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「白風の拳士」





フィン草原都市群

見渡す限りの大草原が広がりその中で都市が点在するという特殊な地帯

少数部族も各地でおり遊牧をしながら生活をしている、

そのために大抵は大きな都市に対して少数部族が露店を開きに訪れるものである

その中で草原の大都市を経由するように貿易ルートが決められており交易隊などがそこを通って品物を持っていく

しかし大都市経由だけでは大草原は広すぎるためにそこには小さな宿場町というのも数カ所存在しており

草原の民の中では珍しく一箇所で生活を続けている集落もあった

 

・・・・・・・・・

 

フィン草原都市群最西部に位置する宿場町アスナ

ハイデルベルク〜シュッツバルケル間を結ぶ一大貿易ルートの中継点として定期的に交易隊が通過する

しかしそこはもう隣国であるシュッツバルケルが近く、入国と共に大きな都市がある

故に交易隊はアスナで宿を取る事はほとんどなく宿場町と言えどもその町は非常に寂れていた

 

「・・・・・・」

 

大草原の町とは言えども、西端付近にもなるとそれもまばらになり逆に岩場が目立ってくる

この町はちょうどその中間に位置しており見晴らしは良い、

遠くには草原都市とシュッツバルケルを隔てる高い山脈が聳えている

その中、町外れにある大きな木の下に女性が一人腰を掛けてもたれている

白い外套を身に包み顔を隠している女性・・手に持つ水筒を口に含みどこを見るわけもなく息をつく

 

「・・・・・」

 

そんな女性を民家の物陰から誰かがチラチラと見ている

その様子は女性からは完全に死角、

しかし

「──何を見ている?」

静かに言う女性、それに対し女性を見ていた少女がピクリと震えたが恐る恐る女性に近づいた

「・・あ・・あの・・」

長めの栗色の髪をオサゲにした少女、着ている物はここの民の衣装をしており活発そう

「・・私に何か用か?」

対し女性は外套を被ったままの状態で少女を見る、

瞳は澄んだ蒼色であり余り感情を感じさせない

「お姉ちゃん、交易隊の人・・?」

「いいや、違う」

「そ、そうなの・・、じゃ・・じゃあ冒険者さん?」

「・・・・・、何故そう思う?」

「えっと・・交易隊の人じゃないとここに来る人ってほとんどいないの・・。

後は冒険者さんぐらいだって・・」

「なるほどな。残念ながら私は冒険者でもない・・、さしずめ、ただの旅人だ」

「・・そう・・なんだ・・」

その答えに落胆する少女、それに女性は目を細めた

「その様子では私が冒険者でなかった事が不服なようだな」

「・・え・・あ、ごめんなさい・・」

「気にする事はない。冒険者に用事でもあったのか?」

「・・・・・あ・・うん・・・」

「──そうか、次の交易隊が止まるシュッツバルケルの都市にはギルドがあっただろう。

用事があるならばそこで頼むと良い」

「・・・うん・・・」

「・・どうした?」

「ギルドがあるのは知っているの、でも・・お願いするほどお金がなくて・・」

「なるほどな、それで・・一人で行動している冒険者とおぼしき私に声をかけた・・そう言う訳か」

静かに笑い再び水筒を口に含む女性

「う、うん・・」

「──話してみると良い」

「いいの・・?」

「ああっ、冒険者ではないが特に急ぐ旅をしている訳でもない」

「ありがとう・・。あのね、父様と母様が殺されちゃったの」

俯きながらそう言う少女、それに対し女性の目は鋭く尖る

 

「それでね、今もここを襲う盗賊集団がいるの。

最近は交易隊の人もこの町に止まる事がなくなっているから段々ひどくなって・・」

 

「・・自警団ぐらいはあるだろう、それに確か草原都市群には都市防衛の集団がいたはずだ」

「うん・・自警団は結成しているんだけど・・盗賊団が強いの、

それに・・此処は小さい町だから・・そこまで巡回してくれなくて・・」

「ふん、全てをカバーするには未熟な組織か。

それで・・ただ家族が死んでいく現状を何とかしたいと私に頼む訳か」

「・・うん・・」

「・・・・──いいだろう、引き受けよう」

「いいの!?お姉ちゃん!」

「ああっ、人情話には興味がないがな」

「ありがとう!!あの・・でも、これだけしかないの」

そう言うと少女は懐をより金を取り出す・・それは銅貨3枚

おおよそ人に依頼をするような額ではない

ましてや盗賊退治などと言う血なまぐさい事をこの額で頼む事自体正気の沙汰ではないのだが・・

「ふっ、いいだろう」

女性は嫌そうな顔をせずにそれを引き受け銅貨を受け取った

「いいの・・?」

「ああっ、私は金銭には疎くてな。それに色々と低燃費でできているんだ」

「・・???よくわからないけど・・ありがとう・・。わ、私はルル、貴方は・・」

「ヘキサだ。では情報をくれ・・まずはそれからだ」

そう言い頭部を覆う外套を脱ぎ素顔をさらけ出す、

肩幅で揃えられた蒼髪、澄んだ蒼眼は印象的であり顔立ちの見事な整いように

ルルはしばし唖然としたがそのままこの町で起こっている異常を説明しだした

 

 

・・・・・・・・・

 

ヘキサがルルより情報を聞き2日が経過した

彼女が持っていた情報というのも実におぼろげなものでありそれだけで敵の存在を掴むのは困難とも思えた

それは集落の人間も同様、相次ぐ被害により余所者が信用できないのか話を聞く以前に

ヘキサを盗賊と思っている人もおり

面倒事を回避するために彼女は早々に集落を後にして行動を開始する

盗賊の人数や素性などはルルは知らなかったがどっちの方角に去っていったかはきちんとヘキサに伝えていた

それだけでもかなりの有力な情報、普通ならば雲を掴むような話であるのだがヘキサは『人』ではない

人間離れしたホムンクルス、その感覚も常人の及ぶところではなく

盗賊が去った方角で血の臭いを嗅ぎ取りその方角へ歩を進めてきたのだ

 

