「王都の影」


王都ハイデルベルク
栄を極めた大国の中心部、そして人々の闇が集まる場所でもある
規模が大きく人々の交流が大きければ大きいほど問題というものは発生するもの
それを抑えるのがハイデルベルク騎士団、どの都市よりも大きな規模を持っているのだが
そんな彼らでも全てを解決することはできない

それゆえに彼らの中にでも裏で動く者もいるのだ


「・・・休日なのに呼び出すなんて何の用だよ?」
都の中でもかなり路地裏にある小さな茶屋に入りつつ
私服の黒い革の服を着こなしている男、ジャスティンは言いやった
遠慮することはない、この店は何故かよほどのことがない限り客が入らない
それでも潰れないのが不思議なのだが・・
「まぁわしらの仕事なんぞ年中無休じゃろうが」
ジャスティンに声をかけるは先に席につき、やや濃い目の珈琲をすすっている白髪の老人
年齢相応に合っていない短パンにアロハなシャツとちょっと元気なおじいちゃんといった感じだが
顔自体はかなりの男前と言える
「まぁ、そりゃそうだがな。超勤手当ては情報部から申請してくれよ」
「若いのに細かいのぉ・・ともかく座れ」
「へいへい・・」
言われるままに老人の前に座るジャスティン、よぼよぼなマスターに珈琲を注文しながら
大きく伸びをした
店内は質素な造りで中々小洒落ている・・だが立地している条件が悪いこともあり
やや場違いな雰囲気になっている
現に窓から見える景色は小さな家が数軒と巨大な壁・・いかに城壁の隅なのかがはっきりわかる

「でっ、フレイアとの仲はどうなんじゃ?」
「んがっ!?・・・じいさん!!」
「冗談じゃ。まぁお前も飄々としているわりには真面目だからのぉ」
嫌な笑みを浮かべる老人
彼の名はハリー=マクドウェル。ハイデルベルク騎士団の情報部に仕える一番の古株で新米の指導にも
当たっている重鎮。
自称忍者とのことでそれに似た体術を教えているのだが本当の素性は彼にしかわからない
かく言うジャスティンもハイデルベルク騎士団の聖剣『ブレイブハーツ』を持つ聖騎士にして一騎士団を束ねるほどの
実力者
双方この国の護りにおいて重要なる人物だが・・自らの素性を明かしても誰も信じてくれなさそうなほどに
一般庶民として馴染んでいる
「うるせぇ・・ったく、義理の兄に熱を上げているのはじいさんも知っているだろう?」
「わかっているならもっと攻めんかい。元々はそういう関係だったんじゃろう?」
「・・そういう話をするために呼んだのかよ・・」
「まぁ世間話じゃ。どうあれ、フレイアが義兄と結ばれるとも思えないからこじれない内に奪い返したほうがいいと思ってのぉ」
「・・、まぁあいつはあいつで思っているところがあるんだろうしな。俺はあいつの意見を尊重するさ」
「・・面白みにかけるのぉ・・」
「何か言ったか?」
ばっちり聞こえるように呟くマクドウェルにジャスティンの顔はさらに曇る
かつてはジャスティンと恋仲であった情報部のフレイアだったが現在は義理の兄に熱を上げ疎遠になっているのだ
そのことについてジャスティンは何も言わず静かに見守っている
過去の誤解により憎んでいた兄との和解ができた事は決して悪いことではなくそれを無理やり止めさせる気にはならないのだ
「まぁ、ぼつぼつがんばれ。例の義兄・・先の一件で拝見したが確実に金獅子と結ばれるだろうからの」
「・・じいさん、んなことわかるのかよ・・」
「年の功じゃて。まぁこの老いぼれの目にもあの金獅子の本性は見切れなんだがの」
「そりゃあな。雑な性格だったことを知っている人間は極一部、後は天性の猫かぶりでだまし通しているものな・・」
金獅子セシルの豹変ぶりを思い出し思わず身震いを覚えるジャスティン
「ほっほう、てっきりああいうのがタイプだと思ったのだがな・・」
「・・帰るぞ?」
「冗談じゃ。・・阿呆な話はここら辺にしておこう」
途端に眼光鋭くなるマクドウェル、これだけで今しがたまで目の前にいた人物とは全然違うように見える
目の前でそれを見ているジャスティンも
(猫被っているのはじいさんも同じだな・・)
っと心の中でぼやいていたり・
「厄介事か?・・まぁそうじゃなきゃおよびじゃないだろうけど・・」
「うむ、一般市民の振りをしてとある女を捜して欲しいのじゃよ」
「人探しかぁ?・・んなもんは・・」
「話は最後まで聞け。何も余所の国の王族が来ているんじゃないわ」
「ってことは・・もっと厄介なほうか」
極秘裏な人探し、それはお忍びな上流階級か要注意な悪人のどちらかに限られてくる
「東国からちょっとした有名な人斬りがこちらに渡ってようでの・・・」
「人斬り?」
「まっ、早い話が暗殺者と言ったところじゃな。剣の魔性に取り付かれ己の剣を磨き人を斬ることに全てを費やした者のことじゃ」
「・・切り裂きお馬鹿さんってところだな・・」
「そういう捕え方でも差し支えない。東国の剣術使いはここらの騎士とは役者が違うのではな・・そいつが悪さしようものなら
面倒になる」
「いくら何でも突然暴れだされちゃなぁ・・」
「それならまだマシじゃ。奴もカムイからここに渡るとなれば金もかかっただろう。そうした人間の金稼ぎは・・」
「用心棒、もしくは暗殺ってことか・・」
「そうじゃ。ハイデルベルクでそやつを見つけてな。幸い難儀な組織とのつながりはなさそうじゃが・・放っておくわけにもいかぬ」
「まぁ、そうだな・・じゃあそいつを見つけ出せばいいのか?」
「うむ、そうした人間は同じ場所に長くは留まらん。問題を起こさなければそれでよかろうが・・」
「最悪、切り捨てるしかない・・ってか」
「最悪の場合じゃ・・そやつの素性を言うぞ・・」
真剣な顔つきのまま一人の暗殺者について語り出すマクドウェル・・
昼下がりのハイデルベルク、店には彼の声と外からのざわめきのみが響いていった


