「ブラックウィドゥ」




おっす、おらクロムウェル

ルザリアの新領主さ!!

 

王様とハゲリバンの陰謀により領主に祭り上げられて早一週間

まぁそこそこ忙しい生活だった。

う〜ん、領主職ってのは自分の担当地区の面倒を見るかと思いきや意外に面倒な付き合いも多いらしく

領主同士の会合にも出席させられた

・・まぁ、いつもはそこで悪巧みでも行っているんだろうけど俺が出席したら一同氷付いていたな

俺とアンジェリカ、フィートは全員サングラス着用でいかにもその筋の人間っぽかったし・・

机に足を投げ出して話をしていたら誰も話をしなくなっちゃった♪

・・まぁ余所はどうでもいいんだけどな。

他は俺は特に変わった様子はない、

都市の各地域を巡回する機会が増えた程度で面倒な事はアンジェリカとフィートが軽く済ましている

専門知識が必要と言えどもそれ以上に良心ってのが必要なのがこのお仕事

だから大した難しさでもないらしく毎晩軽く打ち合わせをする程度で事は上手く運んでいるらしい

まぁ、法王レベルだからな。

学者としてでも超一流な分こんな事は軽いんだろうさ

 

余談だけど・・貿易都市ルザリアの長だったら市長の方があっているんじゃないかってタイムに聞いたら

昔はここはルザリア領って分類になってそれが一箇所に集まって今のルザリアになったんだってさ

他都市の領主も同じ理由でありそのまま長を領主って呼ぶようになったんだとさ

・・まぁ、呼び名なんてどうでもいいんだけどさ

 

そんな訳で今日は夕刻から議会と会議を開く予定で

俺も外出が禁止となっており暇なので屋敷を案内したいかと思います

・・・いあ、タイムも仕事だからさ・・

 

「会議も面倒臭いんだけどな」

 

とりあえずは庭から・・、

前の別荘は大きかったのだが俺はでかいのは使いづらいと注文つけた分、屋敷はやや小さい

・・っても一般的に見りゃ相当なんだけどな。

だからその分庭は余計にでかくなっている

まぁラベンティーニの一件でフィートが派手に破壊してからは

ガレキを撤去した以外は特に手を加えられておらず

一応俺の朝練で走り込みに利用しているがそれ以外は未使用な部分も多い

そこらはベイト達が家庭菜園をしたいと言っていたし

アンジェリカも騎士団屋敷で育てていた薬草をこちらに移動したいらしいから

皆さんにお任せします・・って事で。

因みに敷地の外壁も白く塗り門もしっかりしてます。

安全性を考えたらもっと高い方が良いとロカルノは言っていたようだが

・・やりすぎるとさ、収容所っぽく見えるから・・

 

そんな訳で中へ・・

ロビーは吹き抜け、中央にでかい階段があり2階へと通じている。

で、どこから用意したのか大型なシャンデリアが天井からぶら下がっている

ここだけでも貴族〜って感じするけど、まぁ気にする必要もないか

大まかに分けたら2階はプライベート空間、俺やタイムの私室があり、客間とかも供えている

対し1階は食堂、執務室、応接室など領主セットと

ベイト達の私室、アンジェリカ、フィートの私室と書庫となっている

ロビーを中心に左側が食堂など、右側が法王空間となっている

左側は入ってすぐに妙にでかい食堂、

それに隣接するように厨房と客間があり奥の方に応接室と執務室と浴場

一番角にベイト達四人の部屋となっている。

ベイト達は一応騎士団に雇われている身、

だけど騎士団屋敷ではすでに仕事がほとんどなくなっているために

これを機に騎士団屋敷に二人、俺の家に二人・・っというローテーション制を取り入れる事になった

まぁ部屋は全員ここに用意したんだけどな。

中身は・・見ないということで、プライベートな部分は口出し無用って事で約束したからな。

だから幾らベイト達でも2階の俺達の部屋には仕事以外で近寄るのはタブーです

でなけりゃ色々デキないじゃん♪

まぁそんなもんかな・・

ああっ、因みに執務室と応接室は一応そう名付けているけど実際は客間とそう変わらない。

執務って言われても俺は騎士団屋敷の団長室でやっているからな。

まぁ客人用に応接室がやや豪華なように造った程度なんだってよ

 

次に右側、アンジェリカとフィートの私室がメインでここらは・・余り見ない方がいいね。

奥には同規模の巨大な書庫がある、

後は多目的部屋と称された謎の部屋が・・

アンジェリカさんの事ですから妙な儀式部屋っぽいのですが鍵かかってますので詳細ほんと不明・・

書庫は・・ね、フィートとアンジェリカの所有物を並べたら

このくらい必要だったという事で
綺麗に整理されている・・、

俺は魔術は素人だけど知識人にとっては夢のような空間なんだろうね

そんな訳で基本的に一階で足を立ち入るのは食堂と浴場ぐらいになる

 

そしてプライベートな2階、

こちらも左側と右側に分けて右側は倉庫や客間らしい・・

けど使う機会がないのでまた追々改造していくそうだ

んでもって俺の生活の基本である2階左側、メインは俺とタイムの私室、

両方とも同規模で結構でかいベッドがあるんだが俺もタイムも元々私物が余りないために余計に広く感じる

それ以上にすごいのが二つの部屋が通じている事・・

廊下に出ずとも俺とタイムの部屋を直結させる通路なんてのを造っているのデス

すごいね・・カラクリ屋敷かって突っ込みたいところなのだが何の気遣いなのか、

通路だけではなく小さい浴場まで造ってます

つまり浴場を挟むように俺とタイムの部屋があり、

浴場に入るには直結させる隠し通路からじゃないと駄目

まぁ要するに俺とタイム専用のプライベート浴槽という事で・・

・・何に活用するんでしょ♪

他は〜、トレーニングルームなんてのもある。

結構な空間であり訓練用具も色々と・・まぁここは俺だけじゃなくて皆共有なんだけど・・

それと書斎か、まだ使った事ないけどな・・

 

使うこと・・ないかも・・

 

こんなところかな〜、必要な物があるなら随時増築はできるという事らしい。

っというのも建築費用が思ったよりも安くできたらしいんで余っているんだってよ。

そう言うのは・・ね、普通なら返すらしいんだけどこの屋敷はまだ「建築中」って事だからいいらしい

屁理屈だな、まぁ・・良い案が出ればまたクラークさんに頼むか

 

「あらあら、領主様が夢のマイホームを見歩いて悦に浸っているのかしら?」

 

むっ、突如背後から話しかけてくるはアンジェリカさん

いつもの挑発的な服装ではなくて黒いスーツ姿・・非常にキャリアレディですね

堅さ100%のビチッとしたスーツだが金色のライジングブル胸章が付けられている

俺のパーソナルエンブレムらしいんだ、これ・・

別に俺個人が決めた事じゃないからあしからずに。

一応、アンジェリカは俺の助役って事だからな、

それを現すためにフィートとお揃いでこれを作ったそうだ

ただ身分を証明するためだけに超犬猿の仲のこいつらが合わせる訳がない

・・・・、たぶん胸章のどこかに何か仕込んでいるな

それに目が合ったら1回だけ何でも命令できるとか・・

「そういうのは自分で建てて思うもんだ。

迷子にならないように探索していたってところだよ」

「あら、そうなの?・・そこまで迷うほどの規模かしら、

領主が住まう屋敷にしてはたぶん最小よ?」

「そう言う大きさを競う事ほど無意味なもんはねぇぜ?

東国に良い諺がある、『座って半畳寝て一畳』ってな」

人間そのくらいのスペースがあれば最低限の生活はできるって意味だ

確かに〜、前のボロアパートでも不自由はなかったからな

「ふぅん・・貴方にしては随分と教養のある話ね?」

「人を阿呆扱いしてくれるな、まぁ・・勉強は苦手だったんだがな。でっ、どしたんだ?

確か今日の会議での内容について纏めていたんだろ?」

ここ数日はもう助役職一色なアンジェリカさん。

・・ってか、ルザリア騎士団の面々にゃもう教える事はないって事らしいからな・・

そりゃ、魔術師としてはまだまだ初心者だけど

騎士が扱う魔術としてはかなりレベルが高いところまで上がったらしい

後は個人に適した術を自分で学ぶのみ・・って事で放置してます

まぁ〜、そう言うものらしい。

教える術によってどんな術師になるかは千差万別らしいからな

そこまでアンジェリカさんが決める事でもないか

「ええ・・それも一段落ついてね。

でっ、いい加減領主様から議会に対して何か提案しないのかしら?」

・・俺・・?

「いいんじゃねぇか?別に」

「そうもいかないわよ、

大概の事は私達でやるけれども貴方がしっかりしないとつけあがるわよ?

