「クノイチ 希望都市来訪」


荘厳なまでに玉座称える謁見の間、其処の主は当然に国王である。
短い金髪と立派な顎鬚が特徴で威風堂々とした偉丈夫。
彼の者より上の者は存在しない。玉座 王の前に膝間着く彼女もまた然り。
神妙な顔付きで王の言葉を待つ。しかし、腹の中では
おっさん、コッチが忙しい最中に行き成り呼び腐りやがってからに(以下省略)
と罵詈暴言吐きまくり。まぁ、その程度の自由は許される・・・はず?
「ハイデルベルク情報部長フレイア=クレイトスよ」
 「はっ!!」
「汝に、人材発掘を命じる。」
 「は・・・はぁ?」
「尚、これは極秘任務ゆえに単独行動で無期限」
 「うぇっ!!? そ、それって・・・」
場を忘れて彼女 フレイアは素で王に詰め寄ろうとするが、
それを阻たげるのは彼女の同僚であるブレイブハーツの騎士達。
言葉はないものの、その顔には明らかに哀れみの苦笑等。
てか、極秘任務とか言いながらこんな公式の場で王命を出している時点で
立て板に水、暖簾に腕圧し、噂に戸は立てられぬ・・・
そもそも彼女の同僚達が此処にいて、彼女だけこの話を知らないという事は
これは呈のいい左遷?
「情報部長不在中は情報部副隊長アリー=フェルネスに部長代行を命ずる。
フレイアよ、先方には話は通してある。 安心して任務に励め(ニヤニヤ。
連れて逝けっ!!!」
 「くぁwせrdtyふいghjこ!!!!」
屈強な騎士に脇抱えられ、フレイアは成す術もなく足を引擦って退場させられるのだった。


最早、涙も涸れ果てた・・・つもりであった。
強制的に退場させられ、フレイアの預かり知らぬ所で用意された旅荷物を手渡され
丸で国外追放のように一個師団に最後の慈悲?と国境まで見送られ・・・
・・・そりゃ、私事でチョッピリ職権乱用したけどさ、あの程度階級特権じゃない。
当の旅荷物を用意いし手渡したアリーが、ごめんなさいごめんなさいと謝る
恐縮しまくった顔が眼に焼きついて離れない。
幸いにして、聖剣たる魔刀『血桜』は取り上げられることはなかったのだが
彼女の怨敵であるセシルと氷雪の魔剣『氷狼刹』の前例がある以上・・・
それを思うだけで悔しいやら哀しいやら、涸れたと思った涙が哀愁にルルル〜〜と零れた。
場所は既に希望都市に来た。
馬上、突如滝涙で顔に線引いた彼女に通りすがりの人々がギョッとするが彼女は我関せず
向う先は都市中央にある城
 「・・・これは、何よ」
フレイア絶句、都市の中央にあったのは緑地公園に囲まれた城ならぬ中は役所ですた。
そもそも、人通りが激しい時点でおかしいとは思っていたわけだが。
希望都市の王の居処が都市の中央にない事は意外に有名である。大概の貴族王族は
笑い飛ばしてしまうが、そもそも希望都市国家には貴族がいないので当然なのだが。
ここでは王は崇めるべき存在ではなく、皆の前に立ち戦う者なのだから。
兎も角、受付で関連者を聞いてもいぶかしまれるだけで、
素人ならチビリそうな殺気を叩きつけてやっても何処吹く風。
寧ろ、武装した警備らしい者達の注意を引き之見よがしに警戒されてしまってる。
一応、極秘任務である以上身分を明かすわけにもいかず、捕物になるわけにもいかない。
そんな事になった日にゃ、強制母国送還で正真正銘「クビ」になるのは眼に見えている。
郊外に国営の教育施設や軍隊駐屯地などがあるのがわかっているが、
迂闊に顔を出せば不審者と御用になりかねないので却下。
 「如何すればいいのよ・・・」
幸い路銀だけはアリーの心使いかフンダンにある。
それも今後を考えれば何日滞在するかわからない以上は無駄使いするわけにはいかない。
フレイア、イケイケゴーゴーな猪突猛進っぽく見えて意外に知恵は働くのだ。
そうでなければ、云わばスパイを総括する情報部長なんぞやってられない。
今は降格左遷状態だが
 「・・・・・・(orz」
涙が零れちゃう。だってオンナノコだもん・・・なんて柄じゃぁない。
寧ろ、これで本当にクビになってしまった日には血涙流しつつ復讐スルハ我ニ在リィ
 「・・・(クスクスクス」
 「・・・・・・」
きっと色々な思考は顔に出ていたのだろう。
思案しつつ宿を散策していたフレイアはあからさまに笑われてしまった。
馬に腰掛けた彼女は、質素でも上品な蛇模様の旗袍服の上に白い毛皮のコート。
金髪妖艶な若きマダム。その様が、フレイアにある女を連想させる。
最もアーパーな武闘派の其の女に対し、彼女は明らかに上品な知能派。
 「ごめんなさいねぇ。貴女の顔芸が余りにも面白かったものだから・・・(クスクス」
 「クッ・・・」
フレイアが先の受付とは比べ物にならない洒落抜きな殺気を叩き付ける。
しかし、金髪マダム(仮はソレに面白いと丸で子供を相手にするかの様に目を細めるだけ。
それだけでも金髪若マダム(仮は単なる上流階級オンナではない。しかも
 「あらあら、レディが人前でそんな顔をするものじゃないわよぉ」
 「・・・・・・」
敵意をスルーし、やんわりと嗜める余裕。 金髪若マダム、宿敵認定。
フレイアは無視しようと務めて無表情で前を向く。
馬の速度を出したい処だが街中の通りには人がいるので駆ける事が許されない。
 「貴女、旅行者さん? 冒険者っぽいけど
武装していないから御仕事でいらっしゃったのかしらぁ?」
 「・・・・・・」うるせぇ、こちとら好きで来たわけじゃないやい。・・・無視無視
 「こんな寒い御時世に大変ねぇ。今日はドチラにお泊りかしらぁ?」
 「・・・・・・」はっ、あんたにゃ関係無い
フレイアが沈黙し無視していても、金髪若マダムは恰も心を読んでいるかのように
一人で勝手に喋っている。害意は無く、単に反応が面白いからからかっているよう。
 「処で、ドチラへ行くつもりぃ? もう町外れだし、この先には何も無いわよぉ」
 「あっ・・・」
金髪若マダムを無視する余り、フレイアは自分が何処にいるの分らず既に都市の出入口。
既に夕方前という時間帯で、普通は出発などせず宿を探す時間帯である。
しかも常識的にイイ宿というのは早く埋まってしまう。ソレにはもう間に合わない。
フレイアは思わずウゥ〜〜っと金髪若マダムを睨んでしまう。 死ねばいいのに。
 「だから、イイ年した娘がそんな顔しないの。男に逃げられちゃうわよぉ。
しょうがないわねぇ、ウチにいらっしゃいな。一晩くらい宿を貸してあげるわぁ」
 「・・・・・・」
 「そんなに睨まなくたって大丈夫よん♪ 獲って食べちゃったりしないから」
 「・・・・・・」
そう言っている時点で既に可也怪しい・・・睨まれてもオホホホホと笑って妖しさ倍増。
最も彼女とてブレイブハーツが一人。悪巧みに遅れを取る気など毛頭ない。
死中に活あり。罠なら内から諸共食い破ってやる。
 「うふふふ、いい眼ねぇ。そういう猛々しい獣な眼、私好きよぉ。躾甲斐あるもの」
 「・・・・・・」
・・・何かもう、色々と挫けていいデスカ? 
断れば負けを認めるみたいで、フレイアは結局断われず
泥沼にはまるように金髪若マダムについていくのだった・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
郊外を少し廻り、森の中の路を進んでいく。
馬で進むこと暫し、直に開けた其処に立っていたのは質実剛健な武家館。
元々、万人人権を重んじ治安がいい事で有名な希望都市。
感じからして罠ではなく、純粋に金髪若マダムの厚意から誘われたようである。
金髪若マダムに従い、屋敷の側にある馬小屋へ。
そこで金髪若マダムはゴージャスな格好とは異なり誰にさせるまでもなく当然のように
自分で馬から鞍や輪踏等を外し、フレイアにも同様に促しさせ
 「それじゃ、この子の世話よろしくねぇ」
金髪若マダムの馬はフレイアの馬に目配せして共々、野に放たれてしまった。
 「えっと・・、アレは接がなくていいんですか?」
 「大丈夫よぉ。その辺りで適当に生きてるし、呼べば来るからぁ」
 「左様で・・・」
郷に入れば郷に従え、と? 最早何もいうまい・・・
兎も角、フレイアは金髪若マダムの後を付いて玄関からロビーへ。
金髪若マダムの帰宅を察していたのか、待っていたのは
フレイアより若干若い感じの目肌立ちがハッキリしている金髪メイド嬢。
 「ただいまぁ」
 「おかえりなさい、お客さまですね。 ・・・今日来られるんでしたっけ?」
 「ううん、別口。一寸からかい過ぎたから連れてきたのぉ。
可愛らしいし、それだけじゃないし・・・ねぇ」
金髪若マダムの物ありげな物言いに、金髪メイド嬢も納得して頷く。
その視線の先には、フレイアが腰に差してある『血桜』
・・・魔刀を看破した? 希望都市、侮れない・・・
 「じゃあ、御部屋の用意、しておきますね」
 「よろしくねぇ。 主様は何処かしらぁ?」
 「居間で昼寝されてますよ(ヤレヤレ」
大凡、主を呆れるような小ばかにしているような感じで金髪メイド嬢は行ってしまった。
金髪若マダムに促され荷物をおいて付いていった先は、食堂と繋がった快適そうな居間。
生憎、当館の主は金髪若マダムが邪魔で居間の出入り口からは見えない。
しかし、こんな性悪金髪若マダムを置いている上に金髪メイド嬢からも尊敬されてない
事を考えれば、きっと主とやらは其処ぞの髭オヤジでエロエロに違いない。
 「あらぁ、完全に潰れちゃってるっぽいわねぇ・・・」
しかも、夕方なのに昼寝をして潰れているとまでいわれている。可也ダメダメである。
金髪若マダムは肩を竦め、仕方ないと諦めに
 「起きるまで、私の部屋でお茶しましょ」
踵を返す時、その肩越しに見てしまった。当館の主を。
ソファで踏反り返ってるその姿は、だらしなっぽいカジュアルな服装に
顎には不精な髭でトゲトゲと、どこぞの不良な兄貴。それだけならまだしも
大股開きで左右の膝枕で寝かしているのは二人の妙齢の女性。
片方は、明らかに秘書なスーツ姿で照れに頬を朱に染めながらウットリ。
もう片方は、カジュアルな服装の上からでも分かるほど逞しい肉体でありながら
猫娘で猫耳をピクピクと当然のようにウットリごろゴロニャンニャン。
フレイアにはその二人に見覚えがあった。人に言えない非公式な場で。てか
 「あー――――――――っ!!!!」
絶叫に、金髪若マダムはキャっと耳を押さえ、
膝枕で寝ていた乙女二人は目を見開いて元凶たる珍客を何事かと見据える。
その周囲を意もせずフレイアは当館の主とやらの不良な兄貴にハシタなく馬乗りに
 「誰かと思えば、アンタか!!? アンタなのか!!?
アンタのせいで私はイジメられてこんな所に・・・死んで詫びろぉっ!!!」
ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク
「ヲッ!!? やめっ・・・く、首っ、鞭、打・・・」
 「「「・・・、っ!!? やめーっ!!!」」」」
襟首掴んで絞めつつ、前後にシェイクしぇいくシェイク。
彼が白目を剥いて泡を吹き始め、金髪若マダムと秘書嬢と黒猫嬢の三人娘は慌てて
フレイアを当館の主から引き剥がしたのだった・・・・・・