数時間後
昼下がりの王都は活気に満ち溢れており大通りに行こうものなら身動きが取りにくいほど人で溢れている
その中、大道芸人が己の技をアピールするために集っている通称”大道芸人通り”は特に活気がある
それでも、芸人が芸をするために観客もある程度固まって観覧しているために大通りの中では動き安かったりもする
「・・やれやれ、ここだけは俺達が注意しなくても皆礼儀良くしているもんだぜ・・」
頭を掻きながら芸人のパフォーマンスに見惚れている観客を軽く見やる
この通りで芸を見せれる者は一流と認められる風潮があるらしく芸人の芸はどれも一級品
それゆえ名物として広く知られるようになりこれを見にわざわざ王都に来る観光客もいるとか・・
だが、交通のマナーが自然に成り立っている分芸に見惚れている客から財布をくすねるスリもいるために
私服で騎士が警戒に当たっている・・こうした隠れた仕事が民の楽しみを護っているのだ
「しかし・・王都内にはいるらしい・・ってそこまでわかってんなら自分らで調査しろよなぁ・・」
マクドウェルからの話ではすでにその暗殺者は王都内にいるらしい、それもカムイ独特の着物では目立つので
こちらの服装に着替え潜伏したところまでは確認が取れているらしい
しかし得物までは変更できないのでとりあえずは刀を持っている不審人物を目安に調査に当たっているのだ
「カタナ使いか・・あのクラーク=ユトレヒト並の相手ならキツイんだが・・な・・」
聖騎士として様々な任務をこなしてきたジャスティンだが流石に東国の剣術使いと剣を交えたのは一人しかいない
それも今国内で噂立っている冒険者チーム「ユトレヒト隊」のリーダー、クラーク。
剣術使いとしては超一流でジャスティンも敗北した苦い経験を持つ
「・・まっ、二回も負けちゃ格好悪いし・・ふんばるか」
何気にクラークに負けた事が悔しくて対刀使いの動きを自分なりに訓練してきているジャスティンだったり・・
そうしてしばしぶつぶつ呟いていたジャスティンだったが・・

「はいはいは〜い!そこの顎鬚お兄さん!」

元気な女性の声に呼び止められる
「・・俺?」
見れば先ほどまで芸をしていた男女のコンビがジャスティンを見ている。おまけに女性の方・・珍しい兎人の彼女なんかは
堂々と指差している
「お兄さん以外に髭生やしている人いないよ♪」
「だ・・だんちょ、素人にそんなこと・・」
「まぁまぁ!お兄さんちょっと芸のご協力をお願いします!」
相当押しの強そうな女性、対し男性のほうはどうやら彼女の部下らしく頭が上がらないご様子
「・・・暇じゃないんだが・・・まぁいいよ」
なんともなしにジャスティンが引き受ける、こうした女性は一度断っても効きやしないのだ
「ありがと〜!そんじゃこっちこっち!!」
「お・・おい・・」
満面の笑顔で服の裾をひっぱり、観客の視線集まる広場の中へ・・
「さぁてお立会い!今からこの顎鬚のお兄さんのお手伝いによりさらに華麗な芸を披露します!」
「・・コソコソ(内容知らないんだけど・・おたくわかる?)」
とりあえずノリノリな兎女性に言ったところで答えてくれそうにないので何気に緊張している青年に声をかける
「・・コソコソ(立ってくれているだけで結構です。後は俺がなんとかしますので)」