特に貴族地区の人達は・・ね」

──なるほどな、最初は俺という存在に怯えもするがお飾りとわかれば

色んな手を使って失脚させようとするだろうな、

まっ、そこらは連中の十八番か

日々そうやって他人の揚げ足を取りのし上がって利益を貪る

・・確かに懐は暖かくなるだろうが心と良心は凍結モノだな

・・最初からねぇか・・

「・・おっけ、何か考えておくよ。

んじゃ、そろそろ昼だし・・飯喰ってもうちょいグダグダさせてもらおうかね」

「はいはい、まっ、期待しているわよ・・領主様?」

悪戯っぽく笑うアンジェリカさんですが・・、俺に期待しても・・な。

寧ろ逆だよ、逆・・

まっ、一応引き受けた仕事だし、気楽にやるとしますか

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

夕刻より議会会合が開始された

場所は貴族地区内にある議会用の施設・・

まぁ、普段は余り立ち入らない特殊な館です

前々からそこで議会運営なんかが行われていたらしいんだってよ。

故に門には「関係者以外立ち入り厳禁」のプレートがしっかり掛けられていた

まぁ重要機密が話し合われる場所だからな

そんな訳でそこを軽く通過しながら会場へと足を踏み入れる、

そこは50人程度が座れる大会議室

流石は貴族屋敷で飾り気はないもの壁や柱まで重厚な雰囲気を出している

そしてそこに集うは正装な皆々様、

各地区の代表としてギルド長やら井戸端女王やら辛気くさい貴族紳士やらが

緊張した面持ちで集合し自席に座る

その中でアンジェリカが進行、場を完全に取り仕切っており空気が張り詰めている

・・まぁ、新体制ということで全員緊張が取れていないらしい。

前領主の頃はこういう事ってほとんどなかったからな、初会合という議員も多いって話だ

そして貴族連中は俺に警戒しているらしく目を合わさない

 

「──以上が都市の現状です。

来月に発令する条例が2つ、これによる情勢の変化はまた再来月にデータとして報告致します

尚、前領主は行っていませんでしたが

長期に渡り効果がでない、
または悪影響を及ぼすような条例は

不良案として廃止する方向で検討をしますのであしからずに・・」

 

静かに言うアンジェリカさん、静かな言葉ながらもトゲトゲしいですな

反論する奴もいない

まぁだけどそれは当然、法律なんてものは人が考えるために全てが良いものじゃない、

中には不良品だってあるわけだ

それを法律ができたんだから後は従わなければならないと高圧的にして

自分の利益を守るのが阿呆な権力者の考える事・・

使えないもん放っておく程貿易都市は甘くない

「・・アンジェリカ女史、ご苦労さん。まぁなんだ・・皆そんな緊張せずに気軽にいこうや」

「・・領主、そのような態度は示しがつきませんよ?」

流石は元講師、注意の声が鋭いですねぇ・・

「やることをやっていれば問題ねぇよ、そうそう、以前決定した公園を利用したバザールの件だけど・・

意外に好評だったな、事後の清掃もきちんとしていた」

俺が印鑑押した案だ、その後採用されてこの間行われたらしい

「ええっ、露天商達も喜んでおりました」

いきなりふられてやや驚く商業地区議員だが、素直に感想を言っている

ま・・人が集まればそれだけ金も動くからな

「そこそこ稼げたか・・ああっ、それでな。

面白い事をやっていると王都の大道芸人達が目を付けてな。

今度のバザールで同時にショーを行いたいって申し出があるんだ。

どうだ?そっちの方でも都合はつけれるか?」

「は、はい!それはこちらも喜ばしい事です!」

「うんうん、まぁそこまでの事になると警備も必要だから、騎士団での警備も行う。

王都の大道芸は一流だからな・・

宣伝を行えば沢山来るだろうから、事故犯罪が起こらないように気をつけるように」

「はい、ありがとうございます」

「・・領主様、それは騎士団との折り合いは付けているのでしょうか?」

・・うわっはぁ、視線が鋭いぜ、アンジェリカさん

「普段の見回りがちょいと賑やかになる程度だ。事後報告でも問題ない」

「・・そうならばいいのですが・・」

「ぬははは・・まぁわかってくれるさ。

まっ、前置きはこのくらいでいいか・・皆、ちょっと聞いてくれ。

今日はちょいと重要な議案について語りたいと思っている」

「・・重要・・ですか?」

「ああっ、この都市は代表者に区別がつけられているように

商業、工業、住宅、貴族とブロックに別けられている

それはそれぞれ他ブロックを支え都市機能が成り立っている。

商業で貿易がなされた物資が工業に活用され、工業で産まれるモノが住宅を支え、

住宅はそれら二つのブロックで働く者達の安息の場所となり

貴族の商人は商業、工業の経営にて利益を生み出している

・・だが、この都市にはまだもう一つブロックがある」

「──テント群の貧民どもか。ちょうどいい!領主様、テント群の撤廃を!」

席を立って意気揚々と言う貴族地区の議員

こいつらはテント群潰そうと躍起になっているからな

「早とちりするな。

それに貧民と言えども都市機能に影響を及ぼしているのは確実だろう、なぁ、商業と住宅の?」

 

「はい、確かに騎士団から斡旋されたテント群の労働者達はよく働いてくれています」

「私達も・・地区の清掃活動に積極的で迷子になった子を親元に届けてくれているなど評判は良いです」

 

ふっ・・まぁセイレーズ爺さんの教育の賜ってか

この二つの地区での評判は上々、工業地区でも重労働に就いている貧民も多く同意見のようだ

「・・って事だ。

貧民やら難民と言えども労働力としては貴重な戦力となっている。

言わば『縁の下の力持ち』って奴だ

それらを現状のまま放置しておくのはどうにも不憫だとは・・思わないか?」

「なっ!?領主!もしやテント群の貧民共に市民権を与えるおつもりか!」

「──静粛に。ここは罵声を上げる場ではありません」

キッとアンジェリカさんが睨み付けると憤る貴族地区の男は渋々席についた

「そこまで急激な事はしねぇよ、元々別のところから流れ着いた者達だ、

そう簡単に権利を与えたら余計に余所から来てしまうからな。

ただ、テント群としても都市としての方向性について意見を言ってもいいだろう」

「・・では、テント群の代表者を議会に入れる・・っという訳でしょうか?」

「馬鹿馬鹿しい!奴らと我らを対等とするおつもりか!!」

 

「───静粛に、・・・何度も言わねば理解できませんか?」

 

軽く殺気を出すアンジェリカさん、おおっと、言った奴青冷めていら・・

いあ、本気で殺すからね、この人。

現に今までにも貴族地区の議員さんが謎の大けがをしたらしいんだって♪

「・・おい、貴族地区の、もうちょい冷静に考えろ。

貧民貧民と言いながらもそこまで連中は悪影響を出していないだろう?

現状でもテント群は騎士団が面倒を見てそこで決められた約束を守れなかった奴は容赦なく追放しているんだ。

賄賂や汚職をしているどこぞのお金持ちよりも、誠実っちゃ誠実だぜ?」

「・・っ!」

目が泳いでいる・・、心当たりはある・・か。

「ふん、まぁ都市の方向性についての意見はテント群からも聞くべきだ。

貧民という事でテントに暮らし安い賃金で労働に就いていたとしても

それにて役立っている人がいるんだからな

だが、それで他の地区と対等にするのもやや傲りが見える。

そんな訳で一名だけ、テント群の代表者をこの議会に招きたいと思っている・・異議のある奴は?」

 

「住宅地区は問題ありません。

以前のようなならず者の巣窟ならば断固反対しましたが住民のテント群への印象は悪い物ではありません」


「商業地区も同様です、彼らには助けられていますからね」


「工業地区も同じだ、急に人手がいる時などに手を貸してもらっている。

領主様が言わなくても俺達が発案しようと思っていたところだ」

 


「ありがとよ、・・でっ、貴族地区は?たかだか一人、代表者を決めるだけでも反対か?」

「・・・、異議はありません・・」

思いっきり異議ありそうだけどな。まぁそう言った以上は反論もできまい

「ですが・・その人選はどうなさるのですか?」

「ああっ、そりゃ言い出しっぺがやるべきだろう?俺が選定するよ。異議ある人は〜?」

・・なし・・か、まっテント群という環境に精通しているのはこの中じゃ俺ぐらいからな

「よし、そんじゃこの件の結果は後日報告するよ。

俺からは以上・・アンジェリカ女史・・何かある?」

「・・先ほどの大道芸人を招く事について打ち合わせをしておいた方がよろしいかと思います」

そう言いながら自分の考えを述べ出すアンジェリカさん

・・ううむ、しばらくは続きそうだな・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「それで・・テント群の代表者を決めるわけね」

 

「ああっ、セイレーズ爺さんあたりが適任だろう」

 

「適任ね、でも交渉は貴方一人で行きなさい」

 

「わかっているよ・・ってかさ・・毎度ながらテーブルでかいんだよ!!!」

 

