいるって事はきちんと把握しておく必要があるわね」

「そう堅く考えるなって。そんじゃ、俺達も行くから案内してくれよ」

「ああ、わかった。こっちだ」

そう言い豊満な体を翻して案内しだすシトゥラさん、凛々しいねぇ

・・ってか道行く人達は必ず俺達を振り向いているな・・

ルザリア三大美人の内の二人が集っているから当然か。

 

 

 

────

 

シトゥラが案内したのは正しくルザリアの外れ

テント群の最西端でそこから見えるはフィン草原都市群へと繋がる平原

なるほどな〜、弓を射るってんだからこうして人気のないところで訓練するんだ。

ここからだと街道からも反れているし視界も良い

間違って人に当たる事もないんだろう

「あら、お二人もご一緒でしたか」

その中、風の中で優雅に立つミレーユさん。

髪を軽く触る姿一つでも美しい、これが上流階級のスキルか

「ああっ、用件も終わって暇になったからな。ってかお前も結構声がかかるもんだなぁ」

薬膳講習とか言っていたし・・、時間的にそれが終わってすぐだろうな

「そうですね、時間には余裕がありますので歓迎しますよ。

それに・・弓の技量を見せる必要もありますからね」

「必要・・?」

「ついでに弓の使用許可を取っておいた方がいいというスクイードの提案でな。

私がその判定をし書類作成をする事になった」

ふぅん、弓って使用許可なんているのか

「初耳だなぁ・・どういう仕組みなんだ?タイム」

「要するに騎士団で市街地での弓使用を許可するのよ」

「そりゃまた何故に?」

「騎士団は市街地で活動するために基本的に弓の使用は認めていないのは知っているでしょう?

投擲武器は市街戦では第三者を巻き添えにしてしまう可能性が高いの。

簡単な投擲剣ならばまだしも弓は飛距離があるからね、慎重なのよ

でもそれだけだと有事の際にしくじってしまう事案もある。

だから騎士の中で弓の技量がある人は審査を受けて使用を許可してもらうの。これが使用許可ね」

「騎士団の中で・・だろ?ミレーユは違うぜ?」

「まだ全部話していないわよ、

・・そう言うシステムで例外的に弓士を騎士団内に配置するんだけどそれだけじゃ手が足りないのよ。

だから民間で腕がある人を登録して有事の際に協力してもらおう・・っという事ね。

普段から使用している狩人達の方が精密度も高い訳よ」

なるほどなぁ・・

「・・でもそれだと一々許可って面倒な事されて、弓士側にメリットってないんじゃねぇの?」

「旦那様、そこはきちんと考えていますよ。

許可が下りれば騎士団から正式な許可証が発行されます

それを使えば矢等の備品が安く仕入れたりもできます、

それに・・事件での協力をすれば報酬も発生しますからね

ですので、弓を扱う人間に取っては騎士団に認められるのは生活する上で非常にプラスとなるのです

・・まぁ、私の場合はテント群代表として騎士団に協力をするためですけど、ね」

ギブアンドテイクってやつか、色々考えているんだなぁ・・

魔術で弓の代わりもできない事もないだろうけど・・それはそれで難しい物か

「ミレーユさんの腕なら、別に審査をしなくても大丈夫よ。拝見させてもらいましょう」

「ふふっ、観客が増えると緊張してしまいますよ。手がブレなければいいのですが・・」

そう言いながら不敵に笑うミレーユ、

普通に嘘ですね、凜としているし・・

そして身長大の大弓を軽やかに持ち矢を構え弦を引く

俺が力を込めてもビクともしなかったあの弦がゆっくりと動く様は奇妙ですらある

肩幅に足を広げ後は直立、踏ん張っているわけではないな

相応のコツがあるんだろう

「・・・的は・・あれか」

木の板で作った的はここからかなり離れている平原の中・・

ぽつんと置かれたそれには二重三重に円が描かれている

・・まぁこれは俺やシトゥラじゃないと到底見えないだろう

板自体そんなに大きくない。ここからだと狙撃だな

 

「・・ふっ!」

 

静かに手を放ちその瞬間に大型の弓からは矢が発射される

風を切る音も鋭くそれは勢い衰える事なく的のど真ん中を貫いた

「お見事」「流石だ・・」

賞賛の言葉を漏らす俺達だけど、タイムは的のどこに刺さったのかまでは見えないようだ

そして矢を放ったままの姿勢のミレーユは軽く息をつき俺達に一礼した

動作の一つ一つが凛々しい・・

元からあるミレーユの優雅さとは違う立ち振る舞い・・弓を扱う時の作法か何かかな

弓は東国製らしいから技術も東国の流れなのかもしれないな

ミーシャの話だと東国の弓士は結構独特らしい、

精神鍛錬や礼儀作法にもなるって事で花嫁修業の項目にも上がるんだってさ

「クロ、命中したの・・?」

「ど真ん中にな。戦闘技術ってよりも一つの完成された武芸だなぁ」

「お褒めいただき恐縮です」

「謙遜する事もない。これだけの距離で狙い通りに撃てれば狩りなど容易いだろう」

シトゥラも感嘆の息を漏らしている、確かになぁ

「そうでしょうか?