「それでは!お兄さんそこに立ってください!」

「ほいほい、こんなもんでいいのか?」
言われるままに直立する・・後ろには大きめの板が置かれておりそこには幾つもの刺し傷が・・
そこまで見れば何をするかは理解できる
「それで・・これ!」
上機嫌にジャスティンの頭にリンゴを置く
「・・こういう芸は観客の協力を頼むもんじゃないんじゃねぇか?」
「まぁまぁまぁ♪ノリです♪」
何がそこまで楽しいのか・・全然わからないジャスティン
そして

「では!お立会い!このナイフ投げの達人であるジーク君が見事にあのリンゴに命中してみせます!」

「そんじゃあ・・すみませんが行きますよ。だんちょうしつこくって・・」
青年ジークが軽く謝りながら手にナイフを持つ
「ジーク君減点〜!」
「いいから早くやってくれぇ・・」
「すみません、では・・」
途端に真剣な顔つきになるジーク、その気迫に相当の腕だとジャスティンは直感するのだが・・
(・・・・・)
「・・!?・・」
ジークの後方の観客の中に眼光鋭い女性が・・
鷲のように鋭い目つき、着ている物は男が着るような質素なデニムパンツと白シャツだが・・只者ではないことは人目でわかる
「!!・・奴か!」
慌てて動き出すジャスティン・・しかし
「ああっ!動いちゃ危ない!!」
「へ・・うぉぉぉ!!」
既にジークがナイフを投げた後・・一気に三本纏めて投げたようでモロジャスティンに命中するコース・・
「な・・なんの!」
咄嗟に身体を仰け反らせてそれを回避するジャスティン、偶然か狙いかその際宙に浮いたリンゴにジークのナイフが
刺さったり・・

おおおお!!

観客もこの偶然をそうとは思わず一つの芸だと思っているらしい
「み・・見事成功ぉぉ!お立会い拍手〜!!」
相当冷や汗を流している兎女性と顔が青いジーク・・
そしてなんとかそれに合わせているジャスティン
奇妙な芸者を余所におひねりはいつまでも飛び交っていた


「「・・すみません・・」」
事態が落ち着いたので近くのオープンカフェな店に三人は移動した
おひねりも上々だったが流石に一歩間違えればとんでもない事態になっていただけに
二人ともちょっと落ち込み気味
「いいって、俺も勝手に動いたからな・・」
「でも、よく無事でしたよね・・」
「こういう事には慣れているんだ。まぁ忘れろ。」
二人のおごりで出てきた珈琲を軽くすすりながらジャスティンは再び周囲を警戒している
・・が、あの女性の姿はなく軽くため息をこぼす
「・・(うう〜、ジーク君。やっぱ怒っているよぉ)」
「・・(しょうがないでしょ?だから俺は反対したんですよぉ)」
周囲を警戒しているジャスティンの姿はこの二人には怒っているように見えるらしく
冷や汗を流しコソコソ話をしている
そこへ
「なぁ」
「「うわあぁ!!」」
「・・何驚いているんだよ・・」
「いやっ、別になんでもないっす!」
「ふぅん・・それよりも聞きたい事があるんだ」
「僕達の事?」
「そうそう、・・おたくら何か人に恨みを買われるようなことしてないか?」
珈琲をすすりながらもゆっくりという
プロの暗殺者が大道芸見学など行うはずはない、あの場であの女がいたのは間違いなく「偵察」
その視線の先からして狙いは・・
「・・え?・・ううん・・まぁ正直恨みを買われないで生きていくことなんてできないんじゃないかなぁ?」
「・・それもごもっともだな。悪い、変なことを聞いて」
「いえいえ〜、こちらこそ・・」
「その事は気にすんなって。それよりもまだ名前を聞いていなかったな。俺はジャスティンだ」
「僕はナタス、こっちはジーク君です。一応これでも傭兵団だったり・・します・・」
テヘっと笑うナタス・・俗に言うところの苦笑いというやつか・・
「傭兵団が芸をするもんかぁ?」
「・・そこんところの事情は余り突っ込まないでくれたら嬉しいです・・」
「まっ、傭兵稼業も時の場所って言うしな。大変だろうががんばれよ」
「ありがとう〜」
優しいジャスティンの言葉にナタスもようやく安心したようだ
「それで、何ていう名前なんだ?その傭兵団」
「ふっふっふ!人呼んで「宵の月」だよ!!・・ほらっ、ジーク君ポーズポーズ!!」
急に席を立ちなんか良くわからないポーズを決めているナタスだがジークはあきらかに
引いている
「だんちょ・・オープンテラスなんですから人見てますよ・・」
「ってかそんな名前聞いたことない」
「「ガァァァン!!」」
クリティカルヒットなジャスティンの一言に宵の月面々轟沈!
「まっ、王都にゃそういう面々がゴロゴロいるんだ。名が知られるようにがんばんな♪」
二コリと笑いジャスティンは席を立つ
それに・・
「あ・・ほんとすみませんでした。ジャスティンさん」
「いいってことよ。珈琲、ごちそうさん・・また会おうぜ〜」
軽く手をふりながら店を後にするジャスティン・・
残されたナタスとジークはそのまま知名度アップの催しの計画会議へと移行するのであった