仕事を終えて皆で夕食

・・フィートは不在だが仕事終わりのタイムが帰宅して食堂に集まり

仲良く食事となったのだがいかんせん無駄に長いテーブルが違和感を与える

「いいじゃない、食堂なんだから・・こうして隅に座れば問題ないでしょう?」

隅の一角に集まって食べるのは食堂は食堂でも学生食堂ですね・・

「会食用も兼ねていますのでそれは仕方ありません、坊ちゃん」

俺の隣で立ちピシャリと言うは巻き髪メイドのアイヴォリー・・

「そうですよ、それに・・少し短くしたんでしょう?」

その隣でジョアンナが呆れ顔で言う・・



あれは俺が旅行から帰ってきて間がない日だった・・

領主になった祝いとして13部隊の皆がお祝いに駆けつけたんだ。

それでここでドンチャン騒ぎ、

全員酒が入ったところでクラークさんが賭けをしたいと騒ぎだしこの長いテーブルを使う事になった

ルールは簡単、テーブルの隅にコインを半分はみ出すように置き

それを手の平で叩いて飛ばして一番遠くまで飛んだ奴が勝ち

でも落ちたりしたら即失格という事で何故か全員で盛り上がった

・・そんなかで、お酒入ったシグマさんが・・ね。

いあ、深刻そうな顔していたら娘さんの事でかなり悩んでいたらしいから

こっちで面倒を見るって事で俺が話をつけたんだよ

そしたら気を良くしてお酒が進んじゃったらしくてさ・・

思いっきりコインを叩いたらテーブルが・・メキャッてね♪

・・因みに今花瓶で隠しているが・・コインは壁に半分埋まってます。



シグマさん、嬉しかったんだなぁ・・


「それはそれ・・だ。でっ、今日は二人か・・珍しいな」

一応ベイト達はローテーションで務めているんだけどこの家にはベイトが担当する事が多い

そんな訳で今日の夕食も珍しいアイヴォリーとジョアンナの料理

アイヴォリーは特製のビーフシチューを作りジョアンナは何故かナンを作った

・・得意料理・・らしい。

ジョアンナって料理駄目だったからな・・

「ええっ、何でも体術講習をマーロウ氏が希望しておりそれに応えるためにシフトを変えました」

「ふぅん・・マー坊な・・がんばっているのか?タイム?」

そういや最近テント群を茶化しに行っていないからなぁ・・・

「やけにがんばっているらしいわよ。

自己鍛錬を欠かさずに捕縛術等にも熱心に学んでいるって・・

でも、彼個人では判断能力が致命的だからね。

ニクス君とセットで上手く回っているらしいわ」

──ふむ、あのまま二人はコンビになっちまったか。

まぁ能力的にはちょうどいいのかもしれないが・・

ニクスに何か悪い事をしたような気も・・

「化けるもんだなぁ・・、まぁそれで回せるならちょうどいいか」

「・・ふぅ、クロムウェル、

くつろぐのは結構だけど・・タイムさんに報告する事・・忘れていない?」

食後の珈琲を口にしながら悠然というアンジェリカさん・・報告?

「えっ?テント群代表の事だろう?言ったじゃん」

「──はぁ、自分の提案ぐらいしっかりと覚えていなさい。

タイムさん、今日の会合にて今度王都の大道芸人を招いての

ショーを交えたバザールを行う事になったわ。

先方から申し出があってクロムウェル(・・・・・・)()承諾したの、

大きなイベントになると思うから騎士団の警備は必要不可欠ね」

・・あ〜、そんな事言ったっけ・・・って・・あれ・・?

タイムさんの顔つきが険しく・・

「・・クロ・・それ・・本当・・?」

ワナワナ震えてます・・ってか愛称を皆がいるところでも言うとは・・

「あ、ああ・・本当だぜ」

「この・・馬鹿!!

そう言う事は速く知らせないといけないでしょう!それになんで事後報告なのよ!!

どれだけの人員が必要なのか全然わからないじゃない!!!」

「・・・え〜・・あ〜・・その・・なんだ・・、なんとかなるって♪」

「なんとかなるじゃない!!!良い機会よ!

クロも領主って職に就いたからにはそんな見切り発車をする事が

どんなに迷惑な事なのか理解する必要があるわ!

そこに直りなさい!!」

す・・すごい気迫だ・・

「ふぅ、やれやれ・・長丁場になりそうね。

じゃあごちそうさま・・、お二人もお気遣いなく後片付けをするといいわ」

「えっ!?あっ、おい!逃げるのかアンジェリカ!」

「当然でしょう?一応忠告はしたんだから・・」

「ひどっ!」

「・・では坊ちゃん、私達も後片付けをさせていただきます。

深夜まで及びそうなので消灯も・・お願いします」

「えっ!?二人も!?」

ってか無視してさっさと食器下げている!

「邪魔者がいなくなったわねぇ・・

今日はた〜っぷりと『責任』という言葉の意味を教えてあげるわ!!!」

タ・・タイムさんが鬼軍曹に見えるであります!!

そんなにまずい事だったのか!?

し、しかたねぇ・・とりあえずここは大人しく耐えるとするか・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

翌日

・・え〜・・疲労困憊です

いあ、ほんと深夜まで説教されるとは思わなかったよ。

しかもタイムの奴途中から説教から愚痴に変わってきていたし・・

ありゃ・・アンジェリカさんが途中で差し入れに淹れたお茶に何か入っていたな

明らかに酔っていた・・・、そして明らかに悪酔いでした・・

まぁ日頃溜まった事を全部言い捨てたのか、

終わった時には非常にスッキリした表情で寝床についたわけですが・・

その分こっちは滅茶苦茶疲れたよ、・・これからは気をつけよう

因みに警備の方は問題なし・・

案内などはテント群の住民も手伝ってくれるようにするって事で・・

その事はもういいです。

そんなわけで日が昇ったところでようやく落ち着いたので早速テント群にやってきた

とりあえずテント群と言ったらセイレーズ爺さん、

早速代表の話を持ちかけるべくテントに直行!

そして勧誘だ!

 

 

「断る」

 

即答っすか♪

「バッサリ切られたな・・ってなんでだよ?」

いつもながらベッドを居住スペースに一人でカードピラミッドをしていたセイレーズ爺さん

でも・・一応はテント群を束ねている長なんだけど・・なぁ

「ここだけで住民を束ねるのは別に構わんのじゃがな、

そう言う大きな活動ともなると年寄りには少々堪える

・・それにわしは元裏の人間じゃ、

今更だとも思うが表に出れば少なからず悪影響も出る」

「そう言うものなのかねぇ・・」

「そりゃそうじゃ、情報というものはどこから出るかわからん。

貧民集団が市政にモノを言うとなればそれは大きく取り上げられるじゃろう?

『怪盗セイレーズ、貧民代表として復活』なんて噂されてみろ、

よからぬ考えを起こす馬鹿など幾らでも出る」

昔有名だったのが裏目に出る訳か

「そうか〜残念だな〜・・」

「そんな名残惜しそうな目で見るな。

じゃが着眼点は悪くはない、

どうあれここの住民もルザリアという世界に貢献はしておるからな」

「そう思うなら他に適任者紹介しろよ?」

「ふむ・・・そうじゃの・・・・、いたな・・一人・・」

「いたのか・・?」

「ああっ、数ヶ月前からここで暮らしている女じゃ。高い教養を持っており人付き合いも良い

代表としての適正は十分にあるじゃろう・・まぁ、引き受けるかは・・わからんがな」

適正あるのにか?

「何だよ、頼りねぇなぁ」

「うるさいぞ、クロマティ。

資質を持っていれども本人がやりたがっているかはわしが知ろうはずもないじゃろう?

それに、ここは過去を捨てた者の住み処じゃ、個人の意志まで熟知できる場ではない」

あ〜、そうだったな。ここでは昔の話はタブーだったし

「んじゃ、俺が直接説得するわ・・どこの誰さん?」

「西ブロックに住んでいるミレーユ=フールという女じゃ。後はお前次第だな」

愚者(フール)?・・大層な名前だな

・・ってか偽名って可能性も大いにあるか

「わかった、そんじゃそのミレーユばあさんに説得しに行ってくるよ」

交渉人クロムウェル=ハット!いざ参る!!

 

「ばあさん?何を勘違いして・・・おい、クロマティ!」

 

爺さんが何わめいているか知らないがとりあえず善は急げ!説得じゃ〜!

 

 

・・・・・・・

 

セイレーズ爺さんに教えられた場所はすぐに特定できた

まぁ住んでいるテントってのはどれもこれも同じなんだが識別しやすいように色々と目印があるからな

因みにテントの外に私物を置くのはNG、

余所でそんな暮らしをしている奴らはテントの外にまで

拾ってきた物をレイアウトするんだけどそれは非常に見苦しい

・・だってそうだろ?

家の前の道路に家財道具置いているのなんてみっともないにも程があるしな

そんな訳で外見ではどんなテントも同じ様に見えるんだよ

だから、共通的なもんがある・・布でできているからノックができないの♪

東国風に言えば暖簾(のれん)を潜るように入ればいいか

 

「邪魔するで〜」

 

「あら、いらっしゃいませ」

 

・・んむ・・?

何か・・意外な人が・・

小さなテーブルにティーセットを置き優雅に茶を啜るは一人の女

長い薄碧色の髪を先端で軽く結っており瞳は蒼、

着ている物は白を基調とした動きやすいドレスで気品がある

ってか・・若いな・・、俺と同じくらい?いや・・それもアヤフヤだ

『若い』って事で後は年齢不詳な感じ・・

「───え〜・・っと・・誰?」

「??間違って入ってこられたのですか?

