「アサシンと狗」


一国の情報部は、地味で日の目を見ないが、国内外のありとあらゆる情報を集め
国の治安を総括するだけでは済まされない重要な機関である。当然に様々な者が
席を置いており、事務のみならず本部には一生顔を出さずに終る現地員もいる。
それはさて置き、ハイデルベルク情報部
其処には、情報部長に若き才女と名高い猫を被っているフレイア=クレイトスを始め
補佐官 情報部副長に若く童顔で成人前の少女のようでも優秀なアリー=フェルネス
意見役としても所属する老人忍ハリー=マクドウェル、その懐刀 女忍ヒサメに
最近フレイア直属の部下となった『希望都市の児』
ニヒルな青年 戦術の孤戦士シグ=カーマイン
未来予測の変人魔導士娘メリア=フォーチェン
等の色々な者がいる。その主要メンバーがハイデルベルク城の地下にある情報部に
丸々いるからといって決して暇などではなく、世の中も万事平和ではない。
寧ろ、そういった業務の殆どは名も無き者々の地味な活動によって支えられ
一定レベル以上の力量を持つ者達は数が少ないだけに使い処が難しいのだ。
そのため、極端に忙しい者は忙しく、暇な者は暇だったりするのだが・・・

時は昼食頃、人は一食くらい喰わずとも死にはしないが意味無くそんな事をする者は無く、
それは情報部室であっても同様に、ある者達は手持ちの弁当を広げ頂き、
そうでない者達は食堂なり外へ食べに行かざるえない。
 「じゃ私、昼飯行ってくるわ」
 「私もお供します♪」
 「わわわ私、美味しい定食屋を見つけたんですよっ、其処へ行きませんかっ!!?」
と、かしましく出て行くフレイア,アリー,メリア。トップ二人とメリアの能力も
相俟って事務ではよく行動を共にするだけに、中々に仲は悪くないようである。
「ワシ、王に昼食へ誘われているんだがなぁ・・・」
止める間も無くサッサと出て行ってしまった三人に思わずグチる曲者じいさんハリー。
そもそも爺さん此処で茶飲んでただけやん 等のツッコミは見事なまでにスルーして。
場所がら誰なりと責任者が常に常駐しなけれなならないのだ。
と、其処へ敬老精神溢れるシグ一言。当人はそのつもり一切なしだが。
「ハリー殿、俺が此処に残っているので遠慮なく・・・」
「構わんのか?」
「弁当を作ってきてある。気遣い無用」
「そうか・・・ヒサメや、留守を頼むぞ」
何処からか「御意」の返事に、ハリーはもう抗議しても無駄だといわんばかりに
無駄に忍のスキルを発揮し、瞬く間に霞消えるのだった。
シグは部屋の中を見回すが側に返事の主はいない。衝立や本棚の遮蔽物が多いが。
思わず、フゥと溢す溜息一つ。
「ヒサメ・・・姿ぐらいみせれば如何だ。
拾われてきた野良猫じゃあるまいし、其処まで周囲に警戒せずともいいだろう」
失敬な と言わんばかりにシグの背後に降り立つ一つの人影。
気配なくとも側で立たれれば明らかに分かる圧迫感を、シグは気にする以前に驚く事無く
半ば無視に近い感でスタスタと会議用の大テーブルの一角へ。
其処には既に事務員な弁当持参組のいくつかが固まり穏かな一時を過していたが、
シグの姿以上にその向うにあった彼女の姿にギョッとする。
戦闘員で何処か痩狼な感を漂わせていても小まめに雑用をこなす主夫に執事なシグは
意外に人当たりがいい。しかし、その向うにいるコート姿の彼女は、声はすれど姿は見えず
ある意味怪談な畏怖の対象であった。
しかし、彼女のコートの中身がエロチックに、アサシンだけに無駄なく細身でありながら
しっかり出る処は出ている女性らしい若魚な肢体がレオタード・タイツでメリハリが付
そのまま公道で歩けば即タイーホされる格好なのは、戦闘現場を見た者だけの秘密だ。
 「・・・・・・」
「そんな処で伝っていないで座ったら如何だ」
茶の用意を済ませて席についたシグは、つ立ったままのヒサメにポンポンと隣の席を叩く。
暫しの間をおき、如何対処すればいいか分からないのかヒサメは無表情なままシグの側へ、
その椅子の具合をシッカリ確かめた後に座る。
「何処ぞの狂闘犬騎士じゃあるまいし、態々何も仕込みはしない」
 「・・・・・・」
ネタが分からないのか、ヒサメは無表情なまま無言。反応されないのなら仕方ないと、
シグは手持ちの弁当箱を広げる。中身は、色とりどりの具を挟んだ様々なサンドイッチ。
イイ仕事をしているソレに、事態を見守っていた周囲 もといギャラリーから上がる感嘆。
シグはそれを気にする事無くカップ二つに茶を注いでヒサメにも出し、
サンドイッチの一欠けらをモグモグモグと平らげると茶一口で注ぎ込んで一息。
座ったままピクリとも動かないヒサメを思わず手元と顔を見比べ
「昼飯食べないのか? 弁当がないのなら、俺のを摘んでもかまわないぞ」
 「・・・私にはコレがある」
イチイチ行動を気にかけるシグがウザイか、ヒサメが腰につけたポーチから出すのは小袋。
その中身は丸薬状のモノ。シグが入れた茶には見向きもせず水筒まで持ち出す。
「・・・まさか、兵糧丸か?」
 「然り」
「毎日1日三食ソレで済ませているなんてことは・・・そうなのか?」
 「問題ない。必要な栄養はこれで十分取れる」
「いや、確かにそう作ってあるから、そうであるはずなんだがな・・・いや、君は・・・」
思わずオーバーアクションで呆れてみせるシグに、離れて見ているギャラリーも頷く。
 「・・・何か問題か?」
「問題は大有りだな。そもそも兵糧丸とは緊急時や戦闘事を想定して作ってある以上
その場しのぎには申し分ないが常時食すためのものではない。 それ以前に食事とは
肉体の維持・成長に必要な栄養を補給する以上に、毎日の楽しみであるべきなのだ。
それを君は・・・人生の楽しみの半分を捨てているようなものだっ!!!」
 「・・・・・・」
シグの演説に、周囲のギャラリーからはオオ〜〜と賞賛のどよめき。
「と言うわけだからヒサメ、俺を気にせず摘むといい。
具は、照焼鳥とトマト,塩漬瓜と茹卵,蒸豚と玉葱,フルーツ
カロリー控えめで栄養満点。自画自賛だが良い塩梅で申し分ない。
御茶も飯に合うように巧く入ったと宣言していいだろう」
 「結構だ」
ヒサメ即答。
シグのみならず周囲のギャラリーですら、その躊躇ない返事に理解出来ず暫し硬直。
「何故だっ!!?」
 「毒が盛られている可能性がある」
「・・・何故に?」
 「私を抹殺するためだ」
「・・・色々疑問満載なのだが、俺がヒサメを毒殺して何のメリットがあるのだ?
そもそも、これは俺の昼食として日々の仕事の合い間にメニューを考案、素材を吟味
我が知恵と調理法を駆使した上に完成した至極に至る一品だぞ。
そんな勿体無い真似などするか! !料理に毒を盛るなど、料理人,素材に対する冒涜だっ!! 
神が許しても俺が許さんっ!!(ウガー」
プッツンで人狼化しかねない勢いのシグに、無表情なヒサメには珍しく目が点で硬直。
ギャラリーは拍手喝采。 凄い心意気だぜ、兄貴っ!! だから一口食べさせて?
「と言うわけだから、食べたまえ。 遠慮はいらない。
寧ろ、喰え!! そして、食の楽しみを知れっ!!!」
 「・・・!!?」
剣幕に圧され動けないヒサメに突きつけられるのは凶刃、ではなく匠のサンドイッチ。
しかし、その唇は固く閉じて拒絶している。
だが、シグとて嫌がる女の口にモノを含ませる方法くらい心得ている。
抵抗許さず瞬時にヒサメの両頬を片手で摘みもち、指先のその点に力を込めれば
アッサリ開く唇に上下の歯。 そこへポイッとサンドイッチが放り込まれ
ヒサメが吐き出さないようにシッカリ頭をホールド。
「女性の意に反して強引にするのはアレだけで、倫理的に如何なものかと思うが
こうもしなければヒサメも口にはしないだろう? 大人しく食すならばそれでよし・・・」
 「・・・・・・」
キャー寧ろ私へ強引に食べさせて〜〜と五月蠅いギャラリーを他所に
ジト目っぽく見るヒサメ、格好が格好ならホスト笑みで応えるシグ。
しかし、ヒサメの顔はしっかりホールドしたままなのは、勿論。
「さぁ、咀嚼したまえ。
まずは野菜のシャキシャキ感と肉の歯ごたえ、パンのシットリ感が分かるだろう?」
 「・・・・・・」
「さぁっ!!!」
 「・・・・・・、・・・(モグモグ」
「よろしい。では、飲み込みたまえ」
 「・・・、・・・(ゴクリ」
伝わる振動からヒサメが確実に飲み込んだ事を確認した上で、解放。
彼女が次に如何出るか分からず、ギャラリーもなぜか手に汗握り見守る。
「如何かな? 何も問題はありはしまい?」
 「・・・・・・」
「次からは、幼児みたく俺の手を煩わせず食べてくれると嬉しいのだがね。
先にも言ったが、半分くらい取られても構わん。サクサクと食べるといい」
 「・・・・・・わかった」
シグの強引さに、最早一口食べてしまった以上同じと諦めたかヒサメの口から零れた
他者を受け入れる言葉に、何故かギャラリーからはオメデトウと拍手喝采。
「・・・なんでだ?」
 「・・・・・・(パク、・・・ハグハグモグモグモグ、・・・ゴックン」
偉業を目撃した後かのようなギャラリーのいつも以上に和気藹々な雰囲気の中
その弁当持参組の昼休みは経つのだった・・・・・・
「処で、良ければ明日からヒサメの分まで弁当を作ってこようと思うが如何だ?
リクエストがあるならば、聞くぞ? 無いなら適当でもそれなりに作ってこよう。
因みに、食事をする事は無意味だという意味でいらないと言うならば、却下だ」
 「・・・・・・わかった」
そしてシグの手造り弁当を頂く、一歩手懐けられた野良猫なヒサメの日々・・・・・・


・・・・・・かの日から数日が流れ、またかの日と同じようなその日
 「じゃ私、昼飯行ってくるわ」
 「私もお供します♪」
 「じゃじゃじゃあ、今日はドチラへ行きますかぁ!!?」
 「「・・・・・・」」
連れ立って昼食へ向うとするフレイア,アリー,メリアの三人娘。 
メリアが何気にアリーの凶行の防波堤となっているので、今やフレイアもメリアの
多少の奇行は気にしていない。二人っきりになれずアリーが多分?ちょっと残念そうだが。
と、其処へ顔を出すのは曲者じいさんハリー。今日は好々爺モード
「フレイア、急いでおらんなら一寸待ってくれんか?
ヒサメも一緒に連れて行ってやってほしいんじゃが・・・」
呼ばれて飛び出てハリーの脇にシタッと控えるのは、そのヒサメ。
 「御館様、何の御用ですか?」
「いや、特に用は無い。ただ、ヒサメに予定がないのならば
この者達と食事を共にせんかと思ってな・・・」
 「御命令とあらば・・・」
「いや、命令というわけではないのじゃが・・・な」
 「・・・・・・」
如何ともしがたく苦虫噛み潰したようなハリーに対し、ヒサメは相変わらず坦々と無表情。
単に食事を共にさせるだけなら命令すればすむ事。しかし、それでは暗殺者として育てられ
人らしい感情を持ち合わせていない女忍の情操教育には−になりこそすれ+にはならない。
ヒサメが人並みの幸せになってほしいハリーには難しいところである。
「・・・して、ワシが誘わなんだら、ヒサメは如何するつもりだったんじゃ?」
 「御弁当をいただく予定でした」
「兵糧丸は弁当とはいわんぞ?」
 「はい、御弁当は兵糧丸ではありません。御弁当は御弁当です」
ヒサメの言った意味が理解出来ずハリーが唖然。見事なまでにポカ〜ンと。ポカ〜ン。
ジイさん、ついにボケが始ったか?
動かぬハリーに用件は終ったと判断し、ヒサメは踵を返してスタスタと行ってしまった。
 「ジイさん、何呆けてるのよ? あの子が弁当食べて何がそんなにおかしいわけ?」
 「忍なりアサシンがお弁当といえば、大抵兵糧丸なんですよ」
ハァ?と首傾げるフレイアに言うアリー。それでもフレイアには要領がつかめない
 「せせせ説明しましょうっ!! 忍のアサシンとして育てられたヒサメさんは
自分で御弁当を作れるはずがないのですっ。かと言って、他人が作ったものは
服毒させられる懸念があるので口にすることなど出来るはずがないので〜すっ!!」
 「何それ? まったく杞憂じゃないの」
「もともと人を殺す事を生業としとるからな、他人に気を許せんのじゃよ。
まだ若いあの娘が気を許せる他人を見抜くなど出来るわけがないしのぅ」
語るハリーが一気に老けて見える。無力感を物語るかのように。
 「じゃあ、誰があの娘に弁当を作ったのよ?」
「「「「・・・・・・」」」」
ごもっとも。
 「まさか・・・」
「「「「「・・・男?」」」」」
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