・・・・・・・・
・・・・・・・・

しばらくはぶらぶらと王都を探索していたジャスティン
だがそのうち日も傾き出してきたのでそれも止め王都中央にある城へと脚を進めた
もちろん城に入れる最高騎士の一人なので顔パス・・
周りはてっきり王へ所見するかと思っていたようだが彼が向かうは関係者以外立ち入り禁止である地下
広大な空間には国内での情報を統括している情報部が存在している
最も、それを知っている人間は極少数だったりするのだが・・・
そしてジャスティンが間違うことなく進んで行ったのはそこの主の部屋・・

コンコン

「邪魔するぜ〜」
返事を待たずゆっくりと重厚な扉を開け中に入るジャスティン
そこには情報部隊長であるフレイア=クレイトスが静かにペンを走らせていた
キッチリと黒いスーツを着こなし長い碧髪をポニーテールに括っている
そしてその隣には栗髪で少女のような童顔の女性アリーが同じくスーツで書類に目を通している最中・・
「邪魔するんだったら帰って」
「あいよ〜」
「・・あのぉ・・」
無駄のない阿呆な会話にアリーがなんとも言えない顔つきになっている
「挨拶だよ、アリー。」
「そんな事よりもどうしたの?いつもは夜勤が嫌で逃げてくる時ぐらいなのに・・」
走らせているペンを止め軽く彼を見つめるフレイア
「ん・・おおっ、ちと知りたいことがあってな」
「個人情報は管理しているわよ?」
「・・何について聞きたいと思っていやがる・・、俺が知りたいのは王都を拠点にしている『宵の月』という傭兵団のことだ」
「宵の月・・・、王都拠点の中ではかなりランクが上の傭兵団ですね・・」
フレイアに変わってアリーが応える
こうした頭の引き出しの扱いは彼女のほうがダントツに優秀だったりする
「わかるか?」
「詳しいことは資料を見なければいけませんね・・調べてきます」
そう言うとアリーはてきぱきと部屋を後にする
こうした時にジャスティンが聞いてくることは間違いなく特命モノであり重要度が高いのだ
「・・でっ、また厄介事?」
「・・厄介事って・・おい・・、お前らから回ってきた一件だろうが・・」
「え・・そうなの?」
目を丸くして驚くフレイア、我関せず・・のご様子
「・・お前が知らないってことはマクドウェルじいさんの独断かよ・・」
「そうみたねぇ・・あははは・・」
「やっぱじいさんのほうが頭には向いているのかな・・」
顎をさすりながらニヤけるジャスティン、対しフレイアはその発言で眉間に皺が・・
「自分に向いていないことぐらいわかっているわよ!失礼しちゃうわね!」
「はははっ、まぁそう怒るな。有望株に頭を任せるのは情報部の伝統だからな」
「その割には貴方の一件、私は知らないじゃない」
「・・たぶんあのじいさん独自の情報網なんだろうな。東国の刺客が関係しているみたいだし・・」
「え・・ちょっと・・」「ありましたよ、ジャスティンさん」
驚くフレイアと同時にアリーが資料を持って戻ってくる
膨大な量の中でこれだけ早く目的の物を持ち出せるのはやはり彼女の能力のおかげ・・
「サンキュ〜、そんで?」
「優秀な人材に富んだ集団ですね・・ですが、どうやら頭領が変わったようでそれからは目立った活動の記録はありません」
「・・まぁ、大道芸していたわけだしな・・」
「はぁ?」
「なんでもない。そんだけ優秀な集団なら・・恨みも買われるってわけかな?」
「・・断定はできませんが最近は傭兵団も不景気ですからね・・生き残りをかけているところも多いですからそうしたこともあるかと・・」
「・・なら、とりあえずは決まり・・だな」
東国からの暗殺者の目標は傭兵団「宵の月」・・まだ確定とまでいかないが
博打好きである彼はその線に賭けた様子だ
「ねぇ!勝手に話進めているけど私達には内容さっぱりよ!?」
「わ〜ったわ〜った!軽く説明するぞ!」
ぶ〜たれるフレイアに苦笑いしながらジャスティンは今回の出来事を軽く説明しだした