・・まぁ、ここでは慣れていなければ珍しい事ではございませんが・・」

「そうみたいだな、セイレーズ爺さんからミレーユって人の住所を聞いたんだが

・・悪い、人違いだな。
ったくあの爺さん呆けたか」

「あらあら、それは違いますよ?ミレーユは私です」

ニッコリ笑いながら手に持つティーカップをテーブルに置いた

「・・・あら・・そう・・、いあ悪い、爺さんの知り合いって聞いたから婆さんかとてっきり・・」

「そうでしたの、早とちりな殿方・・」

そう言いながらも静かに微笑むミレーユ、なんだろうな・・神秘的って感じがする

部屋も質素なもんだ、この小さなテーブルと椅子以外はベッドと軽い棚ぐらい

ん・・?・・部屋の隅に置かれているのは弓・・か

すごいな、俺の身長よりもでかい大弓だ。なんでこんなもの持っているのか・・

「いや、あははは・・」

「それで、一つよろしいかしら?貴方はどちら様ですか?」

「っと悪い、俺はクロムウェルってもんだ」

「クロムウェル・・クロムウェル・・・ああっ、領主様でしたか」

領主って単語が最初に浮かぶって事は〜、まだここに来て間がないのかな?

まぁたぶんそうだろう。

俺って結構テント群ウロウロしているからなぁ・・

こんな神秘的なべっぴんさんが住んでいるのなら気付くはずだ

数ヶ月前に来たってのもアヤフヤだし

「・・まっ、成り行きでな」

「ふふっ、思ったよりも気さくな御仁ですね。好感が持てます」

「そりゃ結構、あんたみたいなべっぴんさんに好感を持たれるなんて男冥利に尽きる」

「お上手ですね・・、それで・・私に何か御用ですか?」

「あ、ああ・・予想外だったから脱線しちまった。

ちょいと相談事があるんだけど・・時間いいか?」

「ええっ、大丈夫ですよ。・・ここに住んでいる者は時間にはさほど、囚われませんので」

まぁな・・、生活はカツカツだろうけど自由は幾らでもある

そう言う空気が好きだから俺もブラブラしにくるんだけど・・

「ははは・・、それじゃ、用件を言わせてもらうぜ?

実は今、ここの住民の代表を一人選定して議会にて活動してもらおうとしているんだよ」

「まぁ、それはまた思い切ったことを考えますね」

「それだけここは優秀だって事だよ、

それでここを纏めるに値する人物を探してセイレーズ爺さんに話をしたら
あんたの事が上がってな。

それでこうして尋ねたんだよ」

「私が・・」

「ああっ、セイレーズ爺さんがそれを拒否してな。

他の適任者としてあんたの名前が出たんだよ

・・・どうかな?」

「・・・・・・・、領主様はどう思っていますか?」

「俺っ?」

「領主様が直々に声を掛けに来ているところ、

それを選定するのは貴方様でしょう?

貴方の眼鏡に適っているかどうか・・そう言う事です」

静かに微笑む・・が、俺が提案したって事は言っていないのによく言い当てたものだ

「・・その通り、提案したのは俺だ。

でっ、俺の見立てによると・・十分合格?

詳しい事はまだ見抜けていないがあんたには任せていいだけの人柄ってもんは感じる」

「・・ふふっ、それは嬉しい限りですね」

「おっ、じゃあ受けてくれるか?」

「・・・・・、そうです・・ね。残念ですがお断りいたします」

あんら・・

「何故に?」

「声が掛かったのは嬉しいのですが、私には少々やることがございまして・・」

・・?なんだ・・声のトーンがほんの少し変わった

「やること?何か大切な予定でもあるのか?」

「・・・さて、どうでしょう?」

含み笑い、だが・・何かただ事じゃない感じだな

「う〜ん、内緒かぁ。あんたなら適任だと思ったんだけどなぁ」

「申し訳ありません、お力になれなくて・・」

「お〜っと、俺がそんな簡単に諦めると思ったか!?

今日はこのぐらいで引き上げるがいずれ!必ず引き受けてもらうぜ!」

「・・あらあら、積極的な御方ですね」

「う〜ん、なんだろな。

あんたが一番適していると思ったからさ、まっあんたの気が向くようにしたいんだよ」

「ふふっ、がんばってください。

まぁ・・来客は歓迎いたしますが・・、そこまで心を動かされる事はないかと思います」

・・・言ってくれる

「ふっ、今の内吼えておけ!邪魔したな!」

「・・、またのお越しを」

捨て台詞も何のその、余裕の態度で俺を送っていった

・・あいつ、只者じゃないな・・

 

その日の説得は失敗・・、

大した収穫もなくその後セイレーズ爺さんと軽く話をしたがやはり他に適任者はいないとの事だ

教養云々もあるが・・表立ちたくないって意見が多いそうだ。

まぁ過去を捨てた連中だけあるからな・・ここで静かに暮らしたいって考えなんだよ

そうともなると尚更ミレーユが惜しい、まっ・・まだ諦めていないがな

 

「それで、説得は失敗だったのですか?」

 

家に帰って食卓を囲むとともにベイトが訊いてくる、何気に気になるらしい

因みに今日はタイムは非番だから一日屋敷におり、フィートも戻ってきた

でっ、アイヴォリー達とチェンジして今日はベイトとミーシャが家担当という事で夕食を担当

今日の献立は〜、ビネガーを使った鶏肉のサッパリ煮と野菜たっぷりのスープパスタ、

東国風リゾットとどれも美味そう

やっぱり飯はベイトのだなぁ・・

「あぁ・・、やんわり断られた。爺さんと相談するにやはりミレーユが最適なんだけどなぁ・・」

「あらあら、随分な熱の入れようね?好みのタイプなのかしら?」

「・・むっ・・」

優雅に食事をするアンジェリカさんの隣でジロリと此方を見て鶏肉をフォークで突き刺すタイムさん

頼むから・・そんな挑発していでおくれよ・・

「そういうのじゃねぇ。何というかな、知的?

俺の問いかけをのらりくらり流しているところ、相当そういう事に慣れていると見ていい」

「先輩の問いかけなんてストレートでしょう?」

「うるせぇ・・、まぁ素性がわかってもいいという様子だったのだが〜、

やることがあるらしいんだ。

そのために拒否したらしいから、それさえ解決できたら多分引き受けてくれる・・たぶん・・」

「それで、その『やる事』って何かわかったの?」

「それはさっぱり、まぁ明日からちょくちょく足を運んで説得を続けるよ。

・・って睨むなよ・・タイム・・」

「変な事・・しないでしょうね?」

向かい合っているだけにそのふくれっ面がモロだ

「あんな布きれで仕切られているところで何やるってんだよ、安心しろ・・。

ってか色々と謎が多いからなぁ・・。部屋の中に弓置いているし」

「・・弓・・?」

「ああっ、俺の身長よりもでかい弓だ。ああ言う物は初めて見るな」

基本的に騎士団では弓は使用しない、

そりゃ、有効な攻撃手段ではあるんだが戦闘があるのが大概は市街地だからな

飛び道具なんて簡単には使えないんだよ。

まぁ田舎とかなら使っている奴も多いんだけどな。

後は狩猟用か。

・・・・、でも狩りに使うには・・でかすぎるな

「身長大の弓ですか、珍しいですね」

「だろ?あれだけでかくて立派なのだと飾りにもちょうどいいな」

「・・でも、テント群の住民でしょう?飾りにするにしてはおかしいわよ?」

タイムの言う通りだ・・、まぁ飾ってはいないんだけどさ

「ん〜、それだけ大きな弓でしたら和弓かもしれませんねぇ〜」

んっ、フィートのグラスに水を注ぎながらミーシャが興味深い事を言った

わきゅ〜?

「ミーシャ、和弓ってなんだ?」

「え〜っと、ですねぇ。

東国特有の弓です、フィン草原都市群の遊牧民のように獣骨を使用した短い弓とは違いまして〜

純粋に木材のみを使用したのが和弓です〜」

「なるほど・・、確かに遊牧民が使う弓は騎乗した際に使う分短いのが特徴、

極力短くするために獣骨を使用するらしいわね。

そういう考えがないと木材を使うしかないか・・」

「そうです、タイムさん。

もっとも、木でも丈夫な物を使えば問題はありません。

坊ちゃんの身長よりも大きな弓となると
かなり威力が高くて射程も広い物だと見て間違いないですね〜」

ふぅん、確かに短いよりも長い弓の方が遠くまで飛ぶよなぁ・・

「・・ちょっと待って。

それだけ弓が大きいとなると弦を引くのも大変じゃないの?」

「その通りです〜、おそらくは坊ちゃんの力でも弦を引く事もできないでしょうねぇ」

「・・俺でも?」

「そうです〜、弓というのは扱い方にコツがいります。

ただ力で引く物ではありませんから〜」

「なら、そのミレーユさんが大弓を扱っていたとしたら、かなりの腕前って事ですか?」

「そうですねぇ〜、非常に「技」を必要とする得物ですからまず間違いないかと思います〜」

「ふぅん・・流石は東国通のミーシャだ。ありがとよ・・

でっ、今ので非常に興味が湧いてきた」

「・・女として?」

タイムさん、ギロリとこっちを見ないで♪

「違うよ、要するに相当な手練れじゃないと扱えない弓なんだろう?

