『Liberty』


突如として国外に人材発掘の任に着かされたハイデルベルク情報局長フレイア=クレイトス

辿り着いた希望都市には散々弄られた訳なのだが

その結果は上々・・?

一応彼女の眼鏡にかなった人材を見事勧誘し誰も迎え入れない凱旋となった


「ほぅ、意外に早かったなぁ」



他者を払いいつもの飄々とした口調なカーディナル王。

玉座にあぐらをかいて座り団扇片手ににやけている

対し屈辱的な長旅を経験したフレイアはジト目のまま・・

「お蔭様で・・。そちらの様子はどうなんですか?」

言葉でチクチクっと・・、それに王も苦笑い。

「万事うまくいった。ハリーがうまく裏で動いてくれてなぁ・・。

まぁ難儀なのは・・ほれっ、あいつの部下のヒサメが全て処理してくれてな。やはり情報部も年功序列にした方が・・」

「・・・・・(ジト〜)」

「冗談じゃ、冗談。視線で射殺そうとするな・・・でっ、後ろの5人がお前が勧誘に成功した者か?」

フレイアの後ろにて礼儀正しく正装で鎮座している5人の戦士

ある種フレイアの勧誘に呼応した物好き揃い・・なのかもしれない

「はい・・右から、

アインリッヒ=デューデルト、

レオン=リースラフト、

ニーナ=リットリバー、

レザード=アインゼル、

シャルロッテ=インセクト

・・計五名です」

「ほぅ・・、どれも良い面構えだ。皆、かつての場所を捨て新天地で働くという事を承諾してくれて礼を言う

希望都市に比べて見れば騒々しいところじゃが・・存分に働いて欲しい」

途端に王としての風格を漂わす威厳ある口調になる王

ここらが曲者、それ故にフレイアにタメ口にされたりもする


「「「「「はっ」」」」」


対し5人は元いた国の王が少々特殊なのでカーディナル王の変化にノーリアクション

「まぁ無理してこちらに来てくれた事に加えてフレイアの目にかなったわけだ。その適正を評価してそれなりの待遇はさせてもらおう」

「お・・王、気前がよろしい事ですね・・?」

「だって〜、フレイア君が選んだんだろ〜、そりゃもう間違いはないでしょうなぁ(ヘラヘラ)」

嫌〜な笑みを浮かべる王、その視線にやはり国外追放されたのはただの嫌がらせなような気がしてくるフレイアさん・・

「・・・、何かあった時の責任は全て私・・に・・?」

「まっ、そこまでとはいかんと思うがな。ともかく、別室にあ奴らを任せている・・。今後の方針はそこで決めてくれ」

「・・へいへい・・」

もうどうにでもしてくれ、世の厳しさを胸に刻みながらフレイアさんは5人を連れて言われるがまま指定された会議室へと向うのであった


・・・


流石に大国の中心である城にある会議室、赤絨毯はもちろんの事装飾品の数々は煌びやかそのもの

どでかく美しい光沢がある円形テーブルが中央に置かれている

そしてそこにいるのは

茶髪で飄々とした雰囲気を出しているジャスティン

スキンヘッドが眩しく鍛え抜かれた筋肉を軍服で覆い隠している巨漢ディウエス

褐色肌に黒髪のオールバック、後ろに垂らした髪を軽く止め中華服を着ているジェット

おかっぱな栗髪が愛らしいアリー

そしてやや頭が禿げちゃっているがそれ以外は正しく騎士の鏡な体躯のオサリバン


「・・勢ぞろいね・・」


「隊長♪お帰りなさいませ!」

呆然とするフレイアの前にアリーが歩み寄る、彼女の留守をしっかりと守った有能な人物だがフレイアを見る眼差しは

まさしく女性が意中の男性に向けるソレ、見つめられた箇所が焼け付きそうなほど熱い視線に苦笑いするしかない

「ただいま〜・・。皆も、いいのブッキングしたから・・ねぎらいの一言でも言って!!!」

「・・・、任務を成功することなど我らでは当然の事だ」

「・・うう・・・」

ジェットの一言にフレイア撃沈・・

「戯言は後にしろ・・。諸君、遠路はるばる我らが力になってくれる事にまずは礼を言わせて貰う。

私はオサリバン・・ハイデルベルク騎士団の最高責任者だ。

そしてここにいる一見変人っぽい集団は『ブレイブハーツ』と呼ばれる精鋭だ

それぞれが一集団の長である」

「・・まっ、詳しい事は後々って事だ。そんでもって君達は俺達の騎士団でここの騎士団に馴染んでもらってその後に王都ハイデルベルクの守りについてもらいたい。」