・・・・・

「・・女忍者・・ねぇ・・」
話を聞き終えてフレイアは顔をかなり曇らせている
「・・なんだよ?お前も似たようなもんだろうが」
「実は隊長、最近クノイチにケチョンケチョンにされる夢を見てそれ以外何故か苦手意識を持っているんですよ」
「・・そうそう、誰だかわかんないけどめちゃくちゃ強かったのよねぇ・・」
「・・・所詮は夢だろうが・・」
「まぁそうなんだけど、ただの夢っぽくないのよぉ・・。私が夢見ても忘れるタチなのは知っているでしょう?あ・・」
自分で言いながらしまったと言う顔つきになるフレイア
今は義理の兄に熱を上げているが昔はジャスティンと恋仲であったが故にその時の癖ででてしまったのだ
仕事ではいつもと変わらない態度を取っている彼女だが
そうした点ではやはり・・
「・・、まぁな。ともあれ情報ありがとよ。後は俺がなんとかする」
「待ちなさいよ、せっかくだから協力してあげる・・クノイチにいつまでも遅れをとっていられないもの」
「・・隊長もクノイチなんですよ・・」
冷静なアリーの突っ込みだが本人は自覚なし・・母親の血が濃いのか型にはまる性格ではないのだ
「まぁ俺で手が追えない相手かもしれないからな。そんじゃ二人とも頼むよ・・その宵の月の拠点を張ってくれ」
「了解です・・ではっ、早速」
すぐさま仕度に取り掛かるアリーとフレイア
この機動性が情報部を支えていると言っても過言ではない・・


・・2日後・・
情報部の協力によりジャスティン自ら動く事を止め表立っての動きは収まったかのように見えた
しかし、影では様々な準備がされているのは言うまでもなくそれは敵方のほうにも言えることであった

「今月は結構上々かな〜・・・」
ハイデルベルクの中でも比較的ランクの低い宿の一室にて宵の月の団長であるナタスが袋から銀貨を取り出し
総額を確認中
本来の彼女らのアジトはここではなく、
他の団員は各自仕事をしているに加えてその日は大道芸人同士の会合が行われた
帰りでたまには少し贅沢しようと宿に泊まったのだ
「団長・・俺達だけこんなところに泊まっていいんですか?」
金額を帳面に記入しているジークがどこか不安そうに尋ねる
「いいっていいって!ここの費用は会合のMVP報酬で払っているんだからみんなのお金は使ってないんだし!」
上機嫌のナタス
王都名物である大道芸通りは王からも奨励されており月に一度の会合でその月一番活躍した芸人をMVPとして
報酬がもらえる決まりなのだ
「そうですか〜・・」
「行っておくけど・・襲ってきたら・・死ぬよ」
途端にキラーンっと目を細めるナタス・・、流石に二部屋借りるほどの金額もなかったために相部屋に・・
ジークにとっては良質なベットで寝られる喜び以上の毒がそこにあったりする
「襲いませんよ・・まだ死にたくないですし・・」
「そうそう♪利口が一番だよ!」
「でも一応俺がいるんですから、だらしない格好しないでくださいね」
「な・・なな・・・なに言ってるんだよ!!」
「いや・・フロの後にスッポンポンでミルク飲んでいるとか聞きますんで・・」
性格はともあれ、絶世の美女であるナタスがそんな行為をしているのにジークは全然見たがらない様子
・・まぁ、そこらは個人の趣味の範囲・・
「誰から聞いたのか・・これからじっくりと尋問しよっかな〜♪」
「い・・言えませんよ!!」
「ジークく〜ん・・夜は長いんだよ♪ともあれ、カツドンの出前でもする?」
爽やかな笑みとはうらはらに微妙な殺気を含んでいる・・
「だんちょう〜」
「ふふふ・・んっ?」
悪魔の笑みを浮かべていたナタスだが急に天上の上を見上げる
「・・だんちょ?」
「・・・・・・、ジーク君、逃げるよ!」
途端に荷物を手短にまとめ窓から飛び降りるナタス!
「うえっ!?だ・・だんちょう!!」
ジークも慌ててそれに続き、夜の王都へと飛び降りていった