この弓は連射が利きにくく、身動きも取りづらいので常に一発勝負となりますが・・」

「それを補うための一矢だろう、素晴らしい・・白狐の子を産んで欲しいぐらいだ」

す、すごい事を・・

「流石にそれはまずいだろう・・けど、すごいもんだぜ。

って・・あれ、タイム。何か落ち込んでいないか?」

「・・私には的がよく見えないから・・目が悪いのかなって・・」

いあ、この面子と同じレベルだったら異常だよ

「そんな事ありませんよ。

私としては、旦那様やシトゥラさんが的をしっかりと見られる事に驚いているのですから」

「身体能力じゃ負けないさ。シトゥラだってな?」

「ふっ・・」

「私も頑張らないと・・」

「何を仰るのですか、タイム団長のお名前は有名ですよ?

軽剣術の腕はハイデルベルク一であり槍や両手剣、

魔術においても非常に高い成績を残していらっしゃると・・・

それでルザリアの治安を守っているのですが、私などが及ぶところではございません」

「・・へぇ・・、レイピアの扱いが上手いのは知っていたけど他にも色々扱うんだな」

「意外?セシルに対抗するためには軽剣だと心許ないと思ってね・・

槍とか両手剣にも手にとってがむしゃらに鍛えていたのよ

・・結局、自分に合うスタイルが一番だってセシルに言われて、軽剣をメインにするようにしたの」

・・そんな事があったんだな・・

そりゃセシルに対抗心燃やしてあいつを倒そうって言うならレイピアじゃ心もとないよな・・

レイピアの刃ぐらいなら噛み千切りかねないし

「ふっ、良き友だな」

「・・そうね。彼女のおかげで色々と巻き込まれたけど、今となっては良い思い出・・ね」

色々にもほどがあるんだけどな

セシルって女にここまで近くにいる奴はタイムぐらいだろう

伝説の女みたいな感じに称されているけど

本当の意味での付き合いをしているのってそんなにいないようだからな

「しかし、ミレーユも見事な腕だよな。

これだと講師に招いてルザリア弓小隊なんて作れるんじゃねぇか?」

「戦争をするんじゃないんだから、射撃部隊なんていらないわよ」

「そうですよ、旦那様。

第一ルザリア騎士団の騎士達は魔術行使に優れています。遠距離攻撃手段は弓でなくてもありますよ」

「へぇ・・俺の知らない間にアンジェリカの教育がそこまで行き届いていたのか」

「うむ、スクイードですら魔弾を扱える」

うそん

「あの猪突猛進馬鹿が魔術か・・、なんか・・な」

それでも猪突猛進スタイルは変わらないだろう

何故って?

それはスクイードだからさ!

「弓よりも魔術の方が応用は色々と利きますよ。現実的な選択です」

「けど速攻で遠距離に強力な攻撃を与えるには弓が一番よ。

ミレーユさん、有事の際には宜しくお願いするわ」

「畏まりました、協力を惜しみませんよ・・タイム団長」

微笑みながら一礼するミレーユ

ほんと、要所要所で活躍してくれそうだな・・

人知れず相手を射抜くスナイパー。

単独で狙撃するには難点があるものの集団での援護となりゃ非常に心強い

これからの難事件はもっと簡単に解決できそうだなぁ

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

アイヴィスと顔を合わせてから一週間が経過した

それ以降あいつと会う事はなかった・・ってかテント群に行けなかったんだけどね

領主ってのは何気に忙しいもんなんだよなぁ・・

当然か

まぁルザリアから出る事はアンジェリカ達の活躍で極力控えてもらっているんだけどなぁ

 

 

「でも、市民からの声をちゃんと見ろってさ・・」

 