会議用の大テーブル、その一角に彼女の姿があった。
ヒサメが座る目前には立派な重箱が鎮座し、その周囲には弁当持参組が和気藹々と包囲済。
その弁当を作ってきた当の者は茶を入れにいっているのか、
無表情なはずのヒサメは一人現状況に周囲を警戒して緊迫感があり、弁当を護っていた。
孤独を友とするはずの彼女が、非戦闘員とはいえそれだけの人達に囲まれジッとしている。
敵意ならまだしも、対処に困る友好的な気配の中で。
大した進歩である。
其処へ急須とカップ二つ持ってやって来たのは、シグ。
早く早くと急かす周囲の声をニヒルな笑みで宥めすかし、広げられた重箱の中身は
冷製パスタやら、サンドイッチやら、玉子焼きやら・・・明らかに一人分以上
男二人でも食べ切るには結構な量であった。
先ず、シグは重箱の蓋にチャチャチャとヒサメと自分が食べる分を取分け
イタダキマスの合図の直後に行われるのは、オカズの交換。
・・・と言うよりも、一方的にシグのおかずの味見であった。
味見で気に入ったオカズのレシピを聞く者ありーの、
自分のオカズを食べてもらい評価してもらう者ありーの・・・
その隣では、黙々と兎のように自分のオカズを食べ続けるヒサメ嬢。
実にホノボノ〜〜な雰囲気。
が、不意に硬直する一人。それに気付いた別の者がその硬直した原因を見て更に硬直。
伝染する恐怖。
それが弁当持参組に伝わり、一斉に気まずそうにソレから顔を背けた。
中心のシグとヒサメを除き。
「・・・何をやっているんだ、あんた達は?」
彼等が見たのは、隙間から雁首並べて覗いているイヤ〜ンな笑みの御大三人+α。
一番下には横から顔を覗かせるメリア。
アリーは四這なのだろう。上にフレイアに乗られて幸せそう。
ハリーは過去の謎な経歴なんぞクソったれに、好々爺。
 「ヒサメちゃんがお弁当食べるって聞いたから、どんなのか見に来たのよ。
いやぁ、まさかシグ、アンタが弁当を作ってきただなんて人は見かけによらない」
「この程度、嗜みの一つだ。
自分が作った料理で喜んでもらえるというのも中々に嬉しいものだぞ」
弱みを見つけたとばかりにフレイアがからかうが、当然のように言い返すシグ。
 「ははん、ヒサメちゃんに貢いで喜んでるだなんて、丸で狗ね。狗(びしっ」
「狗、大いに結構。そもそも大層な見返りを求めて作っているわけでもない。
治安を護る『正義の味方』たるものは、人の笑顔を最大の報酬とするのではないのか?
そんなことも分からないとは・・・ふっ・・・これだから『愛』を知らん者は・・・」
こっ恥ずかしい台詞を平然と当然のようにのたまう。 その精神にシビれる憧れるぅっ!!!
実践出来ているかは別として。
 「あんたなんかに言われないわよっ!!!!」
「では、言われない様にすることだな」
 「くっ・・・きいいいいっ!!」
暴れるフレイアに、ハリーとメリアは顔を引っ込めるが、
上に乗られているアリーはそうは行かない。
癇癪起こしたフレイアにドスンドスンと暴れられ、衝撃は豊乳を揺らさせ諸にアリーへ。
しかし、そのアリーは幸せそうに見えたのは、その場にいた者達の気のせいだろうか。
そのドタバタを気にする事無く食事を終えたヒサメはカップを両手で抱え持ち
茶を啜って平然と一服するのだった。

「どうやってヒサメを手懐けやがったんじゃ?」
「もと大将からの伝統か、希望都市には野良猫等を手懐けるのが巧い男が多くってな。
俺もそう・・・そう言う事なだけだ」
「なるほど、言い得て適切」
「・・・、お父様と呼ばせて下さい?」
「あたらずとも遠からず・・・その気があればの話じゃが、な」
「・・・、ふむ」
「・・・あの娘を弄ぶ気なら、ワシの技全てを其の身で知る事を覚悟せえよ」
「元々はあの娘の他人を拒絶している現状況に我慢ならず手を出してしまった御節介。
あの器量は十分に好意へ適う・・・が、其処までいくかは俺の関与すべき事ではない」
「意外に紳士じゃな(ニヤリ」
「・・・(ニヤリ」

情報部だけに内部調査の結果、その日から連日
シグがヒサメに弁当を作ってきた事が今更ながら関係者一同の知る処となった。
曰く、野生動物を手懐けるようで感動的だっただの
曰く、あんな風に情熱的に食べさせられたいわ(←謎 だの
曰く、最初は無表情で怖いと思ったけど、意外にプリチィ〜〜♪だの
曰く、ヒサメ嬢の食べる様は小動物のようで意外に可愛らしいだの
情報部の職員が働く大部屋公衆?の面前で調査報告を元に
フレイアがシグをからかった処で、素で
「ふっ、それは一人身の僻みかね?」
 「めっしー君に言われたかないわよっ。第一、あんただって空回りじゃないの(ニヤリ」
「構わんさ。俺はただ、あの娘に人並みの幸せを知ってもらいたいだけ。
そもそも、『愛』とは無償で尽くすものなのだよ。そんな事も分からないとは・・・ふっ」
 「・・・、うがー――っ!!!」
反撃に完全敗北で逆切れし、フレイア暴走。
・・・・・・暫し休題・・・・・・
 「それはそうと最近、此処の居心地がいいのよね。 ・・・あんたの存在は兎も角」
「つくづく失敬な奴だな、君は・・・」
 「掃除に整理整頓が行届いていますね。それに、空気が綺麗ですし・・・」
毎度、フレイアとシグの仲裁に借り出されたアリーは、某姑みたくツツ〜〜ぅと
壁をなぞる其の指先が汚れていない事に頷き、空気の香を嗅いで頷く。
「天才と謳われて天狗になっている何処ぞの 御 バ カ と違ってアリーは流石だな。
部屋の隅々から換気ダクトまで清掃消毒済だ。場所が場所だけに一般の清掃員を入れる
わけにはいかないのは重々承知しているが、もう少し気をかけるべきだと思うがな。
俺は、工作員であって清掃員になるためにきたわけではないのだよ。
其処を管理しているアリーには悪いが、あの部長室の主には言うだけ無駄なのかね?
自分の部屋くらい、自分で掃除したまえ。 彼女は君の奴隷ではないのだからな」
 「うぐ・・・」
 「シグさん、それは一寸潔癖すぎでは・・・私は気にしていませんし・・・(汗
でも、私が隊長のドレイだなんて・・・(クネくねクネ」
暇っぽく大部屋で屯ってるフレイアに、シグの苦言がサクサクと突き刺さる。
アリーが仲裁にきているといっても、トバッチリが周囲へ飛火しないよう
其処にいるだけである。 たまに、流弾?を撃墜しつつ・・・
「そもそも君みたいな未熟者が一長の立場にいる事自体、君はおかしいと思わないのか?
つまり君は、周囲を侮らせる為の看板 張子の虎なのだ。そんな事も気づかないとは・・・
そういう風に言われたくないのなら、もっと落ち着いて行動して周囲へ気を配るんだな」
 「て、テメエ、言わせておけば・・・ナカスッ!!!(ゴゴゴゴゴ」
「ほほぅ、本格的にヤる気になったようだな。でも一つ忠告する。
君は既に分析済だ。その程度では如何足掻いても俺に勝つ事など出来ない」
 「・・・、くすっ、怖気付いた?」
「ふっ、よかろう相手してやる。
直属とはいえ、無能な上司ならコチラにも誅する権利はあるからな。
・・・悔涙を拭うタオルの用意は十分か?」
 「ふんっ其の言葉、ソックリそのまま返してやるわっ!!!」
情報部長の聖剣騎士VS特務工作員のマジ対決勃発。それを止められる者は誰もいなかった。
 「王様の許可を頂いてから、外でやって下さいね」
「「おうよっ!!!」」
・・・止める者は誰もいなかったのだっ!!!

闇が占める部屋の中、灯点るチャブ台を境に老人と娘が向かい合って座る。
老人は胡坐をかいて湯気の昇るカップから茶を啜っているが、
娘の方はちゃぶ台に湯気昇るカップを置いたまま正座して微動だにしない。
丸で娘が老人に説教されているような感だが、老人の顔に浮かんでいる表情は
満足気な笑みであり、心境もそれ以下ではないと想像に易い。
「してヒサメよ、景気は如何じゃ?」
 「・・・・・・、月々頂く給料は、規定通り余り変わっていない」
老人ハリーの突然の抽象的な物言いに、ヒサメは暫し悩み考え答える。
ある意味無垢なヒサメに人の心を読むような腹芸が出来るわけがない。
「そういう意味で聞いたのではないのじゃがな・・・」
 「・・・申し訳ない」
それを改めて理解した老人は如何にしたものかと一時思案、言葉を選び直し
「いやいや、ワシの聞き方が悪かったな。ヒサメは最近、シグの奴と昼飯を食っておるの?
・・・いやはやいやはや、アレが随分と色気付いたもんじゃ(ニヤニヤ」
 「っ!!?」
「そう怖がるな。ワシ喜んで祝福しているんじゃよ? ヒサメに人生の春が来たとな」
 「???」
「・・・、いや、まぁ深く考えるな。それで、シグの奴とは旨く付き合っておるのか?」
 「??? ・・・最近は、シグの家で夕食も頂いている」
「な、なんとぉ!!? お爺ちゃん、ビックリにドキドキ!!!
関係は順調に育っているようじゃのぉ〜〜〜(ワクワク」
 「それだけだが・・・関係とは何だ?」
場を支配する沈黙。白ける空気。少なくともハリーだけはソレを感じた。
「えっと・・・ヒサメはシグの奴と付き合っておるのではないのか?」
 「・・・申し訳ない、付き合ってるとは何だ?」
さむいっ!! 極冬よりも寒いっ!!!  今はただ、熱い茶の温もりがありがたい。
「つまり・・・つまり、男女の仲、二人は恋人と、そういう意味じゃ。
ヒサメは、シグの事を信用・信頼しておるのじゃろう?」
 「はい。でも、その定義だったら、御館様ともそうなる」
「ワシ達の場合は寧ろ、親子・・・祖父と孫娘じゃな。
甘々じゃし、ワシ達の間で子を作る行為を行うわけにはいかんしの」
 「・・・私は構わないが?」
「ワシ的にソレはダメじゃっ」
マッタクと残り少ない茶を啜るハリーに、ヒサメは温くなった茶を一気に呷る。
二人同時にタンっと置くカップにチャブ台の灯がフッと消え、
二人は忍らしく闇へ姿を消すのだった。 今回はこれで御開きと・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「をっと、後始末後始末〜〜」
闇の中を誰かがゴソゴソと蠢いているが、些細な事。気にするなっ!!!


