「断罪の爆鎚「メタトロン」を揮う少女3」


 断罪の爆鎚「メタトロン」を揮う少女シグルーンが聖人会の意に反したその主の望み通り
冒険者ルーク=シーカーによって逃れたという真実は、当然の如く「メタトロン」諸共
何者かによって拉致され、主はその犯人によって殺害されたとして国中へと伝わった。
 で、その犯人たるルークと拉致されたシグルーンが聖都エスリオンを脱出後
如何したかというと、平然と聖都エスリオンから割に離れていない大きな町で
宿をとっていたり。 流石にシグルーンはルークの妹ということにして、
断罪の爆鎚は見られぬよう布に覆い隠してあるのだが。
 取り合えずは部屋で一休みに、断罪の爆鎚を抱いてベットに座るシグルーンを背にして
ルークは所持金と相談しつつ今後の策を練る。
軍資金そのものは今は潤沢に減っても如何にでもなるので心配はない。
真実が都合が良いよう湾曲された事実となって追われる身なのは許容範囲である。
問題は敵がどの位の勢いをもってくるかであるが、それを知る為ココにいた。
最終的に国へ帰るにしても、真直ぐには帰れない。
ルークの処の総大将の性格からしてシグルーンを快く亡命扱いに
国家間問題など気にせずネタにしない事に関して安心出来る。
そもそも、自分がその総大将だったなら即渦中へ跳び込み一気に解決するのだが
生憎それほどの実力を持ち合わせていないのは当の本人が良く知っている。
要は、旅路道中を如何するかなのだが・・・
「それでも、情報が足りないんだよなぁ・・・」
 「・・・???」
ルークの独言に、律儀に 足りないの?と首を傾げる少女。これは、ちょっと嬉しい。
「「メタトロン」は国宝級だから仕方ないとして、それが扱える小娘一人・・・
嬢ちゃんを呼び出していたのが主だってのが・・・面子と言ってしまえばそれまでだけど」
あの手際の良さからしてこの日を予見し、シグルーンが屋敷へ帰る前に聖人会とやらから
出頭命令が来ていて、それを拒否に逃げるつもりであったと考える方が妥当である。
でなければ、シグルーン帰還,ルーク来訪早々に旅の準備が終わっているはずなど
「っ!!? ちょっと鞄の中身見せてもらっていいか?」
 「・・・、・・・ん」
シグルーンは抵抗する気配もなくあっさり手渡し、ゴソゴソと漁った中から出て来たのは
「・・・・・・」
 「・・・・・・」
「・・・・・・、ごめんなさい。」
純白に簡素な ぱんてぃ。しかも簡素なだけに横は紐なふんどしデスカ?
ルークの脳裏に浮ぶのは、何故かニコヤカな笑みの初老の男。
それをぶん殴って気を取直し
整頓がてら少女シグルーンにも手伝わせ判明した鞄の中身は
少女の着替え数回分に膨大な額の路銀。 
・・・そして、封筒に収められた書類。
其処に書かれてあったのは少女シグルーンが人造人間(ホムンクルス)であるという
この国では恐るべき真実と、それに関連した技術の論文。
つまり人造人間の創り方。
ルークの国 希望都市国家ではその程度既に確立し、人造人間を創った処で普通の人間と
同等の権利が与えられる事になっているので、誰もそんな面倒くさい事などしないが。
まぁ、偶に気合の入ったアホが光源氏計画なるものをしようとして逃げられた
なんて噂が流れたりもしているが。それは置いておいて。
この国でホムンクルスが公に創られた日には、それは道具扱いになるのは明白。
少女シグルーンの主も最初はそのつもりであった。しかし、彼の愛娘を元にして創られた
「悪を裁く道具」は彼に人として当然の感情を思い出させ・・・
「論文の方は俺が預かっておくとして、親っさんの懺悔は如何する?」
 「・・・、・・・???」
今はまだ、この少女に人の想いを理解しろなんて事は酷なのかもしれない。
しかし、人でありながら道具として生まれ道具として終っていくのは余りにも哀しい。
「大事にもっとけ。今は兎も角、そのうち中身がわかるようになるだろうから。
そのうちに・・・な」
シグルーンはルークとそのノートを見比べ、しまう。唯、大事に持ってろといわれたから。
今日は休もうかと思ったその時、扉をノックに複数の気配。
「・・・・・・、はいはい、何ですか〜〜」