そんなのを持っているんだ、相当な訳ありって奴だろう

ちょいと気になってきてな・・。

うし、アンジェリカにフィート・・ちと頼まれてくれや」

「そのミレーユって女性の素性について・・でしょう?」

「ご明察♪テント群代表を迎え入れるのは議会運営においても非常に重要な意味を成す、

これは領主の助役としても
是が非でも遂行しなければならない任務であるのだ!!」

「・・また、随分と舌が回りますね。

わかりました、僕個人としてもその人には興味がありますからね・・

まぁ数日待ってください」

「おう♪期待しているぜ?

その間にも俺はミレーユがやろうとしている事が何なのか調べて見るよ」

「・・・・・・・・・」

「あ、あの・・タイムさん・・さっきから不機嫌そうですが、こりゃ仕事なので・・」

「・・・・、何かクロ、嬉しそう・・」

「そんな訳ないだろう?

ほらっ、タイムとの時間も裂かないといけないから大変だよ、大変〜・・あははは・・」

「・・・」

「ふふっ、可愛いものね・・ルザリア騎士団長が領主に対してヤキモチだなんて・・」

「わ、私は!ただ・・」

「はいはい、ほらっ、クロムウェル・・愛しのタイムさんがモヤモヤしているんだから・・

貴方がスッキリしてあげないと」

「お前に言われるまでもねぇ・・ってかお前が言うな。

ったく・・、じゃ・・タイム・・後で・・な?」

「・・馬鹿・・」

そう言うとプイっとそっぽを向いて食堂を後にした

「いやぁ・・若いですねぇ、お二人とも」

「全くです、フィート様。初々しいものですねぇ」

ベイトに言われるのはいいがフィートが言うな!ってか俺より若いだろうが!

──しょうがねぇ、まぁ嫉妬をするも女の華だな♪

たっぷりと満足させてあげますか♪

 

 



────



 

翌日より、俺はテント群へ通うのが日課ともなった

目的なもちろんミレーユを『口説く』事、

元々人付き合いが良いらしく俺が来ることは全然嫌な顔をしない

こちらの雑談に対して笑ってくれたりもするのだがやはり代表の話は首を縦に振ってくれない

おまけにプライベートを臭わす話題についてはやんわりとはぐらかす、

話術においては一枚も二枚も上手だ

何か上手く丸めこまれているんだがそれに賤しさを感じないところがミレーユの人柄か

だがこのまま引き下がる俺ではない!こうなったら根比べだ!

 

 

「領主様も、毎日のようにいらっしゃいますね」

 

ミレーユのテントに通うようになってから〜どんなもんだろう?一週間ぐらい?

どうしても手放せない用事がある時は断念したけど大体毎日来ているな

進展ないんだけど♪

「あ・・いや、まぁ・・迷惑かけてすまねぇな」

「いえいえ、領主様とのお話は大変面白いので迷惑などと・・。はい、お茶です」

もはやお馴染みとなった様子であり最近ではお茶を出してくれるようになった

・・何気にミレーユはお茶をよく飲んでいる、テント群の住民にしては優雅な習慣だ。

「ありがとよ・・んっ、美味いな」

紅茶のような独特な香りや渋みもない、

東国の碧茶に近い澄んだ感じだが・・ほのかに甘みがある

「自生のハーブを使ったお茶です。ホッとするでしょう?」

「そうだな・・落ち着くもんだ。俺はお茶よりも珈琲ばかり飲んでいるからなぁ」

「珈琲は珈琲で味わいがありますよ、まぁこれも拘り・・ですか」

「なるほどなぁ・・、でっ、例の話はどうかな?」

「さて、例と言われましても何のことか・・」

ニッコリと笑って・・

「・・ちぇ、突然の切り出しは無理か」

「ふふっ、領主様は実直な御方ですからね・・。

切り出す前に顔に出ていましたよ?」

「完敗だな・・はははは・・。

でもさぁ・・前から気になっていたんだけど立派な弓だよなぁ・・」

「ああっ、これですか?まぁアンティークですよ」

「なるほどなぁ、触ってもいいか?」

「ええっ、どうぞ。ですが・・大きいので気をつけてくださいね」

確かに、整理されているとは言えどもテント内は広いとは言えないからな・・っと

「ふぅん、結構重いな・・」

試しに持っていたが意外に重い、まぁこれだけでかいとな

「そう言う物ですよ」

「みたいだな・・っと・・ぐ・・・おおお・・、ふぅ・・」

ミーシャが言ったように弦がピクリとも動かない、

これ・・本当に使えるのかよ・・?

「ふふふっ、それでは引けませんよ。色々とコツが必要な物ですので・・」

「みたいだな・・、でっ、ミレーユは引けるのか?」

「さて・・、どうでしょうか?引けると言えば引けますが引けないと言えば引けません」

「・・結局どっち?」

「どっちでしょう?まぁ何をもって引いたと言えるのかは私と領主様とでは違うとは思います」

「小難しい事を・・、まぁ、手入れはきちんとしているのはわかるけどな」

「ありがとうございます」

「いあいあ、そんじゃ・・これは元に場所に・・っと・・あれ・・」

弓が置いてあった場所に戻す・・っとそこには隠すように置かれているロングソードが・・

儀礼用なのか細かい装飾がされており鞘には重厚感が漂う盾のエンブレムが刻まれている

「・・?どうかなさいましたか?」

「ああっ、いや。ミレーユみたいなのでも護身用に剣を持っているんだな・・って思ってさ

やっぱり治安が良いとは言えどもこんな鍵もないところで暮らすには勇気が・・・」

んっ?なんだ・・?

ミレーユが何やら俯いている・・

「・・ミレーユ?」

「・・え?・・あ・・すみません、何でしょうか?」

「ああっ、いや、そこにあるロングソードなんだけど・・」

「え、ええ・・それは・・護身用ですね。ここも物騒ですので・・」

何だ・・動揺している・・?

「そうだよなぁ、まぁ思いっきり儀礼用だけど脅しにはなるか」

「そうですね・・ふふふ・・、領主様、

少し用事を思い出しましたので、今日はこの辺で・・」

「え・・ああ、すまない。そんじゃまた邪魔するよ」

「はい、お待ちしております」

少し浮かない顔で笑顔を作り俺を見送るミレーユ

・・だが、始めてみせる戸惑いの表情が非常に気になる・・

あのロングソード、何の関係があるんだろう・・?

 

 

・・・・・・

 

ミレーユにテントを追い出されて、通りを歩きながら今あった事を考える

あの様子は明らかにおかしかった・・

それがあいつがやろうとしている事と何か関係ありそうだが・・

その事について聞いてもたぶん応えようとはしないだろうな。

ふむ〜、まいったね。これじゃこれから入りにくくなっちまう

 

「あっ、クロムウェルさん!こんにちわ!」

 

ん・・?おおっ、今気付いたが大通りを一人の女騎士が巡回している

彼女はニクス、

テント群に配属されて日が浅いながらも実に優秀な人材として貢献しているできる子

そして最後の希望だ・・

「よう、ニクス。マー坊とペアじゃねぇのか?」

マー坊ってのはこの間からここで働くようになったボンボンだ、

当初はろくでもない奴だったがやる気を出したのかめきめきと上達をしている。

・・っと言ってもまだまだヒヨッコなんだけどな

「ええっ、マーロウ君なら今詰め所で休憩していますよ」

「詰め所か・・そういや新設したんだよな?」

「そうです、一応騎士が休憩するところですから

何時までもテントな訳にもいかないので・・煉瓦作りの小屋にしてもらいました」

ふぅん〜、そういや俺はまだ見てないな

「うし、暇だし案内してくれよ♪」

「あっ、はい。クロムウェルさんがいるとなると悪い虫も寄りつかないでしょうし、

見回りはこのぐらいでいいでしょう」

そう言い上機嫌で俺を案内するニクス

いいねぇ・・清楚で・・、ほんと稀少人物だぜ?

パツキンでこうまで良い子なんて・・

 

・・・・・・・・

 

テント群詰め所、それは大通りの広場の近くにあり煉瓦製の二階建てとなっていた

・・結構広いな。

でっ、一階は事務をするためのテーブルと椅子が2対と軽い休憩室、

二階は倉庫と仮眠室となっており炊きだし用の道具などもここに置かれていた

中々快適じゃん、テントがずらりの並ぶ中非常に目立つんだけどな・・

そんな中で一応俺も関係者だから中で休憩しニクスにミレーユの事を話した

やはりミレーユは最近ここにやってきたらしいのだが

騎士団との付き合いも良いらしくニクス達も彼女の事を知っていたらしい

しかし、大弓とロングソードの話になるとニクスは首をかしげた

 

「・・おかしいですね、それ・・」

 

「・・それと言うと?」

「大弓ですよ、アンティークにしてはきちんとメンテナンスはしていたのでしょう?」

「ああっ、そうだったな。綺麗にしてあったよ」

「そうだとしたならずっと弦を張っているのはおかしいですよ、それじゃ弓が痛んでしまいます。

使用しない時は弦は外しておくのが普通なんですから」

・・へぇ・・そうなんだ・・

「ってか・・そういうもんなのか?」

「そりゃそうですよ、

言うなればクロムウェルさんがずっとベイトさんにキャメルクラッチをされているような負荷が

弓に掛かっているわけですよ」

・・何故だろう、俺、今、あの大弓の気持ちがわかる・・

お前も、辛かったんだな・・

「なるほどなぁ・・つまり、そこまで整備しているのに弦を解いて保管していないのはおかしいって訳か」

「そうですね、まぁ・・その弓を使用していたのならば・・つじつまはあるのでしょうけど・・

それにそのロングソードも気になりますね・・盾の紋章・・でしたか」

「ああっ、なんかやたらと綺麗だったぜ?」

「・・・そうですか・・でも盾の紋章・・どこかで・・」

・・ふむ、ニクスがあの紋章について何か知っているとなると貴族関係か

まぁ確かにあのロングソードは実戦用ではないだろうしな。

そうともなるとミレーユも貴族関係者?

