「愛を賭けて・・」


王都ハイデルベルク

大国の中心地にして国内最大の規模を持つ都市

それゆえに人の行き来は一際激しくそれは夜になっても続く事もしばしば

だから都市の隅から隅までにぎやかな印象を持っているものなのだが

実際はそうともいえず大都会と言えども静かな憩いの場所というものは存在する

 

────

 

大通りからはかなり離れた裏路地の小洒落た酒店

趣味の良い内装をしており古いアンティーク調の小物が並べられ

質素ながらもゆっくりと酒を楽しめる空間を演出している

隠れ家的な店のようでカウンター以外には丸テーブルが三つしかなく

よぼよぼな爺さんがそれに不釣り合いなほどパリっと仕上がったバトラー正装でグラスを磨いていた

 

「・・やれやれ、ラーグほどじゃないがやっぱ騒がしいぜ・・」

 

客がほとんどいない中、丸テーブルに囲むように座る一行の一人がため息をつく

金髪で凛々しき青年、私服だが腕の立つ戦士であるとわかる

男の名はグレン、若くしてローエンハイツ騎士団の副団長に就く騎士

 

「ローエンハイツもそうじゃないのか?港は眠らないってよ」

 

対面するように座り大きく伸びをしている男性、

軽い茶髪だが整った顎鬚をしておりグレンよりも大人びている

彼はジャスティン。

ハイデルベルク騎士団の中でも名誉ある聖騎士であり聖剣「ブレイブハーツ」の使い手でもある

 

「その分の守りも大変じゃろうなぁ」

 

