4000HIT記念小説 ナンチャッテサスペンス「社長探偵」


CAST

社長探偵:ロカルノ(ユトレヒト隊)

秘書:クローディア=グレイス(ユトレヒト隊)

ペンションオーナー:オサリバン=ハンハーリ(スタンピート!!)

オーナーの妻:ミュン=クレイトス(最強の夫婦)

女性客:タイム=ザン=ピョートル(スタンピート!!)

男性客:クロムウェル=ハット(スタンピート!!)

謎の客:サブノック(sword and bow)

3人娘:シャン(ガンナーズドッグ)

3人娘:カチューシャ=ヴァーゲンシュタイン(スタンピート!!)

3人娘:マリー=クラディス(sword and bow)

車掌:スクイード=キャンベル(スタンピート!!)






ダンケルク16:00発ハイデルベルク行

蒸気により推進をつける機関車が雪がちらつく線路を走る
車両はほとんどが貨物で客席車両は一両だけ・・。それも最前列の一両だけのようだ
「ふむっ、国家間を結ぶ鉄道・・か。乗り心地は悪くはないな」
客席に座りながら窓の雪景色を見る男
銀髪の髪をきちんと整えており燃えるような緋眼は外の雪を追っている
男は身なりが整っておりピシッとした黒スーツ姿だ
「ですが一般人を乗せるには入国手続き等まだまだ問題があるようです、社長」
隣に席に座る女性、黒い長髪に黒いスーツを着た秘書嬢が男に言う
「だろうな。現時点では2国間での『顔』がある者のみ・・っと言っても・・
鉄の塊が地面を走るなんてもの、危なっかしくて人が乗るものではないというのが世論か」
客席には彼ら以外には誰もいない
上流階級の人間が座るような豪華な椅子とテーブルが何組か置かれているが
こうともなると逆に滑稽に思えてしまう
「それでも、移動には便利です。おかげで会議にも顔を見せれますので・・」
「ふっ、クローディア君は仕事熱心だな」
女性・・クローディアに声をかける社長ロカルノ
「それが仕事ですので・・」
「まっ、結構な事だがどこかで息を抜いたほうがいい。
適度な緊張は仕事にはいいが常に緊張していると心労になる・・」
「いえっ、お言葉だけで十分です」
「ふっ、頼もしい限りだ」
そう話しつつも列車は雪景色の中を走る
目的地まではそう時間はかからない・・っと思えたのだが


キキキキキキ・・・・・・!!!

渓谷に入った時点で急ブレーキがかかる!

「ぬっ!?」
「きゃ!」
それに伴い車内はかなり揺れ社長がクローディアを抱き締め、衝撃に耐える
・・・・しばらくすると揺れは収まり唯一の乗客を確認するために車掌が入ってくる
「大丈夫ですか?ロカルノさん!」
「ああっ、なんとかな・・。何があったのだ?」
「線路に雪が積もって移動できない状態なんですよ。」
「なるほど、確かにそれでは危険だ。この寒さなら線路も凍結しているだろう・・。
だが、試運転の時にはそれは克服できているという事を耳にしたのだが・・」
「それが・・、どうやらこの山地では記録的な豪雪になりこの渓谷は特に風が強いということもあって
当初予想していた事態を越えているようなんです」
メモを見ながら苦し紛れに説明する車掌
どうやら通信で事の事情を聞いたのだろう
でなければ都合よく凍結地点の手前で停車もできない
「ともかく、私達は急ぎの身なのです。復旧作業は?」
秘書のクローディア嬢が静かに言いやる。目がきらりと光っておりまるで威嚇しているようだ
「現在ハイデルベルクから除雪車を向かわせたところです。
っと言っても渓谷の先から除雪するので・・」
「・・・・22:00にハイデルベルクで会議があります。それには・・」
「・・すみません、全力でやっても翌朝までは・・」
「・・・・」
「まぁ、落ちつけ、クローディア君。出来て間がない新設備だ。予想外の事もあるだろう。
彼を責めても仕方ない」
「ですがこれはビジネスです。お金を払っている以上安全かつ時間とおりに送る義務があるはずです」
「固いな、まっ、現状ではそれは不可能。口で言うのと実際やるのでは違うのだよ。
君、詳細がわかったとなれば通信はできるのかね?」
「はい、なんとか車の電気は確保してあります」
「ならばこのメモに書いてある会社に事情を説明して出席できない事を伝えてくれるか?
・・何、向こうもそんなに怒りはしない」
「わっ、わかりました!」
「ああっ、それと。復旧作業が終わるまで電気はつかないのか?」
「ええっ、バッテリーがいかれるので最小限の設備にしか・・ああっ、この近くにペンションがあります。そこで今宵一晩お休みになれば翌朝には動くと思われますので・・」
「・・・ふむっ、それが一番良いな。では、翌朝にまたここに戻ろう。それまでにきちんとしておいてくれ」
「はい、申し訳ありません!」
そう言うと車掌は走って出ていった。
彼もこれからロカルノの伝言、荷物の異常の確認と忙しくなる。寒さに耐えての徹夜になるだろう・・

「甘いのですね」
「仕事も人事も緩急が大事だ。それに、たまには落ちついて休みたいからな。
ペンションならば多少行儀悪くもできる」
そう言うとスーツを少し開かせる
そこには牛革に巻かれたフラスコが・・。中には酒が入っているのだろう
「社長・・、またブランデーを・・」
「何事も楽しみが必要だ。さぁ、ではペンションに向かおう。どうやらドアも手動らしいな・・」

窓の外から手振りで伝える車掌のことを察知し傍に倒れている
コート掛けを起こし黒いコートを羽織る
「さぁ、いくぞ?君もコートを着たまえ」
「はい・・わかりました」
仕事が遅れるということで少し不機嫌なクローディア
黒スーツには少し不似合いな赤のコートを羽織りロカルノの後についていった


渓谷の厳しい谷を上る事1時間ほど
どうやら山道らしきものがあったので道はマシなのだが
雪が積もり前が余り見えない等、悪路であることには違いない
「こ・・この先にほんとにあるのでしょうか!?」
「見た前、明かりが見える・・間違いないだろう」
気丈ながらもよろめきながら進むクローディアの肩を抱いて進むロカルノ
ここで倒れたら一直線に谷底に落ちかねないのだ
男に甘えるのが苦手なクローディアだがたくましく支えてくれる
主に身体を預け先を進む

