「月華美人」


晴天の空、街道、・・・
周囲には見渡す限りの平原が広がっており、
遠くで山脈が連なっているのが見える・・。
鳥がさえずり穏やかな自然がそこにはあった・・・・

穏やかな街道の中、歩くものは一人しかいない・・・・
薄桜色の「着物」と言われる異国の衣服を身に纏った長い黒髪の女性・・・
腰には刀と言われる曲剣をさしており両手首には赤い木製の篭手をしている
顔は左目に刀のツバを眼帯としてつけているが凛々しい顔立ちだ・・
しかし、凛々しい顔立ちとは裏腹に足がふらついている・・・
やがて数歩進むうちに女性はふらっと倒れた・・
「・・・お腹・・・減った・・・・」
それが気を失う前彼女が言った言葉だ・・・・


・・・・・・
「タイムさん!目を醒ましそうですよ!!」
「・・静かにしないか、スクイード君・・・・」
その言葉で女性は目を醒ました・・・
「・・・?・・・・??ここ・・は?」
辺りを見渡す。ソファに横立っていたらしく
木を基調としたの重厚な部屋だ・・・・
前にテーブルがあり、その先には長い赤毛でスーツ姿の女性と
短めの黒髪の鎧姿の青年が座っていた・・
「ここは、貿易都市ルザリアにある騎士団屋敷の応接室だ。
君は街道で気を失っていたんだよ?」
黒髪の青年が説明する・・
「ルザリア・・・?町についていたのですか・・・」
女性が静かに呟く・・
「私はこの騎士団で団長補佐をしているタイムというものだ。
こちらは団員のスクイード。貴方は?」
赤毛で片目を隠したタイムという女性が訪ねる・・
「私は・・、クローディア。クローディア=グレイス・・です。」
着物の女性が静かに答える
「クローディアさん・・、ね。なんであんなところに倒れていたの?野盗とかかな・・?」
スクイードと言われた青年が訪ねる
「あっ・・、はい・・、その前に・・あつかましいですが・・・何か食べる物はありませんか・・・」
確かにあつかましいクローディアのお願いにタイムとスクイードは顔を見合わせた・・・・

・・・・・・・・・・・
「私は武芸者として諸国を周っておりましたがこの町にくる途中、
所持金を落としてしまい食べるのに困ってしまいまして・・・・」
恥ずかしそうに説明するクローディア。
スクイードが携帯した非常食のカンパンを
全部たいらげてしまったのだ・・・
「それであそこで倒れてしまった・・と?」
「はい、助けてもらいありがとうございます」
姿勢を正し、深〜く礼をするクローディア・・
「いやっ、構わない。困った人間を助けるのが騎士の勤めだ。」
腕を組み、微笑みながらタイム・・
「そうだ、このまま去るのはあまりに無礼、
何か私にお手伝いできることはありませんか?」
「いやっ、そこまでやってもらわなくても・・」
「いえっ、是が非でも・・。このままでは私の気がおさまりません・・」
強い眼差しのクローディア・・、ここまでされるとさすがに断りつらくなる・・
「そっ、そうか・・、なら一つ手伝ってもらおうかな?」
「タ、タイムさん。いいのですか!?」
スクイードが驚く
「・・こうまで言っているんだ。それに、一般人に協力を求めるのは前例に
あの変人がいる・・・何もはじめてではない」
「あの変人は別格です!彼女はひ弱そうだし・・」
変人?に対しての話をする二人・・
「心配には及びません。これでも刀の扱いには心得があります」
そういうと腰にさしていた刀を取りだし刃を抜いた・・
「これは・・・、素晴らしい一振りだな」
刃を見てタイムが目を見張る
見ていて心を奪われるような美しさ、透明感のある刃はまるで濡れているかのようだ
「『月華美人』、斬鉄剣の銘を持つ妖刀です」
斬鉄剣とは鉄さえも切れるように鍛えに鍛えた業物にだけに銘打てる刀のことだ
「・・なるほど、斬鉄剣を持つくらいだ。私達より腕は上・・だな」
「・・・恐縮です」
「これなら安心してお願いできそうだ。
それじゃあ内容を言おう、実は・・・・」
ドタバタ・・!!
タイムが説明しようとしたが廊下が騒がしい・・
ガチャ!
「よぅ、タイム!ちょっと金貸し・・・・おっと!」
パタン!
短めの金髪を後ろにまとめた青年が入ってこようとしたが
クローディアがいるのに気づきすぐ出ていった・・・
「・・・・・・・・・(パチン)」
無言のままタイムが指を鳴らすとさらに廊下が騒がしくなる
「おっ、おい!悪いと思って閉めたじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
男の声がフェードアウトしている・・・
つまみ出されている・・・?
「あのっ、今のは・・・・」
「噂の・・・変人・・・だ」
眉間に指を押さえてタイムが唸った・・・・・・

