断罪の爆鎚「メタトロン」を揮う少女2


断罪の爆鎚「メタトロン」の主である少女の今回の任務は、
崩城に住み着いた野盗を駆除すること。
 野盗といえど傭兵くずれに、崩城であっても今だ城としての
機能を持つ場所を選ぶ者達だけに侮れぬ相手であった。
その討伐隊対策の崩城は、たった一人の少女の侵入を安々と許し
 「・・・はぁっ!!!」
爆っ!!!
「ぐおっ!!?」
揮う爆鎚の一閃を咄嗟に剣でそれを防ごうとした傭兵は、
剣を圧し折られ身中的中に爆炎に包まれつつ吹っ飛ばされ・・・
戦闘不能の黒焦げ体、更に一体追加。
そして再び少女は整備された通路を進み・・・
 「っ!!?」
十字路、角から現れた気配に向かって咄嗟に揮われる爆鎚。
当たった処で悪人でなければ打撃のみで済むため容赦ない。
それでも相手は横跳で回避に
「お、女の子っ!!? 待て、同業者だっ!!!」
と少女を確認に慌てて構えを解いた者は凡そ傭兵とは思えぬ青年 まだ、少年。
その武装は、柄が長めの諸刃破壊剣に
部分を装甲強化された戦闘用革ジャケット・篭手と機動性重視な冒険者。
 規正品をカスタマイズした感のモノの良さから
少年が可也の力を有する何処かの組織に属していると見受けられるが、
それでも
 「・・・、・・・たぁっ!!!」
「ぬおっ!!? 敵じゃないって言ってるだろっ!! このっ・・・」
振り下ろされた鎚を受け止める諸刃の破壊剣。 
その刃は既に丸く潰され、切れずとも使手が良ければ
鎧の上からでも十分に致命傷な斬撃となるだろう。
 それでも
「分からずやめっ!!」
破壊剣撃上げに体勢が崩れた少女へ振り下ろされた剣撃は、
少女の額触れる直前で寸止め。
 「・・・・・・」
「・・・、降参しろ。 敵でなければ殺りたくない。」
ドスンと落ちる鎚に、少年はそれでも警戒を解くことなく距離を取るように促す。
この崩城でみた野盗達の黒焦体を魔法の仕業と考えて用心しつつ、
少女に自分が敵で無い事を示すため、自分の手から少女の得物を返そうと鎚を手に
瞬間

ジュウウウウウウ〜〜〜〜

「うおっあちゃっちゃっちゃっちゃぁぁ!!?」
肉が焼ける音と共に辺りへ漂っていく肉の焼ける香ばしいカ・ホ・リ♪
更に鎚は落下で少年の足を強打の上に巧みに薙ぎ払い、少年は唯転げ、悶絶、悶絶、悶絶。
そんな少年を意もせず、少女は己の得物を拾うと肩担ぎに
少年が沈黙するまで珍物を見るが如くただ眺めるだけであった・・・

「で、君何者? んな使手を選ぶ得物をもってるなんて・・・」
 「・・・・・・・」
一休に、少年に質問を投げかけられた少女は間の後に自分以外誰かいるのかと後ろ振り向き
「嬢ちゃん、ボケは置いといて、鎚を持ってる君のことっ!!」
 「・・・私? ・・・何者でもない。・・・「メタトロン」を揮う者」
「「メタトロン」?」
 「・・・悪を焼滅するもの」
「な、なるほど。随分と物騒なものをお持ちで・・・って、それに焼かれた俺って悪人?
人殺ったことあるから善人とは言わないけど、俺が悪人・・・ふふふふふ(泣」
 「・・・あなた、悪人じゃない。 ・・・その程度で済むなら、良い人。」
「それって慰めになってるのか、なってないのか・・・(汗」
少年の手の火傷は既に少年自身が魔法によって治癒させてある。
つまり、思いっきり握ったにも関らず手の平の軽い(?)火傷ですんだということなのだが。
「・・・まっ、いいや。どうせココを殲滅するっつー目的は同じだから手を組まないか?」
 「・・・・・・」
友好的にニコやかな笑みを浮かべる少年に、少女は如何したものかと一考。
結局、少女は判断つかずに半ば無視当然に踵返すと、スタスタと先を進みだすのだった。
「・・・愛想悪いで、君。」
そして、放っても置けず少女の後を追う少年・・・
隠密活動に敵を葬り隠してきた少年に対し、
少女は真正面から清々堂々中央突破。
故に、野盗へ伝わっている情報は奇妙な鎚を揮う少女一人。
となれば、取るべき作戦はゲリラ戦よりも中央集結に堅守防衛。
少女の前に立塞がるのは今までの雑魚とは異なりソレなりの力をもつ者達。
少女相手だからと侮らず、巧みな戦術で包囲し
 「・・・はぁっ!! ・・・たぁっ!!」
揮われる鎚も交されれば唯少女の体力を奪っていくのみでしかなく
少女を待ち受ける運命は明白かと・・・と、その時
「嬢ちゃん、伏せろっ!!!」
大部屋に響く少年の声、それに少女が従った瞬後