基本的に、希望都市から来た者達は潤沢に資産を持っていた。
それは希望都市では兵舎・官舎等泊まり、元々の武具も支給されたものをもらい
殆ど給料を使わずにすんだという背景があるからだが、それはさて置き
治安維持小隊『リバティ』の五人と同僚の一人は兎も角、シグは一軒屋に住んでいる。
城から歩いて割りと直にある其処は、周囲を屋敷に囲まれて倉庫のように小陣盛りと
していながら台所,風呂の1LDKに二階まであるものを二束三文で得たという。
一階は全面石畳で掃除しやすく二階は木張りで寝所と快適この上ない。しかも諸々改装済。
何であれ秘密基地な然の住居は、周囲と比べず住居性のみを問えば非常に良い物件である。
その台所では鼻歌混じりに包丁を奮う当の主の姿があった。
本来若妻がつけそうなフリフリのエプロンは、引締まった体躯の男が着けると
キモイ事この上ない。 裸エプロン?ではない事だけが今唯一の救いである。
不意に、プロ顔負けに下ごしらえを行っていたその手が止り振り返る。
振り返ると、テーブルには行儀良く座す一人の娘 ヒサメの姿があった。
「よく来たな」
 「・・・邪魔する」
「・・・ふむ、いい返事だ。でも、こういった場合は身内同士でも
気配を殺さず先に断りを入れるのが礼儀というものだ。例え無駄であってもな」
 「・・・・・・」
先に釘をさされたヒサメは承諾したのか首を傾げるだけ。
元々対等な立場なので、シグもヒサメに何処かの上司へ見たくキツく言う事はない。
その眼差しも、雲泥の差で暖かく妹を見守るかのように慈愛が見て取れる。
「出来上がるまで未だ時間がある。よければ其処の雑誌でも読んで暇を潰すといい」
シグが指し示した先には、何故か女性モノ衣装のカタログ。
因みに、ヒサメの格好は毎度変わらず隠密レオタードの上にロングコート姿である。
 「・・・・・・」
返事が無くともヒサメが承諾したものだと勝手に解釈し、シグは台所に戻って
料理を続けるのだった。その背中を不思議そうに見比べる彼女に見られながら。
暫しの間の後、テーブルの上に並ぶのは見事な料理。
「今日はイイ魚が手に入ったのでな、シンプルにオーブンで香草焼にしてみた」
 「・・・・・・」
ヒサメからの返事はなくとも見ている事で良しとして、シグは大皿から魚を切分け
その身に野菜,茸タップリの塩タレをかけて出す。
御洒落に上品でありながら、明らかに複数で食べる事が想定されていた。
つまりは家庭料理。別にかの都市の伝統というわけではないのだが・・・
「いただきます」
 「・・・いただきます」
行儀良く手を合わせた二人は、静かに食事を始めた・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その理念だけに、シグが作る料理は結構な量になる。
ヒサメはその性分だけに小食だが、シグは細い体躯ながら性質だけに大食漢。
そのため、夕食はものの見事に食い尽くされていた。
「ごちそうさま」
 「・・・ごちそうさま」
「フゥ、喰った喰った・・・やはり、一暴れすると良く食べてしまうな」
 「???」
「なに、毎度御高くとまった御嬢に、己の立場に胡坐をかかぬようからかっただけだ。
今回はそれに輪をかけてガチンコで殴合った訳だ。引分けにしてやったが(クックックッ」
 「・・・上司に叛うことが許されるとでも?」
「普通は許されない。しかし、未熟な上司では部下が迷惑被るのでな。
向うも、分かっていってるのだから一々目くじら立てず大人になれという事だ。
責任者は部下の責任を取る為にいるのだからな。己が問題を起ぜば話になるまい?」
 「・・・・・・」
ヒサメが如何応えればいいか分からない事を分かって疑問形なので、シグは少し意地悪気。
シグに優しく見守られながらヒサメは何か言おうとするが、結局口を閉じてしまった。
反撃しきれない事を自覚し、端から戦闘をする気がないらしい。
「フッ、少し意地悪が過ぎたか。
さて、腹も和んできたことだし俺は洗物を済ませるとしよう。
ヒサメはゆっくりしていてくれればいい。ただ、帰る時は一声かけてくれ」
 「・・・言われなくとも」
「君は分かっていないからな。釘をさして置かなければ黙って帰るだろう?」
 「・・・・・・」
「裏も表も関係ない。身近な身内だからこそ、そういう事は大事にせねば・・・」
 「・・・・・・」
寧ろ独言に近くシグはエプロンを武装し、踵を返して台所へ向う。
無防備な背の向うから直にヒサメにも聞こえてくるのは水の流れる音と
カチャカチャと食器が当る音。それも、人数少なく食器も少ないので直に終った。
シグが振り返れば其処に、行儀良く座ったままのヒサメ
「・・・ふむ」
 「・・・なんだ?」
「いや、こうして君がいるのが珍しいと思ってな。
俺は明日非番だから晩酌するつもりだが・・・呑むか?」
ヒサメの沈黙を肯定と受け取ったシグは、ソファーの前にテーブルを移し晩酌の用意。
当然のようにソファーに座ったヒサメの隣で、シグもまた腰をおろす。
 「・・・洗い物を済ませたばかりで洗い物を増やすつもりか?」
「・・・・・・・、いやはやコレは一本取られたな」
 「??? ・・・何がそんなにおかしい?」
「君が中々いうものだから・・・な」
 「・・・・・・」
元々二人とも喋る性質ではないので、ヒサメが間接キスでもシグのグラスに平然と口付け
男の顔を顰めさせても部屋の中を支配するのは穏かな静寂。
仕方なく一つのグラスに果実酒が注がれては代り番子で競うように煽り・・・
程無くほろ酔いな二人。それでもヒサメは頬を朱でも無表情で、シグはニヒルに苦笑。
「・・・しかし、人に無関心な君が今日に限って此処まで付合うとは如何した了見だ?」
 「付き合っていればこうするものだと言われた」
・・・・・・・・・・(゚д゚)ハァ?
「・・・その台詞、色々ツッコミ処が万際なのだが、何故そんな事に?」
 「シグが私へ昼食に弁当を作って来て、家へ招いて夕食を作るからだ」
「そ、それは単にヒサメの食生活を見兼ねた俺の御節介であって、それ以上ではないぞ」
 「世間一般ではソレで付き合っている事になるのでは?
付き合っているのなら、男は女を抱いて身体を貪るものだとも聞いた。
それは嬉しいものだと」
「わ、若い娘がケダモノ当然な男にそんな事をいうものではないぞ」
 「そうなのか? ・・・しかし、説得力がない」
鬼の霍乱か珍しく明らかにうろたえているシグに、
実に興味深い反応だとヒサメは無表情でも酔った顔で暑いと言わんばかりにポイッと
コートを脱ぎ捨てて、その上に鞘入り得物がついた腰のベルトまでも。
仄かな明かりの元に曝されるのは、ある意味極低防御力で薄布なレオタード・タイツ姿。
豊満と言い難く寧ろ妙齢な女性にしては品素でも、手で掴むには十分な乳房や
屈強な男が抱締めれば折れてしまいそうな細腰に彫り深臍の肉薄い腹は裸当然に曝される。
否、寧ろボディラインを際立たせる腰のハイレグ・乳支のラインがある分エロティック。
ヒサメはそんな格好で何を思ってか、
ラフなシャツズボン姿の細くとも逞しい体躯の男の腕に抱きついてみたり。
「っ!!!??」
 「・・・ふむ、シグでもやはり嬉しいのだな」
チチ、フトモモ。チチ、フトモモ。 男の手に押付けられるのは、彼女の股間。
布越しであっても薄布だけあってダイレクトに感じられるのは湿気ある女体の柔な媚肉。
「嬉しいといえば確かに嬉しいが、だから若い娘がそういう事を言うには問題が」
 「・・・、問題ない。この身体をシグに弄ばれようと私は気にしない」
「いやっ、俺が気にするっ!! 俺の理性が気にするっ!!!」
ヒサメが抱きつく腕をピクリとも動かさず台詞も彼女の行動を嗜める一方で、
普段の嫌味にニヒルな雰囲気は何処へやら、双眸に凶光滾らせ剥出す牙は涎の線引き
今にも襲い掛からんばかりに吼える。
 「・・・・・・・・」
「兎も角・・・だ、俺の手を解放するんだ」
 「・・・何故? いやではないのだろう?」
「いやではないが、危険なのだ、俺がっ!!! 俺の理性がっ!!!」
己を落ち着けようとして、再び猛々しく吼えてしまうシグ。
威嚇する意もあるのか、くっ付きそうなほど接近する顔と顔。
信頼しているのか無垢な彼女の瞳。酒気帯た彼女の吐息。

そして、

男の中で

何かが

解キ放タレタ

 「っ!!?」
瞬間、トンと軽く肩を突き飛ばされただけにも関らずソファを飛び越し
石畳で尻餅を突いていたヒサメは我に返っても前にいるモノに微動だに出来ない。
丸で大型肉食獣に捕らえられた草食動物のように。その彼女を見下ろすのは
目が爛々と輝く黒い人型の影。それがメキャメキョと骨を肉を砕くような音と
ビリビリと己の衣服を内から切り裂きながら肥大化し、一回りサイズアップ。
熊と小娘のような圧倒的な体格差。
ソレはより強くなった獣気と共に顔の鼻先を、乙女座で上半が後ろへ逃げるヒサメに近づけ
フハフハと吹き飛ばしそうな吐息で彼女の匂いを嗅ぐ。
 「・・・・・・」
ブルッと振るえ、それ以上動けないヒサメ
その顔から順に、首筋、胸、御腹、股間へとジックリと降りていきながら・・・
不意に匂いを嗅ぐ事を止め頭を離したシグだったモノにヒサメが安堵したのも束の間
 「っ!!?」
剛腕一閃、刃爪がヒサメの前の空を斬る。
間を置いて、ヒサメのレオタードが下腹から胸間まで線が走り裂けて
際どく乙女肌が零れた。その白い乙女肌にも胴ど真ん中に下腹から胸間まで
臍辺り以外に赤の細線が鉄臭と共に薄っすらと浮く。
つまり一つ間違えば、ヒサメは腹まで縦に裂かれていた。
にも関らず、ヒサメは無表情・・・身体が微かに震えているのは肌に当る風のためか?
それに満足気に笑む影獣は、ヒサメのレオタードの裂目の下腹に刃爪を引掛けピンと引く。
更に広がった隙間は隠すべき所まで達していた。
本来妙齢の女性ならあるはずの蔭り。しかしヒサメは生粋のアサシンだけに
其処に蔭りは無く赤子のようにツルツルの割目があるのみ。
ヒサメが一切無抵抗、拒否の声を上げず無表情で凝視している事をいいことに
影獣はヒサメを押し倒しマングリ返す。縦割れの陰部に肛門まで高々に曝け出された。
そのヒサメに見せ付けるかのように影獣の股間から生えてそそり立つのは
犬に先が尖り円錐状の槍な雄性器。長さは体のサイズだけにヒサメの股間から臍まで。
肉色にテラつく感はコレでコロすと刃物を突きつけているようである
が、雄性器は凶器足りえないと考えるヒサメにはソレは嚇しとならない。
最早、影獣はヒサメの反応など関係なく、一度腰を引くと雄性器の先端を
ヒサメの陰部割目に狙いを定め前戯なしで一気に突き落とすっ。
 「っ!!!」
穿たれビクッと震えるヒサメのか細い肢体。
それでも裂けずに済んだのはその雄性器の形状の御陰ではあるが、
影獣は雄性器をヒサメの中に全て収めようと彼女が苦しい体勢のままで更に
穿つっ! 穿つっ!! 穿つっ!!!
 「っ!!! っ!!! っ!!!」
無表情で歯を食い縛り悲鳴すら上げないヒサメではあるが、流石に苦痛で肌に滲む脂汗。
彼女がマングリ返しの体勢では雄性器が半分しか、全て挿入できない事に気づいたのか
影獣はアッサリと挿入したまま体勢を変えて女脚を腰の左右に
ヒサメの腰骨 ラブハンドルを抱え持って女腰高くヒサメを仰け反らせたまま
ズンっ! ズンっ!! ズンっ!!!
 「っ!!! っ!!! っ!!!」
獣な無慈悲に腰を突き出す。
震えるだけの無気力なヒサメは陵辱にも関らずカクカクと、無表情も相俟って
丸で自慰人形のよう。
そんなアサシン娘の股間へ、影獣は突きではなくローリングの腰の動きでもって
膣奥のみならず柔肉そのものを捏繰り廻し擂粉木廻して彼女の胎奥を探る。
その苦痛快感を齎す動きが止まること一瞬、ヒサメがいぶかしむ前に
ズンッ!!?
 「っ!!?」
その突き上げる一撃でヒサメの股間に接する影獣の腰。
ローリングな動きで処女地な子宮を護る丸唇な子宮口を捉えていた雄性器は
当然にアッサリと圧し分入り、子宮の奥天まで刺さっていた。更に
びゅるるっ!!? 
と即、胎奥叩く衝撃と共に胎内で広がっていく生ヌルい感触は早さの如何に関らず
雄の絶頂によるものであり、僅かにテントを張るヒサメの臍辺が発する
痙攣と異なる妙な振動が、その事実を如実に物語っていた。
 「・・・(・・・射精しながら更に膨張している?)」
狗の射精は、雌を確実に孕ませる為、
先ず潤滑油代わりの最初の射精と共に雄性器が膨らんで雌を逃さなくなる。
この影獣の場合は、鋭円錐状だった雄性器の亀頭が瘤と隆起して子宮口より膨んだのが
ヒサメの胎内を透してみる事が出来たなら分かっただろう。
娘は胎内で影獣で繋がれて事が終るまで逃れなれないという「女の絶対絶命」の状態に。
しかし当のヒサメは、単に身体へ性欲を叩き付けられているだけで命の危機を感じず
以上に圧倒的な暴力を前にして何の作が無く抵抗は無意味とばかりに
自慰人形みたく全身脱力で、無表情に静胆な顔の各部が引き攣り痙攣するだけ。
それでも、
グリュ っと
正上位から獣姦な後背位へと挿入されたまま回転に、子宮口に引っ掛かった亀頭で
胎内を攀じられる苦痛な感触で流石に眉間に皺が寄るものの、悲鳴は零れない。
何をされるにも関らず、娘はただソレが生きている証の様に、ただ深く深く呼吸するだけ。
顔を地に押し付けられたまま子宮直に精尿の如き射精され、
腰のラブハンドルを掴まれて上半身を振り回されながら内臓に滲みるほど射精され、
手首を掴まれて上半身を退け反らされて威容に膨らんだ腹を震わせながら射精され、
抱擁に背が影獣の腹に密着し、乳房を生地のように潰し揉しだかれながら射精され、
驚異的な再生力による出鱈目な量の精液を致命的に胎へ受けて
ヒサメは人形のようにされるがままに御腹を水風船のように膨らませていく・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

石床の上に出来た白い水溜りに浸るのは、
仰向けで四肢にボロ布を纏わせて露出した肌には痛々しいほどに痣がある以上に、
腹は臨月胎のようにパンパン
投げ捨てられた人形のように開いた股の腫れた陰部のソコから汚物を垂流すように
ボコッボコッと泡立たせて粘度高い白濁液を噴出させ、
悲壮なほどに陵辱跡に無表情でも瞳が虚ろに四肢をビクンビクンと痙攣させるヒサメ。
其処には機械的に寡黙なアサシンの姿はなく、ただ使い潰された自慰人形。
それを見下ろすのは、細く逞しい体躯を全裸で曝す青年シグ。
しかし、表情は普段の皮肉屋でニヒルな笑みとは異なり、哀れなほどにうろたえ顔面蒼白。
すぐさまヒサメを介抱したいが、此処までしてしまった自分が触れることは許されない。
性欲もてあまし本能がままに犯してしまった不可抗力とはいえ。
「ふっ・・・ふはははは・・・・・・」
|||orz|||の勢いで膝立ちに崩れ落ちたシグは、自責の念を通り越して虚ろに笑う。
 「・・・・・・、何が、おかしい?」
潤いがなくなった娘の唇から辛うじて紡がれた言葉
それにビクっと反応し見た先には、体勢は変わらず寝たまま視線のみ動かし見るヒサメ。
一息ついて意識ははっきりしたものの、未だ身動きできるまでには至っていないのだろう。
丸で見下ろして攻めているような感ではあるが、ヒサメ自身にその意志はない。
「ふっ・・・これが笑わずにいられるか。
最早己を律する事が出来ると喜び勇んできた来た先で、一寸した誘惑で己を見失い暴走。
その挙句にした事といえば、護ろうと己で定めたモノを己自身の手で穢しただけだとは。
まだ発情雄犬の方が使えるというもの・・・この低落、軽蔑、恨んでくれてもかわまんよ」
 「軽蔑? 恨む? ・・・、何故だ?」
「何故って・・・ヒサメ、それは幾ら何でも自分の身体に対して無頓着というものだぞ。
尊厳を無視して躯を弄んだ者に対しては、普通嫌悪を抱くものだ。余程同意でない限り」
 「・・・ならば、問題ない。これには私は同意した」
「・・・・・・」
 「・・・・・・」
「それでも、許せんものがあるのだよ。俺には。
今、湯を沸かす。風呂に入って身を清めるといい」
普段と変わらないヒサメの態度に拍子抜けしたか、
シグは普段のオーバーアクションでヤレヤレと踵を返す。
温水器に火を入れて十分に焚火をくべておけば一人でも直に、悠々と湯を使えるのだ。
もっともヒサメが入っている間、シグは火の番をするつもりなのだが。
 「・・・・・・、腰から下が動かない。・・・動けない」
「・・・・・・」
ヒサメは胸元から股間の大事な所まで肌剥出しだが、四肢や背はボロボロとはいえ一応
薄布で覆われている。胸が控えめなのに異様にパンパンな御腹がエロチック。
とりあえず、最早用を成さない布を剥ぎ取り捨て、ヒサメを姫抱きに持ち上げる。
彼女は毎度仏調面ながら拗ねているように見えるのは気のせいか?
それでも、文句一つ言わないのは当人ももてあましているのだろう。