「行き成り人の首を絞めるなんざ、一体如何いう了見だ? 全く、品性疑うぜ」
 「はっ!! 元々アンタが変な事企んだからでしょうがっ!! 自業自得よっ!!」
「お前、それでも情報部の長か? 少しは事の裏の裏ぐらい読め」
 「なによ、それっ!!」
頭に冷嚢を載せソファーの上で胡坐をかき見下ろす 当館の主たる希望都市国家代表に
周囲は剣呑な金髪若マダムと秘書嬢と黒猫嬢の三人娘に仁王立ちで包囲され
フレイアは絨毯の上とはいえ床の上に正座させられ反省モード。
ムシャクシャシテヤッタ。デモ、後悔モ反省モシテイナイ。機会ガアレバ又ヤッテヤル。
「お前なぁ、仮にもロカルノの妹だろうが」
 「なっ、何故そのことをっ!!?(ガーン」
ロカルノ、仮面の貴公子。冒険者チーム「ユトレヒト隊」の参謀で
出生からダンケルクと縁が深く、希望都市との架渡し。
「俺は、ロカルノのダチの上に盟友だぞ。一寸調べればわかるっつーの。
そんなことよりも事の裏の裏、ちょっとは分かってるのか?」
 「えーっと、それってつまり・・・情報部長が外に出てるって事で
暗躍する連中の炙出しと、古参の牽制で新風吹込む為に本当の人材発掘」
「ふぅ〜〜ん、ちゃんと分かってるじゃないか。
でも、それだけじゃ及第点だよなぁ」
 「喧嘩売ってるの? 買ってやるわよ、あんたの泣きっ面で」
「おいおいおいおい、俺は仮にも国家代表だぜぇ〜〜?
それを分かって喧嘩売ってるのかぁ〜? 下手すりゃ斬首ものだぞぉ〜」
 「ちっ、卑怯ものが・・・」
「まっ、冗談はさておいて、ちょっとは大人に慣れってこった。
自分の見聞を広げるって処がないから、満点にならないんだよ」
三人娘は既にフレイアの包囲を解き、希望都市国家代表の側に控えている。
その格好は不良兄貴であれ、放たれる気配は一国の長に相応しい覇気。
臥龍、知って逆鱗に触れし者は、例外なく叩き潰される。
それも直に消えて見られるのは悪戯ッ気があっても面倒見が良さそうな感
「まっ歓迎するぞ、『血桜』のフレイア。骨休みだと思って寛いでくれ」
 「・・・ふん、厄介になるわよ、真龍騎公ライ=デステェイヤー」

