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「パツキンケダモノ恋物語」


その日はこの地方では珍しい大雨であった

大国ハイデルベルクにある小さな町プラハの外れにあるユトレヒト隊館周辺にも分厚い雨雲に覆われ惠の雨が降り注ぐ

庭先で早朝訓練をしている彼らにとっては雨が降ったとなればそれも中止

それ故にいつもにはない穏やかな朝の一時を迎える事となる

「う・・・ん・・。雨だと朝がゆっくりといいわぁ・・」

ベットに埋もれ大きく伸びをするはスラリと伸びた美しき金髪を持つ美女セシル、誰もが振り向かんばかりの美貌を持つのだが

中身がそれとほぼ180度違うがために一部の人間には大変魅力がないとか・・

そんな事は本人まるで気にせずに全裸の体で大きく伸びをし窓の外に移る雨模様を見つめている

「お前にとってはいつもと変わらんだろう?」

その隣で同じく全裸の書物に目を通しているは銀髪緋色の美男子ロカルノ、

鍛え抜かれた肉体を曝け出しながらも優雅に分厚い本に目を通している

流石に仮面は枕元に置いたままらしく珍しき素顔を見せている

「そう?でもぉ・・雨になるとわかっていたなら昨日はもっと愛し合うべきだったねぇ・・」

微笑みながら彼が読んでいる本を閉じその逞しい胸板に頬を寄せる

胸を彼に触れさせて誘惑をするセシル・・だが、ロカルノは眉一つ動かさない

「もうすぐ朝食だ。・・それに昨日から明日は大雨になる事はわかっていた・・私もクラークもな」

「えぇ〜!じゃあ何で一杯愛してくれないのよぉ・・?」

「そんな理由で夜更かしする必要もない。生活習慣がだらしないお前には規則正しい生活を心がけなければな」

「もう、保護者みたいな言い分ね!」

頬を膨らましながらも首筋に腕を回し唇を合わせる

その妖艶な姿は一部の人間には大変不評な事この上ないだろう

「私はそのつもりなのだがな・・。」

「もう!・・あっ、ロカ?明々後日予定空けておいてね?」

「・・んっ?どうした?」

「どうした?じゃないわよぉ。バレンタインデーじゃない」

彼の頬を抓りながら怒り出すセシル・・、だがロカルノは全く動じない

こんな彼だからこそパツキンケダモノを恋人にできるのであろう

「バン・アレン帯?」

「そのネタはもういいわよ!毎年やっているでしょう?チョコレート渡すの!」

「・・あぁ、菓子屋が売り上げを上げるために仕込んだあの戯れか」

「うわっ、白け過ぎ・・。乙女チックさがわからないの〜?ロカ〜!?」

現実的なロカルノの意見にセシル、ご立腹。

怒りの零距離ボディーブローを放つものの縦に割れた強靭な肉体な彼には全く効果なし

「由緒正しい祭りでもないだろう?だが・・その日は確かフレイアが用があると言っていたな・・」


「なぬ!!?ロカ!その申し出、受けたんじゃないでしょうね!!?」


「受けるも何も、久々にセイレーズとともに食事をしようと言ってきたんだ。断るわけにもいかんだろう」

「ロカ〜!!!?」

「先客が入っている以上は無理だ。大人しくしておけ」

ドンピシャリと言い切られたセシル、フレイアの誘いは間違いなく嘘八百な建前・・

でも一応そう言う誘い方をした以上ロカルノが断るはずもない

セシルを警戒しての手段なのは目に見えている、それだけにセシルは悔しさ百倍で枕を涙で濡らすのであった


・・・・・・・・・


「・・そんで〜、キルケとクローディアはクラークにチョコ上げるの〜?」


無気力なまま半日経過・・・、雨故に外出するのも億劫がゆえに厨房にてヤンキー座りをしながら珈琲を啜っている・・

それに対し昼食の後片付けをしているキルケ、クローディア、アミルはいつ危険行為をしでかさないか警戒を緩めない

「ええっ、色々と構想を練ってますよぉ?

