「空の牙」


その日、セシル=ローズは非常に鬱な気分でいた

しかも特に仕事があるわけでもないのに談笑室でフル装備、得物の氷雪の魔剣『氷狼刹』を手にガクガクと震えている


「母親に会いに行くだけで何を震えている・・?」


その見事な怯えっぷりに恋人であるロカルノが呆れ切った様子のロカルノ・・

だが本人の怯えは至って本気だし相手の事は彼も一応わかってはいる

「ロカ・・逝く前にロカの子供・・産みたかったよぉ・・」

「まるで・・処刑されに行く感じですね・・」

その様子にメイド娘なキルケも引き気味・・

まぁ、今回は無理に回復薬を調合しろと言ってこないだけマシなようで第三者に徹してるようだ

人の良い彼女にも危険回避の学習能力がある・・

「用事告げずにこいって時は大抵処刑よ!

きっと機嫌が悪いから私を使ってそれを解消する魂胆なのよ・・嗚呼、かわいそうな私・・」


「大げさな・・、顔を出せって言われただけだろう?」

「そうじゃそうじゃ、おまけに移動にアミルを使うなどとは・・」


お茶を啜りながらセシルを非難するクラーク&メルフィ、後者についてはまた別の意味で不愉快らしい

「それよりも、アミルの身に危険が及ばないように責任を持って見ていろ」

「あ〜!!!何よ!?私よりもアミルの方が大事だっての!しどい!しどいわロカァ!」

「お前の親子喧嘩は周辺を巻き込み過ぎる、アミルが被害に遭うには理不尽だ

それにお前が大人しくして置けば建造物も壊れずに済む」

「う゛・・痛いところを・・。だってママったらあからさまに挑発するのよ?」

「それに流されるようならまだまだガキじゃな〜」

「あんたに言われたくないわい!ねぇ〜、ロカァ〜・・死地に旅立つ恋人を励まして・・?ねっ?」

「・・・・、それのために旅立つ前日から珍しく準備万端でこれ見よがしに怯えていたのか・・やれやれ・・」

ここまでくると彼女に同情する人間は一人もいなくなる・・元々いないのだが・・


「だってぇ・・」

「・・ふぅ、しょうがない。後で騒がないように満足させてやる・・、何回だ?」

「やった!最低5回ね♪」

「・・やれやれ・・」


結局は恋人同士、やや無理やりではあるがその日はドップリと交わりセシルは翌日からの地獄旅行に備えるのであった


・・・・・・・・


事の発端は数日前、毎度のことながらも手紙での召集命令

彼女に取っては地獄への片道切符、赤紙な如く恐ろしき物であり

オマケに今回は運悪くオシオキ監禁中であったがためにそれが届いた事に気付かなかった

それ即ち確実の死、しこたま腹に蟲の卵を詰め込まれそれをひり出して衰弱しきっていた後でもその事実はセシルは飛びあがったと言う

そんな訳で母親の手紙に気付かなかったという事を隠すために移動時間を縮めるとの事でアミルの力を借りる事となった。

飛竜の翼での移動は歩行とはまるで違う、

手紙に気付かなかったという事実を何としてでも隠蔽したいセシルは徒歩で向ったと思わせるように時間を調節しての出発となったのである

「ほんと・・アミルの背中は快適よねぇ」

『セシルさんはメルフィ様専用みたいになってますからね・・』


大空を飛ぶ竜、アミル。これこそが彼女の本当の姿でその姿は凛々しくも威圧的であり背中に人を乗せているのに違和感すら与える

「こんなにゆっくり空を見たのははじめてかしら・・、あのガキ・・全く・・」

『はははは・・』

竜というのは大変珍しい存在、一部の人間には神と同一視される事もある。

それゆえに辺境の町で竜が人に恋をして人の姿で生活をしているという事実は広めたくはない

だから飛行する際には他の人間に見つからないように高度を上げたり海上を中心の進路を取る事が多い

しかしそのどちらも当然の事ながら人が落ちたらまず助からない

その事はアミルは良く認識しており背に乗せる人の安全を優先しているのだがメルフィの場合はその限りにあらず、

