最強の夫婦〜陽鋭剣ネェルブライト〜


太陽の石・・
まぁそれは例えで正式には太陽の光を吸収し続けた輝石・・っと言った所か
以前の仕事でその輝石「太陽のカルサイト」を手に入れ、それを元に
新しい剣を作ることになった。
言い出したのは俺の妻・・ミュンだ。優秀な錬金術師であるあいつは石の特性を
見ぬき、剣の材料としても利用できると判断したのだ
・・っと言っても実際に作るのは「鍛治師」であるため、その鍛治師に会うために
俺達は旅をしている・・

俺はセイレーズ。泥棒稼業をしている者だ
世間からは「怪盗」だの「義賊」なの英雄視しているようだが
実際の俺を知っている者はそんなことは決して言わない・・
何故なら俺は状態によってはどんな冷酷な事もする・・、
世間が目を輝かせるような人物とは到底かけ離れているだろうな・・
ただ単に俺の仕事の姿勢が世間には快いだけだろうさ・・

「こんな山奥に、本当にお前の師匠とやらはいるのか?」
岩肌がごつごつした山道を歩きながら妻のミュンに聞く
「生きていたらいるでしょ〜。」
「生きていたら・・っていくつなんだよ?」
「そうね〜、今年で230歳ぐらい」
まとめた緑髪をいじりながら呟く
「・・・亜人か?」
「うんっ、ドワーフだっけ?まぁ人間みたいで人間じゃないモン」
師匠に向かって「〜モン」扱いか・・・
「どの道、お前の師匠というだけでまともではないだろうな・・・・」
「あっ、ひっど〜!!おしおき♪」
急に俺の背中に飛び乗るミュン・・・
「おしおきというか・・、楽したいだけだろ・・?」
「こんなレディが山歩きなんかしたら罰が当たるじゃない♪」
うちの妻に正当な理屈は通用しない・・こういう奴なんだ・・
「やれやれ・・、しかし・・・少し重くなったな」
「うるさい〜!」
バキッ
「・・やれやれ・・・」

山の頂上付近・・
小さな小屋が建っておりそのすぐ傍には火口が・・
どうやらこの山は火山だったようだ。今は静まっているようだが・・それでも
あまりいい気にはならないな・・
「師匠〜!!!」
いきなり扉を蹴り飛ばし中に入るミュン・・
「・・・斬新な入室方法だ・・」
開け放たれた入り口に俺も入る・
・・・・・・・・・・
中には無骨な鍛冶用具がならんでおり溶鉱炉まである・・
絵にかいたような鍛冶攻防だが奥にはビーカーやフラスコがある・・
そして椅子に座っている黒い肌の老婆・・
「・・もっとマシな入り方はできんのか?ミュン」
「師匠に遠慮はいらないっしょ♪」
「・・ふぅ」
どうやらこのため息をついている老婆がミュンの師匠らしい
「それで、そっちの男は?」
俺を指差しミュンに訪ねる老婆・・
「彼?彼はセイレーズ♪私の王子様♪」
「セイレーズ・・か、こんな女を妻にして・・気は確かか?」
「まぁ・・、成り行きだ」
その一言に血相を変えるミュン・・
「ひっど〜い!あんなに愛してくれているのに!!」
「そんなこと人前で言うな・・」
無理やり口を押さえる、全く・・
「・・それで、何のようだ?お前の事だ、何か作れ!っといったとこか?」