剣呑な雰囲気から一転、今はアットホームに皆脚を突っ込んでいたりする。
金髪若マダムことアルシアは着替えに自室へ、部屋の用意の必要がなくなった
金髪メイド嬢ことリオと小姓な作務衣姿の青年ディは皆の給仕に盛を出している。
そして、フレイアの目の前には、
秘書嬢ことレイハと黒猫嬢ことシエルをはべらせた不良兄貴なライが茶をすする。
「・・・、なんだ? 米神が引き攣ってるぞ」
 「そりゃ、あんた・・・ライがツッコミ処万際だからよ。
それは兎も角、此処では何を見せてくれるのかしらね?」
「人材発掘をいう名目がある以上は軍兵舎なり魔導院なり役所なりに
連れて行ってやるから、そこから好きな人材を適当に勧誘してくれ。
まぁ、俺は命令出来ないから成功の是非は其方の交渉次第だな」
 「・・・随分と不親切ね」
「元々公式な国家間交渉じゃないからな。俺とオッサンが意気投合しただけ」
 「・・・・・・・・・」
人が感知しない処でなんて事を・・・
「後は、フレイア自身のスキルアップの為に見聞してくれ。」
 「・・・マジで?」
「マジで。幸いウチはその為の人材にも事欠かないぞ。
魔剣使いも、魔法剣士も、闘士も、何より『忍』もな・・・」
眼鏡をキュピーンと光らせるレイハにビクッとしてしまうフレイア。
・・・寧ろ此処は墓穴かもしれない。地獄の窯に通ずる・・・
シエルなんぞ先のライへの凶行で完全に警戒して猫みたく注意を外さないし。
ライが好々爺みたく茶を啜ってしゃべらなければ、御互い牽制するよな沈黙が流れる。
何とも居心地が悪い。
 「・・・ライあんた、兄さんの事を知っていると言う事は
当然セシルの事も知ってるわよね?」
「・・・個人的には撲滅優先対象だな。
それこそ、国家総ぐるみで追い立てて泣かしたいくらい」
今まで人の良さそうな雰囲気から打って変り、ライから漂うのは赤子が泣きを通り越して
窒息してしまいそうな険気。寄り添っていた二人ですら一瞬ビクッと顔を見合わせる。
だが、それはフレイアにとってこれほど心強いものはない。
 「あんたっ、話分かるわっ!!!」
「・・・なんだ御前、お兄ちゃん好っ娘って本当の事だったのか。
つーことは、誤解で愛しさ余って憎さ百倍で壮大な兄妹喧嘩した話も」
 「いやん、若気の至りよ(ぱたぱた。
でも、其処まで知ってるなら話は早いわねっ!!
・・・私と対パッキンケダモノ同盟、組まない?」
見詰め合おう二人の間に漂うのは、男女なのではなく悪巧みなそれ。シエルレイハもひく。
エチゴ屋、御主もワルよのぅ。いえいえ、殿にはかないませぬよ・・・
「対パッキンケダモノ同盟・・・アレが泣きっ面になるならそれはいいな。
己の恋愛成就のためなら手段を選ばないフレイアの根性も気に入った」
 「ならっ・・・」
「一夫多妻制って認める?」
 「認めませんっ!!! 仮にそうなってもアレを義姉というのだけは絶対にイヤっ!!!」
「気持ちは、痛いほど良く分かる。
仮にフレイヤが正妻の座を居止め、アレを排除できたとしよう」
 「いやん、正妻だなんて・・・(クネクネ」
「とりあえず話聞けや、バカ娘。ロカルノという手綱がなくなったアレは
野に放たれた獣当然にそこいらを毒牙にかけて一大帝国を作りかねんぞ?
そうすれば、次の標的は・・・・・・」
 「え、わ、私?」
「それはある意味、自業自得ともいえるけど
それ以外の考えうる犠牲者を思うと・・・なぁ?」
 「私はいいのかよっ!!!」
「一番望ましいのはブレイブハーツに戻し、職務漬けにして
名実ともに正義の味方にすることだが・・・・・・」
 「無理ね」
「無理だな。
俺としては、ロカルノの幸せのためにもアミル嬢を正妻にして欲しい処だが、
実際は正妻にセシルが、妾にアミル嬢で落ち着くんだろうなぁ・・・・・・
まぁ、アミル嬢が子育てしてくれれば無問題か」
 「っ、何よそれっ!! 兄さんが居候と出来てるなんて聞いてないわよっ!!」
「セシル以上にいい感じだぞ。
ロカルノだって男だもんなぁ。乱暴で手がかかるのよりも
おしとやかで聞き分けがいい方が可愛いのは当然ってもんだ」
と、ライは両脇に控える二人を肩抱きに引寄せ、照れるのを構わす頭ナデナデ。
人前で主に可愛がられる二人は、嬉しいやら恥ずかしいやらで幸せ満喫
 「ウラギッタナーっ!!? ウキィー、ムカツクーっ!!!
憎しみで人殺せたら・・・(コノウラミ、ハラサズニオクベキカ」
「あー、はいはい。フレイアも結局セシルと五十歩百歩だな。
寧ろ、どんぐりの背比べ? 目くそハナクソ笑うって方が適切か」
 「ぐはっ!!?」
セシルと同列にされてフレイア致命傷。コタツに突っ伏し、シカバネのようだ・・・
「レイやん、両手ふさがってるから御茶を飲ませてちょうだいな」
 「はい、どうぞ・・・」
「・・・(ずずぅ〜〜。う〜〜ん、美味。自分の手で飲むよりも美味いねぇ
今度は是非、口移しで」
 「人前ですよ・・・」
「じゃ、シエるん♪」
 「・・・えっと、人前だけどいいのか? 本気ならするが?」
 「ぐおおおお・・・・・・」
三人の惚気っぷりにフレイア悶絶。ホントニ、シネバイイノニ・・・・・・
其処へ室内着用に割りと地味な それでも派手な旗袍服に着替え終わったアルシアが。
彼女と似た雰囲気を持つが故にシットで沸き立ち起こる修羅場にフレイア復活っ!!!
しかし
 「あらあら、ラブラブねぇ。私だってかわいがって欲しいんだけどぉ」
「可愛がってやってるだろ? 夜のベットで・・・」
 「もうぉ、エロエロなんだからぁ」
膝立ちでライの背中から抱きついたアルシアは、
その首に腕を回して顔を横に向けさせ客に遠慮なく接吻。
てか、ディ〜〜プかよっ!!!
 「うわぁ、もう、いや・・・オウチニカエシテ・・・」
フレイア、最沈没。 寧ろ、惚気デ私ガシンデシマフ・・・・・・
断末な客に、ライは流石に不味いと思ったか
「シエル、お子様達を迎えにいってくれ」
 「ん? わかった・・・」
 「子供、いるのかよっ!!!」
「俺の子供じゃないぞ。末席のコンビと俺の嫁の一人」
 「英雄色を好む・・・真龍騎公が市井な常識人の癖に
四人姫がいるってマジだったのか・・・」
「ソレはソレ、コレはコレ。
シエル、俺のコート使ってもいいからな〜〜」
 「ん。」
シエルは外の寒さに躊躇することなく男前にシタッと挨拶して行った。
因みにシエルぐらい自分のコートぐらい持っている。
でも、彼の匂いが染込み型が付いたコートを使える事は彼女の幸せなのだ。
それはさて置き、シエルが抜けた分にライの隣へ当然のように入り込むのはアルシア。
相変わらずイチャツキまくってくれていて、独り者には毒でしかない。
・・・モウ、イヤ

夕食前の時間帯、屋敷内は急に賑わってきた。
ライは相変わらずアルシアとレイハをハベラセ、各々何かを書いたり雑誌を読むなり
刃物の手入れをしたりとノンビリしている。
居間続きの食堂の向こうにある台所ではリオとアレスがラブラブと夕食準備中。
ラブコメ騎士団じゃなくってラブラブじゃんかよぉ〜〜〜〜
と、古い情報に心の中で愚痴るフレイアはコタツの天板の上で涙の池に突っ伏したまま。
 「うぅ〜〜、寒い寒い〜〜」
其処へドタドタと足音立ててやって来たソレは
 「きゃっ、冷た・・・」
「しゃーねーなー、ほら」
レイハやライに言わせつつ、当然のようにライの懐へスッポリと収まった。
暫くソレは、アァ〜〜〜、ウゥ〜〜〜と丸で温泉に浸るオヤジな呻声を響かせたが
目の前の物体 見知らぬ者に目をパチクリ。
 「何だ、コレは?」
「お兄ちゃん好きっ娘なロカルノの妹フレイア。研修やら勧誘で当分いる」
 「ふぅ〜〜ん」
ソレは速攻でフレイアに興味がなくなったのか、ライの茶を平然と啜る。そしてポツリ
 「難儀なヤツ」
 「お子様に言われたくないわっ!!!」
・・・・・・・・・
 「ふっ、小物メ・・・(クスッ」
 「っっっウキィー――――っ!!!!」
余りにも騒々しいソレの気配に復活したフレイアは、その幼女な姿で停止。
しかし、全てを見透かしたような・・・もとい見透かした一言に爆発。
それこそ、幼女が幼女でなかったら大人気なく飛び掛っているくらいに。
フレイア、短気でも子供相手にマジで飛び掛かってイジメないくらいの節操はある。
もっとも、ファイティングポーズに手はお尻ぺんぺんしてやるとワキャワキャ。
 「あ〜〜、五月蠅い客だナ。いい年したオンナが大人気ない・・・
そんなことだから、パッキンケダモノに仮面兄貴を取られるんだナ、まったく。
うちのコレを見てみろ。四人で仲良く分け合ってだな、ニャンニャンしとるゾ。
ライ、御茶〜〜♪」
「はいはい」
 「こ、子供が知った口を・・・(ワナワナ」
 「知ってるゾ。
このヨウジョォな身体にライを受け入れると子袋までイッパイイッパイになってナ、
ソレで出されてしまうと御腹がタプンタプンで丸で風船になったみたいで(ウットリ」
「ハッハッハッ、夕食前だからエロトークは程々にな」
 「うわあああっ、ヨウジョ犯しておいてホノボノしてるぅ〜〜〜(ひぃいいいいっ」
錯乱するフレイアを前に、今更に今更なので素知らぬ顔で茶を啜るレイハとアルシア。
・・・二人の頬がほんのり朱に染まっていると言うなかれ。
「まぁ、モチツケ。
コレ、これでも俺達の霏々婆さん以上に長生きしてきた元魔女
見た目はヨウジョ中身は年増?ってのでな、俺の姫が一人だ」
 「うう、ロリっ娘のくせにこんなの反則だ・・・・・・(orz」
一見、ヨウジョな娘をあやす父親なルーとライ。
カルチャーショックの連発に、フレイアは最早驚き疲れた。
・・・ウウ、何ガキボウヨ、人外魔境ジャナイ。
イジられまくって口から魂抜けかけ廃人と化したフレイアは、
夕食のアットホームな雰囲気に気付く事無くその日を終らせてしまうのだった・・・