・・しばらくすると車掌が言っていたペンションが見えてきた

雪で外見がはっきりとしないがそれほど大きいものではない
ともかく防寒用の分厚そうな扉をノックする
「すみません!」

「は〜い!」

奥から女性の声が・・
ガチャ

「あらあらぁ。貴方達どうしたの!?こんな雪の中!」
出てきたのは碧髪の女性。メイド服のような落ちついた服装だ
「すみません、少し道に迷いまして・・。一晩泊めていただけませんか?」
「いいですよ。さぁどうぞどうぞ!寒かったでしょう」
「ふぅ、助かる・・。ではお邪魔します」
ロカルノとクローディアは雪を払いながら中に入った

20:00・・ロビー
ペンションは入ってすぐ吹きぬけのロビーになっており
その片隅に螺旋階段があり2Fへと続いている様だ。
小さな造りの割には小洒落ておりロカルノはすぐに気に入った
そのロビーでワイワイ騒いでいる女性が3人
「どうしよう?結構吹雪いてきたわね・・」
「大丈夫よ、マリー。明日になればきっとすんごい積雪でソリも楽しくなるでしょう♪」
「そうよ、せっかくの穴場なんだから楽しまなきゃ♪」
どうやら雪山までソリをしに来たらしい

「お嬢さん方、少し失礼するよ」
そんな3人娘に軽く声をかけロビーのソファに腰を下ろす
クローディアはさきほどの碧髪の女性に宿泊費用を払っている
「あれっ?おじさんも宿泊客?」
3人の中で一番小さな短い黒髪の女の子が聞いてくる
「そうだよ。でもまだおじさんって言われるほどの年でもないな」

「へぇ、貴方もソリしに来たのですか?」
同じく黒髪で少し背の高いボーイッシュな子が聞いてくる
「まっ・・そんなところだ。ちょっと道に迷ってね」
「こっ、こんな吹雪に!?よく無事だったわね・・」
今度は金髪の気の強そうな女性が・・
3人とも息があっているというか交互に聞いてくる
「日頃の行い・・っとでも言うかな。しかしすごい雪だ。早めに辿りつけて助かる」
窓から見える景色は暗闇だが白い粒が舞っているのがよく見える
「本当ですね。明日は晴れるかしら・・?」
「山の天気は複雑だが・・。晴れると思う。そういつまでも振り続く雲でもなかったからな」
「貴方・・そんな事がわかるんですか?」
「ああっ、私は雪国出身でね・・。ああっ、申し遅れた。私はロカルノ。あれは妻のクローディアだ」
会計を支払ってこちらに来るクローディアに少し笑いながら言う
「しゃ・・・、ロカルノさん。つまらないご冗談を・・」
「ははっ、正確には『女房』・・っと言ったところだな。」
「へぇ、素敵なんですね、私はマリー、こっちが妹のシャンと友人のカチュアです」
「シャンです。よろしく、おじさん」
「変わった夫婦みたいだけどよろしくね。ロカルノさん」
気軽に声をかけてくるカチュアとシャン。
「よろしく頼む。・・しかし。これだけ吹雪が強いと停電にならないか不安だ・・」

「その心配はありませんよ」

急に声が聞こえる。
見れば螺旋階段を降りてくる赤毛の女性が・・
3人娘よりは落ちついた服装でタートルネックのセーターにスカートだ
一番の特徴はやはり赤毛の長髪で片目が隠れている
「君は・・?」
「同じく宿泊しているタイムです。このペンションは普通の送電線による供給の
他に自家発電装置が地下に設置してあるんですよ」
「なるほど、流石は山中に建てられたことがある・・しかし、よくそんな事がわかったもんだな」
「いえっ、私はこのペンションの常連ですので・・」
そう言いながらにこやかに笑う
無表情で冷たい女性に見えたのだが笑うと意外に女らしい
「ふっ、納得した。ともあれ、女性が多いのはありがたいものだな」
「あっ、ロカルノさん!奥さんがいるのにそんなこと言っていいんですか!?」
「シャン君、私の女房は心が広くてね。まぁ、融通が利かない点が少し難儀なのだが・・」
「ロカルノさん・・・、あまりおふざけにならないで・・」
ロカルノの隣で静かに座っていたクローディアだがその発言にすこし眉間に皺が・・
「お客さん、部屋の準備ができましたので案内します」
先ほどの碧髪の女性が奥からパタパタ走りながらやってくる
「ああっ、そうか。では頼む。荷物は自分で持つのでお構いなく」
手持ちにハンドバック片手に席を立つロカルノ。
クローディアもそれに続き部屋へと案内された・・・


20:30・・客室

「夫婦と冗談で言ったが・・一室とはな」
用意されたのはベットが二つある小さい部屋。ここしか空いていないらしい

「社長がロビーでふざけているのをあの方が聞いてそう書きこんでいましたので・・」
「まっ、それはそれで一興。少し座らないか?」
「・・わかりました。」
スーツを脱いでお互いシャツ姿に・・。
30分ほどしたら夕食といわれたので着替えるほど余裕はない
「ふっ、部屋の間取りも悪くはない。タイムさんが常連になるのもうなずけるな」
「呑気ですよ。これだけ吹雪いてきたら列車の復旧作業も長引くかもしれませんし先方だって・・」
「クローディア君、ここでは仕事の話はなしだ。私が社長というのも伏せておいてくれ」
「・・・・お戯れ・・ですか?」
「まっ、そう言う意味もあるが・・。こんな事態だ。プライベート感覚で過ごしたいのだよ」
「・・・」
「これも君の仕事と思ってくれ。先ほど言ったように君は私の妻だ。まぁ変に芝居を打たなくてもいい」
「わかりました。ではロカルノさん・・っとお呼びすればよろしいので?」
「ああっ、すまんな」
「いえっ、貴方の秘書を勤めて数年、なれてきましたよ」
彼女にも諦めがついたのかはにかんだ笑いを見せる
「耳が痛いな。ではいっその事形式ではなく本当に夫婦になろうか?」
「ばっ・・馬鹿なことをおっしゃらないでください!」
「ははっ、すまない。ではそろそろ下に下りようか?我が妻クローディア」
「わかりました。ロカルノさん」
そのまま荷物を置いて二人はロビーの隣にある食堂へ
社長と秘書という立場を偽っての一夜が幕を開けた・・