ニヤニヤして話を聞く老人・・白髪で飄々としているが服から覗かせる体つきは実にしっかりしている

この老人の名はマクドウェル、

ジャスティンと同じくハイデルベルク騎士団に所属する古株で

情報部の長老とも呼ばれる「自称」忍者

マスターは全然気付いていないだが国の安全を守る有名な騎士達が私服で揃っているのだ

「まっ、そこらへんは団長が何とかしているさ・・そんじゃ、始めますか♪」

彼らが揃っている理由・・それは・・

「ったく、ラーグの臨時巡回にジェットが借り出されたからおいそれとカードもできねぇ」

とどのつまりギャンブル

ジャスティンもグレンもお堅い職についておきながらかなりの博打好き

まぁ金の賭けはするが生活が崩壊までではなくあくまで趣味の範囲・・

それでもばれれば問題には違いないので

いつも落ち合う娯楽都市ラーグを避け、マクドウェルお勧めの隠れ家に来たのだ

「しっかしマクドウェルじいさん、結構趣味がいい店知っているな」

「わしほどにもなればこうした店の方がいいのでな・・その代わり騒ぐなよ?」

胸を張るじいさん、口はいいほうではないが中々の好々爺・・っと言ったところか

「承知承知♪・・だが、同僚の爺さんがいる手前金の賭けはよくないわな」

カードを切りながらグレンが言う、

まぁ堂々と金を賭けると言っている時点でよくはないのだが・・

「堂々と言っておるだろう・・まぁたまには金以外の物で賭けてみろ」

ニヤニヤ笑いながら酒を飲むマクドウェル・・平然と言ってのけるところ、中々に曲者らしい

「金以外なぁ・・なんだろう?」

「・・うう〜ん、そういやジャスティン。お前って確か同僚のフレイアとソッチな関係だったよな?」

「んなっ!?何を言い出すんだ!」

焦リ出すジャスティン、それにマクドウェルは興味ぶかげに笑っている

「ほっほう、確かそうじゃったなぁ・・」

「過去の話だよ、んなもん・・・」

「へぇ、別れたのか・・。見たことないが絶世の美女って話じゃないか」

そう言いながらも手馴れた捌きでカードを配る・・何故かマクドウェルも参加しながら・・

「まっ、義理の兄と和解してな。それからはそいつに熱を上げているよ」

「ほぉ・・義理ながら「おにいちゃん」が好きってのかぁ・・」

「そんなところかな?まっ、色々といざこざがあったらしいからなぁ・・言うところの

『雨降って地固まる』って奴だろうなぁ。

まぁ・・最近はなんかやたらとため息ついているけど・・」

苦笑いしながらもため息をつくジャスティン、その姿にグレンは少し眉をかしげる

「おいおい、あんたらしくないな。放っておいていいのかよ?」

「そこらは俺が言う事じゃない。

そもそもあいつが俺に近づいたのもその兄の事を忘れるためだったような感じだしな

──本気で俺と付き合うつもりはなかったんだろうよ」

「・・フレイアの兄、確かユトレヒト隊に所属するロカルノという男だったか・・」

「なんだよじいさん、知っているのか?」

「伊達や酔狂で情報部には所属しとらんわい。

今国内で最も有名な冒険者チーム『ユトレヒト隊』それに所属する仮面の男ロカルノ。

情報だとどうやら北国ダンケルクの第一王子と言われている」

「・・・嘘だろ?王子さんがなんで冒険者やってるんだよ?」

グレンが思い描く「王子」からして冒険者をやっているとはどうしても思いつかない様子だ

「王位はすでに放棄しているってよ。

まっ、あいつ次第さ・・それよりもお前の方も随分と熱いようじゃないか?グレン」

「はぁ?」

「カウンターの隅に座っているあの娘・・・・お前の相棒だろう?」

グラスを持ち指差す先にはカウンターの一番端っこにちょこんと座っている褐色肌の若い女性

動きやすいデニムズボンと白い無地のシャツだけ・・

しかも飲んでいる物も酒場なのに柑橘ジュースとかなり浮いている

それでも本人は極力気配を隠している・・つもりのようだ

「・・イグニスか・・、ただのパートナーだっての。っうか王都までついてきたのか・・」

「ほう・・お前さんもモテるのぉ・・。小振りだが中々上物と見える」

何気に品定めするエロ爺、しかし恋愛感情を持つにしては少女は堅物過ぎたようでグレンは顔色を曇らせる

「じいさん、勘違いすな。どうせ新しい体術を覚えたのを試したいんだろうさ

見てみろよ・・落ち着いてこちらに気付かれていないと思いこんでいるらしいがしきりに貧乏揺すりしていら・・

ありゃ早く体を動かしたい証拠だ」

訓練が大好きな相方の紅一点イグニス、そのまっすぐな性格故に行動なんぞ丸わかりになってしまう・・

「それでも王都までわざわざついてくるかぁ?こりゃ脈有りだぜ?」

「んなわけないだろう?三度の飯よりも訓練好きって変わりもんなんだから」

「ほっほっほ・・じゃがどうやら二人ともそれなりに気になる異性がいる・・っということじゃな」

「・・その気になるってのは非常に拡大解釈する必要がありそうだな・・」

「細かい事を言うな・・ではっ、こういう賭けはどうじゃ?」

ニヤリと嫌な笑みを浮かべ酒を一気に飲み干す

「・・この一回の勝負にて負けた方はその相方にアプローチをする・・」

「「はぁ?」」

「・・ある種金を賭けるよりスリルがあるじゃろう?」

相当いい性格なじいさん忍者さん、しかし二人にとってみればなまじ金をかけるよりかは

スリルがある事には違いない・・なんせ顔が引きつっているのだから・・

「そりゃそうだけどよ・・、じいさんが負けた場合はどうすんだ?」

「そうだそうだ」

「・・そうじゃな、今月の給料の半月分を山分けで渡そう」

「・・結局金かい」

「しょうがないじゃろう、よもやこんな爺の誘いを受けるオナゴもおるまい」

おじいちゃん好きという珍しいジャンルもあるがそれはハイデルベルク広しと言えどもほとんどいない

「まぁ、それもそうか・・。じいさんの弟子も何か熱を上げているそうじゃないか?」

「おおっ、ヒサメか。確かにの・・シグの奴めが見事に射止めよったわ」

マクドウェルの弟子という肩書きを持つ女性ヒサメ、

暗殺者としてこの国にきたところを成り行きで騎士団に協力するようになったものの

その姿を見る者は関係者以外ほとんどいない

「─あのヒサメをなぁ・・」

戦ったことがあるジャスティンにとってみればあの戦闘のプロが男に尽くす姿が今ひとつ想像できない

「──なんだなんだ?辛気くさそうな顔をして」

「んっ、ああっ、世の中何があるかわからんって事さ。

そんじゃ・・幸運の女神様に祝福をしてもらって勝負しますか!」

手早く配られるカード、交差する思惑

いつもの賭けとは違う緊張感の中、自分の運に期待をかけて漢達はその手札をさらけ出す

 

 

 

 

そして・・・・

 

 

────

 

「────でっ、負けちゃったと・・」

王都ハイデルベルクの中心、騎士本部が置かれた巨大な屋敷の一室、

緊急出動が多いここの主達のせいでやや散らかっている室内の中でうなだれるは・・

「あり得ない・・、あのじいさんがフラッシュでグレンがストレート・・それなのに俺は・・俺は・・」

悪夢を見ているかのように頭を抱えて落ち込むはジャスティン。

そしてそれを心配するように声をかけるはこの部屋とその部隊を束ねる女性騎士アインリッヒ

長赤髪・黒眼が印象的でどこかしら優しい雰囲気を漂わせる、

しかしそれも騎士団用の制服に身を包み正にキャリアレディ

「─でっ、ジャスティン様はどんな手だったのですか?」

ニヤニヤ笑いながら弁当をつまむは金髪の優男レオン、

彼も相当ツいていない性格故に他人の不幸を何よりも愛するようになってきた

そうでなければやっていられないのだ・・

「・・ワンペア・・」

「・・・・・よくそれで勝負したわね、馬鹿みたい」

ぼそりと呟くジャスティンに対し止めとばかりに言ってのけるは小柄な女性シャルロッテ・・

金髪・紅眼の美少女(?)で目つきからして気の強さが伺える、

実際かなりの毒舌でレオンでさえ口説くのを躊躇ったほどだ

「うるせぇ!全員良い役が回っていなかったんだ!

そんな状態でワンペアでも来たなら勝負をかけるのが男ってもんだろうが!」

「──その話が本当なら、もしやジャスティン様は狙われていたかもしれんな」

「狙われた・・?ま、まさか!!いかさまだったのか!!?」

口を押さえながら分析するは男装の麗人レザート

金髪碧眼の男装麗人で静かに話に耳を傾けていた、冷静な性格だが付き合いが悪いというわけでもなさげ

「あらあらぁ、いけませんねぇ・・」

唯一関心があるのかないのかわからない様子の犬人女戦士ニーナ

長茶髪・茶眼の天然オットリ系、しかしバリバリなパワーファイターでその分頭脳労働が苦手のようだ

「それで・・どうするのですか?」

「どうするって・・ギャンブラーたるもの、

一度負けた賭けにはその報酬を渡すのが最低条件だ・・やるしかない・・」

「フレイア様に告白・・ねぇ・・。勝算あるの?」

「知るか、ふられたらそれはそれで笑い話にはならぁ」

完全にヤケクソ・・その様子に何気にシャルは嗜虐心をかき立てられている

彼女の辞書に「上官」と「敬う」という言葉はない

「でもぉ、ジャスティン様は以前フレイア様とおつきあいされていたのですよねぇ?」

「そうそう、自分も不思議に思ったのですが〜、復縁って事でしょう?」

「──お前ら知らんか、あいつと俺が付き合ったのは訳ありだ。

あいつは大好きな義理の兄とちょいと喧嘩していてな、絶交状態だったんだよ。

でも気持ちは捨てきれなかったらしくてそこに代わりとして俺を狙ったってわけ」

「・・何それ、寂しさ紛らわすために同僚狙ったの?」

きつい口調なシャルさん、思ったことはストレートに言葉の暴力で伝える

それでも周囲に敵を作らないのはその容姿のおかげからか・・

「う〜ん、シャルの言い方にはトゲがあるがまぁそんなところだ。

でっ・・俺もあいつの心情を察して恋人らしい事をしてきた

・・だがそれも束の間、兄弟は和解して今はそっちの方に熱を上げているよ」

「隊長、ふられたのですか?」

「いんや、具体的な別れの言葉は述べていない・・言うところの自然消滅って奴だ。

あいつも兄と和解できたのが相当嬉しかったのだろうさ、

俺の事なんて頭の中からスッポンっと抜け落ちたのさ」

「──なんか・・フレイア様、薄情ね」

「しょうがないさ、ずっと仲違いしてきたんだしよ」

そう言い頭を掻きながらジャスティンは軽く息をついた

粗野に見えても相手の事を考える・・しかし彼は彼でフレイアに対しての想いはある

どうしたものかと腕を組み悩んだその時

 

『その浮かれた隊長殿の事だが・・情報は必要か?』

 