タイムはクローディアに次のような手紙を見せた

かいぞくをたいじしてください。むらのひとはこまっているのにがまんしています
きしだんのひと、たすけてください。なまえ、ネーナ

「これは・・・?」
「今朝、ここに着た女の子が持っていたものだ。どうやら私達に助けを求めているようなんだ」
「その少女は・・?」
「別室で眠りこけている・・、君と同じだよ」
スクイードが冗談まじりで言う。
そう言われてはクローディアも苦笑いするしかない
「それで、私は何をすれば・・・」
「ああっ、とりあえずは騎士団員もそれなりにスケジュールがあるのですぐには動けない
そこで貴方とスクイード君が先に村に行き事実調査を確認、できれば他の騎士団が
到着するまで被害を抑えて欲しいのだよ」
「なるほど、村の位置は・・・?」
「女の子から聞いている、地図を渡そう。
後、これは私の推測だがこの話が本当だとすると恐らく海賊は村を占拠しているだろう
それでなければ女の子がこんなとこまで一人でこないからな・・・
かなり危険だが・・、どうかな・・?」
確かに生き倒れた女性に頼むような内容ではないが・・
彼女をかなりの剣士と見こんでお願いしているようだ
「承知しました。引き受けましょう。
そんな健気な女の子ががんばっているのに私が何もしないわけにもいきません・・」
「そうか、頼む。ではっスクイード君。彼女と共に問題の村に向かってくれ」
「はいっ!!」
大げさに敬礼するスクイード・・・
なんとしてもタイムの期待に応えようという暑っ苦しい熱意が伝わってくる・・

・・・・・・・・・・・・・
村への街道・・・、
貿易都市ルザリアからはそんなに離れているわけでもなく
翌日にはつきそうな距離だ。
村の名前はアスワン。小さな漁村だそうだ・・
ルザリアとの交流は普段は無く、村の異常に気づいた者はルザリアには一人もいない
「しかし・・、変わった服装だね?」
そういうスクイ―ドは騎士団支給のプレートメイル、レザーマントをまとい手には
自前のハルバート「旋空」を持っている・・
「これは・・、私の祖国の服装です。ここらでは珍しいようですね・・」
たしかに薄桜色の着物、腰には妖刀、さらに片目には眼帯とかなり独特な雰囲気だ
「僕もはじめてみたよ、どこの国出身なの?」
「・・・言ってもたぶんわからないと思いますが・・、
とりあえず果てしなく東の方からきました」
「東・・か、そういや東の国は独特の文化を持っているってタイムさんが言っていたな・・」
顎をさすりながら東の方を見るスクイード
「タイムさん・・ですか。いい方ですね」
「そうでしょ!可憐で!頭がよくて!面倒見がいいんだよ!!!」
急に目を輝かせるスクイード青年・・・
「は、はぁ・・」
「でも悪い虫もつくんだよな〜!月に群雲って奴か・・・・」
一人で騒ぎ一人で嘆く・・・・
「悪い虫・・、さっきの金髪の方ですか?」
突然部屋に入ってきた男を思い出す。
チラッと見ただけだがかなりの使い手のようだ・・
「そう!!!騎士団でもないのに平気で屋敷にくるしこれ見よがしに事務員ナンパするし
タイムさんには馴れ馴れしいし!!あ〜!!!!!」
「おっ、落ちついてください・・、でも悪い人ではなさそうですが・・」
「悪くはないが・・、道徳がないんだよ・・・」
どうやらその金髪の男性が悩みの種のようだ
「大変そうですね・・・」
それぞれの悩みがあること実感し道を進む・・・・・