21:00・・食堂

ロビーとは小さい扉で区切られたスペース。
壁はガラス張りで朝などは銀世界を見ながら朝食が楽しめるのだろうが・・
今は分厚いカーテンが引いており外の様子があまり見えない
そのスペースの中、丸テーブルが幾つか設けられており
グループごとに食事ができるようにしてあるようだ
ロカルノ達が降りた時には宿泊客は全員揃っていたようで
あの碧髪の女性が食事の準備をしている
・・クローディアが聞いたところによるとこのペンションのオーナーの妻で
ミュンというらしい
「あっ、お待ちしてました。ロカルノさん達で最後ですよ。さっ、どうぞ」
急な客だというのにきちんと席から皿の配膳までこなしている・・
そこがロカルノにとって嬉しかった
「私達で最後・・か。」
ちらっと周りを見てみる
一番窓際でキャっキャ騒いでいるのが3人娘
その手前、厨房に近い席にいるのがタイムともう一人金髪の若い男・・。
タイムは常連ということもあってか、時折席を立ちミュンの手伝いをしている
そして丸テーブルに一人だけ座っている
マフラーで顔を隠した人物
パッと見でどちらかわからなく室内なのに帽子やコートを着ている
他の客は気味が悪いらしく無視しているようだ
「・・怪しい人物がいるもんですね・・」
「何、素性を隠して宿泊する人物なんていくらでもいるさ・・私達のようにな」
「それもそうですね。しかし・・あの車掌さん。大丈夫でしょうか?
この様子では凍死していてもおかしく・・」
「ハイデルベルク側から除雪車も出ている・・っともなればダンケルク側からも応援があるだろう。
この時間だと一人で作業しているわけではない」
懐から銀の懐中時計を開き見るロカルノ・・

「みなさんお待たせしました。寒い身体を温める料理ができましたよ」
コック姿の男が厨房から出てくる
台車には大きな鍋や前菜が綺麗に並べられている

「待ってました♪」
「シャン、少しは落ちつきなさい」
「マリー姉ちゃんだっていつもは叫んでいるじゃない!」

「もっ、もう!そんな事大きな声で言わないの!」
「二人とも〜、うるさいわよ」
にこやかな会話の3人娘

「・・ミュンさん忙しそう・・私達も手伝う?」
「さっきから動きまわっていたじゃねぇか。ちょっとは落ちつけよ。タイム」
こちらはこちらで和やかな二人
どうやら金髪の男はタイムの彼氏のようだ
彼と話している時の彼女の顔はとても幸せそうに見える

「・・・・・」
そしてだんまりを続けている覆面の男・・
食べる時はどうするのかとロカルノも少し頭をかしげた

そうしている間にコック姿の男・・このペンションのオーナーである
オサリバンが一人一人に料理を配っていく。
その料理はどれも見事なもので舌の肥えたロカルノでさえも唸らせるものであった・・



22:00・・ロビー
食事の後、面々はロビーにてくつろいでいる
あの覆面の男は片手でスプーン、片手でマフラーをまくり
器用に食事をしたのにすぐに自室に帰っていった。
まだ他の客が食べている最中なのでその時だけは全員静まり返ったものだ
そう言うわけでロビーには3人娘とタイム、その彼氏。そしてロカルノとクローディアだけのようだ
オサリバン夫妻は今食堂で食器を集めているのが音でよくわかる・・
「じゃあタイムさんとクロムウェルさんは付き合っているんですか!」
「まぁ、そんなもんだな?タイム」
マリーの言葉にやや照れながら応える金髪の青年・・クロムウェル
「そうね・・、でもそんなに騒がなくても・・」
タイムの照れながら応えている
「ふっ、女性はそういう話題が好きだからな」
聞き上手に話し上手なロカルノ、すっかり輪の中に打ち解けている
「そういうロカルノさんだって奥さんいるじゃないですか〜」
「ほんとっ、結構ヒス起こしそうな感じだけど」
「カチュア、失礼よ」
「まぁ、現にヒステリックを起こすこともあるからな・・。なぁ?クローディア君」
「・・知りません」
急に振られてそっぽ向くクローディア
彼女も秘書だけに仕事にたいする接客などは非の打ち所がないのだが
こうした世間話は苦手だったりする
「でも可愛いじゃないですか?結構・・」
クローディアを見て少しにやけるクロムウェル
「もう、クロ、変な事考えないの・・・。ちょっと喉が乾いたからお茶でもいれましょうか?」
「いいのかい?」
「いいですよ、常連ですからそういうの、前からやってましたし」
「じゃあ頂こう。私は珈琲、濃い目で頼む。クローディアは・・紅茶でいいかな?」
「ええっ、そうですね・・」
隣で頷くクローディア。っというのも珈琲のような苦味のある飲み物は苦手なのだ、
「「「じゃあ私達も紅茶で!」」」
3人娘も揃って答える・・
「それじゃあ俺は珈琲かな?手伝おうか?タイム」
「いいのよ、クロ。じゃあちょっと待ってて」
そう言うとタイムは静かに厨房に向かった。お湯はそこにしかないのだ
「家庭的で素敵だな〜タイムさん」
てきぱき動くタイムにシャンが目を輝かしている
「ああ言う女性に好かれる男は幸せ者だ・・少し失礼するよ」
そう言いながらロカルノは静かにシャツのポケットからパイプを取り出す
木製でシンプルな作りだが使いこまれて味のある色合いをしている
「ああっ、煙草ですか?」
「まぁ、似たようなモノだ。身体に害はないが少し香の臭いがする、いいかな・・?」
「構いませんよ♪私達そういうの気になりませんので」
「俺も・・、ご自由に」
「すまないな。食後にこれを吸うのが楽しみでね・・」
そう言うとマッチに火をつけ静かにに吸う。
周囲には確かにお香のような臭いが立ちこめるが悪い匂いではない
「・・うまい」
「なんだかロカルノさんって・・かっこいいですね。奥さんがいなかったら告白していたかも」
カチュアがそんなロカルノの動作にちょっと熱っぽい目で見ている
「・・だそうだ?クローディア君」
「ロカルノさん・・」
どう答えていいかわからない様子のクローディア・・、目が泳いでいる
「でもお二人って、夫婦なのに「お前」とか「あなた」って呼ばないんですね」
「それは二人っきりの時に・・な。人前ではこれも一人の女性だ。それなりに敬うべきだ」
「「「かっこいい〜」」」
3人娘が声をそろえているうちにタイムが盆に飲み物を乗せてやってきた
「はい、紅茶に珈琲。ミルクはご自由にどうぞ。
レモンがなかったからレモンティーにはできないけどね」
テーブルの真ん中に盆を置くタイム、それと同時に各々が飲み物を手にした
「あっ、ロカルノさんの分だけ別で入れたんです。これです」
自分が持ったカップをロカルノに渡すタイム
「ああっ、そうか。すまないな、濃い目だと注文つけて」
確かにロカルノが持つのとタイムが持つカップが少し違う
「はい、どうぞ」
少し笑いながらカップを交換していただく
女性陣は紅茶にミルクを入れたりもしたが珈琲陣は全員ブラックだ
「おいしい!上手な入れ方ですね!」
マリーが一口飲んで感嘆する
「ほんと、こんなおいしいのはじめて」
「・・・たしかに」
マリーだけでなくカチュアやクローディアまで絶賛する
・・だが、シャンにはまだ早いらしく味の良し悪しがよくわからないようだ
「お湯の加減などを知ったらこのくらいできますよ」
「・・見習うべき・・か?クローディア君」
「・・・悔しいですが・・」
「まぁまぁ、珈琲の濃さはそれでよかったですか?ロカルノさん」
「ああっ、そうだな・・。少し、薄いか・・。やはりクローディア君に入れてもらうのが一番だな」
「そうですか、では、痛み分け・・っということですね」
にこやかに笑うタイム、それに対しクローディアも苦笑いだ
「それでも俺の分まで少し濃いな、タイム」
「ごめん、クロ。ロカルノさんのを意識したからかな・・?ほんとにちょっと濃いわ・・」
「すまんな、私のために・・」
「いえいえ、俺も濃いのは嫌いじゃないので」
そう言うとクロムウェルは珈琲を一気に飲み干す・・
「さて、俺はもう寝ようかな?タイムはどうする?」
「そうね、もう少しお茶を飲んでからミュンさんの後片付けを手伝って戻るわ。・・先に寝ておく?」
「・・そうだな。じゃあみなさん、お先に」
そう言うと笑ってクロムウェルは階段を上がりだした・・