最初は二人の体に液状のチョコを垂らして文字通り食べてもらおうかと思ったのですが〜、後片付け大変ですので諦めました」

清楚なメイド服姿のキルケ、だが愛しい恋人のためには多少危険な行為でもたやすく思い浮かびそれを実行しようとする危ない面を持っている

「・・・、クローディア・・それ、やるつもりだったの・・?」

「あ・・いえ・・私は・・反対しました・・」

キルケに対してまともな思考なクローディア、恋する乙女と言えどもそこまで大胆な事はできないようだ

「ふぅん、じゃ結局どうするのよ?」

「キルケは手作りの『ちょこれーと』を作るようです。私は・・大陸の菓子はよくわからないので、お饅頭でも作ろうかと・・」

それだけでも頬に朱が乗る隻眼の乙女、「愛している」っという感情を直接物として相手に伝える事が恥ずかしいらしい

「あの・・三人とも、先ほどから何の話をしているのですか?」

一人話についていけないアミルは皿を拭きながら首をかしげていた

「あぁ・・今度バレンタインデーって言う日がありまして〜。その日は女性が男性に愛の告白をするためにチョコレートを贈るんです!」

「へぇ・・。で・・では、人間はその日以外に告白をしてはいけないのですか?」

人ではなく竜であるアミル、当然の事ながらそんな人間の戯事など知るはずがなくそんな事していたのかと心底驚いている

「いえ・・そういう訳ではないらしいです、要は戯れ・・ですよ」

「へぇ・・」

「そうだ!アミルさんもロカルノさんに甘い想いを込めてチョコレートを贈ってはどうですか!?」

小悪魔な笑みを浮かべるキルケさん、本命がすぐそこでヤンキー座りをしている状況にアミルの顔は大いに引きつり

その本命は鋭い眼光にてアミルを牽制した

「え・・あの・・そのぉ・・時間があれば・・日頃の感謝を込めたいと・・」

「・・ふぅん・・」

「あっ!?決してセシルさんが不快に思うような事じゃなくて・・その・・!」

白い眼のセシル、赤い顔のアミル・・

キルケも波を立たせるのが好きなようである

「・・ふぅんだ、キルケ、数日出かけてくるわ〜」

「えっ、どこに行くんですか?」

「ルザリアよ、ルザリア。こうなったら恋の電撃奇襲作戦決行よ!」

鼻息荒いセシルさん、碌でもない事を目論んでいそうなのだが彼女を止める者は誰もおらず

雨降りしきる中恋するパツキン乙女はライバル達を蹴落とさんがためにルザリアに向けて走り出すのであった。


・・翌日・・


貿易都市ルザリアの守りを担っている騎士団屋敷にて団長タイムは事務に勤しんでいた

お堅い仕事、詰まれた問題・・彼女の顔は真剣そのもの、鋭い瞳と書類が火花を散らしているのだが

彼女が負ける事はない

なぜならその心の内では・・

(クロ〜・・♪)

最愛の者の事を思っているから・・。おまけに今朝方も恋人から元気を『注入』してもらったのだ

そんな訳で忙しい身の彼女なのだが肌の艶は非常に良好・・

「・・ふぅ・・」

羽ペンを止めて一息つくタイムさん、きっちりしたスーツを着込んだその仕草はどこか愛らしい

だが・・


”お疲れのようね・・・”


「っ!!?誰だ!?」

誰もいないはずの団長室に不気味な女の声が・・、気を緩めていた彼女は驚きつつも周囲を警戒する

だが、周辺を見る限り特段異変はない。席の後ろにある大きなガラス窓を見るもそこにも異常なし・・

「・・・?疲れている・・のかしら・・?」

空耳かと思い再び仕事を再会しようとしたその瞬間・・


ポニュ・・


「・・ぁっ!」

突如自分の胸部がへこみ出し・・耳に生暖かい空気が当たってあられもない声をだしてしまう

沈んだスーツの形からして人の手を模っていた

”ふふふ・・また感度が良くなったんじゃないの・・?”