翌日
アスワン・・・
晴れていて絶好の漁日和なのだが外に出ている者は一人としていない
所々立ち並ぶ木造の質素な家からは息を潜めている気配がする・・
「どうやら・・、まともではないようだな」
見渡しスクイードが呟く・・
「・・・・・、行きましょう」
おかまいなしに先に進むクローディア・・
「えっ?行くってどこへ?」
「情報を集めるには酒場が一番ですよ・・」
無表情のまま答える・・、
っといっても彼女はあまり感情を出さないタイプなのだが・・
・・・・・・・・・・・・・
酒場の中はガラの悪い連中しかいない・・・
マスターらしき人物もいなくてカウンターにもガラの悪い男が座っている
「ネェチャン、なんか用か?」
店に入るやいなやいきなり声をかけられる
「酒を飲みに・・、ここは酒場でしょう?」
全く表情を変えないクローディア
「見てわかるだろう?休業中だ。とっとと帰りな!!」
「そうでもないようですね。酒があるわけですから・・
営業もできるのでは?」
「てめぇ・・・・」
殺気立つガラの悪い男・・
スクイードもすでにハルバートに手をかけ緊急の事態に備える・・
「まぁ、やっていないというのでしたら、
帰るとしましょう・・・・・・その前に・・」
「ああっ?」
「貴方達は海賊ですか?」
静かに、かつストレートに訪ねる・・
男達は驚き、後ろにいた騎士風の男を見てすべてを察した
すぐさま武器を手にとろうとする・・が
「ぐぁあ!!」
クローディアにからんでた男が悲鳴を上げ倒れた、
首筋からおびただしい血が流れている
彼女が物言わず切り払ったのだ・・
「この女ぁ!!」
襲いかかろうとするが・・!
「うわっ!」
「ぐえっ」
「ごふっ!!」
次々倒れていく、クローディアはその場で懐からクナイと言われる短刀を投げ
全て男の首に命中したのだ・・・。
店にいた男全員が床に倒れ、絶命していった・・
彼女は一歩たりとも動いていない・・
「これでこの村が海賊に襲われたことは確実ですね」
数人の男を殺したのに息一つ乱れず落ちついている・・
それに比べてスクイードは唖然としている・・・
「あ・・、ああ、そうだな」
今の動作で自分では到底この女にかなわないことに気づいた・・
「とりあえず、どうしましょうか・・・」
「騎士団員待つことになるんだが・・・、どうだろう?いつ来るかまだ連絡もないし」
「今数人殺しましたから直に気づいて報復行動にでるでしょう。
やるなら早い目がいいですね」
どうやら彼女は騎士団のペースとは違い速攻でカタをつけたがるようだ・・
「どうする気だ・・?」
「この死体を村の中央に置きましょう。そうすれば嫌でも他の連中は気づきます」
「だ、だがそれで逆上した海賊が村人を襲いかかったら・・?」
「・・貴方は村人を犠牲にするような戦い方をするつもりですか・・・?」
「うっ・・・」
「まぁ、私に任せてください・・・」
「わかった。じゃあ死体は僕が運ぼう・・」
「お願いします」
短く返事をし、先ほど男を斬って汚れた刀を懐の紙で綺麗にふき取る・・・
「また・・、つまらぬものを斬ってしまった・・・」