さして広くのない風呂場、シグは先ず浴槽の縁にヒサメを床に座らせ
蛇口を調節して僅かに熱い適温の湯を湯船に張りながら、その湯をヒサメの肌にかける。
湯が滲みるのかビクッと反応する事一瞬、ヒサメは後はされるがまま
シグの一手足を見守るだけ。
「先ずは胎の中に溜まった精液を押し出すぞ」
ザァザァと湯船に湯が流れ込む音が響く中、ヒサメは促されるままに温まった床で
仰向けに寝かされる。その股間に座ったシグは、マッサージするように脇から中央へ
ヒサメの腹を揉みしだき、それと共に膣口からブビッブビッと噴出す白濁液。
それが排水溝へと太い流れとなっていく。
 「・・・ぅ・・・ぐぅ・・・」
「・・・股間の力を抜いて腹に力を入れろ」
 「・・・分かった。・・・ぐっ・・・ぅ・・・」
ヒサメの肌の地がほんのり桃色に染まっているのは、
湯やマッサージで血行がよくなったせいだけではないのだろうか・・・
丹念にマッサージすること数回、パンパンに膨れたヒサメの腹は元の平坦さを取戻した。
つまり、子宮に詰め込まれた精液は殆ど押し流せた事になるが、それで終ったわけでない。
「中を洗う。出来るだけ丁寧に扱うが、辛かったら遠慮なく言え」
 「・・・・・・・」
沈黙を了解と受け取り、ヒサメに湯船の縁に両腕をかけさせ固定すると
シグはヒサメの脚を肩にかけて腰高く、陰部を目の前に。
モノのサイズが長さはともかく程々太さであったため、ヒサメの膣口は小穴をみせるのみ。
そこへツプリと押し込む人差し指。
 「・・、・・、・・、・・」
柔壁を丹念にゆっくりと撫回し慣らしていく指先の動きに、
完全に脱力したヒサメは喘声漏らさずとも短く呼吸しピクッピクッと奮え、
この快感をタンノウしているかのよう。
そしていつの間にか、その中を撫で回す指は二本に。
中から広げられた陰部へヒサメの中へザザァと手桶でかける湯が流れ込み、
更に筋肉がビクッビクッと反応する。
「ふむぅ、流石に奥の奥まで洗うのは難しいか・・・
ヒサメ、今から中へ湯を吹き込むからな」
 「・・・・・・」
否とも是とも言えないヒサメは無表情ながら気だるけな視線。その先には
早々にヒサメの脚を肩にかけて太股に挟まれたシグが口一杯に湯を煽り
次の瞬間には彼女の無毛で幼女のように綺麗な陰部に接吻。そして
ブゥゥゥゥゥっ!!!
 「っ!!?」
ビクッと強張るヒサメの細い肢体。
水流は膣を噴き昇り、子宮口に当っても難なく小唇から更に奥へ、
明らかな生ぬるい感触をヒサメに与えて子宮へ溜まり始める。
それが逆流する前に、シグは次を煽り第二射発射。
ブゥゥゥゥゥっ!!!
 「っ!!?っ!!?」
外からみても明らかに分かるほどポコッと膨れるヒサメの小腹。それは、
子宮に注ぎ込まれた精液はほぼ不活性化されて女の危機が去ったということ。
しかし、当のヒサメは如何いう状態に陥り、如何いう処置をされたのか興味はなく
シグに支えられたままグッタリと無表情に虚ろな目で見るだけ。
これで息をせずに体温のなければ、正しく人形そのもの。自慰肉人形。
グッタリと動かない 動けないヒサメを、シグは甲斐甲斐しく世話する。
泡立てたタオルで優しく柔肌を擦り もとい撫でていく。
腕を、背を、腹を、胸を、揉み潰さないように乳首勃起した乳房を・・・
ヒサメは人形っぽいが、人形ではない。他者へ興味が持てる立派な人間である。
だから、時折肌を叩くシグの四肢以外の存在や、その苦虫を噛み潰した顔にも気付いた。
「・・・、つらいのか?」
 「・・・・・・ああ、つらいな。今は湯男の真似事をしているとはいえ
本来俺は、性欲をもてあます女スキーでシリチチフトモモが好物なのだ。
人には御固く見られているが・・・否、御固くしているというべきだな。
俺が欲望のままに振舞えば、単なる害獣にしかならん。
まぁ、さっきの今だからこそ全然耐えられるのだが・・・」
 「つらいのなら、また私の身体で解消すればいい」
「はっ、そんな事をいうのはどの口か?
君の精神力,忍耐は確かに認めよう。鋼の精神と言うに相応しい大したものだ。
しかし、感度はソコいらの小娘よりも遥かに高い。だからこそ腰が抜けたのだ。
見てみろ、ちょっと触っただけで此処はトロトロだ。
ここで俺がまた君を欲望のはけ口にすれば、今度こそ潰れてしまうぞ」
 「しかし、シグの表情に、ソレは気障りだ」
とヒサメが視線を向けた先には、テントをはるタオル・・・
どころか、旗のように布を巻きつかせるほどに勃った狂器。
これが目の前で忙しなく暴れていれば、ヒサメならずとも気に成るというもの。
視界に入っていなくとも、その気配は獲物に嬉々とする肉食獣のようで落ち着かない。
理性の光を眼に灯しフムと一案のヒサメは、倒れる様にシグの腰へ抱き着き
男の腰のタオルをポイッと、そしてパックンチョ
「ふっ、ふおおおおっ!!? ひ、ヒサメ、君は行き成り何をぉぅっ!!?」
 「・・・ふぐ・・・おぉお・・・おふっ・・・」シグが口口と言っていたので口で
「何をいっているかわから〜〜〜んっ!!!」
ヒサメが咽喉奥まで鼻頭を雄茂に突っ込み強烈に吸いながら見上げているので
シグ、自身の頭を抱えた間抜けな格好のまま膝をカクカクと笑わせ半狂乱。
「お、おおぅっ・・・でも、これは・・・これでタマラ〜〜ン!!!」
 「ふぐぉっ・・・ふぐっ・・・んぐっ」
膣や肛門の陰部ではありえない吸引力,先端に当る咽喉骨の硬い感触。
キャラが壊れつつあるが、それでもシグはヒサメにされるがまま己から触れることはない。
娘の顔を股間にくっ付け悶絶する男、実にシュールな光景である。
しかし、男にとって口淫は嗜虐欲と共に被虐欲をも満たす。
不意に悶絶が凍る男、瞬後
「おふっ!!?」
ドキュッ!!?
 「ん゛!!? ・・・んぐ・・・んぐ・・・」
ビクンと撥ねた体躯に、咽喉奥へ叩き付けられた灼熱を
ヒサメは何の抵抗もなく嚥下していく。
・・・ただでさえ咽喉奥まで飲まされた其処では、吐きようがないともいう。
永遠が刹那か、硬直が解けたシグはフラっと後ろへ。
それと共にヒサメの艶唇からズルリ抜かれた唾液で光るモノの先端からは
彼女の舌との間で白濁の糸を引くのだった。
 「胃に溜まる・・・重い」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
波々と湯を湛える湯船、其処を狭しと伸ばす白く細い肢体の主は、
唇も半開きに気だるけで焦点の合わない瞳で虚空を見る。
「向こうでは商売女で解消していたのだがね、此処ではそんな食指誘われるのがいない。
向こうが上質低価格だったのか・・・高級娼婦も気位ばかり高く、話にならん」
 「・・・・・・」
「幾ら発情狗とはいえ、自慰などやってられるか。
ふふふ、ムッツリスケベと貶してくれてかまわんよ」
 「・・・・・・」
洗い場で己の体をゴシゴシと擦りながら自責に笑っている男の独言を聞いているのか
聞いていないのか、ヒサメはタ揺って何処か夢見心地な感。
まぁ、散々な先での穏かな今である。口を聞くのですら億劫なだけか。
「・・・何故、そんな事を話すのか聞きたそうな顔だな」
 「っ!!?」
「図星か。今まで君を見てきたわけだからな、考えている事など多少なり検討はつく」
 「・・・・・・・」
「そう睨むな。だからこそ、態々己の恥を話したのだから・・・
ヒサメ、君は最早、色々な意味で俺にとって特別な存在なのだ」
 「・・・・・・」
「気にする必要はない。これは俺の一方的なものだ。
無論、君にとって俺がそうなれば嬉しいくあるのだがね。
・・・もう少し、湯惚せない程度に浸かっているといい。
先に部屋を片付けて、直にバスタオルをもってくる」
 「・・・・・・」
ヒサメが浸かっている湯船から手桶で湯を取り石鹸を洗い流したシグは、
細くも逞しい体躯を隠す事無く、水滴をつけたままサッサと浴室から出て行ってしまった。
ヒサメの頭がずれ下がり口が水面下へ。口から吹く息でブクブクと泡立てる事暫し
戻って来たシグは既にシャツ短パン姿で首にタオルをかけていた。
 「・・・・・・」
「掃除は既に終った。そうし易いよう石床にしてあるのだからな。
それはそうと口を利くのですら億劫な気持ちはわからなくもないが、
視線だけで話すのはやめたまえ。幾らなんでも元アサシンにあるまじきズボラすぎるぞ。
それで、風呂から上がるかね?」
 「・・・上がる」
「ふむ、なら腕を」
シグに促されるまま両腕を差し出したヒサメは、二の腕を掴まれ引かれ支えに立つも
未だ力入らぬ脚に、直に湯船の縁に腰掛ける。それをシグは、浴槽の中から脚を出させ
新しいバスタオルをヒサメの頭に被せ、別のタオルで肢体をサッサと拭き始めた。
肩から腕、背、脇・・・
 「・・・・・・フゥ」
「溜息などついていないで、前ぐらい自分で拭きたまえ。間に髪をしてやる」
 「・・・わかった」
フキフキくしくしフキフキくしくし
「全く、折角の美しい黒髪なのに、先はキューティクルが失われてボロボロではないか。
コレも寛容できるものではないぞ? 髪の手入れというものはだな・・・(グチ愚痴グチ」
いつにも増してシグが絶口頂なのは、テレが入っているからか?
やや背が見える程度に俯き気味な彼女の頭を拭くので、どのように胴の前を拭いているか
シグからは全く見えない。其処は気にしてはイケナイ。うら若き乙女は自分の股間を・・・
「さて、そろそろいいか?」
 「・・・問題ない」
頭を拭いていたバスタオルで髪を纏め固めて胴には身体を拭いていたタオルを巻きつけると
そのヒサメを姫抱きに居間のソファーへ。ぽすんと座らせ果実酒も差出、致せり尽くせり。
「足腰おぼつかないその状態では帰るのも億劫だろう。元々俺のせいであるわけだしな。
今夜は泊まっていくといい。後で上の寝床へ連れて行こう。問題は着替えだが・・・」
 「・・・アレはもう使えない。ゴミだ」
「すまん。今は俺のシャツを寝巻き代わりしてくれ。下着は・・・あきらめてくれ」
 「・・・問題ない」
「・・・大いに問題なのだがな」
 「・・・問題ない」
申し訳なさげに二階へ上がったシグは、其処からヒサメへシャツをポイっと放投げ
ゴソゴソと寝床の用意を済ませる。
元々ヒサメの身体は大きい方ではない。それが男物の大きめのシャツを着れば
ものの見事にフトモモ中央まで隠すワンピース状態に。
寝床の用意が終ったのか、シグは持つ物もないので階段を使わず二階から飛び降りてきた。
「寝床の用意は出来た。時間も遅い。 如何する? もう、寝るか?」
 「・・・寝る」
ただでさえ、通常勤務の後の夕食を終らせた後でのゴタゴタの果てに長風呂。
時は既に翌日になって幾分経った辺り。用がなければ起きているのは無駄である。
「そうか。では寝所へ御連れしよう、お嬢様」
 「・・・もう、自分で歩ける」
ヒサメがソファから降りる前に、シグは姫抱きで抱え上げていた。
その清端な顔に浮かんでいる表情は毎度ニヒルな笑みではなくホストな優笑。
シグのニヒルな笑みしか知らない連中にコレをすれば、こんな顔も出来るんだと
一発KO間違いなし!!!
でも、誰も見せてやらない。
兎も角、対象のヒサメは珍しくしかめっ面。大事に扱われるのが気に喰わないらしい。
「今日ぐらいは俺の好意に甘えておけ。減るものではない」
 「・・・・・・」
ヒサメの文句など何処吹く風で、シグは階段をトントントンと昇り二階へ。
そこは簡素で、壁際に衣装箱や本棚があり、
ベットこそないものの一人身の癖に清浄なシーツの布団の処は快適を約束してくれる。
そこへヒョイっと優しくヒサメを下ろすと布団をかけてシグは踵を返した。
「おやすみ」
 「・・・何処へ行く?」
「無論、下のソファで寝るのだ」
 「シグも此処で寝ればいい」
「・・・ヒサメ、君は分かっているのか? 俺はムッツリスケベのケダモノだぞ。
それ以上に、未婚の男女は同衾するべからずといってだな・・・」
毎度ニヒルな笑みを浮かべてオーバーアクションに演説始めるシグ。でも米神に汗。
 「・・・私を犯し、風呂では身体を隅々まで洗い口淫。 今更それに意味があるのか?」
「確かにそうなのだがな・・・かといって同衾するわけにはいかん。
いつまた、俺の獣(ケダモノ)が暴走してヒサメに喰らいつくか分らんのだから」
 「喰らいつく? ・・・、シグが私を食べるのか?」
「言葉のあやだ。つまり、先のように襲うかもしれないということだ。
いや、襲わない自信はないが、襲う自信だけならあるぞ」
人、それを開き直りという。滅びろ、本能。
 「・・・、それなら大丈夫だ。あの程度なら耐えられる」
「いや、君はそれは無防備すぎるぞ。ただでさせ耐性がないというのに・・・」
 「??? 装備を重くすれば敏捷性が損なわれる・・・それは許容できない」
「何の話だ。確かに君は軽装過ぎるが・・・いや、そうではなくって、精神の話だ」
 「私は薬物も含めて一般的なありとあらゆる拷問に耐える事ができる」
「だから、そういった話とは違うというに。心の問題だ。
幾ら信用できるとはいえ、身体を安売りするなということだ」
 「??? ・・・シグは私を犯したくないのか?」
「表現が露骨過ぎるぞ。
確かに君は俺にとって大変魅力的だが、大事にしたいのだ。
矛盾した感情を併せ持つ。それが人を好きになるという事」
 「??? ・・・つまり、私を犯したいと」
「君という娘は・・・(るるる〜〜〜」
 「これ以上の口論は無意味だ。寝るぞ」
ヒサメに可愛らしく欠伸をされながら隣をパンパンと叩かれては、
シグに逆らう事が出来ようか。