ジャッと音立てて明けられたカーテンに、部屋の中へ朝日が差し込む。
 「うっ・・・あぅ・・・」
 「おはようございます。朝食の準備ができているので居間へお越しください。
汚れ物があったら遠慮なく出してくださいね。洗濯しておきますので」
 「あ・・・ありがとう、リオちゃん」
フレイアの寝惚け霞んだ視界の中にぼんやりとメイド服が動いているのが見える。
単に起こしにきただけのなのか、そのまま行ってしまった。 暫しの間を置き
 「・・・あれ?」
云わば敵陣のど真ん中で人の入室気付かないとは情報部の一長としてあるまじき失態。
それに気付かないほど、神経は磨耗しちゃっていたり。
朝食の席、フレイアが着いた時には既に揃い踏みであった。
パンにスープ,ハム目玉焼き,サラダや珈琲が完全に並んでいる事からして
一同はフレイアの到着を待っていたのだろう。席に着いたのを見計らってライの一言。
「んじゃ、いただこうか」
その一言に、各々が各々のスタイルで食事開始。
かっ喰らう者ありーの、優雅に食べる者ありーの、唸りながら食べる者ありーの
ムニムニと夢現に食べる者ありーの、犬食いする者ありーの・・・
 「・・・此処っていつもこうなの?」
 「はい、そうですよ」
「まぁ、一緒に生活してる家族なわけだしな。メシぐらい一緒に食わないと」
フレイ素朴な疑問に答えるリオと続くライに皆異口同意で頷く。
 「ふぅ〜ん・・・」
ある程度食事が進んでいくと、食卓の上に言葉も飛交う。
今日は何処へ行くだの、今日は屋敷にいるだの、サボっちゃだめですからとツッコミの、
フレイアの面倒を自分たちの権限の範囲で見てやってくれだの・・・
 「って、メイドや小姓,マスコットに私の面倒みさせて、自分はサボる気かーっ!!?」
「・・・お前なー、それでも本当に情報部の長かよ。色々な意味で失礼だな」
 「貴方にサボリ癖があるというのは本当ですけれどね・・・」
「レイやん・・・。何にしても俺にだって仕事はあるんだってーの。
四人もつけてもらえるだけでも破格だ。文句言うなっ!!(びしっ」
フレイア、うっかり発動中でアレス,リオ,ディ,ルナの本職が分かっておりません。
メイド姿がハマってるリオや作務衣,カジュアル姿のアレス,ディ、
明らかにアレなルナの正体を看破しろと言う方が無茶なのか?
一応、若四将の情報を持っているだけに・・・
リオ,アレスが後片付け等を済ませている間、ディが面倒を見る事になった。
見た目が少年で見習い騎士っぽく、部外者のフレイアが実力が看破できるわけがない。
ディがルナと共に案内するのは屋敷の地下。廊下は石畳に普通の地下である。
 「それで、何処へ案内してくれるのかしら?」
ルーと違い二人が明らかに年下だけあって、フレイアも余裕綽々。
「明らかに武闘派なフレイアさんの趣味に合わないかもしれませんが、僕の工房へ」
 「ふふん、確かにボウヤの趣味は私に合わないかもね」
ディの物言いに、思わず大人気なく言い返すフレイア。
そんな事を言ってられるのは今の内だとディは堅牢な扉の鍵を開け、
更に妙な仕草で何処かで鍵が開く音が鳴った。
「其処らへんのものに触りたい時は一言断って下さい。モノによってはアブナイので」
開け放たれる扉。其処に広がる光景は、何処ぞの開発室顔負け。
壁の一角には様々な武具の試作品。何か設計中のデザイン机もあれば
様々な材料のサンプルが並ぶ棚に、中央ではパーツと工具転がる作業台。
床を走回るのは機巧使魔。半オートメーション化されている錬金の装置までも・・・
いくらフレイアと言えど、その値打ちは分かる。
 「うわぁ・・・・・・何、コレ。すご・・・。 ディ君、君、ウチに来ない?」
「行きませんよ。てか、まだ分かりませんか?」
 「うぇ・・・まさか、本当に・・・(よろよろ」
将軍の一角をなす「聖士魔将」。
希望都市国家が若輩とはいえ、その地位はフレイアと匹敵しかねない。
その事実に後ずさりヨロめくフレイア。
ルナに咄嗟に支えられなければ、そこいらに突っ込み大惨事になったかも。
「ですから、僕をスカウトするのは無駄ですよ。まぁ、人は紹介できますけどね」
 「うぅ・・・その時は御願い・・・(orz」
何かもう、色々負けたっぽい。
少年の専門的にマニアックな自慢話をフレイアは半分以上理解出来ずとも脅威を実感し
午前早々に疲れ果て、居間で一息入れている所に諸々を済ませたリオとアレスが合流。
その格好はカジュアルに御嬢様と粗野な彼氏っぽく、ベストカップルなコーディネイト。
フレイア、彼氏なしで黒星その二。
 「それで、如何するのよ?」
 「そうですね、私達の権限で行けるところといえば軍駐屯地か魔導院ぐらいなんですが」
「もしくは、町の冒険者ギルド・・・」
仕切るのはリオに、それをサポートするのはアレス。
シーツの裾噛んでキーとくやしくなるくらいに御似合いで付入る隙がない。
結局はフレイアの希望次第である。
「それで、どんな人をスカウトしたいんですか? 密偵な手駒? 配下? 事務屋?」
 「え? え〜〜と・・・」
場が凍り付くくらいに寒くなる。
人材発掘を命じられはしたが、どんな人材かまでかは聞いていない。
それに今更気が付いた。当然荷物は着替え程度で関しての資料はない。
うっかりか、本気でイヤガラセか・・・
 「ふれいあ、させん? わんばれ」
 「うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ」
よりにもよって御バカ犬なルナに突っ込まれ慰められフレイア、マジ泣き。

っと言うわけで、四人が案内にフレイアがやって来たのは軍駐屯地・・・の、お隣。
ディ,ルナよりも更に若い10代になったばかりの少年少女達数十人が訓練場を走っていた。
 「ここは?」
 「義務教育を終え軍に入る事を望んだ候補生を鍛える場所です。
規律,汎用的な各種上等知識,自分を律する術を学ばせます。
軍に真の新兵として編成されるかは、その後の試験次第ですね」
 「試験?」
「希望の先にあるのは、絶望。その先にあるのは何かということです」
フレイアの疑問に、リオの言葉を繋ぐのは大して感情を出していないアレス。
リオやアレス,ルナは一寸辛そう。フレイアを一考に言葉を紡ぐ。
 「・・・諦め?」
「それもありますが・・・嬲られ、犯され、食われ、殺される・・・仲間も、自分も。
それをしたのが化物ではなく、自分自身。
それが幻影と知って、ソレが起こりうる戦場に立てるか。 性質の悪い悪戯ですよ」
アレスの顔に浮かぶのは苦笑。それは不条理を憎みながら、剪定に不条理を行う矛盾。
 「不屈の闘志と覚悟ってわけね」
「そして、狂気に逆らい、戦う意義を見失わない・・・
それがなければ、どんなに優秀でも平穏を護る者として使えないでしょう?」
 「・・・、次に参りましょうか」

其処は正に軍駐屯地。
長剣と盾,大剣,双剣,双頭剣,戦斧,槍,大盾・・・各々様々な得物を持った者達が
チーム対チームで、個対チームで、少数対多数で刃を交える。
それを監督しているのは、腕組で爆乳を支える黒猫の女戦士シエル。
来た5人に見ずとも気付いたのか一瞥で確認し
 「・・・それまで、集合」
Yes,mam!!
シエルの一声で戦闘を止めた一同は、その前に即整列。
改めて5人へ向き直ったシエルへ、ルナが跳び付き嬉しそうに頬擦り
その光景に、後ろの兵達の顔が萌え〜〜になっているのは克割り
 「・・・、やらないか?」
それを知りもせず後ろ指差すシエルの意とする処は、
リオ達に兵達を揉まないかという事だが、その筋肉質でも女性的に肉感な身体もあって
ウホッ、イイオオネコサマっ!!!
そこにいる兵達は男女関係無く我を失いかけ、身震いする。
 「ははは・・・今日はお客様がいらしゃっているので・・・」
天然恐るべしと力なく笑うリオに、シエルは仕方ないと頷き
振り返る前にビシッと気ヲ付ケしなおした兵達に尋ねる。
 「私と手合わせしたい者、挙手」
Yes,mam!!
・・・全員ヤル気満々だよ
 「なら・・・お前と、お前と、お前と、お前と、お前。」
ランダムに選らばれた者とそうでない者の差は明白。選ばれた者は許されるなら狂喜乱舞
しかねないほどの笑みを浮かべ、それ以外は選ばれた者に羨望の眼差しを向ける。
 「私が準備している間、一時解散」
シエルの指示に、観客組は観戦の為の場所定めやら更なるファンを呼びに行ったり、
対戦五人はシエル相手に如何戦うか頭を突合せて作戦会議。
当のシエルは周囲を気にする事無く着々訓練用の得物を装備する。
訓練用に刃が潰されている三刃爪とはいえ先端が内に曲がったその威力は肉抉り侮れず
足甲は用意に刃を弾いて鍛えられた筋肉から放たれる蹴撃を鈍器へと成す。
対する5人は長柄あり接近戦型あり中距離型ありと中々侮れない編成。
一見気だるそうに身体を解しながら、それでも明らかにニヒルな笑みを浮かべるシエルは
両手の三刃爪を振って具合を確かめ、招き猫にクイックイッ
 「ん、かかって来い」
闘猫の遊戯が始った。

寒い季節にも関らず、それ故に薄着の肉体からは湯気が立ち昇る。
結論から言えば、兵士手練五人を全員伸しシットリ汗を掻いた程度にシエル圧勝であった。
近接の攻撃は蹴飛ばし勢い喰って空中殺法に空舞い、前衛が視界の遮蔽物となった
後衛の攻撃も上から見て分かっているかのように回避し、隙間へ一撃必倒を叩き込む。
其処にあるのは凛々しく美しく極められた野性の戦獣。
最強の一角が相手である。最早、手加減もされず伸されたという事が僥倖であるだろう。
故に兵は彼女を称える 疾黒戦姫 ワイルドキャット・ランブルマドンナ と。
 「・・・ホント、半端じゃない強さ。・・・化物ね」
 「わん、シエル、強い〜〜(ヒャホ〜〜♪」
嘗て言われた台詞、此処まで見せ付けられたら肯定せざるえないだろう。
思わず忌々しげに呟くフレイアを意もせず、ルナは幼児みたく狂喜乱舞。
その台詞の裏に嫉妬等のどんな感情が渦巻いていようと、褒言葉でしかないのだ。
 「ほんと、対一じゃシエルさんに適いませんよ」
「仕方ないとはいえ、俺達でも未だに二人掛でなければ勝ちを取りにいけません」
姉分の強さに感想を漏らす二人は、それでも必勝の策があるだけ微妙に悔しがっていない。
フライドなんぞ丸めて猫の玩具にしてしまえ。
 「・・・然様ですか(汗」
まだ兵達の指導を続けなければならないシエル達とは別れ、5人は次の目的地へ向う・・・