速く飛びたいという願望が強いために背中に乗せているのも忘れ宙返りをする始末・・

そのメルフィの乗る機会が多いセシル、何度か落下しかけその都度気が触れんばかりの壮絶な体験をしている

「でもロカから言われた通り、私降ろしたら先に帰ってもいいわよ?」

『え・・?ああっ、言え・・せっかくなのでご一緒しますよ』

念での会話だがその感情はありありとセシルに伝わる

さっさと降ろして館に戻れば敬愛するロカルノの寵愛を受けれるのだが

セシルが死地に赴いているのに自分が快楽に浸るというのは気が引けるのだ

「そう?じゃあ・・気をつけてね?」

『わかりました・・あ・・見えてきましたよ?』


眼下に広がるは大海原に浮いた一つの島、

かつてこの島の民族と海賊の悶着に介入したセシルとアミルは上空から見る平ったい島に懐かしさを思い出す

「ふぅん、ベアトリーチェも約束は守ったようね」

唯一の生き残り、シーラに取ってはこの島は故郷に変わりはない、

そして現在所有者のソシエが自分好みに拠点地にしようとしその計画を変人な隣人のベアトリーチェに頼んだのだ

その時にセシルはシーラのために里を荒らすなと約束を交わし海賊に荒らされた建造物を修復して

慰霊碑を建てた事以外は何も手をつけていない

『理解力がある御方の現場指揮ですね、シーラさんも喜ぶことでしょう』

「それ以外だと好き勝手やりまくっているみたいだけどね・・」

セシルが言うように島全体を見渡すとその半分以上は様代わりをしていた。

シーラの里跡の反対側の海岸線に大型の波止場があり目と鼻の先にウィンヒルにも負けないぐらいの超大豪邸、

数多くの獣人メイドを囲い込むには十分に立派な物で威圧感抜群、白色の塗装がまるでリゾートホテルのようにも見える

その豪邸の隣には武骨な別館もありそれ以外だと豪邸から平野に向けて延々と伸びる畑、畑、畑。

島の大部分を農地に利用しており孤島でありながらも完全自給自足ができているのは空からみただけでもわかる

「・・よくあれだけの期間でこれだけの物造ったわね・・」

『ソシエさんのメイドさん達はみんな優秀ですからね・・』

「酪農までやっちゃって・・、まぁ・・ウィンヒルの事からしてこうした環境の方がいいのかもね・・あら?」

ふとこちらに近づいてくる影を見つけるセシル

『ウィンクさんですね』

見れば漆黒の翼を広げ長い黒髪とバトラー服を着込んだ男装の麗人がこちらに飛来してくる


「お久しぶりです、セシル様、アミル様」


有翼人でありソシエの一番の理解者である女執事ウィンク、空中でホバリングをしながら礼儀正しく一礼をする

「久しぶり〜、相変わらず堅苦しいわね」

『どうも、ご無沙汰しております』

「ソシエ様より案内を任されました。着地地点を指定しますので後に続いてください」

『了解しました・・畑に降りたら迷惑ですしね・・』

苦笑いなアミルにウィンクも軽く微笑み彼女を先導しながら高度を下げるのであった


・・・・・・


いくら何でも完備しているかと言って飛竜の発着スペースなんて物はない

そこでウィンクが着地場所として案内したのは波止場と豪邸を結ぶ広場、恐らくは船出の際にここで士気を高めるのであろうが

手入れの行き届いたそれは公園の広場といわれてもなんら遜色がないほど趣味がよい

あちらこちらに花壇が設置されており広場と豪邸を結ぶ階段には一段一段鉢が置かれているほどである

それでもアミルが着地するには十二分の空間がありウィンクの後に続き華麗に着地して人の姿へと変化させた

「それにしても・・なんか空からくるって知っていた感じね?」

「それはそうです、実質ハイデルベルクのどの海便でもここに近寄るモノはありません。

それでも海路を使用するならば漁師や航海士に頼むしかありませんが・・

セシル様がここの詳細な座標を言えるとは思えなかったので・・」

「・・何気に・・はっきり言いやがって・・」