突如会話を挟むように男の声が・・

それは彼らには至極聞き慣れた物、誰一人驚く者はおらず・・

「情報だぁ?大方じいさんから監視でもやらされているのだろう、シグ」

振り向きもせずに言うジャスティン・・対し部屋の角にゆっくりと姿を見せる細身の男・・シグ

短い黒髪が特徴で全身これニヒルな空気を放っている

「監視?ふっ・・サポートと言って欲しいところだな」

「シグがサポートってのも変よねぇ、大方失敗したところを小馬鹿に笑うのが狙いじゃないの?」

「シャルロッテ、それは語弊だ。余りにもばかばかしいのだがこれも任務でな。

・・まぁ、あのジャジャ馬が慌てる姿を見れるのならば特別という事で引き受けたのだ」

「自分ところの大将に牙剥き過ぎじゃないか?シグ」

その内俺みたいに叩かれるぞ、っとシグに訴えるは薄幸美男子レオン

ここに来てからは完全マークされているためにその性格にも変化が訪れているらしい

「ふっ、大将と言えるほどの器でもない以上は仕方あるまい。

お前こそ・・人に物を言う前に同僚の尻を追っかけ回す事を控えた方がいいんじゃないのか?レオン」

「余計なお世話だ・・ったく」

「そう目くじらを立てるな、

個人的にお前の素行の悪さが響けばディウエス様のところで

軟禁させると上層部で話が出ているらしいのでな

・・なじみの男が男色に墜ちるのは流石に寝起きが悪いので忠告したまでだ」

「シグさん!ありがとうございます!!」

「──男色というのはどういう事だ?」

「あそこは男所帯だからな・・そのケがある人物も数人いると言うことだ」

「「「うお・・」」」

思いっきり引く女性陣・・だがニーナが無反応なのが少し気に掛かる

「さて、ジャスティン様・・情報はいるか?」

「・・・ああ、聞いておくよ」

「了解した、現在あの女が熱を上げている男ロカルノには同じくアプローチをかける女が二人いる。

候補は三人と言うことだろう」

「っ!ロカルノって・・もしかしたら・・!」

「シウォングでもその名は知られている上にここで騎士職に就けば

彼らの事は知らぬものはいないだろう・・ユトレヒト隊だ」

「あぁ、ライさんと仲良しの皆さんですねぇ」

ほえほえ〜っと応えるニーナだがユトレヒト隊に興味があるわけでもなさげ

どこまでも掴み所がない性格はある種曲者である

「若干一名、忌み嫌われているがな・・。

ロカルノが相手をしているのはセシルとアミルという二人だ。セシルについては言わなくてもいいな」

「そりゃな、色んな意味で超有名人だし」

「うむ・・ではアミルという女性についてだ、彼女は高位飛竜族と呼ばれる竜人だ。

見た目は人間の女だが本性は巨大な飛竜だという

確認はとれていないが情報筋としては信用できる」

「竜人・・伝説の種じゃないですか・・ユトレヒト隊はそんな人物まで・・」

「経緯は不明だ、だが竜と人とでは寿命が違いすぎる・・。

それを承知の上でアミルという女性はロカルノに想いを馳せているらしい」

「健気だねぇ・・っていうかそのロカルノっての、女泣かせだ」

「まぁそれでも仲として睦まじいらしい、本拠地であるプラハでも二人並んで歩いているのがよく見かけられる」

「何か・・羨ましいですね」

「──ふっ、セシルについても同様だ。

ロカルノという男、俺達の元御大みたく二人ともモノにするつもりなのかもしれん」

「ライみたいにぃ?じゃあそのロカルノも鬼畜だね!」

「さてな・・そして肝心なあの女とロカルノの関係だが・・他の二人に比べてみれば余りにも哀れだ・・」

哀れだ・・っと言っておきながらもその表情は非常に嬉しそう

「・・っというと?」

「顔を合わすほとんどが家族行事・・っと言ったところか。

恋人らしい行いは全くと言って良いほどない

ただでさえ他の二人とは顔を合わす機会が少ないんだ・・進展は絶望的だろうさ」

「満足そうに笑っちゃって・・。でもジャスティン、それならチャンスじゃん」

「簡単に言ってくれて・・」

「どうしたのですか?何か都合が悪い事でもあるので・・?」

「アイン、お前にはわかんねぇだろうなぁ・・自然消滅した男と女がその話題に触れる気まずさってのが・・」

「それを悔やむのならば消滅前に引き留めればよかったものの・・」

「もっともだ・・でもなぁ・・あいつの気持ちが分かっていた分

俺も半分遊びだったんだよ。言っただろう?

『恋人らしい事』ってさ。実に微妙な仲だったんだわ、これが・・」

「なるほどぉ・・遊びだったのですねぇ。でもあのタイプだと・・」

「まぁ・・な。元々スッキリした性格なんだ、

惚れた男との仲違いが解消されたならそれで向こうに夢中になればいいんだが・・

あいつもあいつで自然消滅に関しては引け目を持っているらしい」

「ふっ、なるほどな・・。それでジャスティン様の話題が出るとあの女の様子がおかしくなるわけか」

「何々〜?シグったらフレイアの観察が趣味〜?」

新しいネタはっけ〜んと目で笑うシャルに対しシグはもう少しマシなネタを考えろと目で非難

「・・不甲斐ない隊長殿を部下が鍛え直してやろうとしているのさ、

有事の際に使い物にならなければ意味がない」

「大した部下だ・・、しかしジャスティン様・・

賭けの勝ち負けを抜いたとしてもフレイア様との事には区切りを付ける必要はあるのでは?」

「──レザの言う通りなんだが・・なぁ」

「っていうかさ、ジャスティンとしてはフレイアの事どう思っているのよ?そこが大事なんじゃないの?」

「おお〜、シャルちゃんすごいぃ〜♪」

「俺な・・どうなんだろ?実際女と付き合うのってあいつが初めてだったからなぁ・・」

 

「「「えええっ!!?」」」

 

「──何驚いてるんだよ?」

「ジャスティンって結構遊んでいそうに見えたのに・・ねぇ・・」

「察するに二人の関係はそんな過去の話じゃない、それまで童貞だったということか・・」

「おいおい〜シャルもレザも失礼な妄想に入るな〜、正式に付き合った女があいつぐらいだって事だ。

遊女との相手は腐るほどある!」

「・・あの、騎士が遊女に手を出すというのも不名誉だと思うのですが・・」

「アイン、これだけは言っておく。この職・・・真面目にやっていたら恋人なんかできない

お前も代表だ、俺レベルまでなったら恋人に会う機会もなく仕事に追われ欲求不満、

唯一の楽しみが仮眠室での自慰なんて事態になりかねない」

「ジ、ジャスティン様!」

「事実だ、実際俺にゃ一般の女性と仲良くお茶をする暇なんざない。

女を作るにも同職じゃないとまず無理だ・・

そうなると子作り適正世代な俺にとっちゃ体の疼きは遊女なんかで鎮めるしかないんだよ」

「・・うわぁ・・嫌な事聞いた・・。俺は絶対出世しないぞ・・」

「レオンには出世なんて無理無理♪じゃ・・形としてはシグみたいなのが理想って訳?」

「──そうだな」

何気に彼女持ちなニヒル男を一同見つめる、

 

「む・・なんだ・・一同私を見て・・」

 