一応リーダーなジャスティンが軽〜く言う。

彼もお堅いのはノーセンキュー、あっかるくいこうじゃないのっと笑みを浮かべすらしている

「・・やれやれ・・。そんじゃ、1人ずつ挨拶してもらえるかしら?」

呆れながら進行するフレイアに対し5人の内1人が一歩前に出る



「アインリッヒ=デューデルトです、魔法と剣を得意としており魔法は回復と身体強化系を主に扱います」


長赤髪・黒眼の女騎士アインリッヒ、支給された制服も見事着こなし気品溢れる立ち振る舞いをしている

一見凛々しそうだがその瞳には優しさが見え隠れしていた


「レオン=リースラフトです。タイプは・・戦魔導士・・ですね。遠距離からの魔法攻撃が得意です。以後、お見しおきを・・」


次に自己紹介するは金髪・碧眼で人当たりがいい優青年レオン、アインリッヒ以上に美しき立ち振る舞いをしており

貴族関係である事は一目瞭然、その態度も紳士的・・。しかし、どこか嘘っぽい・・


「ニーナ=リットリバーですぅ、あの・・犬人で戦士なんですけどぉ、がんばりますぅ!」


長茶髪・茶眼の天然オットリとした犬人女性、ナイスなバデーを持っており支給された制服もサイズが合わないらしく胸がパッツンパッツン状態・・

一見するとただの獣人なのだが・・、腕っ節は良さそうなのをその場にいた全員が見抜いていた


「レザード=アインゼルです。希望都市では戦医魔導師をしていました・・よろしくお願いします」


黒い翼を持つ金髪碧眼の男装麗人レザート、落ち着き払っており5人の中で一番話がわかりそう。

男物の制服着用だが声と胸の大きな膨らみからして女性である、だが皆ノータッチ。個人の趣味にはご自由に・・


「シャルロッテ=インセクトよ、まぁ何でもできるんだけど〜、一応は軽戦士ってところかしら?つまらない仕事ばかりだったら還るから、そのつもりでいてよね」


最後に自己紹介するシャルロッテ。金髪・紅眼で背が小さなロリっ娘・・背は小さくとも態度はでかい。

とりあえずは取り扱い注意・・


「魔法剣士に戦士、戦魔導士と軽戦士に戦医魔導師か・・。1個小隊にするにはピッタリだな」

「がっはっは!前衛が多いのは嬉しい限り!やはり騎士は汗をかかんとなぁ!」

豪快に笑うディウエスは全員無視・・、ただニーナは物珍しそうな眼差しを投げかけている

希望都市と言えども彼ほどに濃いおっちゃんは少ないらしい。

「まぁ・・、選抜された面々で構成したほうがいいでしょう?他にも優秀なのがいたけど・・バランスを考えてね」

「少しは成長したようだな・・・。ではっ、諸君・・これから一ヶ月ほど彼らの中でこちらのやり方を学んでくれ。

ハイデルベルクの地形などもそうだがこの国は大きい、それを統括する騎士団にはそれなりにややこしい決まり事が多いのでな」

申し訳なさそうなオサリバン、そう言いながらも実は裏でその一月でどれだけ使える人材なのか判断しようとの事、

だからこそブレイブハーツが緊急事態でもないのに召集されたのだ


「よぅし!!!ではわしから選ばせて貰おう!レオン!男はお前だけだ!わしが鍛えてやろう!」


問答無用にレオンの肩を掴むディウエス、迸る漢気に色男レオンは顔色を少し変える

「あ・・の、質問よろしいですか?」

「なんでもいえい!!」

「その、ディウエス様が指揮する騎士団は男でなければならない・・のですか?」

「応よ!我が『赤光騎士団』は事務系を除いて言わば女人禁制!!ほとばしる漢汁に女は不要だ!」

熱く語るディウエスにレオンは早くもこの地に来た事を後悔するのであった・・


「・・・・、レザート嬢。俺と共に来て欲しい・・」


燃え上がるディウエスを余所にジェットは一礼してレザートの前に歩み、そう言う

「私でよろしければ・・」

「「・・・ふっ・・・」」

もの静かに笑う二人、何気に気が合っていそうだ。



「それでは情報部ですね〜。ニーナさん、一月の間お願いします」



「は〜い♪」

「ちょ・・ちょっと!アリー、長は私よ!?」

「あっ、そうでしたね・・すみません」

ぺロリと舌を出すアリー・・まるでフレイアに叱られるのを望んでいるかのよう・・。

っというかフレイアの事なんて皆忘れている・・?