違和感ないな・・、あの上品さは普通の生活で培う物でもないか

「ふぅん、まぁそれはこっちでも調べてみるよ。

で、ニクスから見てミレーユってどんな感じだ?」

「えっ?そうですねぇ・・知的な御方だと思いますよ?

この間もここで風邪が流行ったのですがお薬をミレーユさんが作ってくれていましたし・・」

・・うおっ、何気にすげぇ・・

「風邪薬作れるって・・薬剤師か?」

「いえ、自生のハーブの知識を応用した程度なんだそうです。

元々風邪を直接治す治療法はないらしくて
身体能力を活発にして自浄作用にて完治させるらしいんですよ」

・・・・・・、へぇ・・

「わからん」

「でしょうね」

!?

ニクスが!ニクスが馬鹿にしたぁぁぁぁ!!

「・・どうせ俺は無教養だよ・・」

「はいはい、でも今に始まった事じゃないですか」

「───何気に辛辣だね、ニクスちゃん」

流石、際物であるマー坊を手懐けているだけあって言葉もキレがあるね・・

「そうでしょうか?普通だと思うのですが・・」

「まぁ、強い女ですよ。

でも!それ以上変になっちゃ駄目だ!お前は最後の希望なんだからな!」

「は・・はぁ、なんだか良くわかりませんがわかりました・・」

そうだ、それでいい

お前は俺の知り合いの金髪女性で唯一まともなんだ、その清楚さを曇らせたらいけない

 

「ん〜・・なんだ?ウルサイと思ったらクロムウェルか・・」

 

んっ?二階からゆっくりと下りてくるは・・

ブオトコ

・・じゃない、マー坊だ。

最近じゃ髪も短くしており鍛錬を続けているのか体つきもややしっかりしてきている

が、首輪は相変わらず。まぁお守りの代わりにしているんだとよ

「よう、マー坊。しぶとく生きているな」

「うっせ〜、ったく・・休憩中に騒ぐなよ」

「ふぅん・・仮眠の邪魔か?なら気持ちよく眠らせてやろうか♪(ポキポキ)」

「クロムウェルさん、マーロウ君は任務中なんですから手荒な真似はやめてくださいね?」

「なっ!ニクス!お前・・マーロウを庇うのか!?」

「へっへ〜、コンビ愛って奴だよ!

俺達は今このテント群の平和を守るために奔走しているんだ!てめぇが口を出す資格はねぇ!」

「うぐっ・・マーロウの癖に!

そんな生意気を言うならば次の非番俺の家に来い!鍛え直してくれるわ!」

「あ〜、クロムウェルさん。次の非番は私と一緒にサバイバル訓練を行いますので・・それは・・」

サ、サバイバル訓練だと!!!

「二人か!二人でか!?」

「何興奮してんだよ、ニクスに教えてもらおうんだから当然だろう?

食料を用意せずにフィン草原都市群の草原でナイフと寝袋だけで過ごすんだよ」

草原の中で二人っきり!?しかもナイフ持参!?

「そのナイフを突き立てて産まれたままの姿にさせるつもりか!!そうなんだな!?」

「???マーロウ君、どういう意味?」

「さぁ・・?何か興奮しているんだけど俺は結構憂鬱なんだぜ?

変なもん取って喰わせるんじゃないだろうなぁ?」

「生き延びるためにはそれも仕方ないけど、マーロウ君が想像しているような物を食料にはしないわよ。

薬草や小動物とかがメインかしら。まぁ取れないんならお手本に私がしてあげるわ」

 

私が・・してあげる・・してあげる・・

シて・・あげる!?

 

「ああ、頼むぜ?」

「マー坊!こんちくしょう!!」

ニクスを毒牙にかけるとは俺がゆるさーーーーん!!

 

低速千手観のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!

 

バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ♪

 

「もげらっ!!」

「ク、クロムウェルさん!?」

成敗!

ニクスの清楚は俺が守る!!!

てめぇのような半端もんが穢すなどとはおとーさん許しませんよ!!

「何をやっているんですか!?マーロウ君!

・・いけない!瞳孔開いている!?マーロウくぅん!!」

 

やはり貴様は・・こうなる宿命だったんだよ・・さらばだ・・

来世では平民に産まれ、悪趣味な奴に好かれそうな顔の女を愛するといい・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

その日の夕食、今日もベイトの料理に舌鼓を打ち食後の珈琲タイム

最近では皆この時間に揃うことが多く、ここでその日あった事を話すのが御約束みたいなってきた

家族団欒ってか

「それで・・難航しているようね?」

お茶を軽く飲みながら訊いてくるタイム、

なんだろうな・・この四人の中じゃ屋敷の生活にタイムが一番似合っている

・・まぁ、元々貴族だからそれもそうなんだが・・

「あぁ、だけど・・何か裏がありそうなんだよな。ミレーユ」

「確かに、裏ならあるわよ?」

「おやっ、アンジェリカさん調べ終わりましたかい?」

「ええ・・中々厄介だったけどね。フィート君の情報と合わせて見えてきたわ」

フィートの情報・・、

そういや昼間あのロングソードにあった紋章についてフィートに調べるように頼んだんだったな

「そうですね、有力なヒントでしたよ」

やっぱりあの盾の紋章がキーワードだったかぁ・・

「じっくり聞かせておくれよ」

「では、まず僕からですね。

言われた盾の紋章を使っていたのは『エンフィールド』って貴族の家系なんですよ。

つまりはミレーユさんが持っていたのはエンフィールド家縁の剣だという事です」

ふぅん、その家系のみに使われていたようだな。

そこまで断定するなんて流石は法王

「それで、エンフィールド家について少し調べてみたわ。

当主はエグザム=フォン=エンフィールド、中々のやり手らしいわね、

そしてその妻はミレーユ=フォン=エンフィールド」

・・なるほどな、やっぱりフールってのは偽名か

「・・当人で合っているの?」

「可能性は高いわ、ミレーユ夫人は優れた弓士である事で結構有名らしいのよ。

それも貴族社会での狩猟で使うのとは違う本格的な弓を愛していたそうよ、精神の修行になるんだとか・・」

・・そりゃ随分な夫人さんだ

「弓の話からして本人と見て間違いないな。でも・・なんでテント群に来ているんだ?」

「それは、エンフィールド家がもう存在しないから。没落したのよ」

「・・フォンの名を持つ家がそんな簡単に没落するのかしら・・?」

確か名前の真ん中に「フォン」が付くのは中央部出身の上流貴族だったな。

つまりは偉いさんって事か

「普通ならね・・。当主であるエグザムは狩猟中に急病で他界・・

その後にエンフィールド家が汚職をしていたという書類が発見されて家は見事に潰されたわ

・・だけど、周辺での反応には疑問が残っているの、

エグザムは至って健康・・そして彼の人柄は大変良くて不正をするなんてあり得ない・・

そんな声がほとんどだったそうよ。でも、物証がある以上は何を言っても通じなかったそう

まっ、簡単に言えばハメられたのよ・・貴族同士の下らない権力闘争に・・ね」

胸くその悪い話だな・・・

「じゃあ・・ミレーユがテント群にいるのはひょっとして・・」

「ええっ、その時狩猟に同行していた貴族がルザリアに住んでいるのよ。

アウサンブルク家・・エンフィールド家汚職について証言をした家でもあるわ

察するに・・そこがハメたのでしょう。

ここまで言えばわかるわね・・?」

「復讐・・か」

「そう考えて間違いないわ。さて、そうと決まればどうする?領主様?」

「・・・何だよ、アンジェリカさん・・」

「貴方は一人の女性が復讐に心を奪われその命を危険に晒しているのに見て見ぬふりをするつもりかしら?」

・・い、嫌な笑み浮かべて・・

「最初からそんなつもりはねぇよ。でもどうするか・・」

「あ〜、それなら僕にいい手があるんですよ・・、ふふふ・・良い証拠を用意(・・)しましてね・・」

そして極上に悪い笑みを浮かべるフィート君。

まぁ・・他人を陥れる事に関してはアンジェリカとフィートを超える性悪はいないから・・な

こいつらの知識と技術があれば潔白でも激黒に変える事ができる

「へいへい、お任せしますよ・・。そんじゃ、未亡人の復讐劇のお手伝いとしますか」

厄介事なら慣れているからな。

まぁ何とかしましょうかい

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

日が沈んだテント群、夜になっても区画毎に練金灯が建てられているために比較的明るい

だが流石に夜に出歩く程裕福ではない分、さっさと飯食って寝ているようだ

そんな静まりかえった中、俺はゆっくりとミレーユのテントへと入る

ただし声を掛けずに・・

 

「・・・・・・・・・」

 

テントの中でミレーユは俯きながらロングソードを抱きしめていたようだ

様子からして俺には気付いていない

「・・、こんばんわ、ミレーユ」

「・・っ!?領主様・・」

慌ててロングソードを隠す、動揺している様子は普段の彼女とはまるで違う

「夜分すまないな、邪魔するぜ」

「い、いえ・・気付かずに申し訳ありません。

それで・・どうしたのですか?正装でいらっしゃるなんて・・」

「ははは・・、たまにはな。

それで・・、亡き夫の無念を晴らしに行くつもりか?