そして辿り着いたのは草原の終点である西の山脈の麓、

小さな崖を利用した集落が形成されており出入り口に馬が繋がれている

見た目は遊牧民の集落のようにも見えるがヘキサの目は騙せない

(・・、濃い血の臭い・・。なるほどな・・)

中から微かに漂ってくる人血の臭い、

そこで殺戮が繰り広げられているのではなくそれは得物にこびりついた血から漂う物

それだけ手入れをしておらず穢れた血液をそのまま放置するような遊牧民は存在しない

そして家屋の中からこちらを警戒する気配が幾つもありその視線はヘキサに集中している

周辺には遮蔽物はない、

これだけ見晴らしが良い中では白い外套を纏った女性などすぐに目についてしまうのだ

そこはヘキサも承知の上・・

だが、こそこそ動き回る程の事でもないと堂々と正面から歩を進めていた

「・・ふん、たかが女一人が歩いてきただけで大した警戒のしようだ。

もっとも・・間違った判断ではないか・・」

そこにいるのはただの女ではない、正しく超人として絶大なる力を持つ戦士なのだ

それを知ってか知らずか、家屋の群れの視線はヘキサを見つめたまま

いつまでもそのままなのも面倒なのでヘキサはその中の一つと視線を合わせた

そして軽く殺気を放ちながら指で相手を挑発する

こうした技術もお手の物、視線を合わせた男は動揺したらしく一瞬視線をそらす

その瞬間に家屋から一斉に何かが発射された

それらはやや質の悪い矢、室内からでも迎撃できるように隙間からヘキサを狙っていたらしく

合図とともにそれを発射・・女一人倒すために矢の雨を降らせたのだ

「・・・・くだらん」

普通ならば慌てふためくか迎撃態勢を取るもの・・

しかしヘキサは心底つまらなさそうにため息をつくと、その腕が超高速で走った

 

「「「「・・・・・・・・・・・!!」」」」

 

木造の簡易要塞からは明らかな動揺の気配・・

そしてその視線の先は矢の雨を一瞬の内に全て掴み取った異様なる女の姿が・・

「弓で狙撃するために家屋を改造しているのか・・、無防備な集落を襲っている割には随分と肝の小さいものだな」

そう言いながら嘲るように口角を上げ両手に握った矢を軽々とへし折る

数本に束ねた矢は粗悪品と言えどもそれなりに強度があるが

まるで木の枝を折るように簡単にやってのけた事に未だ姿を見せぬ敵は呆気に取られている

彼らにしてみれば未だ目の前の光景は信じられないのだろう

「弓矢という物は中々優れている狩猟武器だが・・外した時にその居場所が掴まれてしまうところが欠点だな」

そう言い彼女は折れた矢を軽く投げ捨てて手を自分の顔の前で握る

そしてそのまま優雅に手を開くと何もなかった手の平から白く小さな球が幾つも表れ彼女の周りを漂い出す

ふわふわと宙に浮く白い靄のような球体、それらはまるで毛玉のようにも見えた

「・・舞え」

そう呟きヘキサは軽く手を払う、

その瞬間に球体はさきほどまでとは打って変わって凄まじい勢いで疾駆し

崖に建てられた家屋へと突き刺さっていく

同時に響き渡るは男達の断末魔の悲鳴、

それは幾つも重なって響いていき、家屋の所々から赤い液体が流れでていく

彼女が放ったのは風の弾丸、広範囲に被害を出し命中率と貫通性に特化した散弾砲

『狂風』ほどの強烈な一撃でもなければ『疾空』ほどの弾道制御もできない

しかし弾速はその二つを凌駕しておりヘキサは矢が放たれた箇所に一発ずつそれを放ったのだ

それなりに補強されていた壁も風弾が貫通した痕がしっかりと残っており

遮蔽物としての意味を成していない事を物語っていた

これを見た生き残りは気が気ではない

隠れていたとしても狙い打ちされると得物を片手に窓から飛び出してくる

「・・・・、ふん」

警戒しながらヘキサの前に現れたのはロングソードや鉄槌などを持つ遊牧民風の衣装をきた中年の戦士達4人

しかし、体躯はしっかりとしており体には幾つも傷痕が見られる

おおよそただの民族ではない事はわかるのだが、彼女にはそれもどうでも良いこと

「4人か、私と戦うつもりか?」

小馬鹿にしたような口調、先ほどの一撃からしてまともな相手ではない事は明白だが男達はその返答はせず

切っ先を彼女に向けてその意志を伝える

「・・無言か、それもいいだろう」

それでも仁王立ちのままなヘキサ、構えなど必要とはしないと体で語っているようなものであり

それに頭にきているのか否か男の一人が得物を振りかざしてヘキサに襲いかかる

手に持つはやや湾曲した片刃の剣クックリ刀、使い込まれたそれは刃こぼれもなく飾り気もない

太刀筋も相当に鋭く実戦慣れをしている事が伺える

しかし、それでも一般的なレベルを抜けてはおらず・・

走る刃がヘキサに触れる前にその刃がピタリと止まった

「・・・!」

言葉を放たずとも驚愕する男、

それもそのはず・・渾身の一撃を放ったはずが刀身を軽く抓まれただけで全て受け止められてしまったのだ

三本の指で軽く抓んだだけ・・

「その程度の攻撃では、不意打ちに頼るしかないのも頷けるな・・」

呟くよう言うヘキサ、その間にも男は何とかしてクックリ刀を取り返そうと全力で力を込めるが

刀はどうしても動いてはくれない

それを見てか今度は男の反対側から鉄槌を持った屈強な男がその得物を振り上げ死角から襲いかかる

大型の槌は当たれば頭蓋骨程度は軽く粉砕できる程の物

その分命中率が低いのだが、それは確実に彼女を捉えている

しかし、そんな事などヘキサはわかりきっている、

もう片方の手を軽く広げ、そのまま振り下ろされた鉄槌を真っ向から受け止めた

ピタリと止まる鉄の塊、そしてしっかりと掴まれたそれはクックリ刀同様ピクリとも動いてくれない

「余り、ふざけるな」

そう言いヘキサは拳に力を込める

 

バキィ!!