団長室で思わず愚痴ってしまう・・

机にあるは積み上げられたアンケート用紙

俺が就任したと同時に街に数箇所、民の意見を伝えるためのアンケートを随時行うようになったんだ

議会云々以外にも市民の声を聞く必要がある・・っというフィートの提案でな・・

まぁ確かにそうなんだけど・・投書が予想以上に多いんだよ

これだけで一日経過しかねんぞ・・

「良いことじゃない、ためになるアイデアだと思うわよ?」

隣で同じく事務を行っているタイムが宥めてくる

確かに、良いアイデアだ・・・

だけど・・

「ふっ、タイム・・この束・・読んでみろ」

そう言い別に溜めていた用紙の束をタイムの机に置いてやる

「・・え?何々・・『タイム団長の乳首の色は何色ですか?』・・って!!」

自分で読んで顔を真っ赤にしてますよ・・

「他にも『タイムの性感帯はどこだ?』とか『タイム団長と週何回交わっているのか?』とか・・

その手の質問を纏めたのがその束です」

全くに、俺とタイムの仲が知れ渡った分そう言う興味があるんでしょうな

「も、もう!!アンケートを何だと思っているのよ!!」

「自由意志だからな・・、不真面目な奴が悪戯目的にそんな事を書き込むのもあるって事だ・・」

「失礼ね!!アンジェリカさんに頼んで身元を調べてしょっ引いてやるわ!」

相当恥ずかしいのか怒ってますねぇ

まぁ匿名だけど・・アンジェリカならほんと身元特定できそうなんだよなぁ・・

「ドゥドゥ、落ち着きなさい。まぁタイムはルザリアンに取ってのアイドルだからな。

口に出さなくても皆お前の事を考えてハァハァしているんだよ」

「・・なっ!!?」

「今この瞬間でもお前の裸を妄想している奴が沢山いるんだよ〜?」

それも男女問わず・・、ディープな妄想ならば女子の方が多いかも・・な

「クロ!ふざけないで!」

「ふざけてないさ、現に俺も常にお前の事を想っているんだぜ?」

「ば、馬鹿ぁ!」

顔から火が出るほど真っ赤になっちゃって

堅い仕事している分、甘い言葉に弱いんだよなぁ

「よしよし、・・そういや、アイヴィスの奴どうなったかな・・」

「そ、そう言えばもう一週間経ったわよね・・確か鍛冶屋の試験を行ったのでしょう?」

「あぁ、あの後すぐにコルムナさんから連絡があって人員が足りない大通りの鍛冶屋で働かないかって話だったよ

火の扱いやら金属の性質なんかを現役鍛冶士が質問して決めるんだそうだ

・・結果はまだ知らないけどな」

元々そこまで関わり合いを持つつもりもなかったからなぁ

 

コンコン

 

「開いているぜ」「開いている」

俺とタイムの声がハモり入出許可をする

前まではタイムの許可だけだったのだけど・・一応俺の仕事部屋にもなっているからな

「失礼します・・っと。どうにもここは堅苦しくていけませんねぇ」

苦笑いを浮かべて入ってきたのは黒服姿のフィート君

ほんと・・ホストだよな、どう見ても

「ようフィート、どしたんだ?」

「押印してもらいたい資料の追加です。アンケートの閲覧とともに今日中にお願いしますね」

 

そう言い机にまた一つ山が誕生した・・

 

「・・・・、フィート君、後生だ・・高速で印鑑が押せる術を教えてくれ・・」

「そんな使用用途限定しまくりな術なんてありませんよ、身体強化すればいいじゃないですか?」

「阿呆、印鑑ごと机が粉砕してしまうわ」

「でしょうね、まぁ書類に目を通した上での押印ですからちゃんとしてください」

「へいへい・・」

「ああっ、それとコルムナさんからの伝言で、

アイヴィスさんが無事に鍛冶工房『ヴァリアント』への採用が決まったとの事です」

ほぉ・・・やったか

「それなりに使えるって事か・・意外だなぁ」

「確かに意外なようですね、ヴァリアント店主が言うには結構厳しく審査したそうなんです。

それでも合格点を与えられるだけの鍛冶知識を持っていて、

実際に軽くナイフを造ってみせたらしいです」

「流石に自分で言うだけの事はあるようね・・。ヴァリアントの店主も満足しているでしょう」

「・・あ〜、それが・・ですね。その事で先輩に相談したい事があるようで・・」

「・・俺に?」

「ええっ、是が非でも・・っとの事で。明日にでも来て欲しいんだそうです」

何か、嫌な予感がするんですが・・流れ的に拒否はできないか

「・・・・はぁ、わかったよ。そんじゃ明日の仕事は少なめにしておいてくれよ?」

領主の仕事ってのは一店舗の悩み相談まで行うものなのかねぇ?