対しニーナはこの怪しい雰囲気に全く気付くことなく・・寧ろディウエスの体に見惚れている

「・・んっ?ニーナ、わしに何か用があるのか?」

「・・(代わってれ!代わってくれ!!かわってくれぇぇぇぇぇぇ!!!)」

レオンの肩を抱いているディウエスに対しそのレオンは目で助けを求めている

「いやぁ、彫の深い筋肉だと思いまして〜(つつつつ〜)」

何気に彼により上腕筋の彫をなぞる・・。

「おぉう!や、やめい!神聖なる漢の鎧に触れていいのは漢のみだ!」

ディウエスも変わった悲鳴を・・、だが顔が少し赤い

何分未だに独身、女人禁制っと言う事なのに嫁さん募集をしている彼だけに女に触られるだけでも衝撃が走る

「はい〜、すみません」

対しあっさりと謝り去っていくニーナ、ディウエスさんそれが嬉しいやら悲しいやら?



「そんじゃ・・残った二人は俺が面倒見るな、アインリッヒ、シャルロッテ。よろしく頼む」


「お願いします、ジャスティン様」

「ほ〜い。まぁ何とも頼りなさそうなところに当たったものね」

片や礼儀正しい、片や不真面目さ全開・・ある種一番苦労しそうなジャスティン。

彼には貧乏くじが良く似合う・・


「決まったようだな・・。それでは今晩は城内で旅の疲れを癒してくれ、明朝より各々がんばってくれたまえ・・以上だ」


「「「「「はっ!!」」」」」

ジッと見守っていたオサリバンが満足そうに笑い激を飛ばす、長のそれに一同声を張って応えるのだが

それぞれの新天地には多少の差があるために喜ぶもの、消沈するものは若干いるのであった・・。


数日後、大国の各地にて彼らの新しき生活は始まっていた

国内での移動と言う事で各自馬を支給された、っと言っても王都には3人留まっており遠方まで移動するのは

レザートとレオン・・。片や表情を崩さず片や機会があれば逃げ出したい・・っと

そんな事を余所に王都の総本部にある訓練場ではすでに訓練が開始されていた


「・・・、え〜ん・・早いです・・」


戦闘用レオタに脚甲・腕甲・胸甲を身に包み、両手には彼女の身長大な大戦斧を持ち自前の完全装備。

泣き言を言いながら周囲を警戒しているニーナに対して、広大な円形訓練場にはその相手がいない

否、いないのではなく見えないのだ


”いきますよ・・!”


宙に響く声とともに突如クナイが数本、中空から彼女に襲い掛かる!

「・・やーん!」

おっとりした性格とは裏腹にその反射神経は意外に鋭い・・、おまけにかなりの怪力のご様子で


払い落とそうと振った大戦斧は凄まじい轟音を放ち風圧でクナイを払い落とした・・

さらに数本、逆方向から飛び込んでくる。これにも素早く対応して振り向き様に腰を捻りフルスィング・・。

大戦斧というよりかは馬鹿でかい扇を振っているかのようだ。


「・・見事な感覚です。性格上素早い相手が苦手・・っという訳じゃなさそうですね」


スッと音もなく姿を現すは黒い忍装束姿のアリーさん、フレイアがそれに担当していないのはお約束・・である

「いやぁ、向こうだとシエル様にお相手してもらいましたので、大丈夫ですよ♪」

頬に手を添えイヤンイヤンと妄想に浸るニーナ、彼女もシエルファンクラブ会員らしい。

・・それもかなり倒錯している・・?