村の中央、広場のようになっている・・が、誰もいない・・
日は暮れかけて夕日が静かにさしている・・・
そして・・、中央には死体が積みあがっている・・
クローディアはその前で静かに立っていた・・。
見える片目も静かに閉じ風を感じている・・・・
スクイードはその場にはいない
そこへ・・
「お前か、俺達の家族を殺したのは・・・?」
どこからともなく海賊風の男がぞろぞろ出てきた・・、
その中の一人が女性を人質にして喉に剣を押し当てている・・
「そうです・・・、っと言えば?」
目を閉じながら応対する・・
「・・何者だ?」
親玉風の大男が声をかける
「旅の武芸者・・、それ以上でも以下でもありません」
「いい度胸だ。この娘が殺されたくなかったら腰の武器を捨てな!」
「・・・・・・・」
無言のまま妖刀を投げ捨てる。
「へっ、素直じゃねぇか。大人しい女は嫌いじゃねぇ、
たっぷり可愛がってやるよ!!」
下品な表現、丸だしでクローディアに近づく
「・・今です、どうぞ」
クローディアが静かにそう言うと、どこからかハルバートが飛んできた!!
それは人質に剣を押し付けていた男の腕を正確に切断し地面に刺さった。
海賊達が驚き振り向くとそこには家の屋根から飛び下りる青年騎士がいた・・
「ルザリア騎士団が一人、スクイード=キャンベル!
正常なる世のため貴様らを成敗する!!!」
刺さったハルバート「旋空」を抜き構えるスクイード・・
人質の女性は悲鳴をあげながら逃げていった
「ばかな奴らだ!人質はそれだけじゃねぇぜ!!」
あざ笑う海賊・・
「それならもう解放したよ、貴様らはその死体に気を取られすぎたってわけさ!!」
笑い返すスクイード、その言葉に顔を青くする
「これまで、ですね。神妙にすることをおすすめしますが・・・?」
あくまで静かに・・、落ちついている・・
「うるさい!こうなったら貴様を殺してやる!おいっ!その女は丸腰だ!やっちまえ!!」
「「おぅ!!」」
一斉に斬りかかる海賊・・
しかし・・
「うわっ!!」
「ぐぇ!!」
どこをどうされたか男たちは投げ飛ばされた、
相手の力を利用し倍返しをする『合気』と呼ばれる体術だ・・
そんなことを知らない海賊は目の前の光景に信じられず、
得体のしれない恐怖にかられている・・、
無理も無い、自分より一周りも二周りも小さい
女性が事も無く投げ飛ばすのだから・・・
恐怖にかられ、動けない海賊を無視し、自分の得物を取るクローディア・・
「さて、仕掛けてきたのは・・貴方が先ですよ?」
妖刀を抜く・・、その緩やかな動きは海賊達をさらに恐怖させた
「こ、殺せ!!殺せ!!」
一斉に襲いかかる海賊、
しかし・・・
ズバッ!シャッ!ズシュ!ザン!
目にもとまらぬ動きで海賊をすり抜けていく。
そして・・
「・・・切り捨て・・・・御免!」
短く叫び、赤く染まる刃を鞘に収める・・・
同時に海賊達が血を吐きながら次々倒れる
残ったのは親玉ただ一人・・
「ちっ、ちくしょう!!化け物め」
大剣を構え捨て身で突っ込もうとする・・が・・
ゴン!!
「僕を忘れては困るね・・!」
ハルバートの底で後頭部を強打。
むぅ・・んっと唸り親玉は倒れた。
「貴様は騎士団に連行して裁判だ。覚悟しろ・・って聞いてないか・・」
「どうやらこれで終わりのようですね・・」
涼しい顔でクローディア・・
「あの・・、こいつらは・・?」
「殺しましたよ、生きていてもまた罪も無い人間を襲うでしょうし・・」
「冷酷なんだな・・」
素直に感想を言う・・
「剣の道に情けは無用です。私の邪魔をし、罪もない人間を
落とし入れるというのであれば切り捨てるのみです」
淡々と答える・・
「そうか・・・」
武芸者とはそういうものか・・っと驚くスクイード・・
・・・っと、
海賊達が退治されたのを見て、途端に家から出る村人・・
「事情の説明はお願いします・・、こういうのは苦手なので・・・」
少し微笑むと親玉を担ぎどこかへ去るクローディア・・
スクイードは・・、村人にもみくちゃにされた・・・・・

・・・・・・・・・・・
その後村での歓迎されたのち二人は帰路についた。
親玉を捕縛したのをスクイードが担ぎ、きた道を戻る・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
やがて、ルザリアの町が見えてくる・・・
「あの・・、クローディア?」
「何ですか?」
「君は・・、恋とかしないのか?」
なんともなしに聞いてみた。年の割には落ちつきすぎているからだ
「剣の道には不用・・ですね。まぁそれなりに気持ちはありますが・・
旅の者ですし・・ね」
静かに答え、ルザリア近辺に広がるテント群を見た・・
紫髪の魔術師風の少年と栗色の少女が楽しそうに話している・・
少女は楽しそうだが少年は楽しむ以上に目が得物を狙う獣のようだ・・・
「そうか・・、どうして旅を・・?」
「それは・・・・、・・・・・長くなります。止めておきましょう」
寂しげに空を見る・・・
「あっ、すまない。野暮な事を聞いて・・」
「いえっ、構いません。こんなナリで旅をしているわけですから興味もわきます・・」
「・・・・・・」
「さぁ、屋敷に行きましょう。タイムさんも待っているでしょう」
落ちついきながら歩を進めるクローディア・・、
スクイードも無言のままで親玉を担ぎ後に続いた・・・・・・