「宿の者ですが、お客さま、すみません。宿代の事でちょっと・・・」
「宿代? 来た時に二人分キッカリ渡したけど〜〜」
と言いつつルークはシグルーンに逃げる用意をさせながら戦う準備を
「はぁ、それはそうなんですが・・・ちょっとドアを開けていただけませんか?」
「別に御捻りは子供だからって心配しなくても、はずんでおくから・・・」
扉の向うで焦る感。恐らく様子見に来たところを一撃食らわすつもりなのだろうが
そんなことなど端からお見通しに全く近づかず万客歓迎で待機するのみ。
 すると
「観念しろ、貴様を逮ほ・・・」
突きつけられた破壊剣の先に扉蹴破った騎士達は絶句。
ルークの後ではシグルーンが断罪の爆鎚を構えている。
「突然ですが、あんた等、俺達の何を何処まで御存知?」
「っ、・・・貴様がジャステ公を殺害、その娘シグルーン嬢を断罪の爆鎚と共に拉致した。
ですからシグルーン嬢、この男は危険ですから此方へ・・・」
「まぁ、大凡予想通りだな・・・。 断罪の爆鎚がどんな物が知ってるかい?」
「ふっ、悪を焼滅させる神の具。侮るな。
故に貴様は唯一断罪の爆鎚を持てる御息女を誘拐までしたのだろうがっ!!!」
「そこまで解ってるなら話は早いな。シグルーン、ちょっとメタトロン貸してもらえるか」
 「・・・ん。 大丈夫?」
「まあ、ね」
差し出される断罪の爆鎚の握り、それを焼滅してしまえと騎士達が睨む中
ルークはゆっくりと手を近づけ・・・掴むっ!!!
!!?
其処には、右手に己の破壊剣を持ち左手に「メタトロン」を平然と掲げるルークが。
殆ど表情を現さないシグルーンですら驚愕させて。
「そ、それは贋物だっ!!!」
「なら、自分で持って確かめてみろよ」
ポイッと放られた爆鎚は曲線を描き、慌てて避けた騎士達の間にドスンと音を立て落下。
因みに、この断罪の爆鎚「メタトロン」は正真正銘本物である。 種明かしすると
ルークは手に障壁を張り、それでも肉を蝕む焔には魔法で回復させながら耐えていた。
でなければとても出来ない芸当であり、これを得物として用いるなど論外。
しかし狙い通りに贋物とみた騎士が一人、小ズルイ笑みを浮べて手に取った瞬間
「っ!!?」
轟っ!!!
鎧の中、悲鳴を上げさせる事無く燃え上がる炎。瞬く間に自然鎮火した其処には
焦げ一つない床の上に融けて形の崩れた鎧。そして炭化した人がた。
「・・・俺がいうのも何だけど、こいつ、仲間内でも評判悪かっただろ。」
ルークの言葉にショックを隠せない騎士達。
目の前で伝説を見せつけられては動けずとも当然だが。
「人の受け売りだけど・・・事実の何処に真実があるのか見極めてくれ。
通ってもいいよ、な?」
争いがないのなら 犠牲がないのなら、それに越したことはない。
騎士達の間に出来た路、先を行くルークにシグルーンも断罪の爆鎚を拾って付いて行く。
その騎士達の視線を背に受け行くルークの裾を引張る何か。見ればシグルーン。
「何?」
 「・・・「メタトロン」、粗末に扱うのダメ。」
「・・・いや、それは」
 「・・・ダメ。」
「・・・はい」
純真無垢な瞳で見上げ詰められたら、何が言えよう。
 ルーク、完敗。

 そして、二人は逃亡者となった。
 それも、極めて脳天気にノンビリと旅路を歩む。
そもそも兵なり騎士達が追って来た処で断罪の爆鎚がある種の免罪符に、手が出せない。
それでも攻撃して来た処でシグルーンは一撃必殺、ルークはそれを活かす様に立ち回る。
偶に直接打撃を食らわぬよう機転を利かせ完全装甲鎧に盾を備えたツワモノがいるが
それも「メタトロン」の神力に貫通力があるのかシグルーンがしっかり撃込めれば
有効打となる。 それ以前にルークが介者戦法で弱い部分を攻め撃砕くが。
 そんな調子ではあるが、流石に宿へ堂々泊まれるわけにもいかず自ずと野宿中心に。
幸いな事に総大将直伝・軍必須教養サバイバル術なるものの御陰で不自由しないのは
皮肉以外なにものでもない。 勿論、自身の経験からそれを仕込んだ総大将に対して。
ともあれ、枯葉を集め造った柔らかなベットに焚火には香草を利かせた焼魚・・・
「自分でいうのも何だけど・・・俺らって贅沢だな」
 「・・・・・・」そうなの?