その異様な視線に流石のシグもたじろいでしまった

「一番無愛想気取っているのに真っ先に女を作るそのしたたかさを褒め称えているのだよ、シグ君」

っとレザート、落ち着いた物言いな分言葉の重みがある

「・・人聞きの悪いな・・、ヒサメとは・・その、なんだ・・星の巡り合わせがよかっただけだ」

「おやおや、メリアみたいな事言って〜。しかし羨ましい・・俺も後に続かないと・・」

「まぁ、ヒサメに男ができる事自体俺も驚きなんだがな・・」

「──ふっ、ジャスティン様・・あれはあれで中々可愛いところがある。猫を躾けるのと同じだ」

「見せつけてくるな・・流石は情報部の隠れ名カップルか」

「・・意外に耳年増だな、レザよ・・」

「フフフ・・正直私もあのシグが女に尻尾を振る事が信じられなかったのでな・・犬と猫、睦まじい事だ」

「────言っていろ、ともあれ、必要な情報は伝えた。結果はそちら次第だ」

旗色が悪くなったところでシグ退場、姿を眩まし室内から忽然と消えた・・

「・・あ〜らら、逃げちゃった。レザの言葉にシグもタジタジだねぇ」

「あんなに慌てるシグなんて初めて・・。よほどの仲なのね・・」

「情報部の隠れ名物になっているらしいからなぁ・・いやはや、あのシグがねぇ・・」

「やれやれ〜、ヒサメの勧誘したのは俺だってのに・・呑気なもんだぜ」

「あ・・ははは、それならばジャスティン様。私達も貴方のサポートに回ります!」

「アイン・・いや、しかしだなぁ・・所詮は賭けの代償だぜ?

お前達が首をつっこんでも何も良いことないと思うが・・」

「そうでもないかもよ?まぁ仕事サボってまで手伝わないけど〜非番の暇つぶしにはちょうどいいんじゃない?」

「たまには人の恋路の手伝いをするのも悪くはないか、それはそれで楽しめそうだしな」

「そうですねぇ・・」

「けっ、勝手にしろ。あいつを刺激しても何も良いことがないって思い知るといいさ」

 

 

────

 

かくしてリバティのメンバーがつまらない賭けの代償に便乗して首を突っ込むこととなった

そして非番を利用して彼女達が向かうは敵の牙城、情報部

本来ならばハイデルベルク城内にある情報部には立ち入りが

制限されており一部の騎士しか入ることはできない

しかしリバティの名の通り彼女達には広い行動許可を持ち非番でも簡単に情報部へと入る事ができた

 

「──え・・えええ!?フレイア様の事ですか!?」

 

「そうそう、最近何か変わった事ない〜?」

「些細な事でもいい・・わかりやすい性格だ。メリアなら気がつく事もあるだろう」

 

折り悪く休憩室にてこくこくお茶を飲んでいたフレイアの側近(?)メリアを拉致・・

今日の非番で情報収集に来ていたシャルとレザのコンビによる尋問が開始された

正反対とも思えるこの二人だが意外に馬が合うらしくこうしてペアを組むことが多い

背の高さからしてみれば正しくリバティの凸凹コンビ・・

「そうですねぇ・・この間やたらと落ち込んで帰ってくるのを見ましたけど・・」

「落ち込む?・・詳しく頼む」

「レザートさんが好きそうな話題でもないのですが・・

そ、その・・好きな人に会いに行ったのですが〜・・先客がいたようなのですって」

「ほっほう!修羅場ね!!」

「しゅ、修羅場というよりかは・・相手にされなかったというかなんというか・・」

「・・・うわぁ・・、ロカルノって奴、本当に相手にしてないのね・・ひどー」

「っというか〜、その、相手の人が・・情事中だったので会うに会えなかったみたいです」

それがセシルなのかアミルなのか・・どちらにしても乱入できるほどの度胸は彼女にはない

これが自分が正式にロカルノの恋人になっていたのであるならば

「何しているの!?この泥棒猫!」っと叫べるのだが・・

肌を合わす事すらないフレイアにとっては勝ち目などあるはずもない

「──情報部の室長の割にはうかつな失敗だな」

「そ、それは言わない約束ですよ・・

でっ、帰ってきたらアリーさんに慰めてもらってました。そのぐらいですかね」

「・・・・ちょっと待って。アリーってここの副隊長よね?」

「はいぃ、私もよくさせてもらってますよ!すごく優しい人なのです!」

「君の感想はいい、しかし・・慰めてもらうほどの仲なのか・・」

「親友って感じですね♪プライベートな悩みも良く聞く仲だって事で落ち込むフレイア様を励ましています」

職務上彼女の補佐に付いている副隊長アリー、一説によればフレイアよりも優秀と言われる人物で

周りから認められている童顔才女、しかし自分はフレイアには及ばないと彼女を心底尊敬しているらしい

「有力な情報ね、つまりはメリアよりもアリーに聞けば早いって事じゃない!」

「うむ・・うまく協力を呼びかければ事がスムーズに運ぶな、では早速行こう・・メリア、礼を言う」

「はっ、はい。あっ、成功するか見てみましょうか?」

「予め結果を知っていると面白くないからいいわ、それじゃね〜♪」

っという訳で一路副隊長であるアリーに尋問を・・

 

 

 

「・・・ええ、そうですか。なるほど・・」

 

 

休憩時間を見計らいアリーを直撃した二人、童顔で大人しそうな情報部の副隊長アリーなのだが

流石は勤務中、礼儀正しく表情を変える事がない

「そうそう、ジャスティンのためにもちょ〜いアプローチ成功させようと思うのだけど〜、フレイアの身辺ってどなの?」

「シャル、アリー副隊長と面識が余りない以上言葉使いに気をつけるべきだ」

「ああっ・・いえ、おかまいなく。歳もそう離れていないようですので・・

それで隊長の事ですね・・。そうですね、異性との交友は感じられませんでしたね・・

そもそもロカルノさんの元へ言っては落ち込んだ様子で帰ってくるの繰り返しのようですし」

ある種不屈の闘志とも言えるフレイアの奇行であった・・

「・・それでも通い続けるか・・。それを慰める貴方も大変だな」

「いえ、それも職務です」

胸に手を当て誇らしく微笑むアリー・・だが、その表情にはダメ隊長を慰める以上の物がにじみでており・・

「なるほどぉ、じゃあ今フレイアはフリーなんだねぇ〜

自然消滅とは言えこれはジャスティンとの再燃も夢じゃないか♪」

「その事ですが・・ジャスティン様は本当に・・隊長の事を・・?」

「まぁな、賭けの結果とは言えども現状のまま放置しておくつもりもないらしい」

「そうですか・・」

「まっ、中々切り出せないようだから〜、アリーさんも協力を一つよろしくってことで♪」

「あ・・はい、私でよければ」

ニコリと笑うアリー、だがその表情からは何か不気味な気配が・・

「ありがとう・・では我々は失礼する・・、仕事中に失礼した」

「いえいえ、隊長の事ならば喜んでお時間を用意しますよ」

笑顔で一礼するアリー、その礼儀正しさに二人は好感を持ちながら休憩室を後にする

・・が・・

「・・っ?」

退室の際一瞬彼女の方を向いたレザ・・、何事もなくたたずむアリーの姿を見た瞬間言いようのない悪寒に襲われた

「・・どしたの?レザ?」

「・・・・いや、何でもない」

その女の本性を垣間見た彼女だがその時レザには気付くはずもなかった

・・そこに座る女性の想いというものに・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「・・って言うのが現状だね〜、ジャスティン、狙い処だよ!」