まぁいいや・・乗りかかった船だしな

 

 

 

──────

 

 

 

 

「斧ぐらいしかまともに造れない!?」

 

 

 

翌日、大通りに店を構えるヴァリアントで明かされた真実・・

それはアイヴィスは専ら斧専門だって事

オーソドックスな剣はギリギリ売り物になる程度であり出来もマチマチ

でも何故か斧が得意でありその出来映えはかなり良いらしい

「ああっ、そうなんだよクロムウェル。珍しいっちゃ珍しいんだけどねぇ」

頭を掻くは鍛冶屋ヴァリアントの女店主であるフラニーさん

恰幅の良い朱色髪のおばちゃん鍛冶士、昔から大通りで店を開いており評判は良い

騎士団の武器発注を行っておりここでオーダーメイドする奴も多い

かく言う俺もフラニーおばちゃんとは面識があったりする

・・先の一件、最強のホムンクルスであるヘキサに対抗するべく

新たな武器を造る際に借りた店がここだったんだ

一応無断使用という事で後で説明したんだけど豪快に笑い飛ばしていた

「ってか、偏っているなぁ・・。試験の時のナイフはどうだったんだよ?」

「う、うるさいわね!あれはたまたま出来が良かったのよ!!」

「まぁ、森林が近くにあるのならば斧だって売れるだろうけどさ・・。

斧だと得物に使う客なんて早々いないよ?」

バツの悪そうなアイヴィスに対しフラニーおばさんも苦笑い

まぁ・・本来斧は木を切るために使う物だからな

でも戦闘で使うにしても効果はでかい、一撃の衝撃と威力では他の武器の比じゃない

・・が、やっぱり扱いにくいんだよな。

振り回すだけでも相当量の筋力が必要だし形状的に一撃一撃が大振りになりやすい

扱いやすいように軽量化されたハンドアックスなんてのもあるんだが

基本的には一撃必殺なスタイルで固定されてしまうんだ

相当な力自慢じゃなきゃこれで命は張れないな

まっ、それでも使いこなせれば強力も強力・・

シグマさんなんかが良い例だ、あんなもんまともに受けたら無事では済まない

「・・斧が得意なのはシグマさんの影響か?」

「え・・?あ・・うん、お父さんの斧が痛んでいるのを見て、

それを直す内に鍛冶士になりたいって思って・・ね」

まぁ・・そんなところか

「理由としちゃ応援したいところだけど、斧専門じゃ鍛冶士としては自立はできないよ?

もっと色々と勉強しなきゃねぇ」

「そうだろうなぁ・・、だが長所を伸ばしてそれを売りにするってのも手だ

他が全く駄目ってのはあれだけどな」

平均的な鍛冶工房よりもそうした方が客足はいいだろう

・・まぁ、全てにおいて優秀なのが一番なんだけど

「一理あるね、まぁ斧使いってのはそもそも乱暴に使うもんだから・・

しっかりしたのじゃないと納得してくれないよ?」

「アイヴィス作の斧じゃそこらはどうなんだよ?」

「初心者が打ったにしちゃ結構良くできているよ、

まぁ実戦に使うとしちゃもうちょい頑張る必要はあるかね」

・・ふぅん・・

「まぁ〜、勉強あるのみ・・なんだろうけどな」

「うちもそれなりに忙しいからね、必死でやってもらわないと余所に回ってもらう事にもなるよ?」

苦い顔のフラニーさん、まぁ人情味があるけど商売だからな。

給料渡す以上は人並みに働いてもらわないとな

「・・うぅ・・でもぉ・・・」

「──うし、そんじゃ一つ課題を出そう」

「課題?何か作があるのかい?」

「あぁ、要するに実戦で使えるほどの物を造れれば良いわけだ。

今テント群に新米が二人奮闘している、一人は優秀な軽剣使い、一人は怠惰なファイターだ。

そいつらの専用の得物を造り二人を納得させろ

騎士団で十二分に使える物ならば問題はないだろう?」

・・・まぁニクスとマー坊なんだけどな・・

得意の斧はマー坊に、苦手な剣はニクスに・・

この二つが上手くできれば戦力としては期待はできる

・・まぁ、マー坊は斧使いじゃないんだけど・・な

「わ、わかったわ!!私頑張ってみる!!」

アイヴィスもやる気のようだ

「ふぅん・・、まぁ騎士が認めるのならばうちで置いてもいいね。でっ・・期限は?」

「二週間・・にしようか。

二人の情報はきちんと伝える、それまでに苦手意識を捨て得意分野を伸ばし

二人に合った得物を造る事・・できるな?」

「やってみるわよ!!」

「そうともなりゃ、応援しないとねぇ・・

期限まで奥の小型炉を空けておくから好きなように使いな

工房での寝泊まりを認めるよ」

「ありがとう!フラニーさん!」

う〜し、上手くまとまったな。

「後はアイヴィスのがんばり次第だな、まぁ初心者でオーダーメイドはちと難題だが・・良いもん造れよ?」

「頑張るわよ!クロムウェル!」

気合いが漲っているなぁ・・

こうした目の前の出来事に対して挑もうとする気概はシグマさん譲り・・かな?

まぁ、どうなる事やら〜・・

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

それより二週間、瞬く間に日が過ぎていった

・・ってか俺も忙しいの!!