「・・・・・・・、ではっ、こういうのはどうですか!?」

童顔を引き締めさせてアリーが放つはワイヤーが付いた特殊クナイが2本・・。

まるで蛇のように地上スレスレを飛びニーナへと迫る、だがそれは意志を持つかのように蛇行しながら左右に分かれる

左のクナイはそのまま真っ直ぐニーナの元へ、右のクナイは大きく回りこみ後ろから彼女に襲い掛かる

生き物のように動くクナイにニーナはしきりに感心しているのだが何時までもそうしては入られない


「・・・え〜〜〜い!!!」


二つのクナイの感覚を確かめながらニーナは大戦斧を大きく振り上げ力一杯振り回す

・・言うなればハンマー投げっぽくその場で一回転大きく振り回しワイヤー式のクナイそのものを叩き落とした

「なるほど、大振りな武器なりに対処法を心得ているわけですね」

「えへへ〜〜〜」

ある種斧としての使い方を間違っているのだが迫り来る危険を退けているので問題なし

彼女の実力にアリーは太鼓判を押すのであった・・。




・・・・・・・・



ハイデルベルク北西部にある小さな街に存在する『龍牙騎士団』

寒冷地帯にあるだけに自然そのものが脅威ではあるのだがそこに務める騎士達は決してそれに負けない

新たなる同志を招いた中、団長であるジェットはレザードをつれて近くの山の奥へ・・。

そして到着したのは清い空気が辺りを漂う中にある滝、数メートルの崖から落ちるそれは凍りつかずに怒涛の勢いで流れ続けている

その中、滝つぼにある大岩に二人は禅を組み、滝に打たれている

ジェットは上半身裸なのはもちろんにレザードも文句を言う事無くサラシを巻き白衣に包まれ静かに行を受けている

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

双方瞑想をしながら極寒の滝に打たれる、遊び半分で受けようものならば命を失いかねないのだが・・・

「・・・・、辛くはないか・・・?」

「・・大丈夫です。このぐらいならば・・」

目を閉じながらの他愛のない会話、滝に打たれる轟音の中でも二人は会話を可能とさせている

それだけ神経が鋭いのだろう・・

「並の者ならば弱音を吐く、俺の騎士団の連中でもここまで耐えれる者はそうはいない・・」

「私は戦場に生きがいを求めてきた身、精神が研ぎ澄まされるこの感覚は嫌いではありません」

「・・・・、なるほどな。己を傷つけさせる事を嫌い他者を癒す戦医魔導師ではない・・っと言う事か」

「余り買いかぶられては後で失望するかも・・しれませんよ?」

「期待はしている・・だが、失望はしない」

「・・・・、ありがとうございます・・」

滝に打たれながら静かに口角を上げるレザード

目を閉じながらもジェットはそれに気付く

「どうした・・?」

「いえ・・、ようやく微温湯から抜け出そうな気がしまして・・ね」

「ふっ・・」

レザードの言葉に今度はジェットが笑う、しかしそれを最後に二人は話すのを止め

石になったかの如く無心にて滝に打たれ続けたのであった・・。





・・・・・・・・・・



「ディウエス団長・・、こ・・これは何の冗談でしょうか?」



南東にある温暖な都市に拠点を置く『赤光騎士団』訓練場にて・・

不幸にもここに連行された伊達男レオンはフレイアの誘いに乗った事海よりも深く後悔をしている・・・

っというのも周りにいるムチムチな筋肉を持つ男性騎士さん達は皆下着姿・・、俗に言うところの白い漢布(フンドシ)