 

瞬間に刃と槌が破壊される、鉄をも粉砕する圧倒的な握力

女の手で得物を破壊された事に驚く二人なのだがその刹那にその首が歪に折れる

ヘキサの手刀を首にまともに受けたのだ、それは即死の一撃・・

破壊された得物を持ったまま二人はそのままゆっくりと倒れた

余りに異常な戦闘、それに生き残った男二人は焦りを隠せずに剣を構える

しかしその切っ先は震えヘキサを正確に捉えられてはいない

「宿場町アスナを襲った報いを受けるがいい・・っと人間ならば言うのだろうな」

そんな様子にヘキサは笑い指で挑発する、放つ気配からして二人を逃すつもりはない

それは男達もわかり切っているようであり無駄とわかっていても一斉に斬り掛かる

だが、結果は変わらず・・

男達が刃を振り下ろすよりも早くヘキサの体が跳ね二人の体は凄まじい勢いで吹き飛び、二度と動くことはなかった

 

・・・

 

それよりヘキサは死体もそのままに集落の中を調べる

家屋内には生活を臭わす物が少なくその代わりに武器が沢山置かれていた

それは正にここが拠点として使われている証拠のような物であり大量の矢や火薬すらも仕舞われていた

さらに奇妙なのが傾斜の厳しい地形で最も奥に造られた集会場のような物・・

その中では人の形を模した石像が中央に安置されておりそれがどす黒い何かに塗れており

周辺には蛇などの小動物が切断され放置されていた

 

彼女には何かの怪しい儀式、石像に付いた物もその血である事は理解できた

結論としてはアスナを襲った理由はわからず先ほど仕留めた男達で全部なのかもわからない

それでもとりあえずは少しは落ち着くと判断しヘキサは探索を中断して集落の外へと出た

平原の入り口には四人の死体が当然の事ながらそのまま倒れている

風はすれどもそこは正に無音、

一種異様な空気に包まれていた・・が・・

 

「・・・、馬の音・・二頭か・・こちらに来るな」

 

外套をすっぽりと装着した状態でもその音を聞き取りヘキサは仁王立ちしたまま平原の一方向を見つめる

増援ならば始末すればいい・・そう考え相手の到着を待つつもりであり

数分もしないうちに草原から二頭の馬が駆けヘキサの前で停止した

 

一人は長めの金髪が特徴で革製の鎧を身に包んだ男

一人は草色のバンダナをし長い黒髪をまとめ遊牧民の服装をした女

二人とも得物を持っており馬に跨っているのだが、様子からしてこの集落の者達とは雰囲気が違う

「これは・・一体・・」

「貴方が、やったのですか?」

転がる死体に警戒心を持たせながら、女性が静かに訊いてくる

「・・・ああ、その通りだ。それで・・様子からして違うだろうがお前達はこいつらの仲間か?」

「まさか・・俺達は自衛機構の人間さ」

金髪の男が軽く言う、感じとしては嘘を言っているようではない

「・・なるほどな」

「貴方は、何故ここの人間を・・?」

「頼まれただけだ。小さな町がこの連中に襲われたそうだからな・・」

「町が・・?そいつは本当か?」

「ああっ、ここから南に行ったところにあるアスナという宿場町だ。

自衛機構とやらも回ってこずに捨てられたような状態だったな・・」

若干嫌味を交えて言うヘキサ

ホムンクルスらしからぬ言動なのだが、限りなく人に近い存在故にそんな事も可能

「奴らめ・・くそ」

「それで、ここの男達から何か情報は聞き出せましたか・・?」

「・・情報・・?さてな、死に際ですら口を開こうとはしなかったが・・」

「そうですか・・ありがとうございます。

後は我々にお任せください、もうアスナの方に被害は出させません」

「・・待て、その様子からしてみればここにいた連中以外にもまだ残っているようだな」

「ああっ、・・ってかこいつらは勢力の一つに過ぎないさ」

「・・・・・・・、話を聞かせてくれ。ただの一件ではなさそうだ」

どうやらただの盗賊団ではない事を感じ取ったヘキサ、

まだ依頼は続いていると判断し情報を仰ぐ

対し二人もこの集落で起こったことを説明してもらった手前拒否することもできず・・

「・・、わかりました・・。あっ、その前に私はナンサ、こっちはホクトと言います。貴方は・・」

「ヘキサだ」

「わかりました、ヘキサさん・・では、お話します」

ゆっくりと説明を開始するナンサ

死体が転がす集落、しかし吹きすさぶ風に血の臭いは流され余計な事に気を掛けずに話に集中できそうであった

 

 

・・・・・・・・・

 

 