駕ッ駕ッ駕ッ駕ッ駕ッ!!

と曲線を描き少女の周りの野盗のみならず地面おも穿っていく無数の魔法弾。
そして、一帯を土煙が覆い・・・それが納まった時には魔法弾を逃れていた野盗も撃たれ
健在なのはソレまで敵に囲まれていた少女と当の元である少年のみ。
 「・・・・・・(睨」
「おし。 囮、ご苦労さん。コレで・・・まだイケルよな?」
 「・・・、・・・ん。」
歩み寄った少年に疲労した体力を回復されてしまっては少女も何とも言い様がない。
そもそも少女に抗議するだけの確立した自我もなく、ただ抗議と取れるよう凝視のみ。
「・・・分かった分かった、俺が悪かったから。
でも、嬢ちゃんにも非はあるんだからな。
一人で勝手に行って・・・と、いうわけだから先は協力していこうぜ?」
 「・・・・・・」
差し出された少年を何かと少女は見・・・分からず、同様に手を差し出す。
それを少年は手に取り握手にシェイクハンド。
もはや完全に少年に主導権を握られたッぽいが、少女にとってそれは何故か心地良く
少年の温もりが残る己の手を見ながら少年の後を追うのだった。
もはや歴戦の技を持つ少年と一撃必殺の少女のコンビに
中途半端な傭兵くずれの野盗が適うはずもなく当然のように駆逐され・・・