ミレーユ=フォン=エンフィールド」

ストレートに言ってのける・・が、ミレーユの表情に変化はない

「・・・、お調べに・・なられましたか?」

「まぁ、プライベートに土足で踏み込むのはちょいと心苦しいけど。

・・・、ここに住む理由は仇討ち・・か?」

「───ええっ、そうです」

仇討ちについて聞かれても変化無し・・か

見事なポーカーフェイスだぜ

「やっぱりな。その大弓を使ってアウサンブルク家の当主を暗殺するのか」

「ええっ、止めにきたのですか?」

「う〜ん、そうと言えばそう、違うと言えば違う・・かな?」

「ふふっ、お上手・・」

「別に仇討ちについては口を挟むつもりはない。

・・が、できればあんたにはそれをやって欲しくはないんだよなぁ」

「あら、どうしてでしょうか?」

「それは・・誰が望むんだ?あんたの夫は復讐を望んだとでも言うのか?」

「──知った風な口をきかないでもらえませんか?」

軽い敵意を出してそう言うミレーユ

まぁ、他人のお節介なんて良い迷惑だろうしな

「まっ、そりゃな。だが・・少なくともお前の夫は血を流す事をよしとはしなかった。

だからこそかつて護衛であったあんたを止め、そのまま恋に落ちた・・違うか?」

「・・そこまで調べていましたか・・。流石領主様ですね」

「褒め言葉として受け取っておきます・・。

『月射』として恐れられていた狙撃手・・

恐るべき射程を誇り急所を必ず射抜くと呼ばれる腕はその筋では有名だったそうだな」

「・・・・」

「だが・・あんたにそれは似合わない。

だからこそあんたの夫はそれを止めさせたんだろう?」

「・・・、ならばどうすればいいのですか?旦那様の無念と、私のこの憎しみを・・」

「忘れろ・・、って言って忘れられるほど人間都合良くできちゃいねぇか。

ならばに逆にどうする?

幾らお前でも目標一人を射抜いたとしても逃げ切れるものじゃない・・、そのまま殺人で捕まるか?」

「ふふ・・、その先などはありませんよ」

「やっぱり・・死ぬ気か・・」

「ええっ、この剣で・・」

そう言いロングソードを抜く、使い込まれた刃は途中で折られている

「遺品・・」

「あの人の剣です。ふふっ・・よく手入れされたこれも・・あの男に折られてこんな姿に・・」

「ふぅ、憎しみに囚われるな。

あんたはまだ若い、それを終わらせるなんて勿体なさ過ぎる」

「・・・・・、ですが・・私には復讐以外に生きる道がありません」

「他にも、あるだろう?あんたを必要とする人間はここにいる」

「・・領主様・・」

「へっ、言っただろう?あんたを口説き落とすってよ」

「──ふふっ、ならばどうするのですか?」

「その憎しみを断ち切る。

汚れた仕事は俺が引き受けるよ、あんたは・・怨敵の体を射ればいい。

それで終わらせるのならな・・

そしてその後で・・再び勧誘させてもらうとするよ♪

さて、そんじゃ領主モードとなりますか」

かきあげた髪を下ろす、これだけで大分印象が変わるもんだ

「・・えっ?・・あ・・」

・・んっ?なんだ、ミレーユが何か驚愕している

「ええっ、公務の時はこうしているんだよ。こうすると中々できる奴に見えるだろ──」

っ・・それが言い終わる前にミレーユが俺に抱きついてきた

「旦那様・・」

俺が──?

「お、おい・・」

「え・・・、あ・・領主様・・すみません・・」

「いや、気にするな」

「・・・・、領主様・・、お願いです・・一時・・夢を・・見させてくれませんか・・」

そう言い有無を言わさずに俺に口吻(くちづけ)をしてくる

何を考えているのかは俺にはわからない、ただ彼女の行為を俺は拒む事はできなかった

 

 

 

 

────

 

 

それよりしばらくして、俺は一人アウサンブルク邸へと足を進めた

時はすでに深夜・・だが領主の来客となれば対応しなきゃいけないとして応接間へと通された

いいねぇ・・領主特権。

まぁそれはどうでもいいとしてしばらくまたされた後に当主さんが正装でやってきた

「これはこれはクロムウェル様、こんな夜更けにいかがなされたのでしょうか?」

アウサンブルク当主は・・まぁはっきりいえばブクブク太った中年だ、

魅力の欠片もなけりゃ客人を目の前にして嫌そうな顔を隠しもしない

まっ、深夜の来客となればそれも仕方ないか。

どうにも酒が残っている感じだし

散々待たせたのも「お楽しみ」の途中だったのだろうさ

「いやぁ、夜分すまねぇな。ち〜っとばかり気になることがあってなぁ・・確認したい事があるんだよ」

「はて、それはいかような事でしょうか?」

「う〜んとだな。

まずは麻薬取引、人身売買に硬貨偽造・・それに前領主であるギーグとの癒着・・その他諸々。

いやぁ・・ギーグの一件の捜査を進めていたらあんたの名前が上がってな、

他の件も芋づる方式で山ほど出てきたんだわ♪」

前領主ギーグ、まぁ金にばかり執着しており

裏でやばい組織とも付き合いがあっただけに黒い噂なんて幾らでもある

事実、目の前の豚との黒い繋がりはしっかりと確認できています

「な・・そ、それは・・!」

「証拠は挙がっているですなぁ・・アウサンブルクさんよぉ。

こりゃ、公開処刑は免れないぜ?これがその資料だ」

そう言いテーブルに分厚い書類を放り投げる、それは事件の詳細が記されている

まぁ・・フィート(・・・・)()作った(・・・)書類なんだけどな

「そんな・・」

「さらには〜、エンフィールド家に対しての不正なんかも出てきているんだよ、これが。

・・当然、エグザム氏の暗殺についてもな」

「なっ!」

「・・どうする?そこまで黒い事していたら楽には死ねないぜぇ?

まっ、とりあえず死罪にはなるな」

「き・・貴様・・!」

「ってな訳でお縄頂戴に参りました。大人しくするのもよし、抵抗するもよし。

こっちの都合で夜中に来たんだ・・せめてそんくらいは選ばせてやるよ」

「ふざけおって!おおい!不審人物だ!」

そう言うと応接間にどしどし入ってくるゴロツキさん、

う〜ん、髪下ろしている分俺って気付いていないのかな?

それとも余所者か・・

「へぇ、俺を殺す気か」

「ふ・・ふふふ・・領主殿、世の中知って良い事と悪い事がある。

よからぬ事に頸を突っ込み過ぎるとこうなるんですぞ?」

勝ち誇った笑みを浮かべるアウサンブルク当主、このまま俺を殺せると思っているらしい

まっ、武芸の「ぶ」の字もかじっていない奴にとっちゃ、物量こそが全てと思うもんだろうな

「へへへ、耳が痛いんだが性分でな・・でもそんな窓際で高みの見物をしていいのか?

・・今宵(・・)()()()綺麗(・・)だぜ(・・)?」

「何を言っておる、わしの心配をするよりも自分の──!!」

俺を罵る途中でその声が中断される・・当主の背後の窓硝子が砕け、その醜い喉を矢が射抜いたからだ

すごい威力だな・・硝子を砕いて勢いは留まる事を知らず、

当主を射った矢は喉を貫いたままその体ごと床に突き刺さった

窓の外には庭園が広がり、かなり離れた屋敷の屋上に微かに人影が確認できる

それが誰なのかは俺の目じゃないとまず無理だ。

・・あそこから狙ったのか・・・、流石だ・・

まぁそれでも他人の敷地だからな。

得物の大きさからして逃げ足は遅いだろう・・

ここでの騒動が知られたら一気にまずくなるか。

・・弓での暗殺は無理があるからな・・

「と、当主!!」

「おお哀れアウサンブルクよ!天からの裁きに喉を貫かれ絶命するとは!