ナンサの説明、それは正しく草原都市群の異常であった

この広大な草原には沢山の部族が生活をしている、

それらは独特の文化を持ち部族間の抗争もあったのだが

つまらぬ小競り合いをして食糧難を起こしては元も子もないとして

話し合いが行われその結果として現在の草原都市が誕生した。

そこに住まうのは断るも露店などを行い生計を立てる者達も多く

草原の民は草原都市群に対して大筋でその存在を認めていた

しかし、全てがそうとは限らない

草原都市を快く思わず我こそは草原の覇者として略奪行為を行う部族が幾つか存在が確認されており

都市への襲撃などを行っていた

だが、都市を守る自衛機構が設立されそれも一時期は落ち着きを取り戻していた

他国との物資流通により装備も良い自衛機構の人間に対して彼らは現地の道具しかないのだ

人員からしても組織と対抗するには無理がある、

故に略奪行為を諦める部族がほとんどとなっていた

 

それで終わればよかったのだが、ナンサの話では最近、

彼らによる襲撃事件が急増していたのだ

それもかつない規模で・・

迎撃に追われる自衛機構、何とか襲撃に耐えながら調査を開始して

襲撃の指揮を執っているのはセグ族と呼ばれる少数民族というところまでは調べ上げる事ができた

しかしそれ以上調査しようにも襲撃の手は激しく人手が割けない状況にあり

やむを得ず自衛機構は機動性に優れ腕の立つ戦士、

ナンサとホクトにセグ族の集落の位置などの調査を命令して二人は行動を開始していたのだった

 

 

「・・なるほどな。それでセグ族とやらの集落の位置を突き止めて襲撃を行うつもりだったのか」

 

話を聞き終えてヘキサが呟く

アスナが襲われた理由もそれだと納得が行く

例えそこに襲う価値がなかったとしても、草原の覇者として他部族を排除するのであるならば関係はない

「ええっ、規模としては大きくないですが要塞のようになっていると聞いていたので気を引き締めてきたら

ヘキサさんが壊滅していたわけです」

「まぁ、嬉しい肩すかしってところなんだけどな。流石に二人で殴り込みをするには分が悪かったし・・

しかし・・それを一人で壊滅させるとは・・あんたもすごいねぇ」

「ふん・・、それで、ここにもそのセグ族の集落というのはあるのか?」

「セグ族の物なのかはわかりませんが怪しい箇所はまだあります」

「・・情報量が少ないな。セグ族が他民族と手を組み草原都市を襲撃した可能性は高いのだな?」

「俺達はそう睨んでいる、でなきゃ規模がでかいしな・・。

そんな訳で都市群化に反対した部族の位置などを調べていたんだよ」

「なるほどな・・。しかし同じ目的を持っておきながら今まで手を組まなかったのはそれなりの理由があったはず

それを捨ててまで手を組む必要などがあったのか・・」

「謎ですね・・、それに襲撃したセグ族の中には見慣れない女性がいたそうです」

「女性?女戦士など珍しくもないだろう」

「普通ならそうなのですが・・

生き残った目撃者によると矢が刺さろうが火であぶられようが

全く動じずに片っ端から
斬り殺していったようです・・小柄な女性で、髪が蒼かったと・・」

「・・・・・・」

ナンサの言葉にヘキサの目は細くなる

「まぁ、その証言も眉唾物なんだけどな。命からがら、錯乱状態で逃げ出したようなものだし」

「・・・・、そうだといいんだがな。では、お前達はこのまま別の集落へ奇襲をかけるのか?」

「ええっ、もう一つ怪しい地点があります。

幾ら複数の部族が連なったと言えども拠点などそう多くはないはず・・

こっちの数が少なかった以上そちらが本命のようですね」

「こりゃ、気を引き締めていかないとな」

「・・・・・・・・、ふん・・ならば手を貸してやるか」

「え・・?いいのですか?」

「アスナを守れというのが依頼だ。ここで終わらせておけば後々またアスナに被害が及ぶ」

「そうですか、私は是非・・。ホクトさんは?」

「戦力は多い方がいいからな。この集落を壊滅させるだけの力があるなら俺も賛成だ

・・けど、ヘキサさん。あんた一体何者なんだ・・?

たった一人でやってのけるところ、名のある戦士だと思うんだが・・」

「戦士が全て名を売っている訳ではあるまい。それに私の素性などこの一件には無関係だ。

流浪の者とでも理解しておけばいい」

「・・わかった、それじゃ急ごうか

奴らがここの異変に勘づかれる前に先に仕掛けるとしよう」

そう言い急ぎ馬に乗り込むナンサとホクト

対しヘキサは何の文句も言わずに二人に続き草原を駆けるのであった

 

 

・・・・・・・

 

ナンサとホクトが狙った地点は草原の北西・・

貿易ルートから遠く離れ見渡す限り草原が続いている地点であり

この辺りともなると気候にも変化があり草も長く伸びている

その分視界は余り良くなくその中で集落があったとしてもおかしくはない

もちろん、普通に生活をするのならば腰元まで伸びている草は邪魔であり遊牧民もそれを刈り取っている

そうでなければ家事も禄に出来ないからだ

だからこそ、三人が視界にかすかに捉えた集落は正に異常とも言え

草も刈り取らずひっそりとそこに存在していた

 

「周囲から目を隠すために草を刈り取っていないようだが・・それが逆に不審だと言うことを現しているもんだな」

 

気付かれないように姿勢を屈め静かに笑うホクト

すでに日は沈んでおり月明かりが草原を照らしていた

その中で相手に気付かれないように馬を離れたところに止めてゆっくりと集落に近づいてきている

「そうとは言っても・・見回りはいるみたいね」

目を鋭く尖らせ周囲を警戒するナンサ・・

彼女の言う通り暗闇の中、灯りも持たずに周辺を見回している男が数人

集落の周りにいる事が確認できる

明らかに怪しいのだが草原に設置したテントの中にほの明るい光があるところ

中には相当数の人間がそこにいる事がわかる

「相応に警戒をしているか・・」

「っともなると三人で殴りこむにゃ厄介だな・・。どうする?ナンサ」

「私達が可能な限り接近するから・・ホクトは見張りを射抜いて、それが合図で突っ込むわ」

「・・待て、見張りの数が不明な以上不意に突っ込むのは得策ではない」

ナンサの立案にヘキサが難癖を付ける

「・・じゃあ・・どうします?」

「こうした場合は、相手を揺さぶるのが得策だ」

そう言いしゃがんだ姿勢のままヘキサは両手に軽く力を込める

するとその手のひらには風が集まって渦を作り出す

「・・っ。この風は・・!」

「こういう戦い方もある、見ていろ」

そう言いヘキサは風が集う手を前に押し出した

その瞬間突風が巻き起こり草を大きく揺らしながら集落へ襲いかかる!!