夜の通路をひた走るナタスとジーク、特にナタスは何かを感じ取っているのか相当焦っているように見える
「だんちょ〜!!」
対しジークは事態が飲み込めてこそいないが警戒しなければならない事は理解しているようで
逃げながら手持ちの短剣を握り締めている
二人は大通りよりも寧ろ入り組んだ裏路地付近を駆け回っている・・、流石に大都市まで発展した都なだけに
こうした裏の道はかなり複雑・・それゆえ熟知している者でなければ迷ってしまうのは必至な箇所で
逃げる二人にはもってこいの地帯である
しかし
「・・!?」
不意にナタスが立ち止まる、ちょうど通路も狭くなっていき
大人二人が並んで歩ける程度・・
「団長・・」
「ジーク君・・」
深刻そうなナタスの声・・そして彼女の前には何時の間にか人影が・・
月明かりの中に浮かぶ姿がどこか不気味でそこからは何の感情も伺えない
「・・僕達に何の用!?」
鋭い声で問うナタス・・その言葉に応えるように一歩近づく影・・否、一人の女性
黒い忍装束に長く黒い髪・・口元にはマスクをしており目は鋭い鷲のようだ
「・・・・・」
その忍はゆっくりと両手に装備したカタールを構える
次の瞬間

フッ

夜の闇に溶けるように姿を消す、その動きは実に自然・・
「・・・!!」
「団長!予測を・・!?」
相手の動きを予測する事を得意とし、常にその一歩先を動く事に長けているナタスだが
今回は様子が違いナタスの動きよりも闇から現れる刺客の動きの方が上をいっている
「・・」
刺客の鋭い一撃は音もなく正確にナタスの喉元を狙う!
「こ・・のぉ!」
確実に刃が喉を狙っていたのだが間一髪それを回避するナタス・・おそらく彼女でなければ
致命傷を食らっていただろう
「団長!」
「予測よりも・・早いよ・・」
冷や汗を垂らすナタス、完全に回避できなかったの首筋に赤い筋が走っている
「団長の予測を超える・・動き?」
彼女のその動きを誰よりも信用しているジークなだけにその予測を超える動きをする刺客に驚愕する
「・・・・・」
刺客は尚も鋭い眼光のまま構える、あまりにゆるやかなその動きはこれから人を殺そうとするものとは思えない
「・・この!」
そんな刺客にジークは短剣を投げつける!
彼も一流の傭兵、たとえ短剣一本でも事態を有利に働かせるための技術を持っており投げられた短剣は寸分の狂いもなく
刺客の額目掛けてかなりの速さで駆けている
・・が・・

キィン!

鋭い金属音がなると同時に数本の短剣が跳ね飛ばされた
刺客が動いたような素振りは全くないのだが・・彼女が何かをしたことは間違いない
「・・・僕達に・・何の用?」
冷や汗とともにナタスが聞く・・、彼女も自分の得物を手に取りいつでも仕掛けられる体勢を取っている
「・・・誅す・・」
静かに答える刺客の女性、初めてしゃべるその口調は正しく機械的
美しい声だがそれにはあまりにも不釣合いな表情のなさにどこさ寒気を感じさせる
「く・・」
その気迫に圧されるナタス、その状況は正しく蛇に睨まれた蛙
しかし彼女とて一つの傭兵団をまとめる存在、このまま何もせずにやられるわけにはいかない
刺し違える覚悟で前に出る
その瞬間
「ちょ〜っと待ったぁ!!」
地面に数本突き刺さる短剣とともに天より飛んできたのはなんちゃってクノイチであるフレイア
動きやすい紺の忍法衣を着ており既に愛刀である「血桜」を抜いている
「・・・・」
乱入者が登場するも眉一つ動かさない刺客、だが標的はナタスでなくフレイアに移ったことはわかる
「あ・・貴方は・・」
「騎士団関係者よ、ともかく下がっていて!」
手で振り二人を下がらせるフレイア、その間にも刺客は風のようにフレイアに接近する!
「甘いわよ!」

キィン!