「ロカルノさんもかっこいいけどクロムウェルさんも爽やかでいいですね」
マリーがそんな彼を見ながら感嘆の息をつける
「そう・・だけど、ね・・」
それに対しどこか寂しそうな顔をするタイムだったがすぐいつもの表情に戻る
「じゃあ私達もそろそろ寝よっか♪明日も早いし」
「そうね、じゃあみなさんおやすみなさい、ごちそうさまでした」
3人娘がカップを置き部屋に戻っていく
「・・・ではっ、我々もそうするか」
「ロカルノさん、一番濃い珈琲を飲んですぐ寝れるのですか?」
濃い目に入れた珈琲を飲んだのち、すぐ寝ると言い出したロカルノにタイムも驚く。
おそらくクロムウェルも寝るとは言ったが少し時間がかかるはずだ
「彼は日中よく動いているのですぐ眠ってしまうのですよ・・それに、今日は雪山を歩きましたので・・」
「その通り。まぁ一種のカフェイン中毒なのかもしれないな・・。ではっ、これにて失礼」
カップを盆の乗せ静かに席を立つロカルノとクローディア
タイムも彼らが席を立った後すぐに盆を持ち厨房へ向かった・・・・


22:30・・客室
自室に戻ったロカルノ達、浴室が1Fにあるのだが来るのも遅かったもので入るかどうか
迷ったのだが致し方ないと思い我慢することにした
「今日はそろそろ休むか。明日になれば晴れるとおもうのだがな・・」
自室のテーブルに座り紫煙をくゆらすロカルノ。
クローディアは鏡台に座り化粧を落とし始めている
こうしてみると本当に夫婦のようだ
「晴れてもらわなければ困ります」
「ふっ、仕事一筋・・だな」
「それはそうですよ、私がここに来ているのは仕事のためなのですから」
化粧を落とした素顔でロカルノに言う
元々、会議ということで少しおめかししただけで素顔と言ってもさっきまでの彼女と変わらない
「仕事以外にも楽しみは必要だ。君にはそこら辺が不足しているな」
「・・・・、楽しみなんて・・」
「ふっ・・。まっ、無理にとは言わないがな。
時折君が妙に圧迫されているような感じに見えたから言っただけだ。」
「社長・・」
「ロカルノさん・・だろ?ではっ、寝る前に用でも足しておくか・・」
少し笑いながら席を立つ。
クローディアは呆気を取られて部屋から出ていく彼を見つめた・・。

このペンションは小さいのでトイレというのは一階の浴室の隣にしかない
まぁ一部屋一部屋に設置するような部屋数でもないので当然ではあるが・・。
一階はロビーをはさんで食堂、厨房があり少し廊下を移動したところに浴室とトイレ。
事務室がある。
廊下の突き当たりに勝手口があり、外へとつながっている

ロカルノが一階に降りた時にはすでに照明は落とされており
壁にかけられたランプが淡く光っているだけだ。
手洗いに行くために怪我しないようにするための気遣いのようだ
ともあれ、ロビーから細い廊下に入る。
事務室から明かりが漏れておりまだオサリバン夫妻は仕事をしているのだろう
トイレはその奥、勝手口の手前に浴室の隣にある
・・男女共用のようで扉の前にプレートがあるのだ・・が
「・・誰か入っているのか・・」
扉の小さな窓から明かりが漏れている・・。
しかし鍵はかかっていないようで扉にぶら下げているプレートにも
「未使用」のほうが向けられている
「??・・消し忘れか・・?」

そう思った瞬間!

ヒュー・・

トイレの扉から冷たい風が・・
「!?・・失礼する!」
咄嗟に異常と感じたロカルノは軽くノックをして扉を開けた!
・・・・そこには、男が倒れていた・・。
クロムウェルだ。
便座にうずくまっていてすでに顔が白い。奇妙なことにトイレの窓が開いている
「クロムウェル君!・・しっかりしろ!!」
驚いて彼を抱きかかえ脈を取る・・が
「・・・死んでいる・・。おい!だれかいないか!!」
とりあえずクロムウェルの死体はそのままにロカルノは珍しく大声で叫んだ・・


23:00・・ロビー
ロカルノがトイレでクロムウェルの死体を見つけてから30分後
宿泊客、従業員全員がロビーに座った
クローディアとロカルノ、オサリバン夫妻以外は全員寝巻きだが顔色は優れない
あれからロカルノはすぐに事務室に駆けよりオサリバンに事情を説明、
他に異常がないか一部屋一部屋声をかけ、ロビーに集まるように指示を出したのだ
しかし奇妙なことにあの覆面の男が見当たらない・・。
宿泊している部屋にも荷物事消えていたのだ・・