 

処と日は変わって再びリバティ詰め所、一応彼らは多忙を極める身

私事で話をする機会など余りないのだ

それでも限りある暇にてその話題を切り出すのはやはりそれが良い暇つぶしだから

「へ〜、ほ〜」

「・・何か、気のない様子ですね・・」

「アイン・・、あれからフレイアに会うのが凄く気まずくなっている。弊害が出ているんだ」

「だったら短気決戦しかないじゃないの、全く〜、剣の腕は良くてもそっちがダメなのかしらねぇ?」

悪戯っぽく笑うシャルだがジャスティンには効かぬご様子

「うっせ〜、まぁそれならそれで話かけても問題ないか・・なんか気が重いが・・」

 

「男子たるもの、当たって砕けろという処か」

「どうせ散るなら派手に散れ♪」

 

凸凹コンビ、激励と言う名の毒舌コンビネーション発動。励ましているように聞き取れる者はとりあえずいない

「二人とも・・激励っぽいけど激励じゃないわよ・・」

「う〜ん、まぁでも声をかけるのみですしねぇ・・あれぇ?そう言えばレオンさんがいませんねぇ・・」

ふと彼の席を見るニーナ、そこにはきちんと整理された彼の机が・・

そして何気に綺麗な一輪刺しが置かれて小さな白い花が刺されている

「ああっ、レオンならディウエス様のところに招集されているみたい。

何でも海開きに伴い『海漢祭り』に参加するだとか・・、

すごく青冷めていて身の回りを整理して旅立って行ったみたいね」

自分で言っていて何の事かわからない様子・・それはここの面々も同様

ディウエスという男、豪快で頼り甲斐のある猛者なのだが

彼が率いる軍団についてはヴェールに包まれたモノが多い

その被害者であるレオンも余り語りたがらない様子であり知らぬが華だと周囲に諭している

「あぁ・・あれか・・。レオンも悲惨だな・・、絶対倒れるぞ・・」

「あれれぇ?ジャスティン様にはわかるのですかぁ?」

「・・・ああ、

『海漢祭り』

この時期に合わせて開かれる荒業でハイデルベルク各地の海水浴場の巡回を行うんだ・・」

「ふむ、海の事故は多い。加えてこの時期だと訪れる者も多かろう、

騎士団としては警備につく必要性はあると思うのだが・・」

「そりゃ地元の仕事だ、ディウエスが行うのは全部の海水浴場を回る

・・つまり、ハイデルベルク海岸線鉄人ライフセービングマラソンってわけだ」

「・・・う・・・わぁ・・・」

「ジャスティン様、それのどこが祭りなのですか・・?」

「当人に聞いてくれよ、まぁその期間中に筋肉が鍛えられこんがりと焼けて良い体になるから祭りなんじゃねぇの?

因みに半強制だが半数以上は途中脱落する

・・最後までディウエスについてこれた男には名誉ある『海漢』の称号を得られるんだそうだ」

「まるで異世界の行事ね・・でっ、そのヘンテコな祭りにレオンは巻き込まれたの・・

あいつ、肉体労働苦手なのに大丈夫なの?」

「ここに来てから強化はされているらしいがな・・。しかし今回の行事ならば流石に荷が重かろう・・」

「だろうなぁ・・おまけにあいつ、ディウエスに気に入られているから

気を失っても介抱されて続行させられるぜ?きっと・・」

「地獄だな」

「そうね・・今頃血の涙でも流していそう」

シャルの想像はほとんど正解・・

 

同時刻、砂浜を必死の形相で走る伊達男だった(・・・)()が一人

ムチムチ筋肉兄貴に併走されて逃げ出す事も適わず限界を超えた鉄人レースを慣行中・・

血の涙もすでに枯れ果てただただ地獄の終わりを夢見ている

嗚呼神よ、この女好きに救いの手を

 

「あらあらぁ・・大変ですねぇ・・アインさん、帰ってきたらご褒美でもあげたらどうですかぁ?」

「え・・?そうねぇ・・レオンの体力でそこまでの事をしたら

1週間ぐらいの休養は必要でしょうし・・何とか休ませてあげましょうか」

「アイン違う違う♪ニーナが言っているのは〜『アインがレオンにご褒美をあげる』って事だよ♪」

「わ、私が!?」

目に見えて動揺するアイン・・職務上は冷静なリーダーである彼女もその話題には形無しで

目が泳いでいる

「なるほどな、男どもに揉まれた後だ。あの女好きならば一日中アインに触れていたい事だろう」

「なっ!なななな・・何で私が!!」

「今更説明する事かね?皆承知の上だ・・堅物と女垂らしの不器用な付き合いをな」

「そ〜そ〜♪なんだかんだでいつも一緒にいるじゃないの」

「あ・・あれは職務であって!私はそんな、レオンとは・・」

「じゃあレオンは嫌いなの〜?」

「・・・・・・・、知りません!それよりもジャスティン様の事です!」

 

((ちっ、逃げたか・・))

 

「そこで俺に振るか・・いいのか?シャルもレザも『ちっ、逃げたか』なんて思っているぜ?」

「構いません!!とにかく!余り長引かせるのもいけません!賭けを真っ当するならば早急にお願いします!」

「張り切るのは結構だが・・まぁいいや。余り長引かせるのも癪だから軽くケリをつけてくるよ」

これ以上話をしているとアインが現場まで付いてきそうな勢いになりそうだったために

適度なところで切り上げてジャスティンは詰め所から逃げるように立ち去った

 

・・・・・・・・

 

その夜

ハイデルベルク城内に設けられたジャスティンの私室にて当人は酒を飲みながら悩んでいた

流石聖騎士に与えられる分かなりの広さであり客室として使われていたのを改造したらしい

それだけに一騎士が寝泊まりするには十二分の豪華さなのだがそれは彼には合わないらしく

小さなテーブルに酒瓶を置きそれを静かに堪能していた

「・・やれやれぇ、グレンも爺さんも気軽な賭けをやってくれて・・」

今更ながらぼやくジャスティン、あの時勝負を受け入れなければよかったと後悔するも取りやめなどできない

彼もギャンブラー、気が進まないが決まり事には従わなければならない

「フレイア・・か・・」

面倒事なんぞ早く終わらせるかっと呟きグラスの中に満たされた酒を飲み干す・・

そこに

 