賑やかでも穏かな街並みの中、若者達は一旦そこで遅い昼食を取る。
小奇麗なカフェ、陣取ったテーブルには様々な軽食が彩りっていた。
可也の敵勢だが、5人もいれば容易に制圧可能である。
 「・・・、此処って豊かね」
 「そうですか? 人口当たりの生産量は他の大国とそう変りませんよ?」
 「・・・・・・」
「この国には搾取して溜め込むだけの連中がいない」
 「まぁ、そうらしいけど・・・そうじゃなくって、治安がいいしゃない?」
国が豊かになれば、難民が流れ込んでくる。難民がくれば、治安が悪くなる。
治安が悪くなれば国が荒れる・・・
「厚生福祉がシッカリしてますから。それから、元々難民が集って出来た町だけあって
扱いがいいんですよ。純粋な労働力として使えますし。 後は惜しみなく先行投資して
然るべき所へ行ってもらえば生産量として倍で還ってくる・・・」
 「そう簡単にはいかないのが現実なのよねぇ・・・」
「なら、反対する連中に最善の案を求めればいい。出来なければ黙っていろとな」
アレスが射殺さんばかりに唐揚げへスコンと撃込むフォーク。
そのまま何も無かったようにフォークの柄をもって唐揚げを口に運ぶ。
それは丸で、邪魔者は殺してしまえといわんばかり。
アレス、大将に次いで次いで希望都市の暗部 必要悪へ顔が利く男。
 「はぁ・・・やっぱこの国って豊かだわ・・・」
フレイアは思わず、隣で話に参加せず食専なルナの頭をナデナデ。
いやはや、能天気が羨ましい・・・

昼食を食べ終えた一同は、目的地である魔導院へ来た。
其処は正に、国の最高研究・教育機関に相応しい施設、英知の砦。
 「はぁ・・・これも凄いわね。丸で某魔術都市も画やって感じ」
「根本的に違いますよ。向うは魔術ありきですが、此方は人に役立つ技術ありきです。
そういう意味では某魔術都市の方が趣味に走れますね。他の人達と意気投合できれば
大抵の妄想はかなえられますし・・・」
 「・・・てかディ君、なんでそんな事知ってるのよ」
「行った事ありますし。非公式で『光晶』なんて字までもらってしまいましたよ」
 「あ〜〜、はいはい、いきましょ〜〜」
大したこと無いように言うが、その実鼻高々に言うので全然ありがたみがない。
一見優雅なこの少年が、実は猫被りなのは既に分かっている。
実は、相応の相手には相応の態度を取っていなかったりするだけ。
知らぬが吉である。
自身の研究室をもつ教授でもあるディの説明は本来魔導士なら羨望ものなのだが
畑違いのフレイアには物珍しいパフォーマンスの延長でしかなかった・・・

屋敷へ帰ってきた五人を待っていたのは、驚愕の光景だった。
帰宅すれば、先ずは冷えた身体を暖めようと一服しようと居間に向う。
常に人がいるので、暖炉にはほぼ四六時中火が入っているのはありがたい。
それ以上に、5人が感じるのは台所に人の気配。
5人の気配を感じたのか台所から顔をだしたのは
「おう、お帰り」
厚地で簡素なMyエプロンがハマリまくりなライ。丸で、何処ぞの喫茶店のマスター
 「って、アンタは何をやっとるんですかっ!!?」
「え、見て分からないか? とりあえず料理の下ごしらえはしておいたぞ」
 「あっ、はい。では、後は私達が引き継ぎます」
吼えるフレイアをスルーよろしくエプロンで濡れた手を拭うなんざ、正しく主夫。
ついでに手馴れた動きでチャッチャと乳茶を人数分入れて出し、エプロンを脱ぎ置く。
喫茶店のマスターか主夫が一転、寛ぐ姿は不良兄貴。とりあえず一服一服・・・
 「・・・あんた見てると、ほ〜〜んとムカツクわ」
「そりゃ、ありがとう。セシルも俺をみるとムカツクんだとよ。
義姉妹共々で意見があってよかったな(ハッハッハッ」
 「あんな人外と一緒にするなーっ!!! 以前に義姉妹じゃなーいっ!!!」
「そうやって落ち着きの無い処もソックリ(ハッハッハッ」
 「クキィー――――!!!」
ライにイジられ錯乱するフレイアを、皆は生温かく見守ってやるのだった。
・・・てか、見守るだけで助けないのかよっ!!?
その夜、フレイアは悔涙に枕を濡らしつつ泣き疲れ寝入ったのだった・・・


あ〜〜たらしい、あさがきた〜〜♪
 「う〜〜わんわんわん」起きて起きて起きて〜〜
 「うっ・・・」
カーテンを開けて差し込む朝日だけでは足りず、身体を揺する感覚で
フレイアの意識が休息に覚醒していく。 時々ピトピトと頬を叩く肉球の感触が心地いい。
ぼやけた視界に入ってきたのは白いワンコ。
それは瞬きの後ではっきりした視界の中では銀毛の獣少女であった。
 「わう?」起きた?
 「ルナちゃん・・・いい子だね。お持ち返り、したいなぁ・・・」
 「くぅん・・・」おもちかえり、だめなの・・・
「お持ち帰り」という言葉に反応したルナは、即座にフレイアの手から逃れ距離を取った。
嘗ての恐怖の記憶は、それ故に未だ記憶に鮮明に残っている。
 「ああ、大丈夫大丈夫。嫌がる娘に無理強いなんてしないから」
 「わぅ?」ホント?
 「本当本当。だから・・・ね?」
ワケを知らず流石に逃げられたのはショックなフレイアは、穏かに笑みを浮かべ
腕を広げる。 ある意味、無防備に。 幼児や獣に、自分は無害だと示すように。
それに片獣耳ピクピクと逡巡したルナは、柔和な感じから安全と判断。
 「わん!」うん!
 「う〜〜ん、やらかいなぁ・・・(オンナノコ相手に倒錯しそう」
意識完全覚醒までの暫しの間、フレイアは抱擁にササくれた心を癒すのだった。
先日通りの朝食で、後半にはお互い予定を言いっていく。そして、爆弾発言。
「フレイアの面倒は昼前位から俺とレイハがみるから、それまでゆっくりしてくれ」
 「げっ!!?」
「随分な態度だな、オイ。
たぁ〜〜っぷり可愛がってやるからな。・・・覚悟しろよ(ニヤリ」
 「っ!!? イヤアアアア、オカサレルーっ!!
タ〜〜スケテ〜〜兄サ〜〜ン (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ (゚∀゚)」
ライとフレイアの寸劇を最早毎度なものと皆そさくさと朝食を済ませていくのだった。
朝食後、一服もつかのまに各々は各々の作業へ移っていく。
ある者達は屋敷にいるまま執務室で公務のデスクワークに向い
ある者達は屋敷から出て各所で指導者としての腕を揮い
ある者達は屋敷で家事を行う。
客人たるフレイアは未だ特にすることがないので、居間でノンベンダラリン。
コタツに上身投げ出し
 「あ〜〜ぁぁ、いやだなぁ・・・」
 「如何したんですか?」
頭の動かし顔の向きを変えた其処にいるのは、メイドなリオ。
 「昼からライとレイハさんが私の面倒を見てくれる事になってるじゃない?
如何にも嫌な予感が拭えないのよね。ライはバカ殿だし、レイハさんは厳しそうだし」
 「ああ、大丈夫ですよ。
団長、あんなのでも意外に真面目で、仕事は一歩斜め上までされますし
レイハさんは秘書の役職上鉄面皮ですが、実はツンデレな可愛らしい方ですから」
 「後半は兎も角、前半がねぇ・・・
・・・団長って、ライの事でしょ? 王様なのに何で?」
それに気付いたフレイアは、身体を起して横に入ったリオへ聞く。
 「ああ、私って希望都市が独立する前からいるじゃないですか。
それに、団長って偉ぶってなくて王様というより如何にもそんな感じですし」
 「・・・納得」
 「好き勝手してる能天気にそうにみえて、市井出な王だけに結構大変なんですよ。
老舗の国には侮られて変な人が来るし、色々な宗教の人も勧誘に上納金求めきますし」
 「へぇ〜〜」
何処へ行っても其れ也に問題を抱えているものである。
世の中ままならないと二人は茶を啜るのだった。そうやって、時間を潰すこと暫し
台所からやって来たのは、作務衣にエプロン姿のアレス。
「リオ、こっちは終ったぞ」
 「うん、ありがと〜〜。 御茶入れる?」
「いや、今はいい」
エプロン脱ぎ捨てたアレスは、コタツのリオの向こう側に潜り込み一息つく。
 「・・・、何やってたの?」
「何って、朝食の洗物を・・・」
 「・・・・・・」
「「・・・・・・」」
 「はぁぁぁぁ、優しい彼氏、いいなぁ〜〜。 兄さん・・・(くすん」
 「ファイトですよ、フレイアさん!!」
「まぁ・・・かんばって下さい(汗」
落ち込むフレイアを、何故か息巻いて励ますリオ。所詮他人事である。
・・・・どないせいと?