「あの男の人・・いないんですよ・・ね?」
不安そうにロカルノに聞くマリー。面々の中で一番あの覆面男を気味悪がっていたのだ
それが行方不明ともなれば動揺もする
「ああっ、私とオサリバンが全部屋調べたがな。忽然と消えた・・っとでも言うか」
「じゃああの男がクロを・・」
涙目のタイムが呟く。
彼の無残な姿を見て泣き叫んでいたのだが少しは落ちついてきているようだ・・。
それでも目が赤い
「それはわからん、外傷に目立ったものはなかったので襲われた可能性は低いだろう」
「目立ったものがない・・っというのは?」
タイムを落ちつかせようと肩を叩いてやっているクローディアがロカルノに聞く
「頭にコブがあった。たぶん倒れる時にどこかにぶつけたのだろう」
「でも!一番怪しいのはあの覆面でしょ!?夕食の途中からいなくなったんだし!」
予想外の展開にご立腹なカチュア、隣ではシャンが不安そうに周りを見ている
「それは違いないんだがな。オサリバン。近くの警察への連絡は?」
「それがどうも電話の調子が悪いんだ。ここいらは吹雪くと途端にそうなってしまう」
「専門の通信設備があれば通報もできるが・・、どの道警察が来るのは雪が止んでからだな」
「でもどうします?このまま夜が明けるまで待つとか・・」
経験豊富なミュンでもこの事態にはどうしていいかわからずオロオロしている
そんな妻を必死で落ちつかせようとオサリバンが肩を支えてあげている
「でもあの覆面男が犯人だってわかんないんでしょ?そんな状態で部屋で休むなんて嫌よ!」
「確かにカチュア君の言う通りだ。だが・・、ペンションにいなくなったということは外だ。
オサリバン、この状態だと外ではどのくらい過ごせる?」
「無茶な話だ。モノの5分で危険な状態になる」
「・・っという事は、仮に外に出ていたとしても戻ってくる可能性があるわけだ」
そのロカルノの言葉にザワザワ騒ぐ一同
「ではっ、どうすればいいのですか?」
「ともかく、今の状態がわかるまでここに待機しておいたほうがいいだろう。
私はクロムウェル君の死因についても調べてみる。クローディア君、頼む」
「わかりました。では私もロカルノさんのお手伝いをします」
そう言うとクローディアも席を立つ
「何かわかったらすぐ知らせる。皆さんはここで待ってください。
オサリバン、まさかの事態に備えて頼む」
「わかった・・」
重くうなづく一同、まだ現実味がわかないようだ
そんな彼らを余所にロカルノはクロムウェルの死体が一時置かれている食堂へと向かった


00:00・・食堂

すでに夕飯の用意が片付けられた食堂
テーブルを適当に集めた台にクロムウェルの死体は置かれている
顔には運んだ時にいたたまれないと思ったのか、一緒にいたオサリバンが白い布をかぶせている
「・・・いいのですか?こんな事に積極的に取り組んで」
自ら進んで死体を調べると言い出したロカルノに呆れるクローディア。
彼女にとっては予想もしない出来事でうんざりしているのはよくわかる
「私が第一発見者だ。知らぬ存ぜずというわけにもいかない。
それに、警察に任せていたら私を疑い冤罪のまま逮捕されることも考えられないわけではない」
クロムウェルの死体を観察しながら余裕の表情で言ってのける
「・・・・、しかしあの男が怪しいのでは?」
「私の考えではそうとは思えない。あのトイレは事務所のすぐ近くだ。
無理やり殺そうとするのならばそんなところでやる必要があるか?
男二人が続いてあの前を通るのは少し目がいくだろうし
何よりあそこが現場だとしたら覆面男自体動き辛い」
「ならばどこかで殺害した後にトイレに放りこむとか・・。
窓が開いていて頭に怪我をしていたのでしょう?」
死体を見るのが好きではない様子のクローディア、
ロカルノの身体に隠れるクロムウェルの頭を見ながらつぶやく
「あの小さな窓からか?それは考えにくいな。
クロムウェルの身体からしてあの窓では身体が擦れてしまうしもっと身体に傷を負うはずだ。
勝手口から入ってトイレに投げ捨てるという手も考えられるが
それでは勝手口から強烈な冷気が入り事務所のオサリバンに気付いてしまう」
「そう・・ですか。ならどうやって・・」
「調べてみても外傷はない・・。ん・?」
クロムウェルの口に少し赤いモノがついているのに気づく
「・・血・・?」
少しクロムウェルの口を開けてみる。
すでに身体は固くなりはじめ口もあまり動かないが口の中が血まみれだ
「・・口の中を切った・・のでしょうか?」
クローディアがハンカチで口を抑えながらロカルノに聞く
「口が切れたにしてはおおげさな量だ・・。これは・・吐血?・・・・」
「ロカルノさん・・?」
「とにかく一旦戻ろう、これ以上調べても何もわからないだろう」
そう言うと頭をひねりながらロカルノはロビーへと向かった


00:30・・ロビー
死体を調べている間にもロビーからはヒソヒソと物音が聞こえたが
戻った時にも色々と憶測が飛び交っていた
「ロカルノさん、何かわかりましたか?」
心配そうに聞くタイム・・、事件の真相を一番知りたいのは彼女だろう
「何とも言えないが・・少しはわかったかもしれないな」
「それ以前に貴方、検死の知識なんてあるの?」
「専門的な知識はないが一応、異常に気づくのは性分でな」
「なんだかロカルノさん、探偵みたい」
「そうだな、探偵気取りで調べるのも悪くはない」
「ロカルノさん、ご冗談はほどほどに・・」
「ああっ、すまない、クローディア君。ああっ、タイム君。クロムウェル君を最後に見たのは君か?」
「え・・はい」
「それは何時くらいかわかるかな?」
「そうですね・・、彼が自室に戻って、私が食器の片づけをした後すぐ戻りましたから
大体22時20分ですね。
それから彼、少しトイレに行くって言ったままそれっきり・・」
「ふむっ、私が向かったのが22時40分頃。殺害されたとなれば20〜40分の間か。
その間は・・全員固まって行動していたはずだな」
「そうですね、私達は自室で明日のソリのことを話してましたし」
3人娘はその頃にはもう就寝準備をしていたようだ
「私は部屋で彼を待っていました・・、一緒に行く必要もないですし・・」
タイムの証言だ。
「私達は事務所で明日の朝食について軽く話を・・」
「ではっ、その時にクロムウェル君を見ましたか?」
「いやっ。その時間ちょうど二人で厨房の食材を見にいったので・・。」
「そうですか・・後はクローディア君。まぁ彼女は化粧を落としていたので私が保障するよ」
「・・・ロカルノさん・・」
「睨まないでくれ。では、その時間一人でいたのはタイム君、そして謎の覆面男・・だな」
「タイムさんが犯人だと言うのですか?」
「いいやっ、それがわからないからはっきりさせる必要があるということだ。
ただ彼女が殺したとなればあのトイレに放置するのは難しい。
最も、二人一緒に言ってトイレで殺害すれば手っ取り早いが
事務所の前を通る危険を犯してまで行うことではない」
「じゃ・・じゃあやはりあの覆面男・・?」
「・・・そうだな・・。現時点では謎が多いがその可能性が高い。」
「ああっ、ロカルノさん。その事でですがまだ地下室を調べていないんですよ。
客室でないということもあって先ほどは言うのを忘れていたのですが・・」
どうやらさきほどのヒソヒソ話はその話題のようだ
「ふむ・・、ではそこに潜んでいる可能性もあるわけだ・・な。調べてみるか。
ここは男性陣で行く、君達はここで待っていてくれ」
「でっ、でも!その間にもし・・」
「多勢に無勢だ。それに叫び声をあげればすぐに駆けつける」
男性がいなくなることにかなり動揺するマリーだがロカルノの言葉に少しは落ちつく
ともあれ、ペンション内で唯一調べていない地下室へと向かうことにした