視察とか色々あってねぇ、ほんと・・。

ダンケルク方面からの貿易路が増えてルザリアをその終点として使わせて欲しいだとか何だとか・・

流石に国家間の貿易は商人だけに任せれる事じゃないからな

代表者・・ってか俺が色々と監修しなきゃいけないって事で、奔走させられたんだよ

こういう事は領主自身がしなきゃいけないからってアンジェリカも助言はすればども代打は断るし・・

そんな訳でヴァリアントの様子はあれ以降見ていない

暇な時なら邪魔する事もあったんだろうけどな・・

まぁ、アンジェリカに頼んで様子を見てきてもらったが「頑張っている」との事だ

順調なんだろうな

期限の日には俺も休暇が取れた事だし、アイヴィスの出来を見せる準備も整っている

だが、ここに来て俺は一つ過ちを犯していた

 

「・・・・・、そう言う事ってさ、先に本人に伝えておかないか?」

 

「・・・、まぁ、クロムウェルさんですからね」



 

当人達にその事伝えるのを忘れちゃった♪てへっ♪

「まぁまぁ、そう言うなよ・・忙しい身だって事で大目に見てくれや」

「謝る態度じゃねぇっての、まぁ・・専用の得物を造ってくれたのなら嬉しいんだけどさ」

元々悪い話じゃないんだからさ、まぁそこまでは怒ってはいない様子だ

そんな訳で判定会場となったのは騎士団の屋外訓練場、

一般人の立ち入りは禁止なんだけどサリーさんに話をつけてアイヴィスの立ち入りは許可している

まっ、まだ到着していないんだけどな

そんな訳で先に招集かけたマー坊とニクスに白い目で見られております

「それで、オーダーメイドなのはありがたいのですが私達の意見というのは無しで造ったのですか?」

「それが試験だよ。

一応は二人の情報は伝えた、そしてその二人のスタイルに合った武器を造ってくれってな」

「おいおい、そんなのでいいのかよ?」

「だからこその試験なんだよ、その人物にはどういう武器が合っているのか、

少ない情報で見極めて造り上げる事こそ鍛冶野郎に必要な条件だ。

ただマンネリと企画通りの武器を造れば良いって程ルザリアは甘くないしフラニーさんも認めはしない」

「ですけど・・少々厳しくないですか?」

「なぁに、領主やギルドの手を煩わせてやってんだ。このぐらいの試練は必要さ。

二人とも情けなんかいらねぇ、自身に合っていると思えばそれを使い、なければ無いと言ってやれ」

それが仕事ってもんだ

非情な選択をするのも騎士には必要な物なのだよ

「・・わかったよ、でも、変な形状の剣じゃないだろうなぁ?」

「──ああっ、忘れていたけど、ニクスは剣でお前は斧な?」

「え゛・・?」

「だから、斧」

「ちょ、ちょっと待てよ!!!あからさまに情報間違えてんじゃねぇか!!

俺斧なんて使ったことないのにどう判定しろってんだよ!」

「うるせぇなぁ・・、アイヴィスの奴が斧が得意なんだから仕方ねぇだろう?」

「こっちの都合を考えろってんだ!ほらっ、ニクスも言ってやれ!」

「・・いえ、突拍子のないけど・・良い話じゃないかしら?」

「「ニクス?」」

「マーロウ君、今はバランス重視でロングソードを使っているけど、

今までのマーロウ君の戦闘からして
攻撃に重点を置いた方がバランスが取れているの。

下手に防御を意識して動きが鈍っているからね・・

近い内にトゥハンドソードでも勧めようと思ったのだけど・・斧だとちょうどいいわね」

・・妙に分析してますね、パートナーだからか?

他意はないと思いたいな

「ま、マジかよ・・でも斧なんて・・」

「形状としては威力は高いわ、それに片手で扱える武器としては両手剣に匹敵するのも魅力的

扱いに関しては刺突ができない剣と思えば十分扱える代物よ、

それに・・マーロウ君刺突攻撃なんてほとんどしないでしょう?」

「・・そりゃ・・そうだけど・・」

「まぁそれも含めて手にとって確かめてみろ、それでしっくりこなかったら素直に伝えりゃいいじゃん」

「わかったよ、でも・・斧振り回すのって・・何だかダサくないか?」

・・また妙なもん拘って・・

「格好付けて死ぬよりかはマシだろう?実用性で考えろ

それに斧ってのはハイリスクハイリターンな分使いこなせりゃ滅法強い、

傭兵公社の剣聖帝にも斧使いはいるんだぜ?」

その娘さんなんですけどね

「な、なるほどな・・。まぁ実物見てからだ!気に入らなきゃ首は縦には振らないぜ?」

「それでいいんだよ」

遠慮なんかしなくていいんだからな、そう言うのは本人のためにもならない

薄情と言われようが見せかけの馴れ合いよりかはマシだ

・・っと、来たな

 

「おっまたせ〜!」

 