「あはははは〜、正解♪」
「全く、つまらん材料ならやらんぞ?」
「それは大丈夫、ほらっ!」
白衣の裏側から「太陽のカルサイト」を取り出す。こいつの白衣の裏側は無数のポケットがある。そこに魔石等をしまっているのだ・・
「カルサイト・・、しかしこの色は・・陽光を長年浴びてできた物か」
流石は鍛治師、見事言い当てた
「その石で剣を作って欲しいんだ。できるか?」
「・・ふっ、これほど貴重な物で剣を?貴様も酔狂だな」
「俺にとってはそのくらいの価値なのさ、剣にしなかったら床の間にでも飾っているだろう」
「・・・・ふっ、ははははは!いいだろう!面白そうだ。作ってやるよ」
「・・流石、師匠〜♪」
「お前も手伝うんだ」
「げっ・・・」
硬直するミュン、力仕事は普段から嫌がるからな・・・
「当たり前だ。何でもワシに押し付けるな」
「とほほ・・・」
「貴様にも協力してもらうぞ?セイレーズ」
「それはかまわない。がっ、俺にはそういう知識はないぞ?」
錬金術や鍛冶の技術なんてものは持ち合わせていない。まぁそれが普通だが・・
「何もそんな事を手伝えとは言っていない。こんな石だけでは研いで剣にしても
重たいだけだ。だからカルサイトの性質を失わずに軽量化、さらに硬度をあげる金属が
必要となる」
「・・それを見つけろ・・っと?」
「そうだ。こんな『うつけ』の夫にしては頭の回転が速いな」
「うるさいわよ!干物鍛治師!!」
・・・・これも師弟愛・・か?
「・・それで、その金属は?」
「『オリハルコニュウム』・・この山でも採掘できるだろう。小屋のすぐ傍に採掘場があるから
そこから探すといい」
「・・しかし、どういう特徴なんだ?そのオリハルコニュウムという物は・・初めて聞く代物だが」
「銀色の鉱石だが。魔力に反応して淡く輝く。貴様、魔術の心得は?」
「・・風の魔術なら少々・・」
仕事の際に灯りを消すため昔習った。もっともあまり才能はないようだが・・
「それなら大丈夫だな。かなり奥の方にあるだろう。入り口付近は採掘しつくした」
「了解した。それで坑道には魔物は出るのか?」
「出なければこのうつけに取りに行かす・・」
「・・・なるほど。それでは何か得物を貸してくれないか?生憎、俺の得物は先日壊れてな」
流石に素手でそんなところに行くにはなれない・・・
「・・夫婦そろって図々しい。ほらっ」
投げ渡されたのは一本の槍
「これは・・?」
「あいにく剣がなくてな。使えそうな物はその槍だけだ。心得はあるか?」
「一流の泥棒には剣術、槍術の腕は必須だ。ふむっ、業物だな・・」
質素な作りだが刃の鋭さは凄まじくギラギラ輝いている
「それは心強いな。これはワシが最近作った中ではいい出来だ。軽槍『戦女』と名づけた」
「受けたまった。それじゃあ早速行ってくる」
「あっ、待って!」
急にミュンが呼びとめる
「何だ・・?んっ!」
いきなり口付け・・、人前なのに・・・
「いってらっしゃいのチュー♪」
「・・・うつけ・・」
「・・やれやれ・・・」