「こっ・・この揉み方・・セシルなの!?」

顔を赤くしながらその名を叫ぶ・・すると突如としてセシルの姿が目の前に現れた

「久しぶり、タイム♪」

「久しぶり・・じゃないわよ・・。何をやったの・・・?」

知らない間に団長室に侵入して胸を揉まれた事にややご立腹なタイムさん

「透明になるブレスレットを貰っちゃってね。タイムに会いたくて裏口から入ったの」

「・・な・・なんて危険なものを・・」

透明になるだけならばまだいい。だが相手はパツキンケダモノ・・、

可愛いモノを愛し自分もその餌食となっただけにタイムはセシルがとんでもない物を入手したと戦慄を覚えている

「ふふふ〜、ねぇ、タイム〜?」

二コリと笑いながら彼女に抱きつく、タイムはそれに動く事ができずなすがままだ

「な・・によ?」

「ちょっとお願いがあるんだけど〜・・いい?」

耳元で甘く囁くセシル・・危険なかほりがプンプンプン・・

「ダメよ!私にはクロがいるの!もう・・同姓で・・あんな事したくない・・」

「・・へっ?あっ、違う違う」

「・・えっ・・?」

あっけらんとする二人、その時に


「お〜っす、タイム〜・・・ぅ!?」


タイミングがいいのか悪いのかその想い人が団長室に入り美女同士が抱き合い互いの目を見つめている光景にしばらく固まるのであった

・・・・・・・

「でっ・・ライバルが増えた事で危機感を抱き今度のバレンタインデーにロカルノの気を引こうってか」

団長室のソファに腰掛けて説明を聞いたクロムウェルとタイム

正直、呆れている

「そうなのよ〜、まったくねぇ」

対しセシルは流石に気まずそう。元々はロカルノの恋人はセシル、それを後から後から違う異性がアプローチしているのだ

それを死守できていないセシルにも非はある

「でも・・、それでどうして私の処に相談にくるのよ?」

イイメイワクダっと言わんばかりな眼差しのタイムさん、確かに・・未だ職務中の彼女には迷惑であろう

だけど『迷惑だ、帰れ』と言えばこの女、何をしでかすかわからない・・親友故に彼女の難儀は十分理解しつつ

多忙の身なのに協力する事となったのだ

「あ〜、ほら・・ね?タイムって結構クロムウェルと上手くイっているじゃない?異性を虜にする秘訣ってのを一つ〜」

「いあ、俺達の仲の事を聞いても仕方ないだろう?ロカルノと俺じゃ感性違うんだし」

「・・・まっ、確かに・・。あんたとロカルノを比べたらミジンコと太陽ぐらいの差はあるわねぇ」

「・・うるせぇ・・」

相談を頼んでいる身なのに勝手である、ソレに対して激怒しないクロムウェル

彼も成長したものである・・

「う〜ん、でも、どうしよ〜・・?」

「ロカルノは仮面好きなんだから仮面つけて告白すればいいんじゃねぇのか?」

「甘いわねぇ・・。仮面好きなんだけど〜、細かいのよ。

『そんな付け方じゃ仮面が傷む』とか『仮面を愛せない女に仮面を付ける資格はない』とかさぁ・・」


「「・・・・・」」


所詮、変人の彼氏は変人である。

今の彼女の発言に二人の心は重なった・・

「そんじゃ・・下手な真似しないで手作りのチョコを渡せばいいんじゃないか?」

「だ・・駄目よ、セシルの料理を食べた物は悲惨な目にあっているのよ?」

瞬時に顔を真っ青にしならタイムが制する、彼女が作る料理、それは正しく劇薬製造

被害者は数知れずにして、死者多数?