灯を一切消した寝所。それでも天窓の星明りで闇の中でも十分な視界が確保できている。
今、シグの目の前にあるのは乙女のウナジ。懐に一回り小さい肢体がスッポリ嵌っている。
鼻腔を擽るのは石鹸と女の子ならではのタマラナイ香り。
シャツから零れた尻・太股のスベスベで柔らかな感触がなんと甘美な事か。
 「・・・またしたくなったのか?」
「っ!!?」
ヒサメならずとも、布越しで尻間に熱い塊を押付けられれば気付くというもの。
 「・・・望むように犯せばいい。そのために私は一緒に寝ている」
「・・・」
 「・・・悩むだけ無駄だ」
「・・・・・・。例えそうであってもそんな言い方をするものではない」
 「・・・私を犯したくないのか?」
「したいが・・・」
 「・・・・・・」
ヒサメにしてみれば、シグがどのような行動をしようが如何でもいいのかもしれない。
否、興味があるからこそ積極的に動かずとも態々嗾ける真似をしているのだろう。
寧ろ、性質からして大事に扱われるよりかはモノ扱いの方が気が楽かもしれない。
「抱き方は、優しくがいいか、乱暴がいいか? それとも超乱暴がいいか?」
 「・・・その質問の回答を私は持たない。・・・・・・」
後は目を閉じ黙するだけ。自慰人形(オニンギョウさん)のように扱うがいいと。
寝ながらする事が出来る体位など限られている。それに拘る必要もないが。
「尻でするぞ」
 「・・・・・・」
沈黙は了承。
横になっているヒサメの片脚のを軟体芸の走よろしく上げさせる。胴へくっ付くほどに。
曝される陰部はクパッと無防備に曝され、雄性器が狙い定めた先は潤い見せる膣口
ではなく、より近い菊縞の肛門。
グイッと圧進める男腰に、彼女の脱力もあって其処は門という名の抵抗らしさもみせず
ズブリッ
 「っ・・・」
本来出る『穴』がモノをアッサリと飲み込んでいく。 ゆっくり、映像逆再生のように。
そしてヒサメ 彼女の尻にくっ着く男の腰。伸ばされたままの片脚に男の脚絡み付く
まるで触手が二度と逃さぬといっているかのように。
一方でバンザイさせられたヒサメは片脚上げ奥まで串さされた状態で、男の両手でもって
乳房やアバラ,首筋を弄られながら軟体芸正しく胴をこれ以上無理なほど攀じられ
腰は横向なのに、胸は横から上向きに。顔を背後の男の方へ向けられてしまった。
「キスをしてもいいか? 激しいヤツをだ・・・」
 「・・・・・・」
ヒサメの返事は、無言。ただ薄っすらと瞼を開けて、また閉じるだけ。
「・・・いいだろう。君が其の気なら、肉欲に浸して溺死させてやる・・・」
 「・・・・・・」
シグの強固な体躯で本気で抱締めれば、ヒサメの柔な骨に間接など容易に外れ、砕ける。
ましてや、今のヒサメの身体は捻りが入っている。
キワドい抱擁にヒサメの肢体がミシミシメリメリと軋啼く中、先ずは純愛な軽い接吻。
しかし、それはすぐさま狂暴な肉欲を示すかのように触舌はヒサメの唇を割って潜込み
歯を歯茎を丹念に舐め回す。ネチョネチョピチャピチャと。強引に開錠するかのように。
自ずと開いてしまうヒサメの歯間に、触舌は歯の裏をも丹念に嘗回し、ヒサメの舌を撫で、
湧き出すヒサメのヨダレを強烈に啜るだけではなくヒサメの舌を吸出ししゃぶり食み、
肉欲に溢れ出る唾液をヒサメの唇間へ流し込み嚥下させる。
丸で御互いを喰らいあうかのように。一つに解け合うように。
闇に鳴り響く粘液質の音と荒いと息。
身体が密着して殆ど動かずとも、ソレだけで、お互いの鼓動・脈動だけで
官能は高みへと昇り
「っ!!!!」
どきゅっ!!!!
 「うっ!!? ・・・ん・・・ん・・・」
「ああヒサメ、君はなんて、妖艶な柔肌(ハダ)で、美味しい媚肉(ニク)で、可愛いいんだ。 
ヒサメ・・・ヒサメぇ・・・ヒサメぇぇ・・・」
ヒサメを肛門を穿つ肉杭が、何度も盛大に出したにも関らず未だに精尿のごとく豪勢に
灼熱の塊を内臓へ叩き付け、蝕む。
媚肉を。
    神経を。
        精神を。
身体の中へ広がる不意の淫毒に反応のヒサメは不自由なまま成す術などあろう筈もなく
肢体を痙攣に振るわせるままに口虐の酸欠もあってついに意識が闇へと堕ちてイく。
ヒサメを攻めるシグも、獲物を抱擁し処刑貫いたまま深き眠りへ浸るのだった。
現実に交わるのみならず、淫夢でも交わり幾度となく精を放って・・・・・・
内臓へ放たれた精は排出されることなく柔壁から吸収されて彼女の血肉へ変わり・・・
アサシンのヒサメを、自慰人形なヒサメに・・・
自慰人形ヒサメを、精液タンクのヒサメに・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・


ヒサメとシグが交わった もといシグがヒサメの身体を弄んだ翌日の昼前
情報部部長室に本来此処にいるはずのない男の姿があった。
 「ちょっとシグ、あんた、なんで此処にいるのよ。今日は非番でしょうがっ!!!」
「何、ちょっとした野暮用だ。国外へ武具発注の申請をしたくってな・・・」
ラフな格好の天敵(シグ)の存在にフレイアはあからさまに顔を顰めてみせるが、
今更に今更なのでシグは蚊に刺されたほどにも堪えない。代りに副長のアリーが対応する。
 「それなら大丈夫ですよ。何か新調されるんですか?」
「ああ、俺ではなくヒサメの、な」
書類に書き込みながら話すシグに情報部部長室の空気が凍る。特にフレイアとアリーが。
 「敏捷性重視の女性用軽装鎧ボディースーツ型一式・・・発注先:希望都市」
 「ちょっ・・・何あんたがあの娘のモノを発注してるのよっ!!
ま、まさか・・・本当に? うわぁ、いや〜〜んな感じっ♪
幾ら孤狼を気取っていてもミツグ君? 所詮は女に尻尾ふる駄狗ねっ♪」
「ふむ、それの何処か悪いのかね?
自分の特別な存在を守りたい、良い物を与えたいと思うのは当然の感情ではないのか?
そんな事もワカランとは・・・いい図体しているクセに脳ミソ空っぽ、未熟だな(プッ」
 「っ・・・うきーっ!!!」
天敵の弱みを握ったかと思いきや、ものの見事に反撃をくらいフレイアぷっつん。
流石にシグへ殴りかかるわけにもいかず、地団駄ジダンダ地団駄。
アリーが慰めているが、当分はこのままだろう。
まぁ、余計な口出しされずに事が進ませ易いが、有能なアリーの手が塞がるのも痛い。
幸い、この部屋にはもう一人有能な事務職員がいる。
 「ははははいぃ、ヒサメさんの服の事ですねっ!!!
こんな事もあろうかと、既に購入しておきましたよぉっ!!!
昨晩は随分とお楽しみだったようで・・・(うっしっしっしっ♪
取合えず、ヒサメさんの趣味にあう下着数セット,服数着ですううう」
と、シグが何か言う前に彼女が机のしたから出すのは如何にもな大紙袋。
メリア、優秀だが変人だけに一寸・・・否、可也アレである。
「・・・、心使いは感謝する。だが、な、ノゾキの真似事は如何かと思うぞ」
 「いやぁ、それほどでもありますよおおお!!!」
「いや、褒めてないからな。
向うの部屋に昼弁当のサンドイッチの差入れを置いておいた、食べるといい。
それと今日ヒサメは休むから、そのように図ってくれ」
 「ああああ、それはっ大丈夫ですからあああ。既に済っませましたよおおお。
シグさん、だめですよおおお!! 幾らヒサメさんの身体が柔らかいからって
無茶な事しちゃあああっ。 女の子の身体はっ繊細なんですからあああ(ぽっ」
「黙れ耳年増処女、馬に蹴られて地獄へ堕ちろ」
自分の事でなければ恥も外聞もない知能バカには流石に分が悪いのか
シグは長居すること無くすぐさま踵を返して帰るのだった。
シャツ一枚で眠る彼女が待つ隠れ家へと・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

ヒサメの帰る場所がシグの家である事が当然となり数日が流れた。
本日は二人とも非番であるにも関らず、シグは朝一で出かけ
簡潔にシャツ短パン(男物)姿のヒサメは得物の手入れに勤しむ。
テーブルの上に広げられるのは、カタールやら針クナイやら短刀やら・・・
二人とも主得物は「短剣」でありながらヒサメのカタールは威力の鋭さを突詰め
シグの短刀は鉈の様に幅広厚の強度重視でナックルガード付き、攻撃力より防易さに
旨がおかれてある。
針クナイは消耗品なので手入れをしなくともいいと言われているのだが
それでもソレらチャッチャと磨き、油で拭いていく。 
と、不意に止るその動作。
まるで当然のように開く扉へ、ヒサメの腕が一閃。走る凶光が刺さるのは
「・・・・・・、ただいま」
 「・・・おかえり」
シグが持つ紙袋の上に丸々姿を覗かせている林檎。
針クナイはそれを貫通して、その後ろの林檎も半ば貫通しかけで停止していた。
その先にあるのは成人男性の心臓。
「一応、分かる様に気配を出したはずだがな・・・」
 「・・・・・・」
真坂、だからこそ怪しいと警戒した結果だと、ヒサメは語らない。
両手塞がった状態でどうやって扉をノックするのだと反論もあるが・・・
無表情でも何処かむくれているように見えテーブルを片付けるヒサメを放置し、
シグは先ず買ってきた食材を片付ける。傷ついた林檎を如何しようかと思案しつつ。
そして残ったのが一つの包み。放り投げられたソレは狙い誤らずヒサメの懐へ。
「プレゼントだ。中身は確認したから警戒する必要はないぞ」
先手を取られ、またもやヒサメがむくれているようにみえる。
それを誤魔化すかのように包みを破って中から出したのは、黒い皮製のモノ。
 「・・・予備がある」
「前に君へも言ったが、君は余りにも防御力がなさ過ぎる。
一寸でも腕の立つ者ならあの薄さはないも当然だからな、コレを発注させたのだ。
これなら手足と胴体の要所のみだから、差して動きの妨げにもならないだろう。
並大抵の刃物は勿論、素手の打撃程度まで分散してくれる。着て損はない代物だ。
格好も今までと差してかわるまい。着てみたまえ」
 「・・・・・・」
シグの顔とその一式を見比べること数秒、行き成り脱ぎ出すヒサメ
「一寸待てっ!!!」
 「???」
シグのコールにシャツをたくし上げ控えめな乳房をポロンと零した状態で停止する彼女。
瞳のみを動かし、何だと尋ねているが・・・
「男がいる前で無防備に着替えるのではないっ!! 少しは女性として慎みを持てっ!!」
 「シグの前、此処なら無防備でも問題ない。 慎み云々は、無駄だ」
「だとしても、礼儀は人の間を潤滑にするものだ。 多少なり心がけたまえ」
 「・・・・・・・」
説教はこりごりと言わんばかりにヒサメはシグの前で豪快にシャツを脱ぎ捨て、
短パンも過ぎ捨て、更にその横紐を解こうと
「下着は脱がなくとも着れるぞ」
 「・・・・・・・」
何だかんだ言いつつしっかりヒサメを見ていたシグは、最後の一線で制止。
今度は着始めるヒサメ。ガサガサゴソゴソすること暫し
そこには華奢な肢体をハイネックノースリーブでハイレグボディスーツと
厚手の長袖指貫手袋,長ブーツで包んだ彼女がいた。
要所をベルトで固定し露出している肩口や腰横がエッチぃ。
しかもハイレグゆえに腰紐が見えているが、それもデザインの一つと考えれば
十二分に甘受できる。
因みにこのレオタードは装着感良、首前中央から片胸上の間と股間に合わせ目があり
脱着が楽なのはもちろん、着たまま用が足せる一品である。
「どんな感じだ?」
 「・・・・・・」
シグの質問に、ヒサメは一瞥し一考後に構える。
それにフムと理解したシグはテーブルを部屋済みによせ、瞬後
 「っ!!!」
撃たれるのは、鬼突きが凶々しい拳。それを弾き横から襲い掛かる蹴撃。
それすらも余裕に腕で受け止たシグは、容赦なく襲い掛かってきたヒサメの鳩尾に
拳を叩き込んだ。
 「っ!!?」
更に叩込まれる連拳でヒサメの身体は「く」の字に曲がり、空に浮く。
何気に肩を支えられているので吹っ飛ぶこともなく、地面に落ちる。
本気で殴られたにも関らず、彼女に苦痛やダメージはなく、全身を押された感触に
当部に問題ない程度の衝撃を感じたくらいであった。
しかしヒサメ自身にしてみれば、決して手を上げられる事がないと考えていた相手に
腕の振りが見えるほど本気の勢いで殴られた事そのものがショックであった。
目を驚愕に見開いたまま乙女座りのヒサメは、そのままでピクリとも動かない。
晴天の霹靂,鬼の撹乱もかくや、これにはシグも慌てた。
「お、おい、大丈夫か? 大丈夫なはずなのだが・・・・」
 「・・・・・・、・・・問題ない」
「しかし、その顔は如何見ても大丈夫ではないぞ」
 「・・・問題ない」
寧ろこれ以上ソレに触れると泣き出しそうな感に、シグはヒサメを放置して茶の用意を。
湯を沸かし・・・位置を戻したテーブルの上、急須に茶葉と湯を入れ蒸らし
・・・二人のカップ其々に茶を注ぎ、ヒサメを椅子に座らせて自分も隣に座る。
沈黙の中、茶を啜る音が響くこと暫し
「そのスーツの具合は如何だ?」
 「・・・動易さと防御力は問題ない。しかし、肩や腰の露出部が気になる」
「その辺りは、防刃のケープや飾布を着けるのも手だろう。
そうすれば御洒落に煌びやかさも出て、使い勝手もいい」
 「私はアサシン。煌びやかさは・・・」
「アサシンタイプの工作員、だ。今の君は、な」
 「しかし」
「しかしもへったくりもない。君の経歴は大凡知っている。
だから君へ、今すぐ陽の下で生きろとは言えん。
だが、昼の木漏れ陽や夜の月光を浴びてもバチは当るまい。
君は人並みの幸せを得るべきだ。君だけではなく君の周囲の者が救われるためにも」
 「・・・・・・」
シグが言う「周囲の者」がシグ自身でないことは分かるが、
それが誰か分からず聞く事も出来ないヒサメだった・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そうそう、これも渡しておく」
何処から出したかゴトッと重々しい音を立てて卓上に置かれる薬瓶。
 「・・・、錠剤?」
「精子殺しの避妊剤だ。性病予防の効果もある。服用ではなくアソコに仕込んで使う。
希望都市で商売女達が当たり前に常用しているので、効果の程は折紙付だ。
効果は一ヶ月あるから月のものに合わせる。詳細は中に入っている注意書を読め」
 「・・・何故これを渡す?」
「何故って・・・若い男女が身体を交えるのに避妊するのは当然の常識。
ましてや俺達はキケンな商売を生業としている以上、余計な危険を負う必要もあるまい」
 「・・・・・・(じっ」
「態々『洗う』のも手間だろう?
君に結婚の意志云々があるか定まってない内に出来てしまうのも問題だ。
同棲同衾している時点で手遅れな気がしなくもないが・・・」
 「・・・・・・(じっ」
「な、何だ?」
 「私は、『洗われる』のは気にしない。手間でもない。・・・出来れば、堕せばいい」
「全く君は・・・(ふぅ。 無駄に傷ついて如何するのかねっ!!?
そんな風に傷つく君の姿を俺は見たくない」
 「・・・・・・(じっ」
「・・・、そういう建前にしておいてくれ。
一昔前では俺、人狼は『悪魔付き』として疎まれていた。当然、吾が子もそうなる。
君がソレを背負わなければならない必要はない・・・・・・
・・・尤も今となれば、そうなったとしても希望都市に行けば気にせずにすむ。
既成事実が出来たなら、俺としてはそれはそれで大いに結構なのだがね(くねくね」
普段とは打って変り照れて悶えまくるキモいシグの姿に、
ヒサメはその意図を図りかねて瓶とシグを見比べつつ珍しく眉間に皺を寄せるのだった。