目にも止まらない一撃であったがフレイアはそれを迎撃することができ刺客をのけぞらさせる
力勝負ではフレイアに分があるらしい・・まぁそれが女性として名誉なことかは別なのだが
「はっは!ひ弱ねぇ!」
「・・・・・・、笑止・・」
勝ち誇るフレイアを見て軽く構え直す刺客、途端にその姿は霞み、四体も分裂した
「でたでた・・忍者の十八番」
呆れるようにそういい構え直すフレイアだが大口に似合わず冷や汗を流している
「「「「・・・」」」」
対し刺客は確実にフレイアを狙うように身を乗り出し

フッ

一瞬の間を置いて四体が飛びかかる!
「なんのぉ!!!」
フレイアも意地になり飛びかかる・・
空中に黒い影が飛びまわる中

キィンキィンキンキンキン!!

何度も金属音が響き渡っている・・・
「・・すごい・・」
「団長・・見えるんですか?」
「追いきれないけど・・あの騎士団の人、四人相手を捌いているよ・・」
「全然強そうに見えないなのに・・すごい・・」
どさくさにまぎれてのジークの一言なのだが必死で戦っているフレイアの耳にはしっかりと届いていたり・・
その間にも激しい空中戦は続いており
金属がぶつかる音は鳴り止むことはない
そして
「・・んにゃろぉぉぉぉ!」

斬!

高速の空中戦の中、刃が肉を裂く音が響く・・次の瞬間には月明かりの中鮮血がほとばしり
フレイアと刺客は対峙する形になった
「・・・不覚・・」
静かに唸る刺客・・わき腹を切られたようでそこを手で抑えている
「はっは・・、何処の誰か知らないけど分身扱う輩の対策はすでに夢の中で完成しているのよ!」
ゼーゼー息を切らしながらも胸を張るフレイア
何だかんだ言いつつも細かい切り傷が身体中の至るところについており楽勝というわけでもなかったようだ
「・・・」
「神妙にしなさい、手負いで私には勝てないわよ!」
「・・・深追い・・無用・・」
口惜しげにそう呟くと刺客は闇の中に溶け込んで消えていった
一瞬で気配が完全に消え去ってしまいそこには彼女が流した血のみが残っている
「全く・・どういう原理かわからないけど厄介ね・・」
その動きに深くため息をつきつつも何とか撃退できたことに心内では舞い上がっている
「あ・・あのぉ・・」
「ああっ、貴方達の事を忘れていた。事態を話すからついてきてくれる?」
笑顔で話すフレイア、対しナタスとジークは最後まで何が何だか理解できなかった

・・・一方・・・

王都近辺の平野にはあの刺客が脇腹を抑えて息を切らしていた
「・・・くっ・・・」
思った以上に傷口が深く早く止血作業を行おうとした・・が
”通称「ヒサメ」・・東国で名を轟かせている暗殺者・・か”
「・・!?」
いつの間にか月明かりに照らされた平野に立っている戦士・・ジャスティン
だらしない服装ではなく、彼がオーダーメイドをした軽装鎧と法衣を着込んでおり
すでに剣を抜いている
「さて、どうする?その傷だ。相打ちを狙おうにも身体がうまく動くまい・・」
「・・・・笑止・・」
ジャスティンの言葉に刺客ヒサメは傷口を抑えるのを止めゆっくりと立ち上がる
「・・・覚悟・・願おう・・騎士よ・・」
「・・やれやれ、クノイチって奴はどこも偏屈者なのかねぇ・・」
そう言うとゆっくりと構えるジャスティン・・
「・・斬る・・」
「やってみな!!」
飛びかかるヒサメ・・血を飛ばしながら寸分の狂いなくジャスティンの首を狙う!
対しジャスティンはゆっくりと正眼の構えのまま迎え撃つ・・
鋭い一撃はジャスティンの首を襲い掛かりあわやそのまま命を奪うかのように思えたのだが
フッ
「・・!?」
急にジャスティンの姿が消える・・見れば彼の姿はもう2,3歩後ろに・・
「手負いだとひっかかるもんだな・・悪く思うなよ!」
そう言うとジャスティンは空振りをしつつ体制を崩しながらもさらに襲い掛かるヒサメに剣を振り下ろした