街へ下る路、らしくなく一見一般人なライとレイハにフレイアが続く。
 「それで、今日はドチラへ?」
「あ〜〜、とりあえず雑用がてら先ずは役所だな」
出来るだけ感情を押し殺したフレイアの質問に、ライはかったるそうに
鼻糞ほじり飛ばしつつ応える。秘書なレイハは見て見ぬフリで無言。
・・・怒るな怒るな。
フレイアは初っ端に役所へ行っている。
レイハは兎も角、最も偉くとも不良兄貴なライと役所はミスマッチの極み。
・・・大丈夫なのか?
一抹の不安を他所に穏かに賑わう通りを辿って途中に土産軽食を買い、役所へ到着した。
役所内はやはり、忙しなくもフレンドリーに業務へ携わる役人達や所用で訪れた住人、
旅の行商や旅行者,難民等いろいろな人、様々な人種,種族が千客万来に往行する。
其処の受付の奥へ当然のように入ったライ達
「ち〜〜っす、仕事励んでるか〜〜」
如何にも遊びに来た感じの挨拶に、役人達は苦笑したり適当に会釈して仕事に戻った。
何時の間にかレイハの姿は側になく、促されフレイアが付いていった先は庶務外課。
控えているのは騎士と見紛うばかりに凛々しい礼服調衣装に武具を備えた人々。
しかし、各々武具に合わせてカスタマイズされている。
青年魔導士は全体的にユッタリと、魔杖に体に巻付けた機巧蛇な使魔。
弓士青年は標準的な衣装でありながら短弓,短剣、短矢を備え片腕のみ腕甲。
女侍は、刀装備にフレアなロングスカートに腕袖口がユッタリと手首が自由な籠手。
格闘娘は、袖無しに下はスパッツで、ナックルガードな腕甲と各部強固な脚甲。
双剣娘は、上は標準的でもハイスリットなタイトスカートに剣二本のみ。
ライの姿に、パッと見でも騎士級な彼等はまた各々が好意的に会釈した。
 「この方々は?」
「要は、役所内派出所 他所では騎士に当る自警官ってやつだな。
彼女は他国(よそ)から視察にきたウチの客人だ。適当に相手してやってくれ」
・・・適当かよっ!!!
ライを睨むフレイアを、それでも彼等は慣れっことばかりに好意的に挨拶をする。
きっといつもこんな、いい加減な調子なのだろう。
もっとも長たる者が如何こう言うわけにもいかないのでコレが正解だが。
フレイアを態々紹介すること事態、その行為を容認していると言える。
でも、実際の細かいスカウト云々は自分の甲斐性でしろとも言っている。
・・・全く。
ライが持って来た土産軽食をオヤツに、フレイアと彼等,休憩の役人達は
暫し意気投合して談笑にふけるのだった・・・・・・

丸で古い親友と再会できたかのような良い時間も、
離れてニヤニヤと見物していたライといつの間にか合流していたレイハに台無し。
役所を出た三人は、午後の賑わいの中で次へ向う。
 「覗き見なんてせず、ハッキリ次へ行くと言えばいいでしょうっ」
「なかなか楽しそうだったからなぁ、声かけ辛かったんだよ(アヒャヒャ。
・・・、和気藹々と会話したいなら後日個人で行ってくれ。
他の派出所回りすれば他にも気が合う奴がいるだろうさ」
態々こんな手間を取るライの意図が読めない。
レイハを見た処で全ては主の御心のままにと言わんばかりに素知らぬ顔で
主の影踏まず斜め後ろを着いていく。
たまにライが歩速を落としレイハに並ぼうとするのは、やはり手をつなごうと
しているのだろうか? 以前にレイハもあわせて歩速を落とすので並べないが。
・・・あんた、背中が煤けてるゼ(笑
そうして三人が次に辿り着いた先は、ちょっと小粋な喫茶店。
入店にマスターの挨拶を気にせず、ライは遠慮なくカウンターへ座る。
ライを挟んでレイハとフレイアも両隣に座る。
ライは二人の意見を聞かず珈琲と茶菓子を三人分注文し、
マスターが珈琲を湯煎で温めている間に話しかける。
「連中、いるかい?」
「今、いないんですよ。時が悪かったですね」
「ふぅ〜〜ん。じゃ、しゃあないか・・・。
来たら、俺が客じゃない何か連れてきてたって行っておいてくれ」
と、ライが指差す先はフレイア。
 「何かって何よっ!!?」
フレイアの抗議を即却下し、ライは俺モ、プロ器欲シイナと
水出し珈琲器を羨望の眼差しで眺めつつ珈琲を啜るのだった。
ライとマスターの会話は、顔見知りそのもの。ある種の事情を前提に成立していた。
それが意味する処は何なのか。自分で察しろと、関して何も言わない・・・
次に向った喫茶店では、其処にいた癖ある常連にフレイアを茶化しつつ
自分の客と紹介し、軽く近況で時間を費やすと次へ・・・それを繰り返す事、数回。
既に日は暮れて夜の時間帯に突入。向った先は喫茶店ではなく小奇麗な酒場。
ここもまた当然のようにバーを陣取り、カクテルを注文した。
此処ではライはマスターに話しかけず、唯何かを待つようにグラスを傾ける。
薄暗い店内は人の気配に影は見えるものの、ボックスに誰がいるかまでかは分らない。
と、其処から来たのは一人のチンピラ。
「よう、大将。今日は随分とイイ姉ちゃん侍らせてるじゃん。俺にも紹介してくれよぅ」
馴れ馴れしくライとフレイアの間に身体を割り込ませ絡み付いてくる。
それは恰もヤクザの若親分と知らずチンピラが喧嘩を売っているかのよう。
イタズラッ気な猫耳が跳ねているように見える・・・てか、ホントに生えている。
如何にもな猫髭がチクチクとフレイアの耳を擽る。
「彼女は俺の所の客、フレイア。
モノにしたけりゃ、自分の甲斐性でな。止めはしないから」
ヒャッホウ、話ワカルゼと猫少年はフレイアの肩に手を回し
「姉ちゃん、一晩のアバンチュールを俺とどうだい?
俺のザラザラな舌で夢心地にしてやるぜぇ」
 「お生憎様、私はボウヤに買えるほど安い女じゃないのよ」
「いたいたいたいっ!!! っ!!?」
フレイアの肩にかけた手の甲を思いっきり抓り上げられ飛退いた猫少年は
其処で頭をグワッシと鷲掴まれ、空中にぷら〜〜ん。冷や汗だらだらだら。
 「君は人を放っておいて何をやってるのかなぁ?」
「あっ、いやっ、いえっ・・・」
猫少年を持ち釣る影からかけられるのは実にニコヤカな声。でも笑ってない。
ワラッテ、クスクスゴーゴー
 「御バカな子には オ シ オ キ しなきゃ ダ メ よね」
「ひぃっ!!? ちょっ、おま・・・くぁwせrdty〜〜〜っ!!!」
そのまま影に裏口へ連れて行かれる猫少年。姿が消えた直後
ドスッとかメキャッとか一発一発ハッキリとした殴潰音と共に
ゲフッとかアギャとか断末鳴が響くこと暫し
「・・・今度こそ、死んだかな」
 「・・・虚勢されたかもしれませんね」
「「・・・ナ〜ム〜(合唱」」
チ〜ン♪
沈黙の間を置いて裏口から帰ってきたのは、活発で利発な感じの猫娘。
顔に赤い飛沫な点々がついているが、キニシナイキニシナイ・・・
 「すみません、弟が御バカで・・・(あはははは」
「・・・さて、オチがついた処で俺たちも行きますか。
関しては弟から聞いてくれ。・・・一応、まだ生きてる・・・だろ?」
 「・・・ええ、まぁ・・・多分」
 「・・・、それでは」
三人は後ろを振り返る事無くその場を去るのだった。
彼が次の朝日を見れるかまでは関知しないったらしない。
三人の酒場巡りは続くのだった・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
 「それで、今日のコレって何だったのよ?」
「・・・、お前なぁ、ちょっとは察しろよ。
態々俺がついていって会わせたのは、どんな連中だ?
因みに、ドチラも軍で真っ当な教育を受けたぞ。
お前の事は直に関係者に伝わってしまうだろうさ」
王の客である以上、フレイア個人で会いに行っても無碍に扱われることはない。
でも、喫茶店や酒場で屯している連中にまで会わせる意図までは分からない。
例えソレが割とレベルが高い腕を備えていたとしても。
 「冒険者風情を私にスカウトさせるつもり?」
「それを言っちゃ俺だって冒険者だった時期もあるし、ロカルノは現役だ。
軍で真っ当な教育を受けたと言っただろ? 要するに公認のフリーランス。
官の連中がコンスタントに能力を発揮できる優等生タイプなら
冒険者な連中はクセムラがあるが爆発力高い劣等生・・・切札型ってことだな。
フレイアが連れて行くとするなら編成3:2・・・後は自分の甲斐性でしてくれ」
 「・・・・・・」
「何か文句あっか?」
 「あんたの掌で踊らされてムカついてるだけよ」