コンコンコン・・・
その夜、通りから入り組み殆ど人が訪れる事がないシグの家の玄関扉が突如なる。
それにビクッと反応する町娘風で簡素なワンピースのヒサメを手で静止したシグは
夕食の準備を中断し、躊躇なく扉を開ける。其処にいたのは
「御呼ばれに来たぞ」
「いらっしゃい。準備は殆ど整い、頃合だ」
老紳士よろしくカジュアルな格好のハリー。
その姿にヒサメに僅かな怯えが走り、身体が強張りスカートを握り締める。
今の姿がアサシンから堕落したと思ったのかは、当人のみしかしるよしもない。
その彼女を意してか意せずしてか、男二人は至って代わらず
「ハリー殿は先に席に着いていてくれ」
「ふむ、ワシとしては腹ごしらえに御宅訪問をしたいのじゃがな?」
「見て面白いものは何も無いと思うが・・・」
「むふふ、照れるな照れるな。若い男女の住まいは、実に赴き深い」
「悪趣味な(苦笑。 そんなに見たければ、どうぞ。
ヒサメ、固まっていないで配膳を手伝ってくれ」
「ほほ。じゃ、シツレイするぞい」
軽く肩を叩き軽く行動を諭してヒサメの硬直を解いたハリーは、
後を振り返る事無くトントントンと階段を昇り二階へ。
元々一つの大部屋だった其処は、つい立で二等分されて二部屋になっていた。
手前は壁に男物の服等が掛けられ奥にはやや乱れた寝床と明らかに家主のシグのもの。
奥はヒサメのものか、余り生活観なく整理されて服が掛けられた壁に
見本のように綺麗な寝床。それは彼女らしいというより殆ど使っていない感。
「ふむ、若い二人じゃしの」
この老人にしてみれば、孫みたいな娘が幸せならば何ら問題ない。
傍目で見て人並みの幸せを満喫しているのは確かである。
当人も、居心地が悪いのなら此処を本拠地にする事もなかっただろう。
ハリーが下をコッソリ覗き見てみれば、シグとヒサメがテーブルに料理を並べていた。
その雰囲気は、恋人,新婚夫婦というよりも兄妹。 何であれ、仲睦まじく見える。
夕餉の準備が着々と整う中、老人は孫?カップルに呼ばれる前に合流するのだった。
卓上のみならずワゴンにも処狭しと並ぶ料理。
ハリーを側に挟んでシグとヒサメが向いあい席に着く
「・・・豪華じゃな」
「普段より三四品多いがメニューそのものは普段食べているものと変わらない。
量は気にせず食べてくれ。余れば明日に回すなり、弁当にすればいいのだから」
「ほほぅ。 ・・・見た目はコチラのものじゃが、
味付けはサッパリしていてワシら好みじゃな」
「シツコイのは性に合わなくってな・・・もっぱらコレで味付けしている」
「ふむ、眼福、眼福」
「この手の味付けはスパイスも活きるからな・・・」
料理で賑わう男二人に対し、女性のヒサメは一人黙々チマチマと料理を口に運ぶ。
自分一人蚊帳の外にいることすら気付かないようであった・・・・・・
元々早飯早○ー芸の内な面々の夕食である。
あっという間に出された料理は平らげられ、予測通り残りは翌日に持ち越しとなっていた。
デザートの意外にコッテリな焼果物を茶請に、マッタリな時が流れる。
しかしそれも、シグが御二人でごゆっくりと席を立って洗い物に立ってしまったので
ハリーは好々爺のまま変わらず茶を啜り、ヒサメの動きは何処かぎこちない。
「・・・、ヒサメや」
 「っ!!!」
「そう怯えるでない。別に今の状況を咎めておるわけではないのじゃ。
・・・今、幸せか?」
 「・・・その質問には答えかねる。・・・幸せ、の定義が分からない」
「・・・フム、抽象過ぎたかの。では質問を変えよう。
今、このような時がずっと続いて欲しいと感じるか?」
ハリーとヒサメ、二人の間を支配する沈黙。
ただ、水の流れる音と食器が当る音のみがはっきりと聞こえる。
 「・・・・・・・・・、はい」
間をおいて、返事がはっきりと噛締めるように放たれた。
しかし、それは今までの会話と同様にその場にいる二人だけしか分からない。
十二分に推測でき、分かりきっていた回答。
それでも、その言葉を聞いてハリーの身体から力が抜けた。意外に緊張していたのだろう。
「そうか・・・安心した」
 「???」
「何、ちょっとした老婆心、否、正しくは老爺心じゃな。
ヒサメ、お前が今の状況を幸せと感じるのじゃったら、ワシに何の問題はないんじゃよ」
 「これが・・・幸せ?」
「うむ、少なくともワシにはヒサメが幸せに見えとるよ。
さて、それが分かった以上、若い二人を邪魔せんよう爺はさっさと退散するかのぉ」
瞬間ボフッとハリーを包む煙に、それが晴れた時には其処に老人の姿はなかった。
如何でもいい事へ無駄に忍のスキルと使っているが、そんな事はたいした問題ではない。
 「・・・・・・」
「むっ? ハリー殿はもう帰られたのか?」
 「・・・、帰った」
入れ替わるようにテーブルへ来たシグは見えない老人の姿に
意外とその辺りに隠れているのではないかと、彼方此方覗いてみたりする。
最も、隠れられるような場所はないのだが。
「そうか・・・。あの人は何と?」
 「???」
シグの質問の意とするところが分からずヒサメは首をかしげるのみ。
「いや、もう少しゆっくりされてもよかったのだが・・・
納得されて帰られたのなら、俺に何も言えることはない」
 「???」
「何、漢と漢の間の話だ。ヒサメにも理解できなくもないが、まだ難しいだろう」
 「・・・・・・」
無表情なヒサメが、一人仲間外れにされたと拗ねているように見えたのは確かだろう。
その夜、シグがヒサメを色々な意味で『可愛が』りまくった話は、省略ったら省略。
合意の上なのだから、シグがヒサメに溺れまくって満足しただけだと言うなかれ。
相変わらず無表情でもヒサメも満足しているはず? 多分・・・だったらいいな、と・・・


 「あら? 今日はアンタ一人なの? いつも『狗』がベッタリなのに珍しい・・・」
 「・・・・・・」
毎度会議スペースの大テーブル、周囲のグループから一人ぽつんとは離れて
弁当をチョコチョコと食べるヒサメに、フレイアは気付き友好的に声をかける。
が、ヒサメはフレイアを一瞥しただけで食事を再開。
 「何よ、アンタ愛想悪いわね。せっかくコッチが友好的にしてるっていうのに」
そもそも、シグがこの場に居ずヒサメが一人?で昼食を取らなければならないのは
一重にフレイアがシグへ余計な任務を与えたせいである。
そんな元凶に何故愛想しなければならないのかと(以下省略)
いい感にシグに毒されているヒサメであった。
 「・・・、命令なら、そうする」
 「チッ・・・。
・・・、美味しそうな弁当じゃない。 これ、も〜〜らい」
 「あ・・・」
ヒョイっと伸ばされたフレイアの手は、ヒサメが防ぐ間も無く
オカズのラストの一切れを強奪し己の口へ投下。モグモグと咀嚼。溜飲。
ゴチソウサマ。
 「・・・何よ、その目は。たった一切れ位いいじゃない」
 「・・・・・・」
動きを止めたままジッと強奪者を凝視するヒサメ。
こういった場合、どう行動すればいいか彼女は策を持たない。
嘗てなら、そんな不届き者は即刃の汚れにするのだが、
極端な行動派止められている上に仮にもフレイアはヒサメの上司である。
だから見る。ひたすら見る。ずっと見る。
周りのギャラリーもフレイアの凶行を咎めるかのようにじっと見る。
 「な、なによう、皆して・・・」
 「・・・・・・」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
 「私が悪いって言うのっ!!? いいじゃない、この程度っ!!!」
 「今回ばっかりは隊長が悪いと思いますよ。
なんたってヒサメさんの愛夫特製弁当を一切れとはいえ奪っちゃたんですから。
言ってくださったなら、私が隊長のためだけに愛を込めた弁当を作ってきたのに、
もう・・・(照々クネクネ」
普段ならフレイアの確実な味方であるはずの副官アリー。
しかし、今回ばかりは公平・・・以上に、普段よりまして私情いれまくり。
 「あ〜〜、うん、アリーも忙しいし別に無理して作らなくてもいいわよ(汗」
 「そう遠慮なさらずに。私は全然大丈夫なんですから」
 「ひ、ヒサメ、断りもなく取っちゃって悪かったわね」
アリーの猛攻に、矛先を変えようとするフレイア。
当のヒサメは二人の夫婦?漫才に興味がなく即サマ食事を再開し、食べ終え。
 「・・・ごちそうさま」
 「「・・・・・・」」
何かもう、二人だけ取り残されてイヤ〜〜ンな感じ?
いうなら、ツッコミ要員のいない漫才で滑りまくって事を自覚したボケ並みに。
このままでは、冷たい視線に耐え切れず凍え死んでしまう。
 「そ、そういえば、ヒサメって無表情よねー。
愛想しろとは言わないけど、もう少し感情を出せばいいのに・・・」
 「そうです。演技でも表情を作れないと、この仕事に支障がでますよ」
 「・・・・・・善処する」
先輩格のアリーの言葉か、仕事に支障の部分が利いたか、意外に前向きな返事。
それに悪乗りするのは、フレイアやギャラリーの面々。
もとい、今までヒサメを見守って?来たからには、その表情は見たい。
 「では早速、表情を作ってみるのよ!!!」
 「・・・・・・」
瞬間に意もせず、ヒサメの眉間による皺。
見慣れた面々ならそれがなんとか困った表情と分かるが、実にびみょ〜〜。
 「・・・行き成り前途多難ね」
 「それじゃあ、慣れてない人には全然わかりませんよ(汗」
 「・・・・・・」
そんな事を言われてもヒサメも困る。元々造ろうと思った表情ではないのだから。
 「じゃあ、困った表情つながりで『泣き』の表情を作ってみましょうか」
 「目尻を下げて、口をへの字になるように意識してください」
 「・・・、こうか?」
瞬後、オフゥとしゃがみ込む者ありーの、気まずそーに目をそらす者ありーの
某スケベ怪盗ジャンプしようとして周囲に制圧もしくは撃墜される者ありーの
 「なんちゅう顔をするのよ・・・なんつーか、『泣き』というより『泣き落とし』?」
 「それじゃあ、誘惑してる表情ですね。シグさんはそんな顔しなくても
イチコロでしょうが、他の男性の前でしちゃだめですよ。アブナイですから」
 「・・・わかった」
己の顔をペタペタ触ったヒサメは、言われた通りにしたのに何かおかしいのか
と考えつつ元の無表情に。
アブナイのは襲われるヒサメか、襲う者なのかはあえて伏せます。
 「んじゃあ、次は喜怒哀楽の『喜』で、笑ってみましょうか」
 「目を細めて、唇端を上げるような感じにしてみてください」
 「・・・、こうか?」
ニヤリ
瞬間、空間が凍りついた。
後にF嬢は語る。私は何も見てないっ!! 見てないったら見てないっ!!!! と。
後にA嬢は語る。・・・全て私が悪かった、ゴメンナサイorz と。
その感情に包まれた空間に気付いたヒサメは、自ら無表情に戻る。
笑顔である以上、ソレが大失敗だったのは幾ら何でも分かった。
 「・・・、き、気を取り直して、次『怒』いってみよーっ」
 「え、えーっと、目尻を上げて食い縛った歯を見せる感じですか?」
 「・・・わかった」
・・・、微妙だった。
 「・・・なんつーか、駄々こね拗ねてる女の子?」
 「・・・あははは、これはこれで、ありといえばありなんですが(汗」
虚ろに笑うアリーに頷くギャラリー。
 「・・・・・、結局大失敗だったって事?」
 「まぁ、本来訓練してするものじゃないですからね。
大丈夫、ヒサメさんも感情を知れば自ずと出来るようになります。・・・多分」
フレイアとギャラリーが「多分なのかよっ!!!」とツッコんだのはいうまでもない。
 「・・・・・・、多分、なのかよ?」
前処多難、人を育てるということは何事もままならぬものである。
しかし、彼女に暗殺機械人形からの成長がなければ、この光景がなかったのも
また事実・・・