そして何故か逞しき肉体に油を塗ってテカテカに輝かせている

それはレオンも同様・・どう見ても好青年な二枚目なレオンも希望都市で生活をしていたがためにその肉体は意外にもガッチリ引き締まっている。

だが周りのおっさん騎士さん達はそれを上回り胸をピクピク動かしている。


・・・正しく暑苦しき筋肉ムチムチ祭り・・


男の筋肉なんざ全く興味がないレオンに取っては目の前に広がる光景は地獄絵図にも等しく

自分がその一員になると言う事に自我が崩壊しそうなくらいのショックに苦しんでいる

無類の女好きな彼にとってはここは正しく居たくはない、居てはならない地なのだ


「何を言うか!これはれっきとした訓練姿だ!」


レオンの悲鳴にディウエスは一喝、彼も漢布姿・・だが彼のそれは熱き血潮を象徴するがの如く真っ赤に染められている

それにより放たれる漢気は正に通常の3倍、それで『角』があればもはや無敵・・

「は・・はい!」

「違う!!漢の返事は『押忍』だ!!」

「お・・おす・・・」

「ようし!それでは今日も肉体の限界まで訓練を行う!」


「「「「「押忍!!」」」」」


気合十分な騎士(?)達・・、レオンには彼らが違う人種に見えてきた

カミサマ・・ホトケサマデモイイカラ・・オレヲタスケテ・・・

「では先ずはうさぎ飛びにて訓練場十周!用意!」

「・・だ、団長!自分は魔導士であって必要以上な肉体労働は・・」

「貴様!上官に向けて異議を唱えるか!!」

鬼のようなスキンヘッドむっさいおっさん・・。


ナゼ・・ドウシテオレハココニイル・・?ステタオンナノオンネンカ・・・?