坑道は・・、当然ながら薄暗い
カンテラ片手に先に進む。まぁカンテラなんてものがなくても
仕事柄暗闇には慣れているがな。
オリハルコニュウムの確認用といったとこか・・
漆黒の闇を進むこと数十分・・・・
突然開けた場所に出た。上はかなりふきぬけておりわずかだが日の光が差している
「・・ふむっ、わずかに日が差している。ここらは坑道ではなく自然の洞窟か・・」
先を進もうとしたら周囲に気配が・・
「なるほど、得物を持ってきて正解だった・・な」
何か目の前に現れた・・、緑色のゴツゴツした肌を持つ猿の魔物・・か
「ふんっ、槍を扱うのは久しいが。ちょうどいい・・・!」
猿の魔物は驚くべき跳躍力で襲いかかる・・
普通の人間ならこの暗闇の中、何の抵抗も出来ずにやられるだろうが・・

ドスッ!!

猿の口めがけ正確に貫いた、流石に槍の切れ味が凄まじく猿の体を完全に貫通させた・・
「俺は一味違うのさ」
串刺しになり絶命している猿に声をかけそのまま投げ捨てた・・・
・・・・・・

洞窟の最深部
暗いが所々カンテラの光に反射している・・、鉱石があるのだろう
「ここら辺で試すか・・」
呼吸をととのえ両手を合わせ集中する・・・・・
それと同時に眼前の壁が淡く輝く・・
・・どうやらこの壁全体がオリハルコニュウムのようだ・・・
「これがか・・、これだけでかいとどうやって持って帰ったらいいか・・・」
槍で切り取れるかわからないし。これから帰るまで魔物に襲われる可能性は捨てきれない
なるべく槍を痛めることはしたくない・・・・
『もしっ・・・』
ふぃに声が聞こえる・・
「誰だ・・?」
槍をかまえ周囲を警戒する・・・・・
『私は怪しい者ではありません。どうか槍をおさめ下さい』
女の声・・・、殺気はないようだ・・
「・・いいだろう」
かまえを解く・・、まぁすぐに戦闘態勢を取れる程度にはしているがな・・
「これでいいかな?」
周囲に声をかける・・。そうすると
ふぃに目の前に羽衣をまとった女性が現れた。霧のように体がゆらめいでいる・・
『私はこの山の守護する精です・・』
「精・・?精霊か・・」
実際見たことがなかったがまさかこれほどまで人間に近い姿とは・・
『そうです・・。』
「なるほど、でっ、その精霊が俺に何のようだ?」
『あなたは・・、頂上に住んでいる鍛治師の関係者ですが・・?』
・・あの老婆の事か・・?
「まぁ、そういうことになるのか・・な?」
『そうですか、お願いがあるのですが・・あの方にこれ以上の鉱石の採掘をするのは
止めてもらいたいと伝えてほしいのです』
「・・・?」
『この山は鉱石の力で保たれています。火山が噴火せずに押さえているのもその力のおかげです。それを必要以上に採取してしまったら力の均衡が外れ大噴火が起きてしまいます』
・・なるほど・・
「・・わかった。納得するかどうかわからないが説得してみよう。
しかし俺もオリハルコニュウムという鉱石を求めに来た者なんだがな・・」
『・・・・・そうですか、・・ならばこれをお渡しします』
ふぃに手に銀色の鉱石が現れる
「これは・・?」
『高純度のオリハルコニュウムです。この山で取れる最高の物・・でしょう』
「・・いいのか?」
『はい・・、あなたになら鍛治師を止めてこの山の安らぎを保ててくれそうですから・・』
「・・・買かぶられたものだな・・。わかった。最善を尽くそう・・」
『ありがとう・・・・』
そういうと精は雲を巻くように消えて行った・・・
・・・・・・・ふっ
「泥棒にお願い・・か。変わった精だな・・」
ともあれ、目的の物を採ったわけだし・・、さっさと帰るとするか・・・


・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
「・・おかえりなさい・・」
小屋に戻るとミュンがしかめっ面で唸っている。あの老婆は普通なのだが・・
「・・どうかしたのか?」
「久々に師にどやされて機嫌が悪くなっただけだ。どれよりもどうだった?」
老婆がかまわず聞いてくる。どうやらこの二人にとっては日常事らしい・・
「これだ・・」
懐からオリハルコニュウムを取り出す・・
「ほぅ、これはまた純度の高い物を・・」
「山の精霊がくれた。これを譲る代わりこの山での採掘は止めて欲しい・・だそうな・・」
「・・なんだと?」
軽く坑道での出来事を語る・・
・・・・・・・
「そうか、・・噴火を防いでいるとなれば仕方あるまい。この山での仕事はこれで最後にしよう」
「・・意外にすんなり決めたな」
「ふんっ、元々他人に迷惑かけないために隠居しているのだ。山が困るようなことはできんさ」
・・・根は良い奴・・のようだ
「さて、これで材料はそろった。うつけ!いじけてないで作業再開だ!!」
「・・・わかったわよ!!!」
「セイレーズ、貴様はここにいても仕方あるまい。外で時間でも潰せ」
「そうだな、ここにいたら修羅場に巻きこまれそうだ。じゃっ、がんばれよ、ミュン」
ブータレるミュンを励ます。こうした一言にあいつはひどく敏感だ。
言わないと後でうるさい・・
「がんばるわよ・・・・その代わり後でたっぷり愛してね♪」
「・・やれやれ・・」

小屋の外に出たがやる事が特にない・・
仕方ないので槍の型でもやるか・・・
『・・ありがとうございます・・』
不意に目の前に現れる山の精霊
「いつも不意に現れるな・・」
『すみません・・』
暗い表情をする精霊・・、精霊でも表情を変えれるようだ・・
「まっ、いいさ。話は聞いていたようだな」
『はいっ、ありがとうございます。あのっ、あの鉱石は何に使われるのですか?』
「俺の剣だ。この槍は借り物だからな・・」
『そうですか・・、よろしければ私からも少し力を貸しましょうか?』
力を・・貸す?
「どういうことだ・・?」
『あなたのおかげでこの山は救われたようなものです。ですのでその剣に私がさらに
力を加えてみようかと・・』
「・・・わかった。恩にきるよ」
『いえっ、でも・・あなたってとても素敵な方・・』
惚れっぽい目で俺を見る精・・
「俺・・?止めておけ。俺の妻は嫉妬深い、例え精霊だろうが滅殺するだろう・・」
・・冗談ではない。あいつはそういうことがからむと不可能を可能にする
『ふふっ、わかりました。ではっ、失礼します・・』
そういうと精霊はまた消えて行った・・・