魔導士メリア=フォーチェンの『未来予測』について語ろう。
この魔法は単純に言えば、膨大なデータから特定の事象を高確率で予測するものである。
例えば、此処にある人物の詳細なプロフィールがあったとしよう。その人物を取り巻く
環境のデータがあれば、その人物の人生を恰も映画の様にダイジェストで贈る事が出来る。
しかし、逆に未来予測しようがない事もある。
サイコロを振った場合、全ての目が出る確率は均一。其処に振る際のクセを考慮に入れ、
当てずっぽうで推測するよりも遥かにマシな結果を得られる程度、完全ではない。

ここに、ハイデルベルクの情報部へ一つの情報が齎された。
テログループが国家転覆を狙い王都で大規模な破壊活動を目論んでいるという。
本来なら、いつもの様によくある戯言の一つで一笑に伏され終わるはずであった。
しかし、ここで魔導士メリアの存在により戯言が一気に現実味を帯びる。
裏社会,腐貴族が戯れに出した資金,特異な武具が闇へと消え、妖しげな人の流れ。
それらの情報から決行日が予測されたのは誤差含めて数日前。
二個師団も派遣できれば十分制圧可能な規模ではあったが、
そのような確固たる証拠もない情報で騎士団を動かすわけにはいかなかった。
「そこで俺達の出番となる」
 「・・・・・・」
「連中の合流地点の一つと予測される此処を監視し、その際には出動を要請するのだ」
 「・・・・・・」
「俺達二人が此処へ派遣されたということは、可也確率が高いのだろう」
 「・・・・・・」
「という事で、俺達は暫く此処に潜伏しなければならん。文字通り潜伏して、な」
 「・・・・・・」
「・・・相槌を打つなり、何か応えたらどうかね?」
 「・・・せまい」
今二人がいるのは、王都の衛星町のとある倉庫 更にその隅の一角に山積みされた木箱
その一つの中であったりする。 一応大人二人は入れるサイズであるが
棺桶みたく狭いことには違いない。しかし、倉庫の人の出入りを確認でき
克、何者にも知られず簡単に潜入出来る場所は此処しかなかった。
態々其処へ二人とも入る必然性は何処にもないのだが、それがクオリティ(笑。
「後から入ってきたのはヒサメ、君だろう?」
 「・・・それが仕事だ」
「全く・・・素直じゃないな」
 「・・・・・・」
冗談半分でからかってみるが、ヒサメから返事は返ってこなかった。
仕方長いので、ヤレヤレとシグはヒサメの細い肢体を抱擁するのだった。
・・・箱の外で人の動く気配がする。しかし真当な用事で来ていた者だったのだろう。
ゴトゴト作業する事暫し、呆気なく出て行ってしまった。
一日たまにそんな者がくるだけで、あとは無人で静寂が支配する。
はっきり言って、暇な事この上ない。しかし、暇潰しなど出来ようはずもない。
ハリコミとは本来そういうものである。
しかし、一人っきりでいるわけではない。
狭い中、鎧下のシャツに戦闘用ズボンのみのシグが己の体躯に抱きつかせているのは
ヒサメである。ボリューム自体物足りないが、それでも立派に女の子な身体である。
それをタンノーしてしまうのは、男のサガ。もとい、義務?
 「・・・・・・」
下でヒサメの枕になってしまっている腕は、ヒサメの頭を撫でる一方で
自由な上の手はヒサメの背中から段々と下りていき細い腰へ。
ナデリナデリと更に下へおりて小ぶりなお尻に到達。
 「・・・・・・」
撫でてみたり、中央の溝に手を沿わせてみたり、レッグホールをなぞってみたり
更にはレッグホールだけではなく下着の中にも半ば手を突っ込みフニフニと揉んでみたり
 「・・・・・・、楽しいのか?」
「寧ろ、癒される。 ・・・気に障るようなら止めるか?」
 「・・・・・・、問題ない」
「・・・・・・」
 「・・・・・・」
「・・・私が贈ったスーツ、気に入ってくれたようだな」
 「・・・コチラの方が使いやすい」
「そういってくれるなら贈ったかいがあったというものだ」
 「・・・・・・」
会話の最中でもシグの手はひたすらヒサメの尻を揉み倒す。
シグが抱き寄せたか、ヒサメが己から抱きついたか、更に密着する二人。
任務中、狭い空間の中でありながら平然とストロベリーな時が流れるのだった・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
元々二人で張込みをするのは、監視対象へ空白の時間を作らないためである。
例えば、片方が用を足すときなど。
逆を言えば、手練を用意できたなら常に二人で張り込む必然性はないともいえる。
それ以前に食事の方は、希望都市直伝の携帯食フルコースセットがあるので
全く飽きる事無く寧ろヘタな食事より豪華だったりするのだが、それはさて置き。
ヒサメが無言で出て行きシグが一人で張り込む事暫し、
足元からゴソゴソと這い上がってくる気配。
例え闇の中であってもその正体はシグに分かった。 一つしかありえない。
仰向けに寝ている体躯の上に、重いとか感じられない塊が乗った。
「もう戻って来たのか? シャワーを浴びてくればよかっただろう」
 「・・・動いていないから汗をかいてない。問題ない」
「俺は男だから一週間や二週間は平気だが・・・いや、密着すれば臭いだろう」
 「・・・問題ない」
シグの胸板に触れる感触。
頭を上げて疲労するのを防ぐためにヒサメが頭をくっ付けたのだろう。
その感触の中央辺りで息の熱い感触が加わる。しかも鼻で息をしている感。
「『狗』だけに腹に乗られるのは好きではないのだが・・・
まぁ、君なら何ら問題ないな」
 「・・・・・・」
言葉にゴソゴソと移動しようとしたヒサメをシグは抱擁して止める。
可也匂っている男の体臭を彼女が気にしないのなら、男も文句を言うわけにはいかない。
なんせ、跨ぎ座っているのである。彼女の股間まで腰に密着しているのである。
騎上位が苦手であっても、寧ろ彼女ならば大歓迎。
 「・・・・・・」
「・・・・・・(汗」
 「・・・・・・」
「・・・・・・(汗々」
 「・・・、私を犯したいのか?」
「それは・・・否めないな(汗」
 「・・・、ならば犯せばいい」
「何を言ってるのかね君は?」
 「性欲をもてあまし、任務に支障が出る事など問題」
「其処まで節操なしではないぞっ!! 君は俺を何だと」
 「早急に処理すべきだと判断する」
「俺の意志はスルーする気か? ちょっと待てっ!!」
 「・・・・・・」
自業自得、ケダモノに判断されているのは日頃の行いの結果である。
ヒサメはゴソゴソと、自分の股間クロッチの留金を外し下着の片腰紐も解く一方で、
下のシグの前を開けて今にも布を突き破りそうだったヤジュウを解放した。
勢いよく業棒がヒサメの恥骨を叩き、先が下腹部に刺さる。既にやる気満々、用意万端。
即ち、そんな熱いシロモノがずっとヒサメの股間に当っていたわけである。
「・・・節操無だな、俺は・・・(ルルル〜〜」
 「・・・・・・」
闇の中でも近距離が故に、ヒサメの「何を今更」な顔がシグの視界に入った。
しかし、このままヤラレっぱなしでは男がすたる。ましてや、ヒサメは謀術など知らない。
だから、シグの情けない表情は一転、普段のニヒルな笑みに。
でも、自分からヒサメに触れない。
「・・・・・・(ニヤニヤ」
 「・・・・・・」
「・・・・・・(ニヤニヤ」
剥き出しになったヒサメの下腹部を欲望の塊が叩いているにも関らず
当のシグが動かない事に業を煮やしたか、狭い空間の中で己から腰を浮かし
顔を男の胸へ密着に片手で凶器の位置を確かめ整えると、腰を下ろし股間の中心へゾブリと
 「っ・・・」
一気に最奥まで貫かれた感触に、男の胸板へ押付けた彼女の唇が震える。
狭空間の中の上下運動では腰がぶつかってしまうので、
自ずと自虐的な腰を押付けローリング運動をせざる得なく・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「・・・っ、・・・っ、・・・っ、・・・」
2,3分かもしれないし、半刻以上続けているかもしれない。闇の中では時間が狂う。
その間、彼女は丸めた背を天井に押付け側壁へ脚開けて股間を男の腰へ強張らせ
胎奥を凶器先に黙々と強くきつく圧し付ける。
 「・・・っ、・・・っ、・・・っ、・・・」
それは女にとって極めて分が悪い自滅攻撃。彼女のヒットポイントが削られる。
そう、男女の交わりは、正しく闘争。削り合いの果てにあるのは、尽きるだけ。
彼女は休憩を交え単調に不利な戦いを続ける。
 「・・・っ、・・・早くっ、出せっ」
「辛いのか?」
 「・・・、・・・っ、・・・っ、・・・」
「・・・、ヒサメ、君がイイ声で啼いてくれれば、直にいけるかもしれんな」
 「・・・っ、・・・っ、・・・っ、・・・」
普段は『敵』にのみ向けられる精神を逆撫でするニヒルな皮肉笑が
普段は優しく?扱われ慈笑のみ向けられてきた彼女に向けられる。
だから彼女は這々体でも退けず、知らず自虐に浸る。
 「・・・っ、・・・っ、・・・っ、・・・」
「・・・もしくは、俺へ接触的に接吻・・・口淫をしてくれるなら直ぐ済むかもしれん。
そもそも君がイイ声で啼き悶えて、淫行に耽る事自体が時期早々というものか・・・」
 「・・・・・・」
シグの挑発に乗せられたか事を急したか、ヒサメは胎奥を圧抉られながら背を伸ばし接吻。
それは、ただ唇が接するだけの状態から直ぐ様、情欲のままに貪るような深いものへ。
男が女へするように。 普段されているものを真似して。
そのヒサメの肢体を、シグは抱擁する。 意図を気付かれぬかのようにゆっくりと。
まるで獲物を捕らえる食虫植物のように。 そして
ドクッ
 「んっ!!? ・・・く・・・ぅ・・・」
突如襲う、娘の腹奥を叩き流込む生温かい感触。
自体は大した事がなくとも、意味を知っていれば改心の一撃級の衝撃に。
それはヒサメといえど、度重なる交わりに『知って』しまった。
だから、口淫を忘れて瞬間硬直した肢体は腰砕けに弛緩し、グッタリと絶望感を漂わす。
「・・・・・・、フゥ〜〜」
 「・・・、・・・あと3,4回、・・・出させなければ、・・・ならないか」
「ガンバレ」
ヒサメに可也重みが感じられる放出にも関らず、ソレは未だに硬度を保ったまま。
寧ろ、初めの射精は挨拶代わりとより逞しくヒサメの中でビクビクと撥ね暴れる。
暫しの休息を得て、娘は己の行動になんら疑問を持つことなく
機械的に・・・のつもりで、濃厚な奉仕を尽くすのだった。
・・・二人の時間を邪魔するものは・・・まだ、ない。