01:00・・地下室
「地下室」・・っと言えども要は食料の貯蔵庫で厨房に納まらないものを
地下のスペースに置いているっということだ
そのため地下室への入り口は厨房の隅にあり、関係者でなければ到底気付かない
・・それでも警戒のためオサリバンは厨房の包丁、ロカルノは火掻き棒を持ち慎重に中にはいる
「「・・・・・・」」
カンテラの明かりを照らし地下室を見渡す・・
中は土壁でひんやりとしており、置かれている食材も整理ができているために見とおしが良い
「・・いない・・な」
「そうですね」
どうやら覆面男がいないとわかりほっと息をつく二人
「そうなると本当にあの男は外に出ちまったわけか・・」
「そう考えるのが自然ですね。そうなるとどうしたものか・・。このままでは私が怪しい人物になるな」
自嘲的に笑ってみせるロカルノ、いつもながら余裕を感じる笑みだ
「それはない。お客さんもあんたがそんな事をするはずがないと口をそろえて言っておった」
「・・光栄だな・・。んっ?」
照れ隠しに周囲を見るロカルノ
ある一点に目が止まる
それは小さな木の箱で壁の棚に置かれていた
「あれは・・?」
「ああっ、珈琲豆だ。ここの気温のほうが保存が聞くのでな。その隣が粉ミルクだ」
「なるほど・・しかしミルクの量も多いんだな」
「まぁそれほど必要がないんだけど。タイムさんは必ずミルクを入れるんだよ。
珈琲にミルクを沢山いれて飲むのが好きなようで、常連だから用意したのだよ」
「・・・・・・・・!!」
「?どうしたんだ?」
「いえっ、少し閃いたものですので・・。
では私はすこし失礼します。オサリバンさんはみんなのところへ」
「ああっ、わかった。でも気をつけろよ?あの男がいないのだから・・」
「その心配もどうやらなさそうですよ」
そう言うとロカルノは一足先に地下室を後にした

01:30・・ロビー
オサリバンがロビーに戻ってから数十分後、ロカルノが静かにもどってきた
ロビーにいる面々は不安からか疲労の色が濃い
「ロカルノさん、どこうろついてきたんですか?2Fにも上がっていったし」
「何、真相を確かめるために・・な」
タイムの質問に軽く息をついてソファに座る
「真相・・じゃあ貴方はクロムウェルさんが何で死んだのかわかるのか?」
「あの覆面男じゃないの?」
「落ちついて。まず順を追って説明しようか。彼がトイレで死亡したのは22:20〜40分。
その時間に彼と一緒にいた人物は一応はいない。あの覆面男を除いては」
ロカルノが淡々としゃべりだしみんなそれを静かに聞いている
「だが、先ほど彼の死体を調べた結果、外傷は頭のコブのみ。
しかし口の中は血まみれだった・・これはどういう事を意味しているか・・」
「??頭を殴られて口を切った・・とか?」
「シャン君、そうなるともっとトイレ内に血が飛び散るはずだ。だがトイレ内はそうではなかった
・・先ほど詳しく見てみれば確かに便座周りに少し滴っていたようだ」
「ではっ・・、どういう結果ですか?」
「つまり・・、クロムウェル君は毒殺されたということだ」
「「「!!!!」」」
ロカルノの確信に満ちた言葉に驚く一同・・
「でっ、でも・・毒殺って事になったら・・」
オロオロするミュン、彼の口に含むものはペンション関係者が作ったのだ。
疑いが持たれると思ったのだろう
「もちろんそうなったとしたら毒を盛られたタイミングが重要、夕食は全員に配られた。
食べるものや皿まで全員同じで毒を含ませるのは皿の位置を調節できるのであれば可能・・
しかし、クロムウェル君とタイム君の関係はよくわかること。
彼が食べているものを交換する可能性もあり、彼だけを殺す方法としては得策ではない」
「そうですね・・では・・」
「ああっ、毒を盛られたのは夕食後のティータイム。
そして毒を盛ってクロムウェル君を殺害したのは・・・、
タイム君。・・君だ」
静かにタイムに言うロカルノ、落ちつき払っているが彼の緋色の目は哀しみが灯っている
「私が・・・?」
「そんな!タイムさんはクロムウェルさんの彼女だったんでしょ!?」
カチュアが声を荒げる、信じられないのだろう
「そうですよ、それにあの時の飲み物は各自適当に取ったものです。
クロムウェルさんがどのカップを取るのか特定はできません」
「そうですね。私達は紅茶で本当に適当に取ってましたし・・。
珈琲を飲んでいたのはタイムさんとクロムウェルさん。
後はロカルノさんだけでした。そんなことって・・」
マリーが頭を押さえて思い出す。
「あっ!でもロカルノさんだけカップが違っていたんだよね!?濃い目がいいって!」
「じゃあそうなるとタイムさんとクロムウェルさんの分だけ、でもカップは同じだろうし
自分が死ぬ覚悟もしていれたっていうのか?」
「もちろん、疑問は残る。だがそのタイミングでしかアリバイなしに毒を盛ることができない。」
「じゃっ、じゃあどう言うことなんですか?」
「つまり、毒を盛っても効果が現れるまで時間がある。
あの珈琲には両方とも毒が盛られていたんだ。」
「!!!」
その言葉に今まで黙っていたタイムがビクっと震える
「じゃ、じゃあタイムさんは・・」
「そう、私のは話通り濃い目にいれた珈琲を別に入れて出した。
私もそれほど気にしていなかったがわざわざタイム君が「これだ」っと差し出したのが
印象的だったのでな。
自分も遅効性の毒をのみ、カップを片付ける時に解毒剤を飲んだのだろう。
全ては計算、後は彼がどこかで倒れたらいいわけだ。」
「・・でも、あのトイレの窓とかはどうなんだ?」
「おそらくクロムウェル君はトイレに入りしだい苦しみだし、外の空気を吸おうと窓を開けたが
意識が混濁し、そのまま突っ伏して血を吐き絶命したんだ」
「「「・・・・・・・」」」
「どうですか?タイム君」
「・・確かに筋が通りますが証拠はあるのですか・・」
落ち着き払っているタイムだが、額に汗が・・
「ああっ、黙ってて悪いが厨房と君の部屋を調べさせてもらった。
そしたら君の部屋にこれが捨ててあった」
ポケットから取り出したのは薬を包装していたと思われるビニールの小さなパック
「見ての通り、隅に少し粉がある。これを検死班に持っていけば何かわかる。
もし毒ならば・・言い逃れはできない」