 

轟!!

 

突然の突風、それは集落のテントを大きく揺らし見張りの体勢を崩した

・・だが、流石にテントを吹き飛ばすだけの威力はなく風が通り過ぎるとテントは元の形へと戻る

しかし・・

布のテントより静かに火がつき燃え上がっていく・・

火の周りは早くあっという間に消火が不可能なほどそれは燃え上がった

「・・なるほど、テントの灯りを使っての火計か」

「これで相手は動揺する、後は各個に撃破するぞ」

そう言いヘキサは体を跳ねらせ敵陣へと突っ込んでいく

その動きに一切の迷いはない・・

「ヘキサさん!ホクト、私も前に出るから援護を頼むわよ!」

「了解した!火の手に気をつけろよ!」

そう言い、ホクトは弓を引き牽制をかけてナンサの突入経路を造る

ナンサはその動きにぴったりと合わせサーベルを抜いて駆けだし

火の手が上がる中での大混戦が幕を開けるのであった

 

─────

結果は最初からわかっていた

相手はそれなりに実戦の経験を持っていたであろうが

最強のホムンクルスとまで言われた戦士ヘキサに対して挑むには余りにも無謀

加えて火の手により混乱していた状態故に一方的な展開ともなった

集落には予想よりも多くセグ族の男達が待機していたようなのだがそれが逆に彼らに混乱を与え

その中でヘキサは一切の遠慮もなく次々と愚者を葬っていく

その拳は鋼の弾丸、その足は銀閃の刀・・

防御など無意味とも言える攻撃を目にも止まらぬ素早さで繰り出すのだ

例え頑丈な鎧を身に纏おうとも到底防ぎきれるはずもない

異常な女戦士の存在は男達をさらに混乱させ彼女から逃げようとする男達で集落はパニック状態ともなった

そこで活躍したのがナンサとホクト

普通に挑めば数の力で苦戦は必至なのだがこの状態では二人の方に利がある

特にホクトの弓は闇夜の中では恐怖の対象、草原に身を隠し放たれる一撃は男達を更に錯乱状態にさせ

その間を縫ってナンサが強そうな男から切り倒していく

ヘキサが目立っている状況ではナンサに気に掛ける者などほとんどおらず

まともに戦えば強敵となっていたであろう者も

これにより撃破ができ事態は三人の手によって一気に終結へと向かうのであった

 

 

「・・すげぇよな・・。まるで嵐の後だぜ・・」

 

「本当ね、このほとんどがヘキサさんがやったなんて・・」

 

草の焼ける臭いに包まれる中でナンサとホクトが呆然と見つめる

火の勢いは凄まじく放置しておけば大火事にもなっていたのだが戦闘終了とともにヘキサが軽く手を上げた瞬間

風が吹き燃えさかる炎が一瞬で消え去ったのだ

残ったのは焦げた大地とそこに転がる無数の死体・・

それらは全てヘキサが葬った者達でありどれもが一撃で絶命していた

やるからには一切の加減をしない、故に彼女を止めれる者など存在しない

「準備運動にもならん。姿を隠すのに地形を利用したつもりだが、余りにも滑稽だ」

そう言ってのけるヘキサ、夜風は外套を揺らしその鋭い目つきが微かに見える

そして彼女の前には座り込んだ初老の男が・・

この男こそがセグ族の長老、乱戦の中でヘキサに挑むも返り討ちに遭いそのまま倒れ込んだのだ

身動きが取れないように足の腱や肩を破壊されており時折苦しげに唸るのだがヘキサは全く気にも止めていない

「貴様を生かした理由はわかるな?」

「・・・・・・」

ギロリと睨み付けるヘキサに対して男は無言のまま・・

「女を連れて襲撃を行っていたのは掴んでいる・・その女はどこだ?」

「・・・・・」

無言を貫く男・・、すると・・

 

斬!

 