「こんばんわ、ジャスティン様」

 

軽くノックをして入ってくるはアリー、城内と言えども私服姿

それだけの位を持っているのだが見た目は正しく未成年に等しい美しい顔立ち

・・ただ私服でわかるのだが胸の大きさはご立派でジャスティンも目がいってしまう

「ああっ、アリーか。どしたんだ?」

「リバティのお二人から貴方がフレイア様に告白するという事を聞いたものですから・・」

「──そういやお前のところにも行ってたな、悪いなぁ・・迷惑だっただろう?」

「いえいえ、そのような事が行われていた事を知ったので幸いです」

「・・?そっか・・それで・・どうしたんだ?」

「ええっ、ジャスティン様に伝えておきたい事がありまして・・」

「ふぅん、で・・何だ?」

 

「フレイア様は私のモノです、貴方に渡す事はできません♪」

 

ニコリと笑い取り出すは切れ味の良さそうな短剣・・

「っ!?お、おい!アリー!?」

笑顔で刃物を取り出すのだがそれ以上に黒い気配が室内を包み込んだ

「知ってますかぁ?ジャスティン様ぁ・・人の恋路を邪魔する人は馬に蹴られて地獄に堕ちるんですよ♪」

「物騒な事を笑顔で言うなっての!マジか!?」

異様な雰囲気のアリーにたじろぐジャスティン、誰が見ても今の彼女はまともには見えない

・・まぁ、元々まともな人物でもないのである種普通なのではあるのだが・・

「うふふ・・大丈夫です、

オチンチンとタマをスッパリ綺麗に切り落とすだけですのでジッとしておいてください・・」

狂気じみた笑みを浮かべ素早く飛びかかるアリー、元暗殺者の実力は伊達ではなく一瞬で間合いを詰める

去勢するつもりなのだろうが遠慮なく短剣で斬りかかる処、普通に殺すつもりなのだろう

「うわぁ!おい!去勢もやばいがそれ以上に殺す気だろう!?アリー!?」

対し彼も流石に聖騎士として職務に就くだけあって椅子から飛び退き強襲をやり過ごす

切れ味の鋭い刃はそのままテーブルの上にあった酒瓶を綺麗に切断した

「恋敵は減らさないといけないんですよ・・、

これも私とフレイア様のため・・ごめんなさいね♪ジャスティン様♪」

ゆらりと立ち上がるアリー、

酒に濡れた刃を舌でチロリと舐めた後再び姿勢を低くして襲いかかろうとする

「待て・・待て待て!ここは城内だろう?無茶な事をするな!大体お前とフレイアは同性だろう!?」

「ふふふぅ〜、ジャスティン様・・同性だからどうだって言うんですか?

フレイア様は私のおっぱいを揉んでミルクを出してくれるくらいの仲なんですよ?

それに・・ジャスティン様ももうすぐ『男』でなくなるのですから同じですよ♪」

「うぁ・・目がイっちゃっている・・」

ニヤリと笑うアリーだがその可憐な容姿とは裏腹に完全に黒化している

それでもフル装備で襲いかからないのは彼女なりの気遣いなのか・・

「覚悟してくださぁい・・、なんだったら切り落としたの、剥製しますので♪」

「ちっ、不本意だがやるしかないか・・」

焦りながらも構える、どうあれ女性に手を上げるのはジャスティンも望まぬ事

できるだけ穏便に済ませたかったのだが目の前の女性は明らかにおかしい

(恋って・・人を変えるんだなぁ・・)

アリーの余りの豹変振りと無茶な恋愛感情に自分の男の尊厳の危機にもかかわらずそんな事を思うジャスティン

「抵抗するならどうぞ・・恋の障害に遠慮はいりません」

本格的な戦闘が始まろうとしたその時・・

 

「ジャスティンいる〜?失礼するわよ〜」

 

問題の人物フレイア登場、ノックもなしにいきなり彼の部屋に入ってくる

「・・何しているの?ジャスティン?」

室内で構えているジャスティンに対し怪訝な顔をするフレイア

「何って、ほら・・アリーが・・」「隊長、こんばんわ♪」

警戒するジャスティンに対しそこにいるはいつものアリー、黒さの微塵もなく

爽やかな笑みを浮かべる童顔が輝いていた

その変わり身の速さに流石のジャスティンも呆然と彼女を見続ける

「アリー、ご苦労様。どうしたの?ジャスティンに何か用でもあったの?」

「いえ、少々雑談をしていただけですよ♪・・ねぇ?ジャスティン様?」

「お・・おお!」

爽やかに聞いてくるも凄まじいまでのプレッシャーを押しつけてくるのが肌でわかる

恋する乙女は逞しい、それが歪んだ恋なら恐ろしい

「ふぅん・・、でっジャスティン少しいい?」

「ああっいいぜ。じゃ、じゃあテラスで話そう・・夜風が気持ちよさそうだ」

「???・・別にいいわよ。アリーはどうするの?」

「私ですか?お話も終わったのでもう自室に戻ろうと思います♪では、お疲れ様でした♪」

ニコッと眩しい笑みを浮かべ退室するアリー、彼女の前では最後までよい子なアリーさんであった

「ジャスティン、何の話していたの?アリーったらやけに機嫌良さそうだったけど・・」

「・・・・・・、大した事じゃない(後見かけで判断すべきじゃない)、それじゃ・・行こうぜ?」

何ともなしにここに長くいたくないジャスティンはフレイアを連れて逃げるようにテラスへと向かった

 

・・・・・

 