その後、任務(依頼)を終えた二人が如何したかというと少年は少女に付いて聖都に着ていた。
聖都エスリオン、神聖教の本拠地の一つである大都市であり
一見調和の取れていて「穢れ」を徹底的に排除したかのような美しい都市である。
 しかしその実獣人,亜人を下等種族の奴隷扱いであり、
見る者が見れば聖都エスリオンが如何に矛盾を内包しているか一目瞭然だあろう。
その街並みの中を、少年は少女のストーキング もとい、勝手に後についていき・・・
少女の辿り着いた先は、正しく豪邸。少年を意もせず少女は門の内へ入り
少年の目の前で間に合わず門は閉じてしまった。
「・・・。 す〜〜みませ〜〜ん、誰かいませ〜〜んか〜〜」
意を決し叫んだ少年の声が虚しく空へ響く。通行人が奇異な目で見ている事を考えれば
ものの間もしないうちに警備兵が駆け付け牢屋行きは確実か?
少年は出身が出身だけにそれは避けたく・・・諦めて帰ろうと思ったその時
僅かに開く門。そして、その門から顔を覗かせるのは少年が追っていた少女。
「よ、よう。」
 「・・・、入る。」
既に簡潔な少女の性質を知っていた少年は踵返す歩いていく少女についていった。
閉じ錠がかかる門の音をその背に受けて。
豪華にも関らず人気がない屋敷の廊下、着いた先は書斎と思われる部屋。
そして待っていたのは、ここの主であろう初老の男。
「旅人よ、この屋敷に何用か。」
「嬢ちゃん・・・その子の受取るべき報酬を渡しに来たのと、好奇心からの物見」
「悪を滅するがこの子の使命。 報酬は君が取っておけばよい。
しかし、そのような事のためだけに態々・・・」
「物見ってのが俺の旅の主な目的なんでね。
兎に角、その子の分はしっかり渡しておくから」
「・・・何者だ?」
警戒した初老の男の合図に、少女が物騒に構えるのは爆鎚。
少年の格好はそれなりの装備に旅用のズタ袋に鞘に納まった破壊剣。
一介の冒険者にしては遥かに品が良すぎる。 ・・・間者?
「今は唯の冒険者。元軍人で、退職金にコレ(武装一式)もオマケでもらった。
嘘をついていないのは分かると思うけど?」
少年自身、魔導にて自身が監視されていることなど百も承知。
そもそも嘘をつく気は端より無いが。
「して、名と属していた軍と階級は?」
「ルーク・シーカー。 元、シウォング軍の小隊長。
これ以上は軍規に関るかもしれないんで勘弁してくれ。」
「・・・それほどの者が流浪の旅?」
「護るばっかしじゃつまらなくてね。折角なら色々世間を見て回りたい って言ったら
総大将直々にあっさりOK。 で、旅の途中でその子に出会って、ごらんの通り」
「・・・ふむ。では、その鎚に一度でも触れたか?」
「ああ、とんでもない目にあったよ。」
「・・・・・・いいだろう。これも何かの運命・・・か。」
「???」
「少年よ、この国成り立ち・・・神聖教の事は存じているか」
「ま〜〜、凡そ世間で知られている範疇は、知っている」
「よかろう。では「聖人」についても存じているな」
「聖人」とは神聖教で偉業をなした者に与えられる称号だが・・・
肥大化した組織ではそんなもの大安売り状態に1都市で数人存在し、
本当に与えられるべくして与えられたか分かったものじゃない。 
仮にそうだとしても、一神教で他を認めない宗教において
それは「布教」と言う名の侵略によっても与えられる以上、その実は・・・
「それが?」
「聖人会がこの子共々寄越せと言ってきおったのだっ!! 
「メタトロン」に触れれば消炭と化してしまう極悪人どもがあああっ!!!」
初老の男の言わんとしている事は分かる。
悪を焼滅する「メタトロン」、それを揮う少女。これは権力闘争の武器になる。
要求に応じなくとも、少女の主である初老の男は異端審問にかけられ如何道・・・
「で、俺にこの子を連れて逃げてくれ と?」
「ふっ、流石に物分りがいいな。」
「・・・断ったら?」
「少年の性分では、もはや断れまい。」
「まぁ・・・ね。 でも、見も知らずの人間を信用していいのか?
俺がスパイの可能性があるだろ。そうでなくとも手土産に国に帰ったり・・・」
「そうなれば、単に私の見る目がなかっただけの事」
「・・・・・・ふ〜〜、なんで皆同じようなことおっしゃりますかね。
微力ですが全力を尽しましょ。」
降参な少年に、初老の男も満足げな笑みを浮かべるのだった。 
と、不意に光り出す机上の水晶珠。その中に映された光景は門前の武装した騎士達。
「きおったな、権力に憑かれた亡者どもめが」
「・・・・・・展開早いな、おい」
「監視されておるからな、少年を何処ぞの手の者と見たのだろうよ。」
「やぶ蛇っ!!?」
「この子について行きたまえ。隠し通路から郊外まで出られる。」
と、既に当の少女は「メタトロン」を肩担ぎに鞄を携え、脱出の準備万端。
初老の男はココに残るのだろう。止めた処でその決心が変わらないのは一目瞭然。
「っと、最後に、あの子の名は?」
「・・・「シグルーン」。我が愛娘を継ぎし者。 願わくば、あの子を「人」に・・・」
言葉の最後の方は少女「シグルーン」に手を引かれたため聞き取る事が出来なかったが
初老の男の顔は、娘の幸せを願う父親のそれであった。
少女が導くままに、二人は狭く長い通路を駆け・・・抜けると其処は小高い丘。
見下ろした都市、その屋敷の一つから立上る火の手が語るのは言わずもかな・・・
覚悟していたとはいえ予想通りの結果に動揺隠せず立ち尽くす少年を
少女は余りにも無垢に如何した?と覗きこむ。
「・・・嬢ちゃんの親っさんが死んだんだ。しっかり見ておけよ」
 「・・・ん。」
少年に素直に従う少女。しかし、その意味している処など理解していないだろう。
死者の安息の眠りを願う黙祷を・・・


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