「クロ&ライの恋話」


ルザリア その騎士団駐屯地の屋敷
朝っぱらからも団長室にて凛々しく職務をこなす女性がいた。
ルザリア騎士団長タイム=ザン=ピョートル 
シャイン・ルビー・ミネルヴァ(陽紅の軍女神)
王国公認の字 称号を、例えデスクワークの姿であっても万人認めるだろう。
が、しかし、その内面では
 「・・・(くっっろ〜〜♪)」
明日の非番の予定で桃一色。それを顔に出さないのは流石というべきなのか・・・
と、そんな時に職員によって届けられたのは一通の手紙。
差出人は、周知非公認の恋人であるソレ。職員が立ち去るのを確認するや否や
凛々しい表情一変、所望のものを手に入れた幼子みたく満面の笑みで封を解き

 思うところがあり暫くの間、遠地へ旅に出ます。 探さないで下さい。
                       クロムウェル=ハット

 「・・・・・・、はい?」
凍る時。タイムは書いてある意味が理解できず、もう一度読み返す。

 思うところがあり暫くの間、遠地へ旅に出ます。 探さないで下さい。
                       クロムウェル=ハット

意味は理解出来た。全く悪質なイタズラだとタイムは筆跡鑑定を行い・・・
てか、筆跡鑑定するまでもなくその筆跡はクロムウェル=ハット自身のもの。
もはや否定する余地は一片足りもなかった。

昼過ぎ、団長室へ来た職員が見たものは
 「くぅ〜〜ろぉ〜〜(えっぐえっぐ」 ずるずるぐでんぐでん
机の上に身を投げ出し滝涙を流しながら完全にダメダメに酔っている物体であった。
騒ぎが大きくなり
 「これは・・・何の騒動?」
と、団長室前にやってきたルザリア騎士団三大美人が一人アンジェリカが尋ねるのは
同じくルザリア騎士団三大美人が一人シトゥラ。
 「何でも、クロムウェルが探さないで下さいと手紙を残して失踪したそうだ。
指名手配もされたが、手紙が記された時刻から考えて既に手が届かぬところにいるだろう」
 「へぇ・・・タイムにベタベタされるのが辛くなったのかしら?」
その発言に一瞬、団長室から溢れる殺気。 群集が思わず一歩下がる、が、直ぐに
 「くぅろぉ〜〜(びえええええええん」
響く泣き声に別の意味で更に一歩引いてしまう群衆。
皆してその原因に「余計な事言うなよ・・・」と疲目で見てしまう。
 「あら、失言だったのね。思わず皆の心代弁しちゃった」
 ・・・、びえええええええん
さり気無い毒舌に、更に大きく響き渡る泣声。
もはや軍女神の機嫌を良くするには彼の首に縄つけてでも連れてくるしかないだろう。
しかも、何か大事が起きる前に。
 「・・・でも彼、何処へ行ったのかしら?」
 「正直、検討着かない。フィートがココに残っているから場所は限られているはずだが」