「あっ、ひっど〜い!確かに不評だけど、食べられる物よ!?」

「何処がよ!騎士学校時代に野戦調理実習で貴方が作ったシチューのためにクラス全員の胃腸がメチャクチャになったのよ!?」

むきになって怒るタイム・・どうやら彼女にとっても相当辛かった事件らしい・・

「あれは〜、ちょっとした失敗♪」

「・・ま・・まぁ、別に心が篭っていたらいいんじゃねの?天才肌のロカルノの事だ、大量破壊兵器ばりの味だろうが大丈夫だろうさ」

「そう?よし!ならがんばっちゃおう♪」

「ク・・クロ・・(無責任な事言っていいの!?)」

「まぁまぁ・・(奴が本当にセシルの事を想っているなら食うって、それが男だ)」

自論を展開するクロムウェル、所詮は他人事。

彼に取ってはロカルノに苦手なものなしっと思い込んでいるがためになお更である

「でも〜、私チョコって作った事ないのよねぇ・・そもそも何よ、あれ?」

「俺が知るかよ・・、カカオマス・・ってのを何かやるんだよな?タイム」

「私も御菓子作りはやった事ないから・・、よくわからないの」

騎士一筋20余年、家事は得意だが女らしい事はそうとは限らないタイムさんであった

「まぁ・・それならプロに聞けばいいさ。『風華亭』がバレンタインフェアをやっていたから品物貰って作り方教えてもらってくるよ」

「・・えっ!?ルザリアにあの風華亭あるの!?私大ファンなの♪」

「チェーン展開しているから今では有名な菓子屋になったけど・・ルザリアにあるのが本店なの」

「そうなんだぁ・・全然知らなかった・・。って・・クロムウェル、お店と繋がりがあるの?」

「んっ?おおっ、あの店の人気に嫉妬した余所の菓子屋が嫌がらせを働いていた事があってな。俺が上手く纏めたんだ・・

それ以来新作ができる度うちに送られるんだけど・・

俺ってそれほど甘いのが好きじゃないから今では騎士団屋敷の茶請けになっているんだよ」

意外にまともな仕事をしているクロムウェル、『スタンピート』の二つ名は決して悪い方向のみに有名ではないのだ

「あんたが菓子屋同士の揉め事を・・ねぇ・・」

「収拾が付かなかったわね・・。相手の店主を砂糖水に全身漬け込んで水死寸前まで追い込んだんだし」

「いや〜、あれ面白かっただろ♪血糖値メチャクチャ上がったはずだぜ〜」

「結局メチャクチャなのねぇ・・。まぁ、そんじゃ任せるわ♪」

「調子が良い・・そんじゃ後で俺の家まで来いよ。タイム、仕事がんばれよ?」

「・・わかったわ・・」

恋人を連れ去る形になったセシルにタイムは少し恨めしそうに睨むのみ・・

「あんがとね〜♪お礼にタイム、今度ゆっくり・・ね♪」

ゾクゥ!