希望都市にも屋台はある。寧ろ、数・質共に侮れない。
昼間は公園を中心に、新鮮な果実や野菜を使ったジュースを始め、
クレープやお好み焼き,ボール焼き,焼そば,サンド,ピザ・・・・・・
夜間は裏通りを中心に、オデンに焼鳥,串揚げ。そして、キング・オブ・屋台 ラーメン。
寒い季節には、昼屋台よりも夜屋台が繁盛する。当然その装備もバッチリ。
周囲を防寒幕なテントで覆い、外の寒さの中でも若干ましな程良い環境で食事できる。
夜半の客が途切れた頃、そのラーメン屋台に入ってきた3人の客。
一人は黒い粗野なコートを靡かせた小サッパリな如何にも遊び人風の男。
一人はその彼女か上品なコートを着た薄化粧の真面目なヤリ手秘書風娘。
最後はジャジャ馬っぽい秘書風娘で、二人とは余り仲が良い様には見えない。
「あんちゃん、俺はネギチャーシューとライスくれ」
 「では、私もネギチャーシューラーメンだけを一つ」
 「・・・私はふつうのでいいわ」
男はラーメンが楽しみなのか御機嫌で、その彼女は困った人といわんばかりに微笑み
ジャジャ馬娘は明らかに不機嫌そのもの。なんで自分がこんな処にと
 「ふんっ、何で私がラーメンなんか・・・(ぼそっ」
「・・・ラーメンなんか? ラーメンなんかだと? ラーメンを舐めるなーっ!!!」
その一言に男が吼えた。背後に剣揮い翳す龍顎破壊神のビジョンまでも見える。
「ラーメンはな、スバラシイ民衆食なんだぞ。安い材料でも腕一つで美味くなる!!
しかし、ただ美味い麺,スープ,具を揃えるだけじゃ美味いラーメンにはならない。
例えば、アッサリ系スープには細麺,コッテリ系スープには太麺が定石。しかし
麺に既にシッカリ味がついているなら麺を生かすためにアッサリ系に太麺もアリ。
具一つにとってみても食べるにつれて、濃い味付けならスープに具の味が足されるし
薄い味付けなら具がスープを吸って、最後まで具の味の変化を楽しめるのだっ!!!
具の代表格、チャーシューでも材料が豚,牛,鳥等々、その切り方一つ取ってみても
薄く切るか厚く切るかだけでラーメンの印象は180度変わってしまうワナ。
造り手のコンセプト,センス、全てがモロに現れるシロモノなのだよ。
しかもソレすら、食い手次第、食べ順次第で如何様にも変わってしまう。
この程度生温いっ!! 何なら、まだまだまだ語れるぞっ!!!」
ジャジャ馬娘、圧倒されてポカーンである。ポカーン。
「お、お客さん、もしかして同業者で?」
「いやいや、俺はしがないラーメン好きな遊び人さ(ニヤリ」
屋主と男の間に交わされるのは、恰も決闘者達の視線。
屋主の背後にも中華包丁揮う虎頭武神のビジョンが見えるのはきっと気のせいだろう。
「・・・分りました。では、ご存分にお楽しみくだせぇ」
暖められてあるドンブリにタレが入れられ大鍋から透明なスープで琥珀色に薄まった。
其処に、釜から上げられ湯飛沫煌かせ素早く湯切られた麺が投入され、なじまされる。
鋼菜箸が舞い素早くチャーシュー,ネギ,メンマ,煮卵がトッピング。
あっという間に三人分のラーメンが完成した。
「ほほぅ、アッサリ系スープに太卵麺、厚切りチャーシュー・・・
スープ,麺,具、全てで真正面に勝負する国士無双か・・・実に俺好みだ」
「主役に目を目を奪われていると伏兵にやられますぜ、お客さん」
再び背後にビジョンを背負いキュピーンと決闘者に目を煌かせる両者。
 「・・・コイツら、一体何なのよ(汗」
 「気にしたら負けです。ノリで生きている方々ですから(ズルズル。
コレでしたら・・・私としてはタレ少なめ細麺で、薄切りチャーシューの
繊細でも大胆に天衣無縫な感じの方が好みですね」
「「強敵、現るっ!!?」」
 「なんでよ・・・レイハさん、あんたもなのか(汗」
皆それぞれ好みが違うという御話。
どっとおはらい。


林に隣接した訓練場
特注忍装束に魔刀『血桜』,小太刀を携えた正戦闘装のフレイアが立つ。
 「戦闘できる格好して来いって言われて来たけど
そもそも荷物に装備一式入ってるなんて・・・・・・」
「俺達にしてみりゃコッチの方が本題なんだがな。
才女といわれて傲慢になってる小娘に世間の厳しさを仕込むっつー」
愚痴に応えるライ以下極星騎士団の面々は得物を携えマントや陣羽織を着ているが
その下には凡そ戦闘訓練のためではないカジュアル等の一般的な格好。
 「何よ、そんな格好で私の相手が出来るとでも思ってるの?
・・・怪我じゃすまないわよ?」
「はっ、箱入りの小娘風情が舐めるなよ」
 「っ!!?」
破壊剣,小太刀,三刃爪,長剣,大剣
瞬間、フレイアを穿ち、削り、斬り、撥ねる様々の刃。それは刹那の幻。
「俺達のレベルに達すりゃ、無いなら無いなりに如何様にでも戦える。
何なら俺が相手してやろうか? コワれて二度と立てなくなるがな」
 「・・・・・・(ゴクリ」
「まぁ、そんなことになっちゃ流石に洒落にならないしな。
フレイアの相手は最初っから決まっている」
 「・・・私が御相手仕ります」
一歩前に進みですのは、秘書なスーツの上に陣羽織を被っただけのレイハ。
丸で不意に空中から現れたかのような感触。始めっから視界に捉えていたにも関らず。
それは、莫大なライの側にいただけではなく気配が完全に遮断されていたから。
職業上、秘書,メイド,狩人が取得してしまうスキル。それ以上に確立させるのは忍。
何故かライがマントを脱ぎ捨てる。
放り上げられたマントが緩やかに落ちる下には秘書なレイハ。
舞い降りたマントは完全にその姿を覆い隠した。瞬後マントを払い除け現れるのは
身体の凹凸を強調するボンテージのように妖艶な女忍鎧の上に
戦闘ジャケット,巻きミニスカート、陣羽織を纏った完全武装の姫将 戦忍。
既に装備からして忍ぶものを前提にしたものではなく豪華絢爛。
しかし、フレイアにもコレに備えて各種小武器を借り得てある。
「装備で負けたなんて言わせないからな」
 「ロイヤルアサシン 影忍戦姫の技、御存分に御賞味下さい」