・・・・・・・
・・・・・・・


「・・うっ・・」
ゆっくりと目を開けるヒサメ・・どうやら生きているということは実感できるのだが
身体が思うようには動かない
目に見える光景は一面の青空・・、心地よい風が身体を通り抜けておりどこか高い場所にいることは理解できる
「気が付いたか」
静かに呟く老人の声・・、それにヒサメは瞬間的に迎撃体勢に入ろうとするのだが
「これ、重傷なんじゃ・・大人しくせんか」
先に動きを止められる・・そして彼女の視界に入るはマクドウェルじいさん。
いつもの飄々とした表情ではなくひどく真剣な顔つきになっている
「ここはハイデルベルク城の屋上じゃ、下手に暴れるとまっさかさまじゃぞ」
「・・!貴方様は・・リュウビさ・・」
その顔に驚きを隠せないヒサメ・・
「待て、わしの名はハリー=マクドウェルじゃ。「不屈のリュウビ」なる忍はすでに死んだ」
「・・・」
真剣なマクドウェルにヒサメは静かに頷く、マクドウェルも彼女の体を静かに起こしてやり
眼下に見える城下町を見せてやる
「カムイでの動乱で御主の行いは耳に届いている。わしとしては平静を取り戻し行き場を失った影達に安らぎを与えてやりたかったが
・・一度捨てさせた情を取り戻すのはわしが思ったよりも至極困難なもののようじゃった」
「・・・」
「すまんの、御主には辛い思いをさせたか・・」
「・・いえ、御館様がご無事ならば・・我らも報われます」
静かに呟くヒサメ、ナタスを襲った時とは違いかすかに情が感じられる
「これ、わしはもうただの爺じゃ」
「・・申し訳なく・・」
「それよりもどうじゃ、わしは今素性を隠しこの国に仕えておる。御主も暗殺などと血なまぐさいことをやめて協力せんか?」
「・・私は汚れております、今更そのような事を・・」
「今更だからじゃ。修羅の道より舞い戻り人の道を歩むのに遅い早いもあるまい」
「・・・・」
「たのむ、このとおりじゃ」
ゆっくりと頭を下げるマクドウェル、それにヒサメは慌て出す
「御館様・・お顔を上げてください・・」
「ヒサメよ・・」
「血で穢れた私でよろしければ・・貴方様に従いましょう」
「すまんの・・」
静かに礼を言うマクドウェル・・・、その表情には何ともいえない悲しさが篭っており
ヒサメはその素顔を静かに見つめていた

そして
「け〜〜〜っきょく!!あのじいさんの昔の弟子を救えってことだったのかよ!!」
情報部の一室にて悪態をつつくジャスティン椅子にだらしなく座り机に脚を乗り上げている
「まぁまぁ、自分で動くよりも有望株を動かしたほうがいいって判断したんだって」
同じくフレイアもだまされたのでそう言いながらも不機嫌な様子
室内にはアリーと宵の月を代表してナタスが着ており何やら萎縮している
「で・・、結局あのヒサメって暗殺者の雇い主は逮捕したの?」
「ええっ、私が確保しておきました」
さらりと笑顔で言うアリー、童顔なわりには腕が良くそれにだまされた依頼主の傭兵団はものの数秒で確保されたとか
「流石はアリーねぇ」
「それよりも他の組織を蹴落とすのにそんな事するなんて・・」
被害者なナタスは頬を膨らませプンスカプンスカ・・
「まっ、よくあることさ。それよりも災難だったなぁ」
「いえいえ、僕もお城の中が見れて嬉しいです。ジャスティン様♪」
ジャスティンやフレイアの正体を知ったナタス、超エリートな騎士だったためにちゃんと様付けをしていたり
「そうかしこまらんでもいいさ、お前さんも大変だったもんだな」
「あははは・・まぁ・・こうした職業だったら仕方のないのないことかもしれないですね」
「こういう仕事っても大道芸してるしなぁ」
「はううう・・」
ジャスティンの軽い一言でナタス轟沈・・
「まぁ腕はいいんだ。どうだ?俺が雇ってやってもいいぜ?」
「ええええええええええ!!?」
「・・声が大きいっての・・」
「で・・・でもでもでもでも!あの『ブレイブハーツ』のお抱えですよね!?」
その瞬間、ナタスの頭には贅沢なブルジョワ生活が描かれた
「まっ、俺が王都勤務の時に協力してもらおう♪それまで大道芸でがんばりなさい♪」
「・・は〜い・・」
結局、暗殺者の襲来として危機を迎えた「宵の月」だったが結果としては貴重な収入源を手に入れた・・のかもしれない

「・・あ、そうそう、これから俺半年勤務地に戻るから」
「そんなぁ・・」



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