ウィンクをするセシルに対し過去の戦慄が甦り思わず身震い

「いらないわよ!さっさと行きなさい!」

彼女らしくない狼狽を放ち、一応の親友を追い払うタイムさんであった





その後、ルザリアに徘徊しながら目的の菓子屋にて頼みを聞いてもらう二人。

『風華亭』の女店主はクロムウェルの事を心底慕っているらしく店で販売している菓子を全て梱包し親切丁寧にコツを伝授してくれた

・・ただ・・、お上品な料理が苦手なクロムウェルは元より論外なセシルさんにその内容を理解できたのか・・それは言わずもかな、である

結局、表通りのその菓子屋にて長々と教えてもらっているうちに日は沈んでしまい

二人はふらつきながら彼の家へと向った・・。


だが・・そこには・・・



「・・遅いわよ・・?」



ボロ宿の2階にある彼の部屋、飾り気のない椅子に座るは仕事をしていたはずのタイムさん・・

私服へと着替えており二人を軽く睨んでいた

「タイム・・仕事は?」

「今日は早上がりなの。気になってこっちに来たのにまだ帰っていなかったから心配したのよ?」

心配した→彼氏がケダモノの餌食となる事・・

「う〜ん、そりゃタイムを惚けさせているクロムウェルの性技には興味はあるんだけどねぇ・・」

「俺はいらん。抱きたいのはタイムだけだ」

「あ〜ら、妬いちゃうわねぇ♪」

「そ、それで・・何していたの・・?」

顔を赤らめながらも強がるタイム、だが頭の中ではすでに蕩けちゃっている様子で今夜は寝かさないぞ〜っと決めていたり・・

「風華亭で教えてもらっただけなんだけど・・あの女亭主さん、やたらと長く説明してな・・セシル、わかったのか?」

「・・全然・・」

苦笑いするしかないクロ&セシル、それにタイムも呆れ顔なのだが・・・

「最終的にゃ一から作る奴は相当な技術を持っていなければならないって事で

巷の女はチョコを溶かしてお手製の型に流し込むなんぐらいだってよ。」

そう言いながらただで貰ったチョコレートの数々をテーブルに置いていく

店で貰ったであろうトートバックにそれはギッシリと詰まっており多種多様・・

取り出している本人もこれ、どう処理しようかと悩んでいる様子だ

「それにしても・・色んな種類があるのね・・」

「そうねぇ・・。この白いチョコなんて珍しい〜」

そう言うと上機嫌なセシルは数ある銘菓のチョコの中から綺麗な紙箱に包まれた純白のチョコレートに手をかけた

「いあ、新作の試食じゃないんだろ?とにかく・・沢山貰ったんだから好きなの選んでそれを溶かし型に流し込む、

そして固まらせて梱包すれば万事オッケーだ」

「なるほど〜♪あ・・でも・・私、館じゃ厨房への立ち入り禁じられてたわ・・」

ヨヨヨ・・っと布の代わりにチョコレートをかじるセシル、タイムはそんな事じゃまだ生ぬるいと目で訴え

クロムウェルはそこまで酷いのかっと冷や汗一つ・・

「・・そんなら隣のフィートの部屋を使えよ。台所はあったはずだぜ?」

「・・あら、気前がいいのね?フィート君も」

「あぁ、今あいつはエネと一緒に海外逃亡中だ。バレンタインデーともなりゃ大量のチョコを渡されるって言ってたしなぁ」

「・・彼らしいというか・・なんというか・・」

「まぁ、たまに画鋲が入っているのもあるらしいから手をつけないんだってよ」

「「・・・・」」



ナンパ師、それは甘美な魅力とどす黒い嫉妬が隣り合わせの世界・・。
その中を渡り歩くフィートは特有の危機を回避する術を知っている



「まぁ、そんな訳でしばらく誰もいないだろうし鍵は開いているから勝手に使えばいいさ。型は・・自分で作れ」

「わか〜たわよ〜。そんじゃ、ありがとね♪」

テーブルのチョコ全てを取り上げながらセシルは笑顔で退場する・・。

想い人に気持ちを伝えるにしては余りに巨大な量なのだがそれを突っ込む人間はそこにはいない

「・・まぁ・・・パツキンケダモノクッチャネも恋には勝てぬって事か・・?」

「でも・・チョコを作るなんて・・。余計距離を開かせる行為にしかならないと思うわ・・」

「人の恋路にあれこれ言うもんじゃないし〜、俺達は俺達だからな」

そう言いながら二人きりになった室内でおもむろに彼女の胸に手をかける


「・・ふぅん!・・だ・・め。隣にいるのよ・・?」


駄目と言えども抵抗しない、仕事を終わり恋人の胸の中で幸せを感じたいのが本音なタイムだが

いかんせん壁の向こうに天敵(?)がいるのだ。

声が聞こえては気付かれてしまう、だけど彼に触れて欲しい

悩ましい状況に声を抑える、だが恋人はすでに臨戦態勢に鼻息が荒い

「その方が燃えるだろ〜?タイムさんよ〜」

「やん・・」

ゆっくりと抱かれ腰に手を回された

理性と欲情、プライベートのデレデレモードな今のタイムにはそれを制する事ができず声を押し殺して

情事にふけようかと思った瞬間・・


ジ・・・ジジジジ・・・


「・・な・・なんだ?」

見れば彼の部屋の壁から白い煙が出ている

「火事・・!?」

抱き上げながらもその顔が騎士団長のモノへと変化していくのだが・・

「いやっ・・燃えるってか・・溶けている・・?」