 「はっ、忍が重装過ぎて素早さが落ちるだなんて致命的ね!!」
 「ご心配無く、敏捷性が落ちるわけではないので。
私の事よりも貴女は貴女自身の事を心配すべきかと。
・・・貴女にこの雨を凌ぐ事ができますか?」
 「っ!!?」
初っ端から遁走に走り、追付けないレイハを一笑するフレイアは不穏な台詞に
振返り見、降り注ぎ迫る小クナイの弾幕にギョッとしつつも即状況判断。
そもそも使捨武器である手裏剣やクナイなどは数持てば重石になるので一撃必殺、
対個でこのように弾幕に使うことなどあり得ないと言える。
しかし、それで攻撃された以上は対処しなければ死ぬのは自分。
弾幕の領域外まで回避は不可。投武器で迎撃するなど論外である。
ならば最も弾幕が薄い処で斬り抜けるしかない。
 「舐めるなっ!! ブレイブハーツは伊達じゃないっ!!!」
魔刀と小太刀を揮い、更にその向うから迫る手裏剣を両断。瞬後
轟っ!!!
と、手裏剣を中心に生じた爆炎がフレイアの姿を完全に覆い隠した。
 「・・・ふふふふふ、この程度でリタイヤしないで下さいね」
爆炎が風に流れた後、其処にフレイアの姿は影も形もなかった。
レイハが地面から拾い上げるのは布切れ。極薄なソレは一回限りだが高防御力を誇る。
フレイア、未だ健在であるという何よりの証。
レイハが視線を向けた先には木々そびえる林。
・・・・・・・・・・
風が吹き、木の葉がそよぐ。他に音は何もない。
ただ、テッテッテッと暢気に駆けていた雪ウサギが、突如目の前に刺さったクナイに
慌てて駆け逃げていった。 そして再び一帯を支配する静寂。その中で
 「逃げ足、穏行だけは優を上げましょう。それ以外は如何でしょうか・・・」
余り大きくないにも関らず、遠くまで響き渡るレイハの声。
・・・はっ、余裕ブッコいていられるのも今の内よ。
樹陰に隠れたフレイアは、そのまま四方八方 明後日の方向へ自分のクナイを投擲する。
ある程度の距離を直進したクナイは、フレイアの指の動きにあわせて木々を回りこみ
その地点へ四方八方から殺到する。
 「む? 面白い小細工ですが・・・」
キンキンキンと金属同士がぶつかりあい投擲したクナイが弾かれるのにあわせて
フレイアは物陰から飛び出し、借り得た手裏剣や先に回収しておいたクナイを
距離を詰めつつ贅沢に連続投擲。当然クナイは斬り弾かれ、
遅れやってきた手裏剣 爆裂するよう仕込まれていたソレは
弾かれること無く回避されてカーブの軌道を描いき地面に着弾。
と共に起きた先と同様の爆発はレイハを弾き飛ばす。
否、爆発に乗って陣羽織をはためかせて空を舞う。 しかし・・・
 「ひっかかったわね(くすっ」
 「・・・ふっかかってしまいましたね」
爆風に乗って手足を広げた体勢で空に止る。
凝視すれば空間に無数の線が走っているのが見て取れた。
それはフレイアが最初にクナイを投げた際にレイハを四方八方から襲うように操った糸。
それが今や蝶を捕らえた蜘蛛の巣と化していた。
 「これでチェックメイト。降参しなさい」
 「・・・ふっ、貴女は分っていませんね。我々に降参・敗走はありえない」
 「あっそ。客人の私がやっちゃうのも何だと思うけど、これも勝負だから」
躊躇なくフレイアから放たれた爆裂手裏剣は逃げること敵わず的なレイハへ一直線に。
そして直撃。
轟っ!!!
と爆炎に包まれた。
例え陣羽織等が防御力の高いものであっても、身動きが出来なければ重傷は必至。
 「ホント、後味悪いわね・・・でも、悪いのは降参しなかったレイハさんなんだから」
空中に絡め取っていた糸が爆発で切れたか、ドサッと落ちてきた塊。
流石に放置するほど外道ではないフレイアは回収して帰ってあげようとソレに近づき
 「・・・何よこれ」
それは、陣羽織着た木偶人形。すなわち忍法、変わり身の術。
そして、何処からとも無く 四方八方から響いてくる声。
 「くすくすくす・・・、こんなことも御存知でないのですか? 初歩の初歩ですよ」
 「んな事は分かってるわよっ!! 隠れてないて姿を現しなさいっ!!!」
 「私は忍ですよ。出て来いと言われて出てくるわけがないでしょう。
でも、私は弱い者イジメが趣味ではないので・・・」
向こうの木陰から何の捻りもなく姿を現すレイハ。しかし、それだけではなく
 「なっ!!?」
フレイアを驚かせ、新たに姿を現すレイハ。二人目、三人目、四人目
女忍鎧の上に巻きミニスカートの共通点があるとはいえ皆微妙に装備が違った。
一人は両手に黒刃の忍短刀。一人は戦闘ジャケットに投クナイ。
一人は巨大十字星手裏剣。一人はヌンチャク大クナイ。
 「「「「因みに、四っ子ではありませんよ」」」」
 「ンな事は言われなくても分かってるわよっ(ウガーっ!!!」
 「「「「幻術でもないのであしからず・・・」」」」
 「・・・ちっ」
幻術ならば四種の姿を出したとしても、それ也に兆候がみられるが、これにはない。
凝視しても現実感の上に確固とした存在感があり、影を持ち、脈動する。
 「「「「ふふふふ、この程度で怖気ついて降参しないでください」」」」
 「舐めるなっ!! 分身の術ぐらい、私だってっ!!!」
四人のレイハの周囲を回るように駆けるフレイアの姿がブレ、幾重にも増える。
しかし、そのどれも存在が希薄で動きが連動し、高速に動いているにも関らず儚い感。
 「分身の術ぐらいといいながら、その程度とは・・・」
 「まだまだまだ未熟、下忍クラスもいいところ・・・」
 「忍が放つ真の分身の術、しかと克目しなさい」
 「御代は貴女の命・・・と言いたいですが、泣きっ面でオマケしましょう」
緩やかに歩き出す四人のレイハ、ユッタリとした動きにも関らず、
その姿は後に残すように四種で幾重にも増えていく。
 「・・・ふざけるな。
負けると分かっていても漢(オンナ)には退けないこともあるのよぉっ!!!」
 「気持ちだけでは事を成せませんよ。仮にも長たるものならそれを自覚なさい。
勝てない相手なら勝てる術でもって圧倒し、勝利を奪い取る。当然の理ですよ」
 「アンタなんかにいわれなくともっ!!!」
両者 否、両勢が地で空で激突す。

分身対決、結果はいわずもかな。
一人で虚を駆使したフレイアと異なり、レイハは四の実を元に虚身すら威力を発する。
言うなら、常に付きまとわれリンチされたようなものであった。
故に、一人に戻り優々と陣羽織を着直すレイハの足元にフレイアが伏すという現状況。
 「やはり、忍としても長としても三流がいい所ですね」
 「くっ・・・」
 「さて、先程は貴女が私に降参を勧告したわけですが・・・貴女は降参なさいますか?」
 「ふっ・・・くくくくく・・・はははははは」
 「??? 受け入れがたい現実に、自暴自棄になりましたか・・・」
瞬間、フレイアからボムッと放たれた煙幕に一帯が包まれる。
吹く風が煙幕を押し流すが、既に其処にはフレイアの姿がないのは当然
 「・・・相変わらず逃げ足だけは速いですね」
 「余裕ブッコいていられるのも今のうちよ。
アンタの敗因は、私に 血桜に切られた事。
急速に衰える自身の力に恐れおののき詫びるがいいっ!!!」
何処からともなく響いてきたフレイアの声と共に、
ドクンと急激に流出していくレイハの体力。
魔刀『血桜』、その能力は斬りつけた相手の命を吸い奪うエナジードレイン。
 「・・・確かにコレは厄介ですね。でも、貴女は私・・・戦忍を侮っています」
レイハが抜き放つのは己の得物 守護刀でもある「光影」「闇輝」
漆黒の刃を持つその二刀一対の短刀の一方は、十手のように峰に枝を持つ。
打ち合わせる「光影」「闇輝」。それと共に
ピィィィィィィン
と一帯へ静かに音叉の如く鳴り響く清音。断ち切られる魔線。
 「っ!!?」
 「この二刀を用いずともエナジードレインを遮る術は幾つもありますよ。
はっきり言いましょう。貴女はその剣を未だ使いこなせていないっ!!!」
幻のように霞み消えるレイハの姿。
・・・っ、何処へいった?
姿を茂みの中に隠したフレイアは四方八方を探るが、今までが嘘のように
一切気配は感じられない。そもそも、本当にレイハが其処にいたのかすら怪しい。
 「では、そろそろこの茶番を仕舞いとしましょう」
 「っ!!?」
気付いた時には背後に立つ気配。
その一撃にフレイアの意識は闇へと堕ちて逝く・・・・・・

 「あ〜〜〜〜いたたたたたいたいたいた〜〜〜い」
 「ああ、大丈夫ですよ。骨に異常はないので、明日から普通に動けます♪
・・・痛みさえ我慢すれば」
 「痛みを我慢しなくちゃいけない時点でダメじゃん」
 「イイ女になる人が細かいことを気にしちゃダメですよ(ばんっ」
 「みぎゃ〜〜〜!!?」
・・・暫し休題・・・
 「でも、見事なまでにコテンパンにやられて、良かったですね」
 「なんでよ。全然良くないわよ」
 「そうですか? 大抵の人って一撃でのされちゃうんですよ。
此処までズタボロにされるということはそれだけ実力があるって事なので
自慢してもいいと思いますよ。少なくとも、皆からは憧れますね」
 「いや、それ自慢できないから。寧ろ、ギャフンと言わせないと。
第一、リオちゃんやアレス君は如何なのよ?」
 「え〜〜、私達ですか? もう本気で戦うことは出来ませんから・・・」
 「それって自慢!!? さり気無く自慢(ウッキィー―――!!!」
・・・更に暫し休題・・・
 「なんというか、もうちょっと落ち着かれた方がいいんじゃないんですか。
ヒステリー起こすだけ明らかに損しているように見えますけど・・・」
 「私だってヒステリーなんか起こしたくなんかないわよ
でも、此処に来てからはペースは狂わされっぱなし・・・(ヨヨヨヨヨ
ああ、あの愛しの古巣に帰りたひ・・・(ほろり」
 「それはフレイアさん次第、ガンバですよ。
後は、適当に人材を見繕えばいいんですから」
 「リオちゃん、貴女何気に辛口ね・・・恐ろしい子っ!!!」
 「えへっ♪」
ハイデルベルク情報部長フレイアが希望都市でどんな人材を勧誘して帰ったかは
当人と限られた関係者のみが知る事である・・・


top