「・・・・・・・、ばれるはずがない・・っと思ったのが間違いでしたか」

観念したようにため息をつくタイム、すこし微笑みながらロカルノを見る
「・・タッ、タイムさん・・。」
「いいの、カチュアちゃん。ロカルノさんの言う通り、彼を殺したのは私です」
「手口は合っていたかな?」
「ええっ、ほんとにそのまま・・。見事な推理でしたよ。でもどうして・・?」
「地下室で大量の粉ミルクを見た。君はいつも珈琲にミルクを入れて飲むのが好きらしい・・。
そんな君が夜も更けた時に濃い目に入れた珈琲をブラックのままで飲むのは不自然と思えてな。
おそらく、私が濃い目で別に入れたブラックで
君達二人が同じ状態で入れた珈琲となると、君がミルクを入れたら
「彼の飲む珈琲」がわかってしまい、疑いがかかると思ったのだろう」
「・・その通りです・・」
「・・だが、動機はわからない」
「そっ、そうよ!タイムさん、クロムウェルさんと本当に仲良さそうだったじゃないですか!」

「・・ええっ、そうだけど・・ね。彼、二人っきりになると冷たくてね。もう終わりだと思ったの。
私、最初はあの人に襲われたの・・。あの時から殺意はあったけど何故かあの人が好きになった・・。今でもその気持ちは変わらない。だから彼に捨てられるくらいなら・・」

夕食時、笑いながら食事をしていたとは思えない二人のいきさつ。
それを聞いて全員絶句した
「なんだろう、私もどうかしていたんだと思う。
あの人からさよならを言われるのが恐くなったら・・出会った時の感情が噴き出してきて・・。
あの不気味な客が一緒だってのも思い出して。やるなら今日だと・・」
どこまでも落ちついたタイム、しかしロカルノは重い口をあける
「・・・そうじゃない」
「・・えっ?」
「彼は君を捨てたりしようとしていない。それどころか・・」
静かに胸ポケットから取り出すのは小さな箱、そこには・・
「ダイアの・・指輪・・」
「そう、彼の荷物の一番片隅に置いてあった。見つかるのが嫌だったのだろう。
そしてそこに挟むようにこのカードが入っていた」
静かにタイムにそのカードを差し出す
それを見たタイム、ワナワナと手が震えて目が見開いている
「う・・嘘よ・・。こんなの・・」
「嘘ではない。彼は誰よりも君を愛していた。だからこそこの指輪を渡すのが照れくさかったのだろう。天邪鬼な彼は心知らず冷たく接していたようだ」
「・・クロ・・クロ!!!」
我を失ったタイム、カードを握り締めて彼の遺体が安置されている食堂へと駆けていった・・。
「オサリバン、彼女が自殺しないように落ちつかせてくれ。」
「・・わかった。」
そう言いオサリバンは静かに食堂に入っていく
「・・・でも、あの覆面男は一体何だったのでしょう?」
「それも目星はついてある。・・まぁ詳しいことは差し控えてもらおう」
「で・・でも、怪しい人物には変わりないじゃないですか?」
「不審者には違いないが・・犯罪者ではない。もう安心して大丈夫だ。部屋に戻って休むといい」
「わ・・わかりました。でも・・・寝れませんよ」
食堂のほうを見るマリー、彼女達も悲しい行き違いにいたたまれない気持ちで一杯のようだ
「それでも、ここにずっといるよりかはいい。少しは身体も休ませたほうがいいしな」
「わかりました。では、おやすみなさい」
3人娘は黙ったまま2Fに上がっていった
「ミュンさんも少し休んだほうがいい」
「・・わかりました。では夫に任せます」
この状態でもはや自分にできることはないと思い静かに奥の部屋に戻っていった
「・・ロカルノさん・・」
「クローディア君、君も休め。私はここで彼女が落ちつくのを待つ。
・・どうあれ、私は彼女に辛い真実を言い渡したのだからな」
「・・ならば、私もあなたの隣で待ちます」
「・・・いいのか?」
「いけませんか?」
「いや・・構わない。では、珈琲でも飲むか」
「ではっ、私が入れます」
そそくさとソファから立ちあがり、厨房へと向かった

ロカルノは一人になったロビーで虚ろに天上を見つめる
・・食堂からは彼女の泣き声が何時までも鳴り響いた



翌日、
昨日の吹雪が嘘のような快晴となり彼方の山まで見えるくらいになった。
あれからタイムは大人しくロビーでうなだれ、地元警察の到着を待っている
3人娘とミュンも彼女をいたわる言葉をかけるが彼女の耳には届いていないようだ
そしてロカルノは・・
「ではっ、警察から連絡があればここに連絡してくれと伝えてくれ」
ペンションの入り口。すでに身支度を整えたロカルノがメモを渡しながらそう言う
「わかった・・が、ここ・・って・・ハイデルベルクのセンタービル!?あんた一体・・」
「世話になった手前だ。素性を隠すのも程ほどにするか・・。
ただ、彼女達には秘密にはしておいてくれるか?」
「あ・・ああっ・・」
「この方はダンケルクにあるセイレーズ製薬の社長、ロカルノです」
隣で昨日の赤いコート姿のクローディアが説明する
「あ・・あの、各地の病人に無償で薬を提供しているセイレーズ製薬の・・か!」
「まっ、そういうことだ。それよりも今度はプライベートで来させてもらうよ。
事件さえなければ気に入ったのでな・・。ではっ、失礼」
一礼して二人は雪道を歩き出す。オサリバンは彼らが視界から消えるまで呆然としていた