「な・・なんでもありません・・」

「ようし!口ごたえした罰として貴様は+5周だ!」

「え・・ええっ!?」

「返事は!?」

「押忍・・!」

反論できず、戦魔導士レオンはこれより一月・・毎日体力の限界に挑む事になる

それで彼の女好きな性格が直るかどうか・・、否、ナンパ師は死ぬまでナンパ師なのだ・・



・・・・・・・・



「ようし〜、そんじゃお仕事するぞ」

王都ハイデルベルク、そこに留まり指揮をするはジャスティン、彼だけ二人面倒見るという事なのだが

基本的なこちらの話が終わって彼が言い出したのは・・



「ジャスティン様、いきなり立て篭もった誘拐犯の確保を私達にやれと言うのですか!?」



いきなりの実戦、それにアインリッヒは困惑顔にシャルロッテは信じられない〜っと両腕を広げてお手上げ状態

城下の情報部の一室にて発生した事件について知らされていきなりの反論・・

「まぁ、君達は実力がある。それにハイデルベルクに着任するとなればこうした仕事は多いからなぁ・・早い目に慣れておいたほうがいいってわけだ」

鼻をほじほじしながら軽く言うジャスティン、対しアインリッヒは目の色を変えている

「訓練は積んで来ました!ですがこのような事件を担当した事はありません!」

「・・ほえ?希望都市じゃ珍しいケースか?」

「人質取って立て篭もる事件が頻発していたら希望都市を改名しなきゃいけないじゃない」

「・・それもそだな・・」

シャルロッテの突っ込みにシミジミと頷く・・、そんな彼に強気なシャルロッテさんは「馬鹿じゃないの?」っと軽い愚痴を・・

「そんじゃ、今回は俺が指揮しよう。犯人は1人、裏社会で出回っているオクスリで錯乱しており女性を人質に今は使われていない廃工場に立て込んでいる

金を要求しているらしいが今のところ適当にあしらって時間を稼いでいる・・そこで、俺が正面からそいつの話相手をする。

その間隙を見つけたらシャルロッテが弓でそいつを狙撃・・、そうだな、武器を持っている腕を狙ってくれ。

そして怯んだところでアインリッヒが確保・・OK?」

てきと〜に配役を決めるジャスティン・・。

それだけに慣れを感じさせ二人とも汗をタラリと。

「ちょっと待ってよ・・人質がいるんでしょう?そんな状態で矢を打ってもし人質に当たったらどうするのよ?」

いきなり重要任務にシャルロッテの顔色は余りよろしくはない

失敗の許される精密射撃を要求しているのだ、慣れていようとも緊張はする

「当たらんように打てよ」

「うっ・・、だから!万が一にそうなったら駄目でしょう!?」

「だ〜から、ちゃんとするって。それに鏃が付いていないこの棒矢を使用するんだ、加減すりゃいいって。」

そうやって取り出すは木棒に羽根がついただけの矢、やはりこうした事件が多いためなのかただの練習用なのか、

それが一式入った矢筒とセットでジャスティンは差し出した

「・・判ったわよ・・、っというか!一矢あればいいの!」

「まぁまぁ、持っていて損はないだろ?そんじゃ・・奴さんが暴れ出さないうちにさっさと行こうぜ。

あぁ・・それとアインリッヒ、一応は不殺だ。オクスリのルートを吐かさないといけないからな。

まぁ口が開けるならば後は料理してもいいから」

「は・・はぁ・・」

まるで散歩に行くかの如くさっさと席を立つジャスティンにアインリッヒとシャルロッテは互いの顔を見合わせつつも

その後に続いていくのであった・・



・・・・



そして辿り着くは問題の廃工場、かつては紡績関係の建物であったのだが今ではすっかり寂れておりその周辺に人だかりができている

その様子を見守っていた騎士達もジャスティンの登場に敬礼をし期待の眼差しを彼に向けていた

だがそこにはすでに二人の新米はいない、行動をすでに開始しておりそれに合わせるようにジャスティンはポケットに手を突っ込みながら無謀な格好で中に入って行った



「・・だ・・誰だてめぇ!!?」



木製のテーブルが散乱する工場内部には痩せこけ目つきがおかしい中年男が吼えている、手にはナイフ、

人質の少女をしっかりと掴み喉元にそれを突き立てている。

少女は身に着けている物からして貴族関係か・・余りの恐怖に叫ぶことすらできない状態であり気絶していないの不思議なほど怯えていた

「騎士団関係者さ〜。あ〜っと・・見る限り初犯のようだな」

「うるせぇ!!要求した金はどうした!?」

「悪いなぁ・・、ここんところ火の車なんだよ」

「ふざけんじゃねぇ!この女がどうなってもいいのかよ!!」

いきり立つ男、しかしジャスティンは全く動じていない

「そりゃ市民を守る騎士としては非常に困るんだが〜、ほらっ、ない袖は振れないって言うだろう?」

「な・・舐めやがって!」

「落ち着けって、変わりに俺のポケットマネーでもくれてやるよ・・ほうら・・よっ!」

下手で何かを投げる・・いや、投げるフリをする・・

「お・・金貨袋だ!!」

男は目を輝かせながらナイフを持った手で何もない空間に手を伸ばす、それはまるで何かを掴むように・・

だがその刹那・・


ドス・・

それに合わせるように男の手首にねじ込まれる棒矢・・、衝撃に手の力は抜け切れ味の良さそうなナイフは重力に従うがままその手からすり落ちる

「い・・でぇぇぇ!!」

激痛に我に変える男、箇所が箇所だけに少女を掴んでいた手を話し打撲箇所をさすり出す

そこに駆け込むは赤髪の女騎士、怯んだ男の腹に鞘を纏った騎士剣で深く突き刺し、急所からの激痛に男は白目になって倒れるのだった


「犯人確保・・ミッション・・コンプリート」

そのまま手際よく男を拘束して安堵の息を漏らす女騎士アインリッヒ、経験は少ないとは言えその行動は実に合理的である

犯人確保を確認するや否や外の騎士が流れ込み人質の少女を保護しつつ男を連行しだす