とある都市外れの屋敷、その庭で園芸をする男の姿を見て正体が分かる者など
皆無だろう。 それほど様になり本来の職務から懸け離れているわけなのだが、
その男がふと気付き視線を向けた先には、ズタ袋を抱えたまま門から覗き込む青年が一人。
青年は入ろうか迷っていたのか、気付かれてぎこちなく笑みを浮かべ
「よ、よう」
「よう、久しぶり。 如何した?」
「あ〜〜うん、ちょっと。 ・・・遊びに来たということで」
「???  まぁ入れよ」
「では、シツレイします」
我が物顔で屋敷に入る男に、青年は性分と異なって申し訳無さげに着いて行くのだった。
青年を居間にくつろぎ待たせ、土汚れを落とし戻って来た男は小奇麗でラフな格好。
それでも寧ろ教師などをさせたら似合いそうな感であった。
「悪い、待たせたな。それで態々こんな所まで
一人遊びに来るなんて如何した、クロムウェル」
「ああ、それは・・・こんな事を相談出来るのはライぐらいしか思いつかなくってな」
ライ。 ライ=デステェイヤー 真龍騎公の字を持つ都市国家シウォングの若き王
それが今やルザリア騎士団特別教官の肩書きを持つとはいえ冒険者のクロムウェルが
交友関係があるのは克割り。
「・・・それを言っちゃぁ、俺は傭兵の出なんだけどね」
「???」
「いや、何でもない。 んで、相談って?」
「それは、あ〜〜〜 ・・・・・・」
カクカクシカジカ
「・・・つまり、だ、最近自分に惚れてくれる美女魔導士さんが現れたのはいいんだけど
タイムさんが嫉妬深いから彼女に手を出すわけにもいかずソレだと彼女が可哀想だから
如何すればいいか という方向でまとめていいか?」
「お、おう」
「はっはっはっ、・・・・・・・、んな事、この俺に分かるかいっ!!」
「俺の知り合いで、複数の女と巧く付き合ってるのはライとクラークさんぐらいなんだよ」
「なら、クラークに聞けや」
「クラークさんは目標だから出来るだけ会わないように、って決めているんだ」
「なら、それこそクラークに聞きゃいいだろうが」
「こんな事、相談できるかよ! それに、関してライの方がヤリ手じゃないか!!?」
「・・・・・・」
「否定しろよっ!!!」
「・・・って、事は二股のみならず、三股,四股も狙ってる?」
「・・・・・・」
「否定しろやっ!!!」
「「・・・、なんだかなぁ、もぅ(疲」」
もはや言葉につまり、二人して茶をズズズと啜る。 幸いなのは、
他に口出す面々がいないことだろう。間を置き、ライが口を開き
「ぶっちゃけ、俺がアドバイスしてやれる事は・・・・・・思いつかないな。
シエルは、あれが子供の時に助け世話して懐かれてしまった偶然『光源氏計画』だし。
アルシアは、守護騎士時代の噂から俺に『理想の王子様』を見て自分の王に企んでるし。
ルーは、心の琴線に触れたか研究を言い訳にくっ付いてきた上に既成事実(?)アリだし。
レイハは、スパイの任務失敗とかで抜忍にそのまま秘書が本職になっちゃったわけだし。
まぁ・・・皆、俺にベタ惚れ?(ニヤリ」
「確かに、参考にならないな」
「最後さり気無くスルーしたっ!!? まったく・・・
皆に直接、仲良しでいる極意でも聞いてみるか?」
「御口添え、ヨロシク御願いします」 m(_ _)m

先ずは、アルシア。来室早々にクロムウェルの顔を見るや一寸驚きに
 「あら、クロちゃん来てたのねぇ」
「クロちゃん・・・(ガーン」
「クロムウェルが、・・・(カクカクシカジカ)・・・と言う訳で話を聞きたいとさ」
 「そうねぇ、私が愛する男だもの。三人や四人ぐらい面倒みるくらいの器は持ってる
から懸念はないわねぇ。皆もライバルというより同志か家族みたいな感じだし・・・」
語る妖女アルシアの表情に垣間見えるのは、家族団欒に憧れる普通な女性のそれ。
「・・・まぁ、三人四人処か一国の面倒見させるつもりでいるくせにな」
 「おほほほほほ(汗」

次は、ルー。見るや呆れ顔に
 「ヘンタイな気を感じると思えばヤッパリ オマエか」
「ヘンタイって・・・」
省略に
 「ン〜〜〜、あまり気にしたことが無かったからナ。 一番仲イイのはシエルか。
アルシアとレイハは仲悪いとは言わんが・・・少し苦手かもしれん」
「シエルは甘えさせてくれるしな。アルシアはレイハ見た目からしてアレだし。
・・・ルーって意外に現金で面食いなんだなぁ」
 「ふふん、可愛いモノを愛すると言ってくれ」
「・・・、さ、次行こうか」
 「んニャンっ!!?」

そして、シエル。 ライとクロムウェルの顔を見比べ
 「・・・・・・、何?」
省略に
 「・・・、・・・、・・・、分からない。別に皆が甘えていても
隙間に入れば済む事だから。 その隙間もないなら・・・我慢する、か?」
「猫は嫉妬深い生物っていうけど、シエルがそんなこと無いしな」
 「・・・(クアアァァ。 ・・・(ゴロゴロゴロ」
「ゴチソウさまです(合唱」