「恐縮です、ですが陸路を利用するならば到着するのは遅くても昨日辺りだと踏んでいましたので」

「・・・、まぁいいや・・。でも〜、すごいわね。

アミルと一緒に驚いていたけど・・シーラが旅立ってから今日までの期間でこれだけのモノを造るなんて・・」

「人手には事足りています、全員一通りの大工仕事はこなせますので効率よく仕上げられました。

物資の輸送や運搬などはベアトリーチェ様のゴーレムのおかげで問題なく進行できました」

「人がいいんだか悪いんだが・・」

「警戒すべき点はありますが基本的に信頼に値する人物かと私は判断しています」

「・・その点は私も一緒ね・・。とにかく案内して・・嫌な事は早く終わらしたいから・・」

「畏まりました、ソシエ様も到着を首を長くして待たれています。こちらへどうぞ」

首を長くして・・っという処に顔を蒼冷めながらも腹を括りセシルはウィンクの後に続いていくのであった

・・・・・

豪邸はウィンヒルの物と同じと同じ物で3階構造、エントランスは3階まで吹き抜けでまるで宮殿のような荘厳な空間が広がる

天上からはいくらするのか判らないシャンデリアも設置されてそこはまるで王族が住んでいるかのような雰囲気すら漂わせている

「・・すごい・・ですね・・」

山中の田舎暮らしをし、現在では機能的な館で暮らすアミルにとってはこの絢爛豪華さにポカンとしている

「・・ウィンク、ママってどんだけ金持っているの?」

「以前の件で屋敷を襲撃された事に対する報復で貴族達から巻き上げた物を含めると・・ダンケルクの国家予算に匹敵するかと思います」

「なぬ!!?」

「国と同じだけの・・ですか・・」

「ロカが聞いたら落ち込んだ事ね・・」

本当に落ち込むかは謎なのだが二人の表情に笑みが零れる

「・・では、ソシエ様のお部屋に案内いたします。こちらへどうぞ」

冷静なウィンクは二人の間を読みながらも案内を続け、セシルを一瞬に現実に引き戻し恐怖の階段を昇るのであった

・・・

流石に大豪邸なだけあって吹き抜けのエントランスにはそれに負けないほど巨大な階段が設けられており

それは中一階で左右に別れそれぞれ2階のバルコニーへとつながり

螺旋を描きながら2階から3階にかけて分かれた二つの階段が合流する

立体的な作りだが頑丈でソシエの趣味が出ている

ソシエの部屋は3階、他のメイド達の個室に紛れるようにひっそりとあり間取りは他のメイド達と全く同じ

ただそこから見える見晴らしはこの豪邸で一番良いらしくメイド達がソシエに敬意を表してこの部屋を譲ったそうな・・


「しばらくぶりだねぇ・・セシル」


そこそこの広さのソシエ室、絶景を見下ろす窓に机を付け豪華なデスクチェアに座りながらソシエが微笑む

年齢不詳の美しさを見せるソシエ・・いつもの白いスーツを着ておりそれは正に妖艶な男装の麗人

ウィンクとソシエが並ぶと色々勘違いしそうな人も多そうである

「ヒサシブリ ママ アイタカッタワ」

「な〜に、硬直しているんだい?ひょっとして何かまた邪な事を隠しているんじゃないだろうねぇ」

笑顔なソシエだがそれだけでも威圧感は凄まじい、セシルは特にもう立っているのがやっとだったりする

「別に!何もないわよ!」

「ふぅん〜?本当にぃ?」

「ないったらない!」

「・・手紙の配達されたと思われる日からこちらの到着される感覚に若干の違和感があります。

それに手紙には『一人で来るように』っとあったのに関わらずアミル様を同行している点にも・・」

「それはあれよ!旅で色々とあったの!ねぇ、アミル!」

「え・・ええ〜・・はい」

どうアシストしていいかわからないアミル、かなりの年齢なのだが目が完全に泳いでいる

「アミルちゃん、援護しなくていいよ。この子って嘘が下手だからねぇ・・。正直に喋らないとオシオキしようかしらぁ」

「ちょ!ちょっとロカに怒られたオシオキされてただけよ!監禁されてずっと蟲の卵産まされていたから手紙に気付かなかったの!