「いや〜〜だって、ほら、逃亡者だろ? ・・・俺だけだけど」
 「・・・・・・」へぇ。
「他人事やな、嬢ちゃん。まぁいいけど・・・もうそろそろ潮時だろな」
 「・・・・・・」何が?
「・・・俺らがのんびり遊んでいられるのが。 敵さんだって本腰入れるだろ。
とうに「メタトロン」の封じ方に気付いてるだろうし・・・」
 「・・・・・・」何?
「「メタトロン」は悪を焼滅させるというけれど、そもそも「悪」って何?」
 「・・・・・・」 ??
「悪が罪を犯すことと言うなら触った全ての動物が焼滅させられるはず。
なら、原罪がOKなら、嘘をついた事もあるし人を殺したことも・・・
俺も悪で黒焦げぐらいならなきゃおかしい。でも、そうじゃない。」
 「・・・・・・」 ????
「なら、罪を犯した自覚があり悔いている、地獄に落ちる覚悟があるならOK?
てか、そもそもソレに感応して神力が焼滅るすか如何か決まるってことなのか?」
 「・・・・・・」 ???????
「ん〜〜〜〜(悩」
 「・・・、ん〜〜」
「俺の処の大将とかなら意外に熱いとか言いつつ持てそうだけど・・・
兎も角、それらの心配がない者を刺客として送ればいいわけだ。前例もあるし」
 「・・・・・・」 それって?
「つまり、ホムンクルス。」
 「・・・・・・」
「嬢ちゃんの親っさんの書類は俺が預かっているけど、コレは念の控えで
実際に創った者は別にいるみたいだからな。着き止めていてもおかしくない。
もしかしたら「メタトロン」の模造品ぐらいも・・・」
 「・・・・・・」
「今は、俺の推測が杞憂であることを願おう。」
 「・・・、・・・ん」
その日から数日は事何なく流れていった。しかし、国境まで後少しと迫ったその日
一人の騎士に率いられ立塞がる一個師団のマントで姿を隠した者達。
「ふっくっくっくっくっ、もう貴様達は終りだ。もはや忌々しい神器に要はない。
神の名の元に良く出来た生人形もろとも滅してくれるっ!!!」
騎士の合図にマント翻して現れたのは
シグルーンのように見た目麗しい人形のような少女達。
否、今となっては感情の片鱗を見せるシグルーンは妖精に例えられる。
そして、少女達の内数人が持つのは「メタトロン」の模造品らしき鎚。
よりにもよって最悪の斜め3歩行く鍛えられた予想は見事に的中していた。
「・・・シグルーン、敵が始末したいのは君だ。俺が引き付けてる間に逃げろ」
 「・・・だめ。・・・一緒に戦う。」
見れば、妖精のような少女の顔には確固たる意志。それは父親と良く似る。
「・・・君の分からずやって親の遺伝だったんだな」
 「来るっ!!!」
爆鎚の模造品や長剣を振り被り遅い来る感情無き造られた少女達。
爆鎚の模造品が二人に対し必殺一撃の有効打にならぬとはいえ、
「メタトロン」もまた彼女達に対して有効打に成り得ない。
ルークが主戦にシグルーンが補佐へ回らざるえない殺陣に、いつの間にか二人は離され
「ぐっ! ふぐっ!! はがっ!!!」
身体撃つ鎚のダメージに地に堕つルーク。
 辛うじて致命傷は避けたが解るだけでも数箇所骨折は確定か。
 戦闘不能なのは間違いない。
 「ルークっ!!?  っ!!?」
シグルーンは隙に「メタトロン」を弾かれ、突きつけられた剣に身動き出来ない。
弾かれた「メタトロン」は奇しくも地に伏すシグルーンの側へ。しかし、どの道・・・
「感情があるとは・・・人形にしては良く出来ている。