最後にレイハ。 知らぬクロムウェル来訪に少し驚き。
省略に、何故そんなことを話さねばならないと憤慨しつつも
 「・・・結局他に行くところもありませんし・・・ここは既に私の国ですから。
皆と仲良くする秘訣? ・・・、何でしょう・・・(悩。  ・・・、妥協?」
「「・・・・・・」」
彼女に関しては、末妹(?)だけあって他の姉妹(?)達に嫉妬しようが文句は言えない。
嫉妬以前に、何故この人が好き? ⇔ やはりこの人が好き! の堂々巡りっぽいが。
もはや何もいうまい・・・

そして再び野郎ドモは居間で二人っきりに
「んでー、何か分かったか?」
「はっはっはっ、さっぱりっ!!!」
「ダメじゃんっ!!! まぁ、俺なりにまとめると結局は彼女達同志が仲良い事が
必須なんだろな。それにエコヒイキせず皆万弁に、何なら3Pまでもっ!!!」
「おおおおおお、さささささ3Pっ!!? アレはイイモノですなぁ」
「俺としては奉仕するより一人の女を二人で嬲りたいんだけどね。
なんせ独占欲強いから、この為だけに『分身(ワケミ)』をマスターしてしまったよ。
ハッハッハッハッ!!!」
「じ、自分だけで一人の女の子に3Pですとぉ!!?
そ、それは凄いっ!!! てか、純粋にウラヤマシイぞ!!!」
「おし、ならば『分身』の術を教えてしんぜよう。疲労2倍以上だが、
クロムウェルなら大丈夫だ。それにコレをマスターできたらタイムさんへの
言い訳になるだろう? 新技習得を兼ねた放置プレーの上にタァップリ可愛がってやれば
無・問・題っ!!!」
「ライ、否、師匠と呼ばせてくれっ!!!」
「おう、俺について来い」
「「「「何について行く(んですか)(いくのぉ)(ンダ)?」」」」
後方より掛けられた声に、二人揃ってギギギと錆びた動きで見てみれば
其処にはオーラ纏う四姫が。
ギギギと再び前方を向き、クロムウェルは目を瞑ってプルプルと震えながら動けず
「今夜は皆々に奉仕させて頂きます(土下座」
ライは一瞬で床で御下座。 そして、頭を上げた時に四姫の姿は影も形もなかった。
「・・・ライをみて、女の子達と巧くやっていく極意がわかった気がするよ。」
「その心は?」
「女の子を満足させ、己に非がある時は徹底的に尽す」
「・・・( orz」


客人一人増えようが、面々は変わらず日常を過ごし翌日。
朝の訓練場には、ライ+四姫&格闘士クロムウェルが。
「まぁ、折角だから誰かと手合わせしないか?」
「選択枝は姫さん達も含めて? ん〜〜」
ちょっとシュミレーション。
・VS神官戦士アルシアの場合
装備は紫ラメの旗袍服型鱗鎧に茨鋼鞭,このためにがめてきた爪長盾
ピシッパシッシュパンッ
 「オ〜〜〜ホッホッホッホッホッ、踊れっ、踊るのよぉっ!!!」
・VS戦忍レイハの場合
クナイびっしりな陣羽織&戦闘ジャケットで、戦忍な格好
トスッ、トストストス
 「弾は潤沢にあります。・・・逃がしませんよ(ニヤリ」
・VS魔女ルーの場合
魔導士服に、ゴッツい魔杖
ドガッドガがガがガガが
 「ホレホレ、如何した? スタンピートの字は飾りかぁ(アヒャヒャヒャヒャ」
・VS剣闘士シエル
革ジャケ短パンに腹甲、両手に剣爪 そして・・・
開始早々飛び込むクロムェルに、シエルが剣爪を揮い、それを掻い潜るも
ボヨヨン と迫る爆乳へクロムウェルの顔は吸い込まれるように
「くぼぁっ!!?」
 「!!???」
威力倍々補正乳ナックル発動にクロムェルはオホチ様に(合唱。
残されたシエルは何が起こったのか訳も分からず呆然。