ハイデルベルク城のテラス、王都の中心にある城故にそこから見える景色は絶景で夜の明かりがどこか幻想的だ

騎士と王族関係者でなければここに立ち入れないのが残念なところ

都市では仕事が終わった男達が杯を交わしているのだが

堀を囲んでいるこの城からは見えず静寂が包まれている

フレイアからの話は仕事に関するものでジャスティンも手早くそれに応え話はすぐに終わった

・・が・・

「・・・・・・」

「・・・・・・」

誰もいない中静寂が包まれている、もう話す事はないのに二人とも城内に戻ろうとしない

何もないテラスに立ちつくすジャスティンとフレイア

するとフレイアが不意に口を開く

「メリアから聞いたけど・・私に何か言いたい事があるみたいね」

何ともなしに照れた様子のフレイア、対しジャスティンは情報ダダ漏れな態勢に内心呆れている

「ああ・・、まぁな」

「で・・何よ?」

「う〜んと・・な。俺達・・中途半端な状態で終わったようなものだろう?」

何とも歯切れの悪い言い方だがその原因はフレイアの方にあり彼女も何とも言えない顔つきになる

「──そう・・ね」

「それで、お前がロカルノに熱を上げているようだがその結果が思わしくないって聞いてよ。

お前がこれからどうするかそれを確かめたいと思ったんだよ」

あくまで賭けに負けたからとは言わない、言ったらここから堀に投げ落とされるのは見えている

ただ賭けはきっかけ・・彼もフレイアに対するキモチというのは確かにあるのだ

「何よ、お兄さんを誘惑するのを苦戦していて笑っているの?」

「俺がそんな奴だと思っているのか?」

「・・・そりゃ・・ね、思ってはいないけど・・」

「何というか、俺から見ればお前は恋愛に対しては突っ走り過ぎなところがあるからな。

俺に寄ってきたのもロカルノに対する恨みと寂しさから耐えられなかったからだろう?」

「・・・・・・」

恨めしいように睨むフレイアだが言い返す事はできない

口に出さないのだが彼に寄っていったのは寂しさを紛らわすために他ならなかったからだ

「このままお前がロカルノに熱を上げてもし失敗したら・・またお前が暴走しそうな気がしてな」

「・・うるさいわね、結局・・どうしたいのよ?」

「俺の元に戻らないか?」

頭を掻きながら軽く言うジャスティン、それに対しフレイアは顔を真っ赤に染める

「な、何を言っているの!?」

「まぁ上辺だけとは言えども俺達は一時期男と女の関係だったんだ。

自然消滅とは言えども・・俺はまだ続けたいとは思う」

「・・・、私は・・貴方を捨ててお兄さんに走った女なのよ?」

「そりゃわかっている、そうなった経緯もな」

「・・・・・、でも・・私はまだお兄さんを・・」

面等を向かっても口ごもってしまうフレイア、

成功する可能性は極めて低いものの彼女のロカルノに対する想いは捨てられない

「俺も強要するのは好きじゃないって知っているだろう?

お前が納得するまでロカルノにアプローチすればいいさ。

それでも無理なら俺が面倒見てやるよ」

「な、何よ!?それ!」

「ははは・・、ロカルノに振られて暴走するよりかはマシだろう?」

「・・馬鹿・・、いいわよ!万が一お兄さんをモノにするのができなかった時、

貴方のモノになってあげるわ!」

「これも賭けだな・・」

「そうかもね・・じゃ、結果はおいおい・・って事ね。」

「ああ・・ありがとよ・・」

「いいわよ、もう。それじゃ・・もういいでしょう?」

「おう、じゃあな・・」

「うん・・おやすみ・・」

照れくさいのかそのままジャスティンに顔を合わさずにテラスを後にするフレイア

とりあえずははっきりした形ではないもののジャスティンの告白は無事終了したようだ

 

「・・っと、言うわけだ。これで文句ないだろう・・アリー」

 

一人残ったテラスにてジャスティンはテラスから顔を出して声をかける

すると外壁にしがみついている黒い物体が一つ・・つまりはアリー

「ええっ、貴方がそれで納得でしたら・・」

顔は暗くて見えないが口調は穏やかなモノ、しかしそれをそのまま受け止めるのは危険である

「──まぁ、お前もフレイアを狙っているのはイタイほどわかったからな。

ロカルノを諦めた時にあいつが俺かお前かどちらかに転べばいいさ」

「余裕ですね、よろしいのですか?」

「それも賭けだ。

それにあのままストレートに告白していたらフレイアも混乱するだろうし

何よりその手に持っている短剣で襲うつもりだったのだろう?」

「流石はジャスティン様・・よくわかっていらっしゃる」

「さっきので良くわかったよ。・・ってか一応身内なんだから荒っぽい事するなよ」

「恋敵となるとそうもいきませんよ・・

とにかく、今回の告白・・私としては納得するものなのでこれからは今まで通りの関係でいましょう」

「ああ・・ってか、お前本気でフレイアの事が好きなんだな?」

「──当然です・・私が身も心も捧げられるのはフレイア様だけです♪」

声だけでもその本気度が伝わってくる、フレイアに対する愛情があるからこそ凶行に走るのであろう

・・まぁ黒い要素があるのは別要因なのかもしれないのだが

「まっ、がんばんな。一応の恋敵」

「貴方も健闘をお祈りします・・いずれロカルノさんがフレイア様を捨てた時に雌雄を決しましょう」

晴れ渡る声とともに外壁にくっついていたアリーは堀に飛び降り姿を消した

・・つまりはフレイアがジャスティンを選んだ時にはアリーは今日みたいな実力行使に及ぶ・・っと

いわば宣戦布告

「・・・まっ、とりあえずは一区切りついただけでもよしとするか」

余計に話がややこしくなったのだがそれはそれでいいと

ジャスティンは外壁にもたれ王都の景色を眺め続けるのであった

 

 

 

──後日談

 

「フレイア様〜♪お茶を淹れました〜♪」

 

「ありがとう、アリー♪」

 

情報部の隊長室、事務にいそしむフレイアに対しアリーは上機嫌でお茶を淹れる

早くもアプローチを強めており爽やかそうに見えて瞳の奥底にはまるで獲物を見つめる狼のような鋭さが見える

対しフレイアも中々に上機嫌、ずっと心の奥底に突っかかっていたトゲが抜けたかのように微笑んでいた

「熱いから気をつけてくださいね♪ふ〜ふ〜!」

「あら、アリー、冷ますぐらい自分でできるわよ♪」

正しく異様な光景、この場にメリアがいたならさぞかし動揺した事であろう

そこに

 

『やれやれ・・、とんでもない蜂蜜度だな』

 