露出の激しい服装で背中に籠を背負っている

その中に布に包まれた武器を入れているようだ

そしてその隣にはフラニーさんの姿が・・

何だかんだで気になっているようだな、顔つきでわかってしまう

「よぅ、フラニーさんもご苦労だな」

「いいって事だよ、アイヴィスもこの半月寝る間も惜しんで打ち込んでいたからね

見届けさせてもらうよ」

にんまり笑うフラニーさん、確かに・・真剣に取り組んでいたようだな

性格はあのまんまだけど少し痩せていら

「そんじゃ、面子が揃った事だしさっさと始めるとするか・・皆忙しいんだしな」

「わかったわ!先ずはマーロウさんからいくわね!」

そう言い籠を下ろして得物を取り出す

使命されたマー坊も緊張して前に出ていら・・

「お、おう・・よろしく頼むぜ?」

「・・情報通りのブサイクね」

ふっ、その通り♪

「なっ、いきなり何言い出すんだよ!」

「それだけ前情報の信憑性があるって事ね。さっ、じゃあお披露目するわよ!」

気合い十分、取り出した武器の布を解いてマー坊へ披露する

「・・へぇ・・」

不機嫌なマー坊も思わず呟いた

それは扱いやすい片刃のハンドアックス、握りや柄も金属製で刃はやや大きく銀色に輝いている

そして特徴としては柄の先端に短剣ほどの刃が付けられている事・・

「珍しい形状・・ですね」

ニクスも珍しそうに見つめている

「さしずめ、ハンドアックスならぬハンドハルバートってところだね。

発想は良いもんだよ」

「なるほどな、だが・・ハルバートってのはそれだけ重量があるもんだろう?

柄短くして扱えるかどうか・・だな。ほれ、マー坊、持ってみろ」

「あ・・ああ、・・・おおっ、意外に軽いな」

手にとって見て意外そうなマー坊・・

「じゃ、試し切りだな・・ざっくり殺ってやれ!」

そう言い訓練場の大地に設置するは藁で作った人形、その名も「身代わりスクイード君」だ!

「斬るって言っても草斬るのかよ・・」

「バーカ、その考えが浅はかなんだよ。こいつは乾燥した藁の束で出来ている

それを切れば切れ口ってのがはっきりわかるんだ・・

良い得物ならば綺麗に、出来が悪けりゃ切れ口が歪に・・ってな」

「なるほど・・そんじゃ、遠慮なく行くぜ!おりゃぁぁぁぁ!!!」

 

ズバァ!!

 

豪快な袈裟斬り、身代わりスクイード君を斜め一文字に切り裂きスッパリと切断した

「・・す、すげぇ・・」

「・・・切れ味は合格・・だな」

藁の切断面は綺麗なもんだ、斧で切ったとは思えないな

「切れ味は満足いく結果ね・・で、マーロウさん。振ってみてどんな感じ?」

「ああ、確かに剣に比べてリーチは短くなったがすんなりと切れた・・

重さも気にならないし振りやすいよ」

「よかった〜、そのハンドハルバートは結構軽量化が加えられて極力扱いやすいように設計したの

リーチが短いんだけどマーロウさんが押せ押せで攻めるタイプって聞いたから

それほど気にならないはずって睨んでいたの!」

「斧ってのが初めてなんだけど、慣れたら本当に気にならない程度だな・・。

でもこんなに軽いってすごいな・・」

「軽鉄の結構な割合で使ったからね。柄も中はちょっと空洞がある分軽いのよ

柄で余り攻撃を受けないようにすれば防御もしっかりできるわ!