だからあんまり遅れないようにアミルに手伝ってもらっただけよ!」

慌てて白状するセシルさん、母の威光は強し

「まぁ、大方そんな事だろうと思ったよ。しかしロカルノ君もオシオキに蟲で放置産卵プレイねぇ・・快感伴っちゃ折檻にならないでしょうに」

「暴力に走らず苦痛と共に快楽も与える、ロカルノ様なりの思いやりなのでしょう」

何気に分析する麗人二人、そのあからさまな態度に思わずセシルは顔を真っ赤にしてしまう

「変に解析しないでよ!それに蟲攻めってほんと辛いんだから!」

「そりゃねぇ・・でもあのゴリゴリしたかった〜い生殖管が中に入ってくる感じとかブニュブニュって卵が子宮に入ってくる感触・・たまんないんだろう?」

「そうそう、子宮にへばりつく度にイッちゃう・・って娘に何言わせるの!!?」

「あんたは単純だからねぇ・・・。

オマケにフル装備で来るなんて・・身だしなみを注意されるのを避ける気満々だねぇ・・向こうにドレスなんてないんだろう?」

「うっ、うるさいわよ!それよりも呼び出した用事って何なの!?私も忙しいんだがら仕事なら予め内容ぐらい教えてよね!」

全て見透かされている事に焦るセシル、本題に何とか話題を反らそうとする

「あ〜、まぁあんたもそれなりにがんばっているみたいだからあの人の装備を一つ渡そうと思ってね」

「パパの?篭手以外だと鎧とか?」

「あれはあんたには早いわよ、クレイゼンが愛用した盾・・『空牙』を譲ろうかと思ってね」

「盾・・ですか、セシルさん・・盾なんて使った事あるんですか?」

両手剣一本、それでも余りある攻撃力なセシルが盾を使用する事が想像できないアミル

「盾ねぇ〜、騎士学校時代の訓練ぐらいかしら・・。ママ、氷狼刹が両手向きなのにわざわざ盾なんて必要なの?」

「持っていて損はしないよ。それにあの人が扱った品なんだ・・ただの盾じゃないって事さ」

「パパのねぇ・・、流石はクレイゼン=ブレンシュタインってところ?」

「何言ってんだい!父親の武勇伝も碌に知らないくせに、ほら・・譲るついでに鍛えなおしてやるよ!」

「げっ!マジ!!?」

「それ覚悟でフル装備なんだろう?ほらほら!行くよ!」

「予想していたけど・・やっぱり嫌ぁ・・」

泣きそうにため息をつくが見逃してはくれない、結局は予想通りの死闘へと舞台は移った・・


・・・・・・・・


新しいソシエ邸にもやはり訓練場は完備

それも以前と同じく地下に設けられており体を動かすに余りある広大な空間を確保できている

武器倉庫も隣接されており存分に体を動かせる

三人がそこに到着したら先客が一人地べたに座って何やら作業をしていた



「ん〜?おおっ♪今日の生け贄が到着したか♪」


ニヤリと笑い立ち上がるは白衣を着た小柄な女性、

ボサボサな蒼髪と表情が詠みにくいグルグル眼鏡が印象的であり口調もどこか捉え処がない

「ベアトリーチェ、あんたこっちにも来るの?」

「そりゃ館からの指示じゃ良い物はできないさね、定期的にこっちに来て様子を見ているんだよ。

まっソシエの子達は腕がいいから〜、別にこなくてもよかったんだけどね」

軽く言う女性ベアトリーチェ、裏の世界に身を置いているのだがこの親子とは不思議と親交が深いのだ

「まぁ、あんたがいたからこそ短期間に完成したもんだよ」

「おいおいおい、褒めても劇薬しかでないよ〜?」

「・・ああ、ベアトリーチェと言えばクローディアが礼を言ってたわよ?随分と世話になったようね」

以前クローディアは魔物に敗北しその仔を孕まされ危険な状況にあったのをベアトリーチェが助けた事があるのだ

結果は見事に成功、体を壊さずに異形の幼虫を摘出でき事なきを得た

・・まぁ後遺症として母乳が止まらなくしばらくの間当人達で変わったプレイを興じていたのだが・・

「あ〜あ〜、そんな事もあったねぇ・・あの子は達者かい?」

「えぇ、不覚を取った事を反省して訓練に身を入れているわ。夜の生活も流石は妊娠しただけに搾乳プレイに燃えていたみたいよ?

一緒にお風呂入ったけど・・お乳ってあんなにとめどなく溢れるモノなのね・・」

「あ〜!ありゃ私のサービスだ!」

「・・サービス?母乳が?」

「まぁ折角の妊娠体験だ、搾乳を堪能できる良い機会だろう?母乳が溢れるお薬を混ぜていたのさ♪」

「・・呆れた・・クラークが知ったら怒るわよ?」

「満足しているんだろう〜?反論はできんさね♪」

口が達者なベアトリーチェ、濃い内容にアミルは言葉もでなくソシエはあきれ果てている

「・・でっ、調整は済んだのかい?」

「あぁ・・完璧さ。流石は天才騎士クレイゼン・・中々楽しませてもらったよ♪」

話を本題に戻しベアトリーチェが取り出すは芸術品の域に達している美しいカイトシールド

蒼い光を輝かせ中央は鏡面のようになっている。

これを見る限り実戦用な物には見えはしない

「・・綺麗・・」

アミルも思わずうっとりとそれを見つめる、見方に寄ってはそんな形状の鏡のようにも見える盾、ソシエも懐かしむように見つめる

「これで実戦盾なんだから・・あの人の才能って本当すごいもんだよ〜」

思い出しながらにやけるソシエ、豪傑女も所詮は人妻・・他界した夫との甘い思い出に一時女に戻っている

「・・ってかさ、修理する必要あったの?もろ装飾品っぽいし」

「わかっていないねぇ・・、ベアトリーチェ・・ちょい貸してみな」

「あいよ〜、ほどほどにしなよ?」

「あぁ・・そんじゃセシル・・しっかり受け止めなよ!」

「・・へ・・?」

盾を受け取り軽く構えるソシエ、対し猛烈に嫌な予感がしたセシルは咄嗟に剣を構え

本能的に危機を感じたアミルはそそくさと安全地帯に退避


・・フッ・・


ソシエが目を閉じ精神を集中させるとともにカイトシールドの鏡面中央付近に蒼い立体魔法陣が浮かび上がる

ペンタグラム紋様に細かな魔法文字で描かれた円陣、それが輝くとともに盾に風が集まった!

「ひっさびさに!いけぇぇぇぇ!!」

体を捻り盾を投げ飛ばす!

それは超高速で回転しながらセシルの元へと襲い掛かる・・!

「えっ!えっ!ええええええ!!?」

最早盾ではなく巨大な鉄礫なそれにセシルは如何する事もできず・・


メキャ!