「お見事、最初にしてここまで手際がいいとは・・、流石は真龍騎公の民だ」


その中、二人の活躍に拍手喝さいなジャスティン。

彼が予想していたよりもスムーズに事が進んだらしくいささか驚いている

「あのくらい当然よ・・。まったく」

それにやや苛立ちながら工場内の物陰より姿を見せるシャルロッテ・・、小柄な体躯がら物陰に隠れるのはお手の物。

持っている獲物も極力小型化した短弓故に室内でも自由自在に扱いこなしたのだ

「でも・・あの男はどうして刃物を持った手を宙に晒したのでしょうか?まるで・・飛んでくる何かを掴むような・・」

「・・あぁ、薬の影響で幻覚でも見たんだろ?」

「・・・ジャスティン、何か嘘言っていない?」

あっけらかんと言うジャスティンにシャルロッテはジト目になっている。

そうでなければ無策にあれだけ大胆になれるはずはない・・

「私も、そう思うのですが・・?」

「はははは・・・。まぁ、詳しい事は機会があれば、だな・・。とにかく事件は無事解決だ。

着任早々の大活躍にお前達の知名度は上がる事間違いなしだぜ〜」

笑いながらさっさと埃臭い廃工場を後にする。

飄々としながらも手の内を見せないジャスティンにどこか釈然としない二人だがいつまでもそこにいても仕方ない事もあり

ややすっきりしない状態のまま凱旋するのであった・・





・・・・・・・そして、一月が経過した・・・・

再び王都に集う五つの志、かつてのあの会議室にて再会を果たした

晴れ渡った表情の者からやや疲れ果てた者その様子は五人五色、だが他にその場にいるのはオサリバンだけであり正装で微笑んでいる

「皆、この一月ご苦労だった。今日を持って正式に諸君をハイデルベルク騎士団の一員とする」


「「「「「はっ!」」」」」


正式にハイデルベルク騎士団制服を着用する五人・・。オサリバンの言葉にピシっと返事をする

「まぁ・・かしこまらなくていい。特に・・レオン君か、少々苦労したようだな」

「いえ・・」

オサリバンが同情するほど疲れ果てているレオン、確かに一月前の彼に比べて少し覇気が亡くなっていた

「何、悪気があってではない・・。それに君がこの国に来る数日前に真龍騎公から君の好色さを教える速達が届いてな。

灸を据えてから役立ててくれとの申し出があったのだ」

「そ・・そんな・・」

自他とも認めるナンパ師な彼故にその行動は真龍騎公はお見通し♪

伊達男、新天地にて一華咲かす前にその足に古巣の糸が絡まったらしい・・

「まぁそれは置いておこう・・私生活は基本的には自由だ。女性を口説く事が違法ではないが・・ほどほどにしておけ」

「押忍・・・じゃない!・・はい・・(少しは・・解き放たれた・・)」


師曰く『地獄に仏』彼にとっての仏は禿であった


「さて、これからの諸君の任務なのだが・・この五人で小隊を編成しハイデルベルクの治安維持に努めて欲しい。

隊長は基本的には交替で王都に赴任するブレイブハーツが務めるのだが基本的には君達だけで行動する事になる

・・そこで、だ。隊長代理をアインリッヒ。君に任命する」

名指しされて一瞬目を見開くアインリッヒ・・

「自分が・・ですか?」

「うむっ、五人の仲では一番適正がある。ジャスティンの太鼓判もある事だしな・・。君が他の四人を纏め上手く任務についてくれ」

「・・・かしこまりました。隊長代理の任、謹んでお受けいたします!」

「よろしい。では・・ここにハイデルベルク治安維持小隊を発足する・・何か通称名とかが欲しいならば追々言ってくれ。

正式に登録しておこう・・ではっ、今日はゆっくり休みたまえ」


真面目なのかお茶目なのかわからないオサリバン、その落差に一同目が点・・。

そんな彼女達に笑みを浮かべながらオサリバン退場・・禿はハゲなりに忙しい身なのだ


「じゃあ〜、皆希望都市出身だから『サンズオブドラグーン』ってのはどうです?」


五人だけになった会議室で陽気なニーナが提案、本気で通称名を作るつもりだ

「ライの息子達って事?え〜・・・なんかヤダ」

あんたそれでも希望都市民か・・っとシャルロッテは即効で却下。まぁそれが希望都市の民らしさでもあるのだが・・

「私に意見はない。皆の好きにしてくれ」

やや呆れ口調の男装麗人レザード、彼女にはそうしたモノには興味なし・・

現実主義というべきなのか・・

「俺は・・漢(おとこ)が関係してなければなんでもいいよ・・」

この一ヶ月、ムチムチマッチョマンより漢光線を浴び漢放射能症候群にかかったレオンなだけに

その辛い過去を消し去ろうと必死になっている・・ようだ

「ならば、『リバティ』・・なんてどうでしょうか?正規な騎士でない分私達は動きやすい・・っとジャスティン様も仰っていましたし」

1人真剣に考えているアインリッヒ・・何事にも真面目な彼女の人柄が良く現れている

「確かに・・、そのための小隊だって言っていたよね?機動性を重視するために超法規的な権限もあるとか・・」

シャルロッテもこれには異論はなさそうだ。最も・・自分から提案は絶対しなさそうなのだが・・

「俺は構わないよ。・・それに・・その言葉は今の俺にこそ相応しい・・」

彼にとってはその意味は『奴隷からの解放』なのかもしれない・・


「私もいいですよ♪」

「なんでもいいから、これからの役割分担を決めましょう」


他の面々も異論はなさそう・・っというか本当に興味がなさそう・・。


「ではっ、ハイデルベルク治安維持小隊『リバティ』ここに結成します!」


ともあれ、元気の良いアインリッヒの声とともにここに少数精鋭な特殊小隊が結成されたのであった・・



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