マーロウさんのスタイルからしてこれをもう一つ用意しているの、

両手で持って使いこなせれば活躍できるはずよ」

「・・なるほど・・、気に入った!!良い仕事だぜ!」

うむ、文句ない内容だな

「とりあえずマー坊のは合格って感じだな。アイヴィス、こいつに銘とかあるの?」

「そう言うのは合格を貰ってから決めるつもりだったから何も考えてないわよ。

マーロウさんが決めて?」

「お、おう・・わかった」

「ふむ、とりあえず得意分野では合格のようだね。そんじゃ次行ってみようかい

ニクスちゃん。頼むよ?」

フラニーさんの目つきが鋭くなる

まぁ、最終的にこの人を満足させないといけないんだからな

「は、はい・・」

「では、次はニクスさんね。ニクスさんは司令塔的や役割をこなしている分

戦闘よりも統制を優先した方が良いってクロムウェルから聞いたけど・・間違いないです?」

「あ〜、ははは・・クロムウェルさん。過大評価ですよ」

縮こまっちゃって・・まぁそれだけの器がある事は俺もタイムも認めている

何せマー坊を上手く扱っているんだからな

「まっ、大筋で合っているんだから気にするな。そんで、どんな感じだ?」

「こんな感じよ!」

気合いと共に布を解き披露するアイヴィス・・

そこにあるは細めの剣・・っとでもいいんだろうか

刃の幅と長さはレイピアとロングソードの間ぐらい、

どっしりしたレイピアって感じだな。

「レイピア・・ですか?」

「うぅん、分類的にはレイピアに入ると思います。

ソードブレイカーを使用しない単体使用型のレイピアよりもさらに剣身をしっかりした感じです

でも剣身はロングソードまでには届かない感じですね。どうぞ、手にとってください」

そう言い剣を受け取るニクス・・

握りには手を守るグリップガードがあり鍔も細かい装飾がされている

が、それはあくまで実戦用、鍔より伸びる直剣は良く研がれておりギラギラと光っている

ニクスはそれを軽々と振り仕上げを確かめる、

身代わりスクイード君へ軽く斬り掛かるもスパスパ切れているしな

鋭さはハンドハルバートよりも高いか

「・・上々ですね、剣身の大きさにしては重量も抑えられていて非常に扱いやすいです。

それに強度もあるようですね・・」

「そうなんですよ、コンセプトはバランスに優れ、防御にも扱える重レイピアって感じです。

指示を出す存在が手傷を負ったら集団の士気に関わりますからね。

かと言って戦闘で後方ばかりにはいられない・・

だから防御にも攻撃にも優れ扱いやすい物をと思ったんです!」

「なるほど、確かに理に適っていますね・・。お見事です。

この剣はありがたく使わせていただきます」

一礼して鞘に収めるニクス・・

どうやら気に入ったようだな

「う〜し、そんじゃ・・フラニーさん?」

「ああっ、よくがんばったもんだ。

レイピアなんて仕上がりの難しいもん造り出すから心配したけど見事なもんだよ

アイヴィス、お前は今日から正式に私の店の鍛冶士だ!存分に働きな!」

「やった!ありがとう!」

大はしゃぎするアイヴィス、どうやら剣の方は自信がなかったようだなぁ

「まっ、良い結果になってよかったもんだ。俺にできるのはこんくらいだ、後はがんばれよ?」

「うん!がんばって一人前になって見せるわ!!」

いいねぇ、夢がある若者ってのは

そしてそのサポートをしたって事だけで良いことした気分になる

今夜は酒が美味いだろうなぁ♪



「ははは・・でっ、クロムウェル。今回の出費はあんたへ請求すればいいのかい?」

 

 

 

・・・・・・・へっ?

 

 

「あ〜、それ俺も気になっていたんだよ。

いきなり得物の審査してその代金まで請求されたら困るからな」

「私もです・・。込み入った事情がわかりませんので・・クロムウェルさん持ちでいいのですか?」

・・・くっ・・こいつらに払えとは流石に言えない・・

まぁ伝えるの忘れていたし・・

「ア、アイヴィスが造ったんだかこいつの給料から天引きすべきだろうが!」

「え〜?だって試験考えたのはクロムウェルでしょう?責任持つのが筋でしょう?」

ひ、開き直りやがって!

「・・っという訳だ。

店には失敗作が沢山あるから・・それも纏めて後日、請求書を送らせてもらうよ?

一つや二つぐらいなら大目に見れたんだけど、あの数ともなると流石にねぇ」

嫌な笑み浮かべて俺の肩を叩くフラニーさん・・

流石ルザリアの鍛冶士、商売上手だ・・

ってかどんだけ失敗したんだよ!?おい!!

「クロムウェルさん、ありがとうございます」

「流石領主、太っ腹だなぁ♪」

専用の得物を貰った二人もその気だし!!

 

 

「あ〜!!も〜!!!わかったよ!!!アイヴィスの就職祝いだ!!耳揃えて払ってやるよ!!!」

 

 

「やった〜♪クロムウェル大好き〜♪」

くそっ!請求額わからねぇが絶対今月ピンチだぜ・・!

 

こうなったら明日から貴族狩りだ!


奴らの財を喰らってやるわぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・おまけ・・

 

午後の日差しの中、屋敷の庭にて日光浴を行う

妙に広い庭園には家庭菜園と薬草園が設置されており破壊された噴水も復元されて涼しげな音を奏でている

皆の好きにして良いって言ったけど見事なまでに好きにしている

家庭菜園はベイト達の趣味らしくお茶用のハーブ等を栽培しているらしく結構規模もでかい

それに対し薬草園はアンジェリカさんの御趣味

特殊な栽培法を使って栽培するために菜園と離れたところに設置しており規模も大きくない

・・何か怪しい色の葉とかあるんだけど・・毒草か・・?