微笑ましい空気をぶち壊すとんでもなく冷めた声が隊長室に響く

「・・ぁあ?何の用よ、シグ」

『何っ、上司が非番で報告書をこちらに出しにきたまでだ。好きで来ているわけじゃない』

そう言うと音もなく姿を見せるは情報部のクールでニヒルな犬男シグ

二人の光景を呆れて見ている・・否、見下している

「・・コホン、シグさん。書類は預かっておきます、

只今フレイア様は事務中ですので用件が済んだのでしたら速やかに持ち場に戻ってください」

「わかっているさ、こちらも無理に長居をする気はない。書類は渡しておこう」

そう言い手持ちの書類をアリーに渡す・・対しアリーは全く動じず。

あそこまでの凶行をためらいもなく実行に移すだけあって

デレデレしているところを見られても動揺の「ど」の字もないようだ

因みにアリーがジャスティンに襲いかかったことは公にはされていない、

ジャスティンもわざわざ報告する必要もないだろうと内緒にしてくれたのだ

「承りました、しかし・・ハリー様はまた非番ですか」

「ああっ、ラーグ行っているらしい。

ジャスティン様と一緒に賭けだとさ・・

そんな訳で戻ってくるまでこちらに姿を見せるからそのつもりでいてくれ」

「へいへい・・ったく、爺もジャスティンも仕事舐めているんじゃないわよ」

「ふっ、それをお前が言うのか?」

ニヤリと皮肉全開なシグ、惚気気味のフレイアに嗜虐心がほとばしっているようにも見える

「何ですって・・?」

「何・・ジャスティン様に言われて意気揚々とロカルノにアプローチをするその姿がいささか見苦しく思えてな」

「・・ふ・・ふふふふ・・言うじゃないの・・」

「そもそも、本気でロカルノを落とせると思っているのか?」

「フ、フレイア様ならば大丈夫ですよ!」

フレイアに変わってアリーが反論・・でも彼女の中ではまず成功しないであろうと決め込んでおり

それはあくまでフレイアとの親密度を上げるための芝居

そもそもフレイアとロカルノが上手く行ったら困るのはアリーなのだ

「そうよ!私の魅力に気付いたらお兄さんだってメロメロになるわよ!」

「・・面白い、ならばその妄想を抱いて溺死しろ」

とことんなシグ、対しフレイアは何気に臨戦態勢に入るが

アリーは寧ろシグと同意見なので加勢しようとはしない

そこに

 

「・・・・・シグ」

 

シグの後ろに音もなく現れるは長黒髪と鋭い目つきが印象的なパートナー、ヒサメ

「おっと、もうそんな時間か」

「・・弁当は持ってきた、行こう」

何気に同棲している二人、最近ではシグの作った料理にヒサメも満足しており

二人で弁当を囲む姿も良く見かけるようになった

「了解した・・では、せいぜいがんばるといい。気が向けば健闘を祈ろう」

そう言い瞬時に姿を消すシグとヒサメ・・・

「・・・ちっ!!鬱陶しいわねぇ!!」

「まぁまぁ、がんばりましょう♪フレイア様♪(そして私のモノになってください♪)」

にこやかに笑うアリーに圧されフレイアは苛々を紛らわしつつ職務に戻るのであった

 

 

──────

 

一方、今回の騒動で協力する形となったリバティの詰め所では・・

 

「大丈夫?レオン・・」

 

「アイン・・ダメだ・・気が狂いそうだ」

 

備え付けのソファに倒れるレオンを介抱するアイン、一応は代表だから・・っという事なのだが

アインの心配しようは職務を超えたモノのように見える

因みにレオンさん、全身真っ黒になり体つきはいっそう引き締まっている・・が、

まるで減量苦に倒れたボクサーみたくその体に余裕というものが見られない

そして現在地獄の筋肉痛、魔術要員な彼が良くも無事荒行から帰還できたものであるのだが

その代償は大きくここに到着すると同時に倒れたらしい

「ディウエス様も何もここまで付き合わさなくても・・」

「あ・・あの人は・・悪魔だ・・筋肉悪魔だぁ!!!」

「・・ともあれ、一週間ほど休暇を入れたからゆっくり休みなさい」

「アイン・・僕の天使・・嗚呼!」

優しくしてくれるアインの手に頬寄せるレオン、そしてほとばしる涙

男に囲まれた地獄より帰還した彼の正しく漢泣きである

「ちょ、ちょっと・・レオン?」

「柔らかい・・筋肉じゃない・・嗚呼、アイン・・君はこんなに柔らかかったんだ・・アイン・・アイン!!」

「だ・・ダメよ!ちょっと!」

頬寄せるレオンに対しアインも困惑顔だがそれをふりほどこうとはしない

そんな二人の姿は実に微笑ましく・・からかい甲斐がある

 

「ふふふ〜、ジャスティンの件がつまんなく終わったけど・・新しいネタができたわねぇ!」

 

「やれやれ、君も好きだな・・シャル」

 

「何よ、じゃあレザは無関心なの?」

 

「下世話だが・・こうした生活をするには良い暇つぶしにはなるかな」

 

「じゃあ・・」

 

「念入りにしっかり茶化すとしよう」

 

片隅でそれを観察しながらよからぬ事を企む凸凹コンビ、結局はこの二人は騒動があればそれで良いようだ

対し

「今日も平和ですね〜(ズゾゾゾ)」

一人お茶をすするニーナ、結局、リバティは今日も自由であった

 

 

 

・・・・・・・・そして・・

 

 

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!ブラックジャック!!」

 

「うぬ!?やりおるわ・・」

 

「俺はバースト、くそ・・ついてるな、ジャスティン」

 

三人囲んでカードをするはギャンブル騎士三人、娯楽の本場にて堂々と私服で賭け事中

以前のハリーが勧めた店もよかったのだが

やはりジャスティンやグレンにとっては華やかな都市のカジノの方がよかったらしい

「はっはっは!今日は勝たせてもらうぜぇ!」

「ちっ、こりゃ財布の中身をちょいちょい確認しておかないとな

・・ってか、しょうもない告白して調子を取り戻したのか?」

「そうじゃそうじゃ、ロカルノに捨てられるのを待つなんぞ酔狂じゃのぉ」

賭けの報告を伝えた時この二人は実に複雑な表情をしたという

まぁ一応告白した事には違いないのだがいかんせん想像していたのとは大きく違うのだ

「何だよ、告白は告白だろう?まぁ・・ロカルノがあいつを選ぶ可能性なんざゼロに近いからこれでいいんだよ

それよりも・・自分の財布の心配をしたらどうだぁ?身ぐるみ剥がすつもりでいくぜぇ!」

「やれやれぇ、ふっきった奴には幸運の女神も微笑むか」

「全くじゃ。こりゃ圧されるの」

「覚悟しろ!特にグレン!

全財産取った後にあそこでピンボールして時間を潰しているイグニスに告白させてくれる!」

豪快に指を刺した先にはグレン待ちな真面目女騎士イグニスの姿・・

この間と同じくグレンに稽古をつけてもらうつもりらしいのだが取り組み中という事で仕方なく

バネによってボードを駆ける白い玉に一喜一憂している、

とはいえども平静を装っているため眉が多少動く程度・・

何気にそういうのが好きらしい・・が余りに質素な服装は周辺から奇異の目を集めている

「あいつ・・また俺の後をついてきたか・・」

「ほっほっほ、いいのぉ!ジャスティンがつまらん結果な分今度はおぬしで盛り上がるか!ジャスティン!共闘じゃ!

二人してグレンとあのストーカー娘をくっつけるぞ!」

「応よ!」

その日、娯楽都市ラーグで三人は狂喜乱舞したと言う

結果は・・また別のお話・・


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