このまま破壊するのは惜しいな。 よしっ、俺の玩具とするか」
「き、さま・・・」
「だまれ下郎。今俺は気分がいい、免じて命だけは助けてやろう。
撤収するぞ。 最高の人形を土産にな」
もはや主の目的は思考外の騎士に従い少女達はシグルーンへ縄を討つと
シグルーンがこけるのも構わず機械的に引立てる。 二人の間に開く距離。
今動かねば手遅れに。
ルークの目に映ったのは放置された主無き断罪の爆鎚「メタトロン」。
咄嗟に掴んだ手が煙を上げて燃え上がる。
「ぐあっ・・・
・・・人が人を想う気持ちも悪というなら、俺を灰まで燃やし尽せ『メタトロン』
でも・・・それでも人へ成るべき娘を助け、罪なき哀れな者達を真に救ってくれっ」
その気合に炎はルークの全身へ。
それでも其の中で燃える事無く炎に包まれ立上ったルークは一閃。
猛回転の断罪の爆鎚「メタトロン」はシグルーンへ向かって飛来。
それをホムンクルスの少女が叩き落そうとするも
 「っ!!?」
触れた瞬間に灰化。 そして、命中したシグルーンは爆炎に包まれ・・・
その中でも髪舞わせ立つ人影、それは断罪の爆鎚「メタトロン」を揮う少女シグルーン。
「・・・お前達、かわいそう。 ・・・だから、せめて「悪」に使われぬよう」
爆炎が舞う。そして触れた一瞬で灰化していく心無き道具の少女達。
抵抗など無意味にあっという間にホムンクルスの一個師団は塵と消え
残されたのは、長たる騎士のみ
 「・・・お前」
「ひっひいいぃっ許してくれっ、命令だったんだ。仕方なかったんだ。」
口を紡んだシグルーンに、その肢体を覆っていた炎が消える。
それで許されたと思ったか、騎士の顔に浮かぶのは安堵の表情。 が
 「・・・お前の悪は、お前が裁け」
あっけに取られた騎士のその手に渡されたのは断罪の爆鎚「メタトロン」
瞬後、その口から 目から 鼻から噴出すのは炎。
内側から焼かれ、それでも簡単に死ぬことはなくのたうち回る。
そんなものにシグルーンは既に興味などなく、炎に包まれながら爆鎚を投げ寄越し
そのまま炎を散らしつつ倒れてしまったルークの元へ。
その身体には炎に曝されたような外傷はないが・・・上半身抱き起こし
 「・・・ルーク?」
無垢な少女の呼掛けにゆっくり開く瞼。
「・・・おう。」
 「・・・、・・・大丈夫?」
「・・・一応、生きてる。 ・・・でも、ごっそり、持って行かれたっぽい」
 「・・・ん」
「・・・行け。俺をおいて」
 「やだ」
「・・・即答かよ。」
そしてルークの意識は闇へ・・・次に目を覚ました時、其処は
シグルーンへ話した神聖教の領域外。つまり国境の向こう側。
そして、側には無垢な少女シグルーン。表情は解りにくくとも安堵が見て取れる。
 「・・・大丈夫」
「断言かよ。 まぁ正解だけど。 ・・・無理しなけりゃ動けるか」
 「・・・ん」
「さて、これで表立って追われる事はないから何処でもいけるけど。
リクエストは・・・あるわけないか。」
 「・・・ん。歩きながら考える。 ・・・だから、教えて」
「・・・(目が点」
 「・・・如何した?」
「・・・、いや、のんびりいきながら考えましょう。先は長いんだから」
 「・・・ん」
眩しく写る少女の無垢な笑みは、もはや少年にとって大事な宝であった。
そして二人の旅はこれからも続く。


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