まぁなんとも自業自得な最期であろう事か!」

でもコンテニューはないよ♪無様に死んでいなさい

「て、てめぇ!!ふざけんじゃねぇ!ぶっ殺してやる!」

軽く挑発したら全員光り物抜いちゃったよ・・まっ、いいや・・

「へっ、こいつに荷担するのは・・罪も共有するって事だ。

・・・恨むならこの豚を恨みな」

ミレーユのこれからとエグザムの無念を晴らすべく君達にはその礎となってもらいましょう。



では、良い夢を♪

 

 

・・・・・・・・・・

 

「昨夜未明、アウサンブルク邸にて殺人事件が発生、

殺害されたのは当主であるバーベン=フォン=アウサンブルクとその用心棒数人

アウサンブルク当主は何者かに首を射抜かれており他の用心棒は撲殺、

身元がわからないぐらい激しい損傷を負っていた

だが使用人達はその日は来客者がおらずに異変には何も気付かなかったと証言・・

そして、そこに置かれた書類よりアウサンブルクの不正が明るみにされ

どのみち処刑される事には間違いはなかった・・って事ね」

 

日が明けて、ルザリア騎士団の団長室で呆れ顔なタイムさんが言う

まっ、大筋でそんなところですね

「上手い事いったな・・」

「でも、相も変わらず強引ね・・。

でっちあげの不正で揺さぶりをかけたり使用人の記憶の改ざんをしたり」

「フィートに一任するんだからそのくらいは緩いって」

いあ、マジで・・

そんな訳で俺とミレーユの存在が気付かれないようにフィートの援護をかりて証拠を全て消した

まっ、使用人の記憶を消した程度なんだけど・・

あの資料もでっちあげ、しかし・・嘘から出た真といいますか、

その内の何点かは本当に犯していたらしい

・・が、本人死んじゃったからいいんじゃねぇの?

「まっ、クロらしいわね。それで・・ミレーユさんは?」

「さてな。昨日の狙撃以来見ていない・・

作戦を話す際に翌日ここに来るように言ったけど・・」

領主ってのは印鑑を押す仕事なのかってくらい書類があるからな・・

結構溜まってきたので今日はタイムの隣でポンポン押しまくっているんだよ

・・まっ、それでも騎士団への協力は以前のまま、

重要事件が起こるとタイムとともに出撃するんですけどね

「ふぅん・・でも、それでよかったのかな?」

「仇討ちは良くない、そんな事して何になる・・まぁそう言うのは簡単だ。

だけど、そんな言葉で収まるほど簡単な物でもない・・。

それが清廉潔白な人なら無理にしても止めておくところがミレーユは武人だ。

怨敵を討てたのならばそれでいいだろう、無論・・虚脱感はあるだろうけどな」

所詮は仇討ちなんてのは討つ事で悲しみを反らすだけの行為

その後にあるのは、何も残らないという現実のみ。

俺も姉御の仇討ちって事で公社をぶっ壊したけど・・

それで何か残ったかといや・・何もなかったからな。

 

『ふふっ、思ったよりも思慮深い御方ですね・・』

 

・・っと、いつの間にかいらっしゃっていたようだな

「サリーさんも案内ぐらいしろよなぁ・・ったく、開いているぜ?どうぞ」

軽く声をかけると同時に団長室の扉が開かれる

そして入ってくるは・・

「失礼いたします、タイム団長、そしてクロムウェル領主様」

優雅な振る舞いで一礼をするミレーユ

・・だが、テント群の時とは違い清楚な白いシルクドレスに黒い外套を身を包んでいる

そこにいるは正しく気品満ちあふれた貴婦人

「ミレーユ=フォン=エンフィールド殿ですね、話は聞いています」

「いいえ、違いますよ・・タイム団長。

私はミレーユ=フール、見ての通りの素性もわからない愚かな女です」

「・・エンフィールドは捨てたか?」

「──今は亡き物にすがっても何もなりません。

それを教えてくれたのは領主様ではないですか?」

「・・そっか、そうだな」

「ご協力、ありがとうございます・・。貴方様のおかげで終わらせました」

「それで、これからどうするんだ?」

「さて、やる事は・・済んでしまいましたので・・」

そう言い含み笑い、全くにまどろっこしい言い方を・・

「そんじゃ、改めて頼もう。テント群代表として働いてくれないか?」

「はい・・」

静かに頷きながら引き受けるミレーユ、うむ、粘った甲斐があった

「助かる、あんたなら立派に役目を務めるだろう」

「ふふっ、恐縮です。ですが・・一つ、条件を付けてもよろしいでしょうか?」

「条件・・?」

なんだ?タイムも不思議そうな顔をしている

「はい、貴方様を・・『旦那様』と呼んでも・・よろしいでしょうか?」

 

な゛に゛っ!?

 

「そ、そりゃ何故に!?」

「ふふっ、信頼関係を築く上での愛称のようなものですよ」

「待て!待ちなはれ!それは誤解を招いちゃうよ!」

今みたいに!!隣から凄い小宇宙(コスモ)が感じられるよ!

「何をおっしゃるのですか、そのぐらい領主様ならば笑い飛ばせるでしょう。

何せ領主様と団長の馴れ初めは有名ですからね・・

私のような浅ましい女がそんな名を呼ぼうとて誰も気に留めません」

「な、馴れ初めなどと・・!」

「あ・・ははは・・、でっ、それを断ると?」

「この話、なかったことに♪」

・・やっぱり、・・だが、これで断るのも勿体ない話だ・・

「・・わかった、わかったよ」

「クロムウェル!」

ひぃぃ・・小宇宙(コスモ)を、小宇宙(コスモ)を感じるよ・・

「ふふっ、ありがとうございます。

旦那様・・では、今日のところはこれで失礼します。また・・詳細は後日お聞きします」

ニコリと満面の笑みを浮かべミレーユ、退室・・

残された団長室にはすんごい空気が満たされてます

思えば団長室って物騒な空気に包まれる事が多いですね・・


・・・・俺のせい?


「旦那様・・ね・・ふぅん・・クロはああ言う人が好みなんだ・・」

「いあ・・あのタイムさん、そんなに目を据わらせないでくださいよ。あれで断るのなんて駄目でしょう?」

「クロ・・、じゃあなんで旦那様なんて言われるのよ?」

「それがさっぱり。別に求婚された訳でもないんだけど・・。でも昨日もそんな事言っていたな・・」

ほんと・・何でだ?

 

「そこらは私が説明しましょうかしら?」

 

っと、何気に団長室に入ってくるアンジェリカさん・・

ううむ、この修羅場を悦んでいるように見えるのは俺の気のせいか?

「アンジェリカさん・・どういう事?まさか貴女が仕込んだんじゃないでしょうね?」

「ふふふっ、そう怒らないの。綺麗な顔が台無しよ?」

すごいな・・、タイムの怒気を完全に受け流している

「で、で・・アンジェリカさん、助け出してくれるのは嬉しいんだけど原因ってなんだ?」

「ええっ・・それはこれを見ればすぐにわかるわ」

そう言い俺達の目の前でエアディスプレイを展開させる

便利だね・・、って・・そこの映し出されるは・・

「え・・?これ・・クロと・・ミレーユさん・・」

髪を下ろした俺と煌びやかなドレスに身を包み仲良く肩を並べている姿が・・

「不正解、一見すると領主スタイルのクロムウェルに似ているけど・・

彼がエグザム=フォン=エンフィールドよ」

「こいつが・・、じゃあ・・あいつは俺を亡き夫に見立てているの・・か?」

「・・そのようね、仲の良い夫婦だって有名だったらしいわよ・・

この肖像画だってそう、名画家に頼んでここまで丁寧に仕上げているの。

・・まぁ、これも今は他人の物になっているそうだけどね」

「・・・まだ吹っ切れていないって訳か」

「当然よ、この世で最も愛しい人が無惨にも殺されたのよ?貴方がタイムさんを失うのと同じね」

「・・それで、瓜二つなクロを・・せめて夫として・・」

「そう、そうでもしないと悲しみに押しつぶされてしまうから・・。

復讐を終えたとしても何も残らずあるのは苦しみだけ・・

あのまま復讐を終えたとしてもミレーユさんは生きてはいけなかったはずよ」

「・・だけど、これでいいのかよ?

幾ら似ているとは言えども俺は・・ミレーユの心にいる夫じゃないんだぜ?」

「それでいいのよ、貴方は貴方・・そして彼は彼。ミレーユさんもそれはわかっているわ。

ただ心に開いた大きな穴が埋まり自分が一人で立てるまで・・そうしておいてほしいのよ」

「・・そういう事か。なら、尚更断れないか」

「・・クロ・・もう、そんな事聞いたら、怒れないじゃない」

確かに・・哀しすぎるからな

「まっ、そういう事よ。

でもそれで一歩先に進まれたと思うのならばタイムさんもクロムウェルの事を別の呼び名で言えばいいじゃない?」

「え・・?」

「例えば・・『ダーリン』なんて」

「・・・・・・・っ」

・・呼びたいんだ、顔が真っ赤になっている

「タイムはクロでいいんだよ」

「あら、そう・・じゃあ私は・・『ご主人様』にしようかしら?ふふふ・・」

「それはやめい!ミレーユ以上にいらぬ誤解を与える!!」

「つれないわねぇ、ご主人様。今日もお仕事がんばりましょう?

ふふふ・・卑しい私を叱って・・?」

「むっ・・」

ま、また波乱が・・!

まぁ仕方がない・・、タイムの機嫌は後で直すとして!

とりあえずミレーユの協力を得られただけよしとしよう!

そうしよう!!

 

「ご主人様〜♪」

「クロ!!・・じゃない・・ダ・・ダーリン!!」

顔を真っ赤にして言うな!俺まで恥ずかしい!!

 

「お前らはいつも通りで良い!こっちが恥ずかしくなるからやめれぇぇぇぇ!!」





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