「ヘブシャ!!!」

モロに直撃・・キリモミしながらセシルは吹っ飛びそのまま壁に激突した

対し盾はそのままブーメランの如く軌道を変えソシエの手元へと戻った

「仕上がりは上々のようだねぇ・・」

「当たり前だろ〜♪金はかかったが良い物だ!」


「・・良い物だ!じゃないでしょう!!!死んでるわよ!普通!」


普通じゃないセシル、傷つきながらも何とか起き上がるが早くもふらついている

「加減はしているよ、まったく・・この程度で足にきているなんてなんてだらしがない娘だい・・」

「あんな剛速球な鉄の塊ぶつけられたこうなるわい!馬鹿力!」

「馬鹿娘、良く見ていたのかい?・・私はそんな全力で投げてないだろう!」

「あの・・それが盾の秘密なのでしょうか?」

「流石にアミルちゃんは利口だね。ほら・・ベアトリーチェ、説明」

「はいよ〜、クレイゼン愛用のカイトシールド『風牙』見た目は装飾品のようだが鏡面部分もれっきとした金属製だ。

そのまま使っても十分性能が高い。だが真の能力は今ソシエがやったように防具としてではなく武器としてでも活用できる点だよ」

「盾を武器に?投げつけるなんてパパも豪快ねぇ・・」

「相手の力を無力化できるならばそれも有効な事だよ」

「そう、そしてその性能を高めたのがさっきの魔法陣だよ。実は鏡面部の底に風晶石を砕き板状にしたのが入っている

言うなれば風晶板ってところかねぇ、それに魔力を込める事により風が起こり回転しながら自在に宙を飛ぶって仕組みだ」

「基本的には魔術の心得があるならば遠隔操作はできる。

だけど高速で飛ぶから融通は利かない・・回転してブーメランみたく投げつけるのが一番有効なんだよ」

「へぇ・・って・・・風晶石って・・確か四属性魔石で一番高価なんじゃないの?それは板にって・・」

「まぁ〜市場価格で言えばとんでもない値段にはなるねぇ・・。安心しな、魔石は私自作だから」

「・・変人なのに何でもできるのね・・」

「おいおい、褒めるなよ〜♪」

彼女に取っては変人というのは褒め言葉らしい・・

「とにかく使ってみな〜、盾を使った戦闘を教えてあげる・・一本取るまで終わらないよ!」

そういうと風牙を軽く投げ渡すソシエ、そして本人は愛用のレイピアを取り出す

セシル、恐怖の時間到来・・

「うう・・こうなったらやるしかない!・・あら・・この盾・・パパの篭手にピッタリね」

受け取った風牙を左腕に装着させるセシル、篭手と連結させるわっか型の連結具が実にシックリと篭手に合い

予想以上に左手が動きやすい。

「当たり前よ、あの人は何から何まで計算していたのよ?さぁ!さっさと始めるわよ!」

「ひ・・ひぃぃぃ!!」

襲い掛かる鉄の薔薇、強力な防具を手に入れても襲い掛かる母親には恐怖しか感じず

慌てながら迎撃に移るのであった


・・・・・・・・・


「おんどりゃぁぁぁぁ!滅殺!!!」


気合とともに風牙を投げるセシル、戦闘のセンスの良さは筋金入りで扱いにくそうな風の盾もすぐに使いこなす

しかしそこには余裕がなく不穏な言葉を放ちながら盾を分投げる・・

「甘い!」

相手が相手なだけに投げ放たれた風牙はあっさりと回避されて弧を描いて持ち手へと帰還する!


「まだまだぁ!瞬殺!」


「ほらほら!ハンマーぶん投げるんじゃないんだよ!ちょっとは考えて使いな!」

凄まじい爆風とともに襲い掛かる盾をヒラリと避けるソシエ、元々が超人的な身体能力を有している彼女・・

幾ら猛烈な速度で襲い掛かろうとも飛び道具単体では彼女に当てる事は不可能

そして・・

ゴン!