深く知らない方がいいな

そんな中で噴水近くに長椅子を置きうたた寝心地で寝ころぶ

タイムも無趣味だけど、俺も大概だな・・

街をぶらつくのも悪くはないがそれって趣味とは言い難いし・・

 

「クロムウェル、貴方宛に荷物が届いているわよ?」

 

っと、門から何やら木箱を持ってやってくるはアンジェリカさん

俺が休みだからアンジェリカさんもお休みのようだな

「んっ?アンジェリカさんが受け取ったのか・・でっ、誰から?」

「鍛冶工房『ヴァリアント』のアイヴィスさんからだって」

そう言い木箱を俺に渡すんだが・・

「結構重いな・・。魔術で持っていたのか?

ってこれ、手紙もセットか・・何々?

『先日はお世話になりました、そのお礼としてクロムウェルさん専用の武器を造りましたので送りました』

・・手紙だと言葉使いが丁寧だな、おい・・」

そこにシグマさんが血反吐を吐くような努力を感じるよ・・

ってか俺に武器をねぇ。試験はもう終わっているぜ?

「でも、貴方のはもうあるじゃない?」

「ああ、その事はあいつも知っているはずだが・・どれどれ・・・、って・・」

取り出したのは騎士用の金属製ガントレット、一応は打撃に使えない事もないのだが

それよりも目立つのは・・

「・・すごいわね、ガントレットの腕部に斧刃を二つも付けるなんて・・」

大きめの斧刃が二つ生えております、まるで羽だな

「すごいもなんの・・手枷と変わらないぐらいの重量だぞ、これ・・」

「そのようね、でもそれだと手刀で木を切り倒せるんじゃないかしら?」

「んなもんいらんわ!!」

全くに・・、斧馬鹿なところは直りそうにねぇな

「ふふっ、そうカリカリしないで。タイムさんみたいになっちゃうわよ?」

悪戯っぽく笑ってまぁ

「アンジェリカさんそれはタイムに失礼だぜ?あいつだってそんなカリカリ」「アンジェリカさん!!!」

俺の言葉を遮るようにカリカリと怒気を含んだお声が・・

なんだ?完全武装なタイムが目をギラつかせながらこっちに来る

「あら、どうしたの?」

「例のリスト、もう他にいない!?」

リスト・・?

「ええっ、今のところはね。全員しょっ引いたの?」

「これから最後の一人よ!逃しはしないわ!!」

うわっはぁ・・すんごい気迫だ

「お〜い、タイム。リストって何だ?」

「今忙しいの!またね!!」

あらら、行っちゃった・・。

何かの重要事件か?それだったら俺に援護を求めるだろうけど・・

「元気ねぇ・・ふふっ」

「アンジェリカさん、何なの、あれ?」

「ほらっ、アンケートよ。つまらない書き込みがあったでしょう?」

──ああっ、住民の意見を聞くアンケートを設置したのはよかったものの

タイムに対するエロ質問が多くて困っていた件か

本人に見せて激怒していたな・・

「・・って、もしかして・・」

「ええっ、投書した人を逮捕しているの。名誉毀損って事でね」

本気でやったのかよ・・、まぁ魔術を使えば簡単そうなんだけど・・

「──なぁ、そんな投書者が簡単にわかるんなら誰も書かなくなるんじゃねぇか?」

「それはね。まぁ冷やかし厳禁なのが理解できればいいわ。

それに・・良い意見には金一封与えるって追加周知させたから問題ないわよ

名前の記述は元々自由だし」

なるほどなぁ・・、賞金が出るなら書き込みの数は減らないか

でっ、つまらない冷やかしをしたら騎士団が動く・・っと。

まぁ、タイムの事限定だろうけど

「やれやれ・・、照れ屋なんだから・・」

「ふふっ、タイムさんは情事に関しては貴方との間だけの秘め事としておきたいのよ」

「ふっ、もてる男は辛いな」

「その内屋敷にハーレムが出来るかも・・ね?」

「よせいやい、ベイトに殺されてしまわぁ」

清く正しい生き方を望むベイトさん達、

未だにオフィスラブは慎重さが求められておりますからねぇ

・・ってか俺にそれを望む前にあのクサレツガイを何とかすべきだったんじゃねぇのかよ?

「あら残念、まぁ・・期待はしておくわ」

「ハーレムをか?ったく、そんな事を考えている暇があるなら休日を楽しみなさい。不謹慎ですよ?」

「不健全に昼寝をしているのもどうかと思うけどね。じゃ・・またね」

そう言い俺の耳に息を吹きかけてその場を去るアンジェリカさん

フェロモンぷんぷんですな・・

そりゃ・・美女に囲まれるのは嫌いじゃないけど〜・・な

まずタイムをその気にさせないと・・

まぁ今の生活ですら俺には分不相応なんだし、とりあえずはこのままで満足しておくのがいいんだよ

 

・・ってか、このガントレット・・どうするんだよ・・?

・・スクイードにくれてやるか。

腕力を鍛える道具ぐらいにはなるだろう・・




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