数日後、剣は完成した・・・・・



「・・・随分派手な剣だな」
素直な感想だ。
柄の作りは優雅な装飾がされているがそれよりも目がつくのは黄金色の刀身
光こそ放ってないがかなり目立つ・・
「まぁ、盗人が扱うものではない・・か」
老婆も素直に応える
「まぁ剣を抜くときは見つかった後だからいいんじゃない〜?」
「それもそうか・・」
実際手に取ってみる。驚くほど軽量だ・・・
「試し斬りをしてみるか?」
「できるならお願いしたい」
そう応えると老婆は外に出ていく・・
・・俺達も後に続いた・・
小屋の前、老婆が距離を開けて立っている、まさかばあさん相手じゃないだろうな・・?
突然老婆は指を鳴らした。
・・地響きとともに小屋の裏からストーンゴーレムが・・
「番犬代わりだ。試し斬りにはちょうどいい」
そういうと俺を襲うように命令、猛烈な勢いで突っ込んでくる
「大した試し斬りになりそうだ。はっ!!」
気合いと共に剣を抜く・・、俺の魔力に反応したのか剣は赤く輝き刀身から炎のような
真空波が出された・・!

ゴゥ!

ストーンゴーレムは横一文字に切断、その刹那、熱が全身にまわり蒸発した・・・
「・・・すごい剣だな・・」
剣自体の鋭さもさることながらこの追加効果は心強い
「申し分ないわね!徹夜したかいがあったわ♪」
ミュンも誇らしげ・・
「ご苦労だったな。でっ、名前は何にする?」
「陽鋭剣『ネェルブライト』・・太古の文献にあった太陽神の名だ。受け取るが良い」
「わかった。陽鋭剣ネェルブライト、確かに受けとった」
剣を鞘に収め天にかかげる・・・
すると突然空気が張り詰める・・、周囲に何か気配を感じる・・

『・・我、古よりこの山を守護せし精なり。一時の恩により彼の者に我が祝福をさずけん』

あの精霊の声・・?なるほど・・
空に響く精霊の声と共にネェルブライトに雷が落ちる・・。
いやっ、雷のようなモノ・・か。何故なら空は晴れ渡っている・・。自然の落雷ではない・・
「・・精霊の祝福・・か・・、これは良いものができたな・・・」
出来に満足する老婆・・
「よかった〜♪」
「そうだっ、ミュン。ブリューナクを貸せ」
「えっ、どうするの?」
訳がわからない顔のまま魔槍銃ブリューナクを渡す・・
「ここまでしてもらったんだ。俺もきちんとやるべきことをしないといけない・・」
そういうとブリューナクを坑道に向けて発射・・

ドォォォォン!!

爆発と共に坑道は崩れていった・・
「これで他の人間がここを訪れたとしても荒らされることはない・・」
「ふっ、律儀な男だな・・。さて、ワシは次の住家を探す。もう用がないならさっさと帰れ。
うつけの顔を見るだけで疲れる・・」
「じゃかぁしい!!干物鍛治師!!」
「・・やれやれ。世話になったな」
「まっ、いいさ。面白いものが作れたからな。せっかくの傑作だ。下らない事に使うなよ・・?」
「俺が思う下らない事には、使わないさ・・」
「・・ふっ、流石うつけの夫、食えない男だ・・」
「あんたも流石うつけの師匠だけある・・」
「あ〜!!セイレーズまでも『うつけ』っていう〜!!!!」
これ以上言うと暴れかねないのでさっさとお暇するか
「それじゃあ俺達はこれで失礼する。また会うこともあるだろう」
「その時までにうつけをもう少し手なづけておけ・・」
「・・まぁ、最善をつくそう」
そういいつつ下山する俺とミュン・・
「・・・全く!今回いい事なしだわ!!!」
散々うつけ呼ばわりされてご機嫌ななめのミュン・・
「そう言うな、良い仕事したぜ・・?」
「そうだけど・・。ご褒美にイイ事したいな〜♪」
「家に着いたらな・・・」
・・やれやれ・・
「よし!そんじゃ走ってかえりましょう!!」
「おい!ここから家までどのくらいかかると思っているんだ!?おい!ミュン!!」
キツイ岩肌を苦ともせず走り降りるミュン・・・・
やれやれ・・・・・・



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