接近を許したセシルの額目掛けレイピアの柄を下ろし鈍い音が響いた。

快音でない分その威力は言わずもかな、すかさずセシルは唸り声を上げながら悶絶し転げまわった

「威勢だけは一人前だけど腕が伴ってないよ?もっと盾や体をうまく使って間合いを外し自分の戦いをするんだよ!」

「いつつつつ・・ママ相手になんて無理よ!」

「泣き言を言わない!ほら立ちな!」

「うぅ・・盾の使い方をマスターする前に私の命が消えそう・・」

「さっさと立つ!ベアトリーチェ、私達はしばらく訓練を行うからアミルととのもに寛いでくれ」

無情にも親子二人だけの濃密な時間の始りを告げる、部外者がいない・・それは遠慮がいらないということに他ならず・・

「あいよ〜、そんじゃ親子水入らずを楽しんでおくれ〜♪」

「セシルさん・・あの・・どうかご無事で・・」

「いやぁぁぁぁ!アミルいなくなったらママが遠慮なく残虐行為するじゃないのぉ!!」

「隙があるからそうなっているだけだよ!ほらほら!速く立たないとレイピアで突き刺すよ!!」

「のぉぉぉ・・!」

まだまだ訓練という名の拷問は終わりそうになく、ベアトリーチェとアミルが地上に昇った後も地下から悲鳴が聞こえたそうな・・


・・・・・・・


親子の愛情が炸裂する訓練を余所にベアトリーチェとアミルは一階の畑に隣接する庭園にてお茶会となった

軽い円卓にはウィンクが淹れた紅茶と軽い焼きお菓子、どれも質素ながらにして趣味が良い乳白色のティーセットであり

これと同じ物がこの豪邸の食堂にはズラリと並んでいる。

ソシエの趣味であり同じような物をメイド達が自分で焼いたのだ

「・・セシルさん、大丈夫でしょうか?」

紅茶を啜りながらアミルがセシルを気遣う、恋のライバルという関係にあるのだが彼女自体はセシルこそがロカルノに相応しいと思っている

自分がロカルノと結ばれるなんて最初から思っていないのだ

それでも彼女はロカルノと共に歩みたいと切に願っている、彼に対する思いはもはや恋ではなくそれよりも大きく温かい物へと変わっているようだ

「まぁ流石に殺しゃしないよ、あれもあれで我が子を溺愛しているからねぇ・・」

上品に紅茶を飲むアミルに対しベアトリーチェはカップの縁を指で摘んで啜っている

上品とは言えないのだがそれが何とも彼女らしい

「そう言うものなのですか?」

「そうだとも、セシルの力を高めるためにああして手合わせをしているんだ。

どこに出しても恥じない、正しく天才騎士クレイゼンのような騎士になるためにね」

心底愉快そうに笑いながらティーカップを置き大きく伸びをするベアトリーチェ、

目の前には地平線まで続く平野にライ麦が植えられており風にそよいで揺れている、

整地は完璧で広めの農道には作業服を着て精を出す獣人メイド達の姿がチラホラと・・

「クレイゼンと言えば・・セシルさんのお父様でしたか・・。どのような御方なのですか?」

「クレイゼン=ブランシュタイン、ソシエ様が見初められたほどの御方でハイデルベルク一の騎士と今でもその呼び名が知れ渡ってます」

二人の間に静かに立つウィンク、様子を見て二人にお茶を注いで上げ自分の職務に徹してる

「それほどの御方でしたか・・」

「生まれ付きの病弱さがなければ世界一の騎士と言っても過言じゃなかったろうね、頭のキレもずば抜けていて武術百般に通じている

真実かどうか定かじゃないが若い頃ソシエと真剣勝負をしてあいつを打ち負かした事もあるらしい」

「ソシエさんを・・ですか?」

「あぁ、私も信じられないんだがねぇ・・。さしずめソシエが『力』クレイゼンが『技』・・

それを両方引き継いでいるのがセシルだが今の時点ではセシルは『力』しか活かせていない」

「・・だからこそソシエ様はセシル様に『技』を教えようとこうしてクレイゼン様の装備を譲り鍛えているのです」

「・・素敵ですね・・」

表面上には見えない親の気遣いにアミルの胸は熱くなる

「いがみ合っているようで親子なのさね・・。アミルも自分の子を持てばわかるんじゃないかね?」

「私・・ですか?」

「種族が違えば基本的には子は産まれない、極低確率での例外はあるがそれは奇跡だ・・。

本当は孕みたいんじゃないかい?・・ロカルノの子・・」

グルグル眼鏡で表情が良く読めないベアトリーチェだがその声はいつもよりも優しく響く・・

「・・、私は・・」

「惚れた男の事だ、例え寿命が違えどもその子を欲しいと願うのが女だ」

「・・・」

無言のアミル、しかしその頬にはうっすらと朱が浮かんでおりその意味をベアトリーチェに伝えている

「・・貰っておきなよ、その話を聞いて私が造っておいたとっておきだ。ちょうど良い機会だよ」

そう言いベアトリーチェはライ麦畑を見つめたまま懐より小さな瓶を取り出す、それはポーション用の物だが中にあるのは銀色の液体

「これは・・」

「他種族でも妊娠できるようになる飲み薬さ。拷問や性奴調教用なんかにも使われる物だがこれはそれをちゃんと精製した物だ。

ちゃ〜んと両親の血を引き継ぎ子を授かる事ができる」

「・・異種での子は奇形児になる可能性が高いと言われます、ベアトリーチェ様は・・」

「自然にできた子ならばやむ終えなし、薬による妊娠だとその薬がいい加減な物だったという事さ。