ヘキサの手がまるで鉈のように駆け、男の左腕を切り落とした・・

激痛に絶叫を上げる男なのだが構わずヘキサは男を蹴りその腹を踏みつける

「残念ながら、私は貴様らのような生ぬるい感情は持ち合わせていない。

目的の情報を聞き出すためならば・・ありとあらゆる苦痛を味あわせる」

ゆっくり脅すヘキサ、だがその眼力は鋭く必死で痛みに耐える男は

恐怖に体を震わした

「ア・・アスナだ・・今、奴に・・襲わせている・・」

「・・・・そうか。奴をどこで買った?」

「草原の中で倒れていた、嘘ではない」

「・・・・いいだろう」

そう言い踏みつけた足をどかし外套を深く被り直す

「ヘキサさん・・あの・・」

「事情が変わった、依頼主が危険な目に遭っている可能性がある・・

私は今からアスナに戻る。後はお前達に好きにしろ」

「えっ、おい!ここからアスナまでかなり距離があるぜ!?行くなら俺達の馬を・・」

「不要だ・・、時間が惜しい。ではな」

そう言い捨てて彼女は夜の草原を走り出す・・

それは正に全力疾走、跳ねる体は馬よりも早く草原の中に消えていった

「・・、どうする?ホクト?」

「あの女の事も気に掛かるがここで俺達が後を追う訳にもいかない。

とりあえずこいつを本部へ連行しよう」

「・・わかったわ、でもその前に応急処置ね・・。綺麗に切断している分何とかなりそうね」

残された二人はヘキサの事を気に掛けながらも、己をすべき事を優先し

重傷を負ったセグ族長老の手当をするのであった

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

ヘキサ達が襲撃した集落からアスナまでは相当な距離があった

到底夜明けまでに到着できるものではない

しかしそこはホムンクルス、ヘキサは持てる限りの力を持ってアスナへと急いだ

風術を使ってのホバリングによる高速移動、

魔力の消費は馬鹿にはならないのだがそんな事に構ってはいられない

全力でアスナへと向かうヘキサ・・

しかし流石の彼女でも自身の望み通りに事が進むとは限らなかった

 

 

 

「・・・・・」

 

夜がやや白みだした頃、彼女はアスナへと到着した

だが・・そこにもうアスナという名の宿場町はすでに存在してはいなかった

家屋からは火の手が昇っておりあちらこちらに転がる住民の死体

一瞬の内に命を奪われたようでありどれも心臓を一突き、それで終わっていた

そして・・その中で見慣れた少女の姿が・・

「ルル・・」

眠るように地べたに倒れているはヘキサに町を救って欲しいと頼んだあの少女・・

胸には赤い染みが広がっており体はすでに冷たくなっている

そしてその手には大事そうに何か紙を握っていた

それをゆっくりと取り調べてみる

”ヘキサお姉ちゃんへのお礼”そう書かれた小さなメモ、それとともに銅貨が6枚ほどあった

謝礼が少ない事を気にしていたのか彼女なりに懸命に稼いでいたのであろう

「・・・・・・・・」

そのメモと銅貨を強く握り締めるヘキサ

言いようのない感情が彼女の中を駆けめぐる

だが・・、その背後には何時の間には一人の少女が立っていた

感情がまるでない蒼髪の少女、

手にはロングソードが握られておりそれは異様なほど血で濡れていた

「・・・、私は今機嫌が悪い。・・一切の容赦はせんぞ」

振り向かずにヘキサが呟く、だが少女にその声は届いておらずおもむろに剣を振り上げる

刹那・・

 

バキィ!!

 

どう動いたのかそれがわからぬほどの速度

一瞬にしてヘキサは少女を殴り飛ばし、その華奢な体は燃えさかる家屋へと突っ込んだ

「・・さっさと立て。MVならばその程度何ともないだろう」

炎の中にそう投げかけた後、すかさず風の弾丸をたたき込む

衝撃と共に焼けた木材は折れ、炎は風に揺らぐ

その間から地を這うように少女・・MVが駆けだした

鋭い踏み込み、そのまま一直線に刃を立てて彼女の心臓目掛け突きを放つ

だが敏捷性ならばヘキサの方が上、軌道を瞬時に見切りMVの刃を掴もうと手を伸ばす・・

普通ならば手のひらを貫通してしまう無謀な行為・・

しかし彼女の手は白い風に包まれていた

そして・・鋭く空を切るMVの剣はヘキサの手に触れた瞬間に消えていき

勢いとともに剣身を消滅させた

「消えろ、人形が・・」

怒りとも悲しみともつかない低い声でヘキサはもう片方の拳にてMVの頭部を殴りつける

白い風を纏った拳、それがMVに触れた瞬間・・少女の頭部は吹き飛びその体は機能を停止させた

白風(ホワイトソニック)

物質を消滅させる禁忌に近い魔術、余りにも強力な性能だが使用に制限が有りすぎたために忘れられた魔術

その使い手が彼女であり宿敵以外の使用は控えていた

だが今は違う、そうしなければ気が済まなかったのだ

 

「・・・・・」

 

無言のまま立ちすくむヘキサ

今まで感じたことのない感情に体は無意識の内に震えていた

そこへ・・

 

『おやおや、よもやMVを殺すとは・・おかしくなったって話は本当のようだね』

 

彼女を見下したように声を上げ炎の中から姿を見せる女性

ヘキサと同じく白い軍服を身に纏い髪は長めの金髪、

顔立ちは整っており美女とも言えるのだが放つ気配が異常さを伝えている

そして腰には飾り気がないロングソードを下げておりそこがヘキサとの違いを印象づけていた

「・・・これは貴様が指示した事か?スクエア」

金髪の女性、スクエアの方を見ようともせずにそう声をかける

「まさか、MVの流通なんざ私には関係がない事だよ。私の獲物はお前だけさ・・」

「私を追っていたのか・・」

「マスターからの命令でね、まぁ造物主を裏切るとは流石は六角型(ヘキサゴン)思考(デヴァ)魔石(イス)

頭の良い子は違うねぇ」

「貴様よりかは性能が良いという自負はあるさ。貴様と違い私はこの光景に苛立っていてな」

「へぇ・・依頼主のお嬢ちゃんを救えなくて腹が立ったっての?人間みたいな事を言うのねぇ」

「ふん・・、『アイリーン・セル』の産物である貴様が人間を語るとはな」

「・・・・・・、その名を言うんじゃないわよ・・殺すわよ?」

「どの道そのつもりなのだろう?