熟考の結果、クロムウェルが選び前に立ったのは
「ライさん、お相手御願いします」
 「「「「・・・(ガーン」」」」
「ちょっとマテ、俺にその手の趣味はないぞっ!!!」
「って、何で話がそんな事になってるんだーっ!!?」
「「「「「ちょっとしたオチャメやん?」」」」」
「くっ・・・」
棒姉妹(?)にその主、打ち合わせ無しでもタイミングはピッタリ。
冗談はさて置き四姫を観客に、武闘着姿にナックルグローブのクロムウェルの相手は
一般的な戦闘用革ジャケットに格闘用ガントレット『龍腕』のみの装備のライ。
「・・・おいおい、その装備で俺の相手をするつもりか?
これでも俺は前手合わせした時よりも成長してるんだぜ」
「んな事、十二分に予想の範疇だ。 イリアに教わった成長分は除けておけよ。
あれが教えた分は俺が教えたのと同じようなものだからな。
それなら、これでやっとタイで楽しめる。 ・・・違うか?」
「・・・、ちっ、全く、ライが言うと本当のことに聞こえるぜ」
「因みに・・・」
甲の手刀一閃。離れたところで舞っていた木の葉が散る。 真空刃によって。
「こんな芸も出来るんで、そこの処ヨロシク」
「・・・・なるほど」
もはやココまでの強敵相手なら苦笑しかでない。
だからこそ、制限付きでも本気で相手してくれるなら燃える。
男達は雄叫びを上げて拳を交えるのだった・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「あ〜〜〜、イタタタタ。 俺も年か?」
「よ、よく言う。 それに、ココまで、格闘が、出来る、だなんて」
「打撃投げ専門だけどな。クラークだってコレくらい出来るだろ?」
目当たり大した傷はないが、疲労困憊に満身創痍の二人は手当てのなすがまま。
「・・・・・・。 因みに、ライとクラークさんがマジ戦うと?」
「人として戦って、九戦三勝三負三引分。 確実にどちらか死んで、な」
「ひ、人として? じゃ、じゃあ、正真正銘マジで戦えば・・・」
「・・・・・・、隣国巻き込んで一帯焦土」
「ま、マジ?」
「・・・、さあな。クロムウェルの判断に任せるぜ(ニヤリ」
 「「「「・・・・・・(くすっ」」」」
「・・・、もう本当にしか聞こえない(泣」
「まぁ、今日はもう動けないだろ? ゆっくり休んでいけ。
新魔導技術でタイムさんの元に一瞬で送ってやるから」
「それってアレか? アルマティの・・・」
「おう、知ってるなら話は早いな。コチラからの一方通行だけど中々便利だぜ」
希望都市シウォング、全てのものが揃い養生にこれほど適した土地はない。
それは屋敷も然り。 再び己の戦場へ戻るため、戦士は一時を休む・・・

クロムウェルが去ったルザリア。
最初の数日、タイムは完全にツカイモノにならなかった。
しかし、復帰した陽紅の軍女神は打って変わってテキパキと仕事をこなす。
例え大事が起こっても先頭に立って陣頭指揮を執って頼もしいことこの上ないのだが
・・・はっきり言って、その顔は全くの無感情に無表情。
見るものが見れば危うい事が一目両全。 故に、タイム暴走に備え
最も腕が立つシトゥラとアンジェリカが側で仕える事になったが
 「「・・・・・・」」
 「・・・・・・」
カリカリカリカリカリ・・・・カリカリカリカリカリ・・・パキン
 「「・・・・・・」」
 「・・・・・・」
カリカリカリカリカリ・・・・パキン
黙して視線でしか語れない二人の前、タイムがペンを圧し折る周期が短くなっているのは
決して気のせいではないはず。 既にゴミ箱は折れたペンで一杯で、もはや在庫少なく
アンジェリカが魔法で如何にかしなければならないな と思ったその時
 「「「っ!!?」」」
不穏な気配にタイムが陽鋭剣を、シトゥラが骨剣を、アンジェリカが魔導書を構える前、
室内のど真ん中に周囲のモノをのけて光柱が現れる。
次第に光は強くなり向う側が透け見えなくなり・・・一瞬の閃光後、その場に残ったのは
「お、おう? ここは・・・って、よりにもよってココ!!?」
 「・・・くろ?」
「っ!!?」
タイムの声に、光柱から現れた男は硬直。ドサッとズタ袋が地に落ちる。
 「・・・くろ、なの?」
タイムの声を背に受け逡巡。間を置いて決心に振り向いた男は引き攣った笑みを浮かべ
「よ、よう。タイム、久しぶり」
 「くろーっ!!!」
跳び込んで来たタイムの細身をしっかり受け止めるクロムウェルの二人を残し
シトゥラとアンジェリカは御役御免に邪魔者は退散と去るのだった。


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