そういうプレイは産むまでが趣向だからね。だが使い方を正せば立派に役に立てる・・」

「・・ベアトリーチェさん・・」

「それを使うか使わないかはアミルの判断さ、開封しない限り使用期限はないよ・・」

「ありがとう・・ございます」

その瓶を取り何ともいえない顔つきになるアミル、ベアトリーチェが言うように子は欲しくないと言えば嘘になる

しかしロカルノとセシルの仲に自分の子の存在がいていいのか・・

「複雑な仲だけど、ロカルノなら全て優しく包んでくれる・・違うかい?」

「・・はい」

「いいもんだねぇ・・違う種族への純愛ってのは・・」

静かに微笑みながらベアトリーチェが呟き、アミルは無言で頷いた

ウィンクはその様子を静かに見守りながらもアミルのティーカップに温かい紅茶を注いでやるのであった


・・・・・・


地上では優雅な時間、地下では過酷な時間が流れつつ孤島の日が沈む

ようやくソシエのしごきより解放されたセシルは顔の輪郭が変わるほど悲惨な状況であったが

メイド達の治癒によりほどなく元通りに戻るのだが精神的な疲労はそのまま残りぐったりと疲れている


「ほんと・・手加減知らないんだから・・」


ソシエの自室にて椅子に力なく座るセシル、替えの服装は当然ないので鎧の下に着る蒼い戦闘服のみだ

「何を言っているんだい、十分手を抜いているよ・・だらしがない子だねぇ」

「十分耐えたっちゅうねん!全く・・で・・アミル、何だか嬉しそうな顔しているけど・・なんかあったの?」

「え・・?いえ・・特には・・」

「そう?」

「ええ・・」

何故かそういう事に限って敏感なセシルに対しアミルは苦笑いをする

「とりあえずは空牙の扱いは一通りできるようになったね、後はあんたの応用次第だよ・・

それと・・その男っぽい服装も何とかすべきだね・・こいつもついでにくれてやるよ」

そう言いソシエが取り出したのはサイドアーマーに繋がれた蒼いスカート

「なにそれ・・左右の腰に付けるの?」

「ベルトみたいなもんさ、採寸は合わせてある・・とりあえずつけてみな」

「うん・・」

そう言うと手早くそれを装着する、スカートとは言っても脚部を保護する布であり歩行の邪魔にならないよう

両横から後部を覆うように布が垂れ前部は開放されている

防具としての効果は高いとは言えないが実用性には優れており何よりも女らしく見えるのが最大の利点か

「中々似合っているじゃないか・・」

「スカートって苦手なんだけどこれは動きやすくていいわね」

「防刃加工がされているから役になるものさ。今までと違って女騎士らしく見えるじゃないか・・うんうん♪」

ソシエの隣でベアトリーチェが静かに笑う、察するにこれも彼女が造った物のようだ

「まぁ・・情けない戦いはするんじゃないよ」

「へ〜い・・ってそういえばベアトリーチェ、もうここの開発終わったんでしょう?何で滞在しているの?」

「今更何を・・、開発は確かに終わったけど今度はそれと別件でちょいと研究しにきたんだよ」

「・・研究?」

「先住民が残した遺跡・・見ただろう?」

「え・・ああ、潮風の秘宝ね」

かつて海賊達が目をつけたこの島の兎人一族の秘宝・・それが『潮風の秘宝』

海賊達は海の魔獣を操る物と思い込んでいたが本当は海底にある庭園の事を指し

海中にぽっかりと存在するそれには時間が止まり神秘的な空間が広がっている

「そう、それだ。海中にして空気がある特殊な空間、その解析をしていた」

「へぇ・・不思議満点だったけど・・要因がわかったの?」

「まぁねぇ・・この島の遺跡にはどの地域にもない不思議な石があった

・・そいつはね、何と遺跡の天井にくっついていたんだよ」

「天井に・・ですか?」

「あぁ、そしてその石を取り手を離すと再び天井にくっついた・・これがどういうことかわかるか?」

「・・全然♪」

「・・馬鹿娘・・」

「つまりは反重力の性質を持つ石だって事だ」

「っという事は・・それが外だと勝手に宙に向って飛びあがるのですか?」

「流石はアミルだ。こんな感じにね」

そう言うと懐から軽い石を取り出し地面に向って軽く投げる、すると石は弧を描きながら天に向って飛び天井にコツンと音を立ててくっついた」

「すごいわね・・、ってか天井突き破らないんなら浮力はそんなに強くないみたいね」

「その通り・・潮風の秘宝はその石・・私が勝手に『浮遊石』と名づけたがその力を利用した結界を海中に張ったんだろう」

「海を持ち上げたってわけね・・」

「そう、そこだ。浮遊石はそれだけすごい力を持っている・・そこでソシエと私は浮遊石を解析して実用化し

それを元に新しい舟を作ろうと計画しているんだよ」

「浮遊石を使った船・・つ、つまりは・・」

「そう、空飛ぶ船・・『飛空挺』って奴だよ」

ニヤリと笑うソシエ、彼女ならば体一つで空を飛べそうなのだがそれは言わないお約束

化物扱いすると怒り出すのは目に見えているのだ


「・・確か超古代でそんな乗り物があったって言われているけど・・実現可能なの?」

「そうだね〜、解析の度合い次第だけど大筋でいけると私は踏んでいる」

「ですが・・わざわざ今の生活があるのに飛行する舟を造る事に意味などあるのですか?」