この程度の挑発に乗るとは・・四角型(スクエア)思考(デヴァ)魔石(イス)もアイリーン・セルに並ぶ欠陥のようだな

解体されずにペットとして生かして貰っている分、親への忠誠は出来ているのだろうな」

「貴様ぁ!!!」

激怒と共にスクエアの体が宙に舞う・・

凄まじい勢いとともに鞘を持ち踏み込み式の居合いを放ち斬り掛かる

その動作は正に達人芸、一瞬にしてヘキサを捉え刃を放つ・・が

それに当たるヘキサではなく素早く飛び退き紙一重で回避してみせる

それでもスクエアは躊躇する事なく二撃目を放ち攻撃を繋げる

隙がない超高速の斬撃、常人ならば捌ききれる物ではないだが

そこは異常人、抜群の反応を見せ全て紙一重でそれを回避してみせる

「どうした!手も足も出ないのか!!」

攻撃の手を全く緩めないスクエア、反撃しようとしないヘキサをあおるのだが

彼女は全くの冷静であり的確にその攻撃を捌いていく

「はぁぁぁ!!!」

苛立つスクエア、このまま一気に押し切りヘキサの体を切り刻もうと強引に切り込もうとした瞬間・・

 

バキィ!!

 

ヘキサの拳がロングソードを破壊し、そのままスクエアの顔にめり込んだ

「ぐぅぅ!!!」

瞬間、その体は吹き飛び折れた剣の破片は四散した

その中ヘキサは仁王立ちをしてその様子を見やる

「貴様・・!」

「ふん、なるほどな・・」

「何をほざいている!?」

「貴様の技など所詮は植え付けられた情報に過ぎない。癖がなければ見切るのはたやすい」

「何だと・・!?」

「自身で身につけない技など、偽物に過ぎないという事だ。

貴様には私は倒せない」

見下すようにスクエアに言ってのける

彼女にしてみればスクエアという存在は自身よりも格下と思っているのだろう

「貴様・・、ならば本気を出してやる!」

鋭くヘキサを睨みながらスクエアは両手を地につける

瞬間その手に魔法陣が展開されて異変が起こる

手の周辺の地面がボコっと音を立てて消えていく

そしてそれに合わせるようにスクエアの手に表れていく透明な物質

それは透明な片刃の剣

青竜刀にも似た形状をしているのだが透明なために視覚で捉えずらい

彼女は両手にそれを持ち、二刀にてヘキサを屠るつもりだ

「『武刃錬成』・・鉱物を変質させて強度のある硝子剣を造り出す術だったか」

「格闘専門の貴様にはこの術の恐ろしさなどわかるまい」

「わかる必要もあるまい?得物がなければ戦えない欠陥品の恐ろしさなどな」

「ならば徹底的にたたき込んでやろう!私の方が貴様よりも優れている事をな!!!」

そう言いスクエアは今までにない速度でヘキサに飛びかかる

その刹那に空を切る硝子剣

見え辛いそれは切り払うと、もはや全く見えず

間合いはほとんどわからない

「・・ふん」

瞬時に飛び退くヘキサ・・だが・・

 

チッ

 

それよりも早く見えない刃が駆け、ヘキサの外套と頬を浅く切り払う

剣風により外套のフードは取れその美しい蒼髪が表れるのだが彼女は全く気にせずスクエアから距離を取る

だが簡単に逃すスクエアではなくさらに踏み込みヘキサを仕留めようとする

猛烈な連撃、二刀流故に攻撃に隙はなく透明故に回避はし辛い

加えて人外の身故に身体能力はヘキサと同様に桁外れの瞬発力を見せ、敵を切り刻もうとする

この時点で並大抵の使い手は五体満足ではいられないであろう

・・しかし、攻めるのが超人ならば捌くのも超人

鋭い眼光をそのままにヘキサは一定の距離を保ちながらスクエアの攻撃を見切っている

怒濤の勢いでの攻撃、普通ならば捌ききれるものではないが彼女がもらったのは最初の一撃のみ

残りは全てギリギリの距離で回避している

「うおおおお!!!」

攻撃が当たらない事に苛立つスクエア、次第にその連撃に余計な力が込められて

攻撃の間の隙が大きくなっていく

そこに・・

 

キィン!

 

一閃、ヘキサの足が刃となりスクエアの硝子剣の一本を切断した

ソニック・スラッシュ

風術により鋭さを増し鉄をも切断する蹴りを放つ技、

相手の攻撃を見切り放ったそれは強固なる刃を簡単に切り飛ばした

「はぁ!」

相手の攻撃を無効化した瞬間、さらにヘキサが続ける

蹴りを払った足をすかさず地に付け勢いをつけて肘打ちを放ち・・

 

ベキ!

 

「ぐ・・・!!」

快音とともにスクエアの顔面に直撃、その体は吹き飛び頭から地面へと落ちる

しかしその刹那にスクエアは折れた硝子剣を捨てて地に手を付きそのまま体を回転させながらヘキサと距離を取る

そして・・

「死ねぇ!!」

飛び退きながら手から何かを放つ・・

それは地に手を付き飛び退いた瞬間に握った砂を術により変化させた硝子のクナイ

見えない投擲物は風を切りヘキサの胸元へと襲いかかる

無防備のヘキサ・・そして透明な刃が彼女の体に突き刺さろうとした瞬間・・

彼女の体は陽炎のように揺らめき消え去った

「な・・っ!?」

何が起こったのか理解できないスクエア

その瞬間、彼女の懐にヘキサの姿が忽然と現れた

 

 

「貴様など私の敵ではない」

 

 

それは自分に勝利した男が使った連携

ここぞという時に残像を使い相手の隙を狙い懐へ飛び込む

彼女ならば懐に入られたとしても反応はできたのだが、

スクエアはそうはいかず・・相手に決定的なチャンスを与えてしまう

「超速拳・・裏千手」

放つは超高速の乱打(ラッシュ)

速度は音速までは届かないが一撃一撃が必殺の豪拳

拳の雨はスクエアの体に襲いかかり瞬間凄まじい打撃音とともにその体は宙へと浮かぶ・・

「・・落花閃!」

瞬間、ヘキサの体は跳ね宙に浮かぶスクエアよりも高く跳ぶ

そして・・

 

ドォン!!