「ごくろうだったな、スクイード君」
応接室・・、タイムが喜びながら誉める。
部下の手柄だ、嬉しくないはずがない
騎士団も海賊討伐のために人員を決めて出発するところだった・・。
しかし、それを先に2人で終わらせたのだから大手柄だ
まぁほとんどがクローディアの手柄なのだから彼も正直複雑な表情だが・・
「ありがとうございます!」
それでも憧れの人に誉められてうれしそうな彼であった・・
「貴方もごくろうだった。クローディアさん」
「いえっ、元はこちらが世話になったので・・」
「謙遜しなさるな・・」
微笑むタイム・・
「性分です、あのネーナという少女は?」
「うちの団員が責任をもって村までついて行く、心配はいらないよ」
「そうですか・・」
微笑むクローディア、それを聞いて安心したようだ・・
「ともかく協力感謝する。これは謝礼だ。
所持金を落としたのだろう?受け取ってくれ」
「いぇ・・、・・・わかりました。ありがたく頂戴しましょう」
断りかけたが現実の状態を確認してもらうことにした・・
「何か困ったことがあればたずねるといい、
協力できることがあれば力になろう」
「ありがとうございます、ではっ、私はこの辺で・・」
「あっ、待ってくれ、クローディア!」
「?」
「お願いがあるんだ・・、一手指南してもらいたい」
深く礼をして頼むスクイード・・
「私に・・ですか?」
「ああっ、君にだ」
「・・・・ご随意に・・・・」



騎士団の屋敷前には大きめの公園がある。
場所からして町人も安心して集えるからだ。
今の時間、珍しく人はいない・・・
その中で立つ2人・・スクイード、そしてクローディアだ。
「手加減はできません、怪我をする覚悟はしてください」
「そのくらいは、承知している!!」
元より彼はクローディアに勝とうとは思っていない。
ただ自分の力量でどこまでこの強者に通用するか・・、
それが知りたいのだ
「「・・・・・・」」
じりっじりっ・・・・・
間合いを計りながら攻撃の手を考える・・
スクイードは「旋空」を構え全て一撃にかけている・・
クローディアは少し歩幅を広げ、腰にさした「月華美人」に利き手を軽く添えている
一見して優雅な構えだが隙が全く無い。表情もなくまさしく「無心の境地」だ
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
しだいに汗が噴き出すスクイード、いくら隙を探ろうにも全く・・ない
うかつに討ちこめば「旋空」を払われるのは必至・・・・・
硬直状態の二人の間に風が舞う・・・
それとともに落ち葉が落ちる・・・・
そして・・・
カッ!!
目を見開き駆け出すスクイード!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
渾身の力で突き出す!!
ブースト・スティン・・、
今彼ができる最高の技、身体をバネのように跳ねて突っ込み
痛恨の一撃を突き出す一撃必殺の技だ。
フッ・・・・
クローディアが前にかがみ「旋空」の突きを避わす・・
ピッ!
頬の横を凄まじい風圧とともに「旋空」の刃が駆ける・・・・
「・・・・鋭!!!」
気合い声とともに刀を抜く・・・、
・・・・・・白い閃光とともスクイードの身体を宙を回転して倒れた・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

「お見事」
倒れているスクイードに手を差し伸べる
「っううう、もうちょっと手加減できなかったのかよ・・」
うめきながらその手を握るスクイード・・
「峰打ちだけでもありがたく思ってください、それでも・・、骨は少し折れましたね・・・」
「あばらが・・・3本・・・かな」
鎧ごしであばらを叩き折っている・・、常人ではありえないことだ・・
「お大事に、しかし思ったよりやりますね。まさか、かするとは・・」
頬をつたう血をふきながら驚く・・
「少しはやるだろ?あたた・・・」
「まだまだですよ。精進してください」
「わかった。今度会う時は負けない」
手を差し出すスクイード
「その時まで私が生きていれば・・ですが・・、会うことがあるなら受けてたちますよ」
静かに微笑むクローディア、固く握手する。
いつ死ぬかわからない・・、剣を手にもつ者なら避けられない宿命・・・
「君はそう簡単には死なないだろ?全く」
「保障はできません・・、ではっ、私はこれで・・」
一礼して公園を出るクローディア、
屋敷の前を通りゆっくりと街道に向かって行った・・・・・・・
ふっ、と風が吹く・・・
スクイードは彼女が見えなくなるまで、敬礼していた


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