ペンションからの渓谷への雪道
朝からの気温の上昇で雪も溶け出しており悪路には違いないがなんとか進めている
すでに視界には線路が見えており、昨日の列車がそのままの状態で止まってある
「しかし、あの覆面男は誰なんでしょうかね」
「それだが、あの男が泊まっていた部屋からこんなものが見つかった」
軽く取り出したのは金属のバッチ、「DH」とロゴが描かれている
「これは・・」
「車掌の服装に目がいかなかったのかな?」
そう言うと面白そうに坂道を降りる
もう列車の目の前で昨日の車掌が慌しく動いている
それを指示する見なれない男性が・・。
三白眼が特徴の愛想はなさそうだが凛々しい男だ
「あっ!ロカルノさん!ご迷惑かけてます!」
昨日の車掌が彼らに気づき頭を下げている
「いやっ、構わない。こちらは・・?」
「えっ?ああっ、ハイデルベルク側の主任で復旧作業の指示を出されたサブノックさんです」
「・・真に、ご迷惑を・・」
帽子を取り陳謝するサブノック。
しかしロカルノはその服を見て口元をほころばせる
「いやっ、不測の事態だ。それよりももう出発できるのかね?」
「ええっ大丈夫です。ロカルノさん達を待っていたので。ではっすぐ出発します!」
そう言い車掌は慌しく列車に飛び乗った
彼はいつも走りまわっている印象がある・・
「ではっ、私達も乗ろうか・・。ああっ、サブノックさん」
「・・何か?」
「忘れ物・・ですよ」
少しにやけながらあのバッチを投げ渡す
受け取ったサブノックは驚愕の顔・・
そしてそのまま列車は渓谷を動き出す

「・・社長、あのサブノックさんが・・」
「ふっ、そう言うことだ。「DH」とは「ダンケルク=ハイデルベルク間鉄道」のイニシャル・・。
真面目に見えてもそうとは言えないものか」
「・・・はぁ」
「人は見かけによらないものだ。心の内なんて誰にもわからない。だからこそ、喜劇もあるし・・
悲劇もある」
「社長・・」
「ふっ、君には私の心がわかるか?」
「・・・いえっ、わかりません・・」
「それでいい」
客席に座るクローディアのおでこに軽くキスをする
「しゃっ、社長!」
「さぁ、会議の書類にでも目を通すか」
意地の悪い笑みを浮かべながら鞄から書類を取り出す
クローディアは困惑顔になりながらも彼の仕事の手助けをする


列車は雪の道を進む・・・










ク:後書きのコーナーです

クロ:うわっ!テンション低っ!

マ:内容が内容だけにしょうがないんじゃないかしら?悲しい話だもの

カ:なんだかお兄さん、殺されているしね〜。近い将来の実話?

クロ:物騒は事言うな!馬鹿妹め!んなことありえねぇっての!なぁ、タイム?

タ:うん…、そうよね。・・クロムウェルが裏切らなかったら・・ね

オ:やれやれ、芝居でもお前等のラブコメに付き合わされるとはな

クロ:ハゲリバンのおっさん、結構熱演だったな〜

ミ:それよりも!!なんで私がこんなタコおっさんの妻なの!!!

オ:ハゲリバンでもタコでもない!仕方ないだろう?選ばれたのだから

シ:げっ、劇中ではあんだけ淑女だったのに・・。これがミュンさんの素顔なんですか?ロカルノさん・・

ロ:・・あ…そうだ・・な

クロ:なんかロカルノ、声がおかしいぞ?

ミ;ああっ、この子煙草なんて吸えないからね。喉痛めたんじゃないの?
  ほらっ、これでも飲んでいなさい

クロ:流石は母親・・

ロ:う・・うん・・、よし・・すみません、ミュンさん

ミ:世話が焼ける子ねぇ。主役なんだからシャキっとしなさい!

タ:流石のロカルノも母親には適わない・・か。しかし記念小説で初のサスペンスもの・・
いつもよりシリアスだな

ク:そうですね。時代背景も違いますし・・。でもこんなことを皆さんやっていたのですね

ロ:クローディアははじめてだからな。だが今回は異色の組み合わせだな・・。
  シャン君にマリー君・・、それにクローディアとは・・

シ:これでもヒロインだもの!もっと目立たないと!

マ:私だって前作でアルとレイブンさんが出てたんだから負けてられないもん!

クロ:いいねぇ。でも肝心のロカルノの女は落選したな♪

ロ:あの女に会う役など今回はないからな。飴をやったら納得した

クロ:飴で納得したのかよ・・。だったら犯人役やらしたらいいじゃん。
役でもタイムに殺されたかねぇっての

ミ:近い将来そうなりそうだから♪

クロ:違う!俺はこいつを一生一人締めじゃい!!

タ:クロ・・

ロ:ふっ、まぁセシルが今回の犯人役になると毒殺なんて回りくどいことをやらないだろうと思ってな

タ:それはあるわね。真正面から斬りかかってもたぶん逮捕されないでしょうし

サ:少しまたれい!何故小生が職務を怠る不届き者の役なのだ!!

ス:そうです!今回は殺されはしなかったですけどちょい役じゃないですか!

クロ:サブノックは悪魔だから。スクイードは華がないから

サ・ス:ぬぅぅぅぅ!

ロ:スクイード君は仕方ないにしろ、サブノックに対しては偏見だ

サ:流石はロカルノ殿、よくわかっておられる!!

ス:僕は…?

タ:スクイード君、落ちこむな。君はいじられてこそ味が出るんだ
  普通に活躍したとしても逆に批判が来る

ス:そっ、そうだったんですか!それならば仕方ないですよね!!そっか〜


マ:あれがタイムさんの説得・・流石ね

シ:っうか馬鹿じゃないの?

ク:それよりも4000HIT、ここもがんばっているものですね・・

シ:ほんとっ、皆さんには感謝しております♪

タ:まだまだ至らないことがあると思いますがこれからもどうぞごひいきに

ミ:これからもお色気全開よん♪

クロ:せっかく真面目にやっていたのにあんたでオトすのかい・・

ロ:まっ、それもいいだろう。ミュンさん、締めの一言を

ミ:ミュンさんなんて愛想ないわね!「母さん」といいなさい!

ロ:いやっ、でも・・若い時の貴方ですので・・

ミ:ぐだぐだ言わない!

ロ:…母さん、お願いします

ミ:よろしい♪これからもどうぞよろしく〜!!

ロ・・やれやれ

・・Thank you for reading♪・・

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