異臭とともに壁木に細かい穴が空いていく・・、壁を挟んだ向こうはフィートの部屋の台所

そうともなると原因は一つ

「あ・・ら、飛び散ったみたいね・・」

溶けた穴の中から顔を見せるパッキンケダモノクッシャネ・・

「・・何やっているだよ・・?」

「えっ、チョコを溶かしていたんだけど〜・・」

「この・・臭い・・真坂・・強酸使ったの!?」

「・・?溶かすってそう言う事じゃないの?」

絶望的なセシルの料理センスにもはや反論する気力も失せるクロ&タイム

「色々考えてください・・。ごゆっくり・・」

「あんがと♪そんじゃ!がんばるわよ〜!!!」

恋するケダモノ、凶行を続ける

もはや彼女を止める者は何もない、目標目掛け人の限界を超えた狂気の実験を続けるのである



「・・・、今日は、タイムの部屋で寝よっか?」


「そ・・うね」


今日はここでは眠れない、台所から漂ってくる異様な煙を見つめながら二人は手を貸すんじゃなかったと後悔しながら

その場をただ立ち去る事しかできなかった・・



・・・・・・・・・・・・



そして運命の日

朝食を終えた直後、セシルはロカルノの部屋に侵入する。

もたもたしていると出かけられてしまう故に短気決戦・・セシル、生まれて初めて緊張というモノを体感す

「ロカ〜、ちょっといい?」

「・・ん・・?どうした?」

さりげなく彼に近づく、ロカルノはまだ出かける準備はしておらず今日着用する仮面を選んでいる

第三者からして見れば何をしているのか全くに理解不能

「はい♪バレンタインデーのチョコレイトォ♪」

満面の笑みで渡すは丁寧に梱包されたチョコレート。

”親愛なるロカルノへ”っと精一杯綺麗な字で書かれており手作り感を演出している

「・・・私に?」

「うん♪」

「・・・お前が?」

「もち♪」


沈黙が場を支配する。普段ならばお前の作る物は食わんっと言い出しかねないのだが

しばしそれを凝視しながらも・・

「受け取っておこう」

ぶっきらぼうにそれを受け取る・・

「開けて開けて〜♪」

「今・・か?」

「今!!」
ギロリと睨むセシルはん、開けて食え、さもなければここから出られる事叶わぬと思え・・そう目が物語っている

「・・やれやれ・・」

覚悟を決めて封を開ける・・、中にあったのはロカルノの仮面を模ったチョコレート・・

彼女が作った物にしては中々手が込んだ出来である

「一生懸命作ったの〜♪ねぇ、食べて〜♪」

「・・・」

無言のまま仮面チョコの端を一口大に割り、口に入れるロカルノ

彼女の料理を知る者にしてみれば迷いのないその姿に自決する気では・・?っと思う事間違いなし

「どう?」

「・・まぁ、そこそこいけるな。お前にしては上出来だ」

セシルの料理を口にして無事なロカルノ、対しセシルは目を潤ませて彼に抱きつく

「ありがと〜♪」

「・・だが、この仮面のディティールは気に食わんがな・・」

「そこらは勘弁して・・。うふふ〜、私の愛を受け止めてもう何処にも行く気がなくなったでしょう♪」

っというか抱きつきながらきつく抱きしめ動きを封じようとしているセシル

これで出かけると言うならば強硬手段に踏み込む・・そう言っているかのようだ

「出掛ける・・?ああっ、お前はルザリアに行っていたようだから知らぬか。

フレイアは急遽特殊任務についておりハイデルベルクにはいないのだ。だから出掛ける予定はない」

特殊任務、それは名ばかりに左遷に国外追放であったりするのだが

それを知る人間は極僅かであり・・

「あ〜らら、災難ねぇ・・♪そんじゃ、今日は!?」

「特に予定はない」

「やった〜♪じゃあ付き合ってもらうわよ!」

「・・やれやれ・・」

「そういや・・アミルからは・・もらったの?」

「いや、何もないな(・・遠慮して昨日渡したとは言えんな)」

「よし♪じゃあデートにしましょう♪」

有無を言わせぬ気迫のセシルにロカルノは何も言わず、その日は二人で仲良く恋人らしい一日を過ごすのであった・・


・・その夜・・

彼の部屋のベットには全裸で満足そうに寝息を立てているセシル

いつもより激しき情事に至極満足なご様子なのだがその隣にいるはずのロカルノはいない

・・そして彼がいるのは食堂・・

深夜灯りをつけテーブルに広げるはセシルから貰った仮面チョコとその欠片・・。

欠片は朝に口にした物であり割れ目がピッタリ合っている。

「ふむ・・、咄嗟にチョコをフィルムで包んだものの・・」

流石の彼もセシルの作った物をそのまま食うほど馬鹿ではない

口の中に透明なフィルムを用意して口に入れた瞬間舌で器用に包み込み食べたふりをしていたのだ

そこまでしたのは彼なりの気遣いなのか否か・・

唸りながら欠片を乳鉢で砕き水の入ったビーカーに入れてかき回す・・

そしてその中に小さな鉄片を放り込む。

それは見る見るあわ立ちボロボロになっていき・・消滅した





「・・・・・・、強酸性・・か」




彼の苦労は終わらない・・


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