 

 

勢いを付けての蹴り落とし

クロムウェルの『ゲシュペンスト』が踏みつけるように蹴り倒すのとは違い

ヘキサは鎌のように足をしならせ相手の首に叩きつけてそのまま地へと落下させる

スクエアの体は凄まじい勢いとともに地面へと激突し大きくバウンドをする

「これが貴様と私との違いだ!」

蹴り落としたままで滞空しスクエアに叫びながらヘキサは両手に風を集める・・

そして・・

 

ドォン!ドォン!ドォン!!!

 

連続して放たれる風の弾丸、それは正しく雨となり倒れるスクエアの体に降り注ぐ

加減なしの追撃、衝撃で地は陥没し、砂煙が巻き起こりスクエアの体を隠していく

それでもヘキサは手を緩めずに風弾を放ち続け止めに巨大な風弾を叩きつけたところで身を翻して着地をした

巻き起こる砂煙・・、スクエアがいた地点は大きなクレーターのようになっており彼女の様子は確認できない

「・・邪魔をするなら貴様でも容赦はしないぞ?デルタ・・」

そんな中でヘキサは砂煙の中にそう言い放つ・・

すると、視界を遮っていた煙は一瞬にて吹き飛んだ

そこにいるは気絶しているスクエアを抱えた女性の姿・・

白いローブを身に包んだ碧髪の女性、だがその瞳には感情のような物が感じ取れず

MVに良く似た雰囲気を持っていた

何時彼女が現れたのかは全くわからず風弾の雨により地は削られているものの

二人に傷らしいものはない

「いえ、私の目的はスクエアを連れ戻す事です」

ヘキサの呼びかけに応える女性・・デルタ

その声には感情が全くない

「・・そいつの使命は私を屠る事ではなかったのか?」

「はい、そうでした。

しかしマスターは貴方に興味があるとおっしゃり貴方をしばらく放置すると決定されました」

「・・・放置だと?」

「はい」

「ふん、どこまでも見下した事をする・・。

残念だがあの女の思い通りになるつもりはない、貴様とは違ってな」

「貴方ならそう言うだろうとマスターもおっしゃってました」

思考はあれども感情はない

あくまで淡々とそう口にするデルタに対しヘキサは軽く舌打ちをした

「・・・・ふん」

「では、これより帰還します。

ヘキサグラム・・時が来ればマスターは再び命令を出します。

その時は御覚悟を」

「誰が来ようとも返り討ちにするまでだ。

そしてもう一度言う・・私はあの女の思い通りになるつもりはない。
・・伝えておけ」

「かしこまりました、では、失礼します」

礼儀正しく一礼をしてデルタとスクエアの体は閃光を放ち、

次の瞬間にはそこには誰もいなかった

 

「・・・私の相手は・・あの男のみだ」

 

誰もいなくなった空間でヘキサは一人、そう呟くのであった

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

やがて、草原の日が昇る

アスナを包んだ火の手は鎮火され、生者なき宿場町には静寂が支配していた

そこへやってくるは馬に乗ったナンサとホクト

自身の仕事にケリをつけた後にヘキサの様子を見に来たのだ

そして二人が見たのは焼け落ちた家屋の群れと

一箇所に纏められた住民達の遺体

そしてその姿を静かに見つめるヘキサの姿が・・

 

「ヘキサさん!」

 

ナンサの呼びかけにヘキサは静かに振り向く

一瞬、彼女が泣いているように見えたのはナンサの気のせいでなのか否か・・

「・・、お前達か。そちらの首尾は上手く行ったようだな」

「ああっ、あの長老から情報を聞き自衛機構が一斉に動いて討伐は完了したよ。

被害はゼロ・・ここを除いてな」

「・・・そうか・・・」

「ヘキサさん、アスナは・・」

「襲った奴は始末した、被害は・・抑えられなかったがな」

そう言い積み重なる死体を静かに見つめる

無造作に集められた中、あの少女の遺体だけは手を合わせて綺麗に安置されている

「・・・そうですか・・」

「すまない、お前達に頼みがある」

「・・えっ?」

「この遺体を手厚く葬ってやってくれないか・・?金なら出す」

そう言いナンサに手渡すは金貨、それも20枚はある

「お、おい!こんなに・・いいのかよ!?」

「ああっ、この地に眠らせてやってくれ。慰霊碑ぐらい建てられるだろう」

「・・・・・、わかりました。必ず・・」

「頼む、後・・霊碑にはこれを入れておいてくれ」

取り出すは綺麗とは言えない銅貨9枚・・

「これは・・?」

「依頼料だ、そこで眠っている少女の・・な。

依頼は失敗だ、従って報酬は依頼主に返さなければならない

・・一緒にしてやってくれ」

「・・・はい」

「なぁ、ヘキサさん。これからどうするんだ?あんた程の腕なら・・自衛機構で働かないか?」

「残念ながら、私は属する事はできない身でな。旅を続けるさ」

「・・そっか、じゃあ何か困ったことがあったらいつでも訪ねてきれくれよ。あんたの力になるぜ?」

「・・・ふっ、そんな機会もあるとは思えんが・・

その時が来たならば・・声をかけよう」

「ヘキサさん・・」

「では、私はもう行く。後は頼んだぞ」

そう言いヘキサは外套を羽織り廃墟を後にゆっくりとする

吹きすさぶ風の中、白風の拳士は草原の剣士に見送られ一人地平線の彼方へと消えていった・・

 

 

 

 

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