「なければそれはそれで遊覧用にすればいいさ・・だけど・・どうにも胸騒ぎがしてねぇ・・」

「ママが・・ね」

それって獣の感?っと喉元まで出掛かってそれを留めるセシルさん

最近になってようやく「口は災いの元」という事を学習したようだ

「それに情報によれば世界のどこかじゃ飛行する舟を実用化した連中がもういるらしい・・

それが平和的な使い方をすればいいがもし・・悪用すればどうなる?」

「頭上を取られるのは戦いにおいて死を意味するに近い・・相当な被害は出るでしょうね・・」

「そう言う事だ・・そんな事が起きないようにするためにも研究しているんだよ」

「ベアトリーチェって意外にいい奴ね・・」

「失礼な!人畜有害だが悪人じゃないよ!?」

「はははは・・ごめんごめん、まぁがんばってよ。空飛ぶ船で悪さ使用とした奴が出てもアミルと私で叩き落としちゃうでしょうけどね♪」」

そうともなれば制空権を握れる飛竜を二人も同居させているユトレヒト隊。

最強の冒険者チームである事は間違いはないだろう

「大口叩いて・・まったく・・」

「こんな時ぐらい大口叩かせて・・そんじゃ、用事も済んだんだし・・そろそろ帰るわ」

「おや?泊まっていかないのかい?」

「そんな大層なもんじゃないでしょう?私もアミルもさっさと帰りたいの!・・ねぇ?」

「え・・あ・・そこでふられましても・・」

「いいから帰るの!そんじゃね〜♪ママ〜♪」

呆然とするアミルの裾を引っ張りながら一礼をして、セシルはさっさと部屋を後にする・・

「はいはい、道草せずに帰るんだよ!」

急いで帰る娘に大声でそういうソシエだが返ってきた返事は小さくすでに出口付近まで降りている事がわかった

「でっ・・何だかんだ言って〜、それなりに腕はついてきているんじゃないかい?」

「まだまだだよ、私を打ち負かす事もできなければ一人前として見てやれないね」

「それも無茶なハードルだと思うんだけどねぇ・・」

「無茶なもんかい、私とあの人の血が流れているんだよ?」

「あははは・・まっ、その英血が濁ってない事に期待しますか・・」

「濁っていない・・とは言い切れないねぇ。全く・・誰に似てあんな変な性格になったのやら・・」

「そりゃ当然ソシエだろう?」

「・・しばくよ?」

「やめてくれよ♪おっと、もう経つよ」

何だかんだでこの二人、仲が良いようで島を飛び立つ飛竜を窓から静かに見守るのであった


・・・・・・・・・・・

夜の飛行・・それは一目につかないが故にアミルは最短コースで我が家へと戻る

月明かりに照らされた夜空はとても綺麗であり疲れ果てたセシルは彼女の背中に寝転び満天の夜空を見つめ続けた

やがて見えてくるはプラハの拠点である館、メルフィとは違ってその優雅な飛行は時間を感じさせないほどの快適さで

セシルは二度とメルフィには乗らないと固く誓うのであった・・

「ただいま〜ロカ〜!疲れた〜!」

「ただいま戻りました・・」

元気良く帰宅すればそれはもう就寝前、クラーク達はもう寝室に向ったようなのだが

ロカルノが居間で二人の帰りを待っていたらしく玄関まで出迎えた

「・・ほう、意外に早かったな・・」

「何日も滞在していたらこちらがもたないわよ!」

「それもそうか・・。まぁ今日中に帰って来るとは踏んでいたがな・・でっ、何の用事だったんだ?」

「・・いつものシゴキよ。もうヘトヘト!さっさとお風呂入ってくるから〜、がんばったご褒美頂戴♪」

「ダメだ」「何故!?」

早速甘えるセシルを一蹴、女らしくしとやかにおねだりするもその三文字で豹変した

「出発前に沢山くれてやっただろう・・、寧ろアミルの労をねぎらうべきだ」

「え・・?私・・ですか?」

二人のやり取りを微笑ましく見守っていたアミルだが自分に振られた途端に慌て出す

よもや今日彼に愛されるとは思っていなかったのだろう

「面倒事に付き合わされたんだからな・・、後で部屋に行く。嫌でなければ準備をしていてくれ」

「・・・・はい♪では・・湯を浴びて身を清めてきます・・」

彼の気遣いに頬を染めながら頷く、その姿に欲情しない男がいるわけもなく・・

「う゛・・何気に私・・損してない?」

「アミルとて我慢しているんだ・・後で相手をしてやるから今だけはあいつに譲れ・・」

「わかったわよ!もう!そんかわり激しくしてくれないとやだからねぇ!」

「・・やれやれ・・」

この時ばかりはロカルノも二人の女性を毎晩満足させているクラークを見習ったとか・・

そうこうしているうちにユトレヒト隊館の灯りが消え、一人の淑女の甘い喘ぎが館に響くのであった・・


「・・あ・・兄上・・防音効果が・・」

「・・うむ、アミルは俺の腕を上回ったか・・微かに聞こえるな・・」

「それでも一階からですから・・隣のメルフィさんはまた起きるんじゃないですか?」

「まっ、いいや、また文句言うだろうし・・。でっ、二人ともどうする?アミルの声を聞いて体が熱いぜ?」

「それは・・」「もちろん・・」

「「お願いします♪」」

こちらはこちらで今日もお盛んだったとさ・・


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