XdayX刻、その時刻が近づくにつれて予測が当る確率が高くなる。
深夜の時間帯、片田舎の倉庫という寂れた場所にも関らず、其処は気配で賑わっていた。
しかし、無駄話の人声は一切なく空間を支配しているのは異様な殺気。
ある者は歪んだ志に、ある者は便乗して野心に・・・・・・
それでも、その者達がこれから行おうとする事は唯一つ。秩序を破壊し、混乱を。
定員が揃ったのか、その者達は迅速に行動を開始して武器を装備し倉庫の扉を開けて
進軍を始める・・・が、それを遮る月下の人影一つ。
「お前等を此処から先へ通すわけにはいかん・・・」
「何者だ、貴様っ!!!」
「一工作員がテロリストに名乗る名など持つわけがなかろう?」
「国の狗っ!!?」
テロリストのうち先に立つ数人が先んじて狼煙の血祭りにせんと得物を振りかざし
そのたった一人だけ立つ黒ずくめの工作員
ナラズモノっぽく戦闘ジャケットの前を開け放っているシグへと襲い掛かる。
が、それは間をすり抜けるように駆け抜けたシグの後でパタパタと倒れていく。
両手にするのは、鉈のように重厚な短刀。鋭さよりも重みで斬る刃。
そのシグへ、腕に自身があるのか死角から男が刃を振り下ろすが其処に既に姿はなく
背後へ回って、物闇からその男へ必殺の刃を繰り出していた影との間に立っていた。
男の背に一撃を撃ちこみ。影の必殺の刃を逆手の短刀で受け止めて。
 「何故・・・」
物闇から飛び出した影 ヒサメが狙っていたのはシグではなく当然に男であった。
シグがソレを分かって態々『敵』を庇った上で倒したのは明白。
「殺す事を旨とする君は手加減出来んだろう?
裏の世界で生き表を知り始めたばかりの君に今、殺しをさせるわけにはいかん。
例えソレが俺個人の我侭だったとしても・・・な。さあ、先言った通り行けっ!!!」
 「・・・・・・」
シグに強く言われては、ヒサメに反論の余地などあろう筈がない。
・・・シグ一人がテロリストの足止めをしている間に、ヒサメが騎士団の出動要請・・・
例えソレが感情的に色々と釈然としないものであったとしても。
ある意味抗議とも取れる睨みの一瞥をくれてヒサメは姿を消した。
瞬後、パタリと倒れるのはシグに一撃入れられた男。 其処から離れていた
他テロリスト達からは夜もあって、男がシグに伸された様な影しか見えない。
沈黙に包まれる一帯。
それを打破るかのようにシグがテロリスト達との中間点へ放り投げるのは
シュボっと烈光を発し始める発光筒。
確保された視界にたたずむ工作員と名乗る一人の男は陰影で不気味だが、
明らかに其処にいるという存在感がテロリスト達にある種の安堵を与えた。
そして、追い討ち
「オマエ達の足止めが俺の任務だが・・・
何、全て此処で倒してしまっても問題はあるまい」
シグのその一言にいきり立つテロリスト達。その正体が生きた人間であると分かった以上、
最早それは挑発でしかなく狙い通りにシグへの先に覚えた畏怖を忘れて踊らされる。
差し向けられた第二陣は第一陣の二倍、
それが巧みなフォーメーションをもって襲い掛かってきた。
三人程を前衛に、その隙間から更に後衛がチマチマと攻撃を仕掛けてくる。
しかし、シグとて一騎当千に脚を掛ける者。
前衛の攻撃を両刃でもって防ぎ捌き避け 蹴飛ばし 一人ずつ確実に片付ける一方で
後衛の攻撃を前衛を盾に、針クナイを撃込み爆破で怯ませてダメージを蓄積させる。
前衛が片付けば、後衛までも殲滅するまで差して時は掛らなかった。
特務工作員シグ=カーマイン、英雄達の様に派手さはないが確実着実に仕事をこなす男。
嘗ては希望都市軍でシンガリを務め生還してきた実力は伊達ではないのだ。
死屍累々の中、たった一人ほぼ無傷で立つ姿は敵対するものを挫くに十分。
「・・・さて、お前達は何の事を成せないまま半数が片付いてしまったわけだが。
如何する? このまま降参するなら一撃でもって心地良く眠らせてやる。
もっとも次目覚めた時は牢屋の中、身の程は保証してやらんが(クックックッ」
「はっ、国の狗風情がなめるなっ!! そんなもの、雑用の人員に過ぎんのだっ!!!
主力はこれよっ!!!」
リーダー格の男が揮う魔導具の杖に、その手前の地面で展開される召喚陣。
其処から重低音の獣叫を上げて現れたのは、恰も各部に装甲を着けた様な熊型の魔獣。
「ほほぅ、くだらない事を企むだけの事はある。これは中々に手がかかりそうだ」
「減らず口をほざけっ!!
魔術都市で開発されたこのキメラウェポン、人間一人風情で敵うと思うてかっ!!!!」
本戦(王都テロ)前でたった一人に切札を出す事になった意味も分からず意気揚々な男に
突撃をかけるキメラウェポン。その豪腕暴爪の一閃が、双短剣構えたシグを吹飛ばす。
否、それに態と後ろへ吹飛ばされて距離をとると今度は身を低くキメラウェポンへ強襲。
息尽かさずコンボ連撃を繰り出す。
懐へ潜込み斬付け返ってきた硬い感触に、一点集中で1,2,3・・・と斬撃を叩き込み
キメラウェポンの反撃をバックステップで交しつつ、其処へ針クナイを撃込んで爆破。
キメラウェポンは必殺を思わせる爆煙に包まれた。
しかし、咆哮轟かせ爆煙散らしたキメラウェポンは煤けているが
ダメージを負ったようには全く見えない。グルグルと顎か涎たらしつつ、
それでもシグへ追撃を掛けないのは完全にコントロールされている故か?
「・・・ふむ」
「くはははははっ!!! ただでさえ対魔術士に開発された生物兵器。
対刃の毛皮と屈強な筋肉からなる物理防御の前では攻撃など無意味っ!!!
貴様の抵抗など無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!」
予想以上の其の出来で威きり立つリーダー格に、後ろのテロリスト達も拍手喝采。
確かに厄介な事、この上ない。
ただでさえ堅い上に指示を従ってか弱点である大口を開けて噛付いてくる事もないからだ。
「認めよう。確かにコレは厄介な相手だと言わざるえない。
しかし、俺とて龍の字を持つ戦王に『殺さずして倒す事は不可』言わしめた身」
テロリスト達がいぶかしむのも意にせず脇の鞘に双短剣を収めたシグは『雄』の音で戦叫ぶ。
一回りマッシブルに肉付く体躯にズボン,ジャケットを残して何の耐性もないシャツは破れ、
精悍な顔付きは歪み変形し顎が突出し、皮膚を黒い獣毛が覆い尽くす。
其処に居たのは最早ただの人間ではなく獣顔の戦士 黒毛の人狼。
「あ、悪魔付・・・」
「俺をそんな適当なモノにしてほしくはないな。
俺は、俺自身の意志でもって、獣の力を揮うのだから」
「くっ、ほざけっ!! そんな見かけ倒し・・・殺れっ!!!!」
ニ度襲い掛かるキメラウェポン。シグが人狼化に一回り大きくなっても体格比は倍に迫る。
それでも、キメラウェポンの豪腕を拳で殴りって威無し避け掻潜り、拳の連打。
更に揮う狂爪がキメラウェポンの胸板を切裂いた処で、指がブーツ突破った狂暴な足を
キメラウェポンの腹にかけて其の上の顎へ膝蹴りに、仰反った脳天ヘ両手鎚。
倒れつつある巨体を蹴って、闘士の動きを見せた人狼シグは地に降り立った。
が、キメラウェポンは倒れることなく踏鞴踏み持ち直し、唸りつつ頭を振る。
多少のダメージにはなったが、必殺にならない。しかも胸板が泡を立てて治ってしまった。
「・・・ふ、ふはははははっ!!! 流石キメラウェポン、タフネスじゃないか!!!」
「この程度ではタフネスとはいわん・・・が、傷が治るのは厄介ではあるな・・・
だがっ!!!」
瞬間、疾風となった人狼シグはキメラウェポンに切迫。その頭にアイアンクローで逆立つ。
そして
『ゼロインパクト』
シグが掴んだキメラウェポンの頭が爆発した。シグの手を確実に巻き込んで。
「流石に頭を潰されては、傷を再生出来る生物兵器でも潰せるというものだ」
トンと無事な手で押す頭がないキメラウェポンはそのまま倒れピクリとも動かない。
そして、その命が尽きた事を証明するかのように泡となって崩れていった。
「・・・・・・、はっ、確かに貴様はキメラウェポンを倒した。
だがっ、それも自滅攻撃っ!!! 最早片手で何が出来るっ!!!」
「コレが如何かしたか?」
人狼が示す手首から先が失われた腕。
それが雲間から差し込む月光の元、より確保された視界の中で再生していく。
木の枝のように再生した骨、それに腱 肉が絡付き、皮膚に覆われ、剛毛に包まれ・・・
先の損傷は見る影もない。
「ほ、本物の悪魔・・・。やはり王国は革命の炎によって清められねばっ!!!」
「・・・御託はそれで十分か?」
「な、なぬっ!!?」
「確かに政治は腐っているのかもしれん。
しかし、革命を急ぎテロを起こせば、平穏に暮らす民が真っ先に犠牲となるだろう」
「怠惰に身を任せ声を上げぬ雑踏など理想の前には塵芥も同じ!!!」
「その民によって国が成っている事もわからんとは傲慢極まりないな・・・」
「黙れっ貴様こそ国の腐敗が証明っ!!! 我等が道跡となって朽ちるがいいっ!!!」
時間稼ぎで口論していた事を察せられたか、テロリストの幹部格達が揮う杖に
次々と召喚されていくキメラウェポンが4体5体6体・・・・・・・
テロリスト達の前に壁の様に立って覆い隠す数は、
最早シグ一人では人狼の力をもってしても手も足も出ようがない。
先に倒し地に伏せるテロリスト達も、先のキメラウェポンとの戦いではシグが微妙に誘導し
戦場をずらしてしったため未だその命は残っているが、巻き込まれるのは必須。
・・・どちらにしろ捕らえられれば処刑もやもえないかもしれないが。
「・・・よかろう。ならばこの命燃やし尽くしても一体でも多くこの場で殺すまで
俺が倒してなお王都へ攻め入れるだけの魔導生物兵器の在庫は十分か?」
端から諦めなどしない。成すべき事は決まりきっていた。
その手に勝利を。それが敵わぬのなら、味方の増援が来るまで場を持たせる。
孤狼の奮戦が始った・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
『ゼロインパクト』、接触の零距離で爆裂魔法を執行する事でエネルギーロス無く
対象を粉砕する一撃必殺の自滅技。そう、直接触で爆破する以上その爆破は術者にも
多少なり及ぶのは否めない。
人狼シグが幾ら月の魔力の恩恵を受けて驚異的な再生力を有しているとはいえ、
痛覚がなくなるわけではなく、『ゼロインパクト』を何度も行う事など出来ない。
キメラウェポン多数が相手となれば、その戦法,戦術は回避が中心とならざるえない。
シグは軽業士のようにキメラウェポンの頭から頭へと跳び移って同士討たせ、
時間を稼ぎながら一体一体着実に殺していく。
しかし、キメラウェポンは殆ど 気が遠くなる数が残っていた。
しかも、キメラウェポンが耐えるので遠慮なく雨霰と降り注ぐ矢。
手足を揮って狂爪で迎撃するものの、掠った傷は癒えても疲労というダメージを蓄積させ
刺さり残った 貫通した矢は更なるダメージと共に動きを阻害する。 抜く暇もない。
限界に、一旦キメラウェポンの勢から距離を取るが、それも暫しの間取。
生物なのに単調にザッザッザッと歩を進めるキメラウェポン勢。
満身創痍に圧倒な敵勢。 正しく、絶対絶命。
「尻尾をまくって逃げるのは性でないのでな・・・・・・」
それでも、その戦いに敗退はなく、敗北もまたありえない。
例え其処で死ぬ事になろうと、それで後に続く者が勝利すれば、また彼の勝利なのだ。
だからこそ、まだ、獣顔でも分かるほどの笑みを浮かべ双短剣を抜き放ち構える。
が、
「っ!!?」
「その心意気、潔良し」
「姿こそ獣であれ、その姿勢は見事な騎士だ」
光輝く龍『神気龍魂』が、燃え盛る炎の柱が、シグの背を追い越し横を通り抜けて
キメラウェポン勢を駆逐していく。
「ブレイブハーツ一剣『龍光牙』ジェット、任務以上に義を持って助太刀する」
「俺はブレイブハーツが一人『紅輪』のディウエスだ。 後は俺たちに任せろ」
労いにシグの肩を叩き前へと出てくるのは何処と無くシグと気が合いそうなジェットに
ダメージを与えると思えるほど強く背を叩く熱血スキンヘッドマッスルのディウエス。
 「ハイデルベルク治安維持小隊『リバティ』、見参!!!」
 「いきますよぉ〜〜。てぇ〜〜い♪」
更に刃を魔法の光で輝かせた騎士剣の騎士娘アインリッヒが颯爽と、
大戦斧をグルングルンを振回す重戦士犬娘ニーナがテトテトと、
シグの横を駆け抜けて行き、一刀両断の元にキメラウェポンを殲滅する。
「・・・、援軍が間に合ったからといって休める性質でもないのだよ、俺は」
自分も戦線に加わろうとするシグ。
しかし、その足はアッサリと蹴り祓われて地にストン座らされてしまった。
オマケに診察の一瞥後にデコピンまでかましてくれるのは男装麗人レザード。
 「傷は大丈夫だろうけど、彼女が心配するから君はもう此処で休んでいるんだ」
その上、背に密着し首に回された優腕で身動きできなくなってしまった。
 「・・・・・・」
その柔らかな感触を、その甘い香を漆黒の戦獣は知っている。
それは心が猛る以上に、この戦場では彼を鎮め癒していく。
今までの凶々しはは人狼化と共に解けて残ったのは苦笑の青年。
「その可愛い彼女、僕にブベッ!!!??」
 「ホラ、馬鹿やってないでさっさとイケっ!!!
私達は向こうの雑魚を捕まえに行くんだっ!!!」
シグとその背中に親愛の情を込めて抱きつく娘の関係を知ってか知らずかナンパする
色男戦魔導士レオンと、それに癇癪を起こし蹴りこむロリ娘シャルロッテが騒いでいるが
当の二人には既に外の雑踏など聞えはしない。
「・・・・・・腹が減った。何か食べるものはないか?」
 「・・・、ない」
「ヒサメの兵糧丸があるだろう?」
 「・・・私の兵糧丸は不味いぞ」
「無いよりはマシだ。少なくとも空腹は紛れる」
 「・・・・・・」
背後からシグの手に渡されるのは小袋。
シグはそれを掌に、らしくなく丸で親の敵のように口へ放込み噛砕き溜飲。
長い夜が終った。
二人の視界の中、白焼けの空に照らされて既にキメラウェポンの姿は微塵もなく
テロリスト達が追付いた兵達に引っ立てられていくのが見える。
今回の任務は事後処理だけを残して終了した。
「・・・、やはり食べられたものではないな。・・・でも、美味い」
 「・・・・・・」
チグハグな感想に、シグは笑わない彼女が視界の外でも微笑んだのが見えた。
そして、ヒサメが微笑んでいたのは決して彼の気のせいではなかった。



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